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第10話

「ぷひー、もうお腹いっぱいなんだけどぉー。
もう、みんなさぁ、アメジ様万歳アメジ様万歳っていいすぎ!
ああ、きらめき憧れのアメジごて・・・・・んごぉっ」
「いつまでだらだら寝てるたるか?!ぐうたらアメジ!」
激しいタックルを受け、ベッドから転がり落ちるアメジ。
いってー、とむくりと起きるアメジにどすんとタルがのっかかった。
「おもっ、ブタ聖獣が、ここに・・・」

「うっさいたる!さぁ、行くたるよ!」

午前七時に起こされたアメジは、今日もタル、ジストとともに街の外から黒水晶の警戒にあたる。
アメジは住む場所をラルドより与えられていた。寺院すぐ側の二階建ての小さな家で、アメジ的に少し不満だったが……。
そのうち超豪華なアメジ御殿を建ててもらうという野望でいっぱいなアメジはとりあえず我慢していた。


楽できる人生のためなら、なんだって我慢できるし、やってやるさ。
とわけわからんことを思いながらだ。


前回と同じ場所で黒水晶を撃退、今回も同じように山脈むこうへと引き上げていった黒水晶。

「今日も逃げられちまったね。ああ、くそ、あと一息ってかんじなのにさ。」
アメジもあの戦いからずいぶんとバトル慣れしていた。
ラルドの特訓の成果もあるが、実戦で伸びるタイプであるようだ。
「けどダメージは蓄積されてるはずたる。次こそはいけると思うたるよ。」
「そうだな、それに最近被害が出ていない。」
そういえばそうたるね。とタルが頷いた。
最近は、黒水晶による死傷者がまったく出ていなかった。
いつもこの場で撃退できていたのだ。

「それってあたしのおかげだったりしてね。」
「違うたる!タルとジストのコンビネーションたるよ!お前はすぐ調子に乗るたるー。
こないだまでドクロ水晶の使い方もわからなかったくせに。」
タルはアメジにつっかかるが、タルはアメジの水晶に戦いの中で絶対の安心感を感じるようになっていた。ジストの水晶をうけ光の兵器となった状態の自分を導いてくれる力強い水晶に、その身をまかせられた。戦いの中で、アメジとタルは信頼関係を築いていた。
ジストも、族長として常にみなを引っ張ってきた立場であったが、戦いのとき、気づけばアメジに引っ張られている瞬間があることに気づいた、
そして頼れる背中というのを数年ぶりに意識した。・・・・自分を引っ張ってくれた力強いあの遠き背中を、それは戦いの中に安心感を与えてくれた。
アメジの戦闘での集中力は自分を超えているのではとも感じた。
その分、普段はそーとー気が抜けているのだが・・・。



山道を下り、街へと入った三人をサファが向かえてくれた。
「お疲れ様でした。」
「サファ、出迎えありがとう。」
「ええ、私も次からは一緒に戦いますわ。もうケガも癒えたし」
そう言ってサファはジストに元気そうにアピールした。
「そうか、それはよかった。じゃ、私はこれから会議に向かうから・・・」
「じゃ、タルはさきに帰ってまってるたるね。」
と街についてすぐ解散となった。

「あ、アメジさん、おじい様から、今日の修行はお休みだそうですよ。」
「へ、そうなの(よっしゃ、帰ったらだらだらだらけられるぜ☆)」
ジストの背中を見送ったあと、心配げな表情でサファはアメジに訊ねた。
「あの、アメジさん・・・ジスト様の様子どうでしたか?」
「へ?なにが?」
「疲れていた、とか、ムリしていたかんじとか・・・なかったですか?」
「へ・・・、別に元気だったけど・・・。」
「そう・・・。」
アメジの返事を聞いても不安な表情のままのサファ。
「なに?あいつ、どうかしたの?」
「ええ、その、ジスト様すごく族長としての責任感の強い方だから、みんなのためにっていつもムリしたり、なんでも一人で背負い込んだりってとこがあるから・・・連続で黒水晶と戦ったり、おじい様のワガママ聞いたり、族長の仕事だって毎日あるのに、疲れていないほうがどうかしてるわ。」
ジストはみなのためなら、自分の気持ちなど後回しにしてしまう。そんな性格だから余計心配なのだと。
「ああ、たしかに、あいつのだらけてるところなんて一度も見たことないしね。
・・・そのうち過労死するんじゃないの?がんばりすぎてなんて・・・」
「そんな」
「あっ、冗談だってば(汗)いや、あいつ丈夫だし、水晶も強いし、心配することないって。」
「ええ、でも、せめてジスト様の代わりに戦える水晶使いの人がいればと思うんですが・・・」
そういえば、ジスト以外に戦っている水晶使いがいなかったな。
「なんで?あいつの他に戦えるやつっていないの?」
「そういうわけではないんですが、有力な水晶使いはほとんどの方がもう亡くなられてしまって・・・あとは戦えない体になってしまったり…。
ジスト様並の水晶使いは、いなくなってしまったんです。
若手の水晶使いはおじい様が許可を出してなくて、戦えないんです。
だから、今まともに戦えるのがジスト様だけで。」
ふーん、若手でも使やーいーのに・・・まさかラルじいのジストイジメ??なわけないか。
「じゃー、結局はジスト一人に頑張ってもらうしかないんじゃん?」
そうアメジに言われてがくーんと俯いて考え込むサファ。
「・・・ジスト様の代わりに戦える水晶使いがいれば・・・・・。

あ・・・・・もしかしたら・・・・」
早く帰ってごろごろしようと思って家路に帰ろうとするアメジを、なにか思い出したサファが呼び止めた。
「心当たりが、ひとりいます。」
「は?」
帰ろうとしたアメジをサファは駆け寄って止めた。

「あの、アメジさんにお願いがあるんですが・・・」
「はひ?」
「その人のところにお願いにいってくれませんか?」


(ちょっと、なんであたしが・・・?)


「お願いします、アメジさん!」
どーするー・・・ららららー・・そんな瞳でアメジに頼み込むサファ。
ラルドに世話になっている身のアメジ・・・・しぶしぶ引き受けることになったのだった。

戻る。

第11話

サファからジストの代わりに戦える水晶使いを連れてきて欲しいと頼まれたアメジ。
「で、だれなの?その人は。」
「え、あの、実はジスト様の弟である人なんですが・・・」
「へ?ジストの弟?いたことも知らなかったんだけど。」
「ええ、というのも、その、私ももう十年以上お見かけしてないというか・・・。
幼い頃、お父様である前族長から水晶使いとして育てられていたはずなんですが、
今はどういう状況なのか、私も、知っている人もほとんどいないというか・・・」
「へ?なにそれ、ジストの弟なんでしょ?」
「ええ、そうなんですけど・・・・その、
もう十年以上も家に引きこもっているらしくて・・・よくわからないんです。」

は?・・・十年以上引きこもっているジストの弟?なんなんだよ?そりゃ・・・・

「ものすごく気難しい人らしくて、だれが訪ねても絶対に会わないらしいんですよ、でもきっとアメジさんなら・・・」
「なんであたしなら?」
「水晶の聖乙女・・・ですし、はい、きっと会ってもらえるんじゃないかと。」

なんだよ、その理由はわけわかんねー。

「んー、とりあえず行ってみるけど、ダメだったら諦めてよね。」
「ほんとうですか?!お願いします。」


めんどくさいのは嫌いだったが、これも来るべきアメジ祭に備えてアメジ信者を増やしておくのも悪くない、アメジの脳内では黒水晶を倒した後に行われるであろう祭、アメジ感謝祭を妄想していた。

サファに聞いたとおり、そのジストの弟が住むといわれている場所へと向かう。
中央広場からずっと上、ひたすら階段を登り、街の外に出る一歩手前、左手方向に向かい、住居が立ち並ぶ路地を抜け、行き止まりかと思えた場所からさらに続く細い道、人気のない、なんだか昼間なのに日のほとんど通らない寂しげな場所、その奥に一件だけ立つ古くて寂しげな家屋があった。

「ここか・・・・、てマジで人住んでいるのか?」
疑い眼ながらもアメジは戸を叩いた。
「ごめんくさーい、みんなの人気者聖乙女のアメジさんですけどー・・・・いらっしゃるかしら?」
2、3度戸を叩いたアメジ、しかし、まったく反応がなかった。


やっぱ、いないのか・・・諦めて帰ろうかと思ったアメジは、曇った窓の奥に、動く影を見つけた。

「いるんじゃん?くそ、アメジ様に居留守ぶっこくとは・・・あれ?・・・開いた。」
カギをかけ忘れていたのだろうか、それともカギが壊れていたのだろうか、戸が開いた、
そのままアメジは進入した。

「お邪魔しま・・・おっ。」
入ってすぐアメジが目にしたのは大きな本棚に、ずらーと揃ったたくさんの書物、部屋中にもたくさんの書物が転がっていた。
目に映るは本ばかりであったが、古びたテーブルの上には小さな袋に入れられたクッキーらしきものが置いてあった。
「ん?これクッキー?・・・くんくん。」
手にとって食べられそうなのかと匂いをかいでみた。
「そ、それ・・・マリンのでちゅ・・・」
「ん?」
アメジの足元から、なにか声がした。
アメジが視線を落とすと、そこには小さな聖獣が、体をぷるぷると震わせながら、アメジを見ていた。
「はぅっっ、なに?このきゃわゆい子はっっv」
アメジの目にとってもぷりてぃーに映ったその聖獣を触ろうと、アメジはしゃがみこんだ。
「ん・・・ちみ・・・そういえば・・・」
アメジ、思い出した。アメジはこのこに以前会っていることがあるような気がした。

そういえば、神殿に向かう途中の道で会った、月夜の下で唄っていたあの子だ。
「みゅ?!・・・あのときの・・・」
そのこもアメジを思い出したらしく、さらにまん丸な瞳をしてアメジを見た。


ああ、なんてかわいいの?!でも、なんでこのこがここにいるわけ?・・・・あれ?・・・まさか・・・
まさか・・・アメジがそう思ったとき、

「だれだ?!勝手に人の家に上がってなにしているっ?!」
激しく隣の部屋のドアが開いたと同時に、アメジは怒鳴られた。
「あのねー、あたしは何度も呼びかけた・・・・て・・・あ」
アメジ、その相手と目が合って気がついた。
「あ!お前、あの時の」
相手も気がついた。
あの夜の、アメジがトパーズかもと勘違いした、白い髪の笛吹き男だった。
あの日は月明かりの中だけで、はっきりとはみえなかったが、この男の容姿、他のリスタルの男とは違っていた。
アメジとほぼ同じ年頃に見えながら、老人のように真っ白な髪。血管が透けて見えそうなほどの白い肌。瞳の色素もとても薄く、黒い瞳、茶色い瞳が当たり前なリスタル族には見られない、金色の瞳をしていた。もう片方の目(左目)はさらに色素が薄く見えたが、気にしているのか長く伸ばした髪の毛で隠していた。
健康的なジストの弟とは思えないほど、華奢な男だった。


こいつがジストの弟?・・・というか水晶使い??


激しく疑いの眼を向けるアメジを、男はキッ、と睨んだ。
不法侵入者め。と敵意を露わにしてくる男を無視して、アメジは小さな聖獣へと向き直った。
「このクッキー君のなの?好きなの?クッキー」
「みゅ。」
かわいいーーーvと変態くさい顔で聖獣をなでなでするアメジにさらに男がキレる。
「!!おい、マリンに触るな!!」
「へぇ〜マリンちゃんっていうのか〜v」
「くっ、なんだこの女。」
明らかにアメジに不快な表情のままの男、それを不安げな顔で見上げる小さな聖獣。

「そうそう、頼まれごとだ。アンタがジストの弟?」
「は?それがどうした?」
「水晶使いなら、一緒に黒水晶と戦ってほしいんだけど。
今ならこの聖乙女ことアメジ様と一緒に戦えるというありがたいキャンペーン中だけど、どうよ?」
イラついた男に対して挑戦的に言うアメジ。

聖乙女・・・?と眉間にしわよせる男、みゅ!となにかを感じ取った表情を見せる小さな聖獣。
しばらくの沈黙が続いた後、男から放たれた言葉は……。


「うるさい!でていけ!クソ女!!」
「ぎゃん!」
バン!

アメジ、追い出されてしまった。

戻る。

第12話

「なんだ、あいつは、ムカツクなープリプリ!
くそー、しかもケツ蹴りがったよ、あんちくしょう…いたた。」
アメジ、階段を下った踊り場でケツを擦った。
しかし、ケツデカが幸いか、実は言うほど痛くはなかったのだ。

あの無礼男がジストの弟・・・同じ兄弟でここまでも違うのかと呆れながら
「あいつ将来は絶対に頑固ジジイになるね、なりまくるね。
まったく、それに比べてあのきゃわいこちゅわんわ・・・」
ほんわわわ〜・・・アメジ、あの小さな聖獣マリンのかわいさを思い出し、変態くさくにんまりとしていた。そしてケツを擦る。

「まって・・くだちゃい・・・ちぇいおとめ・・ちゃま・・」
アメジのケツを擦る手が止まった。アメジの背後から聞こえるこの声は・・・
「あっ、ちみは」
アメジの側まで一生懸命走ってくる、息を切らせながら、アメジを呼び止めたのは、
さっき出会ったマリンだった。
「マリンちゅわんvv」
でへでへとアメジはしゃがみこんだ。
変態顔のアメジとは対照的にマジメな顔のままマリンが言ったのは
「あにょ・・おねがいがあるでちゅ。」
「なあに?なんだい?遠慮なしに言ってごらん。」
「マリンもくろついちょうとたたかうでちゅ!」
「え?はい?」
マリンも黒水晶と戦う・・・ですって?!
「え、ちょ、マリンちゃん?まさか、
あいつに、お前が代わりに戦って来いくっくっく・・・とかって命令されたの?!
おのれ、あの男、どこまでも腐ってやがる。
あたしのケツ蹴ったし(怒)」
「ち、ちがうでちゅ!アクアちゃまはだれよりもやちゃちいひとでちゅ!」
「へ?」
ちっちゃいながらも必死に訴えるマリンにアメジは少し驚いた。
「みんなアクアチャまのことごかいちてるんでちゅ。マリンがいじめられてるときたちゅけてくれたんでちゅ。あと、いちゅもやちゃちいでちゅ。これもマリンのためにちゅくってくれたでちゅ。」
「え、この首輪?」
そうでちゅ。とマリンがこくこくと頷いた。マリンの首にかけられていた小さなドクロを模ったストーンアクセサリだった。どうやら手作りらしい。マリンの宝物だと語った。
「アクアちゃまはくろついちょうのちぇいでぢゅっとくるちんでいるんでちゅ。
だからマリンはくろついちょうたおちて、アクアちゃまたちゅけたいんでちゅ。
くろついちょたおちたら、きっとアクアちゃま、ちあわちぇになれるとおもうんでちゅ。」
真ん丸い目をうるうるさせながらも、アメジに必死に訴えるマリン。
「マリンちゃん……」
なんてかわいくて一生懸命でいいこなの?!
こんなマリンちゃんにここまで言わせるあのアクアって男何者なのさ?
こんな小さな体で、あいつのためにあんなバケモノと戦いたいと言ったマリンちゃんの気持ち、ムダにしたくない。

「マリンちゃん、ありがとう、なんていい子なの?うれしいわ。」
そう言ってアメジ、マリンをひしっと抱きしめた、直後、
「ああっ、マリン!早くそいつから離れるたるよ!」
アメジのケツにまたしても蹴りがっ!!
「どわっちゃー。」
すっころぶアメジ、デカイケツがますますでかくなってしまう。
「ちょっ、なにすんのよ?!タル!」
アメジが振り返ると、ふんぞり返ったタルがいた。
「あ、おねーたん。」
え?おねーちゃん???
「マリン、こいつに近づくとアホがうつるたるよ。」
「えええっ??おねーちゃんって・・・タルがマリンちゃんのお姉ちゃん???」
どびっくりアメジ、ふたりをきょろきょろと見比べる。

そうたる。そうでちゅ。
アメジ、まだ混乱中。

「うそだ、こんなぷりきゅーなマリンちゃんとモチ顔タルが姉妹なんて、どー考えたってありえなーい・・・。」
「お前やっぱり失礼たるっっ!」
ぷりぷりするタルだが、いつものことなのでしかたないとアメジを無視して、マリンへと向き直った。
「マリン、最近どこ行っているたるか?タルが出かけている間はおうちでおとなしく待っていろって言ったたるよ。」
「みゅ。」
「ウワサではお前があの変なやつのところに出入りしているって聞いたたるけど、
絶対に行っちゃだめたるよ!」
「アクアちゃまはへんなやちゅじゃないでちゅ!!
アクアちゃまのわるくちゆうおねーたんなんかきらいでちゅ!!」
泣きながらタルのもとを走り去るマリン。「こらー、マリン待つたる!」タルが呼んでも振り返らず去っていった。


「・・・いったい、そのアクアってどんな奴なのよ、マリンちゃんのあの反応ただごとじゃないでしょ?」
「タルもよく知らないけど、ろくなウワサ聞かないたる。
リスタルのため命はっているジストとは大違いたるよ。」
どうやら、そのアクアという男、みなからあまりよく思われていないらしい。しかし、マリンだけはあの態度、なにかあるのだろうか。

「あっ、アメジ、お前もしマリンがあの男に会いにいこうとしていたら止めてやってほしいたるよ。マリンはタルのたったひとりの妹たる、なにかあったら困るたるよ。」
タルはタルでマリンのことを想っているのだった。
どうやら周りからよく思われていない、族長ジストの弟、十年以上引きこもっている、マリンだけは優しいという……。
なにかありそうなその男アクア、アメジはなんだか気になった。




その夜、水晶神殿へと続く山道に向かう影があった。
ひとつは男の影と、もうひとつは小さな聖獣の影、
アクアとマリンだった。
どうやら彼らにとって、夜の散歩は習慣であったようだ、いつものルートを進む。
いつもと同じ、静かな夜の時間・・・・のはずだったが、それを遮るものが現れた。


「かわいいあのこと〜〜ラブラブランデ〜ブー〜〜♪」
「なんだ?この耳障りな唄は?!」
「あっ!」
アクアが睨みつけた先にいた影は・・・
「アメジちゃま!」
「マリンちゅわ〜んvv」
マリンに向かってアメジ投げキッス。
「なんでお前がここに?!」
またしてもアメジに敵意ギンギンに睨むアクアに、またしてもフフンと挑戦的に睨み返すアメジ。
その二人の間でキョロキョロとするマリン。
「アンタから我が愛しのマリンたんを奪いに来たのよ。」
「はぁ?!」
「みゅ?」
月が見守る中、アメジVSアクアという奇妙な戦いが始まったのだった。

戻る。

第13話

「さあ、マリンちゃんを渡してもらうわよ。」
「フン、ふざけるな!お前なんかにマリンは渡さん!」
さらにアメジを睨みつけるアクア。
「なに?そんなムキになるなんて・・・。
マリンちゃんはアンタのなんなのさ?え?」
「う、マリンは・・・・」
アメジの問いかけに口ごもるアクア、そんなアクアを真っ直ぐな眼で見つめるマリン。


マリンは・・・マリンは・・・俺の・・・


瞬間、アクアのアメジへの口撃が止んだ。
アメジはアクアの気持ちを確かめるように、口撃を続けた。
「ぷっまさか、たったひとりのお友達なんて言うんじゃ・・・」
「なっ、ちがっ」
「マリンちゃんは聖獣なのよ、水晶使いと共に戦うのが使命なんじゃない?」
「なんだと?!勝手なことを言うな!あんなバケモノとマリンが戦えるわけない!」
「マリンちゃんはちゃんとわかってんのよ。そしてあたしに言ったのよ、黒水晶と戦いたいってね。」
「なんだと?マリンがそんなこと言うわけないだろ?臆病なマリンがあんなバケモノと戦いたいなどと……」

「ほんとうでちゅ。」

マリンの答えにアクアは驚いた。
「あいつに脅されているのか?」
マリンの答えが真実だと思えないアクア。
「ちがうでちゅ。マリンがきめたでちゅ。
マリンくろついちょうたおちゅでちゅ。ちょちてアクアちゃまにおんかえちちゅるんでちゅ。」
「お前はあのバケモノがどれだけ恐ろしいか、わかってないんだろ?だから・・・・」
マリンの答えに頷こうとしないアクアにアメジがキレた。

「わかってないのはてめーのほうだっっ!」
「ふがっっっ!?」
アメジの助走をつけた鉄拳によってアクアはぶっとばされた。
「ああっ、ぼうりょくはだめでちゅっ」
「マリンちゃんはね、アンタのために黒水晶を倒したいって言ってきたのよ!
こんな小さな子が・・・アンタを救いたいがためにって。
小さな体であのバカデカイバケモノと戦いたいって……。
アンタ、あたしよりこのこのことわかってるんじゃないの?
なのに、なんで……。
マリンちゃんのせいいっぱいの勇気がわかんねーんだよ?!」
「わかってないのはそっちのほうだ。黒水晶となんて戦えない。マリンは幼すぎる、聖獣としての力なんてないに等しい。
それに、マリンを扱える水晶使いがどこにいるんだ?」
諦めに似た目で答えるアクア。
そんなアクアを真ん丸い目でじっと見るマリン


「アンタじゃないの・・・・?違うの・・・?」

アメジはアクアに答えを求めた。アメジの欲した答えがもどってきてほしいと思いながら、アクアの目を見た。
「俺は・・・・・」

「・・・アクアちゃま」

俯いたままのアクアの口から出た言葉は



「違う。・・・俺は水晶使いじゃない。戦えない。」
アクア自身の口から自分は水晶使いじゃないとでた。
サファの情報では、幼い頃に父親から水晶使いとして育てられたと聞いていたのだが……。
そこにいたのは先ほどまでアメジに敵意むき出しにギラついていた男とは別人のように、静かにうなだれたままのアクアがいた。
おそろしいほどにか弱く映ったその魂に、アメジは再び握っていた拳を下ろした。
「じゃ、しかたないか。ラルじいにでも聞いてみてマリンちゃんのパートナー務まる水晶使い探してみるか。いこ、マリンちゃん。」
アクアのよこを通り過ぎ、マリンを胸に抱いて、アメジは山道を下りだす。アメジに抱えられたまま、アメジの肩から顔をのぞかせ、アクアへと振り返るマリンは小さな声ながら、叫んだ。
「アクアちゃま!マリンじぇったいくろついちょたおちゅでちゅ。ちゃから、あんちんちて!」
マリンは小さいながら決意を秘めた強い目で、そしてかすかに潤んだ瞳で、遠ざかるアクアの姿を見つめていた。



深まっていく夜の中、冷たい土の上にアクアはじっと座ったままでいた。
アメジにぶたれた頬がまだ熱く、じんじんと痛んだ。

「なんで・・・・死んだのに・・・」

その痛みは懐かしくも苦しかったあの記憶を呼びさました。
忘れ去りたい記憶、消してしまいたい過去。
アクアにとっては黒水晶以上の恐怖であったかもしれない、その存在・・・・

「親父・・・・」

もうこの世にはいないその存在、
だがアクアの中ではまだ消え去ることのない巨大な冷たい壁。

十年前、アクアが引きこもることになった大きな原因、
なにより逃げたかったその存在を激しく思い出させてしまった。

「あの女・・・・」
ぎゅっと唇を噛むアクア、じわっと口に広がる血の味。
いきなり自分の前に現れて、マリンを奪った上、体をまっぷたつにされたかのような衝撃をアクアに残したアメジ。
そしてアメジとの出会いがアクアの人生を、全てを変えていくのである。


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