恋愛テロリスト

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  第十幕 燃えろ!恋乙女 6  

無人島でのカイミ事件から数日、ミントさんから武器完成の連絡があって、とりあえずあたしとキンはAエリア領主館へと戻った。
どんなものになるのか、できあがってからのお楽しみってことで、まったくあたしはわからないわけだけど。
ミントさんはむっふっふ、と怪しげな楽しそうな笑顔で完成品のお披露目をする。

「じゃじゃーん♪」

なんか口で変な効果音つけながら、ミントさんがデスクの上に置いて見せたのは……
「ライフル…?」
ですよね? サイズ的に、以前あたしがショウに買ってもらった(好きで手にしたわけじゃないいわくつきの)あのライフルと同じくらいの。見た目は金属質っぽいシルバーボディのシンプルなデザイン。
いかにも重厚感ありの……。
不安げなあたしの表情を見て、ミントさんはまた嬉しそうな顔のままそれを手にとってみろと奨めてきた。
おそるおそるあたしはそれを触れてみる。ひんやりとした金属独特の感触。こんないかにもなもの、あたしに扱えます?

「あっ?! 軽い、意外と」

あたしの両手伸ばしたくらいの長さのそのライフルは、意外なほど軽く、もてあました力で顎ほどの高さまで持ち上げてしまった。

「そうとう軽量化したんすよ、桃山さんが使いやすいようにね。でもそのくせ、威力はめっちゃ鬼っすよv」

にんまりと嬉しそうな笑顔のミントさん、鬼畜だ。優しそうなお兄さんの面被った鬼畜がここに!一体鬼威力ってどんだけのものなの?

「銃弾もちろん使えるし、そこの凸ボタン押してみてくださいよ」

「凸ボタンって、これですか? おわっっ」

銃口の先端付近から、なんかしゃきーんって鋭いものが飛び出してきましたがー。

「簡易っすけど、剣にもなるんすよ、接近戦にはいいっしょ♪」

ミントさん楽しそうに語りだすー。
しかし、仕込み杖のようだな、なんか暗殺者の武器みたい……。暗殺者…金門の連中思い出しそうで、なんだかな…。

「あんまり、女の子向けな武器じゃありませんね…」

がっくり。

「女の子向けな武器ってどんなんじゃ?」
キンがどうでもいいところにつっこむ。

「しるかっ。は、まさか、他にもなにか鬼畜な仕掛けが?」

たらり、額に変な汗が滲む。

「これにも電撃ビリビリな鬼畜仕様が施されて?」

雷門なだけに。キョウの武器やカイミの武器も電撃バリバリ仕様だったから。キン黒焦げになってたし、アレキンじゃなけりゃ死んでたでしょ、確実に。

「あー、悪いっすね。その機能は桃山さんのにはつけてないっす。その分、若旦那のほうに強化したっすよ」

「へー、そーなんだ。それならよかった」

「やっぱ桃山さんには銃剣が似合うっすよ」

獣拳?!

「桃山さん? 今脳内で変なツッコミしなかったすか?」
「エスパー能力ありですか?!」

「まあそれはともかくとしてー。軽い割りに強度はばっちりなんで、守りにも活躍するっすよ」

「うーん、そうかー、でも、使いこなせるかなー?」

両手にとって、軽く振ってみたりして、具合を確かめる。傘ほどの重さであたしの腕に収まるサイズ。

「操作自体は難しくないっすよ。でも少し扱いに慣れておく必要はあるっすね」

「そうじゃのぅ。桃太郎にしても温羅にしても身体能力はもちろんのことじゃが、剣にも長けとったからな」

得物の扱いかぁ……。今まで嫌悪してきたモノを受け入れ、利用するなんて。
まあ、目的達成の為には、キレイごとだけでやっていけないってわかるし、自分で決めたことだけど。

「オレっち雷門の人間として、強い者には興味あるんすけど……。
温羅の生まれ変わりのビケ殿は、そうとう強いんすか?」

ミントさんが興味津々に訊ねる。

「ワシは温羅の強さは覚えておるが。兄者自身に関してはよう知らんのじゃ。じゃが、只者でないオーラはもっとるのぅ。ワシでさえ気圧されるほどじゃ、それが温羅の力なんじゃろうが。

むー、実はワシも兄者の真の強さっつのーのは目にしたことがないんじゃ。腕もワシやテンより細いしのぅ」

そりゃ、アンタやテンと比べたら、世の大半の男はみんな細いです!

「キンの旦那でも知らないってことは、どうなんすか? ほんとに温羅の強さがあるのか怪しいっすね」

「あたし、温羅の強さとか力とかはよくわかんないですけど、ビケさんはやっぱ強いと思う」

それはテンやキンみたいに目に見える強さとは違う、得体の知れない不気味な強さのような。

「テンとZ島に行ったとき、ビケさんとテンが戦った時があって、あのテンの攻撃がかすりもしなかったし」

テンVSビケさん…てすごい現場に立ち合わせていたんだよね、あたし。

「まあとにかく、強いということじゃ」

「はぁ…、よくわかんないっすけど。でも伝説の鬼王温羅にケンカを売るなんて、カッコイイすね。なんか燃えてくるっすよ」

「ケンカ売るっていう以前に相手にされてないんですが。相手にしてもらうために、乗り込むんです!」

ビケさんはあたしを見てくれない。所詮ゴミと捨てられた女の子さ。
でも底辺に落ちたからこそ、這い上がることができる。あなたという目標に向かって、あたしは這い上がっていきたいんだ。
体が熱を帯びてくる。その熱さをさらに高めるように、あたしはぐっと拳をにぎりしめる。
想いを形にするみたいに、戦う乙女の熱いファイティングポーズかもね。

「熱くなるのはいいんですが、まず鬼が島への道が開かなくては乗り込むこともできませんよ」

戸の開く音と同時に部屋に入ってきたのはキョウ。

「鬼が島への道…、そっか、鬼が島の入り口ってどこにあるっけ?」

Aエリア、Bエリア、Cエリア、Dエリアが囲む首都鬼が島は円形の小さな島のような地だ。
各エリアとは水路で区切られていて、隣り合うエリア間は橋によって繋がっているけど……。
どのエリアからも首都鬼が島にかかる橋は見当たらない。
鬼が島は周囲を高い城壁で囲っていて、外からはその姿を見ることが出来ない。
領地の規模からして、中心にあるお城と、周囲にはなにがあるのかわかりませんが。街があるほどの広さには思えない。…庭がある程度かな?
鬼王だけが居住することを許された禁断の聖地。それが首都鬼が島。
四領主でさえ立ち入り禁止と言われているから、当然庶民が立ちいれるなどありえない。
そうそうヘリなんかで上空を横切ることも絶対禁止のエリアなんですよ。
つまり、鬼が島の全貌どころか片鱗を知る者さえいない??

「鬼が島かー……。ワシらガキのころにおったはずじゃがー、そのころの記憶が怪しくてのぅ」

「そうですね。私も……。最近になって鬼が島にいたことを思い出したのですが…。キン兄さん、私たちはビケ兄さんと最初に会ったのは、鬼が島ですよね?」

キョウがキンに訊ねる。それはキョウのほうもちょっと混乱しているような言い方で。

「ワシはずっとBエリアの雷蔵伯父上のところでじゃと思うとった。が、たしかに、鬼が島の気がしてしてきたのぅ」

「なに? 記憶の混乱? もしかして、あたしみたいに二人も記憶売ったことがあるの?」

「お前ほど酷くないわ。ガキのころじゃからのぅ…。うむ、かすかじゃが、鬼が島の景色思い出したぞ」

「おおっ、それはマジっすか。鬼が島の全貌興味深いっす」

嬉々とするミントさんに、キョウやキンの顔は渋い表情。

「あてになんてなりませんよ。子供のころの記憶ですし。景色も、暗い場所にいたような記憶だけで…」

「ワシもじゃ。お前より二つ上なのに、あんまり記憶にないんじゃ。前世の記憶のほうがむしろはっきりしとるくらいじゃからのぅ。雷蔵伯父上のとこにいた記憶はしっかりしとるのに、父王のことはほんまに記憶がぼやけとる。なにか大事なことを言われとった気がするんじゃが…」

キンが思い出そうと眉を寄せ唸る。そういえば…
「ビケさんがテンと別れて鬼が島に行ったのは、奴隷同然だった兄弟を救うためだって言ってた」

「…記憶操作も温羅の力でしょうか? 奴隷など…そんな酷い扱いを受けた覚えはないんですが……」

ちょっと待ってよ、それってビケさんがウソついてたってこと?
あ、なんか否定できない…。実際ビケさんウソつきまくりの前科ありありなんだもんね。特にあたしその犠牲者ですし。今になって思えば、Z島にいたあのおじいさんの妄想が正しかったのですね。
だけど、キョウたちが鬼王にどんな扱い受けてきたのか知らないけど、ビケさんは赤子の時から父親である鬼王から迫害されていたんだよね。おじいさんの話からもあんまりまともな精神の人じゃなかったみたいだし。

「ワシも同じじゃ。父王は厳しい人じゃったが、奴隷という例えは大げさじゃな。伯父上の元で戦闘訓練受けるように命じたんは父王じゃが、それも鬼門の王の一族として強くある姿は義務じゃからのぅ」

うーん、キョウやキンの中では鬼王ってそこまで印象悪くはないみたい。でも、まともな人とは思えないな。父親を島流しにしたり、自分の息子を殺そうとして、敵わないからって島流しにしたりって。

「鬼が島に住んでいた期間もあったみたいですが、ほとんどBエリアでしたね。で、いつだったか、父王からお呼びがあったはず…、その時鬼が島に行った記憶がうっすらと…」

「うむ、とても大事な呼び出しじゃったはずじゃ。それがなにかは思いだせんが…」

むーん、と揃ってキンとキョウが唸った。子供の頃の記憶を完全に思い出すのが困難みたい。
でもそこまで、なにか生みそうな顔で悩まなくてもいいんじゃ。

「でも二人ともBエリアと鬼が島を行き来していた記憶はあるんすよね? ルートがまったくないってことはないっすよ」

「鬼が島…、桃太郎と温羅が戦った因縁の地。あの桃太郎は温羅と決着つけることに執着しているんだよね。

その決着の場はやっぱり鬼が島だと思う」

つまり、結局は桃太郎ってことに。逃れられない運命なのかも。

「桃太郎、と言うことは、テンの行動を探らねばなりませんね」

桃太郎にテン、因縁深いこの二人とどこまでも繋がりを感じてしまう。



ミントさんから何度も説明を聞いて、武器の操作を教わったあたしはまた何度か確認しているうちにすっかり夜中になっていたことに気づく。
そろそろ仮眠室に行って休まなきゃと思いつつ、通路でまた確認しながらライフルを触っている。なんか妙にそわそわするんだよね。なんというか、胸が騒ぐというか…。

「まだ起きていたんですか?」

通路を歩く靴音にその呼びかけの主に気づいてあたしは顔を起こしてそのほうを向いた。

「うん、そろそろ寝ようと思っていたところ。
キョウは仕事すんだの?」

あたしの前へとやってきたキョウは、あたしの問いかけに「ええ」と頷いた。
キョウの領主の仕事はあたしは目で見ることはないけど、毎日毎日忙しそうだ。鬼が島との戦いに備えて、時間に少しでも余裕があるうちにやれるだけやっておくんだとか。
Aエリアに来てから、筋トレだの体動かすことばかりやっているキンに少しでも手伝わしてやりたいところだけど。脳みそまできっと筋肉のキンにAエリア領主の仕事なんてできるのかねー?なんてバカにした目で見てやったら、ショウやキョウほど学校には通ってないけど、首席で卒業したって聞いたからびっくり。
キンのくせに生意気だわー、なんか敗北感がしんなりと。

「Aエリアの領主って大変そうね」

「そうですね。でもやらねばならないことですから」

Dエリア最強でなければならないDエリアの領主や、雷門のいるBエリアの領主や、金門みたいな小難しい組織と付き合わなきゃいけないCエリアの領主、とかと比べると一番マシみたいに思えるけど、AエリアはAエリアでいろいろ大変なことがありそう。カイミみたいな問題っこも抱えたりしているし。
あ、そういえばカイミさんはあれからなにかアクション起こしてないんだろうか?

「ねえ、キョウは今好きな人っているの?」

「えっ?!」

あたしの問いかけにキョウは一瞬驚いた顔をして、困ったような苦笑いを浮かべながら
「ええ、いますよ」

え、それってもしかしてカイミさん?!
じゃないかも? 彼女のあの態度からしてキョウからそういうふうに想われていない口ぶりだったし。
でもカイミ以外でキョウの身近にいる女性って……思い浮かばない。て、あたしがキョウのことなにもかも把握しているわけじゃないけど。あたしの知る限りではせいぜいミントさんぐらい…ってこらこら変な想像しないしない!ミントさんは男性ですから。

「もしかして、キョウも片想いだったりする?」

相手がカイミさんなら片想いじゃなくなるけど。

「…そうですね。…かなり」

そう言って、キョウはふーとため息ついて天井を仰いだ。
なんだか、よっぽどの難敵? というかその相手ってめちゃくちゃ鈍いヤツか?
けしからんな、キョウほどの男前に好かれているなんて、そりゃカイミさんじゃなくても軽くムカつきますな。

「そりゃよっぽど鈍感な人じゃない? ちゃんと想い伝えたことないの?」

なぜかあたしの鼻息が荒くなっている。キョウの視線が天井からあたしへと戻る。

「そう、ですね…。鬼が島との戦いがすんだその時には、ちゃんと伝えようと思ってます」

まっすぐな眼差しであたしを見るキョウ、己の正義を信じる曇りないその瞳に強い意志を感じる。
どうしよう、同じ恋する乙女としてカイミさんを応援してあげたいところだけど、キョウのことも応援してあげたい。キョウの想う相手がカイミさんじゃなかったら、二人の想いを叶えてあげることなんて不可能だけど……。

「うん。きっとそうしたほうがいいよ。あたし、キョウの想いが叶うこと願っているからね」

グッと拳作って胸の前で構えたあたしを見て、キョウはあきれたような?ため息をついて
「やっぱりわかってませんね……」

「?…ん」
なにが?



――夜、あたしは悪夢にうなされた。
あたしを苦しめてきたあの声が、あいつの存在が、また強く感じられたから。

桃太郎!

最も忌まわしきその存在。千五百年前の悪党で、あたしはその血を引き、そして悲しきかなその生まれ変わりだという。
夢の中に映ったのは、Bエリアの景色だった。
あちこちに立ち上る爆炎に黒い煙。怒号とともにぶつかり合う血気盛んな大勢の男たち。武器を手に、斬りつけたり、傷つけあい殺しあっている。
激しい暴力の気が渦巻いている。その中で鬼のように立つシルエット。そのシルエットの正体をあたしは知っている。

愛のテロリスト…テン。

テンの手にはあの刀があって、その刃は赤く血に染まっている。
炎に赤く照らされるテンの顔。その背後からはあいつの、桃太郎の狂ったような気持ち悪い笑いが聞こえていた。

『そうだ! もっと、もっと殺し合え! もっと戦いの気を高めろ! 俺様を俺様たちを駆り立たせろ!』


気持ち悪い、ムカツク、あたしはその存在をどうしても許すことが出来ない。


桃太郎!!


『!! ちぃっ、どこまでもうざってぇ、邪魔なんだよ桃山リンネーーーー!!!』

うるさい、それはあたしのほうだ。
フン、と鼻を鳴らして、桃太郎が目を向ける先には、建物の屋根からテン目掛けて飛び降りながら発砲するショウの姿が。
ショウの攻撃はテンにかすりもしない。ショウの腕がへっぽことかじゃあない。テンがすごすぎる。まったく動いてないように見えるのに、ショウの放った弾は透明人間を狙ったみたいにすりぬけている。

『はははっ、死にやがれぇ』

桃太郎のその声で、テンの腕は動く。迷わずショウの胸を貫き、そのまま振り下ろす。

『あっけねぇ』

ハッ、とまるで埃を払い落としたみたいに、地面に横たわるショウに冷たい目線を下ろしている。

『てめぇもこうしてやる。リンネ!』


「はっ!」
夢? 今のは夢なの?
でも、なんか違う。違うって胸が騒いでいる気がする。なんだろう、このぞわぞわ感は。

『うざってぇ…』

!?
今感じた。桃太郎の意識。それは前みたいにあたしの中で近くで感じるのとは少し違う感じ。桃太郎は今テンのところにいる。だから……
今聞こえたのもあたしに語りかけるのと違くて、桃太郎のつぶやきが偶然聞こえちゃったかんじだ。
目覚めは最悪だけど、あたしはすぐに飛び起きていた。
仮眠室からでたところですぐキンがあたしを呼んだ。
あたしたちはミントさんのいる部屋に向かった。

「今ちょいと大変なことになってるんすよ」

ミントさんはそう告げると、困ったような表情を浮かべてその大変なことについてあたしたちに伝える。

「雷門と金門が犬猿の仲って知ってるっすよね? 雷門はBエリア、金門はCエリアって住み分けてて、基本お互い関わりをさけてきたんすよ。まあそれでもたまに諍いはいろんなところで起こっていたわけっすけど、家同士の大きな争いにまでは発展しなかったんすよ。どちらも鬼門と同盟関係にあるからその関係を壊したくない両家の当主が上手く治めてきたらしいんすよね」

「前置きはええ、とっとと言わんか」
「ああっ」とミントさんはメガネを直しつつ、ちょっと混乱している様子ででも落ち着こうとしながら答える。

「金門と雷門の若者の間でちょっとした戦争になってるんすよ。最初はDエリア内での抗争ですんでいたみたいなんすけど、今それがBエリアにまで拡大して、Bエリアの特定地区では完全に戦場になってるらしくて。
そうとうな被害がでているそうっす」

Bエリアが火の海状態?なんか嫌な予感がしている。

「伯父上はなにしとんじゃ? 金門との関係悪化は望んどらんはずじゃ。なんも対策しとらんのか?」

しかも場所は雷門の膝元のBエリアだし?

「オレっちにも理解不能なんすけど。両家当主は傍観を貫くみたいで。若者が中心だからエネルギー発散させれば落ち着くだろうって、表向きそう言ってるらしいんすけど。

どうやら鬼が島のせいみたいっす」

「桃太郎!」

あたしの声にキンも頷く。

「行くんすか? 連中みんな我を忘れている状態らしいっす。そうとう危険っすよ」

「そこに桃太郎がいる、テンも」

いかなくちゃ、強く心が急く。鬼が島へ、ビケさんの元へたどり着くためにも、そいつを無視して進むことは出来ない。
それに、ショウが……。
夢が夢でないなら、ショウもそこにいる。
あたしに鋭い殺意を向けながら、Dエリアではあたしを助けたショウ。
その理由を知りたい。たったそれだけのことだけど、ショウに会いたいと思っていた。


ミントさんが作ってくれたライフルを手に、あたしは急いで領主館を飛び出した。
Aエリア側の関所で足止めをくらってしまった。当然かもしれないだって武器持ち歩いているし。
それでなくても、今Bエリアは危険な状態だからと通過を許可できないということだ。
ええい、うざったい! こうなりゃ武力ふりかざして力ずくで!
と思ったあたしの助け舟は、あたしの後から駆けつけたキョウとキンだった。
領主のキョウのおかげであたしたちはBエリアに入れた。

「テンはどこに?」

Bエリアと行っても広い。テンたちの居場所は…、キョウたちも知るはずがない。
だけど、あたしには、わかる気がする。
あの夢の中の景色、あの場所にきっといる。
そして、またあいつの意思が聞こえてきた。

『リンネ、ちっ忌々しいんだよ』

よっぽど不快そうな桃太郎の意思。なんか焦っているようにも感じる。
そう、そんなにあたしの存在ってアンタの邪魔している?
それってあたしにしかできない、最高の攻撃だよね?
あたしを縛ったのが桃太郎なら、桃太郎を縛れるのもあたししかいない。

「テンたちはこっち!」

迷うことなく走り出すあたしに、キョウたちはついてくる。

「リンネ、あなたわかるんですか?」

「桃太郎の意識か? そうか生まれ変わりのリンネにしか感じとれんやつか」

「うわっ」

いきなり目の前で爆発が起こる。
周囲は建物が爆発やらで破壊され瓦礫の通りになっていた。
戦場の中心は、Bエリアの中核付近。そこに近づくにつれて、破壊も激しくなる。
銃弾が飛び交い、刃物がぶつかり合う音がする。鉄や煙や血の臭い。
頭がおかしくなりそう。でも今は正気を保てる。桃太郎、あいつを鎮めるために、こんなとこで止まるわけにはいかない。それに…もたもたしていると手遅れに。

「うおっなんじゃ? 敵も味方も見境ついとらんぞ」

あたしの目の前を遮るように、現れたのは金門か雷門かしらないけど、明らかに冷静を失った血走った狂った獣の目で立つ男達。
奇声を発しながら飛び掛ってくる。

「ちょっちょっと」

あたしはライフルを盾にしたり、振り回したりしながら連中をなぎ払うけど、でも次々に襲ってくる。
一歩も進ませてくれない。くそーーー!!

『フン、邪魔くせぇ。そろそろ終わらせてやるぜ』

「くっ、また」
桃太郎の黒い意思が聞こえた。あいつの今の言葉、あたしに対してじゃない。てことは……。

「くっ。どけーーーー!!」

あたしの悲鳴に近い怒号に答えるように、邪魔をしていた連中がふっとんだ。
それを吹っ飛ばしたのは、あたしの後ろにいたキンとキョウ。

「リンネ、迷わず向かってください!テンのもとへ」

「十人じゃろうが百人じゃろうがワシがぶっとばしてやるわ!かかってこんかい」

キンの挑発にぐわっと目を血走らせた獣達が群がった。
わずかに道が開けたその瞬間を狙ってあたしは駆け出した。
急がなきゃいけないあたしは振り向けないけど、ありがとう二人とも。
たどり着く、たどり着いてみせる、あいつに!
あたしを嫌悪していたそいつはあたしを引きつける。
あたしでありあたしでない、そいつのもとへ、あたしの足は今までにないスピードでかけてゆく。
煙をくぐり、爆音を横に、あたしは脅えることなくかけていく。
唯一つの標的に向かって。

「桃太郎!!」

見慣れたその大きな背中を見つけ、あたしは叫ぶ。
一瞬ぴくりとその体は止まった、でも振り上げられた剣は今まさに振り下ろされようとしている。
あたしは止まることなく、その背中を追い越して、Uターン。
きゅっと素早く地面をこすった足元からは軽く火花が散った。
地面に横倒れうずくまるショウの前に走り、刀を振り落とすテンに対峙するように。
テンの瞳にあたしが映し出される。それでもテンの動きは止まることなく刃は落ちてくる。

「ぐぅっっ!きっ」

ライフルを盾にしてテンの攻撃を受けた。ずがっと腕にくる激しい重い衝撃。あたしは後方に弾き飛ばされた。
体に切り傷はない。さすがミントさんの武器は優秀だ。て感心している余裕じゃない。
あたしは身を起こして、すぐに構える体制になる。そして、目の前のテロリストをぎっと睨みつける。

『リンネー、どこまでも邪魔な存在だな、てめぇはよ!』

テンのすぐそばから聞こえるあいつの声。


「桃太郎! アンタの思い通りになんてさせない!」
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