恋愛テロリスト

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  第八幕 リンネとテン 5  

テンを追いかけてBエリアへとやってきたあたし。
そのテンを追いかけているキョウ。
さらに逃げてきたショウを追いかけてきたらしいキン。
あっちこっちで飛び散る火花。一触即発といった空気。
ええい、一体何事だというんだ?!
それより先に

「ちょっ、重いし邪魔だし、早くどけてよショウ!」
あたしにぶつかるように吹っ飛んできたショウの下敷きのままのあたしが叫ぶ。

「く、くそっ」
「あたしがくそって叫びたいわ!コラッ」

うぐぐ、と腕を持ち上げてショウの背中を押し上げるが、その時激しいビリビリが!
そうとも肌が感じるあのビリビリ感ですよ!それはもう、生命のピンチ☆

「とどめじゃ」
ショウへと駆け寄るマッチョ男、なに容赦なくとどめの一撃を浴びせようとしているんですか?
激しい空気の流れを感じている。殺される巻き添えされるこのまま……死?
その一文字がどかーんと脳内に浮かび上がりそうになった。

「ショウさま!」
その声と同時に銃声がした。弾はショウとキンの間をかすめていった。
あ、聴き覚えがあるこの声は、Bエリアでの悪夢といっていいこの声は、もう会いたくもなかったその存在は。

「なんじゃ?邪魔するつもりか?レイト」
キンがじろりと睨むその先に、銃を構えて立つのはBエリア領主館にいたキチガイ危険男レイト。

「お前も雷門の人間じゃろうが。当主の命は絶対と知っとるはずじゃがな」

レイトを睨むキンにしり込みするレイト、人目でわかる弱肉強食の世界。
あああ、殺されるよ、そんな予感がするよ。なんかやな奴だけどちょっとレイトに同情しそう。
「くっ…」
わずかに震える体を押さえつけるようにレイトはキッと表情を強め持ち直す。

「あなた様と戦うつもりはありません……次期当主に逆らうなど私には……。
ですが、ショウさまをお守りするのも私の使命」

ああなんてけなげな・・・レイトが女の子なら純粋に応援してやりたい。

「ちょっと、なに?今の。初耳なんだけど」
あ、体が軽くなったと思ったら、ショウが体を起こしていた。やっと解放された、と思ったら。
鋭い殺意があたしへと
「桃山リンネ! 貴様よくもショウさまの麗しきお体に触りやがったな」
は?!
今度はギャンという効果音とともにあたしに銃口を向けるレイト。なにこの豹変っぷりは。
つーか、こいつやっぱキモすぎるわ!!

「殺す!」
すさまじい殺意。もうなんなんだ。

「あたしはテンと戦いに来たっていうのに、あんたなんかの相手しているヒマないのよ」

脱兎のごとくレイトの殺意から逃げる。
テンとキョウの元にあたしは駆け寄る。が、とても近付ける雰囲気じゃない。
すさまじい闘気があたしの動きを鈍らせる。

睨み合うように立つテンとキョウ。テンを囲むように雷門の連中。
目に見えない電気みたいなのがその空間で飛び交っていそうで、その中に飛び込めば確実に被害を受けそうな気がするが。

「ここであなたを捕らえます。鬼が島に歯向かう者に罰を」

キョウの合図で雷門軍団が次々にテンに向かって発砲。でもテンは四方八方から飛んでくる銃弾をかわす。
もう人間業じゃないよね。素早い人間離れした動きで、手持ちの武器で、厚いジャケットで。
いくつかはテンの体をかすめていたけど、テンの動きを鈍らせるには至らない。
あたしなら蚊に刺された一瞬のちくっとした痛みにさえ動きが止まりそうだけど、テンはナイフで腕をぐさりとされたくらいじゃ瞬間も止まってはくれないのかも。
テンはかわしながらもう片方の手で短銃を発射して、雷門の連中を返り討ちにしていく。

やっぱり雷門の連中じゃテンを止められっこないのよ。キョウならわかってそうな気もするけど。
次々に配下がやられていくありさまで状態不利のはずのキョウ、でもキョウの表情は冷静なまま、眉一つ動いていないぞ。

「いいですよ、そのまま」

キョウの合図で次々と突進する雷門軍団。個々ではテンの相手にすらならないけど、数の多さで押す作戦か?

「フン、ごちゃごちゃとめんどくさい連中め。一度に始末してやるか」

雷門の攻撃をはじきながら、少しずつテンは後方へ飛び去る。
え、一度に始末ってひょっとして……爆弾で?
そっかテンは爆発物好きだったし、またしても爆撃にまみれることになるのか?!
ここにいたらこっちも巻き添えをくらっちゃう。あたしはキョウのそばへと駆け寄る。

「テンの奴ハデに爆発させるつもりだよ。キョウここは退いたほうがいいんじゃ」
「わかってますよ。だからこそ、あの場所へ追い詰めたんです」
「え?」

テンの向かった先へと振り返る。その先にあったのは寂れた建物に挟まれるようにして立つ真四角の小さなショップのような建物。大きく口を開けたように立つ一風変わったその前へと立ったテンが爆発物を目の前の雷門軍団へと放った。

「うわっ、ちょっ」

音が破裂する。あの世みたいな真っ白な世界。
爆風で体が浮き上がった。

「う、たた」
起き上がると五メートルほど前方にキョウが立っていたのが見えたから、思っていたほどあたしはふっとばされてなかったことに気づく。
「今なにが起こって……ん、きゃあ!」

バウッていう空気がふっとんでくるような音が次に襲い掛かってきた。それはさきほどショウを追いかけていたDエリアの領主キンの撃だった。

「ちょこまかと逃げるばっかが能じゃのう」
「アンタとまともにやりあうほど、ボクもバカじゃないし」

パラパラとあたしの頭上からなんか落ちていると思ったら、その屋根の上にキンから逃亡しているショウがいた。

「バカと違うなら大人しくしとくんじゃな。一撃でしとめてやると言っとるのに」

ズン、とあたしのまん前に立って、あたしではなく、あたしの頭上にいるショウを見たまま拳をかまえるキン。

「ちょっちょっと待って。あたし挟んでなにやってんだー」
「こいつが金門の本拠地に乗り込んだらしゅうてのぅ。今雷門と金門は微妙な状態にあるというのに、関係悪化は伯父上は望んどらんからな。身内とはいえ問題起こす奴を放置するわけにはいかん。
ワシは雷蔵伯父上の命でこのバカをしとめに来たんじゃ」

え、金門本拠地殴りこみってそれついこないだの、あのこと?

「そんなわけじゃ、覚悟せぇよショウ」

身内だからって手加減も贔屓もしないってこと?
血を分けた者同士でも本気でやりあわなきゃいけないなんて、厳しすぎる雷門の掟……

「というのは建前で、ただたんに暴れたいだけじゃないの?」

キンの場合。だってなんか嬉しそうに笑み浮かべちゃってますもの、なにこのサディスト……。
つーか巻き込まれる。すすすと横にかに歩きでよけようとした時、また眩しい光と爆発の音がした。
それはあの小さなショップみたいな建物からで、あそこにいたテンは一体どうなったんだろ?
一瞬視界を奪われて、少しして視界が戻った時、大勢いる雷門軍団の間から見たそのさきには、白い煙を吐くその建物しかなかった。

「テンはどこに?」
「木っ端微塵に吹き飛びましたか?」
ちょっなに怖い発言してくれてるんですかキョウ!?

テンいない?まさかほんとにあの爆発で吹き飛ばされたの?どうやらあの建物になにか仕掛けをほどこしていたらしい。遠目から煙の晴れた後になにかぶっそうな金属類が見えた気がした。

「む、なんじゃ一体…」
爆発に気をとられたキンに、今のうちにとショウが逃げ出そうとする。
「! うわっ」
「邪魔だ」
空のほうで、きらりと光るものが走った。
空中でそのなにかにぶつかったショウは地面へと落下する。

「テン!」
二階建ての屋根の上に立つテン。爆発の中、姿を見失っていたテンがそこに立っていた。

「そこまでじゃ」
落下するショウを下で待ち受けていたキンが天へと突き上げる拳で殴りつける。
キンの太い拳がショウの体の中心を折るようにめりこんで、ショウのきゃしゃな体はくの字になった。
あたしの体には、その衝撃で飛び散った体液が、ぴぴっと付着した。
固まるあたしと、「ショウさまーー」というレイトの悲痛な声の中、すでに気を失ったように見えるショウをそのまま地面に叩きつけて、キンは再び殴りつける。
あたしはショウがかわいそうだとか、助けなきゃなんて義理もないけど、でもこれは……
残酷すぎて、見てられない。
たまらずキンへと銃口を向けたレイトは、だけどすぐに周囲の雷門軍団に取り押さえられてがっくりとうな垂れていた。
肉を打ち付ける鈍い音、気持ち悪い、この感覚。また、またあの時みたいに…なっちゃいそうな…
あの時?

「これで終いにするか」
キンがそう言って、ショウを体を持ち上げて自分と同じくらいの高さに持ってきた。
ショウはなんとか人間の姿を保っているけど、顔面真っ赤で赤いものが衣服を汚していた。
気持ち悪さに耐えかねて、自然と走り出したこの体に気づいた時、またあの感覚がした。
そうあれは、Dエリアで、キンとテンがやりあったときのあの時の感覚に似ていた。

『そうだ、もっとだ。もっとやれ、もっと俺様を駆り立たせろ』
桃太郎の声がした。

あたしがライフルでキンを殴りかかったのと同時に、テンが目の前に飛び降りた。
あたしの目とテンの目が合った。
その瞬間、あいつの声がより強く聞こえてきた。

「よう、会いたかったぜ」

ん?なんであたしが桃太郎のセリフをしゃべって、……ってあーーー!
体の動きを完全に奪われている、あいつに桃太郎に、と気づいたのは数秒経過後だ。

「リンネ……いや、貴様か」
テン。今のあたしがあたしじゃないって気づいている?

「うーー、なんじゃ、二人とも邪魔をするんか」

「テン! あなたの相手は私ですよ」

ビュンッと風切る音させてキョウの鞭が伸びてきて、テンの刀を掴む。
それでもテンの目はあたしを見たまま、あたしをホントはあたしじゃない桃太郎だけど、を探るように。
そのギンとした強い目に、あたし(桃太郎)はにやっとした笑みを浮かべる。

「ちょうどいいな。見てろ、俺様を欲するようにしてやるぜ」
そう言って、桃太郎は近くにいたキンの体を滑り台を坂上がるようにして駆け上がり、宙高く舞う。
ああああーー、背景が、なんか反対になってるーーー。地面が空に、空が地面に、数度くるくると回る世界を味わった後、ブンっと今度は横に回転する体の感覚。
周囲にいた雷門軍団を次々と、ライフルを鈍器として打ち付けたり、蹴り上げたりしながら倒していく。飛び散る赤い飛沫、骨が奥で砕けて、黒い軍団は壊れたマリオネットみたいにぐしゃぐしゃになっていく。
まるで時代劇の戦闘シーンみたいに、リズミカルに止まることなく、用意された芝居のようにこなしていく。
あたしの体だから、その反動はあたし自身にきそうなのに、桃太郎が動いているその間、体の痛みで動きが鈍ったりしない、不思議と……、きっとその反動はあたしに意識が戻った時にどんとくるんだろうけど。
回る視界の中、雷門軍団と戦うテンの姿を確認した、時々そのテンと目が合ったけど、その目はあたしを見る目というより、どこか不審そうな目に見えた。

テンを追いかけていたキョウの姿はその騒動の中、見失ってしまった。テンにやられたのか身を退いたのかはわからないけど。
ショウをボコっていたキンも、こちらへとターゲットを変更したらしく向かってきた。

「おもしろいことしてくれるのぅ、桃太郎よ」

キンも今のあたしを桃太郎だと認識している?!
にやにやと嬉しそうな笑み浮かべて、拳をぎちぃっと握り締めている。う、嬉しそうってどんだけ変態ですか?

「ショウさまっ」
キンの後ろのほうで、騒動のすきにレイトが、キンが放置したショウのもとへと駆け寄っていた。
近づいてくるキンを無視して、桃太郎はテンのほうへと近寄った。

「とりあえず、十分だろ。行こうぜ。
ふたりっきりになれる場所へな」

あたしの体を借りた悪党は、怪しく愛のテロリストへと囁いた。
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