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第33話
「黒水晶だーーー!!」
その日は朝から、あの巨大な黒い悪魔はリスタルの街へとやってきた。
だが特に街で暴れるわけでもなく、赤い小さな目は何かを探すように上空を飛び回っていた。
「たく、こんな時間から、元気なこって!
今度こそ、このアメジ様の力思い知らせてやるよ。」
アメジの手にはラルドの手によって新たに作られたドクロ水晶があった。
それを挑戦的に黒水晶へと高く掲げた。
「あっ、黒水晶・・・。」
アメジの後ろから現れたのはサファ。
慌ててドクロ水晶を取り出そうとするサファに気づいたアメジは
「いいよ、サファ。アンタはジストのとこ行ってな。
全然戦いに気持ちが向いてないみたいだし。
それに、アンタがいればジストだって回復も早いだろうしさ。」
ジストのとこへ行けと合図したアメジに頷きながらもサファは心配げだった。
「ふふ、大丈夫です。サファ姉さまの分までエメラがんばるです。
さ、いくです。アメジさま♪」
アメジの横から現れたエメラに言われ、サファは「ごめんね。お願いします。」と言ってジストの元へと向かった。
「よし、いくぜエメラ、あの憎いやろうにドカンと思い知らせてやろうぜ。」
「はいです。」
アメジはエメラをつれて、空を舞う黒水晶を追った。
黒水晶はアメジたちを確認すると、高度を低くし、建物の屋根を蹴飛ばしながら翔り、まるで遊んでいるようだった。
アメジたちの行く手を遮るように崩れ落ちるそれを、なんとかかわしつつ、黒水晶を追う。
黒水晶はアメジたちを誘うように、向かった先は、アメジたちが何度か戦ってきたあの場所だった。
街の外へ出る場所でアクアとマリンが
アメジたちの後ろからガーネとチールが駆けつけた。
「アクア、マリンちゃん・・」
「いくでちゅ。おねえたんのぶんもたたかうでちゅ。」
小さな体でマリンが吼えた。
「大丈夫だ。戦える・・・行こう。」
静かに闘志を燃やすアクアを感じ、アメジは頷いた。
「ガーネ、がんばるです。」
合流したガーネにエメラが声をかける。
「もちろんだって、今度こそラルド様に認めてもらうぞ。」
ガーネの頭上でそうだそうだと頷くチールはさり気にマリンにウインクを送ったが、気づいてもらえずがくりとした。
黒水晶は水晶神殿の入り口前から街から出てきたアメジ達を見下ろしていた。
「黒水晶は?!」
「あそこだ!」
黒水晶は、バサリと大きな両翼を開き、アメジたち目掛けて降りてきた。
「くる。」
アメジはドクロから光の線を描き始める。
エメラもハリキリながら、ドクロを手に光を描き始めた。
ラルドに認めてもらいたいガーネとマリンにいいとこ見せたいチールはさらにハリキリ、ガーネは水晶を集め、チールへと放つ。
黒水晶はアメジたちに向かってきたかと思うと、巨大な鋭い爪で地面へと向かい、大地に傷を与え、激しい砂煙を発生させた。
「うわっ、なっ。
よく見えな・・・」
アメジたちの視界はいきなり奪われ、走りながら線を描いていたアメジの足は止まった。
まだ完全でなかった光の道を駆けてきたチールを見つけ、アメジがストップをかけたが遅かった。
「うぇっ?な・・」
光の道を外れたチールの先には、不気味に光る赤い目。
黒水晶のヘディングによってチールはぶっ飛ばされ、地面をごろごろ転がって、さらに砂煙を激しくさせた。
「チール!!」
チールへと駆け寄るガーネに、チールは大丈夫と、頭を持ち上げアピールした。多少の打撲はあったがたいした怪我はなかったようだ。
「だめです。目に砂が・・・」
砂煙にやられ、目をこするエメラは線が描けなくなった。
「アメジさん!ちゃんと描いてくださいよ!」
再びチールへと水晶を込めながらガーネが叫んだ。
「るっさい、こんな状況であいつの居所がわかんないんだよ!」
「そんなの気合でなんとかっ・・わーーー!!!」
砂煙の中、いきなり目の前に飛び込んできた巨大な飛行生物にぶっ飛ばされ、地面を削るように転がりながら土壁にとガーネはぶつかった。
「ガーネ!! ?!うわっ」
ガーネのもとへと走るチールは勝手に宙に浮いた。
黒水晶に捕まり、空高く連れて行かれる。
「ひ、ひぃーーーー。なんでオイラがーーーー!!」
黒水晶に捕まったチールはジタバタしていた。
視界の悪さに下手に動けないアメジはそれがはれるのを暫く待っていた。
エメラは目の痛みに座り込んでおり、チールが上空で黒水晶と一緒などと知らなかった。
「なにが・・あったの?
そうだ、アクアとマリンちゃんは?
まさか、また?」
動きを感じられなかったアクアとマリンが気になってアメジはふたりを呼んだ。
「アメジちゃま、こっちでちゅ。」
その声ははるか後方からした。
アメジは目を細めながら、砂煙の中進んだ。
砂煙がはれたと思うと、大きな岩陰からマリンがちょこんと現れた。
「マリンちゃん。」
マリンの居場所を確認するとアメジも岩陰の後ろへと回った。
そこにはマリンと一緒に身をかがめていたアクアもいた。
「ここってラルじいの定位置だよね。
アクア、アンタやっぱり・・・」
「違う、いきなり近づいたら、気を失うかもしれない。
だから距離をおいただけだ。
逃げたわけじゃないからな。
俺は、もう逃げないと誓ったからな。」
あの夜、アメジに誓ったアクアの言葉を思い出した。
決意に満ちた力強い金の瞳はウソではないことを証明していた。
だが、巨大すぎる黒水晶の水晶はそれに敏感なアクアにはまだやはりきつかった。アメジの前で強がりながらも、かすかに震えている指先でわかった。
アメジはそれに気づきながらも、気づかぬふりでアクアの言葉に頷いた。
アメジが身をかすかに起こすと、砂煙がだいぶはれているのに気づいた。
「よし、大丈夫、今度はいける。
いけるだろ?アクア。」
「いや、待て。
奴の水晶が、だんだん遠ざかっていく。
しばらくは、もどってこないはずだ。」
「へ?
なにそれ。アンタそんなことわかるの?黒水晶とつながっているのか?アンタの水晶は。」
「・・・・・
よくわからん、俺も初めてだ。でも、入ってくるんだ。あいつの水晶が。
だからあの時も、いきなり入ってきて、狂いそうになったが、
マリンが・・・いてくれたから。」
「いってーー・・・・、はっ、黒水晶?!
チール?」
土壁にぶつかったガーネはむくりと起き上がり、周囲を見渡したが、黒水晶とチールがいないのに気づいた。
「おい、エメラ!チールは?!」
エメラのもとへと走り、チールの消息を確かめようとするが
「え?・・・・知らないです。どうしたですか?」
「チール・・・・いない?
うそだろ?そんなまさか、黒水晶に食われ・・・」
真っ青になり首をブンブン振るガーネ。
チールは、自分の知らない間にお空の星になってしまったのか・・・
「チールならくろついちょうにたかいとこにつれてかれたでちゅ。」
「え?」
一部始終を見ていたマリンはチールの行方をガーネに教えた。
どうやらチールは黒水晶に運ばれ、水晶神殿の近くに落とされたらしい。
それを聞いて、ガーネはチールを探しに走った。
「いったいなんなんだよ?あの黒水晶は
あたしら完全に遊ばれている気がするんだが。」
チールにしても、どうやら黒水晶に遊ばれていたように映る。
振り回されているようで不思議だった。
「あの黒水晶の中に、前の黒水晶と同じ水晶を感じた。」
「え?アクアそれ、どういうことよ?」
「まだ・・・・よくわからないが・・・・
もしかしたら・・・あいつは・・・・」
黒水晶の水晶を強く感じることのできるアクアは、あの黒水晶の真実に触れようとしていた。
戻る。
第34話
「また今日もひどくやられたな・・・。」
黒水晶によって新たに破壊された建物を見上げながらジストはつぶやいた。
無事回復し、再び黒水晶との戦いに日々を費やすことになった。
あの黒水晶は今までジストが戦い、倒してきた黒水晶とは違うと感じていた。
今日も気まぐれに街へとやって来て、好き勝手暴れていった。
どうやら、ある時間になると、山脈のむこうへと戻っていく習性があるらしいが、今までのものと比べて行動が読みづらかった。
それ以上に気になったのが、以前よりも巨大さを感じ、さらに水晶も不気味に大きくなっているように感じた。
タルやマリンやチールが何度も攻撃をしても、少しもダメージを受けていないように感じられた。その攻撃は、黒水晶の動きをわずかに鈍らせるくらいでしかなかった。
日々不気味さを増す、黒水晶に不安を抱く者は増え続け、
ジストの元で毎晩のように集会が行われた。
特に黒水晶に家族を奪われた者は強く訴えるのだった。
早くあのバケモノを殺してくれ、と。
その夜、ジスト宅を訪れた影があった。
「おっ、あたしが一番乗りか?
よっ、ジスト。今日の戦いっぷりからしてもう全快みたいだな。」
「アメジ?どうしたのだ?こんな時間に・・・
それにそれは・・・」
アメジは両手にたくさんの菓子を抱えてやってきた。
「へ?なにって。ここでするってラルじいに聞いたけど。
ジスト全快のお祝い。」
「え?」
「おお、アメジ殿。もう来ておられたか。
さて、始めるとするかのう。」
アメジの後から、酒などを抱えたラルドがやってきた。
サファとエメラも一緒だった。
「ラルド様、いったいなんですか?!」
わけのわからないジストにきっぱりとラルドが言う。
「じゃからアンタの祝じゃよ。まったく。
でかい祭りはあれじゃから、身内だけでのこじんまりとしたやつをやるかということになっての。
ほれ、あがるぞ。」
ラルドたちはジスト宅へとずいずいと上がっていった。
「ラルド様、今は一刻も早く、黒水晶を倒す方法を探さねばならない時です。
祭りなど、しかも私の祝など・・・
私の油断が招いた怪我だったんです。だから、こういうのは・・・」
「まあ少し気を楽にして考えたほうが、ええかもしれんぞ。
ささ、アンタも飲みなされ。」
ジストを席に着かせ、酒をついでラルドは勧める。
「そうよ、ジスト様、あんまりひとりで思いつめないで。
みんなで力をあわせれば、きっといい解決法も浮かびますわ。」
サファはジストの隣に座って、持参した手料理を勧めた。
「あれ?ところでタルは?」
菓子を頬張りながらアメジはタルを探す。
「タルなら、もう寝室で眠っているはずだが。」
「うぷぷ、キモイ寝顔でも見てくるかー♪」
アメジはにやにやとタルのもとへと向かった。
「ガーネったら、遅いですー。エメラ呼んでくるです。」
「こりゃエメラ、ガーネの小僧なんぞほおっておけ。
あいつは呼んどらん。」
少し酔いが回ったラルドがエメラを呼び止める。
「もう、おじい様ったら
ガーネだって家族なんだから、呼んであげたっていいじゃない。」
「そうです。エメラいってくるです。」
エメラはガーネを呼びに外へと出て行った。
「こりゃ、ワシは認めんぞーー。エメラはワシのもんじゃー。」
「やべ、そろそろ時間だ。
なあパール、早く行こうぜ。」
夜の街でガーネはパールともめていた。
「だからいけないっていってるでしょ!
だいたい身内だけの祭りなんでしょ?!
あたし一人場違いじゃない。行かないってば。」
「そんな、せっかくのチャンスだろ。
族長といろいろ話せるかもしれないぜ。」
ガーネがしつこく誘ってもパールは首を縦には振らなかった。
「・・だから・・それは・・・
もう、いいから早く行きなさいよ!!」
「あっ、ガーネ、なにしてるですか!もう。」
ガーネを見つけたエメラが走ってきた。
「こんなとこでパールさんとなにしてるですか?」
「別になんでもないわよ、早くいけば?」
パールはガーネたちに背を向けると闇の中へと消えていった。
「さ、いくですよ。」
「たく、せっかく誘ってやったのにな。」
ふたりが消えていくのを確認しながらパールはつぶやいた。
「ほんと・・・バカ。」
「おーい、タル。・・・・おっ、マジで寝てるよ。」
ベッドの上で丸まって寝ているタルを確認するとアメジは怪しげに近づいた。
アメジが至近距離まで近づき、ヒゲがゆれるように、フーと息を吹きかけたりして、寝ているタルをからかっていた。
「ん・・・ぴく」
タルがぴくりと動いたので、起きるのか?と警戒するアメジ
「タル・・・守るたる。
ジスト・・・大好きたる・・・よ・・・・
・・・・・・・・・」
「!!?? タル?
・・・・寝言・・・か?」
再びすぴーという寝息音にタルの寝言だと確認する。
こいつは可愛げないモチだけど、立派に聖獣してるんだな。
夢の中でもジストのこと考えてんのか、たく。
好き・・か。
アメジはアクアに言われたことを思い出していた。
たしかに「好き」だと言われた。
ただそれを愛とか恋の好きなのか、とはまだ確認してなかったのだが。
アメジ自身アクアにそういう感情は抱いてないし、今まで誰かを想い想われるということはなかった。
モンドのことも恋愛感情というよりも友情に近いものだったし、アメジ自身楽して生きるのにそんな感情は不要だと思っていたからだ。
そして、百年前は「ケツデカ」だとバカにされてばかりで、モテたことなど一度としてなかったのだ。
アメジは恋愛体質ではこれっぽっちもなかった。
きっとこれからさきも自分が恋などしないであろうそう思うのだったが。
アクアのやつマジであたしに惚れてんのかな?
けどあいつといて楽できそうにないしなー。
でもマリンちゃんつきは、でへ、おいしいかも。
タルを起こさぬようにと、アメジは部屋を出た。
「私たち、もう失礼しますわ。おじい様も早く戻られてくださいね。ジスト様も早くお休みになってくださいね。
今日は、ありがとうございました。」
サファとガーネとエメラはジスト宅を出ようとしていた。
「いや、私のほうこそ、ありがとう。
悪いな、気を使わせて。」
「いえ、じゃおやすみなさい。」
「ジスト族長、おやすみなさいです。」
「んじゃ、失礼しまっす。」
三人を見送ったあと、ジストはラルドに声をかけられた。
「族長、けっきょくサファとの式はダメになってしもうたが。
どうするんじゃ?」
「黒水晶が現れるとは思いませんでした。
儀式も中断させられましたし・・・・
サファとも話し合ったのですが、黒水晶を倒して一段落してからということなったのですが。」
ジストの話を聞きながら、ラルドは赤らんだ顔を手でがしがしとしながら
「ワシはあやつがフビンでならんわ。
アンタの前ではああして笑っておるが。
二度も結婚延期されて、平気でおると思うんか?!」
「ラルド様?」
興奮気味のラルドに少し引くジスト
そのジストの腕をつかんでさらに興奮するラルド
「アンタがあんなことになってよう思い知ったわ。
ワシも怖かったわ。あやつをこれ以上不幸せにさせとうないからの。
族長、早くサファのやつを幸せにしてやってくれ。」
「ラルド様・・・
私も、できるだけサファになにかしてやりたいと思っています。
ですが、今は黒水晶を・・・」
「いいかげんにせんか!ジスト!!」
「??!!」
いきなりブチキレたラルドにジストも戸惑った。
「あんたがそうやって族長でいることが、あやつを傷つけることでもあるんじゃと気づかんのか?
黒水晶、たしかにやつは一番片付けねばならん問題じゃ。
式も、事が済んでからでも、かまわんじゃろ。
じゃが、先日のこともある。アンタもいつ命を落とすかわからん。
先に子供だけでもこさえておくんじゃ。
アンタのためにも、サファのためにもな。
それもアンタの大事な使命じゃ。忘れんことじゃ。」
ラルドはそういうとジスト宅を出、寺院へと戻った。
「使命・・・か。」
ジストがラルドを見送ると、背後にだれかを感じ振り向いた。
「アメジ?!・・まだいたのか。」
「タルの寝顔がおもしろくって見ていたら・・・
帰るタイミング間違ったかな?」
ラルドとのやりとりを聞いていたアメジは気まずそうにそろりと出て行こうとする。
「使命か、私は族長として、民を守り、黒水晶と戦う。
そのために命を落としても、みなを救えるのならかまわないと思ってきた。
だが、ラルド様やサファが求めているのは、少し違うみたいだな。」
「アンタはさ、族長としてはすごい立派だと思うよ。
たしかに皆を守るのが族長なんだろうけどさ。
でも、ジストとして、身内を、大事な人のことだけを考えたっていいんじゃないの?
もしかしたら、・・・
今だからこそ、一番大事なものって、見えてきたりするのかも。
(なんかまた無責任なこと言ってるか?)」
アメジは去りながらジストに言った。
こーゆーシリアスな話って苦手なんだけど、ね。
「そう、かもしれないな。
アメジは、大事な人はいるのか?」
ジストの問いかけにアメジ少し立ち止まって考えた。
あたしの大事な人・・・・・
アメジの脳裏に真っ先に浮かんだのは・・・・
「もう、会えない人だけどね。
だからちょっと後悔してるかも。
今の聖乙女なあたしなら、少しはいい顔して会える気がするけどね。」
「アメジ・・・・そうか。」
「じゃ、あたしも帰るわ。お休みジスト。
明日こそ、黒水晶のやつギャフンと言わせてやろうぜ。」
「ああ、そうだな、お休みアメジ。」
ジスト宅を出て、アメジはココからは肉眼で見えないはるか上方の水晶神殿を見た。
「そうだよな。大事な物って、無いと気づいてから、その存在に気づくんだよな。」
百年前の遠い存在・・・・もしもう一度会えるなら、アメジは伝えたい言葉があった。
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