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第14話

「連れてきたよ♪」
「・・・連れてきたって・・アメジさん、マリンちゃん?」

サファの前にアメジはみゅっ。とマリンちゃんを差し出して見せた。
「あいつの代わりにマリンちゃんが戦ってくれるって、ね。」
「はいでちゅ。」
ええっ?!、困ったままの表情でサファはため息をついた。
ジストの代わりに戦える水晶使いを求めていたのに、

こんな小さな聖獣が代わりだなんて・・・・(泣)



「聖獣と水晶使いは、水晶の相性が第一だから、
マリンちゃんと合う人がいるかどうか調べてみるわね。
マリンちゃん、ちょっと疲れるかもしれないけど、我慢してね。」
「はいでちゅ。」
サファに抱きかかえられたマリンは、若手始め、水晶使いたちのもとを回る。
水晶使いは少しだけ水晶をマリンへと送り込む、そのたびにマリンは静電気がおきたように全身の毛がぶわっと逆立ち、体をぶるぶると震わせ、拒否反応を示した。
サファは思い当たるだけの水晶使いたちのもとを回り、
マリンとの相性を確かめた・・・が




「全滅でした・・・。」
がっくりと肩をおとすサファ、その横で残念そうに小さくみゅっ。と鳴いたマリン。
「そっか・・・、水晶使いがいないと、聖獣だけじゃ、黒水晶と戦うのってムリだよねー。」
やれやれ。と肩をおとすアメジ。
それ以上にさらに小さく縮こまりながらマリン
「マリン・・・たたかえないでちゅか?・・・マリン
アクアちゃまのおやくにたてないでちゅか・・・?
ちょんなのやでちゅ!」
体をぷるぷると震わせながら、ダッと走り去るマリン、
をアメジは慌てて追いかけた。


「マリンちゃん!!」
「ひくっ、ひくっ・・・」
小さな体をぷるぷる震わせながら、マリンは泣いていた。

「マリンなにもできないでちゅ・・・
やくたたじゅでちゅ・・・ひくっ。」

アメジがしゃがみこんでその小さな背中に触れると、一瞬びくっとなり、またぽろぽろと泣いた。
「マリンちゃん・・・アンタなんでそこまであいつのことを」
「アクアちゃまは・・・マリンのおんじんなんでちゅ。


マリンがチビでなきむちでよわいからって、ほかのちぇいじゅうたちにいじめられていたでちゅ。
ちょこにアクアちゃまがやってきて、マリンをいじめてたちぇいじゅうたち、みんにゃにげていったでちゅ。
マリンひとめみて、アクアちゃまにちゅいていこーておもったでちゅ。
アクアちゃま、ちょばにいてもいいっていってくれたでちゅ。
ちょちて、いちゅもやちゃちくちてくれるでちゅ。

だからマリンアクアちゃまにおんかえちちたいでちゅ。
くろついちょいるから、アクアちゃまつらいんでちゅ。
いつもうなちゃれているんでちゅ・・・くろついちょわるいでちゅ。
だからマリンたおちたいんでちゅ。」
涙でぐしゅぐしゅな顔のまま、アメジを見上げ必死に訴えるマリン。
「マリンちゃん・・・。」
一生懸命な、一途なマリンの気持ち、なんとか叶えてやりたいと思う、アメジだったが・・・・


相性の合う水晶使いがいないんじゃ・・・・


なんとかマリンを納得させる言葉を考えていたアメジの後方から、サファの声が
「あっ、アメジさん、いました、あと一人・・・はぁはぁ・・・」
アメジのもとへと駆けてきたサファは
「へ?だれよ?」


「はい、おじい様、ですよ!」
ラルじい?!





太陽から逃れるようにして立っているあのさびしい家に、アクアはいた。
机の上に、置きっぱなしになったままのマリンのクッキーに目がいった。
「マリンのやつ、忘れていってる・・・。」
小さな袋に入ったままのそのクッキーをてのひらに乗せ、
マリンを心に想った。


二年前、出会った幼い聖獣は、初めて出会ったその瞬間から、自分をまっすぐな眼で見つめてくれた。
それ以来、自分を慕い、いつもついてきてくれた。

こんな自分を・・・・・


アクアは自分が嫌いだった、
生まれる前、母の胎内にいた頃、黒水晶の毒をうけ、そのため
他のリスタル人とは違う、奇怪な容姿で生まれたのが嫌だった。
そしてその毒の影響か、体内に宿したバケモノ級のバカデカイ水晶に、それにつりあわない、よわすぎる体。



そしてそれ以上に、弱すぎた心が・・・・


厳しすぎた父、ついていけない修行、優秀すぎた兄、周囲の自分を見る目・・・・
強くなれない心はどんどん傷ついていった。
一度も褒められたことはなかった。
いつも叱られてばかりだった。
ぶたれてばかりだった。
すべてが恐怖だと感じた幼いアクアの心は、逃げることだけを求めた。
だれもいない、古びた廃屋へと隠れ、父に見つからぬようにと、びくびくしながら潜んでいた。
もう、十年も・・・

戻る。

第15話

やっと年齢が二桁になったばかりのアクアは、その廃屋に立てこもるようになった。
そこでなにをするわけでもなく、三角座りで、小さくなった体を抱えるように、父に見つからないようにとびくびくしながら、
息を潜めていた。
もともと細身だったその体は、この三日なにも口にしてなかったからなのか、ますます細くなっていた。
アクアのなかでは空腹を満たすことよりも、父から逃れることのほうが重要だった。
いや、いっそこのまま死んでもいいとさえ思っていた。

そんな時、ドアの向こうで物音がした。
父かもしれない。心臓だけが激しく反応する中、激しい緊張感だけがアクアのリアルだった。
激しい恐怖感が襲った、が、その物音の正体は幸運にも父ではなかった。


「アクアぼっちゃま、私です、ラズリです。」
「!」

声の主は、父に仕える聖獣ラピスの妻ラズリだった。
側に他のだれかがいるかもしれないと警戒して声を飲み込むアクアにラズリが話しかけた。
「安心してくださいな、私しかいませんから。」
「・・・・父さんに言われて、僕を連れ戻しにきたのか?」

震える声でラズリに訊ねるアクア、そんなアクアを不憫に思いながら、優しい口調でラズリは答える。

「いいえ、そうではなくて、お腹を空かしていると思って、
食べ物を持ってきたんですよ。

なにも食べてないのではありませんか?
ダメですよ、大事な時期なんですから。」

「・・・・。」

ラズリの優しさに喉の奥が震えそうになりながらも、アクアは

「・・・ダメだよ、僕なんかより、子供にあげなきゃ。
まだ生まれたばかりだし、ラズリのほうこそ大事な時期だろ?
・・・早く、もどってあげなきゃ。」
「ありがとう、アクアぼっちゃまは本当に優しいお方。」


違う、ただの臆病者なんだ。
心の奥で、ラズリの言葉を否定するアクア。


「でも、ちゃんと食べてくださいね。
また、様子を見にきますわ。」
「・・・・。」

ラズリが去った音を確認すると、アクアはそっとドアを開けた。
ラズリが持ってきた食べ物を、頬張った。

ラズリの優しさに、お腹だけでなく、心も少し満たされた気がした。

それから毎日、ラズリはアクアのもとを訪れた。いつもドアごしで、お互い顔を見ることはなかったが、それがアクアのせいいっぱいの対応であり、ラズリもそれをわかっていた。
アクアは夜中にこっそりと外にでることがあった。
そしてこっそりと寺院に忍び込み、書庫の古本をいろいろ読み漁った。
アクアは基本的に体を動かすことより、本を読んだり、字を書いたり、とデスクワークが好きだった。
書庫で興味深い本を選んでは、内容を書き写し、自分なりにまとめてたくさんの書をこしらえた。
特にアクアが好んだのは、リスタルの歴史と遺跡に関する謎など、水晶に関する謎にも興味があったが、後ろめたい思いがあるのか、水晶使いというワードを目にするたび、心が痛んだ。

父から、水晶使いの修行から逃げてきたことが悪いことなのだとアクアは後ろめたく思っていたのだ。

だが、それに立ち向かう勇気は、なかった。


いつものようにドアごしにラズリと語り合うアクア。
寺院の書庫で得た知識をうれしそうに話すアクアにラズリがこう話した。
「アクアぼっちゃま、本を書かれたらどうです?」
「本?!・・・でも、だれが見てくれるかな?・・・僕の書いた本なんて・・・。」
自分に自信のないアクアは頼りなげに答える。

「私は読んでみたいですわ。せっかくの知識をいかさなくてはもったいないでしょう?
きっとアクアぼっちゃまは水晶使いよりも、そっちのほうが向いているんじゃないかしら?」
アクアに希望を持たせたいラズリはそう答える。

「でも・・・水晶使いになれたら・・・・どんなにいいだろう・・・、

そしたら少しは父さんも許してくれるだろうな。」
力なく、さびしげに言うアクアに、ラズリは優しく答えた。
「許すも何も、族長はアクアぼっちゃまが思っているように恐ろしい方ではありませんよ。
ただ、子供の愛し方が不器用なだけなんですよ。」
「そうかな・・・?そんなの気休めでしか・・・。」


父は自分を憎んでいるんじゃないのか?

母親の命を奪ってまで生まれたのが、こんな出来損ないの人間で・・・

アクアはそう思えてならなかった。


「アクアぼっちゃま、私、もうじき子供が生まれるんですのよ。」

「え?」

「私、このこにはぼっちゃまのような優しい心を持った子に育って欲しいと思っていますの。」
ふふ、と笑いながら言うラズリに

「ダメだ!こんな臆病者になっちゃ!」
必死で否定するアクア
「ぼっちゃま、臆病なのは悪いこととは思いませんわ。
強い者には持てない優しさを、ぼっちゃまは持っているんですから。
優しい心、だれかを思いやる気持ちは、私なによりの強さだと思っているんですよ。



ねぇ、ぼっちゃま、このこが生まれたら、抱きにきてくれませんか?

お家に戻って来いという意味ではありませんわ。このこに会いにきてほしいんですの。」

「・・・・ラズリ。」


それが、ラズリとの最後の会話になった。

二人目の子を生んだ後、黒水晶との戦いにおいて命を落とした。

それから二年後、アクアはそのラズリの子と出会うことになる。
ラズリゆずりの虎毛に、透き通ったスカイブルーの瞳。

疑うことなど知らず、真っ直ぐな瞳は、透明な心を象徴しているかのような・・・・
それがマリンだった。

マリンは、母とアクアの関係もやりとりも知らなかった。
だが、他の聖獣たちが恐れるような、バケモノみたいな水晶に恐れることもなく、自分を慕ってついてきてくれた。
臆病だけど、真っ直ぐで、いつも自分を信じてくれた。
優しい瞳が、アクアの脳裏に焼きついたままだった。

アメジに連れられて、黒水晶と戦いに行ったマリン。

こんな自分のために、と勇気をふりしぼった幼い魂。

あの時のアメジの問いかけに迷いながらも、答えをだそうとしていた。

「マリン・・・。」

今こそ、逃げ出さない勇気をアクアは手にしようとしていた。

戻る。

第16話

「マリンちゃん、まだ希望は残っているわ。
おじい様がまだいたわ。」

果たしてそれは希望といえるのだろうか・・・?
アメジとサファとマリンはラルドのもとへと向かった。

今日もそろそろ黒水晶がやってくる時間となり、いつもの場所にラルドはジスト、タルとともにいた。
アメジたちが来たときはまだ幸いにも黒水晶は来ていなかった。



「コリャ、遅いではないか!巫女がおらんことには話にならんじゃろが、
まったく、ケガで休んでおったからと、心までたるんではしようがないわ。」

「すみません、少し用事がありまして。」
「そうそう、大事な用事よ。」
開き直ってアメジ答える。
アメジに抱かれたままのマリンもみゅっ。と答える。
マリンに真っ先に気づいたタルが「あっ」と叫んだ。

「ちょっ、なんでマリンを連れてきたるか?!
もうじきあいつがここにやってくるたるよ!」
ジストの足元で、ギャーギャー叫ぶタル。

「そう、でおじい様、このマリンちゃんとの水晶の相性を調べにきたんです。」
「なんじゃと?このチビっこと・・・ワシが?」
「ええ、おじい様の聖獣はもう数十年前に亡くなったのを最後に、おじい様はずっとおひとりでしょう。もし、マリンちゃんと相性が合えば、またおじい様だって。」

「お前、このワシを戦わせるつもりかっ?!!
なにを考えとる。そんなことをすれば・・・
アメジ殿がますますワシに惚れてしまうじゃろうがっ!」

んなわけないだろ、ジジイ。

「サファ、ラルド様を戦わせるなんて、無茶を言うな。
私とタルがみなの分まで戦う。
マリンも、下がらせるんだ。」
「ジスト様、あなたこそひとりで無茶しすぎです。
おじい様は年の割りに丈夫だから、少しくらい無茶させても平気です。」
サファ、ちょっとラルドに酷い。だが、それもジストを想うからこその発言であって、けっしてラルドをどうでもいいと思っているけではない。
サファは普段おとなしいわりに、いざという時頑固なところもあり、言い出したらジストであろうと譲らないときがある。ジストもそれを知っているから、半分諦めたようなため息をついた。

タルだけは強く、反対たる!と主張していた。


マリンちゃんとラルじいか・・・・

アメジはふたりが並んで戦っている姿を想像してみた・・・が。

ぷりてぃ〜とジジイ(エロ)・・・あああ、なんて絵にならない(泣

)マリンちゃんの気持ちを叶えてやりたいと思ったアメジだったが、マリンの初主人となるのがラルドかもしれないと思うと、少し、いやかなり後悔した。

そんなこんなともめているうちに、あの黒く巨大な影が舞って来た。

「みな、早く構えろ!奴が来た!」
ジストが黒水晶を睨みながら、みなに叫び、体制を整える。
タルもすぐジストのもとに走り、戦いの精神に入る。

「アメジさん!」
「よっしゃ、いくよ。」

アメジ、マリンを降ろすとドクロ水晶を取り出し、走り出した。
サファもアメジと打ち合わせをしたわけではないが、
アメジとは逆方向へ向かい、ドクロ水晶を構え、集中を始めた。

巨大なバケモノを目の前にし、小さな体がガクガクと震えだしたマリンだったが、
必死でそれを打ち消そうとし、体を真っ直ぐと伸ばし、振るえを止めようとした。
アクアのために黒水晶を倒したい、その気持ちだけは本当だったからだ。


アメジは大地を激しく蹴り上げるごとく、走りながら、力強い光の線を描いていった。
黒水晶が真っ先に動きの早いアメジへと目標を定め、襲い掛かる。
アメジはフットワークのよさで、巨大な黒水晶の体当たりな攻撃をかわしながら線を描き続けた。

アメジがおとりとなっているおかげで、サファはわりと安全に線を描いていけた。
サファは流れるような動きで、舞台で舞っているようなステップで光の線を描いていく。

ジストもいつものように水晶をタルに込め、タルの戦闘能力を高めてやる。光の生物となったタルは二人の巫女が描いた線をつぎつぎと駆けていき、黒水晶へとぶつかっていった。


ギャアアアーーー、耳に障るあのキツイ鳴き声をあげながら、
痛みに悶える黒水晶は、激しく暴れながら土壁にとぶつかった。
黒水晶の激しい羽ばたきに、タルははじかれ、土壁にと激しくぶつかって、大地に叩きつけられた。

「タル!!」

すぐさまジストが駆けつけたが、ダメージをかなりうけたタルはしばらく動けなくなっていた。ジストが水晶を注ぎ込むが、回復にはしばらくかかるようだ。

「すまない、二人とも、少し時間をかせいでくれ。十分ほど・・。」
「ええっ、ちょっ・・・アンタらが戦えないと意味な・・・、おおっと。」
アメジ、黒水晶の体当たりをかわしつつ、そのまま線を描きつづけた。
サファはラルドに声をかけながら、目をやった。


「むむう、ワシも数十年ぶりに、戦うことになるとはのう・・・

ふむ、ちと大神官の力でも見せ付けてやるとしようかの、ほれいくぞ、チビッコ。」

「みゅっ?」

ラルドにひょいと抱き上げられ、マリン一瞬縮こまった。
ラルド、しわしわの手に水晶を集めだし、マリンの体へと注ごうとした。
その直前にマリンは全身の毛をぶわっと逆立て、ラルドから飛び降り、逃げ出した。

「コリャ!なにしとんじゃこのチビッコ!(怒)」
「ダメでちゅ!マリンやっぱりダメでちゅーー!」

半泣きでラルドから逃げ出すマリン、それを追いかけるラルド。

「ちょっ・・・ラルじい?なにやってんの?!
マリンちゃんをいじめてんじゃないわよ!(怒)」

アメジとサファはラルドの様子を気にしながら、水晶を放出しつつ、黒水晶を翻弄する。
ジストは黒水晶から逃れつつ、タルの回復を図るが、まだかかりそうだ。
アメジ、希望をラルドへと向けるが・・・

泣いて逃げるマリンとそれを追いかけるラルド・・・ダメそう。

「ラルじいーーー!!」



ちょこまかと逃げ回るマリンを岩陰まで追い詰め、じりとにじり寄り、ついに捕まえたラルドは勝ち誇ったようににやり、といやらしく微笑んだ。その表情にがくがくと震えるマリン。

「さあ、観念するんじゃー、チビッコ。」
「みゅ!!」

ラルドの手から放たれた水晶はマリンへと、

「た、たちゅけて・・・アクアちゃまーーー!!!」

戻る。

第17話


「い・・・いやでちゅ―――っ、アクアちゃまーー!!」

マリンの悲痛な叫び声が響いた。
マリンの全細胞がラルドを拒絶していたのだ。

「観念するのじゃ、チビッコめが・・・。」

にじりにじりとマリンに近づくラルドの手、
その手がマリンに触れようとしたとき、それを遮る声がした。


「マリンに触るな!!」


マリンの耳がピンとなった。
その声は下のほうからやってきた。

ラルドがその声のほうへと振り返った瞬間、マリンはその声へと駆けて行った。


「アクアちゃま!」

目に涙を浮かべながら駆け寄っていくマリン、アクアはそのマリンの頭を優しく撫でてやった。

「なんじゃ、小僧!」
ラルド、ムッとした顔でアクアを見る。

「あっ、あいつ!」
「あ、もしかして・・・あの人が?
アメジさん、やっぱり連れてきてくれたんですね。」

アクアに気づいたアメジとサファは線を描きつつ、アクアのほうへと目をやった。

「!?・・・まさか・・・彼は・・・。」
アクアに気づいたジストも、十年ぶりに目にする弟にしばらく目を奪われた。


「アクアちゃま!

マリンは・・・

マリンのまちゅたーは、やっぱりアクアちゃまちかいないでちゅ!

マリン・・・アクアちゃまといっちょに

たたかいたいでちゅ!!」

さっきまでのおびえた表情と一転、凛とした顔でアクアを見上げたマリン。
アクアを見つめる真っ直ぐな、スカイブルーの瞳にアクアの心が激しく揺れた。

「マリン・・・あんなバケモノにぶつかっていくの怖くないのか?」
まばたきすら忘れている力強いその瞳を見つめながらアクアは問いかけた。

「アクアちゃまいっちょなら・・・
マリン・・・こわくないでちゅよ!」

太陽にきらりと照らされた青空色のその瞳にアクアは勇気をもらった。
もう一度マリンの頭を撫でた後、すくと立ち上がり

「じゃ、マリン・・・いくぞ。」
アクアの答えにマリンの瞳はうれしそうに輝いた。
「はいでちゅ!」


アクアは集中する。
激しく暴れそうなどうしようもない自分のその水晶を
なんとか上手く流そうと、呼吸を整えながら、集中する。
じっとアクアの水晶を待つマリン、幼いながら戦う獣の目をしていた。
喉の奥が千切れそうになりながらも、なんとか右手へと水晶を集め始めたアクア、あと少し、そう思った瞬間集まった水晶が逆流を始め、それに耐え切れない弱い体が呻いた。

「アクアちゃま!」

その場に膝を着いたアクアに、マリンが駆け寄ろうとしたが、アクアはそれを止めた。

「すまないマリン、久々に水晶を使ったから、体がびっくりしただけだ。」
ハァハァ、途切れそうな息を悟られぬようにと、深呼吸し、呼吸を整える。
ムダなドキドキを押さえたい。
ここには、自分を怒鳴りつける父はいない。

マリンが待っている。
落ち着け
少しだけ、水晶を・・・ここに集める!

アクアは手のひらに一握り分の水晶を集めた。

「!よし、マリン!」
その水晶をマリンへと向けて放った。
「はいでちゅ!アクアちゃま。」
アクアの水晶を受けたマリンはタルのような輝ける聖獣となり、
アメジたちの描いた光の道を駆け出した。
その様子を見ていたラルドはぽかーんとなっていたが、
アメジは軽くガッツポーズ

「あいつ、やるじゃないかー。」
タルへと水晶を注ぎ続けるジストは

「・・・やっぱり、アクア・・・なのか?」
まだ半分信じられない目でアクアを見ていた。


小さな体ながら光の生物兵器と化したマリン、光の道を駆けながら黒水晶へと到達。
激しくぶつかった。
マリンがぶつかると体をねじらせ、翼を激しく羽ばたかせマリンを払おうとした黒水晶だったが、一撃与えたマリンはすぐさまアクアのもとへと駆けてもどった。

「アクアちゃま!いけるでちゅよ!」
初めての攻撃が上手くいった喜びで嬉しそうなマリン。
そんなマリンの気持ちに応えられてうれしいアクアだったが、

「なにをしとるか、はよせんか!!次がくるぞ!」
気がつけば、いつもの安全地帯に避難済みのラルドが岩から顔をのぞかせながら叫んだ。

「アクアちゃま、おねがいちまちゅ。」
アクアを信頼しきっているマリン。すぐに、とアクアの水晶を待つ。
アクアはマリンの期待に応えようと、再び水晶を集めだすが

「ギャアアアアアーーー!!」
黒水晶のあの声に集中を乱された。

「!うっ、くうっ!!」
暴れるように放出されたアクアの水晶は、その手に集まることなく、大地の中へと吸収されていった。
肌の奥がほてるように熱く、軽く火傷を負ったような感触を受け、地面へとへたり込んだ。また呼吸が乱れる。

「アクアちゃまー」「ギャアアアアーーー!」
マリンの声が、あの声にかき消される。



ダメだ・・・やっぱり俺は・・・・

現実から、遠ざかりそうになるアクアの意識・・・



それを戻したのは


「!?」

地面が離れたのにアクアは驚いた。立ち上がってはいない。

「なにやってんの?ほら水晶集めて!
マリンちゃん待っているでしょ!」
自分は抱え起こされた、アメジに。

「お前・・・」
「あたしが支えてあげるから、アンタは水晶集めることに集中してな、
黒水晶の動きは見ててあげるから。」
アメジ横目でにっ、とマリンに微笑む。
アクアは隣のアメジに呼吸の乱れを悟られまいと、顔を背ける。

「フン、俺はな・・・目で見なくても、あいつの動きは感じ取れるんだよ・・・。」
「よく言うよ、足がくがくじゃん。」

アメジ、自分の膝でアクアの膝をついた。
うあっ、とおもわずよろけたアクアに、にししと笑った。
「くっ、なにす・・・」
「いーから、集中始めて!」
キッ、とマジメな顔のアメジに、アクアは黙って集中を始めた。



アメジがアクアを支えている間、サファがひとりで光の線を描き続ける。
ジストはアクアたちのほうを気にしながらも、タルの回復を続ける。

そしてラルドはアメジたちの後ろから、
「アメジ殿!ワシ以外の男とそんな密着してはなりませんぞ!!」
「ラルじいうっさい!!」
やーやー言っていた。



「くっ」
また水晶を上手く集められず、アクアの水晶はムダに放出された。
特にアクアは黒水晶の毒によって、生まれつきバカデカイ水晶を体内に持っており、それだけに水晶のコントロールが難しかった。

なかなか思うように手に集まらなかった。

そのたびに体力を消耗した。元々体力のないアクアの息はかなりあがっていた。
失敗、そのたびに何度も父に叱られた。今もまだ、あのころの幼い傷跡のまま。

きっと刺し殺すような視線・・・アクアの弱い心、恐怖心がまたアクアの足を止めようとした。

「どうしたの?もう限界?」
「くっ、うるさい・・・お前に俺の辛さ・・なんか・・・」
息きれながらも、隣のアメジを睨む。

「マリンちゃん、あんな小さな体であんなバケモノにぶつかっていくんだよ。アンタにそんな勇気ある?」
「・・・・ハァ・・ハァ。」
アメジから目を逸らし、息の乱れをリセットするようにツバを飲み込むアクア。
そして、マリンへと目をやった。
真っ直ぐな目で、アクアを待つマリン。

「マリンちゃんは、ほんとアンタのこと、信じているんだね。


だから、あたしも、

少しだけアンタのこと信じてみるよ。


さ、あきらめんな、マリンちゃんの気持ちに応えてあげて。」

「・・・お前・・・」
「今はケツ蹴られたことも忘れてやるから。
さ、いくよ。」

震える口元を見られまいとアメジから顔を背けたアクアは、再び水晶を集めだした。
血管が切れそうなほど赤らんだ体を押さえながら、水晶を手のひらに集めた。
キッと耳を天へと立てたマリンに向けて、集めたそれを放った。
マリンはサファの描いた線に乗って、黒水晶へと走った。

戻る。

第18話

アクアからの水晶を得たマリンは再び光りながら天を駆け上っていく。
凄まじい速さで黒水晶という目標に到達し、
激しくぶつかった。

「!!!?」
その衝撃に身をよじらせる黒水晶。

ジタバタと羽ばたきながら、自分へとぶつかってきたそれを睨むかのような表情で向きかえった。
一撃を与えたマリンは、くるりと向きを変えた後、素早くアクアのもとへと戻ってきた。

「アクアちゃま!」
「マリン・・・」
「でかしたマリンちゃん!」
アメジたちがマリンを褒める間もなく、黒水晶がこちらへと襲い掛かってきた。

「マリン!」
反射的にアクアはマリンを胸元へと抱き寄せ、アメジはそのアクアを脇に抱えたまま、横飛びして、黒水晶の体当たりをかわした。

地面すれすれまで顔を近づけた黒水晶は攻撃をかわされたことを気にする様子もなく、地面をガッと蹴り上げ、砂煙を上げながら、再び舞い上がった、そして再びギャアアと鳴いた。

「いくでちゅ!」
戦いのリズムが刻まれてきたマリンは再び黒水晶へと向かうチャンスを待っていた、
耳をぴんと立て、アクアの指示を待っていた。
アクアもまたそれを感じ取っていた。お互い目で合図が送れるほどに、お互いを感じあっていた。

アメジはアクアの横で小さく「もう一度。」と言った。
アクアはそれにこくりと小さく頷くと、水晶を集めマリンへと放つ。


「ん・・」
ジストの膝上で気を失っていたタルの体がかすかに動いた。

「!タル・・気づいたか?」
パートナーの目覚めに気づいたジストは水晶を送るのを止め、タルの右頬を親指でそっと撫でた。
「ジスト、もう大丈夫たる・・・!?


アレは・・・誰たるか?!」
タルは黒水晶へと向かっていくその聖獣を目にして、目が点になった。まさか・・・

「マリン?」

信じられないといった表情でその姿を見ていた。
戦っている妹の姿をみてぷるぷると体を震わせながら、ジストに


「ジスト行くたる!

マリンにばかり危険なめに合わせられないたる!」

ジストの膝からぴょんと飛び降りると、全足をぴんと立ち上げ、ジストを呼んだタルは戦士のオーラを放っていた

「ああ。」
タルのその姿に共感し、ジストも再び戦闘モードに突入する。



サファが描いた光の線を駆ける二体の聖獣。
マリンが駆ける後を、タルが駆ける。
はげしくぶつかる二つの光に、ドンと吹き飛ばされ、
強いダメージをその体に刻まれた黒水晶、
またギャアアと千切れそうな鳴き声を上げた後、山脈の向こうへと消えていった。

大地には黒水晶が落とした血痕が点々と残った。

一仕事終えたサファはふぅー。と息をつきながらその場へと座り込んだ。
タルはすぐさまマリンのもとへと走った
妹のことが心配だったし、いろいろ言いたいことがあったし、しかってやりたかったのだが・・・

「こらっ待つたるマリン!!」
マリンは真っ直ぐにアクアのもとへと走って行った。

無茶して姉の気持ちも知らないでとぷりぷりするタル、自分より真っ先にアクアのもとへと向かわれた、嫉妬心が混じったような複雑な気持ちでその後姿にぷりぷりとしていた。
そのタルの隣で、十年ぶりに目にする弟を不思議な気持ちで見つめていたジストがいた。
ジストは弟にかける第一声をずっと考えていた。
先ほどの戦いぶりを褒めてやるのが先か、
今までなにもしてやれなかったことを謝るのが先か・・・と。



「アクアちゃま!やったでちゅよ!
マリンたち、くろついちょうおいぱらったでちゅ!」

まん丸な瞳でうれしさが零れそうなマリンがアクアに話しかける。
そんなマリンを「よくやった。」と褒めて撫でてやりたかったアクアだったが、
体がそれすらも許してくれないほど疲労していた。
自分を抱えるアメジに体を預ける様に、アクアは目を閉じた。

「!アクアちゃま?」
心配するマリンに安心するようアメジが言った。

「大丈夫よ、疲れているだけだから。」
アメジにこくと頷いたマリンは一言

「おつかれちゃまでちゅ。」
と言ってぷりぷりと自分を見ているタルへと向き直った。
もう自分は一人前だから心配いらない、という態度をタルへと見せた。

「マリン!やっぱりお前は戦いなんてダメたるよ!
今回成功したからって調子に乗っちゃダメたる!」
ぷりぷりするタルを落ち着かすようジストが言った。

「まあ落ち着けタル。
今回マリンと・・・アクアのおかげで助けられたんだ。
な。」
「・・・そうたるけど。」

認めてやりたい、でもしたくないそれを邪魔する姉心であった。


アメジはアクアを抱えたまま、その場へと座り込んだ。
そして目を閉じたまままだ少し息が乱れたままのアクアへと目をやった。
「アンタもなかなかやるじゃん。少し見直したよ。」

アクアをムカツクかわいくない奴だと思っていたアメジだったが、この戦いの中でアクアに対する想いが少し変わった。


ひねくれものでやな奴だけど、マリンちゃんへの想いは絶対なんだな。


「ん?なに・・」

アメジの膝の上でかすかな声が発した一言

「・・・あり・・がとう。」

そうつぶやいた後、アクアの意識は遠のいていった。
アメジの後ろから
「アメジ殿ーー、ワシにも膝枕ををーー」
というラルドの声がしていたが無視した。

アメジはなんだこいつーと言いながらアクアの頭をぐしゃぐしゃしていた。
アクアの中に発生したある感情に気づくはずもなく、アメジの脳内には黒水晶を倒した後のアメジ感謝祭に胸を躍らせていたのだった。


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