カッコウたち翼の勢力はフォンコン周辺の村落などから、バードストーンの捜索収集を続けていた。
暴力や破壊によっての活動であったが、バードストーンの収穫はほとんどなく、彼らがチョモランマに戻れるのはまだ先になりそうだ。というか、バードストーンをまだどこかに隠し持っている者がいるというのだろうか?そのほとんどをサイチョウたち翼の勢力が手に入れているというのに。
荒地の一角で、カッコウたち翼の少年たちは身を休めていた。チームでの活動をしてはいるが、みんなわりと自由に行動している。カッコウはこの少年チームのリーダーになっているが、たいしてリーダーらしいことはしていない。
「はー、たくよー、バードストーンは集まらねぇし、オオルリはどこいっちまったんだ?たく」
大好きなオオルリは少女チームのリーダーを務める。そのオオルリもあのワガママな性格のこと、ずいぶんと好き勝手に動いているらしい。ここ最近オオルリの行動が見えてこないカッコウは、オオルリのストーカーとしてやばい状況にあった。
「おい、オオルリはどこなんだよーー?」
「え、そんな知らないっすよ」
オオルリのことなどカッコウが知らないのに自分が知るわけないと、ミソサザイが慌てて答えた。
そんな中、バタバタと羽を鳴らせて、カッコウたちの前に飛んできたのは、また別の翼の少年キツツキ。
「カッコウさん、この先は結構ヤバイですよ」
「は? ヤバイってなにがだよ? 俺にとっちゃオオルリがどこにいったかわからない今がやべーんだよ!」
「そのオオルリさんももしかしたら関係しているかも…なんですけど」
それにカッコウ「なに!?」と目を見開いて飛びついてきた。
「このあたりって昔から翼差別が酷い地域らしいんですよ。旧ナイルルの一勢力らしいんですけど。武装した反翼団体っていう危険な奴らがいて、また活動を始めたらしいって話です。ナイルルの崩壊と、それから最近俺たちがフォンコンで暴れたことが原因になっているらしくって…」
「武装だと? 翼のない奴らが俺達翼の者に歯向かうって言うのか?」
「侮らないほうがいいですよ。連中は鉄器で武装しているんです」
鉄器は大国ナイルルで生まれたものだ。大地を整えたり、作物を刈り取ったり、調理や生活のために作られ使われてきたもの。しかし、それを武器にするという非道な考えを持つものもいる。翼なき者は翼の者に体では敵わない。だから武器を手に対抗するのだと。鉄器で武装するなど別に最近の話ではないのだが、基本的に暴力を嫌う翼なき者の中でも異色の存在と言える。そんな異色の存在が旧ナイルルには大勢いたのだ。ナイルルはすでにブッポウソウが落としたという話だが、反乱分子をすべてつぶしきってはいないのだろう。
「俺らの中にも襲われそうになった奴がいるんですよ。あいつら尋常じゃありませんよ。特にオオルリさんは…」
「オオルリがどうしたっていうんだよ?」
「オオルリさん特に暴れ回ったじゃないですか。それで、青い髪の青い翼の娘を見つけたら殺せみたいなこと言ってて、連中オオルリさんを目の敵にしていたようで。だから、やばいんじゃないかって…」
そのオオルリの居場所はどこだと暴れ狂うカッコウをなだめつつ、キツツキたちは少女チームのもとへと向う。
彼女たちも、危険な武装連中に何度か襲われたというが、特に被害はなかったという。そこにオオルリの姿はなかった。
「おい、オオルリはどこにいんだよ?!」
ぐわっと噛み付きそうな形相のカッコウに引きつつ、少女が答える。
「知らないわ。いつもふらっといなくなっちゃうから」
「ちゃんと見張っていろよくそがっっ!!ちっ」
「あっどこいくんすか?カッコウさん」
カッコウもカッコウで勝手な行動を始める。オオルリを探して翼を広げ、飛び回った。


フォンコンで生き別れた兄を一人探していたオオルリ。別の場所でオオルリは兄かも知れない人を見たという情報を得て、一人活動していた。
『青い髪の二十歳ぐらいの男』
情報はそれだけだったが、だめもとでも確かめねばとオオルリは動いた。かすかな望みであれ、すがりたい。オオルリにとっては大切なのは、唯一つ、生き別れた兄と再会すること。世界がどうなろうが二の次だ。だからこんな勝手な行動が出来るのだろう。
ワシへの想いも、彼と出会った時、優しい大好きな兄と面影が重なったから。サイチョウのとこにきて、初めて優しく声をかけてくれた人だったから。
しかし、そのワシも所詮他人、ハヤブサの兄なのだ。彼は自分よりもハヤブサを特別視する。それがイヤで仕方なかった。そのワシへの想いもあの街…フォンコンに捨ててきた。迷いはない、決意はした。だが、まだかすかにオオルリは迷いが残っていた。その一歩を、怖くて踏み出せなかった。…せめて、その勇気をと思い、兄を探すことに懸命になった。本来の目的であるバードストーンの捜索を忘れて。

ごつごつとした荒野を歩いていくと、情報提供してくれた男の話どおりの背格好の男を見つけた。青い髪、自分の青い髪ととてもよく似ている。歳も、そのくらいに見える。
「お兄ちゃん?」
オオルリが呼びかけると、青い髪の男はぴたりと立ちどまる。
駆け寄ると、青い髪の男は頭に手をやり、ガシガシと乱暴に髪を掻いた。パラパラと髪から青い粉が飛んでいく。
「!な…」
男の髪を掻いた手には青い染料がついていた。偽物青い髪。振り返る男は不気味な笑みを浮かべていた。どう見てもオオルリの兄ではない。
「ひゃっはっはっ、マジで騙されてくれるとはな」
周囲の岩陰から、数人の男たちがオオルリを囲む配置で現れた。待ち伏せだ。騙されておびき出されたのだとオオルリもすぐに気づいた。
男たちの手にはギラリと不気味に輝く鉄器があった。
「青い髪の娘、てめぇよくも俺らの同胞をやりまくってくれたなぁ」
「強いらしいが、これだけの人数相手にたった一人、翼の者でも勝てるわけがねぇ」
「大人しくここでくたばって、己の罪を悔いることだな!」
殺気を放ち、自分を囲みじりじりと近づく男たち。だがオオルリは慌てる様子もなく、冷静にギッと男たちを見据える。
「ふん。多数だから勝てるですって? 大した自信。いいわ、かかってきなさいよ。あなたたちみたいに卑怯な奴ら束になっても私は負けっこないわ!」
ぶぁさっと華麗に広がるオオルリの青い翼。鋭く向けられた青い瞳に、男たちの気はぐわっと立ち上る。
「この女ーーー、やっちまうぞ!」「おおーーー」
オオルリの挑発で男たちはいっせいにオオルリにかかっていく。オオルリはびびるどころか、全員返り討ちにしてやる自信があった。自分を騙したこと、しかも兄のふりして騙したということが許せなかった。ボコボコのボコボコにでもしなければ気が治まらない。
円が縮まるようにオオルリへと向う殺意。が円の中心にいるオオルリの前に、新たな点が現れた。
「待たれよ!」
風を起こして、オオルリと反翼勢力の男たちの間に現れた新たな存在。その背には広く広がる白い翼。広い背中が完全にオオルリの視界を遮った。ずいぶんと背が高い大柄の男。頭には毛がなく、かわりに痣のようなものが頭部のほとんどを覆っていた。風貌も独特で、西部の少数民族かもしれない。
「なんだてめぇは、その女の仲間か?!」
「…誰よ? 突然に」
男たちもオオルリも謎の翼の男へ怪訝な顔を向ける。
「一人に多勢でかかるなど、拙者卑怯は見てみぬふりできぬ性分でな。突然の乱入になるが、拙者この娘の味方をいたす!」
「はあ?」
謎の男の突然の乱入味方発言にオオルリは唖然となった。そしてかすかな怒りも。
「ちょっと、あなただれか知らないけど余計なお世話よ。私はこんな奴らに負けるわけない!」
「わかっている。だが、ここは拙者を信じてほしい」
まったく話の通じない謎の男にぽかんとなるオオルリだが、この男の強さをなぜか確かめたい気持ちになった。この手でこいつらをボコボコにしたいところだが、この男の戦うところも見てみたい。オオルリの中で勝ったのは後者の欲求だった。
「いいわ。翼の力、あいつらに見せ付けてやりなさいよ」
誰だか知らないが翼の者なら、同じサイチョウ軍の仲間だろう。
「承知!」
謎の男は勇ましく頷き、構えをとる。
謎の男の乱入に水をさされたが、再び反翼勢力の男たちは鉄器を振りかざし「うおぉぉーー」といっせいにつっこんできた。オオルリは腕組して、のん気に見物をすることに決めた。
「翼は皆殺しだ!!」
乱暴な言葉を吐きながら、鉄器を振るう男たちは迷いなく謎の翼の男へとかかる。ブオンと風切る音をさせ鉄器を謎の男へと振り下ろす。次々とくる鉄の攻撃を、謎の男は「フン!」「ハッ」と拳や腕で弾き、白い翼は男たちを吹き飛ばす。オオルリは舞い上がり上空から謎の男の闘い様を見ていた。気持ちいいほど鉄器を弾き飛ばし、襲い掛かる男たちを気絶させていった。十分も経たない間に戦いは終ってしまった。
「ふぅー」
腕をゆっくりとサイドに下ろしながら、謎の男は深呼吸をして翼をしまった。
「ご無事か?!」
にかりと白い歯を見せながら見上げる謎の男に、「はぁ」とためいきをつきながらオオルリはゆっくりと着地し、翼をしまいこんだ。男の真正面に、腰に手を当ててじろりと上から下まで品定めするように目を動かした。
数秒、考える顔になった後、「ふふふ」と怪しげな笑いを零しながら、再びオオルリはこの男を見上げ、こう告げた。
「いいわ、あなた私の下僕にしてあげる」



「カッコウさんカッコウさん!!」
オオルリを探すカッコウのあとを、慌てて呼びかけながら飛んでくるのはキツツキ。
機嫌悪くカッコウはキツツキを追い返しながら「オオルリーー!!どーこーだーー」と迷惑なまでの大声で彼女を探し続ける。疲れたようにぜいぜいと肩で息をしながら、キツツキは告げる。
「探す必要ないんですよ、オオルリさんついさっき帰ってきたって」
「ぬぅわにーーー?! それを早く言いやがれ!!アホかっっ」
さっきから何度も言っていたというのに、カッコウはまったくキツツキの話に耳を傾けようとしなかったのだから、そんな風に怒られるのはキツツキとしては心外だ。
聞いてはすぐにカッコウはキツツキを置いてマッハで飛んでいった。そんなカッコウの後姿を見て「はー」と溜息ついて、やれやれと疲れた顔してキツツキもみなのもとへと帰っていった。

帰ってきたカッコウを最初に出迎えたのはミソサザイだ。
「あっ、カッコウさん、オオルリさんさっきもどったんすけど」
「ああ聞いた。どこにいるんだ?オオルリ」
「えー、実はオオルリさん知らない男連れて帰ってきたらしいんすけど…」
その情報にカッコウ「ぬぅわーにーーー?!」とまたしても迷惑な声量で叫んだ。
少年や少女たちを乱暴に押しのけながら、カッコウはオオルリのもとへと向う。すでに夕食の準備ができており、食事係の少女たちの中にひときわ高い人影があった。遠めでもわかる、見たこともない男が一人。顔には化粧なのか痣なのかよくわからないものがあり、酷く目立つ。頭は毛髪がなくつるっとしている。そんなことはカッコウにとってはどうでもいいことで、問題はその男がオオルリのそばになれなれしくもいることだ。
「おいてめぇ!だれだ? オオルリに気安く近づくんじゃねぇぞ!!」
ギンギラギンに敵意を放ち、カッコウがその男につめよる。「ん?」と緊迫感のない顔でカッコウを見下ろす髪のない男。今にも飛び掛りそうなカッコウの前に、立ちふさがるオオルリ。
「ちょっとカッコウ! あんたいきなりなんなのよ?」
「な、なにってだってオオルリなんだよ?このなれなれしいハゲ野郎は」
「拙者オオルリ殿の下僕を務めることになったツルと申す。よろしく頼む」
すっと片手を握手のつもりなのか?カッコウへと差し出すツルと名乗るこの男に、カッコウはますます目尻を吊り上げギリリと苛立ちの歯軋りをする。
「そういうことよ、わかった? カッコウ」
「冗談じゃねぇ!! 俺はぜってぇ認めねぇ!! オオルリの下僕の座は俺のもんだからな!!」
ビシィッと自分よりも背の高いツルを指差しながら、カッコウは宣言する。
「認めないって…そこなのか…」
はー、と互いを見合わせながら、キツツキとミソサザイがあきれてためいきをついた。

ツルはみなの前で簡単に自己紹介をした。
翼の者であることと西地方の出身であることという、まともな自己紹介ではなかったが、翼の同士は大歓迎だった。特にツルはオオルリいわく、この中では自分に次ぐ実力の持ち主だと言う。手合わせをしたものはいないが、この中でも群を抜く大柄ながしっとした体格に、すごめばかなり迫力がでるだろう顔つきからして強そうな風貌だった。オオルリがツルの強さをこの目で確かめたと言うのだから、わざわざ疑う者もいなかった。唯一人、ツルが気にいらないカッコウだけは渋い表情だった。
「だいたい翼の者ってだけで味方認定するのもどうかと思うぜ」
カッコウが怪しがるのも無理はない。ツルはサイチョウのことを知らなかったというのだから、この世界に生きるものの中に【サイチョウ】と【ライチョウ】の名を知らぬものなどいるはずがないと思うのが常識だ。特にカッコウたち翼の勢力の総大将がサイチョウだ。
「たしかにサイチョウ様を知らなかったってのは変ですよね?」
そこはミソサザイたちもカッコウに同意する。
「あいつぜってぇ信用できねぇ。なにか企んでるに違いねぇ。あいつは存在そのものが怪しすぎる」
ギリギリと怒りで歯をこすらせて、ダンと自分の膝を叩きながらカッコウは断言する。
「あのツルッパゲ野郎、ぜってぇオオルリに惚れてるに違いねぇ!! それで下僕にっっっ」
「えっ?」
カッコウのずれた発言に、がくりとミソサザイたちは肩を下げられた。


「サイチョウ様を知らないなんて、あんなこと言えばみんなあんたのこと怪しがるじゃない。でもほんとうに知らないなんて、驚いたわ」
皆から離れ、オオルリとツルは二人歩きながら話していた。
「拙者ずっと一人でいたゆえ、俗世界に疎くてな。そのサイチョウ殿がオオルリ殿たちの大将なのであるか?」
ぜひお会いして挨拶をしたいというツルに、オオルリは首をふるふると横に振る。真面目な顔つきで
「悪いけど、それはムリね。サイチョウ様はチョモランマにいらっしゃるの。この世界で一番偉い方なのよ。気安く会えたりしないわ」
幼い頃は、優しく接してもらったこともあるが、サイチョウに会わなくなってから一体どれだけたつだろうか。顔すらろくに思い出せないほどだ。それだけ翼の勢力が大きくなったということもある。組織が完成する前は、サイチョウはその足で世界中を回り、オオルリたちのようないくあてのない子供達を拾い、救ったのだ。今はチョモランマから指示を下すだけで、チョモランマを離れることがないと聞く。
だがサイチョウに会えない理由はそれだけではないとオオルリが続ける。
「それに、私たちはまだチョモランマには帰れないの。バードストーンを集めて、私たちの道を阻む者を倒せと命じられているの」
「オオルリ殿たちの道を阻む者とは…あの反翼勢力の者どものことか?」
「まあああいう連中もだけどね。サイチョウ様がおっしゃる敵は、…ライチョウの信徒のことよ」
「ライチョウ?」
首を傾げるツルに、「はー」と溜息ながらオオルリは「まあいいわ、誰が敵か、あたしが教えてあげる。だからツル、あなたは私の下僕としてついてきてくれればいいのよ」



フォンコンを発ち、スズメたちと別れ一人行動していたワシ。フォンコンを出て北東の山沿いの道で、見知った者を見つけ、その者を捕まえようと駆け寄る。
「君はフクロウ!」
丸い頭をふらふらと揺らし、背中に背負った小さなリュック。小さな女の子は間違いなくフクロウだった。
ワシの声に「ふえ?」と緊張感のない能天気な声で振り返るフクロウ。
「あっ…ワシさーん」
にぱっと人懐こい笑顔のフクロウが自分に気づいて、「やれやれ」とワシはなんだかほっとしたのかなんなのか力が抜けていく気がした。
フクロウと会うのは、あのケツァールの城以来だ。どうやらフクロウもウミウたちの技によって西地方に飛ばされていたらしい。周囲を見渡し、念のためフクロウに確認をとる。
「一人なのか?」
それにフクロウ「うん!フクロウまたひとりたびしてたんだよー」とのん気な返事で返してきた。幼いフクロウがあれから一人で行動していたと知り、ワシは肝が冷えた。そして熱く誓う。
「フクロウ、これからは私の側にいるんだ。いいね、一人で勝手に行動しないこと」
キッと厳しい表情でそう命じるワシに、フクロウは不満気な顔になり、頬を膨らませる。
「ええー、フクロウ平気だよー。フクロウも翼の戦士だもんー」
「だめだ。ワガママを言わずにいい子にするんだ、いいね」
手を引かれ、フクロウはまだ不満気だが仕方なしに「むう」と頷いてワシについていく。
ワシは一人で動き、壷に人々の想いを集めるつもりだったが、フクロウをほおっておくわけにはいかず、彼女の面倒を見つつ旅を続けることに決めた。ここまでフクロウが無事でいられたのは運がよかっただけだろう。最近は西地方も物騒だ。先日のオオルリたちの件もある。フォンコンだけではない。オオルリたち翼の者の破壊行動はその周辺にも及んでいた。

禿げ上がった山の間の殺風景な道をワシとフクロウが進む。ぐぅ〜とまぬけな、その上主張の強い音はフクロウのおなかが鳴る音だ。その時、ワシたちの行く先から腰を曲げた老女が歩いてきていた。
「こんにちはーー」
手を振って、見ず知らずの相手にもなつっこく挨拶をするフクロウ。ワシは軽く会釈する。
ゆっくりと歩いてくる老女は、薄汚れた格好に、髪は長くぼさぼさで顔はほとんど隠れている。顔が見えないから余計不気味に見えるが、心に思うだけにしてワシは顔には出さなかった。
「旅の…お人かい?」
しゃがれた声で老女が訊ねてきた。「はい」と答えるワシたちに、老女はうちに寄って行くかい?と勧めてきた。ワシは遠慮しようと思ったが、断る前にフクロウが「うっわーい」と老女の誘うほうへと走っていったのだから、渋々後を追いかけた。
老女の家は、お世辞にもキレイだとはいえない粗末な家であったが、思っていたよりまともで少しほっとした。
ワシの気も知らないで、フクロウは老女から差し出された飲み物をごくごくと飲み干し、菓子までぱくついていた。腹が減っているから仕方ないにしても、老女に不審感を抱くワシは気が気でなかった。
「兄妹かい?」
あまり口を開かない老女が、フクロウとワシを眺めてそう聞いてきた。
「いえ、兄弟ではありませんが、私はこの子の保護者です」
「ちがうよぉー。フクロウとワシさんなんだよー」
ワシの返答に不満があるのか、フクロウがそう反論した。がわけがわからないので「やれやれ」とワシは頭を抱えた。
「…兄弟は、大切にしなされ。…ずっと一緒にいられるとはかぎらないのだからねぇ…」
「え…、はい」
老女の言葉にワシは素直に頷いたが、顔が見えないが彼女が噛み締めるように吐いた言葉に聞こえた。
ワシは老女に妙なものを感じながら、礼を言って老女の家を出る。外に出ると、まだ屋内にいるフクロウを呼び促した。
最後の一切れの菓子をぱくりと口にほおりこんで、フクロウは老女を下から覗き込んで「ありがとう」をつたえようとした。
「ほら、お兄ちゃん呼んでるよ」
「うん……」
なぜか老女を下からじーと見つめながら、フクロウは「あれ?」と首をかしげて、「あっ」と首をまっすぐに立て直して「ありがとう。お姉ちゃん! じゃあねー」「!?」
老女に対してお姉ちゃんと言って、フクロウは手を振りワシのもとまでかけた。
「フ、フクロウ。いくらなんでも…」
世辞にしてもあんなよぼよぼの老女にお姉ちゃんはあんまりだろうとワシは絶句した。がワシのそんな顔を見てもフクロウは己の過ちを認識しないまま歩き出した。
二人を見送る老女の長い髪の下に隠れた目は、ふっと伏せられた。


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