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第21話

黒水晶は滅びた。

それを我が目で確認しようと、大事な家族を奪った憎んでも足りないその存在をこの目に焼き付けようと
黒水晶の亡骸を見学にリスタル中の人々が集まった。

死体といえどもまだ毒を宿したその体に直接触れる者はなく、
少し離れた場から伺う者、へん黒水晶めがっ、と石を投げつける者、その存在を間じかで確認する者、亡き人を想い涙する者や喜びはしゃぐ者、
反応はさまざまだったが、皆同じなのは
黒水晶への勝利の喜びであった。



その日から、みなは嬉しげに忙しそうであった。

ラルドから集合がかかり、男達は祭の準備へと走り出す。
街の通りを歩くアメジの横を忙しそうに駆けて行く人たちを見てアメジはにたにたとしていた。


そうか、いよいよアメジ感謝祭でみんな忙しそうなんだな、くふふ頼むよ諸君。このアメジさまのために大いに祭を盛り上げてくれろよ♪


にたりにたりとしながら、アメジは甘い匂いの漂ってくる店の前に立ち止まった。

「んー、いい匂い・・・おいしそう。」
アメジに気づいた店主が


「おお、アナタさまは
聖乙女さまではないですか!!
黒水晶を倒してくれたそうで、いやほんとにありがたい。

ささ、うちの菓子でよろしければ、どうぞ。」
「おほっ、いいの?おっちゃん、サンキュー」

これよこれ、聖乙女さまさまでしょ。

ごきげんにアメジは遠慮なく菓子を受け取る。

「いちゅもの・・・くだちゃいでちゅ・・・。」
アメジの足元から聞き覚えのある声がした。

「あっ、マリンちゃん!」
「アメジちゃま。こんにちはでちゅ。」

「おお、マリンちゃんいらっしゃい、はいいつものやつね。
マリンちゃんはうちの常連だからね。
ひとつサービスしといたよ。」
「ありがとうでちゅ!」
マリンは店のオヤジから菓子を受け取り、袋の先を口にくわえた。



店のすぐ近くのベンチにとアメジとマリンは腰掛けた。

「あそこがマリンちゃんお気に入りのお店か。
どおりで、すごくおいしそうだなって思ったのよ。」

「はいでちゅ。
マリンおこぢゅかいもらったら、いちゅもあちょこでくっきーかうでちゅ。」

アメジが菓子を頬張りながら、マリンもまたクッキーを食べようと小さな口と前足で袋を開けようとしていた。
その時だった



「うっわーーーー、あ、危ない


ど、どい・・・うわぁーーーー!!!」

「へ?」
「みゅっ!?」

アメジの上空になにかの影が降ってきた。

それは階段の上から飛び降りてきたのか、転げて落ちてきたのかアメジが気づく間もなく
それはアメジの上に強い衝撃と共に襲い掛かってきた。



どががしゃーーん!!!


がんっ☆



アメジ、後頭部と尻に地面による打撃。

痛い、それに重たい・・・

なんだ?なにが起こったんだ?

アメジ気づくと自分の上には知らない男が覆いかぶさっていた。

「ぁ、いてて・・・あ、どうも、すんません。」

どごぉっ

「ほぐぅっ」

男がアメジの上から起き上がろうとした瞬間、男の腹部にアメジの膝蹴りがめり込んだ。
「てめぇ、この聖乙女さまになに失礼ぶちかましてんだ?
コラっ!!(怒)」

ふらふらしている男の後ろで心配げなマリンに気づいた。
「あ、マリンちゃんは大丈夫だった?」
幸いマリンはこの男の落下事故?に巻き込まれることなく無事だった・・・が

「でも・・・」
うるうるマリンの視線の先は、男の足

「え・・・?」
おそるおそる男が足をどけるとそこには
無惨な姿になった、マリンのクッキーがあった。

ぷるぷるとしながらもじっと耐えた様子のマリン

「あああーーーー!!
マリンちゃんのクッキーが粉々に!!

コラァ!!てめーわっっ」

「はぐぅっっ」
アメジの怒りの鉄拳が再び男の腹部へとめり込んだ。

「アメジちゃま、いいんでちゅ。


ガーネだってわざとじゃなかったでちゅから・・・ちかたない・・・でちゅ。」

「ご、ごめん
マリンのクッキー台無しにして、ほんとにごめんよ。」
ダメージを受けつつも、マリンに謝り慰めに行く男。


「へ・・・?
この失礼野郎、マリンちゃんの知り合い?」

思わずきょとんとなるアメジ

「はいでちゅ。
ガーネはマリンのともだちのチールのまちゅたーなんでちゅよ。」
「・・・はぁ・・・」


マリンとその男ガーネは顔なじみだった。
「ほんとマジですんません。
まさか下に聖乙女さまがいたなんて思わなかったから・・・
ラルド様に頼まれてて急いでいたもので。


あの・・・ほんとに大丈夫っすか?

どこかぶつけてケガしたとか・・・」

「あ、ああまあ、ね。」
「おおっ、さすが聖乙女さま!
あの黒水晶と無傷で戦ったらしいじゃないっすか。
そうそうオレの突撃なんかでケガなんてしないすよね。
うんうん。」

自分のしたことさておき、勝手に感心するガーネ。
「マリンほんとにごめんよ。
あとで新しいやつ買って返すからさ、

ごめん急がないと、ラルド様うるさいし、それじゃ失礼するっす。」
たっと駆け出すガーネにアメジが声をかける

「少年よ、アメジ感謝祭の準備、がんばってね☆」
それに「え?」といった表情で振り返るガーネは

「やだな、聖乙女さま。
祭の準備って、族長とサファさんの結婚式のに決まってるじゃないすかー。
ははは、さすが聖乙女さま、ジョークも最高っすね。
んじゃ、後ほど☆」
そう言ってくるりと向き直って再び階段を飛び越えるように走り出したガーネ。
そんな軽快に走っていく彼とは対照的に、アメジは



「え・・・?
ジストとサファの結婚式?なにそれ・・・?


え・・・みんなのしている準備ってアメジさま感謝祭じゃないの?」

信じられないアメジ

アメジの夢、楽して生きる人生は・・・・

やっぱりまだ遠かったのだった。

戻る。

第22話

「コレッ、族長、アンタどこ行くんじゃ?!」
「え、どこって・・・
いつまでも黒水晶をあのまま晒しておくわけにもいかないでしょう。
みなも黒水晶の死を確認したのだし、そろそろ処理しておこうかと。」
ジストの住む族長館を訪れたラルドが、自分と入れ替わるように出かけようとするジストを呼び止めた。

「そんなこと他のもんにまかせたらええ。
族長、アンタは式の準備にとっとと入るんじゃ。」

「え?式とは・・・?」
ラルドの言うことがいまいち理解できなかったジスト


「は?
なに言っとんじゃ?

アンタとサファの結婚式にきまっとろーが!」

「ええっ?!」
「まったくすっとぼけおって。
本当なら三年前にうちのサファと結婚する約束をしておったというのに、
アンタは父親の死だの、黒水晶だのを言い訳にしおって先延ばしにして・・・
黒水晶を倒した後、だとそういう話になったと


黒水晶も先日ついに最後の生き残りも死んだ
もうなんの障害もなくなった今、約束をはたしてもらわんとの。」

「・・・ラルド様。」

ジストとサファは婚約していた間柄であった。
幼い頃から、ずっとジストを想い続けてきたサファ。
祖父であるラルドの後押しもあって、サファは15を迎えるその日にジストと結婚する約束を交わしていた。

しかし、その日を迎える直前に、ジストの父である前族長が亡くなったり、サファの姉たちが次々となくなるという不幸に襲われ、急遽族長となったジストはさらに多忙な身となり、黒水晶を倒してひと段落してからと、約束を先延ばしにしたのだった。


「そーゆーわけじゃから、黒水晶の処分は他の者にやらせるから、
アンタはサファとの式の準備をするんじゃ、いいな。」

そう言ってラルドはそそくさと出て行った。出たそばで男達に指示を出す声が響いていた。

「あっ、ラルド様・・・・はぁ・・・」

「ジスト、ほんとに結婚するたるか?」
ラルドと入れ替わりに、部屋の奥からタルが出てきた。

「・・・ああ、そうだな。
黒水晶は滅んだ、私はサファと約束していたからな・・・」
「なにも急いですることもないたる。

ジストもっと休んでから、がいいたるよ。」
「そういうわけにもいかないさ。
今日までラルド様にうるさく言われてきたからな。


三年も待たせてしまったんだ。

タル、お前ももう戦わなくてよくなったんだ。
お前もゆっくり休んでこれからは自分のしたいことをいっぱいしたらいい。


今日まで私につくしてくれてありがとう。感謝している。」

「タルは、タルはずっとジストの聖獣たるよ。

でも黒水晶死んだらもうタルは側にいちゃだめたるか?」

「タル、落ち着け
黒水晶がいなくなったからといってタルを追い出したりしない。
お前さえよければずっと私のそばにいてかまわない。

私はタルを戦いのパートナーだけとは思っていない。

家族のように思っている。だから、離れる必要はないんだ。」

「ほんとうたるか?」
涙と鼻水を垂らしながら、しゃくりあげながらタルはジストを見上げた。
それに優しく頷くジスト

「・・・タルも、みんなと一緒に準備手伝ってくるたる。

主役はジストたるからね。」
涙をぬぐってそう言うとタルは外へとかけていった。


「ありがとうタル・・・。

やっと、戦いが終わったんだな。
・・・・なんだかまだ信じられない、不思議な感じだ。」

ずっと物心ついたころから戦いの日々だったジストにとって、黒水晶との戦いがなくなったことこそ非日常であり、まだ実感がわかなかった。

喜ぶべきことだ、なのに素直に喜ぶことができない。
よくわからないもやもやとしたものがジストの中に残っていた。




通りを駆けるタル、周りのうれしそうな賑やかな笑い声、同じようにタルも笑っていた、

笑っているはずだった、

「あれ・・・?

なんで涙が出てくるたるか?」

黒水晶を倒してほっとした?嬉し涙なのか?いや違う

「タルはジストの聖獣たる。これからもずっと一緒にいられるたる。
なのに・・・・・」

タルは幸せだった。父と母を幼くして亡くし、いつものように他の者から自分のぶかっこうな容姿をバカにされながらも、妹マリンを守るため強がって生きてきた。
強がりながらもタルはどこかで甘えられる存在を求めていた。

自分を必要だとしてくれる存在を求めていた。
そんな中母のラズリの主人であったジストに認めてもらえた。
自分の新たなパートナーになってくれないか。とジストに言われたその一言がタルにとって生きるすべてとなった。

ジストに相応しいパートナーになりたい、

気持ちに応えたい、そんな想いでタルは黒水晶と戦ってきた。

ジストと戦うこと、それがタルにとっての人生ともいえたのだった。
ジストと共にもう戦えない、それはタルにとって虚しさを感じる事実だった。



「・・・はぁ・・・なんでこんな切ないたるか。」

「おい、邪魔だよブッサイク。祭の準備の邪魔になるだろ。」
タルをどかりと蹴るものがいた。タルははっとなり、その者を見るときっとつりあがった目をその者へと向けた。

「なにするたるか?!バカチール!!」

それはタルと同じ年頃のオスの聖獣だった。
ぷりぷりとするタルにフンバーカといじわるに返すチール。

「あーあ、黒水晶倒したんだってな。」
「そうたるよ。タルとジストのおかげたるよ。
お前も感謝するたる。」
「ふーん、けどオイラとガーネが戦っていたらもっと早く倒せたんだろーになぁ。
ラルドのじいさんガーネにいじわるばっかすんだもんなぁ。
あーあ、残念、オイラの活躍マリンに見せられなくて。」

「ばっっかじゃないたるか?!お前自信過剰たるよ。
お前なんかいてもタルとジストの足ひっぱるだけたる。
お前がいなかったから、倒せたたるよー。」

べーだ。とチールに舌出すタルになにをとむきになるチール。

「お前ほんと可愛くないよな。マリンとは大違い。

あっ、オイラ忙しいから、お前なんかの相手してるヒマないってよ。」
「なっ。」
チールはひらりとタルを飛び越え、人ごみの中へと消えていった


「むかつくやつたる。まったく・・・・


タルの切なさは・・・・きっと誰もわかってくれないたる。」

タルはジストに主人以上の想いを抱いていた。
タルにとってジストはすべてであり、それを初恋というひとことではすませたくなかった。

黒水晶のことは考えなくてもよくなった今、タルの中にはその想いが強くのしかかってきたのだった。


「よっ、モチ聖獣。なーにぶっさいくな顔してんのよ。」

再びタルにいじわるな声がかかる。

「んな!バカ巫女アメジ!!」
タルの前に現れたのはアメジだった。

今度はタルとアメジがバーカバーカと低脳なケンカをおっぱじめる。
「たく、お前はのんきたるね。暇人たるか。」
「何言ってんのよ、あたしなんてね、黒水晶倒した聖乙女として毎日のようにみんなからありがたられているのよ。

もう毎日毎日みんなに崇められて、もう大変なんだから。」

ばかたる。と呆れてため息つくタル。
「お前ののんきぷりが今はうらやましいたるよ。

タルなんて切なくて、なんだか胸が苦しいたるよ。」

「なに食いすぎ?胸焼け?」
「ほんと、お前はのんきたるね。
タルなんて・・・ジストのこと考えると・・・・

もうごはんなんて通らなくなるくらい切ないたるよ。」
はあーとため息タル


「そう!そうよ、ジスト!!

あいつが結婚するってどういうことよ?!
ね、おかしくない?!」
「え、アメジ、もしかして・・・・・

タルの気持ちわかって?・・・・
ジストの結婚に怒って・・・」

「おかしいでしょ?!順序逆でしょ?!


アメジ感謝祭が先でしょ?!まったく」

「は?!」

「たく、ジストもあたしに約束したくせに、
ラルじいもよ、後で抗議しにいかないとね。」


「お前ほんとバカたるっっ!!」
タルアメジに大いに呆れながらその場を去ったのだった。

「は?なに怒ってたのよ、あいつ。」

戻る。

第23話

祭の準備がいたるところで行われる中、アメジはジストを探していた。


文句を言ってやる。


アメジ感謝祭を忘れていることを。


そうそれこそアメジにとって重要なことであった。


「あっ!!」
アメジ、自分の向かう階段上にジストの姿を発見した。

「ジスト!!」
鼻息荒くジストに近づくアメジ

「あっ、アメジ、ちょうどよかった、君を探していたんだ。
少しつきあってもらえるか?」
「へ?」
言うより先にジストのほうに声かけられ、アメジとまる。


ジストと共に向かった先は、アメジが覚えあった場所だった。

「え、この先って・・・アクアの・・・」
「ああ、実は初めて行くんだ。

アメジはアクアの家に行ったことがあるのだろう?」

アクアの家?・・・なにしに?

アメジたちが向かう先は、アメジが以前一度訪ねたことがあるアクアの住むあの場所だった。


「長いこと会ってなかったせいか、距離を置かれている気がしてね。
あいつは私と話をするのも避けているみたいだし・・・

だが、アメジ、君にはあいつも心を開いてくれてるようで・・・」

「はいはい?なにそれ、マリンちゃんといい、えらい勘違いじゃない?」
「アメジが一緒に来てくれれば心強いんだ。

私の式がアクアにとっていいきっかけにいなればと思ってね。
それに私自身、アクアに参加してもらいたいんだ。いろいろ誤解をうけているみたいだし、みなにちゃんと紹介してやりたい。」
「・・・まあ別にいいけど、けどあいつそういうの嫌がりそうだけどね。」



アクアの家の戸を叩いたジスト。

「アクア、私だが・・・いるのか?」
「おーい、アクア。また居留守ぶっこいてんのかー?」

やはり返事はなく、しばらくすると戸の向こうからとてとてという足音とともにあの声がした。

「いらっちゃいでちゅ。・・・どうじょでちゅ。」
ジストが戸に手をかけると開いた。その向こうにはちょんと座ったマリンがいた。

「マリンちゃーんv」
「マリン、アクアはいるのか?呼んでほしいのだが。」
「はいでちゅ、いまアクアちゃまおちごとちてるでちゅ。」
「仕事?あいつが?」
「はいでちゅ。アクアちゃまごほんをかいているんでちゅよ。
もうちゅぐかんちぇいちゅるでちゅ。

マリンよんでくるでちゅ。


アクアちゃまーー。」

とてとてとマリンは奥の部屋へと向かった。
ここがアクアの家かー、と物珍しそうにジストは部屋を見渡した。

兄弟でありながらジストはアクアのことをよく知らなかった。アクアが書物に興味があるということも、ここに来て初めて知った。

待つこと数分、マリンとともにアクアが奥から現れた。
アメジとジストの顔をちらりと確認するとアクアは無愛想に言った。

「・・・いったいなんのようだ?」
「おい、まずはいらっしゃいだろ?まったく、コミニュケーションのとりかたよくわかってないんだから。」
「アクア、忙しいとこ悪かった。

実は頼みがあってきたんだ。
私はサファと結婚することになった。今皆がその準備を進めてくれているとこなんだが、
祭の準備が整い次第、式を行う予定なんだが・・・」

「・・・・」
ジストの話にあまり興味がない様子のアクアだったが、おとなしくジストの話を聞いていた

「それにお前も参加してほしいんだ。
みなにちゃんとお前のことを紹介したい。黒水晶を倒せたのもお前の力があったから、正式な場でそのことも皆に知らせたいじゃないか。」



「・・・イヤだ。」
「アクア?!」

アクア一言返事でジストの頼みを断った。

「俺を人前に晒して、恥かきたいのか?」
「な、なにを言うんだ?恥とはなんだ?
私は、お前を誇りたいのに・・・

なにもみなの前で挨拶をしろとは言わない、ただ顔を出してくれるだけでいいんだ・・・。アクア。」

「・・・帰ってくれ、俺には関係ない行事だろ。」
そう言って不機嫌に奥の部屋へと戻ったアクア。

ダメか・・・ため息をついてジストはアクアの家をでた。


「たく、可愛げないなあいつは、顔出すだけでいいんでしょ?

ならあたしがなんとかあいつを引っ張ってっていくよ。」
「アメジ、そうかありがとう。

アクアのことを任せていいか?
私は、準備を始めねばならないので、後は頼む。」
「おっけ、んじゃ。」
ジストはアメジの返事に安心し、その場を去った。


「あれ?

あ、あたしジストに感謝祭のこと言うつもりだったのにぃ!!

むきぃ、あーもー忘れちゃったじゃない!」
こーなったらなにがなんでもアクア連れてって、たっぷりと恩売っとかなきゃね、にやり。

邪にくくくと笑うアメジの横でマリンが無邪気に

「けっこんちき、ちゅるんでちゅね。」
「えっ、ああマリンちゃん。」
「マリンもたのちみでちゅ。」
「・・・あのね、他人の結婚式のどこが楽しいのよ。」
どこまでも自分絶対主義アメジですから
「アメジちゃまもアクアちゃまとけっこんちたらいいでちゅ。」


「は?・・・あたしとアクアが?」
「はいでちゅ。」
「ありえない・・・マジありえないからマリンちゃん。」
「なんででちゅか?


もちかちて・・・アメジちゃまアクアちゃまきらいなんでちゅか?」
うるうると悲しげな顔になるマリンに慌てて
「違うってそーじゃなくって」
「じゃやっぱりちゅきなんでちゅねv

ちゅきどうちでけっこんちゅるんでちゅよね。」

「・・・あのね、マリンちゃん
好きだの惚れただのなんて単純な感情で結婚はしないの。」
「へ?ちがうんでちゅか?」
きょとーんとマリン

「マリンちゃん。結婚で最も重要なのは好きだの愛だのよりも

どれだけ楽できるかどうかなのよ!!(力説)」

「みゅ?!」
「大人は大変なのよ、いつかマリンちゃんにもわかる日がくるわ。」
アメジ拳をぎゅっ。と子供に自分の考えを熱く語るのだった。
マリンは?なままだったが。



アクアは仕事を言い訳にし、あれから部屋にこもったまま出て来なかった。
アメジは諦め、その場を後にした。


「アクアちゃま。」

部屋の前でマリンが呼びかけると、スッ、と扉が開き、マリンは部屋の中へと入った。

「アメジちゃまかえったでちゅ。」
「そうか、静かになってよかった。」
机に向かったままアクアが答える。


「マリン、ずいぶんとあいつと仲良くやってるみたいだな。

いじめられてないだろーな。マリンは気が弱いとこがあるから。」
「そんなことないでちゅよ。アメジちゃまおもちろいち、やちゃちーでちゅよ。

マリン、アメジちゃまのことちゅきでちゅ。」
アクアは机に向かったままそうかとつぶやきながら、ペンを走らせる。

「アクアちゃまもアメジちゃまちゅきでちゅ。」

ごきゅ。

アクアの握っていたペンが変な音を立てて折れた。
「みゅ?」
「マリン!変なことを言うな!」
「でもアクアちゃま、アメジちゃまのことちらべてたでちゅ。」
「水晶神殿のことについて調べていたんだ。それで聖乙女のことも・・・
だいたいあんなムチャクチャなやつは・・・」
ムキになるアクアだったが


殴られたことも、自分からマリンを引き離そうとしたことも
思い出せばムカツクことだらけだ。
でもアメジは自分を認めてくれた。
水晶使いとして戦うきっかけを与えてくれたのもアメジとの出会いがあったからだ。
あの事件以来、アクアの中の亡き父親という巨大な壁は克服できた。まだ未熟であるとは自覚しつつも、あのころよりかは、水晶使いとして自信を持てるようになった。

気づけばアクアはアメジのことばかり考えるようになっていた。
自分でそれを自覚せぬようとしていたが、いつも自分を見てくれているマリンには誤魔化せなかった。


「アクアちゃま、アメジちゃまにぷろぽーずちたらいいでちゅ。」
「ぶっ、マリン、バカなことを言うな。」
「きっと、アメジちゃまもよろこぶでちゅよ。」
マリンやっぱりアメジの考え(結婚論、人生論)を理解してなかった。

「そんなわけないだろ。」
新しいペンを手にし、再び作業を再開するアクア
「ちょんなことあるでちゅよ。マリンがアメジちゃまだったらうれちーでちゅ。」
「・・・そうか?」
マリンの言葉にかすかな望みをつなぎそうになりながら、アクアはふと我に返りペンを走らせた。


アメジがアクアの家を後にし、街を歩いているとジストを探している男を見かけた。

「ややっ、聖乙女さま。」
「どうしたの、ジストならさっきまで一緒だったけど。」
「いや実は祭で使うお面の出来具合を見ていただこうと思って、
それで族長を探しているんですが。」
男は片手に面を抱えていた。

その面は巫女が祭で使うもので、神の下僕である精霊を模った物。リスタルでは水晶使いと巫女のカップルが結婚する時のみ、夫になる水晶使いの手より、妻となる巫女に手渡されるという儀式があった。

「面の仕上げは族長自身がしたいと言っていたので・・・」
「え、お面って全部面職人がやるもんでしょ?ふつー。」
「まあ、いつもはそうなんすけど、族長がどうしてもと言っていたんで・・・ま、一応俺の仕事はここまでなんすけどね。」
「・・・ふーん。

あ、あたし持っていってあげようか?」
「ええっ、聖乙女さま自ら?
いや、助かりますよ、他の仕事もおしてるんで、

んじゃ頼みます。」

面職人の男から面をアメジは預かった。
面をまじまじと見ながら、アメジは少し懐かしい気分になった。


「なんか、母さんのこと思い出しちゃったよ。」

アメジがなんだか過去を思い出し、懐かしさに浸っているその時、また別の男がジストを探していた。
街の外から慌てて走ってきた男は血相変えてジストを呼んでいたのだった。


それはこの後起こる恐ろしい事件の予告であった。

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