ペリカンを倒したスズメたちは、テエンシャンを目指し、チャボ族の村近くの森を歩いていた。翼を手に入れたとはいえ、いきなり飛んでいくのはさすがに目立つ。できるだけ山に近づいて、その影に隠れながら飛んで行ったほうがいいだろうというわけだ。スズメにカラス、ハヤブサと、強引に仲間になったフラミンゴの四人旅。ハヤブサに熱い視線を送るフラミンゴに、敵意むき出しでスズメがつっかかる。
「ちょっとー、オバサン、ハヤブサさんに近づかないでよ!」
ハヤブサに飛びつきそうな勢いのフラミンゴから、ハヤブサをかばうように立ちふさがるスズメに、むきーーとこちらも敵意をむき出すフラミンゴ。そんな攻防をずっと繰り広げていたのだ。ハヤブサはなぜフラミンゴがここまで自分に好意的なのかわからず、困惑の苦笑を浮かべるだけだが。スズメにはわかっていた、なぜなら自分と同じだから。
「だいたいね、ハヤブサさんとあたしがいれば翼なんて敵じゃないんだから、オバサンはこなくていいのよ」
「はぁ? このガキ、翼の者の恐ろしさってのをわかってないみたいだね。この先あたしがいないと死ぬよ」
「翼は翼でも、ザコレベルの助っ人じゃーねー」
「なんだってー、このガキーー、殺す殺すぶっ殺してやるよーー」
大人気なく顔を真っ赤にして怒るフラミンゴをさらにあおるスズメ。
「ははーん、やれるものならやってみなよ」
「きぃーーー」
「お、おい」
今にも取っ組み合いをしそうな二人を止めるのは、黒い少年。二人の間に立ってなんとかなだめようとする。
「やめろよ二人とも、こんなところでケンカしている場合じゃないだろ?」
「そうだカラスの言うとおりだよ」
だらりと汗を浮かべつつ、ハヤブサがカラスに同意する。ぴたりと一瞬動きを止めたスズメとフラミンゴだが、次の瞬間「どがっ」二人に蹴飛ばされて涙目のカラスがいた。
「ボウヤはひっこんでな!」
「カラスには関係ないでしょ!」
どこまでも自分勝手な人たちだ。二人にゲシゲシと非道に蹴られて涙しているカラスに、ハヤブサも涙した。過熱する二人の乙女は誰にも止められないのか?
「そうだわ、ハヤブサ様に決めてもらいましょう。それなら文句ないだろ」
「そうね。どうせあたしを選ぶだろうけどね」
その自信はどこから来ているのか。終わることのない争いはハヤブサの答え次第で決着を向かえるだろう。その選択がハヤブサへと迫られる。
くるりとハヤブサへと向き、詰め寄りながら問いかけるスズメとフラミンゴ、鬼のような強いオーラを放つ二人からハヤブサも数歩後ずさる。
「ねぇハヤブサ様はどっちが好き?」
「あたしのほうが好きだよね?」
「えっ、ええっ」
「いいんだよこのさい本当のことを言って。こんなガキよりも、大人でセクシーな美脚美人のあたしでしょう?」
ずいずいとさらに迫り来るスズメとフラミンゴ。に恐怖すら感じるハヤブサ。
「なにいってんの、こんなケバイオバサンになんか興味ないわよ。ねっ、ハヤブサさん」
「ちょっちょっと待ってくれ! 私にそんな趣味はないぞ」
ばばっと両手を広げて二人の進軍を必死で食い止めながらハヤブサが叫んだ。ハヤブサの言葉に?と首を傾げるスズメとフラミンゴ。そのあと彼女らを石にさせるほどの衝撃発言が襲ったのだ。
「そーゆー趣味って?……まさか、ハヤブサさんって、男なのに男にしか興味もてない人ってんじゃ」
わなわなと震えだすスズメ。「ええっ」とフラミンゴ。「ちょっとまてー」とハヤブサ。
まさかまさかと思っていたが、スズメたちは自分の事をと…その不安が真実だと実感するハヤブサ。たしかに一度も自分は女だとは言ってなかった気がするが、そもそもいちいち言うことでもなかった気がするが、ずっと勘違いされていたのか?
「まさか私を男だと思っていたのか?」
「「ええーーー、女なのーー?」」
スズメとフラミンゴの声が重なり悲しい悲鳴となって森の中に木霊した。「ううやっぱり、男と思われていたのか」とハヤブサもショックを受けがくりとうな垂れる。そしてワンテンポ遅れてカラスが
「ええーー、ウソだろーー?」
とさらに追い討ちの悲鳴を上げた。ハヤブサはみんなから男だと思いこまれていたのだった。たしかにスリムな体型で、見た目も女っぽくないことから誤解されても仕方ないが、…それでもショックだ。
「もういいじゃないカラス。男装が似合うってことはステキってことでしょ」
落ち込むハヤブサにフォローのつもりなのかスズメの言葉はまたさらにハヤブサを落ち込ませた。
「別に男装しているわけじゃないんだけど……」
はじめはショックを受けていたスズメだが、今はもう受け入れたのかいつもの顔に戻っていた。うな垂れるハヤブサのそばで、今の気持ちを素直に伝える。
「ハヤブサさんが女だろうがあたしの中では変わらないよ」
スズメのその言葉にハヤブサは顔を起こす。
「スズメ…」
「あたしの愛は変わらないから!!」
「えっ…」
きゃらーんとキラキラ恋する乙女の瞳でそんなことを言われても、…ハヤブサはますます困るだけだった。
それに負けじとフラミンゴも立ち上がる。
「ふん、あたしだって、ハヤブサ様が男だから好きになったんじゃなくて、ハヤブサ様だから惚れたんだよ、だから女だろうが関係ないね!」
「むっきーーー」
またにらみ合うスズメとフラミンゴ、ハヤブサが女だとわかっても変わらない。またふりだしに戻っただけだ。
「はー、…もう好きにして」
がっくりと、この二人にはなにを言ってもムダと判断し、ハヤブサはすべてを諦めた。

「ところで、俺は下で待ってたほうがいいのかな? 飛べないし」
山肌が見える場所まで移動してきた時、カラスが問いかけた。カラスだけは翼が無いから、テエンシャンを登ることができない。スズメたちがライチョウに会ってくるまで、ひとりここで留守番かもと思っていたが。
「だいじょうぶ。あたしの背中に乗っていけばいいのよ」
と自信満々にスズメの提案。
「でもいいのか? 本当に」
「平気平気。翼の力で体力も上がっているし、カラス一人乗せられるよ」
「悪いな、じゃあ…」
翼を広げたスズメの背中にカラスはつかまる。自分よりも小さいスズメの背中だが、翼の力かのっかかってもびくともしなかった。さすが翼の力だなぁ、とカラスは感心する。
「このあたりに翼の者はいないみたいだ。できるだけ山に近づいて飛ぼう」
ハヤブサが翼を広げ、木々の間を縫ってテエンシャンへと近づきながら低空飛行する。フラミンゴ、そしてカラスを背負ったスズメが後に続く。
目の前には巨大な岩の壁、それがテエンシャン、聖なる山と呼ばれる聖人ライチョウのいる場所。この世界でもっとも高い山と言われ、テエンシャンはもっとも天に近い場所と呼ばれる。
テエンシャンは草木の生えない岩と土だけの山だ。斜面の角度はほぼ直角で、普通に登ることは困難だ。翼がなくては登れない。ところどころごつごつと岩が張り出し、殺風景な山に影をつけている。どこまで続くのか、ここからは頂上は見えない、その山を這うように飛びながらライチョウがいるという頂上付近を目指す。
「この先にライチョウ様が…」
もうすぐライチョウに会える。憧れた聖人ライチョウに。スズメの心音は高鳴っていく。


「こちら異常なしです」
テエンシャンの中腹の岩肌の上に腰掛けた恰幅のいい中年男のもとに、紺色の翼の少女がパトロールの現状を報告する。彼らはここテエンシャンの監視をしている翼の部隊。リーダーはオオハシの部下であるガチョウという男だ。つるりとはげあがった丸い頭に、大きな体、四角い顔には小さな丸い目で穏やかそうな人のよさそうな顔つきをしていた。そのガチョウのもとにいる少女は、先日ケツァールの城から派遣された三つ子の三姉妹、ウミウとカワウとヒメウだ。今ガチョウのもとに戻ったのはショートボブのウミウ。三人ともそっくりな顔つきだが、髪型と髪飾りに違いを持たせわかるようにしている。しかしそれ以外はほとんど同じといっていい、髪の色も衣装も翼の色もそっくりだった。双子で同じ顔のハヤブサとタカ以上にこの三人は見分けがつきにくいだろう。だがこの三人はとても仲がよかった。
パトロールに向っていた少女たちが次々にガチョウのもとに戻ってきた。
「こちらも異常なしですわ」
毛先が軽くカールしている少女カワウが異常なしと戻る。それから数分もしないうちに最後の一人毛先を切りそろえた髪型のヒメウが戻る。ヒメウだけは異常を発見したらしく、それを伝える。
「怪しい翼が三体、こちらへと向ってきます」
ヒメウの報告に特に驚くわけでもなく「ふむ」とガチョウは呼吸のような声を出して、ゆっくりと腰を起こす。
「お前たち、歓迎してあげなさい」


進路の先、飛びながら危険な存在をスズメたちは感じとった。
「なに、なにかいる」
「この先にサイチョウ様の使いのものが待ち受けているんだわ」
フラミンゴが叫んだ。すぐにその使いの者の影がはっきりと見えてくる。黒っぽい三つの翼。進路を阻むように待ち受けていた。
「はぁーい、こんにちはー」
待ち構えていたのはそっくりな顔つきの三人の少女、見た目はスズメと同じ年頃のように見える。人懐っこそうに突然そう挨拶をしてきた彼女らに、「え?」とスズメたちは驚きつつ目の前の少女たちを見る。
「だ、だれ?」
ぽかんとなるスズメに、スマイルで少女は自己紹介を始める。
「私たち仲良しウ姉妹のウミウ」「カワウ」「ヒメウです」
「悪いけど、あなたたちをここから先に進ませるわけにはいかないんですの、ねーガチョウ様」
カワウはそう言って、くるりと少し自分より高い位置にいるガチョウへと振り返る。ガチョウは岩の上に立っていた。
「な、だれ? あのオッサン」「ガチョウ!」
こちらへ視線を向けたガチョウは、己の名を呼んだその人物に覚えがあった。穏やかな顔のまま「おやあなたはハヤブサさん」とハヤブサに声をかける。
ウ姉妹も「あっ、ハヤブサ様だわ」と驚きの声を上げた。ハヤブサと彼らは顔見知りのようだった。
「ハヤブサさん、生きていたんですね。消息不明と聞いていたのですが、やはり、そういうことだったのですね」
なにかワケを知ってそうな口ぶりのガチョウは、ハヤブサを見て残念そうなため息をついた。なぜこのおっさんとハヤブサが知り合いなのか混乱するスズメ。
「どういうこと、ハヤブサさん知り合いなの?」
スズメの問いかけに答えたのは、ハヤブサではなくガチョウ。
「どこで考えを誤ったのでしょうね? あなたのお兄さん方は一生サイチョウ様についていくというのに。…それなのにあなたは裏切ったりして」
「ええっ、ハヤブサ様って裏切り者だったの?」
ガーンとショックをうけるフラミンゴ。スズメも「裏切りって、じゃあハヤブサさんはサイチョウの?」信じられない気持ちでスズメはハヤブサを見た。ハヤブサはスズメを見ることなく、厳しい顔つきのままガチョウを睨みつけていた。
「過去の話だ。今私が一番信じているのは、ライチョウ様だ」
「ハヤブサワケありぽかったけど、サイチョウのもとにいた翼だったんだな」
スズメの背にいるカラスがつぶやく。
「そうですか。でもそういうわけにはいかないのですよね。あなたたちをこの上にいかせるわけにはいかないんですよ、サイチョウ様の命令でね」
ふう、と穏やかな表情を崩すことなくガチョウがゆっくりと告げる。下方にいるウ姉妹に。
「と、言うわけですから。…ウミウ、カワウ、ヒメウ、やってしまいなさい」
びしっと標的に向えと指を指してガチョウが命じる。
「「「はーい」」」
姉妹の声が重なり、三つの翼がスズメたちへと向ってきた。
やっぱりそうくるかと、覚悟していたスズメはすぐに近くの岩のでっぱりにカラスをおろす。
「スズメ!」
「カラスはそこでまってて、すぐにやっつけるから」
翼を得て、さらに闘志を燃やすスズメ。スズメの前にはウミウが立つ。
「へぇー、ずいぶん元気なおチビちゃんだこと」
自分と歳も変わらない少女に「おチビ」呼ばわりされて、スズメはムカッとなる。
「だれがチビよ!!」
吼えるスズメにくすくすと楽しそうに笑うウミウ。確実に見下されている。
「いいわ、あなたの相手私がしてあげる」
びっとスズメをさして標的であることを明らかにするウミウ。ウミウのそれを聞いたカワウは「なら、私のお相手はハヤブサ様ね」ハヤブサと対峙するカワウの前に、横入りするのはピンクの翼のフラミンゴ。
「ちょーっと待った! ハヤブサ様の前にこのフラミンゴ様が相手だよ、ガキんちょ」
「ふーん」
血気盛んなフラミンゴとは対照的に、姉妹は冷めた目でフラミンゴを見た。まるで…なんとかを見るような目だ。
「きぃーーバカにするんじゃないよー、くらいなーー」
フラミンゴは羽ばたきながら、カワウ目掛けてとび蹴りをかます。が、「ふーん」とあっさりとかわされて、その先にいたヒメウが突撃してきた。
「ばっっ、よけんな」
「おばさんウザーイ、消えて」「ぎゃっ」
ヒメウの攻撃で、フラミンゴはあっさりと負けてしまい、無意識に閉じてしまった翼のせいで、そのまま落下する。
「フラミンゴーー!」
落ちていくフラミンゴ、カラスが叫ぶがその声で目覚める気配はない。スズメはウミウが、ハヤブサにはカワウが相手になり、フラミンゴを助けられそうになかった。カラスがいるスペースは1,5メートル範囲の狭い場所。翼のないカラスはそこから身動きできなかった。
「あの黒いのうるさいわねー」
ぼやくウミウに、「んじゃちょっと黙らせてくるねー」とヒメウが叫ぶカラスのほうへと飛んでいく。
「ちょっと、カラス!」
ヒメウの動きに気づいたスズメがそちらにと意識を向けたとき、ウミウに背を向けてしまった。すかさずウミウの放った激を背中に受ける。
「ねぇねぇ、あなた翼ないのー?」
カラスの目の前まできたヒメウは羽ばたきながらカラスをじろじろと見ている。じりと後ずさるカラスだが、もう後ろには逃げられない。ここで襲われたら、一巻の終わりだろう。じわりと額にいやな汗が浮く。フラミンゴのことも心配だが、己の身も危険だった。
「ふぅーん」
にやにやと笑顔のまま近づくヒメウが逆に不気味すぎた。一体何をするつもりだ。目の前の少女から一時も目が離せない。
距離はもう、息がかかりそうなほど近くにあった。そしてヒメウがとった行動は……
「ちゅっ」
「? え、な、ななな」
一瞬なにが起こったのかわからなかった。目の前までヒメウが近づいて、そして、おでこに触れた。なにが?
「おでこに?」
赤くなって動揺するカラスはついさっき触れられた額の中央部分を思わず手で押さえた。その様子を見たヒメウは楽しそうに「くすり」と笑みを零している。確実にからかわれている。無邪気な笑顔の少女は、次の瞬間悪魔の笑顔に変わる。
「ばいばいv」
ドン。体を押された。少しだけ押されたが、それで十分だった。カラスを消すには。
「えっ…、うそだろ」
ぶわりと体が舞った。だんだんとヒメウが遠ざかる。いや遠くなっているのは自分が動いているからだ。ヒメウだけじゃない。スズメたちの姿もだんだんと遠くなっていく。
「俺が落ちているんだ」
気づいた時はもう遅い。カラスは落下していた。翼のないカラスは、ただ落ちていくしかなかった。不思議と景色がゆっくりに映った。かなりのスピードで落ちているはずなのに。カラスの目にはスローな世界に映る。
極限かな?
そんなことをふと感じていた。落ちながら感じていたのは、死ぬという不安よりも、別の想いがあった。
「ヤバイ、俺こんなとこで死んじゃだめだ。クジャク様に誓ったのに」
スズメを守るって。
なぜだろう、その想いはクジャクに誓ったからではなくて、もっと奥深くのなにかに、誓った気がする。なんだろう、カラスは考えていた。
フラッシュのようにカナリアの顔が浮かぶ。
「なんだろう、俺…」
意識が飛びそうな世界。暗い世界に浸りそうになったカラスの視界に、自分の先に落ちていくフラミンゴが映った。とっさに手を伸ばすが、届くわけがない。このまま自分より先に、フラミンゴが落ちる。意識を失ったまま、この高さで、激突すれば確実に死が待っている。
「俺が助けなくちゃ」
強い使命があった。
「フラミンゴ!」
縮まらない距離、落ちてく先には木々の緑色が目前だった。
「くそっ」
限界に歯噛みして、諦めたくない想いはカラスの奥で眠っていた力を呼び出す。体の奥から熱く湧き上がってくるそれが、己の中で眠っていた力。
カラスの背から真っ黒な翼が現れる。カラスはそれを確認することなく、目は落ちていくフラミンゴを捉えていた。翼の扱いなど考えもせず、ただ本能のままに体を走らせていた。目の前に凶器のように襲ってくる木々の幹を運良くかわしながら、フラミンゴへの距離をつめる。ギリギリ、地面まで一メートルもないかという距離で、やっとカラスはフラミンゴを捕まえた。激突は免れたが、フラミンゴを抱えた瞬間力が抜け、地面にどさっと落ちてしまった。
「うげっ」
衝撃でフラミンゴが目を覚ます。フラミンゴは自分が落下したことよりも、目の前の見たこともない翼に目をパチパチしていた。
「クロボウズ? アンタいつの間に翼を……?」
驚くフラミンゴに、カラスは「あはは」と苦笑いで返す。
「自分でもよくわかんないんだけどさ、フラミンゴを助けなきゃと思ってたら、いつのまにかっていう」
「ばっかじゃないのか? アンタ死んだかもしれないっていうのにさ。あたしなんかの為に…」
「俺も運悪く落ちただけだし。まあでもさ、結果的に助かってよかったじゃないか」
「のん気なこと言ってんじゃないよ。はぁー、まあバカなのはアンタだけじゃないよ。あたしだって、ハヤブサ様の力になるって誓ったっていうのに、速攻でやられちまって……」
がくりとうな垂れるフラミンゴの肩をカラスが叩いて顔を起こさせる。
「そう思うなら、早く助けにいこう。あっちは四人で、スズメたちは二人だけなんだから、少しでも力になれるなら向わなくちゃ」


「ちょっと、邪魔しないでよ! カラスがっ」
森の中に落ちたカラスのもとへと向いたいスズメを、ウミウとヒメウが妨害する。
「もう諦めたら? おチビちゃん。あの黒いのもうどうせ死んじゃったと思うし」
恐ろしいセリフとは対照的に、にっこりと無邪気に微笑むウミウ。二人に挟まれて身動きできないスズメは、カラスのもとへはもちろん、数メートル先のハヤブサの側にもいけない。
ハヤブサに対峙するはカワウ。ハヤブサの攻撃を身軽にかわしつつ、くるくると体を回転させながらカワウの攻撃。
「レンゲの舞」
遠い昔、この世界にあったという花をイメージした技らしいが。カワウの技を受けたハヤブサを心配するスズメにも、ウ姉妹の技が襲い掛かる。
「チューリップの舞」
縦に腕を振りながら、ウミウの攻撃がスズメを襲う。
「ぎゃっ、ちょっなにすんのよ!」
もろに受けたわりにぴんぴんしているスズメ、ウミウたちはぎょっとなるが、すぐに持ち直し、今度はヒメウがスズメへと襲い掛かる。
「これでもくらいなさい!」
「ちょーしにのってんじゃないよ! このガキがーー」
「きゃん!」
謎の声の主によってヒメウは飛ばされ、岩壁にと激突した。ヒメウの攻撃がスズメに届くことはなかった,その者のおかげで。
「ふん、なめるんじゃないよ、この愛の翼フラミンゴ様をね」
腰に手をついて、偉そうに現れたのはフラミンゴと、翼を携えたカラスだ。
「フラミンゴ、え、カラス!?」
スズメが驚きの顔でカラスの背中のものを指差した。カラスに翼がある。漆黒の翼がその背で揺れていた。
ハヤブサも二人に気づく。
「フラミンゴ、カラス、無事だったんだな」
「ええ、このフラミンゴ、ハヤブサ様の愛によって何度でも蘇ることができるのよ」
キラキラ乙女アイズでそう言われても、ハヤブサは苦い笑いを浮かべるしかないが、二人の無事は素直に嬉しい。
そしてカラスも翼を得た。こちらも翼が四人になったのだ。それは心強い事実。
「ヒメウっ、くっっ」
ウミウにスズメとカラスが、カワウにはハヤブサとフラミンゴがぶつかっていく。
勢いが逆転し、姉妹はあっという間に敗北へと追い込まれた。
「ぶりぶりな技であたしたちが倒せると思って? ねー、ハヤブサさん!」
びっと親指を立てて、自信満々に勝利ポーズのスズメ。ハヤブサもフラミンゴもみんな完全勝者の表情を浮かべていた。
息を荒くしていた姉妹は、余裕がない状態に見えたが、三人ともなぜか笑顔をみせていた。その顔は敗者には思えない。
「やっぱり、本気でいかなきゃだめみたいね」
にやりと笑みながらウミウのその声に「あれね、ウミウ」とカワウ。「一泡ふかせてあげようかしら」とヒメウが不敵に笑う。
くるりと背後へと振り返ったウミウは何かを呼んだ。
「ウミアイサ、カワアイサ、ミコアイサ」
「!?な…」
スズメたちが驚いたのは、ウミウたちの背後から現れた新たな三つの影。それはウミウたちのようにそっくりな顔をした三人の少年の翼の者。ウミウたちによく似た顔立ちから彼女らの弟だと推測できる。
「三つ子? 翼が六つも?!」
突然現れた三人の少年の翼。ウミウたちを含め向こうは翼が六人だ。だが、驚かされたのはそれだけではなかった。ウミウたち姉妹がそれぞれの弟達の名前を呼ぶ。
「カワアイサ!」「ハイ、姉上」
「ウミアイサ!」「ハイ、姉上」
「ミコアイサ!」「ハイ、姉上」
ウミウがカワアイサを、カワウがウミアイサを、ヒメウがミコアイサを呼び、弟達がそれに答える。すでに混乱しそうな状況だが、彼らの行動がさらにスズメたちを混乱させる。
それぞれの姉の元まで飛んでいった弟達は、姉と密着したかと思うと、その体は吸い込まれるように消えていった。弟が消えたかと思うと、姉たちの姿が少し変化していたのだ。変化は髪形と服装が少しだけ変わっていたが、もっともたるのはその背中の翼が二つになっていたことだ。
合体。
このウミウたち姉妹とその弟アイサたちのみが可能な特殊な技。体と翼を共有することでさらなる力を得る。
ウミウたちは最初からそのつもりでいたのだろう。彼女たちが押されていた時でも、ガチョウはまったく動じる気配もなかったのだ。最初から彼女たちの合体を待っていたのだろう。
合体後新たな翼となってスズメたちの前にと立ちはだかるウミウ、カワウ、ヒメウ。
スズメたちは彼女たちを、そしてガチョウを倒し、ライチョウへとたどり着けるのだろうか。
第二ラウンドの幕が開ける。


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