紫水晶の扉


ホツカが選んだのは紫水晶の扉だ。
ホツカが扉に手をかけると、アメジがどんなに力を入れてもびくともしなかった扉があっさりと開いた。

「やはりあたしを選ぶとは、少年見る目があるな。さてはアメジ様のファンになったな?」
「いえ、それはないです」

きっぱりとそこは否定するホツカ。なんとなく、この扉を選んだのはどことなくアメジが自分の仲間の一人に似ている様な気がして…。

『バクダンの娘っこを思い出すようじゃ』

師匠も同じように思っていたようだ。

「わっ」「なんだ?」

扉が開くと扉の向こうから眩しい光があふれ出て、ホツカとアメジと師匠を包む。眩しさから解放されると、そこは先ほどの暗闇空間からは一変。

「ここは…」

ホツカには見覚えのない景色。だが、アメジは…

「なんだよ、ここってリスタル?」

リスタル、アメジの住む世界のことだろう。
そこは扉の先とは思えない、開けた場所で、草木の生えない荒涼とした大地。先には大地と同じ色の山々が立ち、吹き付ける風が乾いた大地の砂を巻き上げている。振り返ると、先ほど通り抜けてきたであろう扉の痕跡はどこにもない。まるで瞬間移動してきたみたいだ。

「に似ているけど、リスタルじゃない」

アメジが少し周囲を見渡しながら、確信するようにそう言う。先ほどは自分の世界かもと感じたようだが、どうも違うらしい。

「アメジさんの世界に似てるんですか?」

「うん、似てはいるけど、なんか違和感あるんだよね。なんかこれ、あたしが水晶神殿から目覚めて、百年後のリスタルになってたって時と、似ているようででもやっぱり違うんだな。
でも、リスタルじゃないけど…」

だんだんと地面を踏みつけながら、アメジはなにかを感じるのだろうか。ギランと鋭い目つきになって遠くを見据える。アメジに続いてホツカと師匠も異変を察知する。

山の向こうから、巨大な影がこちらへと向かってくる。それは体長十メートルはある巨大な鳥のようなバケモノだ。全身は黒く瞳も同じようにドス黒い。その不気味な生物を見てアメジは「ここにもいたのか黒水晶」とつぶやいた。

『なんじゃ、あの娘はやけに落ちついとるな。あんなバケモノを前にしても驚きもせず』

確実にこちらに向かってくるバケモノから、ホツカたちを守るようにアメジは手を挙げ、地面をたんたんと踏みつける。にやり、と笑みながら、懐から取り出したものを掲げる。

「よっしゃ、ここでなら水晶の力が使えるみたいだ。さっきの場所ではなぜか使えなかったけど、水晶の力さえ使えればアメジ様は最強さ!」

アメジが取り出したのは、ドクロを模った透明な加工石。彼女はそれをドクロ水晶だと言って自分の武器なのだとホツカたちに教えた。

「ここはアメジ様にまかせて、あんたたちは安全なところにいきな。かかってこい黒水晶」

意気揚々とアメジはそう叫んで、彼女の言う水晶の力を使う。ドクロ水晶を片手に、もう片方の手でドクロ水晶に触れるとドクロ水晶から光の線が現れ、アメジの指先から描かれていくように空中に光の線が伸びていく。さらにその線を伸ばしていくように、アメジが大地を駆ける。

「だめだ、ここでも精霊の力が使えません、師匠」

『仕方ない。どうやらあのバケモノに対抗できるのはあのアメジという娘だけのようだ』

どこか退避出来る場所に、とホツカの目に付いたのは山道に続く山崖近くにある大岩だった。岩の側に向かうと、そこには発光する怪しげな本がなぜか落ちていた。

「これは、本? こんな本見たことがない」

元々本好きな少年のホツカだが、ホツカの知らない本だった。表紙には扉と同じ紫水晶のシンボルマークが描かれ、本のタイトルには【アメジスト】と書かれてあった。発光するなんて怪しいにもほどがある本だが、なぜかホツカは自然とその本に手が伸びた。触れた瞬間、本はホツカの手に吸い込まれるようにして消滅し、その瞬間ホツカの中に様々な情報が流れてきた。

「これは、アメジさんのいた世界の情報。リスタル、聖獣、水晶使い、巫女…黒水晶」

ホツカはアメジと彼女の世界を理解した。その瞬間、精霊の力が解放され、ホツカも魔法が使えるようになった。

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