「幸せだなぁ、レヴィンお前は。」

「ええほんとに、幸せ者ですね〜。」

レヴィンを見ながら、そんなセリフを連呼するシグルドとクロードにムカリ。とするレヴィン。

なにが幸せだと言いたいのか、フュリーに縄で縛られ、望まぬ帰国をし、レヴィンアレルギーなどと侮辱された自分のどこが幸せだといいたいのか
嫌味か?嫌味か?そうなのか?!

「はっはっは、睨むな睨むな。だいたい怖くないしな、ブリギッドのでこピンで吹っ飛ぶ程度の男など。」

「うっうるさい!て見てたのかよ?!違うからな! でこピンじゃなくって張り手!

てそんなことよりなにが幸せだって言いたいんだよ?」

嫁さんに逃げられたくせに。と心の中でつっこむレヴィン。アグストリアで愛妻と生き別れたシグルドなのだが、その話題は基本的に彼の前ではタブーなのだ。大変なことになるからなのだ、周囲が。

むかつくほどのにこにこスマイルでレヴィンを囲むシグルドとクロード。
そんな二人の不気味スマイルに潰されそうなレヴィンは眉間にしわ寄せ、息を呑む。

「マーニャさんだよ。」

「マーニャ?」

スマイルの神が乗り移っているのか?といわんばかりの笑顔のままシグルドは頷く。

「お前にあんなステキな婚約者がいたなんてな。

二年間もほったらかしで、酷いことをしたお前を、ずーーーっとけなげに待ち続けていたなんて


お前にはもったいないほどのステキな女性じゃないか。」

「は?婚約者?」

初耳だ。だれだ?そんなことを言ったのは・・・・・って一人しかいないな。

母上か・・・・・

「マーニャは婚約者じゃない!テキトー無責任な発言は禁止!!」

などとレヴィンが否定したところで、ムダなあがきだった。
レヴィンの婚約者はマーニャ。その噂はあっという間に広がり、そんな目で皆が自分達を見るようになったのだ。
皆から冷やかされるたびに激しく否定しても、ムダだった。照れているだけだとしか思われない。
俺はここまで信用されてないのか・・・・・と非常に悲しくなった。
でもここで折れたらすべてがお終い。噂はやがて真実となってしまう、そうなれば母上の思い通りに。
完全敗北決定となる。
悔しい悔しすぎる。悪魔のようなラーナの笑い声が聞こえてきそうだった。


「ほんとにえらいメーワクだ。」
鼻息荒くするレヴィンの横のマーニャはそんなレヴィンの態度に複雑な笑顔を向けながら

「そうですよね。私などが婚約者だなんて・・・・レヴィン様にとっては迷惑でしかありませんね。

レヴィン様にはもっと高貴な方がふさわしい・・・」

マーニャを否定した発言でないことを慌てて説明するレヴィン。
レヴィンは別にマーニャを迷惑だとは思っていない、迷惑なのは母親の陰謀とそれに加担しているシグルドたちのことなのだ。

「そうじゃない、悪いのは母上だ。昔から、俺とマーニャをくっつけようと裏でいろいろ企んでいたからな。

正直うんざりだよ、人の人生をなんだと思っているんだ?あの人は。」
母親に対して暴言を吐くレヴィン、ラーナに仕えるマーニャは慌ててフォローする。

「いいえラーナ様はレヴィン様のことをご心配されて・・・」

「マーニャに対してだって酷すぎる。母上のせいで好きなやつと一緒にもなれないんだろ?」

マーニャはぎゅっとつぐんだ口で、切なそうな表情を浮かべた。
そんなマーニャに一瞬ハッとなる。

「私は・・・・・私は幼き頃から、ずっと・・・・・レヴィン様を・・・・・」
フッと開かれたマーニャの口から言葉が溢れかけた時、突然二人を風が襲った。

「きゃっ」
髪を押さえ、目を閉じ身を硬くするマーニャに、風の加護を受けるレヴィンは特に動じる様子もなかったが
それが魔法で起こった風であるとすぐに気づいた。
そしておそらくその原因も。

渡り廊下を越えた中庭の先にその原因はいた。
それは慌てた様子でレヴィンたちの元へと走ってきた。

「ごめんなさい!人がいたほうに向かっちゃうなんて・・・」

「ティルテュ!」

「レヴィン!あっ・・・」
焦った様子のティルテュの手にはレヴィンが渡したウインドの書があった。
それを見てレヴィンは確信した。さっきの風はティルテュで間違いないと。

「もしかして、ケガさせて・・・」
不安な顔でこちらを見ているティルテュ。マーニャは一瞬驚いていたが、特にケガもなく、なんの被害もでていなかった。

「いや、なんともないよな?マーニャ。」
確認するようにマーニャに問いかける。マーニャはこくりと頷き、ティルテュもほっ。とする。
でも下手したらケガをさせていたかもしれない、そんな申し訳なさそうな顔をしていた。

「アレ、俺があげたんだよ。風精アレルギーらしくってさ。」

「えっ」

「ほんとにごめんなさい。

あたしやっぱりムリなのかも・・・・。コレ、返すね。」
足元にウインドの書を置くと、ティルテュは辞儀をして立ち去った。

「あっ、おいティ・・・、悪いマーニャあとでな。」

「あっ、レヴィン様・・・」

レヴィンはウインドの書を拾うと、ティルテュの後を追いかけた。切なそうな表情を向けているマーニャに気づかず彼女を残して。

レヴィンが気になったのは、ティルテュの顔が泣き出しそうに見えたから。
庭木を飛び越え、呼び止めた。
その顔は泣き出しそうというか、元気ないかんじだった。

風魔法が上手く使えなかったからって、そこまで落ち込むことないだろ?

よくわからんこだ。とレヴィンは思いつつも、ここでティルテュに諦めてもらっても困るし、と再びチャレンジを促した。

「あたし、やっぱりムリだよ。さっきも魔道書開いたとたん、いきなり風精が集まってきて、
コントロールできなくて・・・・」

「怖かった?」

こくりと頷くティルテュ。

怖いかぁ?風精が?
俺にとっちゃ、雷精のがよっぽど怖いと思うがね。
よーわからん。

同じ魔道士でも、得手不得手があるわけだが、ただティルテュは特にそれが極端なのだろう。
風魔法を得意とするレヴィンも、とりあえずは雷魔法と炎魔法も扱えるし、炎魔法に長けているアゼルも風と雷を扱うことはできる。二人が器用なほうだと言えなくもないが、ティルテュの風精キライはやはり特殊に感じられた。

「でも、さっき魔法使えたじゃないか。」

「だけど、また暴走したら・・・・」

「怖い?怖くなんかないだろ、あのくらいの暴走程度でビビんなよ。だいたい大したことないって。

母上の陰謀に比べたら、全然ぬるいんだって!

風精が呼べたってことは、ちゃんと精霊はティルテュのこと認めているんだよ。
あとは冷静に魔力をコントロールして、精霊を受け入れればいい。」

簡単に言うけど・・・・、まだ不安げなティルテュにウインドの書を差し出しながら

「俺が付き添って教えてやるよ。それなら大丈夫だろ?」

それはいい口実だと思った、母上の陰謀から逃れるためにも。

だって他にすることないしね、ザ☆HIMA!


レヴィンに魔法練習に付き添ってもらうことは、ティルテュにとってもいい気分転換になった。
レックスとの一件などで沈みがちだったが、レヴィンのくっっだらないギャグで笑っている間は、楽しい気持ちでいられたからだ。そう思うとレヴィンの目指す道は間違ってないんじゃないか。とティルテュは思っていた。

「きゃはーー!マジですか?!」

?!この声は・・・
耳を貫くような甲高い悲鳴にも似た興奮した声が廊下の向こうより響いてきた。

「シルヴィアか・・・」

「なにかあったのかな?」

「いやなにもなくても、あいつはいつもこんなかんじだ。」
気にすることない。とレヴィンが言おうとした時、二人の前をエーディンが通りがかった。

「あら、ティルテュにレヴィン。今お城に占い師の先生が来られてて、皆占ってもらっているの。

すごくよく当たるんですって。あなたたちもいってみたらどうかしら?」
にこにこ笑顔のエーディン。彼女も占ってきたらしい。その表情から占いの結果に満足しているよう。

「ふーん、占いかぁ。どうしようかな・・・」

「いってきたらいいんじゃないか?気晴らしになるだろうし。」

「じゃあ、レヴィンも行こうよ。」

「えーー。」

俺は占いなんて信じないほうなんだけど・・・

レヴィンはあまり乗り気ではないが、まあ暇つぶしにはいいか。ということで、ティルテュと一緒にその占い師の元へと向かった。
途中でシルヴィアとデューとすれ違った。

「早速行動あるのみよ。行くわよデュー!」

「ちょっと待ってよシルヴィア!」

おそらくシルヴィアの様子から彼女も占いでなにか言われたらしいのだろう。思い立ったらすぐ行動!というシルヴィアのこと。それに振り回されているデュー。
まあ、どうでもいいとレヴィンは思うのだが。

「あ、あそこかな?」
シルヴィアたちが走ってきた方向の先に占い師らしき格好の者を確認できた。そしてそこにいたのは

「マーニャ!」

占ってもらったばかりらしきマーニャがいた。レヴィンに気がつくと恥ずかしそうに顔を赤らめた。
そんなマーニャの様子を見て、冷やかすような言葉をかけている占い師の顔を見てレヴィンは声を上げた。

「あっ!アンタは!」
あの時のババア!!

セイレーンの城下町で、いきなり怒鳴りつけてきたあの怪しさ満天の老婆だった。

やっぱりインチキ占い師・・・・なんでこんなとこに・・・・

とレヴィンが軽くムカムカしているのとは逆に、占い師はレヴィンを目にするとにやにやと卑しい笑みを浮かべ

「よかったねぇ、アンタ運気上昇しているよ。星はいいほうへと動いている。このチャンスをムダにしちゃいけないよ。この娘にも忠告しておいた。
だがアンタも動かなきゃいけないよ。しっかりがんばんな。」

「は?」
相変わらず言っていることがよくわからないのだが、占い師のほうは満足げだ。
恥ずかしそうにレヴィンから目を逸らすマーニャも気になったのだが、
おそらくこの婆さんがなにか言ったのだろう。

占い師の言うことがよくわからない不審な表情を浮かべるレヴィンに、占い師は至近距離まで近づき、にやにやと笑みを浮かべたまま肩をぽんと叩きながら
「あの娘いいモノ持っているみたいじゃないか。

いっぱい喜ばせてやりな。アンタのモノでね、へっへっへ。」

「・・・・・は?」

一瞬なんのことだかよくわからず呆然とするレヴィンだったが、占い師の怪しい笑みに、赤面していたマーニャ・・・・・
セクハラ発言かよ!!

「さてと、これで失礼しようか。また会いにくるよ。」

「もうけっこうだよ!」
占いなんて信じるか!そう思うレヴィンだが、老婆のほうはレヴィンにかなり関心があるらしい発言を残して立ち上がった。

「あっ、あたしまだ占ってもらってな・・・」
去り際に占い師はティルテュをチラリと横目で見ながら

「アンタはすぐにこの地を去りな。どんどん星は悪いほうへと傾いていくよ。それだけだ。」

「えっ・・・」

謎の老婆、占い師の彼女は城を後にした。彼女の名はHK・・・・さすらいの占い師。
それはさておき

「あー、もうあのインチキ占い師ムカツクな!

マーニャもティルテュも気にするなよ。あんなのデタラメ言っているだけなんだからな。」
一人ふんぎーと叫ぶレヴィン。

「あ、でも・・・・。」
赤面したまま俯くマーニャと

「よく当たるって話なんだよね?」
不安げに俯くティルテュ。

あーもう、なんだって女は占いなんかに振り回されたりするんだろうな!

バカバカしさ極まりない!と思うレヴィンだったが、彼女達の中ではそうでない想いが渦巻いていたのだった。


BACK  TOP  NEXT