恋愛テロリスト
第十幕 燃えろ!恋乙女 5
弾丸のごとくあたしへと飛び込んでくる鬼がとり付いたカイミ。
カイミの飛び蹴りが腹に決まり、あたしは砂を散らせながら後方に弾け飛ばされる。
「ふぁっ、ちょっ」
ぺっと口に入った砂を吐きながら、遮るように手を突き出すけど、カイミはかまうことなく飛び掛ってくる。
ざざっと砂を蹴る音が聞こえて、あたしの上空に影ができた。
「死ねぇぇっもん!!」
「だっっ」
あたし目掛けて落下するカイミが見えて、日の光の眩しさに一瞬視界を奪われそうになって、薄目になりつつあたしは横へと転がりながら回避する。
ずぼっ!
勢いよくカイミの足がすね近くまで埋まる。ぷはっ。あたしは口元の砂を腕で拭いながら、手をついて体を立ち上げる。
すぐにギン!と鋭い視線をあたしへと向けて、カイミは埋まった足をずばっと勢いよく引っこ抜く。海水で湿った砂がバラバラと一面に散っている。
「ねぇ、キョウがなに? 一体なんなの?」
あたしはカイミに問いかける。さっきあたしに飛び掛ってくる前に、たしかにキョウがどうこう言っていたのが聞こえた。
キョウが関係あるの? でもキョウになにかあれば、向こうから連絡でもありそうなのに、そうじゃなくて?
「うるさいっっ! すっとぼけくさってマジでムカツクんだもん!!」
甲高い怒声でカイミは叫んだ。そしてまた、くるっとあたしへと向きを変えて、突進してくる。
「うわっ、ちょっと」
「お前なんかーーっっ」
泣き声が混じっているような、そんな叫び声。狂犬のごとくあたしへと噛み付いてきて、あたしはカイミに掴みかかられて、砂の上に押し倒される。
「ねぇちょっとまって、キョウがなにって?ちゃんと話してくれなきゃわかんな」「るっせーー死ねもん!」
あたしは前髪をぎっと乱暴に掴まれて、おでこがむき出し状態。あたしに馬乗りのカイミの顔は逆光で暗いけど、その顔は怒りで満たされ、血走った赤い目が獣のようにあたしを捕らえている。でもその目には涙が浮いて、口元はわずかなしわが浮かんでぷるぷる震えている。その顔は、ただあたしが憎くて怒っているだけの顔には見えなくて……。
すぐにその顔は近くなって、あたしの顔に重なる。それは激しく熱く。
ゴン!
脳内で鈍く響く衝撃。カイミの渾身の頭突きが炸裂した。まさに目から星が飛び散る衝撃。ぐらぐらする。脳が揺れる!鼻の奥でツーンとした鉄の臭いがする。でもそれはカイミだって同じだろう。
「うっ」
カイミも呻いている。なに考えてんのこのこは。
「ちょっと、だから話を」
頭のクラクラを押さえながら、あたしは上半身を起こしあげたカイミの胸元を掴んだ。
「お前と話すことなんてなにもないもん! この元凶がっっ」
「はっ?元凶って?」
「お前のせいでキョウ兄は鬼が島を敵に回したんだもん。お前のせいで、キョウ兄は雷門から離れて……」
「へ、ちょっと待って、キョウは自分の意思で…」
ずずっと鼻水をすする音させて、カイミは顔をぐっと上げてまたあたしを鋭く睨みつける。体を左右に激しく揺らして、あたしが掴んでいた手をゆるませて、今度はカイミがあたしへと掴みかかる。カイミの右手があたしの首をしめるように掴んできた。あたしはそれを逃れるように、顎を寄せ首元に力を入れる。お腹にはカイミが乗ってて、あたしよりも軽い子だけど、けしてあたしからすれば軽いじゃん、と余裕叩けるレベルでもない。足とかぷるぷるしてきてるし。つか溺れたばっかで筋肉軽く痙攣状態ですし。以前のあたしなら…とか想像するとちよい怖いけど、キンに感謝か。ありがとうキン、もし来世で会えることがあるなら、ちゃんとお礼を言いたいよ。…と天国のキンに感謝しているヒマはない。カイミは楽な相手じゃない。少しでも隙を見せたら、きっと殺される。
でも、どこか……
あたしは今目の前にいる台風みたいな凶暴な少女の中に、どこか弱さを感じていた。それにキョウのこと、誤解している。実際無関係とはいえないけど、キョウのことはキョウ自身が決めたことなのに。ちゃんと話してわかってもらわないと。
「うるっっさいもん! お前が死ねばいいんだもん!」
ちょっ
聞く耳一切なしって態度で、カイミはぶんぶんと首を振って、あたしの髪を引っ張りながら、腰を浮かせて、あたしから離れたかと思ったら、軽くジャンプしてあたしの腹目掛けて膝を打ち落とす。
「おぐっっ」
白い液体が宙に散って、カイミの張り手があたしの頬を打って、勢いよく打ちつけた地面から茶色い塊が宙に舞う。
じんじんする頬を押さえながら、抉るように砂を蹴った。あたしの足払いはかわされたけど、はなからそんなのあてにしていない。二つ結びの黄色い髪の一つを掴んで、今度はこっちがカイミを砂浜へとうつ伏せさせる。
「ぐっ」
カイミの呻きを聞いて、あたしは体重かけながらカイミの上に乗る。今度はこっちが上乗りだ。
体重あたしのほうが重い分、有利だ。このこは素早いから、動きさえ封じれば、なんとかなるはず。
全身を使ってあたしはカイミの動きを封じる。顔と顔、鼻がこすれあうほどの近距離であたしたちは睨み合う。
「くっ」
悔しそうな表情を見せるカイミの頬には砂が張り付いている。その後からして、やっぱりこのこ泣いている。
「お前のせいでキョウ兄は…ずっ、お前なんかいなきゃ…ずびっ」
まさか、このこ…
「あなた、もしかしてキョウのこと……、好きなの?」
カイミがムキになる理由、今そうだと気づいた。
最初会った時ショウの婚約者とか自分で言ってたけど、本命はキョウのほうだったんだ。いつもキョウの前では大人しかったし。
それが図星と証明するかのように、今カイミの顔はみるみる赤くなっていく。
わなわなと震えながら、動揺している。
「っっるっさいもん!! お前なんかにっっ」
ギャンと牙をむいて、カイミが渾身の力を振り絞ってあたしのでこに自分のでこをぶつけてきた。
「がっっっ」「くっっっ」
それぞれ別の方向へとあたしたちはよろける。ぐらんぐらんと変な音が響いている。鼻から血とか汁とか垂れる。
「お前なんかにキョウ兄は渡さないもん!!」
ちょ、ちょっと、このこあたしとキョウの仲誤解してる?!
「まっ…」
カイミの拳が迷いなくあたしの顔面に飛んでくる。正面直撃をかわすも頬骨に鈍い衝撃を受け、顔が横を向く。
二発目はなんとか腕でガード。でもすぐにカイミの攻撃は蹴りに転じる。体は軽くても衝撃は相当だ。破壊兵器カイミ。
だけどやられっぱなしじゃない。キンとの特訓はあたしの体に神経に強く影響を与えた。それを今実戦している。カイミの繰り出した蹴りを、あたしの腹にめり込んだところで、ぐっと両手で掴んで離さない。振り子のようにカイミの体は横にぶれて、地面に倒れる。
「ちぃっ」
片耳を地面につけた瞬間カイミは舌打ち。カイミの足を掴んでいた手をすぐに体の上部に移動させて、覆いかぶさるようにして動きを封じにかかる。人の話大人しく聞く気配なし。先に動けなくして、こっちが優位に立たなくちゃダメみたいだしね。
あたしは上になって、華奢な女の子の両肩を掴んで、牙を剥くカイミを見下ろす。
「あなたあたしのこと…なめすぎ」
「るっさいもん!」
完全に感情に支配されているカイミは、怒りを顔面に満たしながら、あたしの顔目掛けてツバを吐きつける。
あたしを睨みながら、横っ腹に拳を打ち付けてくる。衝撃で体がブレながらも、あたしはカイミを掴んだ手を緩めない。だからといってカイミも大人しくしているはずなく、必死で抵抗する。
あたしとカイミは砂にまみれながら、砂浜を転がり、砂を巻き上げる。
どちらのものともしれないしずくが舞い、掴んでは投げ打ち付ける。
カイミは武器を持ってないのか使わないのか、拳で蹴りで攻撃を仕掛けてくる。
まるであたしに、自分の気持ちを思い知れといわんばかりに。
「でもそれは、間違ってる」
あたしへととび蹴りを食らわそうと飛び掛ってくるカイミの足首を掴むように払い落とす。
「にっするもん!」
「いっ」
抵抗するカイミが倒れる直前あたしの髪を掴んで引っ張る。カイミと一緒に倒れながら、あたしは顔面砂に打つ。
「気持ちぶつける相手、あたしじゃないでしょ?!」
砂をパラパラ落としながらあたしは顔を上げる。なおも飛び掛るカイミの首元を掴んで、攻撃を阻みながら、あたしはカイミに主張する。
「うるっっさいもん! お前になんかあたしの気持ちはわかんないんだもん!」
「あなたのそれは八つ当たりでしょ」
あたしの言葉にカイミはカチーンとした表情でさらに口調が強まる。
「お前のせいだもん! お前がいるせいでキョウ兄は雷門を離れて…!
ショウだって、領主辞めていきなりいなくなったのも、お前が原因に決まってるんだもん!」
え? ショウが領主を辞めていなくなったって?
「待ってどういうこと? ショウ行方不明なの?」
「るっさいもん! お前が関与しているに決まってるもん」
話しながらも手を休めないカイミの攻撃を慌ててかわしつつ、弁解する。
「全部桃山リンネお前のせいだもん! お前のせいでみんなめちゃくちゃなんだもん!
だから、死ねっっだもん」
ブン!スピード衰えないカイミの蹴りがあたしの体を蹴り飛ばす。湿った砂浜に尻や足の滑った跡をつけながら、あたしは後方へ転がる。
砂を掴みながら立ち上がって、カイミの猛撃から反撃する。女の子を殴りつけるのは本望じゃないけど、んなことつべこべ考えている余裕ない。向こうの殺気は本物だから。本気でやらなきゃやられるだけ!
だから、誤解を解かなくちゃ。難しいかもしれない、でもわかりあえない相手じゃない気がする。
カイミさんはキョウのこと本気で好きなんだ。あたしのこと殺したいくらいに。
届かない片想いを抱える気持ち、あたしも同じよくわかるから。
届かない?
ほんとはきっとそんなことない。もしかしたら、届くかもしれない。ただムリだって諦めているだけ。
キョウがカイミのことどう思っているのかなんて、キョウ自身にしかわからないし。でもキョウの態度やカイミの行動からして、キョウはカイミの想いを知らなくて、カイミは想いを伝えてないんじゃないかと思う。
もし伝えたところで、簡単に想いが変わるなんて思わないけど……
あたしが想いを伝えても、ビケさんがおばあちゃんを想う気持ちを止められなかったように……。
どうしようもない想い、よくわかるから。カイミの苛立ち、わかる、けど。
だからって、黙ってやられる筋合いないし。
キンやミントさんやキョウや、みんな力になってくれている。あたし一人で進むわけでも戦ってきたわけでもない。
ブッ倒す!
「お前が死ねば、全部上手くいくんだもん」
「悪いけど、死んでなんかあげない! あたしだって、行かなきゃいけないの。
大好きなあの人にこの想いをぶつけるまで、こんなとこで死ぬわけにはいかないんだから」
「このっっ」
ギリッとカイミが睨む、あたしだって負けない。
「あたしは鬼が島にたどり着く。その邪魔をするなら、カイミさんあなたをぶっ倒していくから」
――砂を蹴り、肉を打つ音。少女漫画のようなロマンチックな甘い空気とは程遠いしょっぱいにおい。張りつく汗に口の中の体液を情けなくも吐き散らし血だらけの汚れだらけの姿で。
幾度となく打ち合い、ぶつかり合い、押し合い、お互いガグカクの限界超えた状態で、ほぼ同時に地面に倒れこんでしまった。
口の中、じゃりっとした砂の感覚に、鉄の味に似た血の味がしていて。
立ち上がる力はもうないかもしれない。でもそれはカイミも同じだと思ってる。
荒い息が聞こえているから。
「カイミ…さん?」
わずかに顔をもたげて呼びかけてみる。あたしの数メートル先に横たわるカイミは仰向けで倒れたまま、胸を上下させている。
「お前…思っていたより、けっこうマシ…だったもん」
小さく拗ねたような口調でカイミは答えた。あれ、マシって…褒めてもらえているの?かな…。
と思ったら次の瞬間、またギャンという効果音とともに口を開いて
「でもキョウ兄は渡さないもん!!」
ケンカ越し。
「て、まってよ、あなたまだ誤解している。あたしとキョウはそんな仲じゃないし、あたしの好きな人は別にいるんだから」
恋敵じゃありませんからっ! てなんとか説得を試みるあたし。
「でも、キョウ兄は…」
まだ拗ねたような口調のカイミ。なにこの子、結構ウジウジしたタイプなのか?それでいて、八つ当たりするタイプか?
「お前なんかに…あたしの気持ちなんてわかるわけないんだもんっっ!!」
涙散らせながら怒号。
「そんなのわかるわけないじゃない、エスパーじゃあるまいし。キョウだって同じよ。キョウがどう想っているのかなんてキョウにしかわからないけど、言わなきゃ伝わらないことってあるでしょう?
イライラ募らせるだけじゃ動かないよ。
伝えればキョウの気持ちが変わるかも、なんて無責任なこと言えないけど…。
でも、カイミさんのその想い、救ってあげられるのはカイミさんだけだよ」
記憶の中でおばあちゃんに言われた言葉だけど。
「うるっさい、んなことわかっているんだもん、だから」
ゆらっと揺れながら、ゆっくりとカイミは起き上がる。そしてふっと視線をあたしに落として
「お前を…ぶっ殺すんだもん!!」
ぎゃーーっ説得失敗だーー! 自ら死亡フラグ立てちゃいましたかー?!
膝を揺らしながらも、立ちあがったカイミはあたしへと近寄る。ヤバイ、すごい殺気。逃げなきゃ、反撃しなきゃ。
その時、カイミの体が空高く舞って、そして、あたしとは逆方向へと飛んだ?!
「全くワガママもいい加減にせんか。Aエリアに戻るんじゃカイミ!」
「ぐっぐふぅっ」
地面に叩きつけられて、カイミは呻いて、そのままぐったりと動かなくなった。
て、ちょっと、なんでなんで?!
「ゾンビ?!」
あたしは我が目を疑った。だって、ありえない光景が今目の前に。
目をぱちくりさせているあたしを、たぶんゾンビのそいつは変わらないあの顔で見下ろす。
「なにがじゃ?」
「じゃ?じゃない!キンあんた生きていたの?」
あのまま海の底で帰らぬ人になったと思っていたのに。ぴんぴんしている。んもぅ、さっき天国のキンへ感謝していたというのに、…まあキンならあの世からも自力で帰って来れそう…、規格外な存在ですよね。
「おお、なんとかこのとおりじゃ。息苦しくなって頭痛くなったけどなー。なんとか海の底歩いてこれたぞー」
自分でも驚いている様子だ。つーか、それのほうがすごくないか?人間越えているよこの男、まったく。
「はー、でもよかった、生きてて」
「ああまったく、カイミとやりおうてよう生きとったな」
ん? そっちかい! て、ああ、もうこいつの心配なんてするだけ損ね。
馬鹿馬鹿しくなってきた。
て、キンのことより、カイミは?!
キンのやつ、問答無用にぶっ飛ばしてたように見えたけど、そしてカイミはぐったりして動く気配なし、もしかして、死んでない?!
「キンいくらなんでもやりすぎよ、ねえ、早く手当てしてあげたほうが」
「はっはっは、心配いらん。カイミはワガママで言うこときかんからな、これくらいやってやらんといかんのじゃ」
やりすぎだっ、このバカ男。ほんと女の子の扱いがムチャクチャなんだから、そんなんでお嫁さんもらえるの? 他人事ながら心配するよ。
「このくらいでへこたれたりせん、こいつはな」
そう言って、キンはぐったりしたままのカイミを抱き起こす。むちゃくちゃだけど、カイミを見るその目は、なんだか兄貴って感じに見える。
キンにしかわからないカイミのなにか、ってあるのかな? そんな気がした。
「ほれ、すぐに連れて戻れ」
キンの背後から黒っぽいいでたちの男がしゅばっと忍者のごとく現れた。雷門のやつか、カイミ部隊とかいう。
男はキンからカイミを受け取ると、一礼してすぐにまたしゅばっと姿を消した。
さっきまでの騒がしさはもうなくて、ただ風の音と波の音だけがしている。もう、あたしたち以外この島にはいないのかな?
カイミさん、雷門でめちゃめちゃ凶暴で強くて、とんでもない女の子だけど、キョウに片想いする、気持ちの部分は脆くて…、ああ同じ女の子なんだと思った。
きっとキョウなら、受け止めてくれるんじゃないかな。あたしはあたしの想いだけでせいいっぱいだけど、カイミさんの想いが届けばいいなと思う。
「あ、そういえば、カイミさんがショウが領主辞めて、行方知れずだって言ってたんだけど、キン、ミントさんからなにか連絡とかなかったの?」
「おお、そういえば、なんか言っとったのぅ」
思い出したようにキンは通信機を取り出した。あたしの預かっていたやつを返してくれた。(海水につかっても壊れてないらしい、さすが)
早速通信機をオンにして、Aエリアにつなぐ。
『あ、どうもー、桃山さん。!…お気の毒にっす』
ん?ミントさんの申し訳なさそうな顔、もしかしてあたしの顔って結構ヒドイことになってる?ぱっと手を当ててみたら腫れた箇所が痛む。ひゃー、どれだけひどいことになってるんだろう?鏡見るの怖いです。あ、なんか今になってジンジン痛み出してきたような、い、痛い…沁みるぅっっ。
『お嬢のこと許してやってほしいっす。オレっちや若旦那のことは伏せておいたんすけど、どっからか知っちゃったみたいで…。思い込んだら突っ走るタイプなんすよ』
画面の向こうで頭を下げるミントさんに、あたしは首を振る。
「いやもういいんですけど、そのことよりも、なにかあったんですか?」
緊迫した空気が一瞬、そしてミントさんの口が開く。
『実は、武器のほうすがね、もう少しかかりそうなんで、もう少しそこの島でキンの旦那とバカンスこと修行楽しんでてほしいっす』
はいーー?
なんかがくっと肩の力が抜けました。んじゃーと陽気な声がして通信が切れた。
「そういうことらしいのぅ、じゃ続きはじめるぞリンネ」
てキンのやつ早速構えているし、てあんた。
「溺れて死に掛けたばっかでしょ、そんな元気あるの?」
それにあたしもカイミと死闘終えたばっかですし。
「はっはっは、問題なっしんぐーじゃ」
「あーのーねー、あっ、そう言えば、ショウのこと聞くの忘れちゃった」
ミントさん一方的に切っちゃうし。
「ショウのことならあんまりあてにせんほうがええぞ。あいつは兄者の言いなりじゃからのぅ」
キンからは冷めた返事が返ってきた。
別にあてにしているとかそんなんじゃないけど、あいつなにがしたいのかわかんないから気になって……。
「まあムリもなかろう。あれは…ゼンビは温羅に心酔しとったからのぅ。あいつが兄者から離れるなどありえんじゃろう」
「…ごめん、ゼンビとかなに?」
「ん? ああそうか、お前は前世の記憶ないんじゃったな。ならまあええわ」
おい、ええわって、自分で納得したまま勝手に終えるなっての!
ゼンビ、とかよくわかんないけど、でもなんだか……
よくわからないモヤモヤとしたものを感じている。
それはとても気持ち悪くて、ムカムカしてくるもの。
もしかしたらって、思っている今。少しあとになって、その原因は間違いなくアイツだと思い知る。
そう、アイツ…すべての元凶とも言えるアイツのこと。
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