島魂粉砕

モドル | ススム | モクジ

  第六話 ジンヤとスミエ  

「一体どういうことだ?! キョウジ」
第一声から怒声で、キョウジの研究所にきたのはジンヤ。

「いきなりなんのことだよ」
「ふざけるな!」
それはコッチのセリフだと思うキョウジ。
会って早々、なにを憤慨しているのかコイツは。

「俺との約束を破りやがって! ふざっっけるなよ!」
怒りのままに掴みかかってきそうなジンヤから、慌てて距離をとる。ただ狭い室内では距離をおくにも足りないが。

「だから、なんだよ、約束って」

「シズクのことだ! マサトとの話が進んでいるそうじゃないか!」

「そのことか。…考えるとは言ったけど、約束した覚えはなかったけどな」
キョウジのその返答に、さらに怒りのゲージがあがるように、ジンヤの目からギャンと効果音が響く。
「ふざけるなこの薄情者が! それになんなんだ?あの女は!」

「はあ、あの女っていったいだれの?」

「西炎スミエのことだ! なんだあの女は、ふざけやがって!」
怒り溢れんばかりにジンヤは壁を殴りつける。よせっ壁が壊れるとキョウジがやめろと叫ぶが、こちらに殴りかかってきそうな勢いなので、あまり強く言えず。

「てスミエ? お前スミエとなにかあったのか?」

「なにかだと? なにかなんてもんじゃない、なんなんだ? あの女はっ!」
ギチギチと歯が砕けそうなほど噛み締めて、掌に爪がギリギリと食い込みそうなほど握り締める拳は震えている。
しょっぱなから怒りマックスなその原因は、どうもそのスミエにあるらしい。



ジンヤはスミエとともに、父に挨拶に向った。ジンヤは厳しい父の前では、いつも緊張してしまうし、親子だからといって馴れ馴れしい態度はけっしてとらない。幼い時から、厳しくしつけられ、父の前では常に正座を崩してはならない。もちろん話し方にしてもだ、常に敬語でキビキビと話す。
ジンヤの父はジンヤ以上に眉間に皺がデフォルトで、気安く話しかけられる人物ではない。
が、スミエには緊張感など皆無なのだろうか。
「お義父さまよろしくお願いしますわ!」
キャピキャピルンルンといった雰囲気で、花を散らせるようなオーラとテンションでスミエは挨拶をした。あの父上になんて態度だこの女とジンヤは内心焦ったが、スミエの態度に父は一切動じる事がなく、「こちらこそよろしく頼むぞ、スミエさん」とあの鬼のように厳しい父が頭を下げたのだ。その衝撃はすさまじかった。スミエ自身が宣言していた通り、スミエはジンヤの父に気にいられていた。他人に好かれやすい性質は、兄のマサト譲りなのだろう。ちょっと小うるさい感じの女性だが、明るく物怖じしないところは、周りに好印象を与えやすい。

父への挨拶をすませ、ジンヤとスミエは二人きりでお茶をしつつ会話をしていた。会話と言ってもスミエの一方的なトーク&質問だった。あまりぺらぺらしゃべることが苦手なジンヤは、おしゃべりな相手のほうがあんがい楽なのかもしれない。
「ねぇねぇジンヤさんジンヤさん」とスミエは質問やら話したい事が止まらない。ジンヤを終始見つめ、キラキラとした眼差しで頬を染めながら、「アタクシはなになにでなになにですのよー」と自分のアピールもとにかく止まらない。おしゃべりと自己アピールが大好きで、そしてジンヤにお熱らしく、ジンヤさんのことがもっと知りたいですの、いろいろ教えて下さいなと質問も止まらない。

ジンヤはなぜスミエがここまで自分を好いてくれたのかわからない。特別好かれるような態度をとった覚えはない。父の紹介で何度か挨拶をした程度だ。
スミエはジンヤに一目惚れしたらしい。兄妹揃って一目惚れしやすい性質なのだろうか。それはともかくとして。
スミエいわく、「ジンヤさんってとっても真面目そうでアタクシの理想ですの。浮ついた噂もありませんし、それって信頼できる相手ってことじゃありませんの。それに、かっこよくて、まるで王子様みたいですわ。年下なのにしっかりしてますし、アタクシ、甘えられる男性ってとてもタイプなんですの。お兄様みたいなv
マサトお兄様って優しくて賢くてとても気のきくステキなまさに完璧な殿方ですのよ。ジンヤさんはどことなくお兄様に似てますわね。うふ、アタクシのハートを射止めるあたりなんて同じですわ!」
とのことだ。以下続くが長いので省略するが、だいたい同じような事を延々と語っているだけだ。

と、スミエが自分に好意を抱いてくれている事は悪い事じゃない。むしろ本当に俺なんかでいいのか?と思う、もうしわけないほどだ。
ジンヤとしても、スミエには本当のことを話しておかなければいけないと思った。ここまで本気で、自分の事を想ってくれている相手だ。騙すわけにはいかない。
真実を話して、それでスミエが心変わりをし、縁談が破談に終わっても仕方ないと思った。
伝えるなら、早い方がいい。婚姻の儀を行う前なら、まだ間に合う。

「スミエさん、あなたに話しておかなければならないことがある!」
意を決してジンヤはスミエに伝える。
「あら、なんですの?改まって…、まさかプロポーズってやつですの? きゃあどうしましょう、アタクシ、そういうのはじめてで緊張しちゃいますわ! このあとバラの花束が飛び出してくるんですの? きゃーどきどきしますわ、アタクシバラは大好きですのよ!何色でもどんとこーいですの、花はなんだって好きなんですのよ、いつもお兄様が、スミエはほんとに花が似合う女の子ですねって言ってくれてー、まさにそのとおりなんですけど」
「頼むから少し黙ってくれないか? 大事なことなんだ!」
「え、ええわかりましたわ。さあ、おっしゃってくださいな」
期待の眼差しで、キラキラと星がまたたく眼差しでジンヤを見つめながら、すごい期待でジンヤを見つめながら、スミエが待つ。待っているが急かしているかのようなオーラだ。汗がたらりと伝いながらも、ジンヤは思い切って、告白する。

「実は、好きな人がいるんだ」
「ええ、わかってますわ」
ぱっちりくりくりとした眼でこくりと頷くスミエに、ジンヤは「え?」となる。スミエは意外とものわかりのいい女性なのか。
と思いきや
「わかってますのよ、ジンヤさんの好きな相手のことくらい。改めてプロポーズってやつですのね。うふふ、どうぞいくらでも、アタクシのことを好きとおっしゃっていいんですの。ええ叫んでもいいんですの!島中に響くくらい、叫んでもよろしくてよ、恥ずかしいですけどvv」
「違う!そうじゃない! 俺が好きなのは、君ではない別の人のことだ!」
ここまで言わないとわからないなんて。
ゼィハァなりながら、やっとこジンヤは伝えた。
「え…? どういう、ことですの?」
聞き返すスミエ、ジンヤにゾッコンラブな彼女からすれば、聞き返したくなるのも当然だ。それは信じたくもない言葉だ。
婚姻する相手に、君ではない相手が好きだと宣言されて、ショックを受けないはずがない。

重い沈黙が一瞬。
ジンヤも覚悟した。怒りの言葉が降りかかろうとも、受け止める。

「どういうことですの? 他に好きな人がいるですって? だれですの? どこのどいつだと言うんですの? ちゃんと説明してくださる?」

キラキラと恋する乙女の顔は一変、怒りの表情に変わる。

「すまないがそれは言えない」
シズクのことは話すわけにはいかない。生涯墓まで抱えてもっていく。シズクへの想いは親友のキョウジ以外に、誰にも話すつもりはなかった。

「言えない? …そう、そういうことだったんですの。まったくとんだ裏切りもあったもんですわ。アタクシここまでの侮辱受けたことがありませんわ。…こんな、ここまで酷い扱い、あったもんじゃありませんわ」
怒りで声が震えるスミエ。ジンヤはひたすら「すまない」とわびるしかなかった。

「許しませんわ! このっっっホモ野郎ッッッ!!!」

「な、なんだと?」

カッと見開いた目で、怒り全開のスミエはジンヤをホモ野郎と罵る。

「ちょっとまて、誰がホモだ?!」
「しらばっくれるんじゃありませんわ、今自分で断言したじゃありませんの! だれにも言えない相手が好きだと、つまりどう考えても、相手は男、ホモってことじゃありませんの! ああもう信じられませんわ、気持ち悪い汚らわしい、このっっ変態ホモ野郎! ドブに落ちてドブ水でもすすっていればいいんですわ!」
「気持ち悪い誤解はやめてくれ! 俺はホモなんかじゃない!」
「きゃあー近寄らないでくださいな! バイキンがうつりますわ! 汚らわしいホモ菌が飛び散りますわ!」
「がはっ」
テーブルの上にあったガラス製の重たい灰皿を、ジンヤ目掛けて投げつける。もろにくらってジンヤはダメージをうける。
「な、なにをするんだ」
「もー信じられませんわ!許せませんわ!このゴミクズホモ野郎!」
「がっ、この、貴様いい加減に、やめっ、うぐぅっ」
ガッスガッスと容赦なくスミエは鈍器を手にジンヤを殴る。さらに足で蹴りつける。しまいにはジンヤの額がパックリ割れて血が伝い落ちる。


「――で、その額のガーゼは、スミエにやられた痕なんだ?」
うわーと青い顔でキョウジは痛々しいジンヤの額を見やる。ぷるぷると震えるジンヤ、コイツの怒りっぷりは原因は大半がスミエだったというのか。
「しかしお前の相手が、あのスミエだなんて…。よくもまああんな地雷を選んじゃったよな…」
スミエの名前を聞くだけで、キョウジも青ざめる。
「なんだ、お前スミエを知っていたのか?」
「関わりたくないんだけどな。昔のことを、延々と攻め続けてくるような女なんだよ。僕とメバルの顔を見るたびに、変人だの変態だのドブにはまってドブ水すすってろだの、罵られるんだよな…」
一体お前過去にスミエと何があったんだ?と訊ねたが、いやだ思い出したくないとキョウジはますます顔を青ざめたので、聞くのをやめた。スミエにはキョウジも被害にあっていたのかと思うと、同情する。とにかく、激しい女だ。

「災難だったな、ジンヤ。で、どうなったんだ? スミエとの縁談は…」
ラブラブから一転、憎しみへと変わったスミエの恋心。スミエは自分がされた嫌な事柄は未来永劫忘れない。相手を見るたび、そのことを攻め立て、酷く罵り続ける。
ジンヤをホモ野郎と思い込んだスミエも、さすがにジンヤとの縁談はキャンセルしたくなるのでは。
ギリギリと怒りに震えながら、その結末をジンヤは語る。



「フン、なんですの?その目は、本当に悪いと思っているなら、土下座なさいな。男なら土下座くらいやって当然ですのよ? 所詮アナタの誠意なんてその程度ってことじゃありませんの。
本当に許して欲しいなら、今すぐ土下座しなさいな」
鼻息荒く、当然まだ怒りの収まらないスミエ。流血し、怒りでますます血が噴きそうだが、土下座をすればスミエの気は少しは収まるだろうか。自分が悪いとは思いながらも、土下座だけは抵抗があった。ギリギリと悔しく歯を軋ませながらも、スミエに許してもらうには、土下座をするしかないと言い聞かせて、意を決してジンヤは土下座をした。

「本当にすまなかった!」

人生初土下座だ。地面が顔に引っ付くほどの土下座だ。
ひたすらに、わびるしかない。
スミエがこちらへと近づく足音。すぐそばまで来て、なにも言わず、沈黙が数秒。

「土下座程度で許されると思ってますの?! このクソホモ野郎ッッ」

「がっっ! な、なにをする! 土下座をすれば許すんじゃなかったのか?」
土下座ジンヤにスミエは容赦なくかかと落としをしてきた。またさらに流血して、怒りの形相でスミエを睨む。
怒りが収まるどころか、ヒートアップだ、お互いに。

「ぜっったいに許すもんですか! アタクシを騙し傷つけた罪、未来永劫許される事はありませんのよ! 土下座や切腹どころで、その罪が償えるはずがありませんわ!
永遠にアタクシに謝り続けなさい! 永遠に許しなどしませんけど、当たり前の行為ですわ!」



スミエ怖いよ、怖すぎるよ。ジンヤの話を聞きながら体が震えてきたキョウジ。
「でも、縁はきれたんだよな。スミエに会わなきゃ、なんとか生きていけるぞ」
当然破談になったものだと思ったが…
「は? 縁など切れていない。スミエはこのまま俺と婚姻すると言い張った」
「え、なんで?」
「そんなことこっちが聞きたい! スミエの奴は俺をホモ野郎と罵りながらも、婚姻はすると言うのだ。プライドが許さないからとな」
あのスミエと今後も付き合っていかなくてはならない、ジンヤに同情するが、そのとばっちりがきませんようにと一人キョウジは祈った。

「それよりキョウジ! お前どういうつもりだ?!」
思い出したかのように、キョウジへの怒りも沸き起こる。ループする怒りをだれかどこかで止めてくれと一人キョウジは祈った。頭痛がしてきた。
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