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第19話

星達がまばたきする下、アメジは片手に小さな袋に詰めたクッキーを掌で遊ばせながら歩いていた。

「マリンたんv」
そう愛しいあの子を思いながら、アメジが向かっていた先には
その存在があった。
軽くスキップするアメジの目の先にある人物の姿があった。

「ジスト!」
アメジの声に振り向いたジストにアメジは階段を駆け上りながら追いついた。
「アンタこんな時間まで仕事?」
「いや、少し私用で・・・
アメジこそなにを?
まさか、ラルド様にムリを言われて・・・?」
ラルドのわがままぶりをよく知るジスト、アメジが迷惑をかけられているのではないかと心配げに訊ねる。
「ははは、そうじゃないって・・・
まあ、私用で・・・うんまあ、いわゆるデートってやつ?v」

マリンたんとvvv

気色悪く笑いを浮かべるアメジに苦笑いで応えるジスト。
ふわりと夜風に吹かれながら、ふたりは階段を登っていき、リスタルの街の一番高い場所にとついた。

「あれ?方角同じね?」
「あ、ああ、私はこの先なのだが・・・」
と街の外へと向かおうとするジスト
「あ、あたしもそっち方面なんだけど・・・」

え、まさかジストの用事って・・・

「まさか・・・アメジのデートの相手とは・・・アクアなのか?」
「はい?」
「アクアを連れてきたのは君だと聞いたのだが、アクアとは親しいのか?」
ジストの問いに違う違うと激しく首を横に振るアメジ
「あたしが会いにいくのはマリンちゃんよ!

え?
もしかしてジストの用事って・・・」

アクアとマリンの辿る散歩道を同じように辿っていくジストとアメジ
その二人の先から届いた声は
「あっ、アメジちゃま!」
とてとてと坂道を走ってくるマリンだった。

「マリンちゃーんvv」
むきゅーーと変な顔をさらに変顔にしながらマリンを抱き上げ頬摺りするアメジ。
「おい、マリンに触るな!」
坂の上から攻撃的なこの声は


「アクアちゃま。」
そのほうへうれしそうに振り返るマリン
「アクア・・・」
複雑な表情で見上げるジスト

「あのね、あたしはマリンちゃんとデートしにきたのよ、
ね、マリンちゃん。」
「はいでちゅ。マリンとアクアちゃまとアメジちゃまでなかよくあちょぶでちゅ。」
無邪気にくるりとアメジに微笑むマリン
「え・・・マリンちゃん・・・」


ひどいわマリンちゃん
騙したのね!
今夜一緒に遊ぼうって約束したのに

こいつも一緒なんて聞いてないでしょ!ぷりぷり


アクアはジストたちの存在に気づいていたが、ちらりと目にした後、その存在を気にする様子もなく、空へと目をやった。
「アクア!」
ジストが名を呼んだ、がアクアは応えることもなく、空を見たままだった。
その時間音が途絶え、かすかな風の音だけが流れた。
沈黙の時間、気まずい空気。

兄弟なんだよな?こいつら、とふたりを交互に見るアメジ
同じようにマリンも見た。

「元気そうで安心した。もう十年も会ってなかったからな。
父上が亡くなって、今は私が族長をしている。

すまなかった、今までお前に会うことができなくて、
日々黒水晶を倒すことだけを考えて生きていた、お前に会うのも、黒水晶を倒してからだと、そう思って生きてきた。

そして気づけば十年もたってしまっていた・・・。」
それまで空を見上げたまま、反応しなかったアクアが口を開いた。
「なにを謝るんだ?

俺は別に、会いたくなかった。」
ジストのほうを振り向かずにアクアは答えた。
「アクア・・・」
そして再び流れる、気まずい空気。


なんなんだ?この気まずい兄弟はっ


「今日は助かった。アクアとマリンのおかげで黒水晶を無事追い払うことができた。
お前が来てくれて本当にうれしかった・・・
ありがとう。」

「勘違いしないでくれ、
俺はリスタルの民がどうなろうがどうでもいい。
俺は、マリンのために戦っただけだ。」
無愛想に答えるアクアに、ジストはかすかに笑って答えた。

「それでもいいんだ。それも立派に戦う理由になる。

ありがとうアクア、私は一言礼が言いたかったんだ。
私も、マリンのためにも一刻も早く黒水晶を倒すよ。

今夜はゆっくり休んでくれ。・・・じゃ。」

そう言ってアクアに頭を垂れた後、ジストは坂道を下り街へと帰っていった。
アクアは横目で見送った後、アメジに背を向けて山へと歩いていった。
「なんなんだよ、あいつら、ねマリンちゃん。」
マリンはまん丸な目でアメジを見ながら

「アメジちゃま、アクアちゃまとなかよくちてくだちゃい。」
「え?」
訴えるような目でアメジを見つめるマリン

「アメジちゃまならきっとアクアちゃまのことわかってくれるってマリンおもうでちゅ。
だからアメジちゃまにアクアちゃまとなかよくちてもらいたいでちゅ。」

「マリンちゃん・・・」
「アクアちゃまはアメジちゃまとなかよくちたいておもっているでちゅよ。」
きらきらと輝く目でうれしそうに言うマリン

「は?あいつが・・・?マリンちゃん、それはないだろ。
あいつはマリンちゃんにしかキョーミない人なんだから。」
「そんなことないでちゅ!
アクアちゃまアメジちゃまのことちらべてたでちゅ。」

は?あたしのこと調べていたって・・・ストーカーか?
いや、まさか殴ったこと根に持って・・・
ありそうあいつ、めっちゃ根にもちそう・・・ネクラだし。



「アクアちゃまとおともだちになってくだちゃいね、アメジちゃま。」
きらきらの目で見つめられて、はははと苦笑いする複雑アメジだった。
「ちょれじゃ、またでちゅ。」
そう言ってマリンはアメジから離れるとトテトテとアクアの後を追っていった。アメジはマリンに渡すはずだったクッキーを渡し損ねてしまったが、まいっか、またにしようと坂道を下っていった。





「ジスト!」
街に入ったところでその姿を見かけ、アメジは声をかけた。
「アメジ、もう用事は終わったのか・・・?」

「あ、ああ、まあまた後日かなぁって。」
「そうか、アメジも早く戻って休まないと、疲れているだろ。」

ジストに家の近くまで送ってもらったアメジ
お互いおやすみを告げて別れる前にアメジはジストを呼び止めた。


「ジスト、アンタさ他人のことばっか気づかっているけど
アンタこそ大丈夫?」

「え?」
「サファも心配していたよ。アンタいつも無茶ばっかしてるってさ。
族長の使命だかしんないけど。少しは周りにまかせるとかしたら?」
「いや、私なら大丈夫だ。」
そう言うジストにアメジははぁー。と息をはいた。


「アンタ一度くらいだれたことあるの?」
「え?」

「たまにはだれてみたらいいんじゃない?
そんなんじゃ早死にするよ。」
そう言うアメジにしばし呆然となったジストだったが、


「ははは、私はこのリスタルのために死せるなら本望だよ。」

「え?(こいつマジ?)」
「とはいっても、死ねはしない。
私は族長としてこのリスタルを守り、導いていく使命があるからな。
死にはしない。」
ジストは笑いながらも力強い目でアメジを見たあと、空を仰いだ。


楽したくないのか?こいつは・・・


不思議な想いでアメジはジストを見ていた
どこまでも自分とは正反対な人間なのだとしみじみ感じていたのだった。




「それにアメジ、君がいてくれる。
水晶の聖乙女のアメジがいるからこそ、
私は希望をもって戦えるんだ。」

戻る。


第20話

ギャアアアアアーーーーー

いつもとは違う、異常な羽ばたき方で暴れ狂う黒いバケモノ

アメジが黒水晶と戦うこと数回、ついにこのバケモノは最期の時をむかえることとなった・・・。



リスタルの街を出て、坂道を登り、水晶神殿へ向かう道へ続くそのいつもの広場にて、
鬼気迫る黒水晶は死にもの狂いで羽ばたいていた。

それを見守るは
アメジ、ジスト、タル、ラルド、サファにアクアとマリン。

大地を駆けながら力強い水晶の道を描くアメジに
アメジより薄い水晶ながらも確実な道を描いていくサファ
その二人の描いた道しるべを連続して辿るタル
それをサポートする形のマリン


タル、そしてマリンがぶつかるたび、この世のものとは思えないほどの金切り声を上げ、激しく暴れた黒水晶。
傷口から溢れ落ちる血液が、大地を汚し始めた。


「アメジ!血に気をつけろ、黒水晶の血には強い毒が有る。」
ジストの声が走っていたアメジに届く。
危うく黒水晶の血の水溜りを踏みそうになったアメジは

おととっ
と寸前のとこで止まった。
黒水晶の血液からは強い刺激臭がした。
アメジは思わず「うぷっ」と吐き気をもよおした。

「アメジ殿!上ですじゃ!!」
いつもの岩陰からラルドの声が響く。
アメジその声で真上を見上げると
羽ばたく黒水晶の血液が降り注いできた。


「うあーーーっと。」
素早く駆け、それをかわした。
まだ死ねない
黒水晶は激しく流血しながらも、なおもしつこくアメジを襲ってきた。

「ちっ、しつこい」
黒水晶に背を向け走っていたアメジだったが、
くるりと黒水晶へと向きを変え、手に持ったドクロ水晶から光の線を描きながら、黒水晶へと走り出した。
腕を大きく振りながら、曲線を描いていく

黒水晶の直前まで走っていくと
待ち構えた黒水晶の大きな口がガバッと開いた。
アメジを一口で噛み千切ろうと・・・

「アンタなんかに食われりゃしないよ

このアメジ様はっっ!」

アメジ黒水晶の口ばしを蹴り上げ、したの口ばしを足蹴にしながら、空へと舞った。

黒い瞳がぎらりと自分の上へと舞い上がったアメジへと向けられる間
アメジは光の線を叩き込むように黒水晶へとつないだ。

「タルーーー!マリンちゃん!!」
アメジが叫ぶと同時に
ジストの水晶を得たタルと
アクアの水晶を得たマリンが次々と黒水晶へと上空よりぶつかっていった。


「これで終わりにするたるよーーー」
「やっつけるでちゅ!」


二匹の光の生物がのめり込むように黒水晶へとぶつかった。
二匹と入れ替わるように、アメジは黒水晶の上から飛び降り、その様子を見守った。

まるで害虫を追い払おうとするかのように左右にと激しく体を振る黒水晶、そのたびに傷口が開き、血が飛び散った。

タルとマリン、一撃を与え、それぞれのマスターのもとへと走ってもどる。

「手ごたえあったる。」
ジストを見上げ、満足げに頷くタル。

水晶と体力の消費で息が上がっていたアクアだったが、息を整えながら「よくやった」とマリンを褒めてやった。

しばらく動かなくなった黒水晶


「・・・死んだ?」
ごくり、と息を呑みながらじっと見つめるアメジ。
すぐにでも水晶を使えるようにとドクロ水晶に指を当てたまま、様子を見守っていた。
「グググ・・・・」
黒水晶重い頭をぐぐっと起こし上げ、ぎろりとアメジたちを睨んだ後


「ギャアアアアアアーーーーー」

あの耳の奥を貫くような声を上げ
大空へと舞い上がった。
次の攻撃へと身構えるアメジたち、だったが

「!」
水晶に敏感なアクアが真っ先にその異常に気づいた。



「黒水晶・・・終わりだ・・・」

黒水晶は最期の力を振り絞っていた。

また山脈のほうを見、激しく声を上げた。

その先に、なにかあるのか、

黒水晶も必死だった。死ねない何かがあるように・・・



だが・・・


ふっと途切れたように、黒水晶は羽ばたきを止めた。
大きすぎる巨体はそのまま落下
大地へと叩きつけられ、そのまま
動かなくなった。



「なに・・・?死んだの?今度こそ・・・」

にじりにじりと黒水晶へと近づき、それを確認しようとするアメジ

「ああ、黒水晶は死んだ・・・
終わったんだ。」
自分の心を癒すかのように、アクアは言った。
「やったでちゅ。アクアちゃまのおかげでちゅよ。」
アクアの隣でうれしそうにマリン


「やっと、最後の黒水晶を倒したんだな。」
「そうたる。こいつが一番しぶとかった上に、
こいつがタルのパパたちを殺した憎い仇だったる。

やっとすべてが終わったるね。ジスト。」
「・・・ああ。やっと、すべてが・・・。」
幼い頃から黒水晶と戦い続けてきたジスト、二十年近くにも及ぶその黒水晶との戦いの歴史も今日で終わったのだ。

黒水晶によって命を落とした父に母、タルの母でありジストのかつてのパートナーでもあったラズリに、その夫ラピス。
その他の者、ジストが守れなかった人たち・・・・
これで皆も安らかに眠れるであろう・・・・そう心に思った。

「ジスト様!やっと終わったんですね。」
ジストの側にうれしそうに駆けて来るサファ


「黒水晶・・・あのバケモノ倒しちゃったのか・・・。」

百年の時を越え、水晶の聖乙女として現代リスタルで黒水晶と戦うことになったアメジ
楽して生きるがモットー
族長の妻になって楽な人生を歩むのが夢だったが、
その夢にやぶれ、そして新たに見つけた
黒水晶を倒して聖乙女アメジさまとしてみなに祭られ、崇められ、楽して生きること。

それが新たなアメジの生きる道。


これで・・・アメジ様感謝祭かー・・・・

にやりにやりと妄想でよだれが垂れそうなアメジ


黒水晶は滅んだ、リスタルの民に平穏が訪れた。


祭だ祭だと嬉々とするアメジ




しかし、喜びはつかの間
アメジの楽して生きる道は、またまた遠ざかることになるとは
この時は、知るはずもなかったのだった・・・。

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