恋愛テロリスト

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  第四幕 贅沢な世界〜Cエリア 2  

「Cエリアの街はまだ見て歩いてないのかしら?」

Cエリアに来てから一夜明け、まだどきどきが鳴り止まないあたしにビケさんがそう話しかける。
まだついたばかりで、一度も領主館の外へと出てなかった。

「今からでよければ、少しの間だけ案内してあげるわよ。」

「えっ、あっはい!ぜひぜひ!!」
あたしは高速で頷く。だって断る理由なんてどこにもないし、むしろ嬉しさの極みですよ!

「そう、じゃ早速行きましょうか。」
そんなあたしを見て軽く笑みを浮かべるビケさん、ああん、この笑顔あたしだけが独り占め・・・
と無意識に顔がにやけそうになったあたしの横から

「やったーー、ビケ兄と一緒だーー♪」
はしゃぎながら飛んでいくショウが・・・、くっ、こいつもいたのか・・・Bエリアに帰れよ。


そしてCエリアの街へと、あたしたちは出た。
眩しい。
街も人もなにもかもが眩すぎる街、だけどそれ以上に輝きを放つのは・・・

皆が見る、振り返る。あたしの隣を歩くその人に。
皆がため息をつく、感嘆の声をあげる。
老若男女問わず、すべての人を魅了する、ビケさんの美しさ
見とれるのはあたしだけじゃなかった。
この人に出会ってしまった今は、この先どんなにたくさんの人に出会ったとしても、この人以上にステキだと感じる出会いなどないだろう。
あたしはビケさんにうっとり見とれて歩いていた、Cエリアの美しい街並みなどどうでもよかったのだ。

「あら、あそこでなにかロケをやっているみたいね。」
ビケさんがそう言って立ち止まったので、あたしも慌てて止まりそのほうを確認する。
たしかに人だかりがあって、カメラとかライトとか、なにか撮影を行っていたらしい。
その人だかりも、ビケさんの存在に気づくといっせいにこちらへと視線が集中した。
ざわざわとした声の中から
「領主さまよ!」とか
「キャアービケ様vv」
とか女達の悲鳴にも似たような興奮した声も聞こえた。


「あれって、ドラマの撮影じゃない?ほらあそこにいるのってこないだの・・・」
ショウの視線の先に目をやると、そこにはたしかあの恋愛ドラマのヒロインを演じていた女優の姿が。

「よかったら見学していきなさい。じゃ、私はこれから大事な用があるから失礼するわね。」

「えっ」
ビケさーん・・・、ほんとに短い時間しか一緒にいられなかった。とほほ。
ビケさんがいなくなったあと、あたしとショウはその撮影現場を見学していたわけで、
ただその時、妙な視線を感じていた気が・・・・

撮影見ていると、それもどうやら恋愛ドラマのようで、ヒロインの相手役のイケメン俳優の金田聖。
「あっ、あれって金田聖じゃない。」

「へぇ、リンネ知っている人なの?」

「昔ねけっこう好きだったんだけど、なんか、今は別に。」
なんとも感じないなぁ。それもビケさんに出会ったからかしら?
昔ならかっこいーvとか思っていてもおかしくないと思うけど。

「ふーん、そうなんだ。あの人も金門だよね。」

「へ?金門?」
金門一族のこと?そういえば前にテンがCエリアには金門一族の本拠地があるからとか言ってたけど、でも金門だからってあたしには関係ないことだよね。

「そうそう、ここのCエリアで名の知れている人はほとんどが金門の人間だよ。

金門の人間は雷門の人間を毛嫌いしているからね。ボクはそういうのあんまり気にしないほうだけど、
キン兄やキョウ兄は来辛いみたいだね。

その点ビケ兄は雷門の人間じゃないから、Cエリアの領主に適任だったのかもね。まあビケ兄ならどこでもやっていれそうだけど♪」

「えっ、ビケさんは雷門じゃないって・・・?」
ショウたち三人は雷門の人間でビケさんは違うって、それってどういうこと?母親違いの兄弟ってこと?
複雑な事情が?

その時、あたし達のほうへと向かってくる存在がひとつ
「こんにちは。」
明るい栗色のサラサラ艶めくショートヘアの超美人があたしの目の前に立っていた。
彼女はさっきまでドラマの撮影をしていた、あのヒロイン役の

「あっ、こんにちは。」
慌ててあたしも挨拶を。真じかで見ると本当にかなりの美形。服の上からではそうとは言い切れないけど、スタイルも信じられないくらいにキレイ、肌もトラブルゼロっぽいし、メイクで隠しているのかもだけど毛穴なんて目視できないくらい。これがCエリアの選ばれた人間なのか?!

でもなんで、その彼女があたしに挨拶に来るの?

「あなた、Cエリアの領主さまと、どういう関係なのかしら?」

「えっ」
なんでいきなりそんなことを聞いてきたのか、あたしも突然の質問の返答に慌てる。
というか、あたしとビケさんの関係って??なんて説明すべき?

「なんていうか、その、お世話になっている身で・・・」

「そう・・・、ねえ、あなた名前はなんていうの?」

「え・・・、あたし・・・、あたしは、桃山リンネ、です。」
あたしがそう言うと、彼女は一瞬眉をぴくりとさせた後

「そう、桃山・・・リンネさんとおっしゃるのね、覚えておくわ。」
そう言うと彼女はくるりと向きを変え、撮影の中へと戻っていった。
なんだったんだろ、なんか妙な感じを受けた気が・・・

「金剛カナメ、あの人も金門一族らしいね。美人だけどプライド高そうな女だなぁ。

そうそうたしか金門一族って雷門以上に毛嫌いしている一族があるらしいんだよね。
桃太郎の一族。
金門の連中表はきれいな顔しているけど、中身はそうとう腹黒そうだし、
リンネも気をつけたほうがいいんじゃないの?」

「なんであたしが気をつけるのよ?」

「だって自分で言ってたじゃん、Dエリアで。
自分が桃太郎だって!」

「だから、そんなの知らないって言ってるでしょ、もうDエリアのことは止めてよ!
あたしはもう、ここでビケさんの側で、Cエリアな女になって生きるんだから!」
そうよ桃太郎とかわけわかんないし、あたしはここで新しい生活を始めるのよ。
「Cエリアな女って? なんだそれw」
「うるさい! いちいちつっこむな!」

領主館へと戻る途中、今度は別のドラマのロケに遭遇した。なんだか火薬の爆発音とかが聞こえるんだけど、ここってCエリアだよね? Bエリアなはずないし。まさか、例の愛のテロリストのせいか?とひやりとしたけど、そうじゃなかった。
チビッコ男子がやーやーと興奮した声を上げている。
怪人の着ぐるみに、派手なキラピカな衣装のメイクや髪型がすっごい役者の人。あれ、これってどこかで見たような?
「おおっ! あれは」
ショウが食いついてる。ってことは、あれはこないだテレビで見た、あの子供向けヒーロー番組のロケに違いない。まったく、こういうのに夢中になるのってショウとか、ああいう生意気そうなチビッコ男子よね。
「キャーー、イッサ君カッコイイvv」
「ブソン君オチャメかわいい。それに生のアクションすごいよね、三人とも」
キャーキャーハート飛ばしてエール送っている若い女の子も結構ギャラリーにいた。見たら例のヒーローの中の役は、イケメン男子勢が演じてた。なるほど、それなら子供にも、女の子にも受けるってわけね。まああたしには興味ないけど、ビケさんのステキっぷりを知ったあとじゃ、他の男にときめくなんて理解不能状態。ショウほったらかしてとっとと帰ろうっと。くるりと背を向けたあたしの足は、後ろからあたしを掴んできた者に止められた。
「ちょっと待って、君、よかったら少しだけ出演してみないかな?」
「え、出演って、その…」
あたしが指差すそれに、赤いタイツ姿の男の子はうんうんと頷く。つまり今撮影やってるヒーロードラマに出演ってこと?
「いきなり、そんなこと言われても困ります。第一経験もないし」
ドのつく素人ですよ。学校にいたときに演技とか…、大抵大道具とか背景の木の役とか、演技力ゼロなことしかしてませんし。セリフとか恥ずかしくてムリ、絶対棒読みになる自信あるし、それに、なんだか嫌な視線も感じるし、特にあそこらの女子の…、きっぱりと断って帰ろう。
「いやそんなことないって、特別演技とかセリフがあるってわけじゃない。だけど、君じゃなきゃダメな役なんだ。この世界探してもその役が当てはまる人なんて、きっと君しかいない。頼むよ!」
手を合わせて、お願い!と強く頼まれて、なんか断りづらいな。でも…
「悪いけど、勘弁してください」
と頭下げて、そそくさとその場を去った。後ろのほうで「いい気になるなーブスー」とか酷い罵声が聞こえたけど、もう関係ないし、無視した。
にしても、あたししかはまらない役ってどんな役なんだろ。ちょっと気になったけど、まあいいか。早くビケさんに会いたいものね。


あたしはその後すぐに領主館へと戻った。
ビケさんはまだ帰らない。どこに行ったのかいつ帰ってくるのか、ショウのやつも知らない。

「ビケさんって、恋人とかいないのよね?」
ビケさんにときめきまくっていたものの、その肝心なことをあたしはまだ確かめてなかった。

「いきなりなに?知らないよ、ちょっ、なにすんだよ?!
どこ触ってんだよ? ヘンタイきたーー! ビケ兄助けてーー」
「るっさい! 動くなってあんたにだけはヘンタイ呼ばわりされたくない! とこれか?」
硬い手ごたえ間違いない。
ショウの言うことなんてあてにしないあたしは、ショウの懐から携帯通信機をまさぐり奪う。

「キョウなら、なんでも相談にのってくれるって言ってたし、えっと、これどうす・・・」
あたしが操作に手間取っていると、ショウに
「勝手に触んなよ!・・・・・ほら!」
Aエリアに繋いでくれたので、早速聞いてみる

『リンネですか?なにかあったのですか?』

「あっ、キョウ!あのね、今すぐ聞きたい大事なことなんだけど

ビケさんに恋人とか好きな人っているのか知っている?」

『え、大事な用事って、そのこと、なんですか?』

こくこく。
通信機の向こうでため息とともに
『そういうことなら、文面でお願いします。』

ちょっと怒ってた?・・・まあAエリアの領主は忙しそうだし、しかたない。

「キンとは連絡とれるの?」
あんまりDエリアとは関わりたくないけど、キンならビケさんのことなにか知ってそうだし。と望みを繋ぐ。
「あー、うん、とりあえずこないだ会った時に繋がるようにしたから

まさか、キン兄にも聞くわけ?」
何言ってんのよ、あんたやキンなんてどうせろくに仕事なんかしてないんでしょ!?

早速ショウに繋いでもらう、めんどくさげに投げやりに、ほら!とあたしに通信機をよこす。

『おお、その声はリンネか!まさかまたワシとやりとうなって・・・』

「ちっがいます!じゃなくって、ビケさんのことなんだけど」

『兄者がどうしたんじゃ?』

「ビケさんって恋人とか好きな人とかいたりする?」

『兄者の好きな人?・・・・そういえばワシの知る限りじゃが、そういった話は耳にしたことがないのう。』

「えっほんとう?」
それは嬉しい反応だ。てことはビケさんはフリーなのか!あんなにステキなのにフリー?!

『そういえば、兄者のような男が独り身じゃというのも、不思議なもんじゃな。
兄者に惚れん女などおらんはずじゃが・・・・

!!もしや』

「もしや?なに?!」
あたしはかじりつきながらキンに問いかける。

『もしや、兄者は・・・・男色の』ブツリ

こっちは真剣に聞いているっていうのに、あのマッスルボケは冗談でも言うな!ゲイはお前じゃ!!

「使えない・・・・」
とがっくりきたものの、ひとつもそういった話がないってことは、やっぱりビケさんは恋人とかいないってことなのよね?
なんか少しほっとした。



その夜、ビケさんはまだ帰って来なかった。ショウのやつはフラフラと外へ出て行った。
あたしは特にすることもなく、部屋にいた。
ビケさんのいない時間がこれほど意味もないなんて、ああビケさん、早く会いたい。
そういえばあたし、まだビケさんにちゃんとお礼も言ってなかった!
はあ、ビケさんどこに行ったんだろう・・・
そっと窓に近づいて夜空へと目をやる。闇の中、街は美しく輝きを放っている。
あの眩しい光の中にいても、あたしはビケさんだけは見つけ出す自信があるのに、ビケさん・・・。

「リンネ」
にゅいっとあたしの前に現れたのは

「テン!」
窓を開けるとテンがいた。こいつ、Dエリアに戻ったはずじゃあ・・・
この神出鬼没男、あたしが浸っている時にもかまわず登場かよ。
「なんでこんなとこに・・・」「あいつはどこだ?」
あいかわらず人の話は聞かないし

「あいつってビケさんのこと?ビケさんに何の用?迷惑かけることはしないでよ!」

「はっ、迷惑だと?どっちがだ?あいつはとんでもない野郎だ。」

「とんでも野郎はアンタのほうでしょ!ビケさんの悪口言わないでよ!」
あたしは強気に抗議する。屋根の上に膝をついたままのテンの瞳がギラッと光りながらあたしを見る。

「リンネ、お前、あいつに惚れているのか?」

「そっそれがどうしたって言うのよ?!」

「リンネ、お前がどこのだれに惚れようがお前の勝手だ。だが、あいつだけは絶対にダメだ、

あの男だけはな!」

は?!ちょっとなんであんたにそんなこと言われなきゃならないのよ?!

「あいつへの想いなどすぐにでも捨てろ!信じるだけムダだ、すぐに裏切られ惨めな想いをするだけだ。」

「ちょっとなに言って・・・」

「こんな街、お前には似合わん。とっととタカネを探しに行け、いいな。」

「ちょっ、テン!」
また勝手なことだけ言って屋根から飛び降り姿をくらましたテン。

それにしても今回の発言だけはあたしは許せなかった。
あたしに愛を知れ!とか説教したくせして、ビケさんはダメとか、なんだそりゃ?
テンのビケさんに対する偏見にむかつきながらあたしは外の街を見下ろしていた。

ビケさん、早く帰ってきて・・・

その時、あたしへと向けられていた誰かさんのある感情など、まだあたしは気づいていなかった。
そして災難の幕開けであることも・・・。
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