灰色の雲に覆われるチョモランマ上空。ゴロゴロと不気味な音がその上で鳴り響いている。
時は近い。
母なる神が目覚め、暴れ狂うその時が……。
大地のへそチョモランマ、今ここにサイチョウの元に集いし翼の勢力が陣をはる。
鳥神と戦う、その時はもう目の前に迫っている。
だが、その前に、行く手を阻むライチョウの信徒を殲滅しなければならない。
すでにその準備は整えられていた。ヨタカがしくじったことはすでにブッポウソウのしるところとなっていた。
ひとり、通路でブッポウソウは怒りに震えていた。バードストーンを手に、そして、わっか型の鉄器を肩に通すと、不気味に眼鏡を光らせて、通路を進んでいく。
サイチョウは命じた。バードストーンを使えと。すべての力を駆使して奴らを排除せよと。
希望に満ちた眼差しはどこにもなかった。
翼の者たち…、彼らにはあとがない。鬼気迫った空気が彼らをとりまいていた。
オオハシの元で修行をつんだダチョウ。短期間とはいえ、寝る間も惜しんで修行に励んだダチョウはみるみる成長した。贅沢を言えば、もっと時間と余裕がほしかったところだが、最近翼を得たばかりのダチョウだ、仕方がなかったといえよう。ダチョウの成長に関してはオオハシは満足していた。意気揚々と駆けていく甥の背中を見送りながら、思い出すのは、別の顔だった。
ふっと前方に緑色の美しい羽がゆっくりと揺れながら落ちていく。反射的にオオハシはそれを掴んでいた。
掌に掴んだそれは、見覚えのある羽。
バッと見上げるが、周囲にはなにもいない。気のせいだろうか。たしかに手の中には羽はあるのに。気配はまったく感じなかった。
幻も見えるとはな。
心の中でオオハシは笑う。遠い昔に離れたはずのその人をなぜ今見たのだろうかと。
最後に見たのはあの城でか……。会いたくないと、顔も見たくないと、激しい感情で拒絶していた彼女を思い出す。出会った頃はあんなにも強く互いを想いあっていたのに、あの日から彼女は強い憎しみをぶつけてくるようになった。後悔などない、あの頃に戻りたいとも思わない。それなのに、なぜ思い出すのだろうか。
「ふっ」
小さく笑みがこぼれる。
それも含めて彼女だった。激情家で、美しく気高く、厳しく孤高に生きようとした彼女を越える女はこの先も出会えないだろう、それだけは強く感じる。
もう二度と会うことはないだろうが…、そっと目を伏せて、オオハシは決戦の場へと向かう。



ワシと合流を果たしたスズメたち。岩陰に身を潜めながら少しずつ進んでいく。
空が唸り声を上げている。まるでこの世界のすべてに怒っているかのような、鳥神の心そのもののように。
ワシが所持していたバードストーンは、光の翼であるスズメに渡された。
「バードストーン…」
手の中に大事そうに抱えながら、スズメはカラスを見上げる。
「バードストーンには、遠い昔、鳥神が籠めた想いが籠められているんだ」
カラスはそう語り始める。
「みんなはそれを忘れてしまった。だからバードストーンを使ってはいけないんだ。使うものじゃない」
カラスのそれにスズメは「え?」と驚いた目を向ける。
「バードストーンは光の翼が使うものじゃないの?」
バードストーンを持つスズメの手を、ぎゅっと握り締めながらカラスは首を振る。
「じきにスズメも気づくよ。母のもとに帰るその時に」
「え?」
「それまで、大事に持っててくれよ」
カラスの言う事すべてを理解したわけではないが、スズメはなにより信頼するこの少年の優しい声に、きゅっと唇を結びながら頷く。
「それから、ライチョウ様から託された壷だな」
ハヤブサがそういい、その手に大事そうに壷を抱えている。
「うん、そうだね。そういえば、どこでこの壷回収するんだろう?」
「それ、不思議な壷ね。バードストーンでできているのね」
壷を目で指しながら、ヨタカ。ヨタカもまた壷に想いをこめたのだが。一体この壷でなにをするつもりなのだろうか? 当のライチョウでないとわからないだろう。
「バードストーンもだけど、壷も大事に持っておかないとな。きっとこの壷には大きな意味があると思うんだ。なぁ兄さん」
くいっと首を傾けて、ハヤブサがワシを仰ぐ。
「ああそうだな。ライチョウ様のことだ、考えがあるのだろう。この壷もまた世界を救う力になるはずだ」
「その前に…」
スズメが前にと歩き出す。その目はもうすぐそばまでと迫ってくるような山の城チョモランマへと向けられる。
「サイチョウたちを…倒さなくちゃ」
行こうみんな!拳を掲げて、スズメたちはいよいよ決戦の場、チョモランマへと向かう。
「ブッポウソウには気をつけて。彼は…私と同じ変化の能力を使うわ。絶対に油断しないで」
と注意を促すヨタカ。こうしてヨタカが味方になってくれたことは心強いが、敵は翼の勢力の本拠地チョモランマ。そこにはまだ大勢の翼が控えている。さらに、翼の勢力ではナンバーツーでもあるブッポウソウとオオハシ、そして彼らの親玉であるサイチョウが待ち構えているのだ。総力戦になる。翼の勢力との最後の戦いになるだろう。またあちらも、ライチョウ勢との戦いは最後のつもりでいるはずに違いない。鳥神の復活も近い今、彼らにも時間はないのだから。
世界を救う、目的は同じなのに、道は違えた。ゆえにこうして、つぶし合うことになってしまった。
それはとても悲しい事だ。敵同士戦いの道しかないのか? 分かち合う事もできたではないか、ヨタカしかり、ベニヒワたちや、コンドルらとも…。

「うん、ありがとうヨタカ。ヨタカが一緒に来てくれてほんとに心強いよ。ブッポウソウのこと、救えるようにあたしもがんばるよ」
「…ありがとう」
スズメにヨタカは少しだけ微笑んで、感謝を伝えた。
ブッポウソウを…兄を救いたい、それがヨタカの願いだから。
敵だから戦う、だけど、救うことだって、わかちあうことだって、できるのだから、諦めたくはない。スズメはそう思う。
ヨタカはブッポウソウを、タカはダチョウを、敵だけど、想う気持ちがあれば……。

スズメたちの頭上が暗くなる。曇り空だからではなく、影を落とすそれは多数の翼の者。もうここは敵の本拠地、翼勢力との最後の戦いの幕が上がる。
岩山から次々に降って襲い来る翼の者へと、スズメたちも反撃する。カラスはフクロウを守りながら、周囲を見る目の役割をする。
スズメ、ハヤブサ、ワシ、タカ、ヨタカが次々に襲い来る翼の者たちを迎え撃ち、道を切り開く。
「ハーッ!」
光化しスズメがまっさきに道を進む。岩陰を縫いながら進んだ先には殺風景な荒れた大地の広場が広がり、その奥にそびえ立つチョモランマの城。どす黒い空に雷の光が不気味に色を添えている。
不気味な風景はそれだけではない。
城の窓から次々に飛立ってくる翼。その中には見たことのある顔もいる。
ダチョウに、ウ姉妹とアイサたち兄弟、スズメらが始めてみる顔はオオハシとブッポウソウだ。
スズメはブッポウソウを知らないが、眼鏡をかけた厚着で細身にも思えるその青年がブッポウソウなのだと思った。ヨタカに似た美しい顔立ち、先の尖った耳を見てそう察知した。またヨタカの目も彼へと向けられている。
「ダチョウ!」
ダチョウを見てタカが声を上げる。
「ヒメウ…、ミコアイサ…」
ヒメウとミコアイサを見てカラスが悲しげにつぶやく。
「兄さん…」
ヨタカも切なげな声をもらす。ヨタカとは対照的に、ブッポウソウはキツイ視線を向けていた。その目には怒りの感情が溢れている。
「この裏切り者がっ」
「違うわ、私はあなたを、そしてサイチョウ様を救いたいだけ…、お願い、一緒にサイチョウ様をとめにいきましょう」
「ムリだ、とても聞いてくれる空気にない」
ワシがそう言う。たしかにそんな空気だ。戦うしか道はない。力ずくでここを突破するしかないのだろう。
「戦うしかないぞ! ヨタカ」
ハヤブサにちらりと顔を向けてから、再び上へと視線を向けるヨタカ。
「そうね、戦ってでも、とめてみせるわ、兄さんを!」
翼を広げてヨタカはブッポウソウへと。
「ダチョウーー!」
タカも翼を広げ、ライバルダチョウへと向かう。迎え撃つダチョウは、自慢げに翼を揺らしながらタカへと飛んでいく。
「翼を得た俺はお前の相手じゃねぇ! タカァッ」
ゴッ…激しくぶつかり合う音が響き、そらに次々に他の翼の者たちが襲ってくる。
「スズメ!」
カラスが光り輝き、それに同調するようにスズメも光の翼になって空に舞う。
「あたしはみんなの想いを叶えたい! みんなを守りたい! 戦いだってこれが最後にするんだから!」
敵陣の真ん中でスズメの背から広がる光が当たりを包み、翼の者たちの多くが戦闘の翼を封じられ、次々に戦線離脱した。
「くっ、またあのおチビちゃんね、いくわよ、みんな」
腕や翼で眩い光から身を守りながら、ウミウが光の中のスズメへと突撃に向かう。彼女に続いてカワウ、ヒメウ、カワアイサ、ウミアイサ、ミコアイサも飛び込む。
「あたしたちの真の力をみせるわよ! バードストーン、あたしたちに力を!
究極合体!!」
六人がそれぞれにバードストーンを掲げた。さらに六方からぶつかり合うようになってその体はひとつに解け合う。バードストーンはそれぞれの翼に埋まり、輝く。
「!究極合体だと!? スズメ逃げろ!」
異常を感知したハヤブサが、スズメを守ろうと彼女の援護に向かう。眩い光の空域の中、スズメに向かう一つの黒く不気味な固まり…、ハヤブサは追いついて、盾になるようにスズメの脇に立つ。こちらへと向かってくる黒い塊は、ウ姉妹たち六人の究極合体の姿。姿はウ姉妹の外見で、だがその背には両に三ずつ、計六つの翼があり、それぞれにバードストーンが埋め込まれている。六人は一つになっていた。
「なっっ!」
「邪魔をしないでハヤブサさまぁっっ」
黒い突撃を受けてハヤブサははるか下にたたきつけられる。
「ハヤブサ! 大丈夫か?」
ワシが駆け寄り、痛みに呻くハヤブサを抱き起こす。
「大丈夫だ、それよりもスズメが危ない!」
ハヤブサが危惧するのは、彼女らの合体技。テエンシャンに向かう時にウ姉妹と戦った事はよく覚えている。あの時、ウ姉妹たちとアイサたちそれぞれが二人ずつ合体して、脅威の翼へと変貌し、苦戦をしいられた。
その合体が六人で一人に、さらにバードストーン六つの力も得ている。あの時の比ではないだろう、その力は。
ウ姉妹とアイサたちの究極合体ウアイサがスズメへと襲い掛かる。
「! きゃっ、あなたたちその姿は!?」
光を放ちながら、スズメはとっさに身をかわす。目の前に不気味な六枚の異形の翼をゆらすのは、ウ姉妹のなごりをかすかに留めた見たこともない翼の少女。それぞれの翼に埋まり光るバードストーンを見て、スズメもそれがバードストーンを使ったための光景だとわかった。そして合体、初めて見る六人合体の姿に驚愕した。
「合体?」
「そうよ、究極合体、やっと完成したわ、これが私たちの真の強さ。強い絆によって、私たちは最強の翼になった。おチビちゃん、あなたが光の翼だろうが、私たちの敵じゃない!」
「くっ」
激しい気を放ちながらウアイサがスズメへとかかる。すさまじい気迫にスズメも押され、しのぐことでせいいっぱいだった。カラスとスズメの浄化の光はウアイサには効かない。いや彼女たちだけではなかった。浄化の光を浴びても戦いの気を放ち続ける翼はまだいた。
ダチョウ、オオハシ、ブッポウソウ。光の翼の力では彼らを倒す事も、救う事もできないのか?
「いかなければ!」
飛立とうとするハヤブサの横に光化をといたカラスが並ぶ。ハヤブサが驚いてカラスを見やる。
「俺もいくよ、あの子らを止めたい。ヒメウとミコアイサ、二人なら俺の話を聞いてくれるかもしれない」
光の力では彼等を止められない。だが、心を通い合わせることでなら、道は切り開けるかもしれないとカラスは思った。
「俺の翼には戦闘力がないから、悪いけどハヤブサ力になって欲しい」
「ああ当然だ! 行くぞカラス」
飛立つハヤブサを心配に見守るワシ、ワシも援護に向かいたいがフクロウを守らねばならぬし、下手に動き回れなかった。
そんなワシの心情を察してか知らずかフクロウはこう言い出す。
「ワシさん、フクロウもスズメちゃんのとこにいく」
「だめだ! 君は安全なところに隠れているんだ」
わがままを言うフクロウを抱きかかえて、ワシは彼女を安全な後方の岩陰へと連れて行く。じたばたと暴れるが仕方ない。
が、岩陰に来たところで、後方から翼が数人現れたため、ワシは身構える。
「うっわーい」
と両手を挙げて陽気にそのほうへと走っていくフクロウにワシは慌てた。
「あら、フクロウ?」
「相変わらずノーテンキながきんちょだねぇ」
フクロウにそう声をかける新手の翼。その声にワシも覚えがあった。知っている者たちだ。翼の者たちもフクロウからワシへと目線をうつした。
「ハヤブサ様のお兄様だわ! お久しぶりですフラミンゴです!」
きゃっと声を上げる桃色の翼が印象的なフラミンゴ、彼女と一緒にいるのはポニーテールが元気に揺れる少女ツバメ。さらに…優雅な翼にケツァールとはまた違った美貌の女性…女皇クジャク。
「時間がありません、急ぎましょうスズメたちのもとに」
凛としたクジャクの声に、みな力強く頷き、戦場へと向かった。


「スズメ!」
スズメの援護にきたハヤブサとカラス。ウアイサを挟む形だが、ウアイサの巨大な翼に気圧されて、うかつに近付けない。血走る目、脈打つ異形の翼、バードストーンのこれ以上の使用は姉妹たちの命にもかかわってくる。長期戦は互いにさけたい。それぞれの顔に焦りが浮く。
「スズメ、光化をといてくれ。力を温存するんだ」
「カラス? でも、それじゃあいっきに負けちゃうよ! それよりももっと力を使って」
「ムリだ。俺たち二人の光の力でも浄化しきれない。彼女たちの合体をまず解くんだ。力が強大すぎる」
究極合体とバードストーン、カラスの判断では現状の光の力では太刀打ちできないらしい。ここで全力使い切るのは得策ではない。まだサイチョウも控えているのだから。
「わ、わかった」
スズメは光化を解き、通常の翼になる。
「バカね。それで私たちに対抗できると思っているの? おばかね、おチビちゃん」
「合体を解いて! あなたたちの翼から今もバードストーンが力を奪っている。これ以上力を使えば、鳥神に吸収されてしまう。合体を解いてくれたら、あたしたちがあなたたちをバードストーンから解放してあげるから」
「サイチョウ様はおっしゃった。バードストーンを使えと、命をかけて戦えと」
ウアイサの言葉にスズメたちは「えっ」と目を見開く。
「それは君たちに犠牲になれと言ったのか!? サイチョウは」
驚きと同時に怒りの眼差しでハヤブサはウアイサに問いかける。
「サイチョウ様の命令は絶対よ! そしてそれが世界を救う道に繋がるのなら、あたしたちは怖くない。あたしたちはずっと六人一緒だから、戦うのも死ぬのも、一緒だから怖い事なんてないの!」
「そんなウソだよ」
「ウソじゃない!」
六つの黒い翼が巻き起こす黒い竜巻にスズメたち三人は飲まれる。
黒い風の中ハヤブサはスズメの手を掴んで必死に耐える。カラスは竜巻の中心にいる主を目指し手を伸ばす。
「く、くるしい…、だけど俺よりももっと苦しいはずだ」
手は届かない、激しい風撃に腕を折られそうだ。あの日、強い風の中でミコアイサの手をとった。
ヒメウとミコアイサ、敵同士でなければ友達になれたかもしれない。あの時の自分の想いは二人に通じたと思いたい。カラスは二人の名を呼ぶ。
「ヒメウーー! ミコアイサーー!」
風の音にかき消されるが、それでも喉を震わせて二人の名を呼び続ける。
「カラスさん?」
ウアイサの中のミコアイサが動揺する。ウアイサの体がわずかにぶれる。
「だめよ、ミコアイサ心を乱さないで!一つにして」
究極合体は精神集中を続けなければならない。バードストーンによっての強化はさらにそれを不安定な状態にしているのだ。六人の心を一つにできるウ姉妹たちだからこそなしえた究極合体。が一瞬でもすきが生じればそれはあっけなく崩壊するだろう。ミコアイサの動揺は他の五人にも広がる。
「くうう」
黒い嵐は止み、その発生源だったウアイサが体を抱きながら震えている。
「ヒメウ!?」
カラスがすぐにウアイサに近づき腕を掴む。異形の翼はぶるぶると不気味に震えている。
「カラス? 私…」
横に向けた顔のウアイサのその声はヒメウの声だ。
切なさを帯びた瞳がかすかに震えながらカラスを見た。カラスにはそれがヒメウのSOSだと思った。あと少しだ。カラスは説得を試みる。
「合体を解いて! 俺は君たちを助けたい」
「私…ほんとは…」
救いを求めるようなウアイサの瞳は、すぐに強気なものにと豹変する。
「やめて! 惑わされないで! あたしたちのなすべきことはなに!? なんのためにここまできたの?!」
ヒメウの声をかき消したのはおそらくウミウ。うわあーーと怒声を上げながら黒い風がカラスやスズメたちをなぎ払う。バードストーンはずぶりと深く翼にめりこみ、どくんどくんと脈打ちながら不気味に翼が膨れ上がる。
「スズメ!カラス!」
その場にかけつけたツバメ、フラミンゴ、クジャク、ワシ、フクロウの目にスズメたちが黒い風にはじきとばされる光景が映った。その数秒もしないうちに、黒い風を纏いながらウアイサがこちらへと向かってくる。
「いけない!」
クジャクが翼を広げてみなを守ろうとするが、一瞬にして弾き飛ばされ、クジャクたちはかけつけて早々地面へと倒れこむ。かろうじて膝をついただけですんだワシだが、素早く上空へと移動したウアイサは再びこちらへと黒い風を纏い突撃してくる。フクロウを庇い、ワシは地面を滑る。一人残されたフクロウは逃げることなくウアイサへと強い眼差しで叫ぶ。
「やめてーーー!」
フクロウに向かいかけたウアイサの体が止まる。
「姉上…もう限界です」
アイサたちの悲しい声に、ウアイサは究極合体の限界を悟る。
「だめ、だめよ…がんばるの」
ウミウの声も力がなくなっていく。体が激しくぶれはじめ、究極合体が解けそうになる。
「くうっ、いまだスズメ」
なんとか身を立て直してカラスは光化し、スズメに同調を促すが、スズメたちの光の翼が力を発揮する前に、ウアイサの合体が解けたかと思うと、黒い風に巻かれながら六人の翼たちは空のほうへとなにかにひきつけられるようにして飛ばされていく。それはとても速く強い力によって。
「きゃーーーいやーーー」
バラバラになった六人が同時に空の彼方へと飛ばされて消えていった。黒く覆う雲が不気味に唸っていた。鳥神の腹のようにも映る。
「ヒメウ!」
叫んで手を伸ばしたところで掴める筈も、止められるはずもなく、飛ばされていくヒメウの悲痛な顔だけがカラスの目に届いた。
「だめだ間に合わなかった。ヒメウ、ミコアイサ…」
ウアイサが戦線離脱したとはいえ、まだ戦闘は終っていない。鉄の輪っかが宙を駆け回り、スズメたちを襲う。
「フン、役立たずばかりですね」
ハァハァと肩で息をするヨタカを冷たく見下ろしながらそう言い放つブッポウソウ、彼の放った鉄輪は円を描いてヨタカの右肩をかすめて持ち主の手に帰る。
「兄さん…お願い、聞いて」
「最大の役立たずはお前ですよ、ヨタカ、私の信頼を裏切るとは…」
静かな口調の中に怒りが見える。口元を震わせながら、ブッポウソウは不気味に笑った。


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