島魂粉砕

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  第十四話 無茶振り夫婦の儀  

自分ができることはなにがあるか?
ミルキィほど風東家に貢献できていないのではないかと思うと、自己嫌悪に襲われそうだった。
幼い頃から、家族のように、キョウジやアラシからはよくしてもらってきた。
代わりに自分はなにができただろう? いつも助けてもらってばかりで、特にキョウジからはジンヤのことも含めて世話になりっぱなしだ。
マサトから守ってくれる為に、半ば人生を犠牲にしてくれたようなものだ、とシズクは思い込む。

キョウジの嫁としてここにきた以上、アラシたちが期待することもわかる。
夫婦の儀を行う事だ。
進んでやりたい事ではないが、いつかはやらなくてはいけないことだ。歴代の呪術師の妻達が行ってきた大事な使命だ。うん、そう大事な使命なんだとシズクは己に言い聞かせる。
愛する人と結ばれたいなど、そんな乙女ちっくな夢など叶うものと思うこと自体おこがましい。
想いでなく使命として、きちんと儀を行い、役目を果たそうと決意した。

なにもむちゃくちゃなことじゃないし、そのはずだし。
シズクにとってはやはり未知の領域で、不安も大きいが、世の中にはもっともっと大変なことだってある。いますぐバク転をマスターしろとか言われる事のほうが難関だろう、いや、やっぱりそっちのほうがなんとかなりそう、などと土壇場になって不安な感情が膨らみ始める。


しばらくして、間のふすま戸が開いてキョウジがやってきた。普段顔をあわせている相手とはいえ、こういう場になると緊張する。シズクは布団の上に正座でずっと待っていた。体の前面をガードするかのように、両手を拳握って腿の上についている。

「(なんだよ、その鉄壁のガード姿勢は)」
と入って早々シズクの態度にキョウジはあきれたが、シズクはいたって真剣だった。

「いいよ」
とは言うが、とてもいいよな姿勢じゃなかった。全力拒否のポーズじゃないのかソレは、とキョウジは心の中でつっこむ。不審な眼差しを感じて、シズクは「どうすればいいの?」と揺れる目で訊ねてきた。シズクはなんとなく知識がある程度で、なにをなにしてどうするなど行為の詳細がわからないから、婚姻の儀以上に不安になる。

「そのまま、力抜いとけ」
とキョウジが伝えて、正座のままだがシズクの拳はゆるいグーになった。背中から抱きしめようと近づいたら、シズクの腕がくいっと前面に動いて、とっさに「肘打ちくらう?!」と警戒して、キョウジが後ろ飛びに距離をとった。
さすがに同じ手は食わないぜ、と反射行動をとったわけだが、キョウジの反応にシズクは怪訝な顔になる。というか、なんの攻防だこれは、と心の中でキョウジはつっこみげんなりする。
この体勢で後ろからいくのはヤバイ、と本能的に察知した。だからといって正面からはもっとマズイ気がする。反射的にシズクがどんな反撃をしてくるかわからない。
むう、とキョウジは考え込む。シズクはただ不安げにキョウジの出方をじっと待つ。

「シズク、四つんばいになって」

「へ? …四つんばいって…こう?」
首をかしげながら、言われるままシズクは四つんばいになる。重力で胸が下に落ちてますます大きく見える。浴衣の合間から肌も見えて、「(これはいい、エロイ)」とキョウジは納得する。
手が下についているから反射的に肘うちはこないし。シズクのエロイ体がますますエロくなってこいつはいいぜと、エロい感情も高まってきたので、シズクの背中から抱きついて、ぷるんぷるんのおっぱいを掴んだ。
ぷるぷるの乳を今度こそ揉もうかとしたが
「ひゃっ! やっ!」
「いでっ」
ガッスとスネを蹴られて、足がもつれて背中から転倒して打ちつけた。

「なにすんだよ!」
「ごめん、だって胸触るんだもん。敏感だから、触らないで」
とシズクは座った状態で胸をガードする姿勢でそう言う。

エロイ乳しやがって触るの禁止だと?!なんなの?それとキョウジは心の中でつっこんだが、シズクが本気で嫌そうにますますガードを硬くするので、不本意ながら「わかったよ」と答えた。
胸は女性の急所だし、仕方ないのかもしれないが…、強く掴んだ気もしないのに、やはり納得はいかないが。

「わかったよ、胸は触らないでするからさ」
と半ばキレ気味にいいながら、肩を押しながらシズクを布団の上に寝かせる。開いた浴衣の隙間から、内腿を掴んで足を開かせた。ぬくもりを感じる足の付け根から白いショーツが覗く。がそこに触れるどころかガン見する前に「きゃあ!ダメっ」とごあんと顎に衝撃を受けて、背中からキョウジは倒れた。
なにが起こったのかというと、シズクに顎を蹴り上げられたのだ。顎クラッシュだ。頭がぐわんぐわんする。

「ごめんね、大丈夫?」
心配してシズクが駆け寄り覗き込む。天井が回っているようだ。

「だって変なところ触るんだもん。…あまり触らないで、してくれる?」
もじもじとシズクはそういいながら、「がんばろう」と誘いをかけるが、さすがに冗談じゃない、いい加減にしてくれと頭に来る。

「触らないで夫婦の儀をしろって? ムチャクチャにもほどがあるだろ、どうしろっていうんだよ? 超能力でも使えって言うのか?」

「う、あのそんなつもりじゃ…」
さすがにキョウジの言う事は極端だとはわかるが、自分でも極端だとは思いながらも、腹が立ってついそんな物言いをしてしまった。

どうせムリなんだろと、予測はついていた。思いつめた顔で頑張ると言っても、説得力皆無だ。
「キョウジのしたいようでいいから」
とシズクは言うが、したいようにすれば手痛いカウンターがくるんだろと思うと、エロイ気持ちも失せてしまう。ドMの気はないので、そんなボコボコにされるセックスなどごめんこうむりたい。

それに、やったところでシズクが想う相手はジンヤなんだろう。自分の向こう側にジンヤを重ねるんじゃないかと勝手に想像したら、余計やりたい気持ちも失せる。


布団の上で座ったまま、シズクの目にはじんわりと涙が浮かぶ。むしろ傷ついているのはこちらのほうなのにな。

「もういいよ、ムリにすることない。どう言い聞かせたってシズクの体は僕を受け入れられないってことなんだろ」

「そんなんじゃ…」
否定する声だが、力なく下に発せられる。その態度だけで十分だ、シズクの気持ちがわかる。

「明日には親父に報告しないといけないし、この先も…毎度ダメだったって報告する事になるんだろうな。さすがに怪しまれるよな。
いっそ僕がホモってことにすればいいよな。それなら別にシズクは悪くないわけだし」
それは庇う言い方ではなく、責める言い方だ。

背を向ける直前、シズクが泣いているのがわかったが、同情なんてできなかった。勝手なのはどっちなんだか。



「はー」と息を吐きながら天井を見上げる。
自室の布団の上で、キョウジは仰向けになっていた。
あんなにムリしてまで夫婦の儀をしようと言ったシズクはシズクで、思いつめていたところがあったんだろう。シズクの気持ちはわかるが、だからといってシズクの気持ちをすべてくむことなどできない。自分はドMでも下僕体質でもない。好きな女のエロイ体を前にして、お触り禁止など、悪魔の所業としか思えない。ちょっと大げさかもしれないが。メバルのようにオープンにシズクとエロイことしたいぜなどと言うわけないが、ずっとしたいと望んでいたことは事実で、それが叶う環境にありながら叶うはずはないとわかるのはキツイ。
また明日になったら、今日の儀もダメだったと親父に報告しないといけない。さすがに、気が重い。親父も早くいい報告を耳にしたいはずだろうに。早く孫の顔も見たいと思っていることだろう。プレッシャーになるだろうから、直接それを言う事はないが、親ならそう望んでて当然だ。
ただでさえ、父にはわがままに目を瞑ってもらっている。キョウジはジンヤのように、父の期待に応え立派な呪術師になりたいなどと望んでいない。ジンヤの父と違って自分の父はおおらかな性格だから、多少のわがままにも寛容でいてくれている。だが、本心はそうじゃないだろうことはキョウジですらわかる。風東の当主として、次期当主を育てなければならないという使命を持っているはずだ。親孝行などほとんどしてこれなかったが、シズクとの婚姻はわが事のように喜んでくれたし、その先にあることも強く望んでいるはずだ。
勢いとキレた感情のままに言ってしまったが、自分がホモなんだと伝えれば、親父は酷く落胆するだろう。自分だってホモじゃないし、そんな汚名冗談ではないが。…まあいいやとなんだか自虐的になりかける。


夜の自室内、もうみんな寝静まっているだろう。しんとしている。かすかに外で鳴く虫の声が聞こえるくらいで。
ギシギシと廊下の床がかすかに軋む音。誰かがトイレにでも立ったのだろうか、誰かと言っても二階の部屋で寝ているのは自分とメバルしかいない。が今の足音はメバルの足音じゃない事は、家族のキョウジにはわかる。音の感じからして女性っぽい。該当するのはシズクしかいないが、シズクの足音とも少し違うように感じた。
じゃあ誰だ? まさか幽霊だとでも?
そんなまさか、とのんきな気分でいながら、その足音の存在に推理をめぐらす。
足音は、キョウジの部屋の前で止まった。
ここに来たというのがキョウジにもわかった。布団に寝たままで、横目で戸をじっと見ていた。ふすま戸に力がかかる音がして、戸は開いた。

「!シズク?」

音の主はシズクだった。儀式の間で寝ていたと思われたシズクがキョウジの部屋へと入ってくる。

「一体どうし…」
上半身だけ起こして、キョウジはシズクに訊ねる。シズクは寝巻きの浴衣姿でじーっとキョウジのほうを見ながら、しゅるり、と浴衣の帯をほどいた。帯はしたっとシズクの白い足元に落ちる。
はらり、と浴衣の前面が開いて、下にはショーツ一枚のシズクの肌が体の中心が露わになる。

どういうつもりなんだ? 先ほどのやりとりで思いつめての行動なのかと思ったが、そうじゃないと瞬時に察した。様子がおかしい。いつもの、というかキョウジの知るシズクじゃない。

にやり、と赤い三日月がシズクの口元に浮かぶ。目も口も笑って、まるで妖艶な娼婦のように、裸になることに躊躇いなく、帯に続いて浴衣も足元にぱさりと落ちる。
ショーツ一枚だけで、薄暗い部屋の中でも、シズクの瑞々しい素肌を感じる。先ほどのような鉄壁のガードもなく、恥ずかしがっていた乳房も隠しもしないで、キョウジのそばへと来る。

「ねぇキョウジ、しようよ」

今目の前の相手が誰なのか、キョウジは瞬時にわからない、混乱気味に「どうしたんだよ、シズク」と言うが、そのとてもシズクとは思えない裸のシズクは「どうもしてないよ、なにがおかしいの?」と言いながらキョウジの上に馬乗りになる。

「わたしのこと、抱きたいんでしょ?」

普段のシズクなら絶対言わない事を今このシズクっぽい裸のシズクは言う。キョウジを見下ろしながら、挑発するように豊かな乳房をぷるんと揺らして。

コイツはシズクじゃない! 顔も体もシズクと瓜二つだが、シズクなら絶対しないことや言わない事を、しない表情をコイツはしている。もしシズクだとしても、おかしくなったとしか思えない。冗談でもこんなことをできるわけがない。

見破ろうとする眼差しで、キョウジは自分を見下ろすシズクを睨む。

だが、男の欲望は、暴発寸前だった…。
「(なんでコイツの体、こんなにエロイんだよ…)」
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