幕間 協会の面々4

深いブルーは神秘の色
この世界のいろんな秘密を秘めた色
ホツカもらったその石は、ラキラの想いもこめられた
大切な絆の証なのさー
石よ贈り物よ、それぞれに込められた大事な想い
ホツカが手にする紫の石、ドーリアの想いのこもるその石よ
贈られるはずのその相手は、今どこでどうしているかって?
そうそう今日はそのお話だよ、始めるよー!







ヤデトの胸は弾む。
協会本部の回廊を進む、紅潮する頬を切る風は涼しいが、熱は冷める気配はない。
走りはしないが、回廊を進む足は早足だ。一刻も早く、ドーリアに伝えたかった。

「(きっと喜んでくださるだろう)」

ドーリアを喜ばせたい、その一心で向かう先は、ドーリアが待つ謁見の間だ。


「姉上、失礼します!」

思いのほかヤデトの声は高く響き、室内でこだまする。基本的にドーリアだけが腰掛けるその間は、無駄なほどに広くシンプルな間だったが、彼女の神秘性が強調される作りでもあった。段々上になった間の、一番高いところにドーリアは座する。なもので、ヤデトは彼女を見上げる形になる。
ヤデトを迎えるドーリアの目は涼しげで、動じることはない。

「おもしろい話があると言っていたけど、ヤデト」

「はい! 実はあるイベントを計画してまして、姉上にも楽しんでいただけると自信を持って報告にまいりました!」

高鳴る胸を押さえつつ、ヤデトが発した。「話しなさいヤデト」のドーリアの返事を聞き、ヤデトがそのイベントの詳細について説明をする。

場所は西地方の【ナーオ】という街だ。人口も多く、商店や娯楽施設も多くあり、かなり活気のある街だ。協会会員も多くいるが、人の出入りも激しい街なので、右肩上がりに会員が増えることはなく、横這い状態だ。しかしここは発信の場としてはもってこいの環境だ。ヤデトはそこに目をつけた。
元々ここで大規模なイベントを行えないかと、現地の会員の者たちと話し合いを進めてはいたのだが、この街で出会った音楽の力が人を引きつける力として活用できると知り、積極的にことを進めたのだ。

会員を増やすことは、協会にとって利益となり、ドーリアにとっても喜ばしい。
ドーリアのためになる、彼女を喜ばせたい、その強い想いでヤデトはこのイベントを企画し、早々に実施し、成功させたいと思ったのだ。


「ふふ、それはおもしろそうね。ヤデト、楽しみにしているわ」

目を細めてドーリアがフフフと笑った。その反応にますますヤデトの興奮は強くなり、意欲が増した。絶対に成功させて、成果をあげる。そして、イベントにドーリアを招いて、彼女の役に立ち、喜んでもらいたい。ドーリアこそがヤデトにとって、原動力なのだ。

期待されている。
ドーリアの微笑を何度も脳内で再生して、ヤデトの心は震える。ますますやる気がみなぎる。きっと成功させる。そして、ドーリアから認められ、ドーリアを心から喜ばせたい。自分こそ、ドーリアのよき右腕、頼れる存在だとアピールしたかった。

ヤデトの自信は、先日ナーオに下見に訪れた際、体験したあることがきっかけとなる。ナーオの街はにぎやかしく、芸術が盛んだった。いたるところにアートがあり、ストリートでは大道芸や手品やら、楽器の音に歌声も流れてくる。会員の者たちと打ち合わせに入ったあるバーには小さな舞台が設置してあり、そこでは毎日歌や芸を楽しむこともできる。たまたまだ、そこで歌っていたのはヤデトと歳のかわらない少女がひとり。心地よく耳の中に入り込み、不思議と体がリズムを刻んでいる。ハッと我に返り、冷静なふりをして誤魔化したが、歌声を聴いて心地よくなったのは久方ぶりだ。

昔、ドーリアが歌ってくれた優しい歌を思い出すように、心地よくヤデトの心を揺さぶった。

「ブラボー!」

と立ち上がって手をたたいたのは、ヤデトではない、他の男性客だったが、彼に釣られて次々と拍手の波が起きる。それに少女ははにかみながら、お辞儀をして手をふり「ありがとうございまーす」と明るい声で客に感謝を伝えて、少し恥ずかしそうに笑いながら舞台袖に消えていった。

「今の歌は、あの娘は何者だ」

ヤデトが同席していた会員の男に訊ねたが、

「彼女はアドルです。近い将来ナーオ発のアイドルとなる逸材です」と答えたのは、見ず知らずの青年だった。パリッとしたシャツにパリッと固めた髪形の、白い歯を見せつけながら満面の笑みでヤデトの前に立つその男は、やや胡散臭い空気と妙な爽やかさと強引さを持っていた。「何者だ?貴様は」とヤデトが問い詰めて間髪いれず、「失礼、私こういう者です」と用意よく胸元からさっと名刺を取り出しヤデトたちに渡す。名刺には「ロデュー」とあり、これが男の名で間違いなく、肩書きは「アイドルプロデューサー」とあった。

「アイドルだとぉ?」

「イエス! アイドルとはただの歌い手ではありません。人々を勇気づけ、心を躍らせ、幸せにできる特別な存在なのです。アドルにはその才がある、私は彼女のアイドルとしての力を世のために使いたい、そのためこうして営業活動しているんです。どうでしょうか?ぜひともアドルに活躍の場を与えてはいただけませんか?」

男は先ほどの少女を売り込みたいらしい。キラキラとウザイほどの営業スマイルでヤデトたちにアピールしてくる。胡散臭い話だが、今のヤデトからすれば願ったり叶ったりだ。アイドルがなんなのかヤデトにはよくわからないが、彼女の歌声には特別な力がある。めったに感動などしない自分が感動したのだ。まあドーリアの歌には叶うはずもないのだが、ヤデトにとっては思い出補正もあるが、ドーリアの歌は特別なのだ。

「ちょうどいい、あの娘、借りさせてもらうぞ! 我が協会の役に立てることを光栄に思うがいい」

「ありがとうございます!では早速、契約書にサインいただけますか?」

ヤデトとロデューの利害が一致した。ヤデトから詳細を聞き、ロデューは歓喜した。ヤデトの依頼はこうだった。近日ここナーオで開催予定の協会主催のイベントの中で、アドルに歌って欲しいという内容だった。場所は最近建設されたイベントホールで、千人規模で集客できる大型のホールだ。アドルはまだこういった小さなバーの舞台でしか歌わせてもらったことがない。もっと多くの人にアドルの歌を聴かせたい。ロデューの野望は強く、この話はアドルにとっても幸運なことだと、そのときの彼は思った。





「(ううう、ロデューさんの話と違うよ〜…)」

心の中でブツブツと少女アドルは不満をたれる。ロデューの話では、大規模ホールでコンサートができるという夢のような話だった。いつかは大舞台で、好きな歌をおもいきり歌いたい。たくさんの観衆の中、そのステキな想いをみんなと共有できたら嬉しいなと。
不満はそれだけではない。周りには見知らぬ大人の男たち、その中にひとり少年がいたが、その相手が一番やっかいだった。自分勝手な要望ばかりアドルに押し付け、聞く耳を持たない。アドルもまだ幼く、己の現状もよく理解できていない。

アドルの現状とは…
彼女は今軟禁状態にあった。打ち合わせと称した会議に出席させられて、周りは見知らぬ人間ばかり、全員協会会員の者たちだ。彼らはヤデトが計画したイベントの詳細について、話し合っている。とはいえほとんどヤデトの独断で内容は決まっていった。アドルはイベントのオープニングから歌うという流れになった。だが、アドルにとって大きな問題があったのだ。その歌う歌についてだ。

「アドルと言ったな。お前の歌はなかなかよかった。このボクが認めてやるのだ、感謝するがいい」

何様だと思うような言い方だが、アドルは純粋に嬉しかった。この生意気そうな少年は、上から目線の言い方ではあるが、アドルの歌をよかったと褒めているのだ。そのことは素直に嬉しく、「ありがとうございます」と答えた。歌は好きだが、人から自分の歌を認めてもらうのは、最高に嬉しいことだからだ。自分の証ともいえることを認めてもらえる、それは…自分の価値を見出せることともいえるからだ。だが、直後アドルは絶望させられる。

「お前の歌い方はとてもいい。だが、詩がよくないな。あの詩ではまったくだめだ。お前はあの歌のメロディーで、ボクが書いてきたこのすばらしい詩で歌うんだ」

「えっ、えええっ?」

ずずいと強引に手渡された紙には、アドルの歌の世界にはまったくそぐわない、しかもヤデトのドーリアをひたすら絶賛するだけの詩が書かれていた。

「(なにこれ酷い、こんなの歌えるわけない。アドの作ったメロディーはあの詩のために作ったものなのに。こんなの…アドの歌いたいものじゃない。ロデューさん、聞いていた話と全然違うよ。
ねぇ、どうしたらいいの?)」

その頼みの綱となるロデューはここにはいない。彼とは引き離され、コンタクトがとれない状態となってしまったのだ。




「予定と少々違うことになってしまったが、安心するんだアドル。私のプロデュースに問題はない。いや、君のピンチもドラマに変えてみせる。
そう、君こそは、私の夢でもある究極のアイドルになれる逸材なのだから」

嘆くアドルの心境を知ってか知らずか、ロデューは誰としゃべるでもなく、演技がかった口調と手振りで、空を見上げながらこぶしをぎゅっと握り締める。
焦りなどない。彼女のピンチも、彼にとっては彼女を磨き上げるチャンスになるのだ。アドルはさらに高みを目指せる。よりロデューが理想とする究極のアイドルに近づけるのだ。

「しばしの我慢だ。もうすぐ君は王子様とめぐり合える。君にときめきを与える王子様とね。
さなぎから蝶へ、少女は乙女へと、華麗に成長するその瞬間をどうか見せてくれ」









ヤデトが企む協会イベント、ただのイベントじゃ終わらない?
未来のアイドル少女アドル、この子の力も気になるよ
アドルを売り込む謎の男、ロデューの企みもなんなのかい?
王子様?王子といったらあの人のことなのかい?
不安にくれるアドルを救うのはやっぱりそうかい?
我らのホツカの出番かな?
歌を悪用絶対だめだめ
歌を愛する流浪のシンガー、そんなことは許しちゃおけねぇよ!
さあさあホツカよ、ヤデトの悪事を止めてくれよぃ
ロデューの動きに要注目さ!新展開に期待だよ☆


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