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第30話

アメジの足元に無惨なドクロの欠片・・・

想像もしなかった最悪の事態に予想以上の汗が伝う。

そんなアメジを不気味に見下ろす黒水晶はその状況を楽しんでいるかに見えた。


「やっべぇ・・・くそ、どうするか・・・」
その時、寺院のほうからサファが駆けて来た。

「ジスト様?!」
血の海に横たわるジストを目にしたサファの心は激しく乱れた。


「ウソ・・・こんな・・・


イヤ・・・イヤァァァァーーー!!!」
その場に倒れこみ、パニック状態になるサファ。

手の中で砕けたドクロ水晶を、手の肉に食い込むほど握り締めながら、アメジは黒水晶を睨んだまま、動けなかった。




どうすればいい、どうすれば、どうすれば




こいつを、ぶちのめせるんだよ??!!




憎々しい黒水晶の赤い目に映し出されたどうしようもない自分の姿が悔しかった。


キラン

その時、黒水晶に向かう光があった。
黒水晶がそれに振り返る直前
その光は黒水晶の背中にぶつかった。


ドゴォッ


その衝撃に少し体が揺れた黒水晶


「な、今のは・・・?」
アメジが見た黒水晶にぶつかった光は・・・


「聖獣?」

「今のは、あいつたるか?!」
タルもその光に注目した。

黒水晶へとぶつかった光が向かった先から駆けて来る二つの影。



「今の、大成功です!」
「よし、いくぜ!

オレ達が半人前じゃないってところ
ラルド様や、みんなに見せ付けてやろうぜ。」
「おうとも!」
アメジたちの前に現れたのは、
チールを従えたガーネと、ドクロ水晶を手にしたエメラだった。


「あっ、アンタたち・・」
アメジが口をぱくーんと開けている間、黒水晶はガーネたちへと向き直り、不気味に睨みつけた。



「よし、第二撃、いくぜ!!」
ガーネが掌に水晶を集めだす。
「はい、エメラだって
おじい様に内緒でドクロ水晶を使う練習してたです。

おじい様に認められなくても、立派に戦って見せるです。」

エメラは構えたドクロ水晶に水晶を集め
細い指先から、光の線を描いていく。
まるでエメラ自身を表すような、華やかにきらめくその光の線は
アメジやサファのそれと比べると頼りなげに見えたが
その中にも、エメラの強い決意が感じられた。
その線は途切れることなく、伸びやかに描かれていく。

「ハァハァ、いくです!」

エメラは広場周辺を走りながら描いた光を、瓦礫の上に駆け上ったところで、黒水晶へと放った。
その直後に、ガーネの水晶を得たチールがその道しるべを伝っていく。

「オイラとガーネの力思い知れ!ハァッ!」
チールは黒水晶の首元をかすめ、ガーネの元へと走った。


「ギ・・・」
そんなチールたちの動きを赤い小さな目をキョロキョロと動かして追う黒水晶。

「まだまだだよ、もういっちょいこうぜガーネ!」
ずっと戦いたくてそのチャンスがなかったガーネたちは燃えていた。




逃げる人たちの中、ガラスは通りの建物の影に隠れておびえていた。
「ガーネ君はいなくなっちゃうし・・・

なんで、黒水晶がまた現れるの?

・・・もう・・もうやだよ・・・」
大きな体を丸めて、影の中ガタガタと震えていた。
ガラスの中で甦る悪夢
ガラスの相棒だったビーズという聖獣は黒水晶から弱すぎる自分を守って死んでしまった。
心も水晶使いとしても弱かった自分が大切なパートナーを殺してしまった。そのことが今もリアルにガラスの中に残っている恐怖だった。


「ヤダ・・・もうやだよ・・・もう・・・」
耳を塞ぎ、目を閉じ、恐怖が消え去るのを待つしかないガラスに


「なにしてんのよ?」


「!・・・パールちゃん・・・」
ガラスを呼んだのは、幼い少年を連れたパールだった。
「こんなとこでなにしてんのよ?ガラス」
「え・・・だって黒水晶が・・・」
「そうよ、アンタ水晶使いでしょ!

リスタルを守るのが水晶使いの仕事じゃない。こんなとこに隠れている場合?」
パールは自分に呆れている、そう思ったガラスはますます自分が情けなくなっていた。


「でも・・・僕は・・・ガーネ君みたいに戦う勇気なんてないよ。


ビーズだって・・・僕のせいで・・・・

僕は水晶使い・・・失格なんだよ。」
情けなくも涙が止まらないガラス、ますます厭きられてしまった。どこまでも自分はダメなんだ。そんな思いばかりがぐるぐるとまわった。

「黒水晶と戦えなくても、この子を助けることはできるでしょ?

手伝ってよ、ほら。」
パールはガラスに手を差し出す。一緒に連れている少年を運んで欲しいとガラスに頼んだ。
「パールちゃん・・・・

う、うん、わかった。」
ガラスは涙を拭って立ち上がり、少年を抱きかかえるとパールと一緒に避難所に走った。





「あいつらなかなか息合っているじゃん。」
何度も黒水晶へとアタックを続けるチール、ガーネ、エメラのトリオにアメジも感心しながら見守った。
しかし、黒水晶はうんともすんともせず、
ただ、彼らの動きを研究するかのように見ていただけだった。


「まだたりないのか?

チール!!」
ガーネがさらに水晶を込めようとしたとき、


「ギャアアーーー」
暴れたことに満足したように、黒水晶はバサリと羽を広げ空へと舞った。

「あっ、いっちゃうです」
「うわっとーー」
上空へと逃げた黒水晶に攻撃が届かず、空ぶって落ちてくるチール。



「なんだよ・・・あいつは・・・」
アメジ、黒水晶の行動がよくわからなかったが
まるで楽しみは後に取っておこう、そんな表情をしているかのようにも見えた。不気味な赤い目はアメジを見た後、空へとむかった。


「アメジ殿!!黒水晶は?

おおっ、族長?!!」
寺院から出てきたラルドは負傷したジストへと駆け寄る。

とりあえず活躍できたガーネたちは満足げな態度だったが
アメジは前の黒水晶とは明らかに違うものを感じる赤い目の黒水晶に、不気味な気味の悪さを感じていた。

戻る。

第31話

「なんということじゃ、また黒水晶が現れるとは・・・・」
寺院内の一室にて、ラルドは頭を抱えていた。


「どーいうことよ?ラルじい。

黒水晶はあれが最後の生き残りで、あれを倒してすべて滅んだ、って言ったよね?」
腕をずっと組んだままアメジがラルドに問う。


「むう。そのはずじゃったんじゃが。

あのような黒水晶は今まで見たことがない。

今までどこに潜んでおったのか・・・・


まさか、消えた黒水晶の死骸も、あやつが・・・?」

「食べちゃったとか?」
「いや・・・アメジ殿・・・・
共食いなど聞いたことがありませんわ・・・。
しかし、奴が関係しとるのは、間違いないじゃろうな。」

ラルドは真剣な顔で頷いた。
「あのわずかな時間でかなりの被害を受けたようじゃ。

まったく、久々に激しく街中で暴れられてしもうたわ。

アメジ殿がいながら、ここまでの被害を受けてしまうとはの。」

「あっ、あのね、だいたいラルじいがもう黒水晶いないとか言ってたのが悪いんでしょ!!

あたしは百年前からやってきた人間で、よく事情わかってないしさ。

それに、ラルじいのドクロ水晶、壊れちゃったじゃないさ。
なに?このもろさはっ!!」
アメジそう言って、ボロボロになったドクロをラルドの前に突き出す。


「おおっ、なんということじゃ、こんなになってしまうとは。

いや、アメジ殿の水晶についに耐えられなくなってしもうたんかの。
やや、またすぐに新しいのをこさえてあげますからの。」
「徹夜で作ったやつはカンベンね。

またすぐ壊れちゃかなわんし。

丁寧に作ってよ、丁寧に。」
「おお、もちのろんじゃよ。
たっぷりと愛を練りこんで・・・のうv」

だから、愛はいらんつっとるんじゃ。



「しかし、緊急事態じゃのう。

族長が負傷した上に・・・・あの小僧は使い物にならんかったらしいしのう。」
アクアのことを指していた。
「ジストの、代わりになる奴っていないの?」
水晶使いなら、まだたくさんいたはず

「ダメじゃ。

あやつらはまだまだ甘い連中じゃ。
族長クラスの水晶使いは、おらんのが現状じゃ。

勝手に暴走されて、アメジ殿の足を引っ張られてはかなわんじゃろ。」
その時、部屋へと飛び込んできたのは

「オレがいるじゃないっすか!!ラルド様」
ガーネとチールが部屋の中にタイミングを見計らったように飛び込んできた。


「む、貴様ガーネ!」

「オレとチールのコンビネーションで黒水晶なんて倒してみせますよ。
もうオレ半人前じゃないって、あの戦いでわかってくれたでしょう?」
ラルドに強く自分たちの存在をアピールするガーネたち。


「知らん、見とらん。」
きっぱりと言い放つラルド

「えーーー、

でもオレのおかげで、助かったんすよ。
ね、聖乙女さま。」

「なにを言うとる。お前なんぞまだまだ半人前じゃ。
ちょっとの戦闘で自惚れおって。
ワシの許可無しで戦いおって、わかっておるんじゃろうな。」
ギッと強い目でガーネを上から睨みつけるラルドに迫力負けですごすご下がってしまうガーネ、
そんな彼の後ろから、彼を弁護するように現れたのは


「そんなことないです。ガーネはもう一人前です!

ガーネのおかげでピンチは脱したですよ。」
「む、エメラ!

そういえばなぜお前もあの時あそこにおったんじゃ?!
ワシは寺院の中に避難するのを見たはずじゃが。

どういうことじゃ?!」
エメラのこととなるとつい鼻息を荒くしてしまうラルド


「エメラも戦いたかったです。
死んだお姉さまの形見のこのドクロ水晶で、

エメラもちゃんと戦えたです。エメラのこと巫女として認めてほしいです。」
エメラの言葉にワナワナと震えるラルド


「なんじゃと?戦うじゃと?

ダメじゃダメじゃ!!絶対に認めんぞ。」
強い口調で否定するラルドに


「酷いです。おじい様のわからずや

大嫌いですーーー、わーーん」

泣きながらラルドにそのセリフをはき捨てながら部屋を飛び出していったエメラ
溺愛する孫娘からの大嫌い発言にぐらぐらとショックを受けながらも、冷静を保とうとするラルドだったが
自分の目の前のガーネに感情をぶつけてしまうのだった。


「ガーネ、お前がエメラをそそのかしたんか。

今までの恩を仇で返しおって・・・


許さん、ワシは認めんぞ
水晶使いとしても、エメラとの関係も

絶対に認めんわ!!」

「ひ、ひぃーーーーっ」
ゆでだこのように真っ赤に震えるラルドに恐怖を覚え、慌てて部屋を飛び出していったガーネとチール。
フーフーするラルドに呆れながらも落ち着かせようとアメジが言う


「なにもそこまで言わなくってもさ・・・・

実際、あいつらがいてくれて助かったし。
いいんじゃない?戦わせても。」
「しかしのう、アメジ殿。ワシはあやつがかわゆうて仕方ないんじゃよ。」

「でも、ひとりでも戦えるやつは多いほうがいいよ。

あいつは

あの黒水晶は、前のやつとは全然違う。

なんか、きっと、簡単にいける相手じゃない気がする。」
あれはアメジにとって今までで受けたことのない屈辱だった。

アメジの目の前で多くを壊し奪ったそいつは
アメジを挑戦的に睨んでいた。

黒水晶を倒し、調子に乗っていたアメジに突き刺した無力感は、アメジの中で新たな闘志を燃やさせた。



このアメジ様をバカにした罪は重い



百倍にしてかえしてやる!!








「大丈夫たるか?助かるたるか?」
タルは心配げに医者に尋ねた。

負傷したジストは自宅である族長館の自室のベッドにて治療を受けていた。一通り治療が終わり、発とうとする医者に、タルは不安な表情のまま尋ねたのだ。

「ええ、見た目ほど酷い状態ではありませんよ。
二三日安静にしていれば、回復するでしょう。

さすが族長、強い水晶と生命力ですよ。また明日様子見に来ますから、お大事になさってください。」
その一言にタルもやっとほっとし、少し緊張が解けた。
すぐにジストの元にと戻った。

「サファ、もう大丈夫たるよ。
あとはタルがいるから、もう戻って大丈夫たる。」
ジストの側でずっと付き添っていたサファにタルが呼びかけるが、サファは首を振った。


「ええ、でももう少し、側にいたいの・・・・。

なんだか・・・怖くて・・・・」
ベッドの上で深い眠りについたままのジストの手をぎゅっと強く握り締めたまま、サファは不安に耐えるように瞳を閉じた。



その夜、受けた恐怖から、なかなか眠りにつけない人々が多かった。アメジは強い憤りから、眠りにつけそうになかった。
ジストの見舞いにとやってきたアメジをタルが出迎えた。


「あ、アメジ。」
「ジストは?」
「寝てるたる。ケガもすぐによくなるっていってたたる。」
「そ、よかったじゃん。」
タルは何度もこくこくと頷いて、アメジをジストのもとへと案内した。

「あっ、サファ。」
「アメジさん。」

ジストの前にはサファがいた。ずっとジストの看病と気持ちの関係で疲労の溜まった表情だった。あれからずっと、ジストの側につきっきりでいたのだ。

「今日はもう帰って休んだら?ラルじいも心配していたよ。」
アメジがここに来たのは、ジストの見舞いもあったが、
ラルドからサファのことも頼まれていたからだ。

「え、ええ、でも、あともう少し・・・側にいたいんです。

大丈夫だとは聞いていても。不安で、心がつぶれそうになるんです。

ずっと不安だった。ジスト様、いつも皆のためにってムリしていたから。いつか倒れてしまうんじゃないかって・・・怖かったから。


だから、私、離れるのが怖いんです。あの時だって、私が離れなければ・・・・こんなことにならなかったかもしれにないのに。」
自分を思いつめるように言うサファを元気付けようとアメジが言った。


「大丈夫だよ。ジストは絶対に死んだりしないって。
こいつにはリスタルを守るっていう強い想いがあるからさ。
その想いがある限り、きっと倒れたって何度でも立ち上がるよ。

ジストはそういうやつなんだよ。」


「そんな、無責任なこと言わないで!その想いがジスト様にムリをさせているのよ!
おじい様もアメジさんも、みんなみんな無責任よ、すべてこの人に押し付けないで、期待しないで、あっ」
興奮のあまり立ち上がったサファは疲労もたたっておもわずよろけ、アメジの胸へと倒れこんだ。

「ちょっと、大丈夫?・・・・疲れて眠っちゃってるみたいだな。」
そして心配げに自分を見上げるタルに気づくと


「ジストならマジで大丈夫だよ。
こいつはその想いがあるかぎり、絶対立ち上がる。

あたしにはわかるよ。
あたしも、楽な人生のためなら、なんだってできるし。
死ねないからね。

だからこそもあいつを・・・・


あいつを必ずぶったおしてみせるよ。」
フッと軽く笑みをタルに溢したあと、サファと共にジスト宅をあとにした。


「フッ、アメジ・・・」
ベッドの上から零れたその声にすぐさま反応したタルは、主人の下へと走った。トンっと軽くジャンプし、ジストの耳元へとやってきた。
「ジスト!気づいたたるか。」
自分に顔を傾けて、笑顔を向けるジストを見て溜まっていた不安感が吐き出されるようにタルはボロボロと泣いた。

「よかったる。」
タルの涙がとめどなく零れ、ジストの枕元はぐしょぐしょに湿った。

「アメジは、不思議な存在だな・・・・

会ってまだ間もないが・・・不思議と感じあえるものがある・・・


あの背中には・・・すべてを預けられる、そんな気がするのは・・・なぜなのだろうな。」
いつも自分が守ってきた、このリスタルを人々を
いつも自分が前にいた、そうじゃなきゃいけなかった
族長としてみなを引っ張っていく・・・それが当たり前だった。

アメジと出会い、共に戦い、気づけば自分の前に誰かがいるのに気づいた、その頼れるべき、不思議な存在に・・・


あの背中にならすべてを預けられる・・・・不思議な気持ちに・・・


戻る。

第32話

「ジスト、もう寝るたるよ。」
タルはジストの肩元のふとんをかけなおす。

「そうだな。あまりみなに心配かけるのもよくないからな。

ありがとう、タル。おやすみ。」
「おやすみたる。」
ジストが眠りについたのを確認すると、タルはその枕元に丸くなり体を沈めた。
ジストがこんなことになってしまったが、またジストと共に戦うことができる。タルの中には四年前のあの時の想いが今もまだ鮮明に残っている。




タルの両親ラピスとラズリは族長の家に仕える聖獣であった。
父であるラピスは族長に仕える聖獣であり、母のラズリはその息子ジストに仕える聖獣であった。
ラピスは百年以上前に黒水晶を絶滅までに追い込んだ英雄とも称えられるプラチナの末裔であった。
タル自身もそのことを誇りに思っていた。
幼い頃から父から聖獣として鍛えられてきたタル。
ゆえに友達と遊んだりなどという経験はなかったが、早く一人前になりたかったタルはひたすら修業にはげんだ。

父や母についていき、実際に間近で黒水晶との戦いを見学し、その姿に憧れていた。
そんなタルは他の聖獣から浮いた存在であった。
年の近い聖獣たちからはからかわれ、そのたびに気の強いタルは
言われた分はやり返すとばかりに、ケンカで相手を黙らせてはますます孤立していくのだった。

そんなタルを気づかい、いつも優しく声をかけてくれたのがジストだった。ジストにとってもタルは自分のパートナーの子供であり、家族のような存在でもあった。
いつも、後ろから戦う父や母を見ていて
ジストと共に戦う母ラズリ、そこに自分の姿があったなら・・・


ジストの隣に立つのが自分だったなら・・・ジストが呼んでくれるのが自分の名であったなら・・・と思うようになった。


だからこそタルは強くなろうと思った、だれよりもジストに見て欲しいと思った。
いつかはジストの聖獣になることを夢見た。



そして事件は起こった。
黒水晶との戦いでラズリが命を落としたのだ。
マリンを産んだばかりの身でムリをしたのがたたったのかもしれない。
タルの目の前で起こった悲劇だった。
ジストは何度もタルに謝った。自分のせいだと責めるジストにタルは首を振った。
聖獣として生まれた時から戦いで命を落とす覚悟はできているものだと、そう教え込まれていたタルは母の死を力強く受け止めていた。大きく力強いその目からは悲しみの涙は一粒もこぼれず、逆にジストを慰めたのだった。


そしてタルはまった・・・ずっと待ち望んだ、ジストからの言葉を・・・


ラズリの死から数日、族長やラルドから強く言われ、ジストは新たな聖獣を探すこととなった。
ラルドの声によって多くの聖獣たちがジストの前に集められたが、ジストの気持ちは決まっていた。
しかし、ジストはラズリの死に責任を感じる後ろめたさがあり、その気持ちをだしていいものかと迷いがあった。
そんな中、その場に現れたタルがそんな迷いを晴らしてくれた。


この中にジストのパートナーはいないたる!


そして強い目でジストを見、言葉を待った・・・・
タルがずっと待ち望んだ言葉を・・・・



タル。私のパートナーになってほしい。


タルは頷いた、強く強く頷き、ジストの聖獣として、母に恥じない聖獣になることを強く心に誓ったのだった。



夢の中で、タルは母に誓った


タルはもっと強くなるたる。


ジストを守るたる。


ジストと共に黒水晶を倒して
このリスタルを守るたる。

天国のパパとママがタルのこと誇れるように・・・きっとなるたるよ。






「ハァーー、もうたまったもんじゃねーよ。」
闇夜の中かすかに灯りの灯る中央広場を見下ろしながら、ガーネはため息をついた。ガーネの頭の上でぐらぐらゆれるチールもそうだそうだと頷いた。

「ラルド様はオレがどんなに頑張っても認めてくんねーんだよ?
オレがナンバーワンだってことはもう明らかなのにさ。
それに族長が怪我して戦えなかったときに、オレが代わりに黒水晶と戦ったんだぜ?
褒めてもらってもいいくらいなのにさー。」
ラルドに対する愚痴ばかりこぼしていた。

「ガーネ君、ほんとに黒水晶と戦ってたんだね。」
ガーネの後ろで話を聞いていたのはガラス

「そうだよ。オレの大活躍見てなかったのか。残念。」
「うん・・・僕は、いっぱいいっぱいだったし。

すごいなガーネ君の行動力は。」

「まあ、オレには夢があるしな。

オレは父さんみたいな水晶使い目指しているからさ。

オレは父さんの顔も名前も知らないけど・・・オレが生まれる前に亡くなったらしいし。
オレは父さんのことすごく知りたかったけど、母さんは名前も教えてくれなかったからな。

けど、ひとつだけ教えてくれたのは
父さんはリスタル一の水晶使いだったってことなんだ。
オレは父さんのことそれしか知らないけど
それが誇りだし、オレの目標なんだよ。」
そう言ってガーネは夜空の星を見上げた。

「そっか、でもリスタル一の水晶使いってことはすごく有名な人だったてことでしょ?
それなら、ラルド様に聞けば名前だってわかるんじゃないかな?」
それにガーネは激しく首を振った

「ダメダメ、オレ昔聞いたことあるけど、知らん知るわけないわ!って、なんで知らないんだろーな。ラルド様自分の弟子の名前知らないってこと、ないだろーし。いくらたくさんいたとしても、調べたらわかるんじゃないかって思うけど。」
「ラルドのじいさんいじわるなんだよ。
きっとガーネのお父さんすごすぎて、ラルドのじいさん立場無いから教えたくないんだよ。
それでガーネやオイラにいじわるするんだって。」
ガーネの上のチールが言う

「そうだよな。
リスタル一ってみんなに言われていたら、先代族長の立場もないしな。
そうだうんうん。」
ガーネとチールはポジティブに励ましあった。


「そうだ、パールも怪我なかったみたいだな。」
「うん、僕と一緒に避難したんだ。」
「そっかよかったな。
ま、これもオレの活躍があったおかげだけどな。」
「そうそう。」
きっとガーネとチールはなにがあってもくじけたりしないんだろうな、と思うガラスだった。




サファを送り届けたあとアメジは寝付けないこともあって広場近くを歩いていた。
黒水晶によって破壊された建物はまだそのままで、生々しく事件を語っていた。

ごろごろと転がる石に足を取られないように、道を遮る邪魔な障害物を足で蹴飛ばしながら歩いた。
そのアメジの前に現れた人影に気づき足を止めた。


「アクア」
闇の中から姿を現したのはアクアだった。

こんな時間になにを?と一瞬思ったが
夜でないと動き回れないであろうと思われるアクアなので、べつにおかしなことではないな、と思った。
なにしてんだ?お前とアメジはよっと手を挙げた。


「あれからどうしてるか気になっていたんだけど、
いろいろ慌しかったしね。ジストも怪我しちゃったしさ。」
ジストの見舞い?とアメジが訊ねるとアクアは首を振った。


「お前に・・・会いにいこうと思って・・・」
「へ?あたしに?

アンタから用って何事よ?珍しい。」
いつもアメジから呼び出し、アメジの都合に振り回されていたアクアだったので、逆は珍しかった。


「今日のこと・・・
俺はなにもできなかった。」

「もしかして、それを気にしてたの?

まあいきなりあんなドギツイのが現れたらムリないでしょ。
あたしだって体がかなり拒否反応しめしたし。

アンタ体質的にああいうのに敏感なんじゃないの?
ま、覚悟決めて、慣れれば大丈夫だろ。
あんま思いつめるなよ。またマリンちゃん心配するんだから。」

「・・・・
見そこなったりしてないのか?」

「は?」

「俺はあの後、自分が許せなかった。
またおびえて、なにもできない、


また弱い存在に戻るのが・・・・


そして、アメジ
お前に厭きられてしまうんじゃないかということが。」


なに?またこいつ思いつめているんじゃ・・・?

アメジが不安げにアクアの顔を覗きこむが


「俺は
誰より、お前に認めてもらいたい、見てもらいたい。

女なんて生物に興味もないし知りたくもない。
他人と関わりを持ちたいなど、思うこともなかった。

初めて会ったときは、自分勝手で暴力的で
マリンを俺から奪おうとして、どこまでもムカツク存在で・・」


なんだ?あたしはバカにされてるのかケンカか?コレ


「だけど、初めて俺を認めてくれた。

それは、一生経験することのないことだと思っていたから・・・


だからこそ、怖くなった。二度と認めてもらえなくなることが。

ずっとこの感情に殺されそうになった。
ずっと考えていた、これは親父に対して感じていた恐怖と一緒だったのかと。」


「あ、あのね。アンタなにが言いたいんだよ?
あたしはアンタの親父に似てるとか?なにケンカ?」
さっきからわけのわからないことを言っているアクアが理解できず、アメジ半ギレになる。


「そ、そうじゃない・・・違うと気づいた。


つまり


好きなんだ、アメジ・・お前のことが。」



「え・・・はいっ?!」

言葉を伝えることでいっぱいいっぱいだったアクアは一瞬目をそむけたが、アメジに認めてもらいたいという強い想いが、アメジの目を見る勇気をくれた。
アメジにはアクアの言うことが一瞬よく理解できなかったが


「だからこそ、俺は誓う、もうあいつから逃げたりしない。


お前に見ていてほしい。


それだけ、伝えたかった・・・」




「え、ちょ・・アクア?」
言いたいことだけいってあいつ行きやがった・・・・


なんなんだよ?一体・・・


アクアの言葉がアメジの脳内をぐるぐるする中、アメジは転がった石に足を取られた。



アメジは死ぬほど恋愛体質じゃなかった・・・


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