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第24話

「ジストー、いるー?」
預かった面を片手にアメジはジスト宅を訪れた。

「ム、なんかたかりに来たたるね。

お前なんかに出すものはなにもないたるよ!」

それを出迎えたのはぷりぷりとするタル

「あのねー、あたしは頼まれてやってきたのよ。
アンタは邪魔だからどいてよ、しっし。」
玄関口でムダに睨み合うアメジとタル


「あ、アメジ。私に用なのか?」
タルの後ろからアメジに気づいたジストがひょいと現れた。

「そうそう、これ預かって持ってきたのよ。」
アメジはそう言ってジストに面を手渡した。

「あ、出来上がったのか。アメジありがとう。助かった、そろそろ様子見にいこうとしてたところだったんだ。」

ジストはアメジから受け取った面をすぐに机の上に置くと、棚の上から道具を下ろすと面と同じ机の上に置き、なにやら準備を始めた。タルはひょいとジストの隣に座り、その様子を見守る。


「そういえば職人の人が仕上げはアンタがするとかって言っていたけど・・・
ジストって族長兼面職人なわけ?」
不思議そうに訊ねるアメジにジストは道具を取り出しながら答えた。

「いや、そうじゃなくて、趣味でね。」
「趣味?面作りが?」

「ああ、といってもなかなか時間がなくて、する暇がなかったんだがな。
黒水晶もいなくなったし、以前よりかは時間が取れるようになったからな。少しずつでもやっていきたいと思ってはじめたんだが。
それにせっかくの結婚式だから、私の手で作りたいと思ったんだ。

三年も待たせて、私はサファになにもしてやれなかったから、
せめてこれくらいはしてやりたいと思って・・・ね。」

「ふーん・・・」
小型ナイフで面の表面を削りながら、ジストは面の形を整えていく。その作業の様子を楽しそうに横で見ているタルとアメジ。

カリカリと面を削る音だけが響く中、暫く静かな時間が流れていた。
ジストの作業を眺めながらアメジはなんだか懐かしくなり、ぽつりとつぶやいた。



「なんか、母さん思い出すなあ・・・。」

「ん?なに言ってるたるか?」
「母さんって・・・?」
アメジのつぶやきにジストとタルが反応する。

「あっ、うん、あたしの母さんって面職人だったのよ。
それで懐かしいなと思ってさ。」
「アメジの母上は職人だったのか?巫女じゃなくて?」
少し驚いた様子でジストが問いかけた。

「あ、やっぱこの時代でも珍しいのか。
あたしの時代でも水晶使いと職人のカップルって異色だったからね。」
「そうだな・・・そういえばあまり聞いたことがないな。
水晶使いの妻は巫女、というのが当たり前みたいになっているからな。」
「でしょー。」
アメジと話しながらも作業を続けるジスト、ジストはアメジの話題に興味深げに問いかける。


「そうか、アメジの母上は面職人だったのか

ならアメジも面作りについて詳しいのか?」

「え、あたしはまったくの素人よ。母さんが作業しているのを隣で見ていたことがあったくらいで。
母さんあたしがほんと子供の頃に死んじゃったからね。あたしもかすかに記憶にある程度かな。」

「そうか・・・残念だな。知っているならいろいろ教えてもらおうと思っていたのだが・・・。」
幼い頃のかすかな記憶でしかなかったが、たしかに覚えていることは、アメジは母が好きだったことだ。

アメジと話している間も休むことなく動かされるその手に、アメジは亡き母を重ね懐かしんでいた。
「けど、少し驚いたわ。ジストにもちゃんとそーゆー趣味があったなんてさ。

てっきりアンタの趣味はリスタルを守ることだけかと思っていたからさー。」
「ははは。それは趣味というより、私の・・・族長としての義務だからな。」

趣味とは言いながら、ジストの作業は細かく正確であり、素人目にも職人の作った物と見劣りしなかった。
少しずつ形が整っていくソレは、巫女が祭りで使う精霊の顔へと現れていった。

「はぁ・・・男前で水晶使いとしても一流で、族長(ポイント)で、なんでもできるって・・・存在そのものが犯罪としか思えない・・・
サファは人生の成功者かー・・・あーくそいいなー・・・

あたしだって、族長の妻に・・・・ぶつぶつ」
ジストを眺めながらアメジ、ふぅーとため息をつきつつぼやいていた。

「こいつなに言ってるたるか?」

「族長の妻で思い出した!!


ちょっとジスト、アンタ大事なこと忘れてない?!」

いきなり叫んだアメジにジスト一瞬ビクッとなり、手元が狂いそうになった。

「うるさい!バカアメジ静かにしてるたる!
ジストの気を散らすなたる!!」
「へぶっっ」
ぶちきれたタルのとび蹴りがアメジの顔へと飛んだ。
そのまま後ろへぶっ倒れるアメジ。

「こらっ、止めないかタル。

アメジ、一体なんだ?私が忘れている大事なこととは。」
突然バトルモードに入ったアメジとタルを引き剥がしながら、ジストが訊ねた。

「約束してくれたでしょ?
忘れたなんて言わせないわよ。

このアメジ様の感謝祭。」

一瞬きょとんとしながらもジストは
「ああ、そのことか。」

「そのことって。(なにどうでもいいレベルみたいな言い方わっ)」
「それならラルド様に任せてあるから、ラルド様に訊ねてもらえるか?祭りを仕切っているのは大神官のラルド様だから。」
「ラルじい?」
「そうたる。ジジイのとこに行くたる!
お前のそんなくだらないことに付き合っているほどジストもタルもヒマじゃないたるよ!!」


ラルじいか・・・やっぱりラルじいに文句言ってやらないとね。

たく、いつも人のケツ触りやがって、それでアメジ感謝祭で大いに祭ってくれなきゃ、マジブッコロだな。


「よし、ラルじいのとこ行ってくるよ。
じゃ、ジストがんばってね。タル、バーカ。」
「むきっ待つたる。バカアメジーーー!」
ぷりぷりするタルを無視してアメジはラルドを探しに街に出た。



愛楽器であるオカリナを手で遊ばせながらガーネは中央広場を見下ろせる通りをふらふらとしていた。

広場にはたくさんの若手水晶使いたちが集まっているのがそこからはよく見えた。たまにガーネの後ろを忙しそうに通り過ぎていく人たちがいたが、そんな人たちとは対照的になにを思うかガーネはぼー、と広場を見下ろしていた。

「あっ、ガーネ君!いたいた。」
ガーネにとっては馴染みの声が彼の後方からした。

「よっ、ガラス。」
その声の主に気がついたガーネはノー天気に手を振りながらその人を呼んだ。

「もう、よっ、じゃないよ、ガーネ君・・・はぁはぁ。」
ガラスと呼ばれたのはガーネと同じ年頃の男だった。
ただガーネと違ってかなり肥えた丸い体型の男だった。
太っているためか、散々ガーネを探して走り回っていたためなのかかなり息が乱れ、汗だくで、苦しそうにしていた。

「なにしているのさ。若手のみんなは広場に集まって祭りの演奏の音合わせするって聞いているでしょ?
また怒られちゃうよ、大神官さまに!」
息をムリして整えながら、心配げにガラスは言った。
そんなガラスとは対照的にガーネはのほほんとしていた。

「だーいじょうぶって。
ラルド様、しばらく広場に戻ってこないってさ。みんなもラルド様いないとこではけっこう手抜いているしさ。心配しすぎなんだよガラスは。」
「で、でもガーネ君・・・。」
「それに祭りって、オレはいまいち盛り上がれないんだよな。

黒水晶と一度も戦えなかったんだぜ?若手ナンバーワンのこのオレをラルド様は使ってくれなかったんだぜ?

はーあー、なんのために修業してたのかわかんなくなるだろ?
なんか燃える前に終わっちゃってたてゆーの?
もうなんかさ、切なくってさ。」

ガーネのため息のわけはそれだった。その発言に冷や汗ガラス慌てて
「なに言ってるんだよ。黒水晶いなくなって平和を喜ばなきゃだめでしょ?!」
「はぁー、それにさー、オレ祭りの演奏ってあんま好きじゃないんだよね。
楽器は好きなんだけどさ、
祭りって好きに演奏できねーじゃん。」
手に持ったオカリナを愛しそうに見つめながら、はぁとため息をつくガーネ。
おろおろとするガラスの後ろから声がした。


「ガラスー、あのバカ見つかったー?」
「あっ、パールちゃん!」
ガラスの側に駆け寄ってきたのはパールと呼ばれた少女だった。

「よっ、パール。」
ガラスのときと同じノー天気な様子のガーネに半ギレながらパールが
「よっ、じゃないわよこのバカ!!」
「あはは、ガラスと同じこと言ってら。」
ノー天気にけらけらと笑うガーネにふたりは呆れて、お互いの顔を見てはぁ、と深いため息をついた。

「族長のための祭りで手を抜くなんて絶対許さないからねっ!(怒)」
「安心しろって、オレは手を抜いても
ナンバーワンですから、
若手ナンバーワンですから!あっはっは。」
「そう、バカナンバーワンって自覚あるわけね、
もういいわ、ガラス。そんなバカほっといていきましょう。

大神官さまに言いつけてあげるから。」
「お、おいちょっと待てよ。パール、そ、それだけは
カンベンしてよ。
オレただでさえ居候の身で肩身狭いんだからさ。
それにラルド様、やたらオレに厳しいし。」
「そんなの知らないわよ!!」
「あっ」
怒りっぱなしのままパールはガーネたちの前から去っていった。



「もう、ガーネ君、いくよ。」
「はぁ・・・練習・・・だるいな、のらねぇ」
「ラルド様に怒られちゃうよ。」
「うーん、後でエメラに頼んでなんとかしてもらうかな。
ラルド様、エメラには弱いもんな。

うん、大丈夫だって。」
再びノー天気なガーネに

「エメラちゃんだって、広場にいるんじゃないかな?
今日は踊り子の子も一緒になってやるって聞いたし。」
その一言にガーネの目の色が変わった。

「本当か?それ。
なら、行こうぜ。」

ぴょんと飛び跳ねながら、広場へと向かう階段へと走るガーネに慌てて後追うガラス
「もう、ガーネ君てば、ほんと踊りが好きなんだね。」
「そうだ、今回は聖乙女さまの踊り見られるかな?
ほら、前の祭りの時は、なんか調子悪かったらしくて見られなかったじゃん。
へへへ、今回はぜひ踊ってもらいたいよな。」

その聖乙女ことアメジは、ガーネが向かう広場にいた。
広場に集まった楽器を抱えた水晶使い、踊り子の娘達の中、アメジはラルドの姿を探していた。

「ラルじい・・どこよ?
しかし、この雰囲気は・・・」

アメジの周囲で鳴り響くさまざまな楽器の音。舞の練習をしている娘達。


「・・・・あたしはゼッテー・・・踊らないからな。」

アメジの決意は固かった。

戻る。

第25話

「よっと、到着っと。」

あれから数分もたたぬ間に、ガーネは中央広場へと到着した。

広場にはたくさんの若者達が集まり、混雑していた。
そんな中、ガーネは手の中でオカリナをくるくると遊ばせながら、キョロキョロとしながら歩いた。

「ほんとだ、踊り子もみんな集まっているな。

どーせなら巫女のありがたい舞がみたいけど、サファさんは花嫁だから今回は踊らないんだよなー。残念。」
あれ?そういえばガラスのやつがまだ来てない。
そのことに気づいたガーネは彼を探そうと、またキョロキョロしながら元来た道を辿りだすと



「うおっ!」
「あだっ!」

どかっと勢いよくだれかとぶつかってしまった。
「あたた、ワリィ、だいじょぶわぁーー!!」


ばきゃごきゃ☆☆☆・・・☆


「このアメジ様にぶつかる不届き者・・・は・・・あ、

アンタは・・・」
「あっ、聖乙女様じゃないっすか!!」
ガーネがぶつかった相手とはアメジだった。そしてまたしても間髪いれずにアメジから暴行を受けたついてないガーネ。


「アンタ、あたしにぶつかるの趣味かああーん?」
再び暴行を受けそうな雰囲気になる。
アメジに胸倉をつかまれながら、必死で謝るガーネ。
そんな中、やっと広場へと到着したガラスが


「ああっ、ガーネ君が女の子から暴行受けてる!!
一体なにがあったの?!」
ただならぬその様子に離れた場所からガクガクブルブルと恐怖に震えていた。




「いやー、またこうして聖乙女さまに会えるなんて、これもなにかの縁ですかね?
こうして何度もぶたれたのも、かなりありがたいことかもしんないすね。」

広場隅のベンチにと腰掛けたアメジとガーネはさきほどまでの険悪な雰囲気とはうって変わって、フレンドリーな空気が流れていた。

「そうでしょそうでしょ。
このアメジ様に殴られるなんて、そうそうあることじゃないわよ。
もっとありがたりなさい。」
おだてられるのに弱いアメジとおだてるのが上手いガーネ。
お互い単純者同士、気があったのかもしれない。

「それに聖乙女様って、近くで見ると、マジで美しいっすね。」
「えっ、おいおい、んなこと言ってもケツは触らせねーぞ、こらv」
「いやいや、マジで俺驚いたっすよ。
だって全然見えないっすよ。

とても百歳越えているようには見えないっすよ!!
うーん、これも水晶の力なんすかね?」

「あたしはまだピチピチの十八歳だってのよ!!」
「ごきゃぶっっ」
どかかっ
またしてもアメジに殴られ、ベンチからひっくり返るガーネ。
そんな様子を十メートルほど離れた距離から見守っているガラス。


「おい、ガラス、お前もせっかくだから、こっちこいって。」
ガーネが手招きしても首を振るガラス
「そんな・・・聖乙女様のお近くなんて、僕なんかが・・
恐れ多くてムリだよ。」

「はっはっは、くるしゅーないちこーよれ。」
ガーネにおだてられてすっかり調子に乗っていたアメジだった。
そんなアメジの様子を見ても、ガラスは近づこうとはしなかった。

「なんだ?あいつは・・・アンタの友達?」
「あ、はい、ガラスっていうんすけど、オレと同じ水晶使い。
あ、でも気にしないでくださいよ。
あいつ、女の子と話すの苦手な奴なんで・・・。」
「ふーん。
そういえば・・・アンタ、よっっく見ると誰かに似てない?」
「へ?だれにすか?」
「うーん・・・・なんか、だれかに似ている気がするんだよね〜。」
アメジそう言ってガーネの顔をマジマジと見たが、だれに似ているのか思い出せなかった。

「そうそう、聖乙女様も今回の祭りでは踊り披露してくれるんですよね?!」
「へ!?」
「オレすごい楽しみなんすよ。
聖乙女様の舞!!」

おいおい、ふざけんなよ。
なに期待の眼差し向けてんだよ?こら・・・

「あー、あのねー・・・」
「あ、もしかして聖乙女様もここで練習するんですか?
ヤタ!ならオレ見学してもいいすか?!」
キラキラ期待の眼差しにアメジ滝汗。

「あのね、あたしのありがたい舞をこんなとこで見せられやしないわよ。」
「え、そうなんすか・・・じゃ本番までお楽しみってことすねv

あれ、じゃこんなとこでなにしてんすか?」
その一言にアメジ、肝心なことを思い出す。

「そうだ、ねぇ、ラルじいどこにいるか知らな・・」
アメジがガーネに訊ねようとした時、広場の中央あたりから男達のざわめきによって遮られた。

「んー、なんだよ?あっこうるさいなー。」
不機嫌にその原因を探ろうとざわめくあたりを睨むアメジ
「あ、エメラちゃんだ・・・」
ガラスがつぶやいた。

アメジよく見ると、その人ごみの中に、騒ぐ男達に手を振る少女を見つけた。
「エメラちゃーん。」
その周辺にいた男達から中心に「エメラ、エメラ」と拍手とコールがおこる。
そんな中、少女はみなに手を振りながら、広場中央に置かれている台の上へと登っていった。


なに?なにごと?あの娘何者?

この聖乙女様を差し置いて、なんでやいのやいの言われてんのよ?


「あれ?聖乙女様、ご存知じゃなかったですか?
あの子はエメラ。
ラルド様の孫娘なんすよ。オレの幼馴染なんすけど・・・

あいつ、なにやるつもりなんだ?」
ガーネはアメジにその少女を紹介しながらも、そのエメラがなにをしたいのか、わからず、?な顔をしながら注目していた。

「みなさん、こんにちはです。エメラですー。」

台の上で両手を大きく振りながら、エメラは挨拶を始めた。
「こんにちはー、エメラちゃんーー!
今日もかわいいな〜。」
エメラに応えるように手を振る男達。それに再び手を振りながら応えるエメラ
「ありがとです〜v」


「なんだ?ありゃ。なんであの子はあんなちやほやされてんのよ?
なにまさかあの子の祭りでもすんのか?」
ぶーぶー不機嫌になるアメジ


「今回は族長とサファ姉さまの結婚が決まって、とってもおめでたいですv」

「なに?あのこサファの妹なの?ラルじいの孫ってことは。」
「えと、エメラはサファさんの従妹なんすよ。」
「ふーん。」
「けど、エメラのやつもけっこうショック受けてるのかもしれねーなぁ。
あいつノー天気な性格してるけど、族長のこと好きだったもんなぁ。毎日のように
族長はかっこいいだの、ステキだの、うるさかったもんなぁ。」
どこまで本気だったのかはわかんねーけど
そうつぶやきながら、台の上のエメラを見守っていた。


「エメラ、本当に二人のこと祝福するです。
サファ姉さまには幸せになってもらいたいです。

だからみんなもお祭りが最高のものになるように協力してくれたら、エメラサイコーにうれしいです。

踊りも演奏も最高の物を二人に届けるです。ね♪」
「もちろんだ、なあ、みんな!」
一人の男がそう言うと、周りの男達ももちろんだと、わぁと答えた。
その返事にうれしそうに頷きながら、エメラは続けた。

「それで、こうしてみんなが集まったいい機会なので、
エメラもみんなに伝えておきたいことがひとつあるです。

実は、エメラ、今好きな人がいるです。
その人のことをここで宣言しておきたいです。」
「ええっ、誰なんだよ?!それは!!?」
エメラのその一言に不安げにざわめく広場。

「あの子、こんな大勢の前で、なに言うつもりなんだよ?」
いまいちエメラが理解できないアメジ

「エメラの好きな人って族長だろ?

あいつ、みんなの前でそのこと言ってきっと同情さそう気なんだよ。まったく。」
「へぇー、そうなの。なにあの子、変な子ね。」
そうそうちょっと変な奴なんすよ。
とガーネとアメジがエメラの話題で頷きあっていると


「エメラの好きな人は・・・・・


若手水晶使いナンバーワンのガーネです!!vv」


「え?!」
「ん、ガーネって・・・たしかアンタのことよね?」
アメジ、指差して、くるりと隣のガーネへと向いた。

「え・・・・なに?そんな


エメラのやつ、なに考えているんだーーーーー??!!」
自分の想像外のエメラ発言にわけがわからなくなったままガーネは叫んだ。

「なんだよ?ガーネ?
エメラちゃんの好きなやつが、あのガーネだと?」
みなガーネのほうへと視線を向けると、さらにざわざわと騒がしくなった。男達の強くてウザイ嫉妬心の混じった視線がガーネへと刺さった。


自分の発言に満足したかんじのエメラは、すぐに台から降りると、踊りの練習へと戻った。
満足げに鼻歌歌いながら、舞の練習にと入るエメラとは対照的に、混乱気味のガーネは、次第に事がわかると、段々とガーネの顔から血が引いていった。


「な、なんてこと言ってくれたんだよ。エメラのやつ。


このことがラルド様に知られたら・・・



オレ、殺されるじゃないかーーー!!」

うぎゃーーーーー。
叫びパニくるガーネ
「ガーネ君・・・・

エメラちゃん・・・」

不安げに、離れた位置からガーネを見守るガラス。
この時、ガーネにひときわ強い憎しみの視線が向けられていたことを、ガーネは知らなかった。


「そうだ、ちょっとーー、ラルじいはどこにいるのよ?!
あたしはラルじいを探しに来たんだから!!」
アメジの声も、パニク最高潮のガーネには届かなかった。






「サファのほうも準備はちゃくちゃくと整っておりますぞ。」
アメジが探すラルドはアメジと入れ違いで、ジスト宅にいた。
ラルドはあちこちで祭りの準備の様子を見て回っていたのだ。

「そうですか・・・。」
面を削りながら、ジストは答える。
ジジイ邪魔たる。あっちいけたる。とタルはラルドを邪魔そうに睨んだ。
「そういえば、アメジがラルド様を探しに行きましたが、お会いしましたか?」
「む?アメジ殿がワシを探してじゃと?!

おおっ、アメジ殿。このワシを

ワシの愛を求めて、ワシを探しておるとな?!」

「だれもそこまで言ってないたる。アメジもいい迷惑たるよ。」
ジスト苦笑いしながら、作業を続ける。


「準備が終わるのももうじきじゃのう。

サファのやつがその日をどれだけ心待ちにしてきたか・・・

族長・・・サファを幸せにしてやっとくれ。
あやつが幼き頃から巫女としてあのバケモノと戦ってこられたんも、アンタの存在があったからじゃ。

これからもあやつをよろしく頼むわ。」
「ラルド様・・・・」
ラルドのその言葉に、ジストが手を休めたその時だった。


「族長!!大変です!!」
息切らしながら、男がジスト宅へと駆け込んできた。
「どうした?!」
「なんじゃ、慌しい。なに事じゃ?!」
男はジスト達の前に立つと、息を整えようと焦っていた。

「たしか、お前さん、黒水晶を片付けにいったはずじゃな。
なにかあったんか?」
「そ、そのことなんですが・・・」
その男はラルドに命じられて、そのままにされていた黒水晶の死骸を片付けにいった者の一人だった。

「黒水晶が・・・消えていたんです!!」
「?!!」
「な、なんじゃと?!

そんなバカなことがあるか?!
黒水晶はたしかに死んだ。飛んでどっかに消えたわけはあるまい」

「もしかして、だれかが持っていったたるよ。」
タルが口を挟む。

「だれがそんなことをするんじゃ!!
死骸とはいえ、あの体には大量の毒が残っておる。
そのことを知らんやつはおらんはずじゃ。
そんなバカなことをする奴は、おらんじゃろーが。」

「本当に、なにも残っていなかったのか?」
男にジストが訊ねる。
「はい・・・血の跡は残っていましたけど、
どこかに運んだような、引きずったような痕跡はなかったし・・・

まさか、生き返った・・・とかないですよね?」
男は青ざめた顔でラルドたちに尋ねる。

「死んだ黒水晶が生き返った話なんぞ聞いたことがないわ!!

まったく、だれかが勝手に移動させたんじゃろ。
おい、もう一度よく周辺を調べてくるんじゃ。」
「はっ、はい!!」
ラルドに言われて男は急いで館を出て行った。


「・・・・今の本当たるか?

黒水晶・・・生き返ったかもたる。」
不安げにジストを見上げるタル。
「そんな話はないと言っとろーが!!

族長、さっきのことは他の連中に調べさせるから、
アンタは式の準備に集中しなされ、いいな!!」
ジストに強く言い聞かせるように、ラルドはそう言ってジスト宅から出て行った。


「黒水晶が・・・消えた・・・・まさか・・・な。」

自分の中のもやもやとしたものをかき消すように、ジストは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
不安げなタルに気づき、それを払いのけるように、タルの頭を撫でながら、そんなことはない、大丈夫だ。と言った。


消えた黒水晶・・・その不安はやがて形となる。



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