「あれがケツァールの城か」
森を突き破るようにしてそびえ立つ城を望みながら、スズメは熱く燃え上がる。
「フフン、待ってなよ。今からバードストーンをいただきにゆくかんね」
ミサゴと合流したスズメたちは、ワシの提案でケツァール城へと向うことになった。
目的は、彼女が所持しているバードストーンを手に入れること。
しかし、一度会った程度ではあるが、ワシですら歯が立たなかった翼の将。その者の居城へいくことに、カラスは不安をこぼす。
「うーん、でも大丈夫かなぁ。ケツァールってかなり強いんだろ。他にも翼はいるって聞いたし」
翼の力に目覚めたばかりの身ではあるが、カラスにも相手との力量差は怖いほどわかっていたつもりだ。
「もー、心配性なんだから、カラスは」
「そうだよ、別に正面からケツァールと戦うわけじゃないんだから」
とスズメとハヤブサの返しに、カラスは「そっちがのん気すぎじゃないかな」と一人愚痴をこぼす。
「そうそう。でもさ、あたしはあのオバサンをボコボコに負かしてやりたいんだけどさ」
と目を閉じて握りこぶしを作って妄想に入るスズメ。その脳内にはコミカルな映像で、スズメのパンチでノックアウトなケツァールというミニ劇場が繰り広げられていた。
「…やはり君は、私が思っていた光の翼の救世主とは、違うな…」
ぼつりとワシがつぶやいたそれにスズメは気づかず、脳内劇場でますますテンションを上げていた。
「こんなかんじ、てやーってね!」「ってねv」
パーンチと拳を突き出してポーズを決めたスズメの語尾を真似たのは……。聞き覚えのある声で、スズメたちはその声の主へと振り返る。
「え、その声は」
「スッズメちゃんだーーv」
くりくり眼の元気で小さな女の子。スズメがカラスとともに日鳥国を旅立ってすぐに出会った迷子の女の子。
「うそーっ、フクロウちゃん?!」
驚き顔のスズメのほうに、だーっと迷わず駆けて飛びついてきたのはフクロウだ。ペリカンとの戦いで、フクロウは翼の力を使い、スズメたちのピンチを救った。スズメたちが知る中で最年少の子供で、最年少の翼の者。短い間だったが、一緒に旅をしてスズメやカラスになついてくれた。ペリカンを倒した後、フクロウはスズメたちと別れ一人旅に出たはずなのだが。また会えるかもという予感はあったが、今ここで再会できるとは想像してなかった。が、スズメたちが驚いたのはそれだけではなかった。
「ええっ、どうして?」
「えへへー、じつはねー」
にこにこ顔のフクロウのあとから現れたのは、それもまた懐かしい顔。
「スズメ、カラス!」
手を振りこちらへと向ってくるポニーテールの少女はスズメたちの幼馴染の「ツバメ! え、ええっどうして二人が一緒に?」
しかしそれだけではなかった。まだいた。
「ハッヤブサさま〜v」
なぜかハートマークを飛ばしながらハヤブサの背中に抱きつくのは
「フラミンゴじゃないか!」
「よう、クロボウズ。久しぶり」
「フラミンゴまで一緒なんて…」
「そ、それより離れてくれないかな…」
「そーよ、どさくさに紛れてなにしてんのよ!」
むきーとスズメが湯を顔で沸かせそうなほどの顔になって、フラミンゴに怒る。
「なんだかずいぶんと賑やかですね。みなさんのお知り合いのようですね、ワシ様」
再会を喜び合っているスズメたちを後方から見ながら、ミサゴは隣のワシに話しかける。「ああそうだな」と相槌をうったワシの背中から、ワシの聞き覚えのある声が彼自身を呼んだ。
「ワシ兄…」
はっとしてワシが振り返ると、そこにいたのは、弟のタカ。
「タカ!」
「ワシ兄!」
ワシの顔を見たとたん、泣き出しそうな子供のような顔になってタカは兄へと抱きつくように走りよる。ワシは両手を広げて飛び込んでくる弟を抱きとめた。
「タカ、心配したんだぞ」
「タカ兄!」
フラミンゴから解放されたハヤブサもタカに気づいて驚きの声をだした。スズメもまた驚きと疑問の声を上げる。
「なんでなんで一緒にいるの!?」
フクロウとフラミンゴはまだ接点があるものの、ツバメとタカまで一緒にいるなんて一体どういうことなのか。スズメとハヤブサは驚きのあまり目が点になる。驚きまくる二人とは対照的にカラスは取り乱していないのだが、その理由はというと、ちらりとカラスを横目で見ながらフラミンゴが答えてくれた。
「あの時、クロボウズと約束したんだよねぇ」
ね!と意味深にカラスに目配せをするフラミンゴに、カラスも「あっ、あのことか」と思い出す。
「カラス、あの時って?」
「テエンシャンにいったときだよ。ほら、あの女の子たちと戦った後、スズメとハヤブサは二人だけでライチョウ様に会いにいっただろう」
ああ、そういえばあの時、カラスとフラミンゴは二人だけ残りスズメたちの帰りを待ったのだ。が、スズメたちがライチョウとの対面を果たして戻ってきた時には、なぜかフラミンゴは姿を消していた。その間に二人だけのやりとりが行われていてもおかしくない。
「約束って?」
「ああ、えっとそういやあの時、フラミンゴは俺たちと別行動をとって、味方になってくれる翼を見つけてくるって。そう約束して別れたんだよな」
「そうだったのか?」
「なんでカラス教えてくれなかったのよ! え、てことは」
ちらりとスズメがツバメを見る。カラスの言ったとおりフラミンゴが約束をはたしたのなら、ツバメも翼の者?
「クロボウズに頼んで二人だけの秘密にしたのさ。で約束どおり、見事翼を集めてきた。ねー、あたしって役に立つでしょう、ハヤブサ様!」
「翼って…じゃあ…」
フラミンゴが連れてきたのは、フクロウ、ツバメ、そしてタカ。タカとフクロウが翼の者なのはスズメも知っている事実だが、ツバメもそうだというのなら。
驚き眼で自分を見ている幼馴染に、ツバメは嬉しそうににこっと笑って話す。
「そうなの。スズメ、私も翼を手に入れたの」
「ええっ、本当に! そうなんだ、ツバメも翼で戦えるようになったんだね」
喜び手を取り合うスズメとツバメ。二人の間にカラスが割って入る。
「そうなのか。でもツバメ、どうしてここにいるんだ? ヒバリ先生やクジャク様は?」
そのことも気になるし、またなぜフラミンゴやフクロウとともに行動することになったのか、そのいきさつを訊ねた。
「私はスズメたちと別れてから日鳥国に戻ってクジャク様にスズメたちのこと報告に向ったの。そしたら、また翼の者が現れて暴れだしたの。奴らから先生を守りたい一心で立ち向かっていたら、私にも翼が現れたの。その力でなんとか連中は撃退することができて、先生もみんなも無事守ることが出来たわ。それでクジャク様のもとに報告に行ってね。私の翼の事も話したの。そしたらね、クジャク様から私も旅立つようにって指示を受けたの。なんでもライチョウ様からの頼みでもある大切な任務なのよ」
「え、ライチョウ様からの?っていったい」
「フラミンゴさんに出会ったのはその前なのよ。一緒に日鳥国を守ってくれたの。それが縁で一緒に来てもらったの。偶然にもハヤブサさんの知り合いだって聞いて、私もこの人なら信頼できるってそれで力になってもらっているの」
「そうだったのか」
「へー…」
素直に感心するカラスと、反してスズメは怪しげにじとーとした目でフラミンゴを見る。
「まあこっちとしても、ちょうど力になってくれる翼を捜していたからね。で、そのこと一緒に旅している途中で見たことあるそこのちびっこ見つけて、一緒に連れてきたんだけど。ほんとおかしなちびっこだよね、そのこさ、クロボウズたちの居場所がわかるー、とかぬかすもんだから。まさかほんとに連れてきてくれるなんてさ」
「え、そうなの?フクロウちゃん」
「えへへーー」
「でもこんな上手いこと翼の者が見つかるなんて、やっぱりあれね。愛の力が起こせる奇跡かしらね、ハヤブサ様!」
きゅいーんとウインクハートを飛ばすフラミンゴに、ハヤブサは苦笑いする。
「で勘違いの愛はともかくとして! ツバメのライチョウ様からの任務ってなんなの?」
「あ、うん。それはね…」
「悪いがこんなところで立ち話もあれだ。場所を移ってからにしようか」
スズメたちの後方にいたワシの声で、あっと皆が気がつく。たしかにここは道のど真ん中だ。行き交う人は自分たち以外にいはしないが。
「そうね。じゃあどこか移動してから、ゆっくり話すわ」
「そうですね。急に人数も増えましたし、そちらに移ってから自己紹介も」
ミサゴのいうとおり、皆そうすることに従った。

道を外れて、静かな森の中で、円を描くように座ってそれぞれが自己紹介をする。すでに見知った相手もいるが、初対面の者も多かった。元サイチョウ側にいたフラミンゴだが、所属が違っていたこともあり、ワシたちとは初見だった。ワシが特に気になっていたのは、フクロウだ。どう見ても十歳に満たないほど幼く見える。フクロウが言うとおりには彼女はまだ九歳だという。
「フクロウというのか。君のような幼い子が、たった一人で旅をしていたというのか?」
不思議そうな、また心配そうな眼差しでワシはフクロウに訊ねる。
「んーとね、そうだよー。フクロウは旅をしているのー」
「旅だと?いったいどういう目的で旅をしているのだ? 行く当てがないのなら、私が面倒を見てもかまわないが」
「んーとね、フクロウはね、ひとりでもだいじょーぶだよ。それにね、フクロウはお花畑をさがしてるんだよー」
「は?」
フクロウの言うことが理解できず、ワシは眉を八の字に歪める。
「兄さん、このこは幼いけど、結構しっかりしているみたいなんだ。翼の力も持っているし」
「そうだよ、すごいんだよねー、フクロウちゃん」
「えへへー、フクロウはすごーい?」
ハヤブサやスズメにおだてられて、でへへと嬉しそうに笑い飛び跳ねるフクロウ。が、ワシだけは真剣に心配げな顔で。
「いやだめだ。こんな幼子をひとりでなど。いいか、フクロウ、君はもっと大人に頼っていい存在なんだ。遠慮などせず、私に甘えたらいい!」
「ぶーー、フクロウへーきだもーん」
「平気などと強がってはダメだ。さあ、私の元に来るんだ」
さあ!と自分の膝を叩いて、かなりムキになっているようなワシ。フクロウはマイペースにきゃっきゃっとはしゃぎながら周辺を走り回った。両手を挙げて「うっわーい」と叫びながら。
「こっ、こら」
そんな様子を眺めながら、フラミンゴがカラスの耳元でこそこそと訊ねる。
「ねぇクロボウズ。ハヤブサ様のお兄様って、あれかい?ちっさいこがお好みなのかねー?」
「え、いやどうなんだろ」
そんなことを真剣に聞かれても困るとばかりに、カラスは苦笑する。その向かい側にいたツバメは、カラスたちの様子を気にしながら、妙な不安に悩んでいた。
「カラスってフラミンゴさんと仲よさそう…」
「え、仲いいっていうか、いや…」
「なーに照れてんだよ、クロボウズ! 命がけであたしのこと助けてくれたくせにー」
ねー、となれなれしくカラスの腕に腕を絡ませるフラミンゴに、「こらー」とスズメがキレる。
「カラスはあんたじゃなくても助けてるの! もーこの勘違いおばさんは困ったもんね」
「もー二人ともやめろよ」「そうだよ、ほら。それよりツバメから大事な話を聞くんだろ」
再会したらしたで、またバトル勃発しそうなスズメとフラミンゴをカラスとハヤブサがなだめつつ、ツバメの任務についてちゃんと聞かなければと説得する。
「そうね。こんなフラミンゴになんてかまってる場合じゃないもんね」
「じゃあツバメ、お願い」
とスズメがツバメに向き直り、話を促す。
「ええ、でもみんな揃ってからにしたほうが…」
ちらりと目を向けた先には、「うっわーい」と無邪気に走り回るフクロウと、フクロウを「待ちなさい」と追いかけるワシの姿があった。
「ワ、ワシ兄さんがフクロウに振り回されている…」
「ワシ様、あのこのことほっておけないんですね。お優しい方だから…」
脱力するハヤブサと、キラキラな眼差しで見つめるミサゴ。
「フクロウちゃんのことほっておけないってのはよくわかるけどね」
「うん。でもフクロウちゃんは俺たちが思っているよりずっと逞しい子みたいなんだよね」
様子をしばらく見守っていたら、きゃっきゃっとはしゃぎながら、フクロウは皆と少し離れた距離で木にもたれかかって立っていたタカのもとへと向かい、「ねぇねぇ」とまたなれなれしくタカの服の裾を引っ張った。突然自分に絡んできたフクロウに、タカが焦りとまどう。
「な、なにすんだ、おい!」
「ねぇねぇ、タカはみんなのとこいかないのー?」
きゅるんとしたまん丸な目で、タカを見上げながら首をかしげ訊ねるフクロウに、タカは「うっ」となる。この子はどうも苦手だ。調子を狂わされるというか、きっと何を言ってもこのペースを崩すことなどできないのだろうと、タカでもなんとなしにわかっていた。
フクロウたち三人に出会ってから、ここまで一緒に行動してきたが、タカは彼女らとは距離を置き、必要以上のやりとりはしてこなかった。タカがそういう性格だということは、ツバメとフラミンゴはすぐに察して、それ以上の接触はしてこなかったのだが、このフクロウだけは幼い故にか、その能天気な性格ゆえにか、距離をとるということを知らない態度ばかりとってくるのだ。
「おい、放せよ。オレはあいつらとは」
「タカはスズメちゃんにおはなしあるんだよね」
そんなことフクロウに言った覚えはないのだが、タカはなぜかうろたえる。
「なっ、オレは別にっ」
きゅるっとした曇りない顔で見上げるフクロウにやはりたじっとなるタカ。
「タカはなつかれているんだな…」
じとーっと二人を見ながら、ワシがぼつりとつぶやいた。いや別にいじけているわけでは…。
きゃっきゃっとタカの周りを走り回ってはしゃぐフクロウへと、スズメたちの視線も集まっていた。
スズメの光の翼で傷を癒したのを確認したが、あれから目覚めて無事なタカを確認できたのは、ハヤブサたちにとっては初めてになる。あの衝突でタカの想いを知ったハヤブサは、タカに近づこうとしなかったが、彼女の表情には安堵があった。こうして無事な姿を見せてくれただけでよかった。
「よかったな。ハヤブサ。タカ元気そうで」
カラスのそれに、少しとまどいながらもハヤブサは笑みを浮かべて「ああ」と頷いた。ワシを強く想うタカの想いを知っているから、ハヤブサはタカとワシの仲に遠慮していた。
「そういや…」
あいつ(タカ)はハヤブサさんのことを…。スズメは心でつぶやいて、立ち上がりその相手を見た。相手もまたスズメの視線に気づきこちらを向く。
「あっスッズメちゃんだー!いっしょにあそぼー」
タカの側できゃっきゃっと無邪気に飛び跳ね、スズメを呼ぶフクロウ。その側のタカは厳しい表情でスズメを見ていた。
フクロウたちのほうへと近づいて、スズメは話しかける。
「ねぇ、怪我はもうなんともない?」
「うんとね、タカはげんきだよ、ねーー」
なぜお前が答えるんだ!? しかもしったかぶりか!? と横目でフクロウに心の中で突っ込みながら、タカは「ああなんともない」とぶっきらぼうに返事した。腕組みして、眉間にしわ寄せ、生意気な態度が妙にスズメを苛立たせる。タカに限らずスズメも相当な短気もののようだ。
「まあ元気でよかったよ。ハヤブサさんもタカのことすごく心配していたんだからね」
ハヤブサというワードにぴくりと反応するタカ。それは悪い意味での。
「勘違いするなよ。ハヤブサは今でもオレの敵だ。そしてお前らの味方になったわけじゃないからな。オレはワシ兄の味方なだけだ!」
「ぬぅわーー、やっぱむかつくー! 一発ぶん殴っておくべきか〜」
「なに?やるって言うのか?」
互いに拳を硬くし、バーサス!とばかりにバチバチ火花散らして対峙するスズメとタカ。
「あー、ケンカはだめだよぉー」
こらーと小さなフクロウが下からぷりぷりするのを感じて、二人ともうっとたじろぐ。さらにワシに咎められてタカは素直に下がった。
「たく、ワシさんの前だけは素直でかわいいのに。あ、そうか、ようするに甘えん坊さんなのね、タカは!」
にっししといじわるな笑みでそう結論付けるスズメに、タカはカァッとなり、また口調を荒げる。
「なっなんだとっ!」
「タカ、めっ!」
「ぐぎぎぎ…」
「ぷっ、フクロウちゃんにしかられてんの」
「スズメ、みんなこっちに集まって。そろそろツバメから話を聞かなくちゃ」
カラスのよびかけにスズメは振り向き、フクロウはうっわーいと元気に彼の元まで駆けて行った。
「ほら、行くよ」
タカへと呼びかけるスズメ。タカはなにか言いだけにスズメを見ている。
「なに?」
「お前……」
タカが気になっていたこと。それはあの夢だ。自分を救いに来てくれた光の翼がほんとうにこのスズメだったのかと。それを確かめたいと思ってここに来たのだが。
「フン」
鼻息吐き捨て、なにも訊ねることなくワシのもとへと歩いていった。意味深な沈黙がひっかかったが、タカのその態度にまたしても短気なスズメはむぴーと怒った。
「やっぱむかつく!」


「さて、みな集まったことだし、始めてくれないか」
ワシの合図で「はい」と頷いて、ツバメが話し始める。彼女がクジャクから受けたというライチョウの命でもある任のことを。
「まずこれを見て欲しいの」
ツバメがみなの前に見せたものは、掌におさまるほどの大きさの壷であった。
「壷? それがいったい…」
「クジャク様がライチョウ様から預かった特別な力を秘めた壷ですって。この壷はバードストーンでできているらしくて、この壷には人々の想いを集め、それを大きな力に変えることができるというの」
「大きな力って?」
「それは私にもわからないわ。私が任されたのは、この壷の中にできるだけ多くの人の想いを集めること。想いって言うのは、ライチョウ様と同じにこの世界を救いたいと、大切に想う心のこと。想いの集め方は、壷の側で強く想うことでいいらしいんだけど。とりあえず日鳥国の人々と、ここまでの旅路で出会った人の想いはこの中にちゃんと集まっているはず」
「日鳥国…ヒバリ先生も?」
悲しい別れ方をしてしまった恩師のことをスズメは想う。翼を恐れ、スズメが翼を手に入れることを快く思わなかったままヒバリとは別れてしまった。悲しげなヒバリのあの顔を、今でも忘れることはできない。心配げな顔を向けるスズメに、ツバメはにこりと微笑んで。
「うん、ヒバリ先生の想いもちゃんとこの壷にこめてもらったわ。スズメ、カラス、ヒバリ先生もね少しだけ翼の者への見方変わってきたみたいなの。まだ恐れは完全になくなってはいないけれど、私やクジャク様の翼にも理解を示そうとしてくれている。スズメたちのことも話したら、元気にしているのねって心配そうだったけど、でもね、安心してくれたわ」
ツバメから聞いたヒバリの近況に、スズメとカラスは互いを見合い安堵した。
「で、その壷に想いを集めたあとはどうするんだ?」
ハヤブサの問いかけにツバメが答える。
「最終的にライチョウ様のもとに回収するんですって。できるだけ、世界中のたくさんの人の想いを集めてきなさいってことで、みんなにも協力して欲しいの」
ツバメはごそごそと腰元の袋から物を取り出す。それは今ツバメが見せた壷と同じものであった。その壷をスズメとカラス、そしてワシにと手渡した。スズメは壷を両手で受け取り、大事そうに掌に包み込んだ。バードストーンでできているという不思議な壷からは、特殊な力を感じる。暖かいものが体の中を一気にめぐっていくようで、それがなにか直感で感じとった。
「わかった。あたしたちもこの壷にたくさんの想いを集めてくる」
「壷か…。ライチョウ様のことだから、きっと考えあってのことだろう。そういえばライチョウ様は私たちにはフォンコンに向うようにとの指示だが…」
君はなにか聞いてないか?とハヤブサがツバメに訊ねる。
「いいえ、そのことについては聞いてないけど。きっとフォンコンに重要ななにかがあるのね」
「フォンコンか、この先バラバラにならないとも限らない。フォンコンを集合場所にしておこう」
ワシのそれに、みなこくりと頷いた。目的地フォンコン、きっとスズメたちにとって重要ななにかが待ち受けている場所なのだろう。

「じゃあ、あたしたちの想いもいれておこうか」
「うんそうだな」
スズメやハヤブサたちは早速受け取った壷へと、想いをこめる。壷のそばで、世界を救いたいと強く願えばいいらしい。スズメたちの想いがキラッと一瞬輝きを見せて、壷の中にすうっと吸い込まれていった。目には見えぬし、壷の中にはなにもなかったが、その中に想いはこもり、バードストーンでもある壷になにか力を与えているのだろうか。今はその力を確認することは出来ないが、ライチョウの手に戻った時、壷は大きな力を発揮するのだとスズメたちは信じた。
カラスやワシ、ミサゴも同じように祈り壷に想いをいれた。ツバメとフラミンゴはすでにこめたらしいが、フクロウはまだなのだという。
「まあフクロウちゃんはまだよくわからないみたいだから、しょうがないか」
幼いフクロウはともかくとして、もう一人していないものがいた。
「タカ」
ワシが促したが、タカは興味なく、想いをこめることはしなかった。まあ本人にその気持ちがなければ行為に意味はない。今は仕方ないとワシは諦めた。無理強いすることではない。

「この壷ですべきことも大切だが、バードストーンを得る事も大事だ。まずはケツァールの城に向おうと思う」
ワシが仕切り始め、提案するのはケツァール城へ行き、バードストーンを入手するということだった。
「ケツァール城って?」
「もしかして、森の中から見えたなんかすっごい建物のことじゃないかい?」
フラミンゴが見たそれで間違いないだろうとワシは答えた。
タカ、ツバメ、フラミンゴにフクロウが加わり、ワシは彼女たちにも協力してもらえるように頼んだ。ワシの味方だと自称するタカは当然として、ツバメたちも快く引き受けた。ただワシはフクロウは戦力にいれてないわけだが、翼の戦士として扱ってもらえないことにフクロウはぶうっとむくれた。しかしだめと言われてもフクロウのことだから、勝手に出張るかもしれない。
「ツバメたちが仲間になってくれて、心強いよ」
ね!とスズメが嬉しそうに言った。
「ああそうだな。ケツァールの城には強い翼が大勢いる。もし戦いになりでもしたら、味方は多いにこしたことはない」
とハヤブサも頷く。頼りにされて、ツバメもテレながらも嬉しそうに応えた。
「ケツァールは強いが、ケツァールが持っているバードストーンを奪うことが出来れば、勝てないことはないかもしれない。バードストーンは持っているだけで強くなれるし、それに光の翼であるスズメにはバードストーンが必要なんだ」
ハヤブサの言ったことに、ツバメたちは一瞬驚き、え?と我が耳を疑った。タカもぴくりと反応し顔を起こす。
「光の…翼?」
「そうなの。あたしは光の翼なんだ。まだよくわかんないこと多いけど、ワシさんの話では光の翼が救世主としての力を高めるにはバードストーンが必要らしいの」
「すごいわ。スズメの翼がそんなすごい力を持つなんて」
ツバメは驚きながらも、それを受け入れていたようだ。クジャクからライチョウのもとに向うようにと命じられたスズメは、どこか特別だとは思っていたが、光の翼なら特別も特別な存在だ。また同時にライチョウの孫娘であることも伝えた。
「ふーん、でもさ、この目で見ない限りはなんとも言えないけどねー」
ふふんと意地悪な調子でスズメに絡むフラミンゴに、なにをー!とお約束のように言い返すスズメ。
「そうかもしれない。だが私たちはその力を何度も目の当たりにしたんだ。スズメは光の翼なのは間違いない」
ハヤブサ様が言うならーと、渋々納得させられたフラミンゴ。たしかに目で見てないことをすぐに信じるのは難しいだろう。だからといってすぐに見せてやれるものでもないのだ。スズメの光の翼はいつでも力を発揮できるわけじゃない。その力はスズメの感情に強く影響する。
ワシが先日ケツァールから奪い取ったバードストーンの一つはスズメが所持していた。バードストーンは翼の力に大きく作用するといわれている。手にしただけでまだそれを確かめていないが、スズメに変化はあるのだろうか。バードストーンを手に入れる前に、とワシが重要なある事実を皆に話す。
「バードストーンについてだが、持つだけで力を得、また翼に埋め込めばさらに強い翼を得るといわれている。だが、手にしてもバードストーンを使わないでくれ。バードストーンを扱えるのは光の翼だけなのだ。もしそれ以外のものが使い、多用すれば翼の力に、さらには命の危険にも関わることになる」
ワシの真剣な顔つきに、みなも厳しい面持ちでこくりと頷いた。よくわかっていないフクロウ以外。
「とにかく、バードストーンを早く集めろってことね! 行こう!みんな」



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