第二十話 花咲け少女の夢歌よ

企み満ちた協会のイベントに
まきこまれるは、いたいけ乙女、夢見る少女のアドルだよ
彼女を救う作戦ただいま実行しているけれど
上手くいくのかどうなのか?心配ハラハラしちゃうけど
きっとだいじょぶ上手くいくよね
我らのホツカがバチッと解決してくれるだろうさ
どうなるイベント、アドルの夢ごと救ってほしいよ! 頼むぜホツカ!







ロデューから提案されたアドル救出作戦。少女アドルは協会の勧誘活動に利用され、彼女の意思など関係なく、協会のために唄わされることになっている。
アドルをアイドルとして売り出したい活動をしていたロデューは、協会のイベントを利用する目論見だったが、アドルは彼女の持ち歌は一切歌わせてもらえない。彼女は自分で作詞作曲し、自ら歌うことにこだわりがある。好きでもない歌をむりやり歌わされるのは、アドルにとっては苦痛なことだろう。そんな心境もロデューは理解していた。ただ、ロデュー的には、アドルの歌声を聴衆に聴いてもらえる機会はムダにしたくないのだ。

幸いにもここナーオでは近々フェスが催される。フェスは西地方で最大の芸術祭で、各地から多くの観光客が訪れる貴重なイベントだ。なものでこの時期ナーオに人が増える。協会もそれを見越して勧誘イベントに力を入れているのだろう。人も増える分、警備もやや緩まり、協会のイベントも参加者の多くが非協会員だ。

関係者入り口より、怪しげな連中が侵入する。警備員の制服姿のロデューたちだ。イベント会場の警備の魔動兵士たちの数も少ないため、残りは現地のアルバイトを雇っている。そのため紛れ込むこともたやすかった。制服姿が様になっているヤードやロデューはともかくとして…

「あーん、胸が苦しいわぁー」

と嘆くのはフィアだ。着ている制服のサイズでは胸元がきつきつのようで、むりやり締めてはいるがパツパツに布が張っている状態だ。

「文句言うなよおっぱい女! カツミなんて筋肉で前閉まらないんだぞ」

との声は、フィアの斜め下から聞こえてくる。フードで頭を覆っているシャニィだ。彼女の言うとおり、カツミもロデューが手配した制服を着ているが、ジャケットのみで、それも最大のサイズがパツパツで、前面が閉まらなかった。裸ジャケットの警備員はさすがに目立つので大きめのインナーで誤魔化してはいるが。

「あーん、ワタシもシャニィちゃんみたいな衣装がよかったわ〜」

フードつきのケープを羽織っているシャニィの服も、ロデューが用意したものだ。いつものシャニィの動きやすいパンツルックではなく、ひらひらふわふわとした女の子らしいワンピースだった。羨ましがるフィアに反して、シャニィは「好きで着てるんじゃねー」と赤面しながら怒る。
シャニィの衣装は、アドルの衣装を模したものだ。協会を撹乱するため、アドルと歳も背格好も近いシャニィに、アドルの身代わり役をさせるためだ。

「それにしてもアドルちゃんってどんな女の子なのかしら? 髪の毛はふわふわで、お目目はくりくりした女の子って聞いたけど」

「そろそろホツカ君が接触しているころだろうね。ロデューさんの話通りなら、きっと愛らしい子なんだろうね。…少年ならもっと愛らしかったことだろうね」

まだ見ぬ例の少女のことで盛り上がるフィアとヤードをジト目で見上げるシャニィ。ロデューの話からして、ツンツンとした硬質ヘアーで猫目がちなシャニィとは真逆のタイプじゃないか。

「そうなんです。アドルは歌の才能はもちろんですが、見た目もアイドルの素質十分の…美少女なんですよ!」

と絶賛するロデューに、シャニィは一番あきれる。「(コイツロリコンなんじゃねーの?)」と。そのロデューがロリコンかどうかはともかくとして、ちょうどホツカから報告が入る。

「ん、ホツカ君から報告だよ。アドル君と接触してこちらへ向かっているらしい」





ホツカから事情を聞いたアドルは、ホツカと共に通路を進んでいた。ホツカは魔法で再び姿を消しているが、アドルに薄っすらとその姿は確認できた。突然のことでまだ胸がドキドキしているが、ホツカが味方だと知り、少しホッとしていた。この作戦の裏にロデューがいるのなら、きっと大丈夫なんとかなるのだろう。そうアドルは信じる。

「魔法使いかー、なんだか懐かしいなぁ…」

アドルのつぶやきにホツカが首を傾げながら「なんで?」と訊ねるが、「えーとなんだろう、なんとなく?」と頼りない返答が返ってきただけだ。なにが懐かしいのかよくわからないが、どことなく、故郷で幼い時に聞いたおとぎ話でも頭をかすめたのだろうか?きっとそんなところだろう。
とはいえ、魔法使いなんてアドルからしたらなじみのない存在だ。いや彼女に限らず、世の大半の人間はそうだ。そもそもドーリアのような存在が異質なだけで、本来魔法使いは人間社会とは関わりを持たない者たちなのだから。
田舎で生きてきたアドルは、ナーオのような都会に来てからいろんなことが刺激的で目新しかった。ロデューのような考えの人間にも、ここにこなければ出会うことはなかっただろう。そして、魔法使いの少年などというこのホツカとの出会いも刺激的で、アドルのイマジネーションが膨れ上がる。魔法のこともホツカから簡単に説明を聞いたが、まだまだ知りたいこと聞きたいことはたくさんある。ホツカが目を輝かせながら教えてくれた【師匠】なる存在も気になる。魔法使いの師匠だ。それはもう、すごく神々しいお方なのだろう、と勝手に想像を膨らませる。

そんなアドルのキラキラした好奇心のオーラをどことなく感じるホツカはやや気まずさを感じながら、早くヤードたちと合流しなければと思い彼女を急かす。

「あのね、ホツカ君、アドねいろいろ君に聞きたいことが…」

ワクワクドキドキする心は上気する顔に現れる。アドルのような多感な年頃の女の子が、魔法使いに興味惹かれることは当然だろうし、かつて人だったころのホツカ自身もそうだったように。だがホツカはアドルのその気持ちに答える気などなかった。

「悪いけど今は世間話している暇はないよ。早く君だってロデューさんに会いたいだろ?」

「あ、ごめんね、たしかにそう…なんだけど。アド、びっくりしたんだけど、でもすごく嬉しいなって思って…だからね、友達になってほしいななんて、ダメかな?」

「!? ストップ、マズイなヤデトがこっちに向かってきている」

ホツカがアドルの歩みを止めさせる。通路の先からこちらへと向かってくるのはヤデトだ。通路は一本道、このまま進めば正面から鉢合わせてしまう。姿を消しているホツカはともかく、アドルは見つかってしまい連れ戻されてしまう。

「うわっほんとだ! どうしよう」

「大丈夫、僕の魔法で君を誤魔化すことはできる。ヤデトの前で堂々としていればいい」

「!そっか、ホツカ君の魔法の力で、アドも見えなくなるんだね?」

「いや、この魔法は同時に君にかけることはできないんだ。光の魔法だから、せめてヤードさんが側にいればなんとかできそうだけど、今はそうじゃないし…」

ホツカが行使しようとしている魔法は、今ホツカ自身にかけているものとは別の属性のものになるようだ。先ほどから気になっていたアドルの髪飾りの花と、アドル自身の属性だ。

「木属性の魔法を今から君にかけるよ。あまり余計なことはしゃべらないで適当に流して。ヤデトの目には君は別の誰かに見えているから」

ホツカの魔法がアドルの体を包み、それはアドル自身には変わって見えないのだが、ヤデトからは別人に見えているという。いわゆる幻覚魔法だ。
ヤデトとの距離が狭まり、至近距離に至る前に、ヤデトがアドルのほうに気づき、「あっ」と驚きの声を上げて駆け寄ってくる。なぜか頬を紅潮させ、笑みをたたえながら。

「姉上!来てくださったのですね!」

「(今ヤデトからはアドルはドーリアに見えている)」

ヤデトがもっとも心を許している相手がドーリアに他ならない。適当に相槌を打って、ヤデトをかわせばいい。ホツカの指示を受け、緊張しながらもアドルはドーリアのふりをする。「ええ」とか「そうよ」とか無難にボロの出ない返事を返してやりすごす。

「期待してください。人も大勢集めましたし、それから…ゲストに呼んだ娘の唄、ぜひ姉上に聴いていただきたいのです!」

鼻息荒く話しかけてくるヤデトにアドルは内心押されながらも、「ええ、ありがとう」とドーリアになりきって笑顔で返す。まるで疑う様子もない。これがホツカの魔法の力なのか。焦っていたアドルの心にもわずかに余裕ができる。

「だけどあの歌、曲調と内容が合わないと思うわ。せっかくだけど、変更したほうがいいんじゃないかしら?」

「えっ…姉上お気に召しませんでしたか?」

ヤデトの表情が一変する。ショックと落胆の色にと。思わず本音が出てしまったアドルはハッとなるが、ヤデトに疑われているわけではなく安堵するが。早々にヤデトから離れないとボロが出てしまうだろう。ホツカの声もアドルを急かす。

「いえそういうわけではないけど、そのせっかくだからゲストのオリジナルソングを聴いてみたいと思っただけよ。そ、それじゃあ失礼するわね」

表情を暗くさせたヤデトを見ないようにして、ドーリアのふりをしたアドルと、姿を消しているホツカはゆっくりとヤデトから離れる。

「少しでも疑念を抱かれると、幻術は解けやすい。早くヤデトから離れて、みんなと合流しよう」
「うん」

早足でホツカのあとを追うアドル。ふわっと舞う風に乗って、ヤデトの鼻ににおいが届く。花のかおり。そのかおりにヤデトの顔は上げさせられる。一瞬蘇って脳内映像に映し出されるのは、以前の姉ドーリアの姿。花が好きで優しくて、だけども間違った時は厳しくしかってくれたかつてのドーリアの姿。

「うそだ」

今のドーリアは神々しくも凛とした救世士。親しみを感じることは出来ないし、あってはならない。今のドーリアは花を抱えて優しく微笑んだりすることなどない、花など…身につけたりしないのだ。

「お前は、姉上じゃない!」

一瞬で思い出す。先ほど嗅いだ花のかおり。ゲストであるアドルの髪飾りの花のかおり。ドーリアからするはずのないかおり。瞬時にドーリアの姿はアドルの姿に映る。

「マズイ、術がとけた。急いで!」

「待て! 逃がすな兵士ども、その小娘を捕えろ」

目を吊り上げ、ヤデトが命じる。アドルたちの背後からガシャガシャと機械音をさせながら、魔動兵士たちが追いかけてくる。

「きゃあーー追いかけてくるよー」

「大丈夫、こっちだ」

ホツカが魔法を解き、姿を現しながらアドルの手を引き駆ける。兵士たちに追われる状況なのに、アドルに恐怖はなかった。それはこの魔法使いの少年の力なのか、それともまた別のなにかの影響なのか。なんとなしにアドルは思う、きっとロデューが言いたかったことはこういうことなのかもしれない、などと。










アドルを連れてホツカは逃げる
早く急いで、ヤードたちと合流せよ
ホツカの魔法でなんとかなるかな?
だけども早速ヤデトにばれたよ
どうなるホツカ? どうなるイベント?
ロデューの作戦失敗しちゃうの?
心配無用さ、ホツカと頼もしき仲間たち
さあさあ活躍はこれからさ〜♪

BACK  TOP  NEXT  2015/06/01