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第5話

「祭じゃー!アメジ殿歓迎の大祭じゃー!!」
ラルドの大きな声を合図に人々は集まり、日が落ちる頃には祭りの準備は整っていた。
街の中央に位置する寺院前の広場に、リスタル中の人たちが集い、にぎやかな祭り独特の空気が漂っていた。
広場中央の祭りの時のみに設置する台を丸く囲むように、楽器を奏でる男達に、その内側で踊る娘達。その他観衆…楽器の音、人々の声、広場は祭りの音でいっぱいになった。
祭りだ祭りだとはしゃぐラルドとは対照的に、アメジはがっくりとしていた。

(はぁ、なんなんだ、このジジイは……それに救世主ってなんなのよ?
はぁ?……てかさ、マジでここは百年後なの?
聖乙女の儀式って…、あたしはただムカツキながら眠っていただけなのに。
わけわからんよ、でもたしかに、だれ一人知ったやつがいないし…信じるしかないのか?)

ハァーと深いため息をついて、アメジはめんどくさそうな表情でラルドを見た。逆にラルドは満面の笑みで返してきた。

ラルドがアメジをテント下の席に着かせると、二人のもとにジストがやってきた。
「ラルド様、なにもこんな時期に祭りなど行わなくても・・・。」
「なにを言っとるんじゃ族長。こんな時だからこそ祭りをやって
みなの気持ちを高めてやるんじゃろうが。ほれ、アンタもさっさとそこに座りなされ。」
そう言ってジストをアメジの横の席にと着かせた。
「さぁ、皆の衆アメジ殿のために祭りをおおいに盛り上げようぞ。
さぁさぁ歌えや飲めや踊れや騒げや、ワハハハハ。」

ラルドの合図とともにさらに祭りは盛り上がった。ラルドは大きな声で笑いながら酒を飲み始めた。
「おい、なにしとる!もっと美味いものを持ってこんか!ささ、アメジ殿どんどんいってくだされ。」
うんざりしていたアメジも、目の前に差し出される数々のご馳走を目にするととたんに嬉々とした顔になった。
「うひょー、いいの?おいしそー。んじゃま、お言葉に甘えていただきます。」
単純アメジ、食事中は悩みなど忘れる主義。乙女であることを忘れ、飢えた野獣のごとくかっくらう。
「おおお、いい食いっぷりですなー。さすがアメジ殿、
いい尻をしとるだけあるわ。」
「ぶふぉい!!尻は関係ないわっ」

(なんかわけわかんないけど、すっげ美味いんですけど、こんな歓迎初めてなんですけどっ、もしかして族長の妻になれなくても楽できるかも?)

アメジの中に新たな道が見えた気がした。


アメジがメシにかっくらっている最中、演奏の曲調が変わり、踊り子達の舞いががらりと変わった。
観衆の視線があるところに集中した。
「おおっ、始まりますぞ、あやつの舞いが。」
ラルドがそう言って目線をやった先にいたのは、神の下僕である精霊の面をつけた、他の踊り子とは違った衣装を身に纏った娘だった。
「!サファ。ケガは大丈夫なのですか?」
その娘がサファだと気付いたジストは心配げにラルドに訊ねた。
「舞いに支障はなかろう、さぁ始まりますぞアメジ殿。」
「ふぇ?」
ラルドに言われてアメジは初めて広場中央の舞いの場に目をやった。
精霊に扮したサファは曲にあわせてゆっくりと、中央の舞いの台へと登っていった。

巫女は女の水晶使いでもあり、踊り子の最重要踊り手でもある。
巫女であるサファだけが舞うことを許される精霊の舞いは、かすかに体内の水晶を放ちながら舞う特別な踊り。
その踊りの力は、舞いを見るものの気持ちをさらに高ぶらせることができる。
サファの舞いによって、広場中の人々の気持ちは一体となり、そこはさらに不思議な空気につつまれていた。
その踊りを見ていて、アメジの中のある感情も高まっていた。
「ふむふむ、さすがはワシの孫じゃ。今となってはあの舞いができるのはあやつだけじゃからのう……」
「ラルド様…」
遠い目をしたラルド、少ししてアメジにこう言った。
「そうじゃ!アメジ殿なら、すばらしい舞いが舞えるに違いない!
アメジ殿、ぜひひとつ舞ってはもらえんかの?」
「えっっ!?」
「ぜひとも頼みますわ、アメジ殿。あやつらにありがたい舞いを見せてやってくれんかの?!」
「ちょっ・・・ちょっと待ってよ・・・な、なに言い出すんだよ?いきなり・・・」
アメジ焦る、焦るにはわけがある、

つまりアメジは・・・・

戻る。

第6話

「さあ、アメジ殿のありがたきたまらん舞いを見せてやってくださらんかのう。」
酒に酔った赤らんだ顔のまま隣に座るアメジに頼み込むラルド。
「ちょ…ちょっと、いきなりなに…」
焦るアメジ。
「おい、聖乙女殿の舞が見られるらしいぞ。」
近くにいただれかがそう言ったのを合図に周りは盛り上がり始める。
聖乙女のありがたい舞、だれもが見たい見たいと騒ぎ出した。そーれそーれと。
ヤバイ(汗)さらに焦るアメジ。
「さあさあ、アメジ殿、見せてくだされ。演奏はアメジ殿に合わせますからの。」
「あ・・・あの・・・ちょっと・・・今日は調子が・・・腹が・・・悪いけど少し向こうで休んでくるわ・・・。じゃ。」
そう言って、腹をさすりながらアメジは席を立った。
「な、なんとアメジ殿食べすぎですかな?ややそれは大変じゃ、ワシが腹をさすって・・・」
「じゃ、あたしあっちのほうで休んでくるわ、今日はありがとね、ラルドのじいさん。」
アメジはそそくさとその場を去っていった。慌ててアメジの後を追おうとするラルドは、酔いがまわって席を立とうとすればふらついてしまった。
「ラルド様、アメジ殿は私が・・・」
ふらつくラルドをジストは席に座らせると、アメジの後を追った。
「おお、またんか族長、ワシがアメジ殿の尻をさす・・・うひぃっく」
アメジが抜けた後も祭りは続き、人々は盛り上がっていた。


「はぁ・・・ヤバ・・・踊りなんて、やれるかっての。」
祭りの音から遠ざかった広場を見下ろせる場の階段の上で、アメジはため息をついた。
「踊りなんて、ぜってーやらねぇ。」
アメジ、踊りを嫌がるにはわけがあった。
巫女は女の水晶使いでありながら、祭りの大事な踊り手でもある職業。
水晶使いの能力と同様に踊りの能力も巫女には必要不可欠なのだ。
しかしアメジは、踊りがまったく苦手だった。
幼い頃、踊りの下手くそっぷりを周りに笑われていたことがトラウマとなり、それ以来、人前ではなにがなんでもぜったいに踊らないと誓ったのであった。
そんなアメジがなぜ巫女になれたかというと……、
親のコネというやつである。
父オルドと親交のあった大神官トパーズは、オルド亡き後はアメジの親代わりと成り、アメジを巫女にしたのだ。
アメジを巫女として鍛えてやるつもりが、アメジのぐうたらぶりは予想以上で、アメジはほとんど巫女の修行をしなかったのだ。
当然踊りなど、一度も練習しなかった。
ゆえにアメジは人前では踊らぬと固く誓っているのだった。
「はぁ、でもあのジジイしつこそう、カンベンしてほしいよ。」
ふう、ともう一度深いため息をついた後、自分を呼ぶ声に気付いた。
「アメジ殿!」
階段を駆け上って、ジストがアメジの前に現れた。
「!う・げ」
「お体は、大丈夫ですか?」
「あ、いや、まあ…でも踊りはきついかな?あはは。」
「すみません、みながムリを言って・・・」
「ははは、いーってことよ。なんせ聖乙女ですから(ちょっと調子ぶっこいてる?あたし)」
アメジの様子を見て一安心したジストは、祭りの光に包まれている広場を見下ろした。

「いつ黒水晶が襲ってくるかわからない、いつ何時も気を抜いてはいけない状態なんです。
ラルド様の祭り好きも考えものなんですが……。
アメジ殿の歓迎は、黒水晶を倒した後でちゃんと行いたいと思っています。」
「へへへ、そう? ま歓迎会は大歓迎だけどさ。」
ジストの目線は広場を見下ろした後は、空へと向かっていた。黒水晶を常に警戒していた。
「そういえば、祭りで巫女の舞いはひとりだけだったけど、他の人はどうしたわけ?」
祭りの様子をふと思い出して訊ねた。
「・・・巫女は、彼女サファひとりだけなんです。」
「へ?」
「他のものは、みな黒水晶に殺されました。
彼女の姉たちであった巫女たちも、多くの水晶使いや聖獣も、黒水晶との戦いに敗れて、リスタルの民のほとんどが黒水晶に家族を奪われ、深い傷を負った。……早くやつを倒し、人々を守る。それが族長としての私の使命なんです。」

(黒水晶に、みんな殺された?・・・ずいぶん皆明るいから、そんなかんじ受けなかったけど、黒水晶ってそんなやばいやつなの?)

「先日唯一の巫女のサファが負傷し、しばらく戦えないと思っていたところ、ラルド様から聖乙女殿のことを聞き、神殿に行ったんです。・・・そして、アメジ殿、あなたは現れた。」
現れたというよりか、正しくはジストによって起こされたアメジ。
「お願いしますアメジ殿!私たちに力を貸してください。
リスタルの人々の希望の光となっていただきたいのです!」
「うぇっ?」
アメジに頭を垂れるジストにアメジは少しとまどった。


それってつまり、あたしにあの
バケモノと戦えって言ってるわけ?


黒水晶……。
アメジが幼い頃、父オルドと遺跡を巡っていた頃、土壁に眠る化石を目にしたことを思い出した。
「うわっ、オヤジ、コレすげーでけーバケモン!」
「ああ、黒水晶だな、こりゃいつの時代かな……。しかしこいつもでけーな。んまあ、俺がやっつけたやつはこの倍だったけなあ?」
むき出しになったその化石をさすりながらオルドは言った。
「ええっ?マジでオヤジこんなバケモノ倒したのか?」
「ああ、マジよ。あのころの俺は、かっこよかったぜぇ。ま今は今で輝いているがな。
アメジ、お前もめんどくさがっていねーで、
かっこいい生き様っての見せつけるかっこいい人間になるんだな。
俺を見習って、な。」
「は?なに言ってんだよ?バカオヤジのくせによ!」
「は、なにを言うかバカ娘。黒水晶ひとつも倒してねーガキに俺のかっこいい生き様を否定する権利はないってのよ。」
「なんだとーーームキー!」
父親とバカみたいな口喧嘩を繰り返しながら、遺跡の中を渡り歩いていたあの幼き日々、アメジは思い出し懐かしく、そして……


「くっそー、やっぱオヤジムカツク!」
「へ?」
「ハン、オヤジにやれてあたしにやれないわけないじゃんよ!
黒水晶なんて三秒でやれるってのよ。」
アメジは握りこぶしを天へと突き出した。空の人となった父オルドにむかっての挑戦状。
「本当ですか?アメジ殿!」
「へ?」
ジストの声で回想シーンからリアルへと引き戻されたアメジ。
「ねぇ、もちろん黒水晶倒したら、ちゃんと歓迎会してくれるんでしょ?美味いものいっぱいくれるんでしょ?アメジ様万歳でしょ?祭ってくれるんでしょ?アメジ伝説轟くんでしょ?」
「え、ええ…、もちろんですよ。」
興奮気味のアメジに少し引くジスト。


(そっかー、なにも族長の妻にこだわることなかったんじゃない?楽して生きる道、見つけた!かも)


アメジの返事に喜び、早速ラルドのもとへ報告に向かおうとするジストをアメジは呼び止めた。
「ねぇ、ジスト、あんたさ、年はいくつなの?」
階段を七段ほど下ったさきでジストが振り向いた。
「え?…22になりますが…」
「年上じゃん! あのさ、そのアメジ殿っていうの止めてくんない?あと敬語も。
あたしかたっくるしいの苦手なんだよね。」

少ししてからジストが答えた。
「そう、ですか・・・なら遠慮なく。
アメジ、ありがとうよろしく頼む。」
「おう、こっちこそよろしくな、ジスト。」
アメジの中で高まっていた感情・・・それは…
救世主になれば、みんなにちやほやされて、楽できんじゃん。うぷぷ。
しかし、アメジ気付いていなかった。その矛盾に・・・。


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