スズメは無意識のうちに光の翼を使っていた。
スズメが放った光が街を包んで、一瞬にして消えていった。
その光はサイチョウの手の者である翼の者たちの翼の力を封じ、彼らをこの街から追い払うことが出来た。
無我夢中だった気もするが、どうも腑に落ちない。スズメは妙な感覚が気になっていた。
スズメの側へとカラスが駆け寄る。
「カラス」
「スズメ、翼の者はもうこの街から出て行ったよ。もう大丈夫だ」
「そうよかった。でもさっきのってあたしの力なの?」
「そうだよ。何言ってんだよ。光の翼の力だろ」
「うん…だけど」
カラスは迷うことなくそう言ったが、スズメはまだ納得が行かない顔のまま。
「おい、スズメー!」
次にスズメへと駆け寄ってくるのはタカ。
「さっきのはお前の仕業か?」
タカが言うのはあの光のことだろう。
「あ、うん…」
「余計なことしゃがって」
と言いながらタカはぼそりと「ま、いーけどよ」と付け加えた。
「あタカ、それよりハヤブサさんは?」
「知るか!」
訊ねるまでもなく、ハヤブサはすぐにスズメの前にと現れた。その表情は明るい。
「スズメたち、ここにいたのか」「ハヤブサさん!」
スズメの側へと駆け寄り、ハヤブサはスズメの肩をぽんと叩く。
「大丈夫だった?」
「ああ、オオルリと戦っていたところ、ワシ兄が来てくれて」
「ワシさんが?」「ワシ兄!?」
「うん、こっちだ。行こう」
ハヤブサに導かれてスズメたちがたどり着いたのは、長老の館だった。館の扉をくぐると、すぐにワシとミサゴに会えた。
「ワシさん」「ミサゴ、君も来ていたのか」
ハヤブサがスズメたちを捜しに行っている間に、ミサゴもワシのもとに駆けつけていた。
ワシを目にすると、タカはワシの胸へと飛び込む。
「ワシ兄!どこに行ってたんだよ」
「タカ、すまない。でも会えて良かった」
感動の対面はそこそこに、不安げな眼差しでスズメが訊ねる。
「あの…一体?」
「長老」
ワシが長老へと向きかえる。正面の椅子に腰掛けたままこちらを見据える一人の老女。彼女こそがここフォンコンの長老であった。
「あなたがフォンコンの長老さん?」
老女はこくりと頷いて、厳しい表情のまま語る。
「翼の者を追い払ってくれたことには礼を言う。しかしバードストーンは渡せぬ」
「なっどういうことだ!?」
声を上げるタカをワシが手で遮る。
「話はそちらの青年から聞いた。サイチョウ軍と戦っている翼の者だと。ライチョウ様の予言した光の翼の救世主が一緒だと」
長老の目がスズメと合う。
「そうだ、スズメが、彼女がその光の翼だ。あなたも見たでしょう!? さっきの光がスズメの力なんだ!」
誇らしげにハヤブサが語る。長老は動じることなく冷静な態度でスズメに問いかける。
「この娘がか…。まだ幼いな。本当にお前にやれるのか?」
「あたし…まだ自分の事よくわからないけど、でもこの世界を救いたいって気持ちは本当です」
スズメは今の己の気持ちを伝える。
光の翼であることに戸惑っているし、自分にそれだけの力があるなんて、把握しきれていない部分もある。
ハヤブサや皆が期待するほどの存在なのか、自信はないけれど、この想いだけは胸を張って言える。
「その想いはだれにも負けません」
まっすぐな眼が老女を見る。長老はふっと優しげな表情を見せた。
「まっすぐで曇りのない瞳。そっくりだな」
「へ?」
きょとんとするスズメに長老が話す。その瞳の相手のことを。
「若い頃のライチョウ様に」
「え、おばあさん、ライチョウ様を知ってるの?」
「何度か直接会ったことがある。子供のころはよくこの街に遊びに来てな。いつも目を輝かせながら語っていたよ」

――いつも夢の中に現れる光の翼を持った女の子。
そのこがこの世界を守ってくれてるんだって。――

「ライチョウ様は子供の頃からスズメの存在を予知していたのか」
ハヤブサがつぶやいた。
「光の翼か…。滅び行くこの世界を救えるかどうか、お前さんにかけてみるのもおもしろいかもしれんな」
ふ、と長老の口から笑みがこぼれた。
「おばあさん…」
「実はな、バードストーンならもうじきここに届くことになっている」
長老のその言葉に「えっ」とみな驚きの声をあげた。バードストーンは奪われたのでは?
「多くのバードストーンは奪われてしまったが、わずかに残っていたものを翼の者に見つからぬ場所に隠してあったのだ。ライチョウ様から光の翼が現れたなら渡してやってほしいと頼まれていたのでな」
「そうなのか。…よかったなスズメ」
ハヤブサの声にスズメも「うん」と嬉しそうに答えた。
ガタと館の扉が開いて青年が戻ってきた。青年は一人の娘を連れて長老の元にとくる。
「おばあさま大変です!」
慌しく戻ってきた青年の様子にみな何事かと注目する。
「どうしたというのだホトトギス」
「ウグイスが!」
「どうしたウグイス?バードストーンは?」
ウグイスと呼ばれた娘は疲れた様子で、長老の問いかけに「え?バードストーン?」と首をかしげる。
「あの女の翼が入ってくる数分前に、お前が安全な場所に隠してくるとすべて持っていったではないか」
「そんな私バードストーンなんて持っていってません!」
「なにを言うんだウグイス!お前がバードストーンを持って行ったのはおばあさまもボクも見ていたんだぞ!どうしてそんなうそをつく」
ちょっと待って!とウグイスは混乱した様子で頭を振った。
「兄さんこそおかしいわ。翼の者が襲ってくる前に、私を呼び出して用事があるって、街の路地裏で突然襲い掛かったのはどういうことなの? 私それで意識を失って」
「ちょっと待て、どうしてボクがお前を襲うんだ?そんなことがあるわけないだろう」
「でもたしかに兄さんだったわ。見間違うはずない。顔から服装から全部兄さんだったのよ」
わーわー言い合う兄妹を「落ち着かんか」と長老が間に入って止める。
「ウグイスよ。ホトトギスはウソをついとらん。こやつはずっと私の側におった」
「そ、それじゃあ、あのひとは一体…?兄さんの偽物が?」
「てことはバードストーンはすべて奪われてしまったというのか?」
「もう少し早く来ていれば…」
ハヤブサたちは落胆する。フォンコンにたどり着いたというのに、目的であるバードストーンは結局奪われてしまった。
「残念だったな。この街にはもう一つもバードストーンは残っておらぬ。あきらめることだな」
長老の言葉どおり、もうここにはバードストーンは残されていなかった。
「はぁー、スズメ」
がっくりするハヤブサは隣にいるスズメに顔を向ける。
「仕方ないよ。この街が滅ぼされなくてすんだんだし。バードストーンの代わりにフォンコンを守れたんだって思えば」
とにかく進むしかないよ。とハヤブサを励ましてスズメたちは長老へと別れを告げる。
「それじゃあおばあさんお元気で。それとありがとう」
スズメの礼の意味がどういうことなのか不思議に思い長老が顔をあげる。約束のバードストーンを渡せなかったのに、なぜ礼を言うのだろうと。
「ライチョウ様の話をしてくれて。それ聞けただけですごくここに来た意味があったよ。ありがとう、じゃ」
スズメの顔は嬉しそうな笑顔だった。くるりと背を向けたスズメに「まちなされ」と長老が呼び止めた。
「お前さんの…光の翼の力が本物ならば、手に入れられるかもしれぬ。幻のバードストーンを」
「幻のバードストーン?」
長老の発言に孫の二人も驚きの声を上げる。
「おばあさま、まさか…」
「あそこですか!? あの死の山と呼ばれているキロ山! ムチャですよ!あの山へは翼の者どころか、あのライチョウ様ですら近づく事ができないんですよ!」
キロ山へ向うこと、それがどれほど無謀なことなのか、ホトトギスとウグイスはやめるようにと言った。長老もあの場所の危険性はよくわかっているつもりだ。厳しい顔でその山のことを語る。
「年中ブリザードが吹き荒れる。翼の者さえ踏み入ることのできぬ山だ。だれもあの山に近づく者はおらぬ。
あの山は神の領域だ。ライチョウ様でさえ行けなかったが、光の翼なら、あの山を越えられるかもしれぬ」
聞いただけでそこは向うだけで危険な場所なのだとハヤブサにもわかった。
「スズメ…」
「行こう! ほんの少しでも可能性があるのなら、あたしは行くよ!」


スズメたちは早速キロ山へと向った。フォンコンの賑やかさに反して、キロ山の周辺は民家も人影もなく、黒い道が続く。山道の入り口から急に天候は荒れ、吹雪が吹き荒れていた。数メートル先の景色すら灰色でなにも見えない。
「ここがキロ山か、すごい吹雪だ、先がちっとも見えない」
風の音で会話すらまともにできず、声を張り上げる。
「翼でもちっとも進めやしない、くっ」
翼を広げて吹雪の中へと進もうとするハヤブサ、だがこの入り口付近ですら立ち入ることが困難だ。
「ムリをするなハヤブサ。死にに行くようなものだ」
「みんなさがって! あたしの光の翼でなら、いけるはず!」
スズメは光の翼で吹雪の中へと突進した。
「スズメー」
吹雪の中に消えていったスズメをハヤブサが呼んだが、その声も風の中にかき消される。スズメはこの吹雪を無事突破できたのだろうか?
「(う、苦しい…だめだ…もうこれ以上は…。やっぱりいけない、戻らなきゃ)」
想像以上の力にスズメの光の翼も力を失う。すぐに入り口へと飛ばされ戻ってきた。
「うわあぁーー」
「スズメ!」
飛ばされてきたスズメをハヤブサが受け止めた。スズメは疲労し、それは表情にも現れていた。
「はぁ、ダメだ。光の翼の力一分ももたない。…ゆっぱりムリなの?」
「ライチョウ様でさえムリだったんだ。諦めて他を当たろう。もう日も暮れるし、今夜はフォンコンの街で身を休めよう」
ワシの顔にも諦めがあった。みな山に背を向けて、フォンコンへと戻ることにした。


日が落ち、闇の中では炎がパチパチと周囲を照らす。
フォンコンで暴れた翼の者たちは、闇夜の下身を休めていた。
「はーあー、たくよー。あいつがいたせいで暴れちまって、変なことになるし、バードストーンどころじゃなかったぜー、くそっ」
はー、と深いため息を吐きながら、カッコウがぼやく。
「あー、手ぶらでチョモランマへ帰れないよなぁ」
翼の少年ミソサザイのぼやきにギンと目を見開いてカッコウが八つ当たる。
「なんでてめーら一人もバードストーン探してなかったんだよ!だいたいな」
「そんなこと言われても」
ちっと舌打ちしてカッコウはもといた場所に戻り腰をつく。
「こいつらは役に立たねぇし、タカは生意気だし、唯一の救いはオオルリはかわいいってことだけじゃねーか」
あの人にはついていけん、とミサソゾイたちがカッコウにあきれる。
「はー、たく…」
膝にひじをついて、カッコウはオオルリのことを思い出していた。フォンコンから出た直後にオオルリとは会っている。その時の彼女の様子が気がかりだった。
「ついてこないで、一人でいたいの」
拒絶する冷たい目。いや冷たい目と言い切るのはどこか違う気もした。カッコウはオオルリの真意をなんとなく察知した。
「あの目は…オオメリはまさか…」
「あ、おい」「あっ」
カッコウの後ろでは少年達が突然ざわつき始めた。うるせぇなとカッコウは頭をかかえ考え込んでいた。
「忘れ物ですよ」
聞いたこともない女の声がカッコウの真後ろからした。
「ああ、うるせぇな、だれだ」
イラッとした口調でめんどくさそうにカッコウが振り向く。
「ふふ」
そこに立っていたのは会ったこともない美しい女性。彼女はフォンコンの長老の孫ウグイスに瓜二つの姿をしていた。
「なっだっ」
「あなた方はバードストーンを手に入れることが目的だったのでしょう。心配して見に来て正解でした。ほら、受け取りなさい」
女性はそう言ってカッコウにバードストーンを手渡した。それはフォンコンで長老がスズメたちに渡すはずだったあのバードストーン。
「今回だけは見逃してあげます。ですが、次失敗するようであれば、…覚悟しておくんですね」
くす。と怪しい笑みを放って、女性は彼らの前から立ち去った。皆彼女から一線置いた距離で、それ以上近寄らせない威圧するような不気味な空気を纏っていた。
女性が去ってから、少年達はざわざわと話し始めた。
「お、おい、さっきの美人だれだ?」
「味方の翼か?チョモランマからの使者? でも見たことねーぞ」
誰一人としてウグイスに似た謎の女性を知らなかった。ざわつく少年の中でカッコウだけは女性の放った言葉を己の決意に変えた。
「つまりこのままチョモランマへは帰れねぇってことか」
「へ?」
「え?」
顔を見合わせる少年達とは別に、カッコウはある決意を固めなければとかすかな気持ちがあった。



日が落ち、フォンコンへと戻ったスズメたちは宿の中にいた。すでに床につく準備をすませ、同室のスズメとハヤブサもそろそろ寝床に着こうかとしていた。先にベッドへともぐりこんだのはハヤブサ。スズメは窓へとへばりつき、暗闇に落ちた外を、どこかを眺めていた。スズメの視線の先をハヤブサは察した。
「スズメ、気になるのか? あの山のこと」
「えっあっ」
ハヤブサに指摘されてスズメは慌てて振り向いた。図星だったようだ。
「あそこはムリなんだよ。幻のバードストーンも実際に見た者がいないんだし、無謀なことして命を落としでもしたら」
「うんそうだね、わかってるよ。じゃあ、休もう」
スズメもすぐに布団の中へと入った。
「だな。今日は疲れたし、早く休もう」
二人とも布団の中へと入り、沈黙が流れた。すぐにハヤブサの寝息が聞こえてきた。スズメは、目を閉じてもなかなか寝付けなかった。どうしても気になって仕方なかった。
「(なんでこだわっているんだろう?あの山に…ほんとうにあるんだろうか?幻のバードストーン…。
でもそれだけじゃない気がする。……なんなのかな?)」
スズメが気になるのはバードストーンだけではなかった。あの死の山に、なにかあるような気がして……。

やっぱりあきらめられないよ。

スズメは一人宿を抜け出した。翼を広げ、あのキロ山へと向った。
「あたしが行かなきゃ、光の翼なんだから」
幻のバードストーン、ほんとにあるのかどうかわかんないけど…。ほとんどのバードストーンはサイチョウに奪われた現状で勝ち目はあるのだろうか?その不安もあった。
「いくしかないのよ」
不安な感情が強かった、それを吹き飛ばす気持ちでスズメは己を奮い立たせる。
「ハァッ!」
気合を入れて、スズメは光の翼化すると吹雪の中につっこんだ。
「くっ」
気を少しでも抜けば、すべてもっていかれるようなほど強い力。苦しさに顔は歪む。
「(気が遠くなる…)」
ブリザードはスズメの気力をどんどん奪う。そんな中スズメはなんとか己を保とうと強く心に想う。
「(死なない、死ぬわけないよ、だってあたし…光の翼なんだもの。みんなの希望…)」
スズメの中に大切な人たちの顔が次々に浮かぶ。ツバメ、ヒバリにクジャク、ハヤブサ、タカ、ワシにフクロウ、ライチョウが浮かんだ。そして最後にスズメが見たのは……。
「そうだよね…」
スズメの背からは翼が消え、スズメは膝をついて、力をなくしかけていた。スズメの前に誰かが立っていた。その誰かはスズメをただじっと見つめていた。なにも発せず、ただそこにいた。いやそこにいたのだろうか、そのだれかは幻だったのかもしれない。そこにいるはずのない者だから。
「カナリア…」
スズメは顔を上げた。自分を黙って見下ろすカナリアを。
スズメはそのまま前のめりに倒れた。容赦なく吹雪が叩きつける。
「(あたしは…光の…)」
吹雪はスズメの光の翼の力さえかき消した。そしてまたスズメの命をも吹き消そうと残酷に吹き荒れる。

「おーい、スズメー!」
キロ山に響くスズメを探し呼ぶ声。それはカラスの声。宿を真夜中に飛び出すスズメをカラスは目撃していた。呼び止める間もなくスズメはキロ山のほうへと消えていった。
スズメはキロ山に向ったんだ。カラスは直感で感じた。スズメを追わなければ、スズメを失うわけには行かない。カラスがスズメを追う気持ちは本能だった。
光の翼でさえもたないはずの過酷な環境であるその山の中で、カラスはスズメの姿を探し歩いていた。
「うあっくそっ…何も見えない」
腕で視界を守りながら前進する。やがてカラスは行く先に少女の後姿を見つける。
「! スズメ!?」
近づくと、それはスズメではなく、赤い着物の金髪の少女、悲しげな顔でカラスへと振り返る。
「カナリアちゃん?」
不思議な気持ちでカラスはゆっくりとカナリアへと近づく。手を伸ばし、「どうして、君が…」カラスの声に、カナリアはカラスを見つめたまま何も発しなかった。カラスの手がカナリアに届くと、そこに実体はなく、空気に溶けるようにすうっと消えていった。なにかを伝えたいような表情をしていたが…。
「あっ!」
カナリアの消えた先に、白いものに被い尽くされそうなスズメを見つけた。
「スズメ!!」
カラスは駆け寄り、雪をかいてスズメを抱き起こす。
「おい、スズメしっかりしろ!」
呼びかけ、体を揺すってもスズメの固く閉じられた瞼は開かない。
「スズメ、目を開けろ!死んじゃだめだ!」
スズメがこのまま死ぬかもしれない。そう思った瞬間、カラスの中でなにかがはじける音がした。

『死なせない!俺が絶対に…この命に代えても、スズメお前は…』

スズメを守るように開いた漆黒の翼は、色を失い、透明の翼となる。光を放ち始めるその翼はスズメとカラスを、周囲を明るく照らす。



『ああ、なんだろう。とても温かい』
スズメは不思議な空間に身をゆだねていた。目を閉じ、包んでくれる見えない温かいものに、安らぎを感じていた。
『そしてとても懐かしくて…、この優しい光はなに? ねぇ教えて、カナリア』
意識の中でスズメはもう一人の自分であるカナリアへと呼びかける。
『!?』
目を開けたスズメは驚きに目を見開いた。目の前にいたのはカナリア。そのカナリアの両の目からは涙が零れ、切なげな顔でスズメを見ていた。
『カナリア、どうして泣いているの?』
『だって、消えたくないもの』
『消えたくないって? あなたはあたしの中にいるんでしょう?』
ふるふるとカナリアが首を横に振る。
『そうじゃないの。私もあなたもいつかは消えてしまうの…』
『え…?どういう…』
『私…ずっと怖かった…、目覚めてしまうこと…』
カナリアは涙を零し俯いたまま、すうっと消えていく。
『カナリア!? ま、まって』


カナリアが消えて、次にスズメが見たものは、眩い光。信じられない光景がそこにあった。
「カラス!? カラス光って?どうし…」
「スズメ、もう大丈夫…だな」
光輝くカラスに驚き慌てたスズメ、だが優しく微笑み返すカラスに同時に安心を覚えた。
「!!カラス…、ああ、そっか、カラスだったんだ」
今スズメは理解した。先ほどの温かい光がなんなのか。
カラスだったんだ、優しい光は……。
安心したスズメは再び目を閉じた。
スズメは心の中でもう一人の自分にと伝えた。
『だいじょうぶだから、もう泣かないで、カナリア…』


「おーい、スズメー、カラスー」
フォンコンの夜の街でハヤブサは姿を消した仲間の二人を探していた。
同じくスズメたちを探すワシがハヤブサのもとに駆け寄る。
「こちらにもいないようだ」
「私はもう一度宿のほうを見てきます」
ミサゴは宿へと走っていく。
「はぁ…街の中にはいないみたいだ。まさか、キロ山へ向ったんじゃ」
ハヤブサのつぶやきに「それはないんじゃないのか?」とワシが首を傾ける。
「光の翼でさえ行けなかったんだ。しかもこんな夜中に、無謀にもほどがある」
「いや、スズメの性格を考えるとやっぱり。私はキロ山へいく」
「ハヤブサ!」
キロ山へと向うハヤブサをワシが追いかける。
「…スズメ…」
ハヤブサたちの手前表には出さなかったが、スズメの失踪を知ったタカも心の底では心配でならなかった。
「くそっ」
ワシたちのあとを追いかけた。スズメの無事を祈りながら。


「私は信じている」
キロ山へと向いながら、ハヤブサはずっとそう唱え続けた。絶対に帰ってくると。
死の山は、非情にも吹雪が吹き荒れ、おさまることはなさそうだった。
「私は…ずっと…」
信じている、そう唱えながらも、友の身を案じる心は不安でいっぱいだった。
「あっスズメ?」
山のほうから光がゆっくりと近づいてくる。ハヤブサはそれをスズメではないのかと思った。
「ハヤブサ、やはりここに来ていたようなのか?」
ハヤブサのあとをつけてきたワシとタカも山から下りて来る光に気づいた。
「え?」
ハヤブサは我が目を疑う。今自分が目にしている光景が信じられず、兄に確認を求める。
「兄さん、私は寝ぼけているのかな? だって…逆に見えてるんだ」
「!!」
「なっ」
ワシとタカも驚き固まる。
「スズメじゃなくてカラスが光って見えるなんて! だって光の翼はスズメ…?!」
近づいてきた光は、スズメを背負い光の翼で輝くカラスだった。何度目をこすっても、そう見える。スズメではなくカラスの背に光の翼が見える。
「そんなバカなことがあるものか! 光の翼は…救世主は一人だけのはずだと、ライチョウ様もおっしゃってたんだぞ」
「それじゃあ…カラス、君は一体…?」



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