恋愛テロリスト
第四幕 贅沢な世界〜Cエリア 4
興奮のあまり寝られませんでした。おかげて朝からテンション高くてごめんなさい!むきゃーーv
ああ、もう、夢じゃ夢じゃないよね?昨日のできごと・・・
ビケさんの唇があたしのおでこに・・・おでこに・・・・デコチューー!!
テンション高くてごめんなさい!きゃーーー。
ビケさん、たとえ冗談でもあんなことされたら、あたし、余計な妄想が爆発しちゃいますよ。
「私がこんな事をする相手は、あなただけよリンネ」
「え、え、ビケさんそれってどういう意味で」
「ふふ、わからないの?私にとってあなたは特別な…」
キャーーーストップストップ! これ以上はムリムリ心臓が炸裂破裂木端微塵ですからーー!!
「はぁーー、夢じゃないよね、昨日のこと・・・・」
「ああ、ハイセーズとかいったあの金門の三人組だっけ。」
「ぶふーーっ」
朝食のコーヒーとパンを思わず吐き出してしまった。
ショウのやつが変なこと思い出させるから、てもうせっかくのステキな朝が台無しじゃない。
「ちょっ、朝から汚いな。気分台無しだよ、ビケ兄がいたら、ビケ兄の目に朝から汚い物を見せるとこだったよ。たくさ。」
領主館でのモーニング。でもそこにはあたしとショウの姿だけで、ビケさんはもういないのだ。
ビケさんいないの寂しいけど、もしいたらいたで、あたしはきっと激しく興奮して鼻血でも噴きかねないので、それでよかったとは思いつつも
「嫌なこと思い出させないでよ。もう金門だかハイークだか知らないけど、あんな連中とは二度と関わり合いにならないから。」
あんなわけわかんない怪しさ百パーセントなやつらとは、二度と!
しかし、なんで
「あいつらはあたしの命を狙っていたわけ?しかもあたしのこと桃太郎って呼んだし」
まったく身に覚えがない。でもあたしを狙うってことはなにか理由があるはずだし・・・。
まさか、あたしの失われた二年間の記憶に関係しているとか??
ま、まさか、このCエリアには来てないだろうし・・・・。
あたしがむむむ。と眉間にしわ寄せて悩んでいると、ショウが
「なら、聞いてみればいいじゃん、本人に。」
「はっ?それってつまりまたあいつらに会わなきゃいけないってことじゃない。
冗談じゃない。もう関わりたくないの。あたしはもう殺し合いとか、命狙われたりとか、テロリストとか愛人とかもうまっぴらごめんなの!
まっとうで幸せな女の子の生活を送るんだから。」
もう血なまぐさいこととはオサラバなのよ。
もう、あたしは・・・ビケさんの側で
愛に、愛に生きるって決めたのだから!
「ふーん、ここでオッサンなら、バカが、戦えリンネ!って言うんだろうな。」
「はっ?なによ、ここはCエリアなのに、戦いなんて。」
戦う意味がわからない、第一悪いのは向こうなだけですし。
「愛の為に生き、愛の為に死せる。だっけ?」
ウインナーをフォークでゴォリッと刺して口に運びながら、テンの口真似をするショウ
「愛に生きる、けど、あたしはテンみたいにあんなハチャメチャな行為は行いません。」
「ハッ、愛だって」と鼻で笑いながらショウのやつは
「ビケ兄との愛なんてリンネにはありえないと思うけど、でもリンネってさなんか
オッサンと似たようなもの感じるんだよね。」
は?なによ、それどういう意味?!なんか不愉快なんですけどっ
にやっとムカツク笑みを向けるショウの言うことなんか本気にしないで、あたしはとにかく、普通の幸せな女の子として生きていくんだから。
あーもー、あいつらムカツク、外に出てもいいことないだろうし、またあんな事に巻き込まれるのはイヤだし
ザ☆引きこもりでゴゥ!
いいの、領主館にいれば、ビケさんに会える確率だって高いだろうし、困ることも特にないし
もう面倒ごとだけは勘弁
で、ヒマなので、部屋に戻ってすることといえばテレビくらい、ああ引きこもり
なんでもいいや暇つぶし、と思ってつけたテレビの中から流れてきたのは
緊急特番あの歴史に残る大悪人桃太郎の生まれ変わりがCエリアの街で破壊活動?!
ん、なんじゃそりゃ?なんだか仰々しい番組をやってて、なんのことだかわからずぼーと画面を眺めていたあたしは目が飛び出しそうになる。
『桃太郎の生まれ変わりの桃山リンネが・・・』
テレビの中のアナウンサーからそんな発言が、画面の下方にもはっきりと「桃山リンネ」の文字が!
「にゃにゃにーー?!にゃんだそりゃ?!」
驚きのあまり謎のキャラ語でテレビにつっこむあたし
えっええ?桃山リンネって、まさか・・・
「あたしと同姓同名の人がこのCエリアに?」
ぐるぐる混乱入りそうなあたしの背後のショウが
「に言ってんの?こんな変な顔した桃山リンネはリンネでしょ。」
は?
と思って再び画面を見ると、そこにはいつ撮られたのか、あたしの顔がデカデカと映っていた。
しかも、ふげーってかんじの情けない顔で、もう撮るならテレビに出すならもっとかわいく映ったやつを使ってくれぃ!てそーじゃない!
隠し撮りかー?コラーー!
肖像権の侵害もいいとこだよ、おい。
最強の弁護士せんせーー!
「いや、というかコレ、コレ・・・。」
マンガみたいに目をぐるぐる回している状態のあたしに、ショウはふーん、と頷きながら
「桃太郎の生まれ変わりねぇ。」
「な、なに言ってんのよ、なんであたしが桃太郎の?でたらめよ、なにこれ?!」
画面につっこみ入れるようにチョップを繰り返す、でも壊れないようにと軽くだけど。
「でも自分で名乗ってたじゃん。桃太郎だって。」
それって、Dエリアでのこと?
テンから聞いた話だと、あたしは気を失ってから記憶がないけど、まるで別人みたいになって、キンをボコボコにして倒して、そんで自分を桃太郎だと名乗ったとか。
そんなムチャクチャな話、とても信じられないけど。
とーぜん信じちゃいないけど、でもなんで、桃太郎って?
「そんなこと、あるわけない、もう、別のやつ見よ!」
頭を抱えながら、あたしはチャンネルを変える、と今度は討論番組らしく
議題は「桃太郎の娘桃山リンネの今後について」とか
はあ?!
ぴこぴこぴこぴこチャンネルを変える、がどの番組も全部
桃山リンネ桃山リンネ桃山リンネ桃山リンネ桃山リンネ桃山リンムキャャャァァァーーーーー
「はぁはぁはぁ。」
テレビに突進寸前のあたしからリモコン奪取したショウに電源を切られたテレビは難を逃れた(あたしの突進から)
「すごいね、リンネ有名人じゃん♪」
「なによこれ、こんなこんなこと・・・・だいたい写真は全部写りの最悪なやつばかりだし。
もう、ふざけんなー、訴えてやる!」
最強の弁護士軍団ーーー!
「どこに?」
とショウの冷めたつっこみでハッとする。どこに訴えるのだろう?
ここCエリアはあいつら金門の天下なのに、だれがあたしを弁護してくれるというのか。
「ビケさん・・・」
「リンネ、ビケ兄には迷惑かけないって話だったよね。」
「くっ」
意地悪に笑むショウにムカッとしながらも、たしかに、ビケさんには迷惑かけられない。
じゃあ、どうするの?
むむむむ、と眉間を押さえながら悩んでいるあたしのもとに
「リンネ様に荷物が届いておりますが。」
「へ?」
荷物?
ザパネットタカダでなにか通販でもしたっけか?いやいや、なにもしてないはず。
部屋にどどっと押し寄せるように届いたあたし宛の大量の宅配物。
それはもう山のように、いきなり届いたそれは
「なにこれ?・・・・宛名不明だし。」
身に覚えがない、不気味極まりない。
どうしようか、送り返せるのかと思っている間に、ショウが勝手に開けていくし!
「ちょっと、勝手に開けないでよ!
もしかしたら危険なものが!」
爆発物とかだったら!?
「うわぁっっ!!」
「ひぃぃっなにっ?!」
「危険物がっっ!」
ショウが開けたその箱の中には大量の写真が入っていた、しかも
モリモリマッチョで血が滴る肉をワイルドに喰らうあたしの写真・・・・・
んぎゃーーなんじゃこりゃー?!
「リンネにこんな一面があったなんて、恐ろしい。」
「なわけないでしょ!これどう見たって合成じゃない!」
他の荷物もろくなもんじゃないと思ったらどんぴしゃり。同じような変な合成写真や変態写真(あまりの内容の酷さにコメント不可)
誹謗中傷の文面に謎の毛がもじゃもじゃ大量に入っていたり・・・・暇人のイタズラかよ・・・。
全部開けるのも馬鹿馬鹿しいと思いながら、残りの内容を確かめていると
汚れた桃太郎の血をCエリアから排除せよ!とか
Cエリアから出て行け愚女!とか
お前の恥ずかしい秘密を領主様にばらしてやる!とかそんな文面のものばかりが出てきた。
「はっ恥ずかしい秘密ってなんだ?!」
「変態趣味があるとか?」それはお前だ!むかり。
「あっ、Dエリア最強の男をボコボコにしたとか?♪」
「むごぅっ、それはだからなにかの間違いだって言ってるじゃ・・・」
と、思いたいけど・・・・、なんか不気味なものを感じてしまう。ない二年間の記憶とか、未だに思い出せないし、もしかしてあたし、ほんとにとんでもないことしていたんじゃ・・・・?
頭を抱えていると、また
「荷物が届いてますが・・・、今度はショウ様宛に」
「へぇ、なんだろ? ザパネットでなんか注文したっけ?」
ショウ宛に届いたのは封筒一つ。中からディスクが一枚出てきた。
「ふーん、あんたもついに金門から狙われたってわけね」
人のこと言えたもんじゃないよね、にやにや。
「映像ディスクか…、選ばれし温羅の血族様へだって。ここのテレビで再生できたよなー」
部屋のテレビにディスクを挿入する。一体なにが映し出されるんだろ。今度はショウのネガキャンだったりして。
黒背景に白い文字がどーんと現れる。
『今世界を恐怖が支配しようとしている。』
『その恐怖は今Cエリアに現れた』
『おぞましき悪魂桃太郎!』
「ぶふーー! またか、またあたしのネガキャンなのか? これは」
「ちょっとうるさい、隅っこのほうでしおれててくんない」
しょうがないでしょこれは、つっこまずにはいられないって、なんでこれがショウ宛?
『悪は浄化せねばならない。そのためには、英雄温羅の聖なる力が必要だ』
聖なる力ってなんよ? なんかもう、宗教の勧誘ほにゃらら? ってここCエリアが宗教的なアレな気がするわ、金門の連中の。
『このディスクはアダルト向けです。子供のいないところでご視聴願います』
え? アダルト向けって、嫌な予感がするんだけど。
パッと画面が明るくなり、一人の女の子が映る。しかもこの特徴的なピンクのロングウェーブは、…あたしと同じ髪型?
『あたしは桃山リンネ』
「ぶふぉーー! なんであたしの名前をーーー」
「いちいちうるさいんだけど、そこのうんこ黙っててくんない?」
映像の女の子はあたしの格好を真似てる、あたしの役ってこと? 桃山リンネドラマ化の話ってきてましたっけ? いつ? いやいやいや
「これもネガキャンの一環?」
映像の中のあたし(役の女の子)はあたしよりはるかにかわいいのは、喜んでいいのかそれとも。
「本物のガッカリクオリティw」
くそぅっ、わかっているけどショウのやつ、いちいちそこにつっこむな!
『あたしの中には桃太郎っていうおぞましくも汚らわしい血が流れているの。こんな汚らわしいあたしをどうにかしてください』
自虐的にもほどがあるー
『お願いです。温羅の聖なる力で、あたしの中の汚らわしくもおぞましい桃太郎を浄化してください』
まるで目の前の相手に懇願するように、てことは映像を見ている相手にそう訴えかけているような演出。
膝をついて佇むあたしに扮する女の子のそばに、怪しげな黒い覆面姿の男が寄ってきた。『お願いします』と懇願しながら、彼女が男のふとももにしがみつく。なんか、展開予想できる。アダルト向けって言ってたし。
嫌な予感がしてあたしはテレビの前に走った。
「ダメダメ見るなー」
テレビガードでしがみついたあたしを、ショウが無情に「邪魔」と蹴り飛ばした。
ゴロゴロと転がって壁に激突。「ちょっ」と止めようと起き上がったけど、すでに遅かった。覆面男のアソコにむしゃぶりつくあたし役の女の子。ていやぁああーー、そんなものおいしそうにほおばらないでください! 演技なんだろうけど、女の子のおいしい、嬉しいな顔が痛々しくてたまらない。
『ん、うぇ、おいひぃれすv』
おいしいわけないだろ!て涙目だし。あたしも涙目だけど。うわん、汁まみれの口元で、覆面男のアレに頬擦りしたりペロペロしたり、もう理解不能な演出。でもこれじゃあ、あたしがこういうこと好きなヘンタイ女に思われるじゃない。
さらに覆面男は複数に増えて、彼女を囲む。
『もっと、もっとください。この汚れたあたしに、聖なる液で浄化してください』
聖なる液っていうか精液じゃないかーー。ますますあたしが汚される。
もうムリ見てられない。うな垂れている間に気持ち悪いヘンタイ映像は終わったようだ。で、最後に流れるアナウンスにぞっとした。
『本物の桃山リンネは浄化されていません。どうかそこのアナタ力を貸してください。参加してくださる方には変声装置つきの覆面を貸し出しいたします。奮ってご参加ください。アナタの勇気がCエリアの、いえこの国の平和を守るのです』
「なっなんだとーー?!」
「正義騙ったリンネ陵辱プロジェクトかー、金門もおもしろいこと考えるなー」
「感心することじゃないでしょ! なによこれ、こんな酷い事正当化しようとしてるなんて、キチガイにもほどがあるわよ」
ピルルル
!?ななな、なに今の音は!?
「あれ、キン兄から通信だ」
ショウがズボンのポケットから通信機を出した。あーなんだ、通信機の着信音か、びびらせんなって。
「リンネ、キン兄から」
「へ? あたしにキンが?」
ショウから通信機を受け取り耳を当てる。一体、なんの用だろ。
「あたしだけど、キン?何の用なの?」
『おおっリンネか。いやついさっき変なディスクが届いて見てみたんじゃが…。そういうことじゃったんじゃな』
「へ? ディスク? そういうことって?」
嫌な汗がとろりと伝う。まさか、ショウ宛に届いたコレがキンのところにも?
『敗者は勝者に従うのがDエリアの掟じゃ。リンネよ、ワシでよければ協力するぞ。ワシの聖なる液でよければ存分に』
「あんなネタ本気にしなくて結構!」
ブチッ。通信切ってショウにつき返した。まったく、嬉々としてなにを言うんだあのマッスルヘンタイバカは!ったくどっちなのよ、アイツは男と女どっちが好きなのよってどうでもいいわそんなことーー。
「もしかして、キン兄のとこにもコレ届いたってこと?」
「みたいね、まさかDエリアにまで送ってんの?」
「さあ、だれがどこに送ったのかは知らないけどさ。温羅の血族の男のところに送ってあるんじゃない?」
「温羅の血族って、一体どれだけいるのよ…」
「しらね。でもこれだけは言えるよ。Cエリアにはゴロゴロいるってこと」
ぶふぉ! 金門の血こえぇーー、怖いよ金門。雷門は雷門でカイミとかレイトみたいなブチキレな武闘派ばかりでうんざりしたけど、金門はやり方がえげつなくてこっちはこっちで酷すぎるわ。
「でもま、外に出なけりゃいいのよね。金門の奴らに会わなけりゃ…」
ますます引きこもるしかない。
「へぇ、いいの? 恥ずかしい秘密をビケ兄にばらすとか脅しあるみたいだけど?」
「うっ…別に、後ろめたい秘密なんて、あたしにはないわけだし」
「でも連中はリンネを桃太郎だと思っているわけだし、もしそのことをビケ兄に忠告されたら? Cエリアの領主として見て見ぬ振りはできないだろうね。リンネを庇っているとみなさればビケ兄の信頼だって危うくなる。金門との信頼関係を築いてきたビケ兄の行いが、リンネのせいでパーになるかもしれないんだよね」
なにそれ脅しか?!
だけど、たしかにショウの言うとおりだ。これが金門の罠だとしても、ここに留まればビケさんに迷惑がいくことになる。その前に、なんとかしなくちゃ。…そうだ!
「ここって、衣裳部屋あったよね?」
ビケさんから使っていいと聞いていたけど、あたしは遠慮して使ってなかった。でも今こそ使うべきだな。衣裳部屋にはゲスト用のいろいろな衣装が揃っていた。変装すればいいのよね。なにもあたしの格好で連中の前にのこのこ行く必要なんてないし。
どうせなら男装すればいいか。長い髪はカツラの中に押し込んで、これなんてちょうどよさそう。とカツラを見ていると、これあたしの髪型に似ているよね…、でハッと閃いた。そのカツラを手に部屋へ戻る。
ふっふっふ。背後から近づくあたしには気づかず、ゲームだかなんだかのん気にしているショウめ。
「そりゃ」「うわっなにす」
あたしの髪型に似たカツラをショウに被せた。あたしの身代わりにしてやろうかと思って。
「なんだこれ、カツラ?」
「うそ、かわいい…」
わなわな、さっきのあたしのふりした女の子のかわいさは悲しいけど別格として、まさかショウが、男のショウの女装があたしよりかわいいってなにこの現実、泣いていいですか?
いや、いいんだこれで正解。下手にブサイクだったらそれこそ失敗に終わりそうだしね。と励ましつつ。
「何その格好」
あたしの男装見てショウも気づいたらしい、あたしの真意に。
「わかった。性別逆転プレイか! マニアックだねリンネって」
気づいてなかった。
「違うわ! ショウにあたしのふりして囮になってもらおうと思って」
「うっわ、なにこの外道…」
「うっうるさい! アンタだってビケさんに迷惑かけたくないでしょ、協力してよ!」
「は? リンネの問題でしょ、勝手に巻き込むなよ。それに心配しなくても、リンネが陵辱されようがビケ兄には迷惑にならないからね」
うぬぅ、お前みたいな外道と違うわ。ちょっとくらいなら、心配してくれる、はず。てなに自信なくしてんのよあたし。
「わかったわよ! 一人で何とかしてくるから!」
なんて、啖呵きって飛び出してしまったけど。一人でどうにかできるんだろうか。いや、そんなこと考えたってしょうがない。覆面の相手に警戒してればいい。それより、アイツらを、あのハイセーズとかって奴ら。原因はアイツらに違いない。あたしを桃太郎といったあいつらが元凶なんだから。
なんとか騒動をとめさせないと。
「うぶっっ」
びっくりして変な声出た。だって街のいたるところに指名手配の紙が貼ってあるんだもの。それもあたしのひっどい顔写真。なんであたしを犯罪者のように仕立て上げるの、なんでここまで悪意のあることされてんのよ。もうほんと腹立つ。あいつらに恨み買う理由なんて思い当たらないけど、ここまでするってよっぽどだよね。よっぽど性根が腐っているよね。
「許さない」
街のどこかでロケしているのかも。こないだの場所へと向う。変装しているし、ばれないはず、うん。
そこはあの時より人もまばらで、ロケもやってないようだった。だいたいCエリアの事情なんて知らないから、いつどこで撮影されているのかとかわかんないし。だけど知った顔を発見した。例のハイセーズ演じるヒーローのファンのチビッコ男子たちだ。三人の十歳にも満たない男の子相手なら、あたしですらびびることはないし。近づく事にした。
「ねぇねぇボクたち、ヒーローの人今日はここに来ないの?」
「へ? ヒーローってどの?」
他にもヒーローがいるのか、ってもしやショウのアレもカウントしての話?
「あ、ほらいつもの三人組の」
「プリンスリーだろ! 兄ちゃんもCエリア人ならプリンスリーくらい知っておけよ、だっせーなぁ。そんなんじゃモテねーぜ。見た目もだっさいのにさぁ」
くっ、なにこの生意気むかつくチビッコ野郎め。
ひくつきながらもなんとかあたしは笑顔をキープ。子供相手にブチキレてもしょーがないしね、心の中ではブチキレますが。別の男子がさっきからジロジロと人の顔を見ている。そんなに見られる覚えはないんですが。その行為に、もう一人の男子がつっこむ。
「おい、お前なに見てんだよ、その兄ちゃんだれかに似てるのか?」
「指名手配の、似てる…」
うえっ?! 子供にすら認知されてる指名手配のあたし?
びくりと冷や汗が伝う。なんとか言い逃れ、しないと。
「やだなー、ボク男だよ。女っぽくみられるけどさー」
あははと笑って誤魔化すけど、男の子達の表情が疑惑の眼差しへと変わる。
「!いぅっ、ちょっどこ触って」
下から抉られるように股間を掴まれて、思わず変な悲鳴を上げた。このガキャ許可なくどこ触ってんのよ!
「ほんとだ女だ。チンコ生えてねーよ」「ほんとか? あっほんとだ」「女物のパンツはいてる」
「こっこら、いい加減にしろ」
次々と人の股に触るな! 痴漢です痴漢! 子供とはいえこれはもうボコってもいいですよね?!
「うぇっ?!」
真下のクソガキどもど突こうとしたら、視界が逆方向へと回転した。ガキ三人のタックルにあたしは後ろ向きに地面へと倒された。いったー。子供とはいえ三人かがりだと結構な力、油断してた。
「うっちょっこら!」
容赦なく人の上に乗っかって、体を叩いたり、いじったり、噛み付いたりってなんなのこのガキどもー。
「よくやった君たち、あとはまかせてくれ」
上のほうから聞こえてきたその声。間違いないアイツだ。
「プリンスリー! 怪人モモターロ倒してくれよ」
重たいものがのいたと思ったら、今度はあたしを見下ろす爽やかスマイルの、だけども不気味な眼差し。レッドスリーことハイセーズのイッサ。
子供達と入れ替えで、イッサの合図で現れたのは覆面姿の男たち、あたしを囲むようにしてじりりと忍び寄る。あの覆面、ショウのとこに送られてきた映像ディスクのものと同じだ。
ビンゴ! やっぱりコイツの仕業だったのね。
「覚悟してもらうよ、桃太郎」
正義のヒーローの面被った悪党め! こんな奴らにあたしは屈しない。それに言うじゃない
「最後に悪は負けるのよ!」
言ってやった。
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