レヴィンが大変なことになっていたそのころ、セイレーンでもちょっとした騒動になっていた。
ことはアゼルの恋人エーディンの涙から始まった。
「アゼル、大変なのどこにもいないの」
自分の胸へと涙ながらに飛び込んできた恋人を、困惑しつつも抱きしめながら、アゼルは彼女の涙の理由を聞いた。
「どうしたの?エーディン、落ち着いて。いないってだれが?」
彼女をここまで心配させる人物と言えば、限定されるものだが…。ぐすんと鼻を啜ってエーディンが答える。
「昨夜から、ブリギッド姉さまの姿が見えないの! どうしよう、どうしたらいいの?ああっ」
取り乱すエーディンをだいじょうぶだからと優しく声をかけながら背中を摩り落ち着かせようとする。
二人の前に通りすがったデューがどうしたの?と声をかける。こんな城内の通路の真ん中で泣き崩れるエーディンに、彼女を慰めるアゼル、何事かと思うのが当然だろう。様子からして痴話げんかとは違うようだし。
「ブリギッドさんがいなくなったって、たった一晩姿が見えなくなったからって大げさじゃない?」
けろっとした顔でそういうデューに、ひくっとしゃくるエーディン、アゼルがデューにぐわっと迫る形相で
「大げさってなんだ?お前にはエーディンの気持ちがわからないのか?!」
「え、ええっ」
いきなりすごい形相で非難されてもわけがわからず困るのだが…。
「エーディンは長い間ブリギッドと離れていたんだ。不安になって当然だろう。ずっと生き別れていた双子の姉とやっと再会できたって言うのに、また離れることがどれだけ悲しいか、お前にはエーディンの悲しみがわからないのか?!」
バチバチと炎を纏いだしたアゼルに、身の危険を感じたデューは慌てて、「うんわかるわかるよ」と答えて「オイラもブリギッドさん探しにいって来るよ」とあせあせしながら走って行った。デューがほんとに探しにいったのかは不明だが。
「エーディン、ブリギッドはボクが必ず見つけてくるから、だから安心して」
デューへの対応とは対照的に、アゼルは恋人には笑顔(キラキラ効果つき)で優しく彼女の髪を撫でた。
「ああ、アゼル。ごめんなさい、私取り乱したりして。お願い、姉さまを早く見つけてあげて、もしなにかあったら…」
きゅっと両手を握り締めてエーディンはブリギッドが無事であることを祈った。アゼルは内心「ブリギッドならサメパラダイスな海の中に投げ出されても何事もなく生還するような生命力だから心配するだけむだだけどね」とはわかっていたのだが、恋人に同調していた。

「と言うわけで、レックスも探すの手伝ってよ」
「やなこった」
「レックス〜、なにかなーその態度、親友が頼んでいるっていうのにその冷たい態度はないんじゃないの?」
にっこりと笑いながらも黒いオーラを漲らせるアゼルにレックスもぎくりと肌を振るわせる。
愛しい恋人のためならば親友だってこき使う、それがレックスの親友アゼルだ。
「レックスは心配じゃないの?ブリギッドのこと」
「は?だれがあんな熊女」
「ちょっとだれが熊女って?」
きゅぴーんとアゼルの目が不気味に光る。ぎくっ、うっかり失言をしてしまった。アゼルの前でエーディンの悪口が厳禁なのは言うまでもないが、彼女の身内の悪口も禁止なのだ。特にブリギッドはエーディンにそっくりの双子の姉、といっても顔くらいだが、顔のパーツだけが似ているのだが、体は、…斧騎士のレックスとためを張るくらいムキムキなのだが。
「ブリギッドをバカにするってことはエーディンをバカにしたも同然、イコールそれってボクにケンカ売りって意味だよわかる?」
ごうっと片手に炎の精霊を纏わせアゼルが戦闘モードになり、レックスも焦る。目がマジだ、マジで人殺しの目になっている!笑顔なのに、人殺しの目だ!
「お、おい待て」
「おどりゃー仕置きじゃ仕置きー」
こんな城内で魔法ぶっ放す非常識がどこにいる?ここにいるのか。アゼルに常識を求めてもいまさらなのはレックスもよくわかっていた。とにかく逃げなければ、が逃げることは叶わず、うつぶせ状態の己の上に跨るアゼルが不気味な笑い声を上げている。そして頭上の炎が熱すぎる。
「なにしてるの?」
突然かけられたその声によって、アゼルの「ふっふっふ」という不気味な笑い声は途絶え、黒いオーラが消えたのをレックスは背中から感じていた。
「やぁティルテュ、ちょっとレックスにお仕置きしてたんだ」
にっこりとアゼルがスマイルで彼のほうを不思議そうに眺めているティルテュにそう説明する。一瞬にして人懐こい毒のなさそうなキャラになっている。ずっとこの外向けのキャラでいてくれたらどんなにいいか、などと願ってもしかたない。
「仕置きって…」
アゼルの顔からつつつと彼の足元に横たわるレックスに視線を向けた。うつ伏せで倒れているレックス、一体なにをしていたのかさっぱりティルテュにはわからなかったが。
「そうだ、ティルテュもレックスにお仕置きしてやったら? 普段からむかついているでしょ、こいつには」
などと嬉々として勧めるアゼルに、ティルテュは戸惑いの顔を浮かべる。
「えっと…、あたしは〜…」
アゼルの気がティルテュに向いているうちにレックスがむくりと起き上がる。
「だいじょうぶ?」
遠慮がちにレックスに声をかけるティルテュに、レックスはギロリと鋭い目で睨みつけすぐに「ふん」と鼻息と共に目を逸らした。レックスのその反応にばつが悪そうにティルテュも目を逸らす。
たくこいつはなんでティルテュにガンとばすかなーと心の中で思いつつ、それを指摘するのも今さらなのでスルーするアゼルだった。そんなことよりも。
「ティルテュさ、ブリギッド知らない? 昨日から見当たらないんだ。どこにいったのかエーディンも知らなくて、今探しているんだけど」
「そうなんだ。あたしも会ってないからわかんないけど、探してみるね」
ぱてぱてと足音を響かせながら彼らの前からティルテュが立ち去る。ティルテュを見送るアゼルの背中の向こうで、さりげなく逃げ出そうとするレックス。
「こらどこ行く気〜?」
ふっふっふ…再び邪悪なオーラを纏わせるアゼルからやはり逃げられないレックスだった。


「ブリギッドが行きそうなとこってどこだろう?」
ぱてぱてと城の中を見てまわりながらティルテュは考えていたが、出会ってから日も浅いブリギッドのことをそんなにわかっているわけではなかった。
「そういえば、レヴィンと結構仲よさそうだったよね。でもたしか今王都にいってるんだっけ」
他に思い当たるところもないし、とりあえずと足が向ったのはクロードのところだった。
クロードは大体自室で休む以外は、会議室か城一階の聖堂にいた。あまり外には出歩かないらしい。
ティルテュは聖堂へと向かった。
「約束ですよ〜、クロード様ぁ」
よく響く少女の声、先客がいた。クロードと談話しているのはシルヴィアだ。
「そうですね、今度暇な時にでもぜひ」
にこりと優しい笑顔で身長差のあるシルヴィアを見下ろしながらクロードが答える。それに「きゃはっ」とテンション高い声と動作でシルヴィアが喜ぶ。
「クロード様だけあたしの踊り見てくれてないんだから、とびっきりの見せてあたしの虜にしちゃいますからね」
くるんくるんと軽くまわりながら、シルヴィアは自分の踊りの自信っぷりをアピールする。
「それは楽しみですね。それより先ほどから気になっていたのですが、…シルヴィアさんおへそが出ていますよ」
「えっきゃっいやんv ってクロード様これはあたしの正装なんですよぅ」
クロードの指摘に「いやん」と恥らいながら手でむき出しのへそを隠すしぐさをしたシルヴィアだが、すぐにえっへんとむき出しのへそを強調しながらポーズをとる。
「そうだったのですか。てっきり服を着るのを忘れたのかと思い、心配しました」
「んもーー、クロード様ったらぁ。まあたまに服着るの忘れてマッパで外出そうになったことはあるんですけどね」
「あるんですか、さすがですねシルヴィアさん」
「いやん、褒めないではずかしーー」
「いや褒めてない褒めてない」
外部からこっそりとツッコミを入れていたのはデュー。ストーカーのごとき振る舞いのデューが不機嫌な顔で二人のやりとりを眺めていた。
「あれ? デューくんもクロード様にご用?」
「うわぉうっ」
背後から急に声をかけられ、驚いた猫のように後ろ飛ぶデュー。そんな彼を不思議そうにぱちくりと見るのはティルテュ。
「なんでもないよ、おっと失礼」
ティルテュのわきをしゅたたたと駆けて行ったデューを背に、ティルテュは聖堂の中へと足を向ける。
「あれ、お取り込み中かな…」
「おやティルテュなにかあったのですか?」
入り口付近に立つティルテュにすぐに気づいたクロードがにこりと笑顔で声をかける。
「えっとー、ブリギッドを探してるんですけど。アゼルたちが探してて、あたしも一緒に探してるんです。
クロード様はブリギッドの居場所知ってます?」
「ブリギッド公女ですか? そうですねー、私も見かけてませんが…」
首を振るクロードの横でシルヴィアが口を開く。
「あたしも知らないけど。そういや昨日の夜、すっごい腹減ったって言ってたけど。夕食のすぐあとくらいよー。あんたの胃袋どーなってんの?!とあたしが華麗にダンシンツッコミいれたから覚えてるわ」
「お腹が減ったですか? これは大きなヒントかもしれませんね。さすがシルヴィアさん、人間観察に抜け目がありませんね」
「やーん、褒めないでくださいよ〜。商売柄自然とそうなだけですから〜v」
「はっ! じゃあどこかで腹ペコで倒れているかも」
「ないないない。あの頑丈女がんなことでのたれ死ぬわけないでしょ。それよりも、だれかの肉が狙われているかもしれないわ。もしやあたしの柔肌狙われてる!? いやーん、食べないでー、見るだけにしてー」
まいっちーんぐなポーズでくねくねするシルヴィアに「それはないでしょう。ブリギッドさんでも人間ですから」とさりげに失礼なクロード。微妙なコントが繰り広げる中、また新たなコント参加者、もといクロードに助けを求めて走ってきた女性は……。
「クロード様! お姉さまを助けてください!!」
「エーディン!」
「おやおや今日は女性に頼まれる日ですねー」
ぱたぱたと涙を散らせながらゆるいウエーブのかかった金色の髪を揺らして、エーディンは勢いのままクロードへと抱きついた。
「うう、お姉さまが、お姉さまが、どこにもいなくて…早く早く探してあげなくちゃああっ」
「おやおや」
「エーディン落ち着いて、ねっ」
「ちょっちょっとー、あんたアゼルがいるでしょーー! んもーー、せっかくクロード様といいかんじだったのに、邪魔ばっかりなんだからーー」
クロードの胸で泣きじゃくるエーディン、慌てることなくにこにこ微笑み立っているクロードに、「離れなさいよー」とぷんすかしながらエーディンのドレスをぐいぐいとひっぱり二人を引き剥がそうとするシルヴィア。
数分して、ハッとしたようにクロードから離れ、取り乱したことを謝罪するエーディン。シルヴィアはむだにゼイゼイと息を上げながら疲労していた。
「ごめんなさいクロード様、私気が動転してて」
「いえいえ、お気になさらず。悩み事がありましたらいつでも相談にのりますから。ムリはしないで下さいエーディン公女」
「ありがとうございます」
キラキラと見つめあう美しい男女。ティルテュの目にも錯覚か、ちらちらとまぶしい景色が見えていた。絵になる二人だ。なんて思っちゃいけないか、だってエーディンの恋人はアゼルなのだから。
「ちょっとーー、クロード様ともフラグ立てないでよ! だめよ、クロード様はあたしのこきゃ…」
「コキャ?」
きょとんと聞き返すエーディンに「なんでもないわ」と焦った様子でごにょごにょ誤魔化すシルヴィアだった。
「商魂たくましいですね彼女」
こそりとティルテュに同意を求めるかんじのクロードだが、彼の言葉の意図がわからずティルテュは「ショウコン?」と首を傾げる。
「落ち着いてエーディン。あのね、ブリギッドがいなくなった理由がたぶんわかったの」
「え、本当なの? ティルテュ」
パァッと表情を輝かせるエーディン。
「ブリギッドはお腹が減ったせいでいなくなったかもしれないの」
「ええっ、じゃあおかわり五回もかなりムリしていたってことなの?」
「あたしの柔肌が狙われているの!」
キリリと真顔のシルヴィア。「違うってばー」とティルテュがツッコミ、エーディンは「ごめんなさい!」と勘違いのまま謝る。
「ああそうだ、あれなら…。エーディン公女、ちょっとこちらに」
なにか思いついたクロードはエーディンを手招きして自室へと招いた。部屋から出てきたクロードは一本の杖を彼女へと渡した。
「これは…」
「レスキューの杖です。あなたの探し人をこれなら早く見つけることができるかもしれません。効果範囲は限られるのですが、そうですね、大体半径一キロ圏内ならば作用するでしょう。あなたが呼び寄せたい相手を強く念じれば、その相手を側に呼び寄せることが出来ます。きっと役に立ちますよ、お貸しします」
「まあ、ありがとうございます! これで姉さまを探しだせるわ」



「ギャーーー!!」
破壊される木の壁。その向こうから巨大な毛むくじゃらの手がにょきっと現れ、ぐわっと開かれた赤い口からは滝のようにヨダレが流れ落ちていた。赤い口の上下には鋭く逞しい牙があり、恐ろしいほどぶれて見える。のは震えているからだろうか、レヴィン自身が。
「レヴィン様お下がりください、ここは私が」
ぎゅっと凛々しく槍を構えて、大きな体で仁王立ちの熊を見すえるマーニャ。ガクブルと震えていたレヴィンだが、ハッと瞼の裏にムカツクほど馬鹿にした笑いを向けるラーナとマイオスが浮かび、きっと顔を整えて、素早くマーニャの前に移動した。
「!レヴィン様?」
「大丈夫だ。落ち着けばちゃんと撃退できるはずだ」
それは彼女に対してより自身に言い聞かせているように聞こえるが。レヴィンはすぐに風精を纏いだし、術発動に移った。熊が動くより早く。スピードそれがレヴィンの売りだ。スピードをとったら…いやそれはつっこまない方向で。
「負けない俺は、あんたたちには」
あんたたちイコール例の二人のことだ。レヴィンは熊の向こうにあの二人を見ていた。声高らかに笑う嫌味ったらしいあの二人だ。レヴィンの脳内ではなぜかコンビ扱いだ。犬猿の仲のはずのラーナとマイオスが、レヴィンにとっては同類だからだろう、もう一くくりでいいかと思う。
「がっっ?」
熊が呻いた。レヴィンが魔法を放とうとした瞬間、熊は目を見開いて、どすんと巨体を地面にぶつけるように倒れた。
「え?…一体なにが」
攻撃を放つ直前、熊は突然倒れてしまった。すでに絶命している。わけがわからないが、理由はすぐに明らかになった。
「おっし、飯確保ー♪ 今夜は熊鍋だなv」
くるんと矢を手で回しながら、倒れた熊へと近づくのは、金色のウエーブがかった長髪の美しい女性、レヴィンを片手で担げそうなほどむきむきに鍛え上げられた女性にしておくにはもったいなさすぎるグラップラーみたいなボディ。その手には聖弓イチイバルがあった。
「ブッ、ブリギッドーー」
レヴィンの己を呼ぶ声に気づき、ブリギッドはレヴィンのほうを振り返って、「よっ」とのん気に手を挙げて挨拶した。
「お前こんなとこでなにやってんだ?」
「それはこっちのセリフだよ! てか熊相手に神器使うってなにごと?!」
「はっはっは、腹減っちまってさーー」
「答えになってないし!!」
あーもう、とレヴィンはむだに疲れた。ブリギッドの乱入によってさきほどの緊張感は一気にどっかにいってしまった。


「ふーー、食った食った」
どかっと部屋中央に遠慮なくあぐら座りでブリギッドは満足そうに腹をさすった。わずかに汁を残して空になった鍋。熊鍋はけっこう腹を満たしてくれた。残りの肉は小屋の外に破壊された壁を隠すようにどかっと置かれていた。夏でもあまり暑くならないシレジアでは、そうそう早く腐りもしないだろうが、数日中には肉はなくなりそうだ。食い意地の張ったブリギッドの食欲は常人をすでにはるかに越えている。
「あ、お前らあんまり食ってないじゃないか。だめだろ、しっかり食わないと」
偉そうに指摘するブリギッドにレヴィンは激しく呆れの溜息をついた。
「あのねー、遠慮以前にブリさんが全部自分のもんだってな勢いで食ってたでしょうが」
「あ、そだっけ。わりぃわりぃ。あ、まだ肉あるしよかったら食えよ」
そんなブリギッドにレヴィンもマーニャもあきれてというかもう脱力して溜息だ。
「いいよ、俺汁だけで。なんかさ、ブリさんの人間こえた食いっぷり見ていたら、それだけで腹もういいやってなったし」
「私も、大丈夫です」
「なんだよ、若いもんが遠慮なんてするもんじゃないぞ。やっぱ食わなきゃ育たないだろ」
じろりっとブリギッドの目線を感じてレヴィンは身震いする。
「特にレヴィン、なんだよ、この乙女顔負けの貧弱ボディはさー」
「ひぃっ、ちょっちょっと」
ずいっと至近距離にまで近づいてブリギッドはレヴィンの服を捲し上げる。そこからまるで乙女のような白肌が露わになり、レヴィンは慌てて隠しながら、身の危険を察知し、すさささと素早く距離をとった。そんな彼を見て、ブリギッドはにやりといやらしく笑う。
「腹筋の割れてない男って初めて見たv」
「なっ、なにその超偏見、というかブリさん基準」
むかっと表情になりながらも、レヴィンは傷ついていた。レヴィンだって好きでこんな体じゃない。男だから、男らしくムキムキなグラップラーボディになりたいと思ってる。夢見る権利はあるじゃないか。
「腹筋くらい割れてて当たり前だろう。ケツだけが割れてるだけじゃだめだろう」
理想はケツ顎ができるくらいかってことか?
「レヴィン様はそのままで十分です」
「おおそうだな。たしかにレヴィンはムキムキに漢らしくなっちゃだめだよな。その乙女ボディがみりきなんだよなv」
マーニャの言葉ににしにしと怪しい(変態的?)笑みで頷くブリギッド。慌ててマーニャは「そういう意味ではありません!」と否定する。
「あれ、ところでさ、お前らこんなとこでなにやってんの? もしやデート? それならそうと言ってくれよ、あたしもそこまで空気読めないやつじゃないんだしさ」
「違うって! 修行だよ修行」
オーガを倒す為にか?とかまたちんぷんかんぷんな会話を繰り広げつつ、レヴィンはなんとかブリギッドに説明した。
「へー、山篭りか…なるほどな。楽しそうじゃないか」
「どこかだよ、こっちはうんざりなんだけど」
「そうかー?」
ちらりとマーニャを見てからブリギッドはにししとまた趣味の悪い笑みを浮かべる。
「あんなうまそうな体のおなごと二人っきりで山篭りなんて、ハァハァなシチュエーションじゃないか」
ヨダレ、ヨダレ拭いてくださいブリギッドさん!
じるりと汁を啜る音をたてて、変態的なセリフのブリギッド、おいおいとレヴィンはつっこんだ。
レヴィンのつっこみを無視して、ブリギッドは今度はマーニャのほうにずいずいと近寄っていった。
「あ、あのなにか?」
ブリギッドの放つ異様な気に警戒するマーニャ、じりりと後ずさるが、狭い室内逃げられようがなかった、ブリギッドの魔手から。
ぐふふふと不気味に笑いながら、ブリギッドの手がマーニャの豊かな胸を掴んだ。掴んでもにもにした。もにもに通り越してもにゅもにゅ、もうどう例えていいのかよくわからない変態的な手の動きに見えた、純粋無垢(笑)なレヴィンの目には。
「ちょっちょっとブリさん!!」
「ああっいいねぇこの手触り。しっかり腹筋割れててなかなか筋肉ついているのに、おっぱいはやわらかくてさー、たまんないねー」
片手で乳をもみゅもみゅしながら、もう片方の手でマーニャの腹をさすさすと上下左右に摩るブリギッド。エロス耐性のないレヴィンにとっては、刺激的過ぎるエロスワールドだった、やばいこれ以上は死ねる…。
「ちょっやめなさいってば、マジで」
後ろから叫ぶだけでせいいっぱいの無力なレヴィン。早くとめなければ、本気でブリギッドという猛者にマーニャが食われてしまいそうだ、グラップラー的にも性的にも!
「やっ、やめてください。そんなとこ触らないで…、っあ、やぁっ…、だめっ」
レヴィンの位置からはブリギッドの背しか見えないため、どこを触られているのか具体的にわからないが、ブリギッドの脇から覗くマーニャの足や緑色の髪の毛が時々激しく揺れている為、それだけ反応することをされているのかと思ったら、危険なものを感じた。
もうムリ、いろんな意味で。
レヴィンはうっかり元熊にぶつかりそうになりながらも、小屋の外へと飛び出した。


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