「くあっ」
ワシの攻撃を受け、のけぞるハヤブサのもとへとスズメが走った。
「ハヤブサさん!」
ハヤブサの背を抱えるようにしてスズメは彼女に心配の声をあげる。
悔しそうに顔を歪めるハヤブサの目の前には、表情一つ崩さない冷酷なワシがいた。
眉を吊り上げ、スズメはワシに怒りの感情を見せる。
「退くんだ。巻き添えをくいたくなければ。私は君のような子供を相手にするつもりはない。
私が用があるのは、ハヤブサだけ。邪魔をするな」
ワシの警告にスズメが素直に従うわけがない。ワシの言葉と態度はますますスズメの怒りの感情を高ぶらせる。
ハヤブサを庇うように、スズメは小さな体を盾に彼女の前に立ち、ワシへと対峙する。
「イヤよ! ハヤブサさんは大切なあたしたちの仲間よ。絶対に傷つけさせないんだから!」
キリと強い眼差しでワシを睨むスズメ。ワシは「ふぅ」と溜息をついて、冷たい目をハヤブサへと向ける。
「こんな子供まで戦わせるとは、なにを考えているんだ」
「あたしは光の翼の救世主よ! ただの子供じゃない」
スズメの言葉に、ワシは一瞬ぴくりとしたが、すぐに「ふぃー」と息を吐いた。どこを見ても、彼女が光の翼に見えない。茶色がかったスズメの翼からは光などちらりともしていないのだから。
「光の翼?なにそれ」
崖の上のペンギンがバカにしたように笑う。
「そうだ、スズメが光の翼の救世主なんだ。兄さん、あなたが私に教えてくれた、世界を救うっていう」
「そうだよ!あたしが救世主なのよ!
あなただってライチョウ様を信じているんでしょ!?
ハヤブサさんにライチョウ様のことを教えたのはワシさん、あなただって聞いた。
だったらあたし達に力を貸してよ!」
「バカを言うなハヤブサ。光の翼? その子の翼は光っていないじゃないか。もっとマシなウソをつくんだな」
言ってわかってもらえぬのなら、と短絡なスズメは翼に力を籠めてその力を放つ。
「その目で確かめろ!」
ギュンと風を切り裂く音をさせて、スズメのスピードは目に止まらぬ速さに達する。ワシ目掛けてスズメは走り、その体は眩く光に包まれる。光の翼の力、瞬きを一つするくらいの短い時間だった。スズメの光の翼はここにいた全員が見れたわけではなかった。聞こえたのは風の音と、一瞬消えたように見えた小さな少女。
ワシの目にも錯覚かと思えたらしい。が目の前に迫ってきた少女が金色に輝いているように見えて、ワシは己の目を疑い、身の危険を感じ、とっさに防衛行動に出た。
「くっ、まずい」
ワシは敗北の恐怖を感じた。翼で身を守るように激しく羽ばたかせ強い風をおこす。守りの風を。激しい音が響いて、その一瞬の出来事に、みな目が釘付けになっていた。
「きゃあっ」
悲鳴を上げてはじけるように後方に飛ばされたのはスズメ。翼が消えた状態で弾かれる彼女の元にハヤブサが、カラスが走った。
「くっ、スズメ!」
地面にぶつかる前に間一髪間に合ったハヤブサに抱きとめられ、すぐにカラスがスズメの体を預かる。
「大丈夫か? スズメ」
カラスの心配する声に、くっと苦しそうに顔を歪めていたスズメだが、すぐに目を開いて「平気」とにこりと笑みをみせた。
スズメを気づかうハヤブサだが、同時に彼女は敵対するワシのほうにも気にする表情を向けていた無意識に。
光の翼の攻撃を受けたと思われるワシ。無事でいられるのだろうかと。不安な音がハヤブサの中でなっていた。
バッとサイドに広がった大きなワシの翼。ワシは地に立っていた。スズメの突撃を受けてなおワシは立っていた。
が、無傷とはいえ、ワシの様子が先ほどとは違っていた。わずかに目は見開かれ、少し息が上がっているようにも見えた。
冷や汗が浮いていたのをワシは感じていた。とっさに全力で守りの壁を作ったおかげで、スズメの攻撃を凌いだが、あの瞬間危機を感じていた。もし守りに徹していなければ、どうなっていたか、正直自信がなかった。が、それを表面に出さないよう、ワシは冷静に呼吸を整え、体勢をなおす。
「ねぇ、さっきあのこの翼光って見えなかった?」
くるりと丸い目でベニヒワを見上げながらペンギン。目の錯覚だろうと思い込み「さあな」とつれない返事を返すベニヒワ。
「ケガをしたくなければ下がってろ。私の標的はハヤブサだけだ」
「なっ」
むかっと怒りの表情をだすスズメをとめるようにハヤブサが彼女の前に立つ。
「スズメ、カラス、二人とも下がっててくれ。ワシ兄の言うとおり標的は私なんだ。いや、私も、ワシ兄を倒さなくちゃいけない。それが私の選んだ道なんだ」
「ハヤブサさん」
「ハヤブサ、本気で君は兄さんを倒せるのか?」
「ああ、そうしなきゃいけないんだ」
言い聞かせるようなハヤブサの返事。わずかな横顔だけど、カラスは感じとっていた、ハヤブサの揺れる心を。果敢にも兄と戦うと決意を表しているような彼女だが、兄と戦うことに戸惑っているハヤブサをその中にカラスは感じていたのだ。ライチョウを信じる道を進むといったハヤブサ、そのために兄と戦うことになってもかまわないと。だけど本当にハヤブサが、兄を傷つけてまでその道を進む事が出来るのだろうか?ハヤブサはライチョウとワシ、どちらかを選ぶことができるのか? どちらを選んでもハヤブサは後悔するんじゃないのか?いやそれ以前に、どちらも選べないのでは、と。
「どうした? 怖気ついたか?ハヤブサ」
挑発するようなワシの言葉。キッと顔を上げてハヤブサが翼を広げ飛ぶ。
「私は戦う!」
自分のほうへと飛び込んでくるハヤブサを、真正面からワシは待ち受ける。見開かれた目は確実にハヤブサの動きを捉え、直前で攻撃を翼ではじきとばす。
「くっ」
弾き飛ばされて、悔しそうに呻いても、すぐに体勢を立て直しハヤブサは突撃する。そのたびにワシはハヤブサの撃を弾き、また待ち構える。完全に受けの体勢のワシに、ひたすら攻撃を放つハヤブサ。不利なのはワシに見えたが、息を上げていたのはハヤブサのほう。だがまだまだ彼女にも余力があった。弾かれるたびにまた突撃する。
単調な攻撃と防御の繰り返しに、あきてきたペンギンが「ふぁ〜」とまぬけなあくびをついた。
「なんか、あきちゃったぺん」
思わずまぬけな口癖がでてしまった。
ハヤブサの身が心配でならないスズメはすぐに援護に行きたかったが、彼女のそれを邪魔していたのはカラス。彼に肩を掴まれ、助けに向うことが出来ない。イライラをカラスにぶつける。
「ちょっとカラス、早くハヤブサさんを助けに行かないと」
ハヤブサに下がれといわれたからか、だからカラスはただ見守っているだけなのかと、スズメは不安な気持ちを露わにする。
「待てよスズメ。俺は…信じたいんだハヤブサを」
「ハヤブサさんの強さはわかっているよ、でも相手はお兄さんなんだよ、あたしの光の翼だって弾かれたんだ。あの人ハヤブサさんよりずっと強い翼だよ。ハヤブサさんに勝ち目なんて」
「そうじゃない。俺が信じているのはハヤブサの感情…」
「感情?」
こくりと頷くカラス。その目はじっとハヤブサをそして、ワシを見つめていた。
「ハヤブサの兄さんを想う心。ハヤブサには兄さんを倒してまで突き進める非道さなんてない」
「それじゃあ、ハヤブサさん完全に勝ち目ないってことじゃない」
走ろうとするスズメを慌てて抑えるカラス。なによ!とスズメが不満な声を上げる。
「ハヤブサだけじゃない。あの人も、ワシさんもきっと同じようにハヤブサを傷つけることなんてできないよ。
だってあの人は…」
それに気づいていたのはカラスだけなのだろうか?ときおり見せるワシの表情、ほんの一瞬ではあるが、心を痛めるような複雑な表情を。
「もう少し見守ろう。俺はあの二人のお互いを想う気持ちを…信じたいんだ」
「カラス。…わかった、あたしも、信じたい」
きゅっと表情を変えて、スズメはカラスを見上げた後、ハヤブサたちを見守った。
何十回に達する攻防。このころにはハヤブサも、察し始めていた。ワシの行動のおかしさに。
「その程度の力でサイチョウ様と戦うというのか? 笑わせるな」
「くっ、たあーー」
ぶつかり合う翼の音。荒野に響くハヤブサの掛け声。何度も何度も。あきてきたのはペンギンだけじゃない。いらいらを募らせたケツァールが、崖上から命ずる。
「ワシ、いつまでかかっているの。とっとと処刑を終らせなさい!」
ケツァールの声に、覚悟を決めたようにワシの目が静かに細められる。突進してくるハヤブサを真正面から受け止め…、そのまま押し倒されるようにワシは地面へと、翼が硬い地面につく。勢い余ってワシの上に馬乗りになるハヤブサ、拍子ぬかれた顔で、ワシを見下ろす。
「どうしてワシ兄…」
ワシが手を抜いているのをハヤブサも気づいていた。でもまさかと、疑う心があった。ハヤブサの手は、地面についたままのワシの翼にかけられていた。掌から感じとる。ワシの翼に戦意がないことを。
「やっぱり、あの人は、ハヤブサを」
つぶやくようにカラス。カラスが信じるといったそれは、ワシとハヤブサの強い絆、兄弟愛という名の。
翼に手をかけるハヤブサの腕をワシの手が掴む。ハッとした顔をワシに向けるハヤブサ。心臓がドクドクとなっている。不安な感情の音。
「私の…負けだ」
ハヤブサを見上げながら、静かにワシは敗北宣言を告げた。だがハヤブサは勝利に喜ぶ顔にはならず、不安な顔で、瞳は揺らいでいる。倒すと誓ったのに、イヤだと悲鳴を上げる矛盾した心。ライチョウを信じ、この世界を救いたいと強く想うのに、一番大切なものは、きっと兄なのだ。今痛いほどハヤブサはそれを感じる。
わずかに震えだしている妹の右腕をぎゅっと力を込めてワシはにぎる。なにかを促そうとするように。
ワシがなにを言いたいのか、ハヤブサにはわかってしまった。びくんと肩を震わし、さらに不安な瞳を揺らせる。
「ワシ兄…」
「折れ。そうすれば終る。お前の勝ちだ…」
切なげに、目を細めるワシ。優しい兄の顔、久々に見るそれは、だけどもとても悲しい。堰を切ったようにあふれ出る感情をハヤブサはとめられなかった。
「うっ、そんな、そんなことできない。そんなことすれば、兄さんの翼がなくなってしまう…」
翼の者にとって、翼は敏感で重要な器官。傷つけ方によっては二度と再生不可能になってしまうこともある。翼を失えば、サイチョウのもとにいることもきっと許されないだろう。戦力でなくなるのだから。サイチョウ以前に、使えないものを置いておくほどケツァールに慈悲の心があるとは思い難い。
ううっとワシの上で嗚咽するハヤブサ、両の目からはぽろぽろと涙があふれ出ていた。
「私には、…できない」
兄妹の闘いが終ったことに、後ろで見守っていたスズメとカラスは安堵する。が、ギリギリと苛立ちの感情を激しくさせるのは、ケツァール。
ハヤブサに下敷きにされたまま、微動だにしないワシに、苛立ちの声を浴びせる。
「ワシ!ワシィ! まさか負けるつもりじゃないでしょうね? あなたそれはサイチョウ様に対する裏切りよ!」
ケツァールの声に反応するようにワシはハヤブサの肩を押しながら身を起こす。そして、ケツァールへと振り返る。
「私は裏切ったりしない!」
「じゃあなぜ、ハヤブサを殺さない?!」
「妹を殺せば、サイチョウ様が喜ばれるというのか? 世界を救えるというのか!?」
普段冷静なワシが、感情露わに声を荒げる。ケツァールに対して従順だったワシの豹変、いや、その予兆はあったのかもしれない。ケツァールも気づいていたように。わかっていたこと、だがあらぶる感情をケツァールは押さえつけられない。ワシよりも激しく声を荒げ、対抗する。
「そいつらはサイチョウ様の邪魔をしようとしているのよ! 消せばあの方も喜ばれるのよ!
さぁ、さっさと殺しなさい! ワシ、私はねじらされるのが大嫌いなのよ」
きゅっといったん目を閉じ、感情をリセットするようにワシが俯き再びケツァールへと顔を上げる。その目は迷いなく、また挑戦的にとケツァールが感じるような強い眼差しだった。
「私は…あなたの命令はきかない」
ワシの言葉に、ケツァールの表情がわずかにひきつる。ギリッと歯の軋む音をさせて生意気なワシを睨む。
「なに、裏切ると言うの?!」
この私を?!
「裏切るわけではない。私はサイチョウ様に直にお会いしたい。本当に正しい道はなんなのか、ちゃんとあの方と話したいのだ。私もハヤブサと同じに、強引なやり方で世界を治めても本当の平和はこないと…、ライチョウ様の教えが正しいと思うから。そのことをちゃんとお伝えしたい」
くくくく、とケツァールは狂ったような静かな笑い声をあげて、ギンと強気な表情へと変わる。
どこまでも愚かで可哀相な子…。
「フン、裏切り者に会ってくださるものか!」
ビッと腕を振り下ろして、ケツァールは若き翼に命じる。
「ベニヒワ、ペンギン! やってしまえ!」
「はい!」「ぺーん」
この合図を待ってましたとばかりに、うずうずしていた崖上で待機続行中だったペンギンとベニヒワが翼を開きながら飛び降りる。
「下がってろ、ハヤブサ」
バッと身を起こしてワシは翼を広げる。ハヤブサは戸惑いの顔を見せながらも素直に後ろに下がり、彼女の側にスズメたちが駆け寄る。
「ハヤブサさんだいじょうぶ?」
「ああ、私なら平気だ。ワシ兄」
地面で立ったまま、待ち構えるワシに、意気揚々とベニヒワたちが攻撃をしかける。
「覚悟!」
「ダンシンダンシンいえーー♪」
ギッと戦いの眼差しのワシは、翼を力強く動かして、飛立つ。こちらへと降りてくる翼二人を弾いて、まっすぐに彼が目標とするのは、崖上で睨みつけるケツァール。
下方からケツァールを襲うのは風の撃。それはわずかにケツァールの肌をかすめて、それを放った主はもう彼女と同じ高さにいた。
自分と同じ目線に立つなど…。ギラギラと沸き立つ苛立ちに、ケツァールの顔が歪む。
「ワシィッッ!! おのれぇーー!!」
両手を広げ翼を開く、美しい翼だが、美しい彼女の顔は鬼のように恐ろしく歪んでいる。ケツァールを挑戦的に睨みつけ、対峙するワシ。ケツァールの翼から竜巻のような激しい風の激が生まれる。同じように風の撃で対抗しようとするワシだが。攻防は数分と続かなかった。にまりとケツァールの唇が動く。次の瞬間、パァァンと弾かれる音が響いて、ワシの悲鳴が聞こえた。
「ワシ兄!」
翼が力を失い、力負けしたワシは地面へと叩きつけられる。衝突の瞬間、翼で衝撃をいくらか吸収したおかげで大事にはいたらなかったが、一度バウンドしたほどの衝撃、受けたダメージはけして軽くはなかった。
すぐにかけよるハヤブサは、横たわった兄を抱き起こし「ワシ兄!」兄の名を呼び続けた。
「うっ」
苦しそうに顔を歪めるワシを見下ろし、ケツァールの怒りの炎はおさまった様に見えた。「ふふふ」と高みから見下ろしながら笑みを浮かべる。
「ワシ、私に逆らったことを後悔するがいい。帰るぞ!二人とも」
ぶぁさと翼を翻して、二人の配下とともにケツァールは飛び去っていった。
「えーとどめささないのー。つまんなーい」
「いいから戻るぞペンギン」
ぐちる相棒を促し、ベニヒワはケツァールの後姿を追った。


「ワシ兄!」
「ハヤブサ、痛い想いをさせてしまって、すまない…」
ハヤブサの膝枕で、苦痛に顔をゆがめながらも、妹を見上げ優しげに笑んでみせるワシ。ゆっくりと呼吸をしているが、ケツァールから受けた傷はやさしいものではない。
「よし、今こそあたしの力だね」
ワシの前にたちそう言うのはスズメ。
「スズメ」
「ワシさん、見てて、感じて。これがあたしの光の翼だよ」
「君は…」
にこっと笑んで、スズメは背中に翼を広げる。目を閉じて、祈るようにその力を呼ぶ。光の翼。
ぱあっと翼が光り、スズメ自身を眩く包む。それは周囲に広がり、ワシを中心にハヤブサの体も包み込んだ。ふうっとゆっくりと光は消えていき、スズメの背の翼も消えてもとの姿に戻るころ、ワシとハヤブサの傷は癒えていた。
「光の翼…」
上半身を起こして、スズメを見るワシに、スズメが「あたしはスズメで」「俺はカラス。さっきから思っていたんだけど、あなたは最初からハヤブサを傷つけるつもりはなかった。ダメージも最小限に抑えていたし」
そうでしょう?とワシへと訊ねるカラスに、ワシは「いや」とわずかに首を横に振った。
「実は結構本気だった。いやさせられたんだ。強くなったなハヤブサ」
横の妹へと振り向き、尊敬する兄に褒められ「ワシ兄」と笑みをこぼすハヤブサ。和やかな空気になるが「でも」とワシは真剣な眼差しになり言葉を続ける。
「まだまだだ。今のままではサイチョウ様はおろか、あのケツァールも倒せないだろう」
ワシでも敵わなかったケツァールは、将の地位につくだけあり、翼の力も相当のものなのだ。ハヤブサはもちろん、ワシに敵わなかったスズメでも相手になるか怪しい。
それだけでなく、ケツァールの配下の翼も大勢いるのだ。ケツァール一人倒せばいいわけではない。
勝てるための方法はあるのだとワシは告げ、ハヤブサの手になにかを渡した。それは掌のおさまるほどの小さく、固く丸みを帯びたもの。
「これは…」
「バードストーン。ケツァールのペンダントだったものだ」
「!」
ワシが手渡したのはバードストーン。それはケツァールが身につけていたペンダントのものだった。ケツァールとの戦いの中で、ワシが捉えていたものはバードストーンであり、一つでも手に入れたかったのだ。戦いに敗北はしたが、目的はとりあえず達成していたのだ。
ごくりとツバを飲み込んで、それをぎゅっと握り締めるハヤブサ。とは対照的にのほほんとした態度で「バードストーン?」と訊ねたのはスズメ。それにはカラスが答えた。
「鳥石って書くんだよな。神の石とも呼ばれている」
「神って、あたしたちを造った鳥神のこと?」
「そうだよ」
と答えたのはカラスでなくワシ。
「鳥神には我々と同じ翼があるらしい」
「その石が鳥神とどう関係があるわけ?」
お兄さん教えてーな態度のスズメに、ワシは丁寧に説明をしてやる。
「我々は卵の中から生まれてくるよね。時々その中に石を手に持った子が生まれることがあるんだ。
その石をバードストーン。鳥神から授かった宝石として大切に祀られているんだ」
「…ふーん、見たことないんだけどなー」
ねぇとカラスへと同意を求めるスズメ。日鳥国にあっただろうか?と記憶にない。
「仕方ないよスズメ。今はほとんどがサイチョウ側にわたってるんだよ」
「ええっどーして?」
「バードストーンは持っているだけで強くなれる。翼に埋め込めば、さらに翼の力を高めることができるんだ。そうだよな?ワシ兄」
こくりと頷き、「それに」とワシが真剣な眼差しでスズメへと告げる。バードストーンの重要性、それを。
「君が光の翼であるならば、救世主になる力を得るためにも、バードストーンは必要だ!」


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