「師匠、とりあえず魔法が使えるようになりました」

『おおっそれならお前もあのバケモノと戦えるな』

ホツカからの朗報に師匠の顔もパアァと輝く、がホツカは「いいえ、それは不可能です」と首を振った。魔法はたしかに使えるようになったが、やはりごく一部の魔法だけであり、戦闘向きの魔法は使えないことを師匠に伝える。

「解放されたのは土属性の魔法です。アメジさんが土属性ですから、そのことと関係しているようです。それから、あの怪物のこともわかりました。あれは【黒水晶】と呼ばれる希少生物です。非情に強い生命力と戦闘力を持ち、凶暴性も併せ持つ恐ろしい生物です。アメジさんはまかせろと言ってましたが、アメジさん一人では黒水晶を倒すことはできません。せいぜい、気をそらすことくらいでしょう」

『どうにもならんではないか』

せっかく魔法の力が解放されても、ホツカも戦えぬというし、アメジにも倒せないという。ならばどうやってあの黒水晶から逃れられるというのだろうか?
打つ手なしかと思えたが、ホツカの顔に絶望はない。いや、希望があった。師匠もそれを感じ取り、ホツカに問う。

『どうにかできるというのか?』

「ええ、あの黒水晶にはアメジさんが言っていた【水晶の力】が有効なんです」

ドクロ水晶を使ってアメジが行っていることが水晶の力の一つらしい。水晶の力とは、大地より得る気の力のこと。ホツカの精霊魔法と同質のものらしいが、魔法とは違って媒体となるもの、そしてそれぞれ役割を担う者がいるということだ。

アメジの世界を理解したホツカはともかく、師匠はちんぷんかんぷんだが。妙に落ち着いているホツカを見ていると、なんとかなるのではという安心感があった。ホツカもそれに応えるように、「大丈夫です」と微笑む。

「アメジさんが時間を稼いでいる間に、切り札を呼び寄せましょう」

そういってホツカは山道へと走り出した。師匠は慌ててホツカを追いかけるが、アメジを一人残していいのだろうかとちらちらとアメジのほうを確認するが、黒水晶から逃げ回っているだけだった。水晶の力とやらで翻弄しているようにも見えるが、かなりのペースで走り回っている。あれではアメジのスタミナもそう持たないだろう。かといって師匠にはなにもできない。考えがあるらしいホツカを信じるしかない。


坂道を登っていくと、遺跡のようなところへとたどり着く。ホツカいわくそこはアメジの世界リスタルに存在するという【水晶神殿】に似ているらしい。

「アメジさんの物語はここから始まったんです」

ホツカは神殿の中に入っていく。師匠もそのあとに続く。神殿の中は無機質で、ただホツカの足音だけが響いている。風の音すら聞こえないし、あの怪物たちの耳障りな鳴き声すら届きはしない。不思議な空気に包まれているようで、ここにくればなんとかなる。そんな気がしていた。

なにもないぞ、と言いかけた師匠だが、神殿奥で眩い光に遭遇し、身構える。

『ホツカよ、気をつけろ』と警戒する師匠に反してホツカは…

「大丈夫です師匠。この水晶は、聖獣のもの…」

『聖獣??』

なんだ、それは?と師匠が問うたその時、眩い光の中からギャンギャンと甲高い独特の声とともに、謎の毛玉がぽーんと飛びだしてコロコロと勢いよくボールのように転がっていった。毛玉の登場で光は消失した。転がった毛玉は壁にぶつかり、「あだーっ、いたいたる!!」とブチキレ気味の悲鳴を上げていた。

「大丈夫? ケガはない?」

毛玉の元にホツカが駆け寄る。くるりと回転して毛玉は起き上がった。全身毛だらけで三角耳でくるっと巻いたしっぽ。逆三角のブルーの瞳にもちのような丸い顔の形。猫のような形状のしゃべる生き物だった。首には真っ赤なスカーフを巻いていた。「お前はなんたるか?」とホツカに対して吼える謎生物に、お前こそなんなんだ?と突っ込みたくなる師匠だったが、白カラスの自分が言える立場でもなかった。

「君が聖獣タルだね。今から僕のパートナーになってもらいたいんだ」

初対面の謎生物のことを知っていたホツカは友好的に手を差し伸べながらそう言った。聖獣タルと師匠はホツカの対応に「は?」と息を揃えたようにぽかーんとなるのだった。


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