恋愛テロリスト

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  第四幕 贅沢な世界〜Cエリア 3  

再びいきなりあたしの前に現れ、あたしの恋路を否定していきやがったあの自称愛のテロリストのせいで
ムカムカしてろくに眠れなかった。
結局ビケさんも帰ってこなかったみたいだし・・・。

そんなわけで気晴らしにとCエリアの街をふらりとしてみることにした。

うっ!
と思わず情けなく呻いてしまった、はぁ、この街って
朝から輝いているんだもの。

街の景色がもうすべてが朝からパーフェクト!てかんじでして
これじゃ気晴らしどころか・・・・
この街の人はみんな完璧星人に見えてしまう。
歩き方から立ち方から、常に自信に満ち溢れている。
そんな人たちがなぜかあたしのほうをちらちらと見ている。

通りのショーウインドーに映った自分を確認すると、うはぁ・・・。

領主館で風呂に入ったとはいえ、Dエリアでついた傷や痣が浮き出ていた。
いろいろストレスになってたこともあってか、ろくに手入れする間もなかった髪や肌もひどい状態だし。
Bエリアなファッションも、ここではかなり浮いているかも。
すごい場違いなかんじ?

こんな世界にあたしいていいんだろうか?
そう思うと凹んでくる。恥ずかしい・・・うわわ。

一瞬逃げたい、という感情が湧きそうになったが、瞬時にそれはかき消された。
ビケさんの顔が浮かんだから
きっとどんな想いもビケさんへの想いには勝てないのだ。

「ねぇ、君ちょっといいかな?」
突然あたしに声をかけてきたのは、おそらく十代後半かと思われるイケメンくん。
まあビケさんしか眼中にないあたしからすりゃイケメンとか感じたりしないだろうけど、まあビケさんと比べちゃいけない、世間の目からすりゃかなりのいい男なのだろう。

一瞬なに?この人、と思っていると、あたしが返事をする間もなく、ムリヤリ腕を引かれてどこかへ連れて行かれる。

「ちょっ、ちょっと、なんですか?!」
わけがわからず、少し怒りも込めてそう言うあたしに、彼はにこにこと笑顔で振り返りながら

「この前の約束覚えてる?」

は?約束ってなんのこと?
「オレの顔忘れちゃった? ハイセーズのイッサと言えばわかる?」
ハイセーズってなんじゃそりゃ?
「ああーじゃあこっち、レッドスリー!」
ビシィッとヒーロー的なキメポーズって大丈夫か? この人…って「あっ!」
思い出して手を叩く。
「あのヒーローやってた人」
「そうそう」
約束ってなんのことだろ? あたしこの人となにか約束してましたっけ?
「わかってくれたなら話は早い。いくよ」
「ちょっっ」
わかってなんかいませんが。人の話も聞かないで、このイッサことレッドスリーにあたしはズルズルと引きずられていく。
もしかして、この前いってた、あたしにやってもらいたい役の話?一体なんの役させられるの?

あたしは雑多な倉庫へと連れてこられた。
「こっちだよ」
と手招かれ、そこにはなにやら不気味に蠢く、気味の悪い、なんとも表現しがたいシルエット。
ぶにょぶにょしているような、まばらに生えている毛のようなものがうにうにと動く。暗闇からゆっくりとそれは姿を見せる。
「な、なにそれ!」
あたしは思わず、叫んでしまった。だってもう見るからに、バケモノといった風貌の、きぐるみ?
全身茶色で、ドロというかヘドロというか、そんな体で申し訳程度のちっさい手足(アレ絶対転ぶよ)中央に不気味に垂れ下がった瞼の剥いた白目に、口がある。
「これだ!」
爽やかにレッドの彼はその不気味人形を指差すんだけど、これだってなにが?
!!ま、さ、か?
たらりと嫌な汗が伝う。
「君こそこの凶悪怪人モモターロの中に相応しい!」
「ありえないんですけど!! 絶対嫌です帰ります!」
あたしにふさわしい役がこんなバケモノだなんて、乙女に対して失礼にもほどがある。いくら爽やかに言ったってやりませんからね。
「そうはいかないよ」
「さあ覚悟してもらおうか、怪人モモターロ」
「へ? え、な」
入り口に立ってあたしの進路を塞ぐのは、イエローとブルー。
「大人しくするんだ」
「ちょっやっっやめて、なにする」
後ろからレッドに羽交い絞めされて、あたしはじたばたと抵抗するが敵わない。ズルズルと引きずられ、このあくどいヒーロー三人によって、おぞましいバケモノの中へと入れられてしまった。
「ううう、出してよ」
真暗な視界、中はデカイ袋の中みたい。
「あいたっ」
袋ごとスッ転ぶ、なんなのもう、自由に動けない。「おいおい」と男たちの声がして、あたしの体は袋ごとつかまれて起こされる。
「ちゃんと穴のとこから外見えるから」
体をぐぐっと動かすと、わずかながら穴があった。そこから外が見えはしたけど、視界せまっ。それに足も短すぎて、普通に歩けないし、足一つ分しか進めない、それ以上進もうとすると転ぶ。
「さあ、外にでてもらうよ。悪役はみんなの前で倒さなきゃ意味が無いからね」
倉庫のシャッターが開く音。光が一気に溢れていく。それは、あたしじゃないないこの醜いバケモノの姿を日の下に晒す。

「あっ、プリンスリーだ!」
外には撮影スタッフだけじゃない。今回もたくさんのギャラリーが集まっていた。もちろんチビッコもヒーローの中の人目当ての女のファンもいる。
「見ろよ、なんだあの怪物、キモチワリー」
率直な感想です。あたしもそう思いました。
「ぶふぉーー」
?!
「きゃっなにあの声、鳥肌立っちゃう。この世のものとは思えないおぞましさだわ」
「ぶふぉ、ぶふふふぉ?」
え、ええ?なんであたししゃべるとくぐもった気持ち悪い声になっているの?そういうつくりの人形?
これじゃあ中が可憐な一乙女だって、誰にもわかってもらえないじゃない。
「きもちわりーな、死ねー」
「こーろーせーこーろーせー」
あのチビッコども、あたしを怪物だと思って、おそろしい言葉を吐きやがって。
ちょっと小突いてやりたいんだけど。
「うわっこっちくるぞ、きも、動きもきもっ」
「皆ここは俺達にまかせてくれ! この邪悪な怪人モモターロは平和なCエリアを恐怖に染めようと企んでいる」
「だが安心してくれ! そんな野望は絶対に阻止してみせる!」
ヒーロー姿の例の三人が、子供たちを守るようにして立ちながら、あたしのほうを指差し、そう宣言する。そして
「レッドスリー」
「スリーブルー」
「イエロースリー」
「「「金華戦隊! プリンスリー!!」
ちゅどーん
きゃーーー
「ぶふふふぉぉーーー!!」
どべちと前のめりにあたしは倒れこんだ。だっていきなりすぐ後ろで爆発音がしたから。なんなのあれ、普通はヒーローの背後でどかーんとするもんじゃないの? まあ後ろに子供たちがいたからムリなんだろうけど。
「すげー、名乗りだけで倒したぞ!」
子供達の歓喜の声。じたばたしている情けないあたしに、誰も同情してくれません。
「いや、まだだ、あの邪悪なモモターロがこの程度でやられるはずがない」
いえやられてますがな。中身は、普通の女の子なんですから。ヒーローの名乗りで倒されさせてください。あたしはめんどうなのでうつぶせたまま、動きを止めた。
「だがぴくりともしないぞ」
「待てイエロー。油断するな、奴の事だ、死んだフリをして騙す気なのかもしれない」
「たしかに、あのモモターロだしな。ここは…」
モモターロって、もしかしなくても、あの桃太郎からとっているのかな? ショウの奴が言ってたよね、金門は桃太郎を毛嫌いしてるって。悪のモチーフにはもってこいなのか。
て、それをやらされているのはあたしーーー!ちょっと待って、あたしにはまり役って、ひどくないですか?!
「プリンスリー! あいつプルプルしてる! やっぱり嘘死にだったんだ!」
おのれ、チビッコにあたしの怒りのプルプルが見破られた。
「いくぞ、必殺!スリーブーメラン!」
へ?なに必殺技? ブーメラン?ちょっ、なにされるの?ってなんとか腹筋使って顔だけ起こしたら、三人が抱えているのは、デカイブーメラン?!アレ張りぼてですよね? あんなの投げつけられたら、いくらきぐるみごしでも…。
お願いせめてダンボール製で!!

乙女をバケモノにして、正義の味方の振りして正当にフルボッコとか、金門の真の姿をあたしは見た。キラキラした姿の中のどす黒さ。イケメンもチビッコもみんなみんな、どうかしてるよCエリア!
あたしのヒーローは助けに来てくれないの? ビケさんッッ!!

「おい! 見ろよアレ!」
チビッコたちの興味が、別のほうへと向いた? なになんなの? 今度はどんな仕掛けがあたしを襲うっていうのよ?
ガショガショ、となんとも心許無い重量感のある音が、こっちに近づいてきてる。それにいち早く気づいたのはチビッコたち、なぜかテンション上がってます?
「フルアーマータイプのヒーローだぜ! プリンスリーの新しい仲間かな?」
「おい、聞いているか?」
「いや…」
プリンスリーの三人も怪訝そう。て、なんなのあのフルメタルボディの重苦しそうな格好。ヒーローっていうか、ロボじゃない?
「電撃戦士グリーンヅゥー!!」
「ぶっぶふぉ!」
あの声はショウ?! て、ヅゥーってなんなのよ?ヅゥーって!
「うぉっ、かっけー」
カッコイイのかな? アレ、なんかメタリックのグリーンって虫っぽいような。
「と、早速名乗ったわけだしー、かますか必殺技」
え?必殺技ってなにやるつもりだ? アイツは。重そうな腕をググと上げて、拳をこちらに向ける。
「そこのうんこはボクが倒す! 食らえ必殺ー電撃拳サンダーボルトー!」
え?なに?拳がスパークしてない?て、まさか、あいつあたしに向って放つつもりか? そのなんとかサンダーボトルってのを!?
「マズイ、横取りされる。いくぞ、スリーブーメラン!!」
ちょっっ、あっちからはブーメラン?!なんであたしヒーロー?からW攻撃受けるはめに、いやあぁぁぁぁーーーー!!!

「う、うう」
W攻撃にあたしは倒れた。きぐるみのおかげで、少しはクッションになったみたいだけど、それでもこれはかなり、痛い。うつぶせたまま、あたしは呻いていた。もういや、早く館に帰りたい。だけど、立ち上がれそうもない。
「おい、ウンコの中から女が出てきたぞ」
「ほんとだ。ウンコ女だ! あれがモモターロの正体だったのか?」
チビッコたち、ウンコってクソガキめ、やっぱり小突きたい。
「マズイ」
スリーのうちの誰かのそのつぶやきが聞こえて、あたしのもとへ駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「大丈夫か?しっかりするんだ。まさか、モモターロに飲み込まれていた者がいたなんて」
なにを言ってるの? 言い訳めいたこといってるような。そして、あたしの体は下から誰かに抱き上げられた。
重い瞼の隙間から見えた顔は、あのイッサとかいってたレッドの奴。あたしと目が合うとこんなことをつぶやいた。
「さすがにヒーローがギャラリーの前で女の子をいたぶる事はできないからね」
そんな当たり前のことを言いながら
「だから今日はこれまでだ。次こそは、容赦しないよ、桃太郎」
え? なに言ってるのか、わけわかんないんですけど。反論しようにも、力がでなくて、あたしの意識は遠ざかる。


気がついたらあたしは走っている車内にいた。車はCエリア領主館まで着き、そのころあたしは自力で動けるまで回復していた。
たぶん、そうしたのはあのイッサとかって奴なんだろうけど。最後のセリフが意味深で、ひっかかる。
次こそは…ってことは、アイツらは、またあたしのこと狙う気ってことなの? もうわけがわかんないわよ。金門の連中に狙われるような心当たりなんて、ないのに。
あのバイオレンスなテンからはなれて、ビケさんの側で、乙女ちっくロード一直線のつもりが、またしても、バイオレンスな世界にまきこまれつつあるような、なんなの? 一体。
神様、あたし一体なにしましたかー?


帰宅したら、玄関先でさっきのメタリックなヒーローに遭遇した。なにこれ邪魔くさい! あれか? 鎧兜的な飾り物か? でもビケさんの品格疑われそうだからやめてほしいんだけど。どっかに移動できないかなと動かそうとしたら
「ちょっといくらカッコイイからってさパクらないでくれる?」
「誰がパクるかって、てショウさっきはよくもあたしを倒そうとしてくれたわね?」
ケラケラと笑いながらバニラアイスしゃぶりながらショウがあたしの後ろから現れた。
たく、今あたしヒーロー見ただけで殺意がにょきにょきしそうだから!
「にしてもリンネさ、演技力いまいちだよね。ちょっとさ、やってみなよ、見てあげるからさ。ホラアレのマネ…、ど根性大根のマネw」
「なんじゃそりゃーって、できるわけないでしょ! 大根のマネなんて!」



領主館に戻って、なんとなしにテレビを見ていてあたしは驚く

『今日のゲストはこの三人♪』

『ど〜も〜、イッサですv』 『バショウでござるv』 『ブソンでハーイv』

『三人合わせて、ハイセーズ♪』

「ぶはっ」
こ、こいつらはあの三人組!ハイセーズって?!

『ハイセーズの三人はアイドルとしても絶大な人気ですが、今チビッコたちのヒーローとしても不動の人気を得てますよね!』

『はい! 今日はチビッコの皆にも応援に来てもらってるんだ!』
『今日は一緒に元気よく歌ってくれよな!』
『いくぜーー!戦え!金華戦隊プリンスリー!』
どかーんと派手な爆発がして、アイドルの衣装から三人はヒーローの姿へと変身する。
彼らが歌っているのは、そのヒーローモノの主題歌らしい。子供たちのノリノリの歌声も聞こえてくる。まったく、子供達やテレビの前では、あんなに爽やかっぷりをアピールしているけど、あざといわ。

「やっぱり、こいつらさっきの。金門のやつらじゃん。」
同じくテレビを見ていたショウがそう言う。

「金門って・・・なんであたしを金門が狙うの?」

わけがわからない、一体あたしがなんだって言うのよ?
テレビの中でアイドルスマイルを振りまいているハイセーズの三人に、ムカムカきているあたしに朗報が!

「ビケ兄帰ったみたい♪」

「えっ、ビケさんが?」
ビケさんのもとに走り出しそうなあたしの背後でショウから

「あのさリンネ、今日のことビケ兄には話さないほうがいいよ。」

「へっ」

「ビケ兄に迷惑かけてほしくないしさ、つまんないことで。」

つまんないことって!
う、だけど、そうかも、ちょっとだけビケさんならあたしのこと助けてくれるかもって期待していたけど、
でもただでさえこれだけしてもらっているのに、これ以上迷惑とか心配事なんて、ビケさんにかけられない。
そうよね、好きな人に迷惑なんてかけたくない、自分の問題は自分で解決しなくちゃ。

とはいっても、またあいつらが襲ってきたら、どうすれば・・・
武器は今ないし、こんな時テンだったら・・・?
って、テンなんて知らない。あー、なんかムカついてきた。


ビケさん・・・

あたしはビケさんの部屋の前に立っていた。あわわ、来ちゃったけど、めちゃめちゃ緊張してきてます。
で、でもちゃんとお礼を言ってなかったし、そうお礼を言わなくちゃ。

ビケさん、いるんだよね?時々ドアの向こうで少し物音がして、そのたびにバカみたいにどきつくあたしの心の弱さがなんだか恥ずかしい。
なんて思っていると、ガチャ。とドアが開いて、そこには美しい顔が

「ビッビケさんっっ!」
アホみたいにわてつくあたしとは対照的に、ビケさんは落ち着いた優しい笑みで

「やっぱりリンネね。来るんじゃないかって気がしていたから。どうかしたの?」

そ、それは愛のテレパシーvってちがっ

「あっ、そのお礼を、まだちゃんと言ってなかったので、あの、行くあてのないあたしを助けてくださってほんとに、ありがとうございます!!」
ものすごい勢いで頭を下げたあたしの上で、ビケさんの「くす。」という声が聞こえた。

「ふふ、いいのよお礼なんて。それより大変だったでしょう。あんなテロリストに連れまわされて・・・」

!テン・・・

「タカネのことなら安心なさい。必ず見つけて、あんな危険な男には渡さないわ。」

「ビケさん、あのテンは・・・」

それはほんとに一瞬のことで、瞬間あたしの脳内ではなにがおこったのか理解できず、パニック状態に陥りそうな・・・
ビケさんの唇があたしのおでこにフッ。と触れたから

「ほっわっビケっさん・・・」
よろける体と爆発しそうな赤い顔の情けないあたしにビケさんは止めを刺すかのように

「もう遅いわ。早く寝なさい。

ここで一緒に寝る?」

「へっ、えっうえっっ!!?」
うおお、もうまともな脳じゃ理解不能です、ビケさんそれは本当に!!!?

「冗談よv おやすみ、リンネ。」
最後まで余裕の笑みでビケさんは扉の向こうへと戻っていった。
しばらく呆然と廊下で立ち尽くしていたあたしは、数分後に冷静さを取り戻す。

「じょ、冗談、って、冗談にきまってるじゃないもう。」
と自分つっこみいれながら、ぽかぽかしている両頬に手を当てながら考えてみる。

もし冗談じゃなくて本気だったら、あたしは「はい。」つってたんだろうか、と真剣に考えていた。
それにおでこにチュv・・・・・じたばた!!

あたしもう顔洗いませんから!!!
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