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第26話

「ラルじいいるー?!」
再びアメジは族長館へとやってきた。ラルドを探して

「またきたたるか?!この暇人!

ジジイならもういないたるよ。
お前ホントにタイミング悪いたるね〜。」

イジワルにアメジを迎えたのはタルだった。
「んがー、またしても、なんで会えないのよ。会いたくない普段はウザイほど会うのにさー、ケツも触られるのに、ムカツク」
ラルドにとりあえずプリプリした後、部屋の奥にいるジストへと目をやった。

「ジストー?」
アメジが呼びかけるとそれに気づいたジストはアメジへと向き直った。
「あ、ああアメジか・・・」
「ん?どうしたのよ、なんか顔色悪くない?」
「いや・・・なんでもない。」
ジストはあれからずっと気になったままだった。

消えた黒水晶・・・

そんなはずはない、と自分に言い聞かせながらも、その不安を拭えないでいた。その気持ちが顔にも表れていたのだろう。
アメジに言われ、心配かけまいと慌てて否定した。

「ラルド様と行き違いになったのか?」
「そうなのよー、ラルじいを探しに広場に行ったらラルじいはいないし、エメラとかって変な女の子のせいでガーネって野郎はぶっ壊れていたし・・・もう・・・
あたしの野望が・・・・。」
「そうか、祭りの準備で飛び回っているからな。

だがもうじき準備も終わるだろうし、ラルド様もじきに寺院に戻るだろう。」
「はぁ・・・そうか・・・。

お面のほうももうじき完成しそうね。」
アメジ、ジストの手元の面を覗き込む。
「ああ・・・。

そういえば・・・アメジ、アクアには頼んでくれたのか?」


「えっ・・・」
アメジ思い出した。ジストの結婚式にアクアを連れて行くと約束したこと・・・
「ああ・・・うん、じゃ、あたし失礼するわ。」
アメジ慌ててジスト宅から出て行った。

「あいつ絶対忘れていたたるよ。」
タル、いつものように呆れながらその後姿を見送った。




「マリンとってもたのちみでちゅ。」
自分の側でうれしそうにそう言うマリンをアクアは見下ろした。

「祭り・・か?」
「はいでちゅ。
おまちゅりでおかちのおぢたんおかちいっぱいよういちゅるていってたでちゅ。
マリンちゅごくたのちみでちゅ。」
アクアは本当にうれしそうに笑うマリンにつられて普段はだれにも見せることのない笑顔をマリンに見せた。

「そうか、よかったな。」
マリンは首に下げていた小さな巾着袋から、菓子を取り出した。
つい先ほどまで外出して帰ってきたばかりだった。

「それを買ってきたのか?」
「あ、ちがうでちゅ。これは・・・アメジちゃまにもらったでちゅ。
ついさっきあったでちゅ。」
「え、あいつに・・・?」
「ちょれでアメジちゃまからでんごんでちゅ。
こんばん、おかちやたんのまえにきてほちいって。

だいじなおはなちがあるっていってたでちゅよ。」


「・・・なにか企んでいるのかもな・・・?」
「ちょんなことないでちゅ。

アメジちゃまきっとアクアちゃまとなかよちになりたいでちゅよ。」
「バカな・・・」
キラキラとうれしそうな目でアクアを見上げるマリンにアクアも
「原稿を届けるついでだ・・・・かまわないだろ。」


人目を避けたいアクアにとって夜は出歩くことができる時間帯だった。白い髪も白い肌もあまり目立たなくなる。人と会うこともほとんどない。それがアクアにとってのかすかな自由だった。
だから夜は少し勇気をくれるのかもしれない。
逃げてばかりだった自分を一番許せなかったのは自分だった。
黒水晶と戦い、水晶使いとして目覚めたことが
長年自分を追い詰めてきた亡き父という存在の壁を乗り越えるきっかけになった。
それはアクアにとっては大きな変化だった。

アクアの中に光が差し込んだ。その光の先にはアメジがいた。
あの時無意識に素直な気持ちが吐けた。
その時発した感謝の言葉がアメジに届いていたのかいなかったのかわからなかったが、そんなことはどうでもよくて
ただ眩しい気持ちがあったことを覚えていた。

アクアは本の原稿を印刷所のポストに放り込むと、アメジに指定された場所へと向かった。
街の中に点々と灯る街灯を辿りながら、その場を目指した。
「おっ来た来た。」
自分に近づいてくる人影がアクアだとわかったアメジは手招きしながらアクアを呼んだ。
「・・・聖乙女・・・」
「アメジ様よ。」
「・・・アメジ。」
「ふふ、やっぱりね。マリンちゃんの頼みなら来てくれると思っていたのよ。」
「別に、用事のついでに来てやっただけだ。」
人とめったに話さないアクアは、つい無愛想に答えてしまう。
「ま、来なかったら、マリンちゃん人質にしてでも言うこときかせるつもりだったけどねー。」
「なっ、・・・こいつ」
アメジ、聖乙女らしからぬ思考だった。

「なんの・・用だ?」
アメジから目を逸らしてアクアは訊ねる。アクアの脳内はマリンの言葉がずっとぐるぐると回っていた。
「そうそう大事なことなのよ。

アンタさ、結婚のことよ」
「なっっ?!」
いきなり?!
アメジの発言が予想外だったアクアの頭は真っ白になり、ガンガン音がしていた。
「そんなに興味ないの?
むしろキライなわけ?」
「そっ、そんなことは・・な・・」
アクアは頭に響く音がうるさく自分の声さえ聞き取れない気がしていた。体中の血が頭に逆流しているんじゃないかとさえ思えた。
パニック状態だ。
「は?

たくハッキリしないんだから。
もう、アンタはあたしについてくりゃいいの。黒水晶と戦った男でしょ?もっと胸張っていいんだってば。顔見られたくないなら変装でもなんでもすりゃいいんだしさ。

ちらっとだけでも参加してやってよ。
一度ぐらい、弟らしいことしてやったらいいじゃん。ね。」
「え?・・・・・・

ちょっとまて・・・なんの話だ?」
「は?なにって・・・・だから

ジストの結婚式に、来てくれるか?てことを言って・・・」
「・・・・その、ことだったのか・・・」
アメジの言っていることが自分の思っていたこととまったく違っていた事実に、アクアは脱力して膝をついた。
「ちょっと、そのことってなによ。
なにアンタ落ち込んでんの?」
おーい?大丈夫かー?アクア
アメジがアクアを現実に引き戻そうと呼びかけていると
アメジの頭上になにかうるさいものが降ってきた。

「おぶぅっ」
それはアメジの頭でバウンドすると、アメジの突き出た尻にしがみついた。

「な、なに?」
アメジがそれを確かめようと触ると、もさもさな毛がアメジの指に絡まった。
なにかの生物か??!!
アメジがそれを確かめる間もなく、それは大きな声を出してわめきだした。

「わーん、なんで帰ってこないんだよー、ガーネ!
お前がいないとオイラ、寂しくって眠れないよー!!」
「は?なに??」
それはアメジの尻にしがみついたまま、なお泣き喚いた。

「あとなんで最近腕枕してくれなくなったんだよーー!!

オイラ、アレじゃないと寝つき悪いんだよーー。」
「ふぉっ、なんだっつーの!?」
アメジ、必死に腰を振って尻にしがみつくソレを振り落とそうとするが落ちなかった。

「ちょ、ちょっと、アクア!!
これ、なんとかしてくんない?!」
「ん・・・うわっ?!」
いきなり目の前に突き出されたアメジの尻がもさもさの毛にまみれていたのを目にして、アクアの心臓は一瞬止まりかけた。
が、よく見るとそれは聖獣だった。
「わー!!」
「ギャー!!」
パニクる二つの存在を前にアクアは現実に戻り、ひとり冷静になった。アメジの尻にしがみついたソレを引きはがそうとつかんだ。が
「ぎゃー、イテイテ!!アクア待った!
尻に食い込んでイタイんですけどっっ」

「えっ?・・・・わっ、違う!ガーネじゃない!!」
アメジの尻というワードに自分がしがみついていたものがアメジの尻だと気づいた聖獣は、ぱっとアメジから離れた。

「な、なにすんじゃ、このもじゃもじゃ聖獣!!
聖乙女さまの神聖な尻に傷をつけやがって!!」
「ひぃぃーーー。」
アメジ、怒りのあまり、その聖獣の両ひげを持って首を絞めかけた。

「せ、聖乙女って・・・・まさかあの・・・?」
「フフン、このリスタルでアメジ様を知らないやつはいないでしょ?」
聖乙女様は慈悲深いのよ、と聖獣のヒゲから手を離すと、ドスンとそのまま聖獣は落下した。

「バカ巫女アメジ?!!」
「ああん?!なんだとこら!?」
再び殺意を感じた聖獣は慌てて否定した。

「違うよ、オイラじゃなくってタルのやつがそう言ってたんだ。」
「タル?・・・むあのモチ聖獣め・・・。

まさかアンタ、タルのボーイフレンドってやつ?」
アメジ、タルの顔を思い出しながら、にししと笑った。

「ち、違うって!あんなモチ顔聖獣じょーだんじゃないって!!

オイラはマリンが好きなんだ。マリンはほんとーにかわいいよなぁvv」
「そうそう!マリンちゃんはマジでかわいいのよ。ゲヘヘヘ」
「デヘヘヘヘv」
アメジとふたりマリンを想い気色悪く笑いを浮かべる、その様子にマリンの主人であるアクアは
こいつら絶対マリンを近づけさせない
と強く誓うのだった。




「そうだ、オイラ、ガーネを探していたんだ!
聖乙女さん、ガーネを見かけなかった?!」
ハッとしてアメジに問いかける聖獣。

「え、見てないけど・・・
アンタ、ガーネの聖獣なの?」
「あ、うん、そうだよ!

オイラはチール。若手水晶使いナンバーワンのガーネのステキな相棒さ☆」

「あっっっっそ。」
アメジ呆れてどうでもいい返事をする。
「お願いだよ、早くガーネを探さないと・・・

聖乙女さんも手伝ってよ!
早くしないと・・・ガーネが殺されちゃうよ!!」
「ええっっ、マジで?」
そうなんだよ大変なんだよと慌てるチールにアメジは強く頷いた。

「よし、わかった。急いでガーネを探そう。いくよ、アクア!」
「!?・・・ちょっ・・・なんで俺まで・・・」
アメジに強引に腕をつかまれ、チールに付き合わされるアクア。
ぶすぶすと文句を言ったところで、アメジには届かなかった。


戻る。

第27話

「ガーネ君、大変だよ、あのウワサずいぶん広まっているみたいだよ。
このことがラルド様の耳に届いたら・・・大変だよ。」

心配そうに言うガラスとは対照的にガーネはのほほんとしていた。
「そのことなら大丈夫だって。
あの後エメラを説得して、ラルド様にはあのウワサはでたらめなんだ。って言ってくれるって約束したからな。

ラルド様、オレの話は聞いてくれないけど、エメラの言うことなら信じるからな。

ほんと溺愛しちゃってるし。」
彼らの言う「ウワサ」とは中央広場にて、エメラがみなの前で、自分の好きな人はガーネ。だと言った事だった。
あれだけの人が集まった場所で、しかもリスタルのアイドル的存在のエメラの発した事、すぐにそのことは若者を中心に広まってしまったのだった。
エメラを溺愛するラルドにそのことが知られたらガーネはただではすまない。そのことがわかっているガーネは慌ててエメラを説得したのだった。

「そう、なんだ。

じゃ、家に戻っても大丈夫なんじゃない?
こんな時間までうろうろしていたら、チールが寂しがって騒いでいるかもしれないよ?」
「あいつ極度のさみしがりなんだよな。
昔はそこがかわいいとも思ったけど、最近正直ウザイことあるんだよ。

男なのにさ・・・。」
「もしかしてチールがウザいから帰らないの?」
それに笑いながら首を振るガーネ
「なわけないじゃん。

ちょっと気になってさ。パールのやつどうしてる?」


「え・・・パールちゃん?

さっきまで、向こうでひとりで踊りの練習してたみたいだけど・・・」
「そっか、あいつも強がってても落ち込んでいるのかもな。
ずっと族長に憧れていたし、いっちょ慰めてくるか。」
「ガーネ君・・・それって余計なお世話・・・て、ああっ

もう行っちゃった・・・・・もうガーネ君は・・・・・



僕には・・・・・」
すぐに自分の視界から消えたガーネを確認しながら、ガラスは力なくつぶやいた。



小さな街灯の下で踊る少女の姿を見つけたガーネは声をかけながら駆けて行った。

「パール、こんな時間までがんばってるんだな。」
少女はその声の主がガーネだと気づくと、踊りを止めた

「アンタとは違って、いつでも真剣ですから。」
イヤミっぽく言われるのをまったく気にせず、ガーネは頷く
「オレは本番はバッチリ決めるタイプだからな。
問題ナッシング☆」
陽気にケラケラ笑いながらブイサインかますガーネに呆れてため息をつくパール

「なにしに来たの?
また大神官さまに怒られるんじゃないの?居候の身なんだってこともっと自覚しなさいよ。」
「そんなことわかってるって。
パールのこと心配して探してたんだよ。
お前ずっと族長に憧れていたじゃん。

オレらのいないとこで泣いてやしないかと思ってさ。」

「なにそれ、余計なお世話よ!」
「だってパールが巫女を目指して踊り子になったのは、その族長への想いからだ。って以前言ってただろ?」
「そう・・だった・・・?

べ別にどうでもいいでしょ?!」
「オレ踊り子見るの好きなんだよ。

あ、いやらしい意味じゃなくってさ。
なんか母さん思い出すんだよな。オレの母さんもパールやエメラみたいに巫女目指していた踊り子で・・・・

だからかな、応援したいんだよ。パールのこと。」
「別にもう目指してなんかないわよ。

ムリに決まっているじゃない。あたしは水晶0なのよ。
生まれつき水晶のない人間は、どんなに修業しても水晶使いにはなれない。って

みんな知っていることでしょ?!」
「なんでパールはそう自虐的なんだよ?

エメラみたいにノー天気になられても困るけど、もう少しあいつみたいな前向きさがあれば・・・」
「止めてよ!そーやってエメラを基準にして人を見るとこがムカツクのよ!
そーゆーとこが無神経なバカなんだってとっとと気づけばっ?!」
「なっっ、お、おい待てよパール?!」




アメジたち(アクアはムリヤリつき合わされているのだが)はガーネの聖獣チールと共に、そのガーネを探して街中を走り回っていた。チールがうるさく叫ぶので、近所迷惑になる。と苦情が来る前に、(アメジのイメージダウンにも繋がるので)チールを恐怖で黙らせ、静かに捜索するのだった。

「で・・・モサリーノ、なんでアンタは人の頭にのっかってるんだ?ああ?この聖乙女様の御頭に・・・・無礼者が。」
「モサリーノってオイラのこと?
だってさ、ここがオイラの定位置なんだもん♪」
そんなん知るか!とアメジが引き摺り下ろそうと引っ張るが
アメジの帽子に爪を立て、必死でしがみついた。
後ろから見るとアメジの頭もさもさ状態だ。

「はぁー、たくよ。

で、ガーネの野郎が殺されるってどういうことよ?」
そういえば、誰になんで殺されるのか、アメジ知らなかった。

「ラルドのじいさんだよ!!」
「へ?ラルじいに?」
「そうだよ。ガーネは幼い頃に両親を亡くしてからは、ラルドのじいさんのとこで育てられたって、そういう話なんだ。」
「ラルじいが、育ての親ってわけ?」
幼くして親を亡くして、大神官が育ての親・・・アメジと同じだった。
「それで今もラルドのじいさんのとこで世話になってるんだけど

じいさんのとこ女ばっかの家なんだよ。だからか
ガーネもオイラもじいさんから虐められててさ。
なにかあるたびにすぐ怒るわ、なにかとガーネのせいにするわ、でさ。自分の孫はめちゃめちゃ贔屓して、もうガーネの扱いが酷いんだよ。もう一人前として認めてくれてもいいはずなのに、
未だに水晶使いとしてまだまだだって、認めてくれなくて

それでオイラたち、黒水晶と戦えなかったんだ。
オイラたちが戦えたら、マリンだって危険な目に合わずにすんだはずなのにさ。」
水晶使いとして黒水晶と戦うには、大神官であるラルドの許可が必要だったのだ。
水晶使いたちのトップである大神官の命は絶対だったのだ。
彼ら若手が戦わせてもらえなかったのは、ラルドなりに考えがあってのことだったのか、それはラルド本人に聞かねばわからなかった。

「ふん、バカバカしい・・・・そんなことに付き合う必要は・・・」
「あっ!!」
アクアのぼやきはかき消された。

「この下からガーネの匂いがする!」
チールがうるさく反応した。
アメジの頭でうるさくゆれるので、うるさいとチールを押さえつけながら、アメジはチールが反応した先を確認する。

アメジたちのいる通りから、外壁に手をかけながらその下を見下ろすとガーネの姿を確認した。
ガーネがパールともめているのをアメジは確認すると、今にも飛び出しそうなチールを抑えながら身を屈めた。

「なんだなんだ?女と密会かー?くっふふふ。」
アメジおもしろげに笑いを浮かべると、暴れるチールを自分の帽子ごとはずし、下に押さえつけながら、自分の股に挟みこんで自由を奪った。
「ちょっなにす・・むぎゅーー。」
アメジのケツ圧に押しつぶされそうなチールは、それに負け、モップのような姿になっていた。
呆然としているアクアに気づくと、アメジはアクアの腕を引っ張りながらしゃがませた。

「おい、なにす・・」
「いいから、し・・・・ん?」
アメジ、自分のすぐ隣にしゃがませたアクアの顔を見て、ひとつ気づいた。


「あ・・・・そっか

ガーネのやつ誰かに似ている気がしたら、


アクアに似てるんだ。」
「な、おい・・ちょ」
動揺するアクアには気づかず、アメジはさらに顔を近づけて、アクアの顔をマジマジと見ながら確認する。
「ぱっと見は全然違うんだけどさー。
あいつは色黒で、アンタは超色白だし・・・・

でもよっっく見ると、なんか似てる気がするんだよね。
目元とかさー・・・・。」
「なっっ、・・・」
アメジを意識するあまり、肌の色が赤く染まりだした頃
下のほうでさらにもめているガーネとパールの前に駆けてくる影があった。


「ガーネ!!ここにいたですか?!」
「エメラ!!?」
肩まで伸ばした黒髪を揺らしながら、ガーネの側まで駆けて来た。

「あ、あのこたしか広場での・・・エメラとかってこじゃない。
やたらとみんなにちやほやされてた。」
アメジ、ぐっと身を乗り出しながら、その様子を見守る。


「あ、パールさん!
もしかして、ガーネ、パールさんの練習に付き合ってたですか?」
「あ、うん、まあね。」
ガーネが気まずそうに頷く。

「そ、それよりエメラ、こんな時間に出歩いていたら、ラルド様心配するだろ?」
エメラはなぜか下を俯き、ぷるぷると体を震わせながら、ガーネへと抱きついた。
「わっ、お、おい?!なんだよ?!」
「おじい様なんて大嫌いです!!!!

もうエメラお家には帰らないです!!!」
「えっええっ??!!」
ガーネに抱きつきながら、わんわん泣き叫ぶエメラにガーネは呆然とする。パールもなにごとか?とその場に固まる。



「な、なにがあったんだよ?家に帰らないなんてなにバカなこと言って・・・」
「だって、おじい様ったら酷いです。
エメラの言うことわかってくれないです。ぐすん。」

「え、まさか・・・・
ラルド様、あのウワサがウソだってわかってくれなかったってことか?」
上手くいくと思っていたのに・・・予想外のことにガーネ、変な汗がじわじわときた。
「違うです・・・
エメラ、ちゃんと言ったです。

エメラはガーネが好きだって・・・
そしたら、おじい様、絶対許さんって・・・ガーネのことぶっ殺すあの恩知らずの小僧めっって

エメラの言うことわかってくれなかったです!!」
「はい??!!

なんだよ、それエメラ話が違うじゃないか!!
そのことがウソだってラルド様に話す約束だったろ?!

な、なんてことしてくれたんだよ?!
オレマジでラルド様に殺されるじゃないか!!

だいたいなんであんなこと言ったんだよ?!」
さらに変な汗が噴出す。

「だって、エメラ・・・ガーネのことほんとに好きです・・・」
「ふざけんなって、そうだ、エメラもう一度みんなの前で
あれは冗談だったって、発表してくれよ。なっ!」
必死でエメラに頼み込むその発言にアメジはぷちっときた。

「そうだ・・・・あいつ、誰かに似てると思ったら・・・


モンドだったんだ!!(怒)」
トウッという掛け声が聞こえたかと思うと、ガーネの頭上に影を感じた瞬間


「!!??うごあっっ??!!」

ドギャグシャ☆☆


およそ三メートルの高さからのアメジのとび蹴り、ガーネに炸裂し、ガーネは激しく吹っ飛んだ。

「?!聖乙女さま?!」
事がいまいち飲み込めず、パニクるガーネにアメジがびしっと

「自分の命惜しさに女の子に恥をかかせることをさせようなんて、死んでも許せん!
ましてや公共の場で、結婚すると誓っておきながら、実は他の女と結婚するなどとぬかしたりなんてことはーーー!!(怒)」
「は、はあ?」
「あ、あなたは聖乙女さま?!
聖乙女様もエメラの味方ですー。」
アメジの脳内にモンドとガーネが重なり、熱くなってしまったのだ。

「な・・なんでここでアナタが乱入してくるんすかー?」
もうわけがわからないガーネ
「わーん、ガーネ!!探したぞーバカー!!」
アメジに続いて飛び降りてきたのがチール。
ガーネの顔にしがみつき、わんわん泣いた。
「あとなんで最近腕枕してくんないんだよーーー。」
「それは・・最近お前デブって腕がしびれるんだよ。

て、うあーーーー」
どかばきゃ
再びアメジの鉄拳がガーネへと炸裂し、もうガーネはマジでわけわからなくなってた。

「死ぬなーー、死ぬなガーネ!!オイラを残して死なないでーーー!!」
「このくされモンドめー、

あたしのケツがデカイとかって言うな!!普通サイズじゃ!!

大地の底から呪うぞこら!!」
「ひーーー」
アメジ、熱くなったらそう簡単に止まらなかった。
その様子に呆れたパールは「バッカじゃないの」と背を向けてその場を去っていった。


一通り暴行を終えてすっきりしたアメジは、大事なことに気づいた。
「あっ、そうだ、あたしアクアのやつに頼み・・・

アクア?!」
アメジ見上げたら、アクアの姿はなかった。
アメジはジストの頼みでアクアを説得するはずだったのだが・・・・


本来の目的を忘れてしまったダメダメアメジだった。

戻る。

第28話

「サファ姉さま、本当におめでとうですvv」
エメラはじゃれつくように、後ろからサファに抱きつきながら、祝いの言葉をかける。
「ふふ、ありがとうエメラ。」

数人の女性たちによって、丁寧に衣装を着せられていくサファは、幸せそうに微笑んだ。
そんなサファを見ながら、エメラはうれしそうに飛び跳ねた。


「はぁ・・・・サファ姉さま、ほんとうに幸せそうです。

なんだか、エメラも早く、結婚したいです。」
うらやましげにそう言うエメラ

「エメラったら、そんなこと言ってはおじい様が寂しがるわ。」
「おじい様なんていいです!!

エメラは、ずっと巫女になりたかったです。
エメラもお姉さまたちと一緒に戦いたかったです。

でもおじい様は、エメラを巫女として認めてくれなかったです!

おじい様はいつもエメラのことが一番大事だって言うですけど、
全然違うです!

エメラの気持ちちっともわかってくれないです。


おじい様なんて・・・エメラ、もう知らないです。」
ラルドの話題で少し不機嫌にそっぽを向くエメラにサファは

「おじい様はエメラが大事だから、そう言ってしまうのよ。

姉さまたちが皆亡くなって、私とエメラだけになったでしょ。
だからおじい様はもう失いたくないのよ。
たしかに過保護すぎるとこもあるけど、それもエメラのことを想ってのことだから、わかってあげなさい。」
と優しく言った。

「・・・・でも・・・・」
「ほら、エメラいつまでもこんなとこにいないで、
もうすぐ祭りが始まるんでしょ?」
サファに言われて、エメラが外へ出ようとした時に彼女の前に現れた人影は・・・

「入るぞ、サファ・・・どれどれ準備の程は・・・・?!

こりゃエメラ!!」

「!!おじい様!!」
「エメラ!お前昨夜はどこに行っとったんじゃ??!!」
「エメラがだれとどこにいよーと勝手です。

おじい様には関係ないですーー。」
ぷーと膨れながらエメラ反抗的になる。

「な、まさかガーネの小僧か?!

おのれ、あやつめ、今までの恩を仇で返すつもりか?!

ワシは許さんぞ!エメラ!!」
「なんでガーネがダメですか?!

サファ姉さまは結婚するのに、エメラはダメなんて酷いです。


おじい様はなんでもダメって酷いです。エメラも巫女として、黒水晶と戦いたかったです。
死んでいったお姉さまたちの分も・・・エメラ戦いたかったです!

おじい様は、エメラの夢も願いも・・・恋も邪魔するです!!」

「簡単に戦いたいなど言うでないわ。

エメラ・・・ワシはお前が一番大事なんじゃよ。
ワシにとっての最後の宝なんじゃよ。
それを、ガーネなんぞにやってたまるもんか。

さぁ、エメラ・・・昔みたいにワシの胸の中に飛び込んでくるんじゃ。甘えるんじゃ・・・。」
エメラを想うあまりの恵比須顔ラルドに・・・エメラは

「もうおじい様邪魔です。そこどくです!!」
「ぬあおっ、こ、こりゃエメラ!!」

エメラはラルドを体当たりでどかすと、そのまま外へと出て行った。



ついに祭り当日を向かえ、街中の人たちが中央広場へと向かっていった。
広場へ続く通りには、出店が立ち並び、菓子やら酒の甘い香から、寺院近くでは祭り独特の香の匂いが漂っていた。
その通りを行く人々の中には、楽器を抱えた水晶使い達と、祭りの衣装を身に纏った踊り子の娘達がいた。
その中をガーネとガラスも歩いていた。

「うーん、マジで楽しみだな。

聖乙女さまの踊り!」
「ガーネ君てば・・・今日はサファさんのためのお祭りだよ。

それに、聖乙女さまってほんとに踊るのかな?」
「何言ってんだよ。踊るにきまってるって!」
目をキラキラと輝かせ期待に震えるガーネだったが、
アメジは踊るわけがない・・・無駄な期待だった。

人ごみの中を走る少女は、前方にガーネの姿を見るとうれしそうに駆けて行った。
声をかけようとした瞬間、彼女を呼び止める声があった。

「エメラ!!」
「!?」
エメラは呼び止められたのに気づき、立ち止まるとそのほうへと振り向いた。

「あ、こんにちはです・・・・」
男は振り向いたエメラに笑顔で手を振りながら、近づいた。
エメラ、少しして思い出したようにその男の名前を呼んだ。


「ブロンさん!」
二人の男を引き連れたその男はブロンという若手水晶使いだった。

「エメラ、あのウワサはウソだよな。」
「あのウワサ?」
エメラが首をかしげる
「ガーネの野郎が好きだとかいう・・・」

「ああ!

本当です。エメラ、ガーネが好きです。
ブロンさんまでご存知でしたか。」
うれしげに笑うエメラに、ブロンの目元はぴくぴくとなった。

「あっ、ガーネ行っちゃうです。
じゃ、今日のお祭りがんばるです。」
ガーネの姿が遠ざかるのに慌てて、エメラは後を追っていった。
そのエメラの後姿を見送るブロンの口元からギリギリと変な音が聞こえてきた。

「なんでガーネなんだよ・・・くそ、忌々しい野郎だ。

自分で若手ナンバーワンとか名乗りながら・・・俺様のエメラにべたべたしやがって・・・

調子こきやがって、今に見ていろ、ナンバーワンの座も、エメラも俺様が手にする。くっくっくっく・・・」
不気味に笑いながら、憎々しくガーネを睨むブロンだった。



祭りの音を感じながら、広場のほうを見下ろしていたのは

「おおっ、皆集まっているな。

ほらっ、行くよ、マリンちゃん、アクア!」
アメジは後方のマリンとアクアを呼んだ。

「わぁ。はやくいくでちゅ。アクアちゃま。」
ノリノリなマリンとは対照的に、やはり人前に出ることに抵抗があるアクアの足取りは重かった。
結局アメジは祭り当日に、マリンちゃんの協力も得て、アクアを引っ張り出したのだった。

「たく、顔見られるのがイヤならコレでも被ってろって!」
アメジは自分の帽子をアクアにムリヤリかぶせた。
「おい!」
しかし、あまりにも似合わなかった上、顔も隠せなかったのでやっぱり戻した。

「ふむ、困ったなー・・・・

あ、あのモサリーノならどうだ?あのモサモサぶりなら十分隠せるかも?!」
アメジがナイスアイデアと思いついたのは、モサリーノ(アメジがつけたあだ名)ことチールをアクアの頭に乗っけよう作戦だったが、さすがにアクアが半ギレになったのでやめた。アメジに変なアイデアを出される前に、とそのままで行くことに決めた。


水晶使いたちが所定の位置につき、祭りの演奏を始めた。
演奏が始まり、十分後、寺院に向かう通りより、花嫁であるサファが静々と現れた。
寺院前の巨大なテントの下に花婿であるジストと、その側にはそれを見守るラルドの姿があった。
サファがゆっくりとその方へと歩みを進めると、踊り子達がゆっくりと舞いながら、広場中央を囲む輪となり、緩やかに舞っていた。
踊り子、その周囲の水晶使いたちをぐるりと囲むように人々は集まった。演奏にあわせて、人々の拍手がジストとサファに送られたのだ。
みなに祝福されているという実感がサファを涙ぐませた。
そしてテントの後ろのほうからジストを見守るタルも涙ぐんできた。サファとは少し違う理由で涙ぐんでいた。

「喜ばなきゃいけないことなのに・・・やっぱりタルはなんだかせつないたるよ。」
ぐすり。でも大好きなジストのため、タルは今日は笑顔で祝ってあげようと決めていた。そしてジストの膝上にある面を愛しげに見つめた。

「むむ、そういえば、アメジ殿の姿が見当たらんが?」
ラルド、周囲を見渡したがアメジの姿が見えないのを気にしていた。
「来てないのですか?・・・アクアと一緒に来ると聞いていたのですが・・・人が多すぎて、ここまでこられなかったのかもしれない。」
ラルドと一緒に不安げにアメジを探すジストに後ろのタルが
「アメジのバカならこの先の通りで見かけたたる。

あいつ出店の菓子にたかっていただけたるよ。まったく恥ずかしいバカたる。
マリンとアクアも一緒だったる。」

「そうか・・・アクアも来てくれたのか・・・。」
タルの言葉に少し安心を覚えたジストはうれしげに目を細めた。



「うんうん、これもマジで上手いよ、マリンちゃんはい。」
タルの言ったとおり、アメジは通りの出店で食いまくっていた。
聖乙女である特権をいかしてタダで食べまくっていたのだった。

「うちを気に入っていただけるのはありがたいのですが・・・

それより行かなくてよろしいんですか?聖乙女様。
もう式は始まっているんじゃないんですか?」
アメジのすさまじさに苦笑いしつつ発した店の主人の言葉にアメジはっとなった。

「ヤバ!ジストに約束したんだ。とりあえず行かないと。
行くよアクア、マリンちゃん。」
アメジ急いで広場に向かおうとしたが・・・


「うぉっ・・・ちょ・・・」
「アメジちゃま、まえにちゅちゅめないでちゅ。」
あまりの人の多さに、広場への道は混雑を極めていた。
人に踏み潰されないようにと、アクアはマリンを胸元に抱え、避難させた。

「これじゃ、行けないな。」
諦め100%なアクアの発言にアメジ

「いや、こっちの道からなら行けるかも!」

アメジくるりと向きを変え、元来た道を進みだした。
階段を駆け上り、人のいない路地へと出た。

「ちょっと狭いけど、こっちを通れば寺院の裏側に出るはずなのよ。」
乗り気でないアクアを呼びつつ、アメジはその通路へと向かう。
「ちょっと足場が悪いんだけど、なんとか行ける・・・

アクア、なにしてんの?後ついてきな・・・・?アクア?」
アメジが振り返ると、自分の後をついてこないアクアに気づき、すぐに戻った。
狭い路地へ入る道の前で、うずくまって震えるアクアがいた。
アクアの異常な様子にアメジも不安に思い側に駆け寄る。

「アクア、あんたどうしたのよ?」
アクアの前でしゃがみこみ様子を伺うアメジ
「アクアちゃま?だいじょうぶでちゅか?」
アクアから降り、心配げに顔を見上げるマリン
「アクア・・?!」
アメジが覗き込んだアクアの表情は、白い肌をさらに青くさせ、恐怖に震える顔だった。

「アクア、アンタだい・・」

「・・・来る・・・奴・・が・・・」
かすかに聞き取れるほどの声で、アクアが漏らした言葉の意味をアメジは理解できなかったが。
震えるアクアを抱き起こそうとした瞬間、アメジの体中の水晶が激しく反応するかのように、ぞわぞわと不気味な物を感じた。
それはアメジが今までに感じたことの無い、不気味な感覚だった。
危険感知能力・・・・そうなのかもしれない。
そのことにアメジが気づくのはその直後だった。




ざわわわ、
全身鳥肌が立つのと同時に、アメジたちの上空を横切った巨大な黒い影・・・・



「!!??


そんな・・・なんで・・・」
アメジやアクアが感じたソレは、たしかに滅んだはずの

あのバケモノだった。

いや、あのバケモノよりも・・・はるかに巨大で残忍で恐ろしい存在であると、アメジは本能的に察知した。


「黒水晶・・・・!!」



戻る。

第29話

アメジ達の上空を横切った不気味な黒い影は

「黒水晶・・・なんで・・・」
「いなくなったはじゅなのに・・・」
アメジと一緒に不安げに見上げたマリン、小さな体をガタガタと震わせながらも、戦士として戦わなければ、とキッと耳を立ち上げた。

「くそ、祭りで人が集まっている中を・・・
被害が出ないうちに、追っ払わなきゃ。

行くよ、マリンちゃん、アクア!」
アメジ、あれからも常に携帯していたドクロ水晶を手にし、アクアとマリンを呼んだ、が・・・

「アクア?」
「アクアちゃま!」
アクアはずっと震えたままで、アメジとマリンの声にも反応しなかった。
「ちょっとアクア、しっかりしろよ?!」
アメジがアクアの両肩を掴んで、気づかせようとゆすったが
アクアの心は恐怖が現実を越えてしまったのか、まったく反応をしめさなかった。

「アクアちゃま、どうちたんでちゅか?!」
「く、気持ちぶっ飛んじまっているよ。くそっ

しょうがない、ジストとタルを呼んでくる。」
もたついている時間はないと判断したアメジは、ドクロ水晶を構えたまま、黒水晶を追いかけた。
その場に残されたマリンは必死でアクアに呼びかけた

「アクアちゃま!おねがいでちゅ。きぢゅいてくだちゃいでちゅ。」
「・・・・ダメだ・・・ころ・・殺される・・・」






アメジが駆けるよりも早く、黒水晶は人々が密集する通りに到達していた。
自分たちの上に覆いかぶさるように現れた巨大な黒いバケモノに気づいた人々は、恐怖の声を上げ、それから逃げようとパニック状態になった。
恐怖におののく人々の様子を、不気味に赤い二つの目は、その様子をあざ笑うように映していた。


ギャアアアアアアーーーーーー


あの独特の耳に障る鳴き声を上げ、黒水晶は人々の中にと飛び込んできた。
「ギャアアアアーーー」
黒水晶の鋭い鍵爪が人々の肉を抉り、激しい体当たりに潰される者、羽ばたきに吹き飛ばされる者、
息や唾液に触れ、毒に侵され倒れる者。
恐怖によってつつまれたそこは、さっきまでの賑やかで楽しげだった空間は一転地獄と化した。


「待て、黒水晶!!」
アメジがその姿を確認した時、すでにそこは地獄絵図のような有様だった。

「!!?うっ・・」
アメジが思っていた以上に酷すぎるその光景に、一瞬意識が遠のきそうになった。
黒水晶はアメジの存在に気づくと、不気味な赤い目を光らせ、
自分の前から逃げようとしている男を大きな口で噛み捕らえた。
黒水晶はそのまま口の中でぐちゃぐちゃと男を噛み砕き、
潰された男の血は、激しく飛び散り、アメジにと降り注いだ。
頭から、真っ赤な血に染まった呆然とするアメジの前に、
黒水晶は、口に含んだそれをアメジの前に吐き捨てた。
アメジの目の前に転がるのは、ついさっきまで祭りを楽しんでいた男だったとは思えない、いや、人としての姿さえ確認できないほど、無惨な姿になっていた。
アメジ、信じられない現実に、体の下からぞわぞわとくるものがあった。
この時代にきて、何度か戦った黒水晶。
だが、アメジが来てからは、黒水晶によって街が壊されたり、人が殺されたりなどという被害は一度もなかった。
ラルドの話では、アメジたちが倒したのが、最後の生き残りの一体だったということだった。
しかし、今黒水晶は現れた。今アメジの前で
まるでおもちゃを壊すことを楽しんでいる子供のように、
人間を殺し、その様子を喜んでいるかのような

アメジ、遠ざかりそうな意識をぎゅっと縛るように、
手の中のドクロ水晶をぎゅっと握り締め、
自分を見下ろす黒水晶を睨みつけた。


「このアメジ様の前で・・・好き勝手やらせるかよ!」
アメジが手のドクロ水晶から、光の線を描こうとした瞬間
黒水晶はアメジを挑発するかのように、不気味に微笑んだ後、
通りの出店や、建物を壊しながら羽ばたいた。


「あっ、おい待て!!」
アメジの様子をからかうように、黒水晶はさらに人の集まる中央広場へと向かった。





広場では、ジストの手から精霊の面がサファへと渡される儀式の途中だった。
通りの奥から人々のただならぬ騒ぎ声に、広場の人々もなにかあったのかとそちらへ注目した。
こちらへとむかってくる巨大な黒い影に気づいた水晶使いたちの演奏も止まり、祭りの音が止んだ。

「む、なにごとじゃ・・・」
「まさか、あれは・・・・」
ジストたちも儀式を中断し、人々の目線の先を確認する。

「ウソ・・・黒水晶・・・?」
しだいに迫ってくる巨大な影が、そのバケモノと確認した人々は急いでその恐怖から逃れようと、人の波がいろんな方向へと動き出す。パニックに陥る中、その影を違う気持ちで見る者がいた。

「黒水晶、まだ生きていたなんて・・・・

これは、チャンスだよな。」
「えっ、あっ、ガーネ君?

ど、どこ行くの?うわっ」
人々と違うほうへと走り出したガーネを呼び止めようとしたガラスは、逃げる人たちに押され、ガーネとはぐれてしまった。



「クッ、どういうことじゃ、まったく。」
「まずは皆を非難させねば・・・」
「そうじゃのう。寺院の中にでも誘導させよう。

落ち着かんか、みなこっちじゃあ。」
ラルドが大きな声を上げ、広場の人々を寺院へと誘導する。
エメラも一緒になって人々を誘導しながら、寺院の中へと入って行った。

「・・・あ、私、ドクロ水晶を置いてきて・・・

すぐに取って戻ってきます。」
花嫁姿でドクロ水晶を持っていなかったサファは花嫁から巫女の顔になり、その場をたった。

「サファが戻るまで、私達で奴をひきつけようタル。」
ジストは持っていた面を座っていた椅子の上に置くとテントから出て、上空の黒水晶を見た。
黒水晶は逃げる人々を上空からじっと見ていたと思うと、
くるりと向きを変え、なぜか広場入り口近くの建物へとぶつかった。
激しい音をたてて崩れるそれは、人々の流れを止めた。
「くっ」
ジストたちがさっきまでいたテントの上にも建物の残骸が降り注ぎ、巨大なテントも瓦礫と共に崩れ落ちた。

「なんだ・・・あの黒水晶、今までの奴と。違う。

それにあんな赤い目のものは・・・・初めて見る。」
ジストも感じていた。今までの黒水晶とは違うその存在に。
しかも赤い目の黒水晶など見たことがなかった。

「タル!」
ジストの相棒は隣にいなかった。
ハッ、と後ろを振り返ると崩れ落ちたテントの下から声がした。



「タル!!」
ジストが崩れたテントを持ち上げると、タルの姿を確認した。

「ジスト!」
自分を呼ぶその声にタルは反応し、顔を持ち上げた。
テントの中は瓦礫によって押しつぶされ、タルの姿を確認できた以外は真っ暗でなにも見えなかった。
ジストはテントを左肩で支えながら、手を伸ばし、タルへと近づけた。
「タル、今だ、早く出て来い。」
それにタルは首を振った。

「ダメたる。引っかかって出られないたる。」
ジストの目では確認できなかったが、タルは身動きの取れない状態にあるらしい。

「まさか、足でも挟まれているのか?」
それにまた首を振るタル。
「タルの体はどこも挟まってないたる。」
「?タルどういう・・・」
タルの言っていることが理解できなかった。
体が挟まっていないのに抜けられない状態?

「ジストのお面が途中で引っかかってるたる。
タルなんとか守ったるけど・・・」
「タル?!

面なんていい、早く手を離して抜けてこい。」
それにまたしても首を振るタル

「いやたる。大事なものたる。

タルだって守りたいたるよ。

黒水晶なんかに壊されたくないたる。」
ぎゅっと手に掴んだ面を離そうとしないタル



「・・・・わかったタル、じっとしてろ。

すぐ助けてやるから・・・」
ジストは伸ばした右手から少しずつ水晶を出し、タルの手周辺の瓦礫を壊していく。

「くっ」
左肩にかかるテントの重みとも戦いながら、ジストはタルの周辺の瓦礫を壊していく。

「!
抜けたたるよ。

ジスト!!」
面を取り出せるスペースができ、嬉しそうにジストの側へと駆けて来たタル。
ジストが伸ばした右手にタルが触れようとした、その時

「!!??」
「ジ・・・」
ジストの腹部を鋭い物が貫いた。

「く、しま・・・・」
ジストの背後には不気味な黒い影が、まるでこの瞬間を狙っていたかのように、ジストの体から鋭い爪を抜き去ると、不気味に目を光らせながら羽ばき上昇した。
激しい痛みと出血に気を失いそうになりながらも、目の前のパートナーを救いたい強い思いがジストの体を支えていた。

「タル・・・早く・・・」
無意識に心配をかけまいとする思いからか、ジストはタルに優しく笑いかける。
テントから出るとタルは今にも倒れそうなジストの側へと駆け寄った。

「ジスト・・・嫌たる。・・・しっかりするたる。」
涙と鼻水でぐじゅぐじゅになりながらも、必死でジストを励まそうとするタル。
その様子を楽しむように不気味に見下ろす黒水晶は自分の後方からやってくる存在へと今度は目を向けた。


「ジストーー!タルーー!!」

ドクロ水晶を抱えて走ってきたアメジを確認したジストはほっとしたようにそのまま意識を失った。
ジストの負傷に気づいたアメジはジストの元にと駆け寄った。

「アメジ、ジストをジストを助けてたる・・・」
ぐしゅぐしゅな顔でアメジにしがみつき懇願するタルに無言で頷いたアメジは黒水晶へと向き直った。



アクアもジストも戦えない・・・・水晶使いが戦えないこの状況で、どうすりゃいいってゆーのよ。
だけど、なんとかしなきゃ、この聖乙女さまが


ここまでバカにされて逃げるわけにはいかない。


アメジはジストの前に立ち、ギッと黒水晶を睨みつけ、ドクロ水晶へと指を当て、水晶を集めた

その瞬間

パキーーン

パラパラとアメジの足元に落ちる透明な欠片

アメジが水晶をドクロへと集めた瞬間、ドクロは粉々に砕けてアメジの足元に無惨な形になって落ちていった。

壊れてしまった、ドクロ水晶


「な・・・・マジで・・・・?」
そんなアメジの様子をまるであざ笑っているかのような黒水晶。
アメジの体を汗が伝った。



アメジ様・・・マジで絶体絶命?!


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