第十九話 アイドル救出!?作戦

ヤデトはりきるある計画
にぎやかしい西の街のナーオにてー
協会主催のイベントやるって?なにを企むヤデトたちよ
すべてはドーリアのご機嫌取りのためかい?
それに便乗するは、これまた別の野望抱えしある男ー
自称アイドルプロデューサー?
この怪しげな男たちの企みに、巻き込まれるは、歌唄いの少女アドルさ
ヤデトたちの悪しき企みから、彼女を無事救い出してくれよ?我らがホツカよ!






あの騒動以来、バラーイの街は特に問題もなく、人々はいつもどおりの日常を過ごしていた。
あの騒動…、つまりは中央政府の官人カピカと悶着あった件だ。引き続きラキラへの監視は行われているが、特に目立った動きは見られない。だが、今後もカピカの動向からは気をそらすわけにはいかなかった。ヤードたち一行もしばらくはここバラーイにとどまり、ラキラの活動を手伝っていた。

ラキラの元には日々各地から救援や支援を求める依頼が寄せられていた。それは主に協会によって苦しめられている人々の助けを求める声だ。各地にいる同志たちと伝達を取り合い、ひとりでも多くの人を救えるよう日々活動している。
依頼の書類の整理を行っているオトートを、シャニィが手伝っている。

「なーなーおっさん、これ、なんて読むんだ?」
「えーと、それはつまりだねー」

「(シャニィまともに読めなくてオトートさんに聞いてばかりだ。手伝っているより、作業の邪魔になっているんじゃー…)」

とホツカが横目で二人のやり取りを見ながら余計な心配をしていたが、オトートの作業ペースが特に落ちるでもなく、楽しげに仕事をしているようだ。

「ただいまー。今日も異常なしよー」

館へと帰館したフィアの声が響く。彼女は日中のパトロールをカツミと交代で務めている。本人も街を見て周れるついでで楽しんでいるようだ。ヤードはラキラの事務作業を手伝いながら、たまにおもちゃでプリンセスの遊び相手もしていた。それを仕事と言っていいのかどうかだが。
ここ数日は特にトラブルもなく、バラーイでの休暇を楽しんでいるような状態だ。協会も中央政府も気になる動きを見せていないのはいいことなのだが、嵐の前の静けさというか、妙な気味の悪さをホツカは感じる。だがここのところホツカは悪夢を見ていない。近い未来に誰かが死ぬ危険はないのだろうが、だからといって気を抜くわけにはいかない。ホツカは不安げにヤードに訊ねる。

「ヤードさん、ヒャケンには戻らなくていいんですか?」

「今のところ協会に動きはないようだし、留守はアーニさんにまかせてある。なにかあればすぐ連絡をくれるてはずだからね。しばらくはラキラ殿の下で手伝いをしようかと思うんだ」

ヒャケンよりも、カピカの動きが気になるところはホツカも同意だ。ヤードがとどまるというのなら、ホツカも行動をともにするので問題はないが。

「ところでシャニィちゃんはお家に連絡しなくていいの? 遠いところまで来ていたらご家族心配してないかしらー?」
「うちのオヤジは放任主義だから全然平気だ」

手紙の一つでも書いたら?と提案すると「めんどくさい」と言ってシャニィが顔をしかめた。まああの親父さんだ、シャニィのことをよくわかっているだろう。
フィアもシャニィもそれぞれに旅を楽しんでいるのがホツカにもわかった。ただ一人、楽しめてなさそうなのは…


「それじゃあカツミ、フィアと交代だ。パトロール行ってきてくれるか?」

ヤードの声で、部屋の隅にいたカツミがのそっと立ち上がる。暗い場所で座り込んでいたためか、無口で仲間と会話することもないカツミは、フィアたちとは対照的に社交の場では存在感がないが、立ち上がり動き出すと存在感は別格だ。全身からあふれ出る闘気に、面識のない者は気圧されるだろう。

「フン、ここは退屈すぎる」
ジロっと不機嫌全開の表情で不満をこぼし、ヤードの側を通り過ぎてカツミは出て行った。その態度にやれやれとヤードたちは肩をすくめる。トラブルがないのはいいことだが、戦闘狂いのカツミにとって平和は退屈な悪でしかないのだ。

「カツミさんには退屈させて申し訳ないね。なにかやりがいのある仕事でもあればいいのだけど。
あっ、そうだ北東にある【ナーオ】の街に地下闘技場があるんだけど」

そこに行ってみるのはどうかとラキラが気を使ってヤードたちに勧めた時だ。

「ナーオですか? ちょうどよかった、ナーオからの依頼も来てますよ」と書類を整理していたオトートの声。その書類に目を通したラキラから直々にヤードたちは依頼を受ける。





ラキラからの依頼を受けて、ホツカ、ヤード、フィア、カツミ、シャニィ、そしてシラスこと師匠はナーオの街へ到着した。バラーイが伝統ある古風な街なら、ここナーオは近代的な移り変わりの激しい街だ。芸術の街と呼ばれるだけあって、いたるところに前衛的なモニュメントやらアートが彩りを添えて、人々も活気に満ちている。遠方からここで一花咲かそうと、人生をかけてやってくる若者も多い。画家を目指す者、音楽家を夢みる者、芝居に芸に、料理を極めようとする者。多くの才能が集う町、それがナーオだ。

「おおっ向こうに劇場とかあるぞ」
「メイクアップアーティストのお店ですって? すっごく気になるわ〜」

女子二人のはしゃぎようときたら。まあフィアたちに限らず、浮き足立つ観光客はたくさんいる。白カラスを連れた少年などこの街では地味なほうだ。

『ここは飯も美味いぞ。…まあ今のワシには味わうことはできぬがな』

師匠のつぶやきを横で聞きながら、ホツカたちは通りを進む。師匠もかつてはこの街に来たことがあるようだ。

「なつかしいね、私も若いころはここでよくギターの弾き語りをしていたものだ」

「ヤードさんもこの街に来たことがあったんですか?」

「うん、そうなんだ。カツミ、お前も懐かしいだろ?」

後ろを歩くカツミにヤードがそう問いかける。がカツミは無愛想に「フン」とそっぽを向いて、ヤードたちのように懐かしむ様子はない。その態度もいつものことなので、特に気にするでもなくヤードたちは向き直り目的の場所へと進む。

「へーそうなのか。カツミここに来たことあんだな。てことは行ったことあるのか?例の場所」

うきうきとカツミの側に駆け寄りながらシャニィが訊ねるが、

「ごちゃごちゃうるせぇ」とカツミの邪魔者扱いするような態度にむっと頬を膨らませる。

「シャニィ君気にしないでくれ。カツミは例の場所は出入り禁止になっているんだよ。せっかくラキラ殿が勧めてくれたんだけど、残念だね」

ヤードのフォローに一変シャニィの表情がウキウキした好奇に溢れたものになる。

「出入り禁止って、カツミなにやらかしたんだよ?」

「きっと伝説を築き上げたのよね?! さすがだわカツミ〜」

両手を叩きながら、嬉しそうな顔で振り向き会話に加わるフィア。当のカツミは迷惑そうにフィアたちから目を背けしかめっ面だ。

「例の場所よりともかく、依頼人の待ち合わせ場所に行きましょう」

談笑して観光している場合ではないのだ。ラキラの代理としてホツカたちは依頼人を助ける為にここに来たのだから。


ホツカたちが向かったのは依頼人が指定したバーだった。まだ営業時間前のようだったが、依頼人がここの関係者なのか、中に入ることができた。
中で待っていたのは二十代から三十代ほどの外見年齢のパリッとした出で立ちの青年だった。

「あなたがご依頼人のロデューさんですか?」

「おおっお待ちしておりました! あなたがラキラ殿? …ん、思っていたより老けていらっしゃる?」

ヤードに気づき、席を立ち駆け寄ってきたその依頼人の男ロデューだが、ヤードの顔を見るなり徐々に怪訝な顔つきになった。慌ててヤードは自分がラキラではないと否定した。ラキラの依頼を受けてやってきた代理の者だと説明した。ラキラは多忙のため直接赴くことはできなかったと話した。ロデューは最初困ったように考え込んだが、すぐに納得したように「なるほどそういう事情ならしかたないですね」と頷いてくれた。


「まず、こちらのチラシを見ていただけませんか」

ロデューが差し出したそのチラシは、あるイベントのお知らせだった。音楽を中心とした出し物を行うそのイベントは【真キューセーホール】という新設のイベントホールで催されるらしい。

「なーんかどっかで聞いたことあるような名前だよなー?」

「なにのんきなこと言ってんの、まんまじゃないか」

とホツカがあきれ気味にシャニィのつぶやきにつっこむ。きょとんとするシャニィだが、フィアやヤードは説明しなくてもわかっている様子だ。

「協会だね。書いてある内容からしてまっとうなイベントのように見えるが…」
「ええ、ただのイベントではないでしょう。多くの人を協会に引き込むために行うのでしょうね」

ふむ、と頷きあうヤードとホツカを見て、いまさらシャニィが「あっ」と声を上げる。

「なに企んでやがるんだ協会め!」
「こんなステキな街で悪いことなんてさせられないわよねー。まだメイクアップアーティストのお店だって見てないのに」

「おっさんホツカ!こんなイベントぶっつぶしてやろうぜ!」「いえそれは勘弁してください!」

と燃えるシャニィに待ったをかけるのは、

「ロデューさん…」
そう、依頼人であるロデューだった。

「私の依頼は、協会に利用されようとしているアイドルの少女の救出と、彼女の夢の救済なのです。そのためにも、イベントをつぶされるのは困るのです」

「アイドルの少女? ロデューさん、それはもしや、ここに書いてある少女のことですか?」

チラシに紹介されている一文に、『救世士を称えるオリジナルソングの歌い手の少女』とあった。名前や詳細は記載されていないが、ロデューの言うアイドルの少女とはまさにその人物を指していた。

「はいそのとおりです。彼女はアドル。私は彼女の保護者のような者です。協会と打ち合わせをしてすぐに、アドルは私から引き離され、イベント終了まで協会側で預かることになってしまい、こちらから一切コンタクトが取れず、大変困っているのです。
アドルはまだ十二歳の女の子で、田舎育ちで世間に疎いところもありますし、己の現状に戸惑っていることでしょう。なにより、私との約束と話が食い違い、ますます不安な想いをしているかもしれません。
一刻も早く解放してあげたいのです」

「大変じゃねーか。協会の奴ら、逆らうなら子供でも平気で処刑とかするような奴らだからな」

話を聞いてシャニィやフィアたちは憤る。手製の爆弾で乗り込む気満々のシャニィにやはり待ったをかけるのはロデューだ。

「お気持ちはありがたいのですが、どうか話を最後まで聞いてください。アドルを一刻も早く救い出したのは本音ですが、事を荒立てずに救出をしたいのです。それから、イベントは中止させない方向でお願いしたいのです」

「イベントは中止させない? なんだよそれ、協会の悪事に加担するっていうのか?」

ロデューに嫌悪をにじませるシャニィを宥めるように、ヤードが彼女の肩をぽんと叩いてロデューの真意を汲み取る。

「考えがあるのですね? ロデューさん」

「はい」とロデューが頷く。ロデューが提案するアドル救出作戦、ホツカたちはそれに協力することになった。協会の目を欺き、さらに協会を利用するという、それは無茶なようで、だが成功すれば協会との下手な衝突もさけられる作戦だった。





真キューセーホールの関係者控え室にアドルはいた。すでにステージ衣装であるふわっとした愛らしい妖精をイメージしたワンピースドレスを身にまとい、髪には花の髪飾りをつけている。元々この衣装はロデューが用意してくれたもので、それをそのまま着用している。衣装に関しては協会からの指定は特になかったようで、それは別にかまわなかったのだが、アドルの不安はやはり…歌のことであった。相談しようにもロデューとは会えずじまいで、どうしたらいいかハラハラしたまま、ついにイベント開催目前となってしまった。

「(このままじゃいけない、なんとかお願いしないと…)」

緊張で心臓がバクバクと鳴る。新設の汚れもまだほとんどない無機質なこの部屋で、長机を挟んで向かい合い座るその相手になんとか自分の意思を伝えなければとアドルは決意する。その相手とは、ヤデトだ。今この部屋ではアドルとヤデトの二人きりだ。おそらく自分とさほど歳が変わらないであろう少年だが、大人たち相手に偉そうな口ぶりで話していた姿を見てきたから、アドルはどうもこの少年が苦手だし、怖いと思っていた。だがいつまでも大人しく黙っているだけでは、状況は好転しないだろう。怖いが言うしかないのだ、どうしてもアドルにだって譲れないことがあるのだから。

書類にゴリゴリとペンを走らせているヤデトに、アドルは思い切って話しかける。

「あ、あのっ「うむ、完璧だ!」

話しかけた瞬間、ヤデトが突然立ち上がり、にやにやと書類を眺める。

「われながら、プログラムも完璧だ。そしてこの演出ならきっと姉上も…満足していただける!」

「は…はあ…」

ヤデトの勢いにアドルの決意はそがれてしまった。言うチャンスを逃してしまったというべきか。

「お前はオープニングでボクの歌を歌ってもらうことになるが…」

チャンスだ! ヤデトのほうから話を振ってもらった。アドルは今がチャンスだと口を開くが…

「あの、そのことなんですけど…」

「うむ、心配するな。成功すればお前にも褒美を与えてやる。期待しておくがいい。ただし、失敗して、ボクの計画を台無しにするようなら、その時は覚悟してもらうからな。絶対にへまはするなよ!」

一転強い口調になって、ギロリとアドルを威圧的な目で見下ろすヤデトに、気圧されて「うぐっ」と言葉を飲み込んでしまうアドル。「はい、がんばります…」と気を使うように返事を返すしかなかった。

「フン、当然だ」

また一転機嫌のいい顔つきになるヤデトに、アドルはひとまずホッとする。

「…? なんかにおうな。このにおいは、花か?」

ヤデトがスンと鼻をゆらす。かすかに甘い花の香りを感じた。その原因に気づいて、思わずアドルは「あっ」と髪飾りに手を当てる。

「あ、これ…生花なので」

外したほうがいいのだろうかと、髪飾りに手をかけてヤデトの様子を伺うが、ヤデトはそれに機嫌を損ねるでもなく「やっぱり花のにおいか」と独り言をつぶやいて、書類をそろえて退席する。

「お前は指示があるまでここにいろ、いいな」そう言ってヤデトが部屋を出てしまい、アドルは一人になる。ついに言い出せないまま、この白くて冷たい部屋に取り残されてしまった。

「どうしよう…」

誰もいない控え室で、アドルは硬直する体と心で身動きできない。森に囲まれた人よりも家畜のほうが多い田舎の育ちで、歌うことが大好きで、母親を説得して単身ナーオへとやってきたのが二年前。知らないことや慣れない事もまだたくさんあるが、ステージで歌わせてもらえるようになり、夢を叶え、さらにその高みへと、導いてくれたのはロデューの協力があったからだ。協会のことはよくわからないが、逆らってはいけない怖い組織なのだということは、アドルもなんとなしに聞いていた。こういうときにどうすればいいのか、ロデューから教わったことをアドルは思い出そうとする。

『強く信じて、夢みることを諦めないこと。そして、ピンチこそチャンスだ』

「(うん、それからロデューさんが言ってたことは…、たしか『女の子にはたった一人の特別な王子様が現れる』のさ、だったかな?)」

「君がアドル?」

聞き覚えのない少年の声がすぐ近くでした。先ほどヤデトが部屋を出てから、誰も室内へ入ってきていないはずだ。空耳だろうか? 空想の中の王子様の声が聞こえた気がしただけなのだろうか?
驚いてきょろきょろと周囲を見渡すアドルに、声の主が語りかける。

「安心して、今姿を消しているけど、僕はロデューさんの依頼で君を助けにきたんだ」

ロデューの関係者、彼の名前が出て、アドルの心は落ち着く。すぐに声の主は味方なのだと判断する。

「君は、誰なの?」

壁の前にすうっと人影が現れて、声の主がアドルの前に姿を現す。まるでマジックのように、不思議な光景だ。

「僕はホツカ、魔法使いだよ」

「(ロデューさん、王子様って魔法使いの男の子のことだったの?)」










アドルのピンチに現れた、それはもちろんホツカだよ
ロデューが言ってた王子様って、たぶんそうじゃーなかろうが
アドルの思うとおりかもなのよー?
ホツカにヤードよ、協会の悪事ちゃんと止めてくれるかい
協会の悪事は止めつつも、イベントはつぶさないでほしいとな
ロデューの無茶な注文もどうなるやら
はりきるヤデトも要注意
不安はまだまだあるけれど、きっとホツカよ解決してくれるよね!?
救出劇幕開けだよ〜♪


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