恋愛テロリスト

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  第七幕 熱愛宣言 6  

人魚伝説・・・、エメラの話ではこのBエリアにいると言われている、海に住む人間に似た人間とは異なる種族
半分魚とかそんなファンタジーな容姿ではないらしく、見た目はまったく人間と変わらないし、人間の言葉を話すという。
海で進化を遂げた人類ってことなのか? お伽話のような信じがたい話だけど
その人魚の話は、あたしは初めて知った。
Bエリアでも、その人魚伝説を信じる者はあまりいないらしく、人魚を直に見た者もいるのかどうなのかさえ怪しい。

胡散臭いことこの上ないそんな伝説を、エメラは嬉々とした乙女モード全開の瞳で語りだした。

「人魚の一族は生涯一度だけ、陸に上がることができるです。それも夏の間だけ・・・
その限られた期間に一生を決める大事な選択をしなければならないらしいです。

生涯の伴侶を見つけて、陸で一生を過ごすかわりに海での生活を捨てるか。
結局海に帰って人魚の一族として生きていくか。でもその場合は一族の決めた相手を伴侶としなければいけないらしいです。そして、二度と陸には上がってはいけないです。

諦めて決められた道を歩むか、自由を得るためにひと夏のチャンスにかけるか。

エメラはその自由を勝ち取った人魚にぜひ会ってみたいと思うです!」

キラキラ眼に、ぐっと拳を握り締めながら熱く語るエメラに、あたしは「はぁ」と乾いた返事を返した。

「エメラ、今まで何人もの男の子たちに、好きとか付き合って欲しいとか言われたことあるです」

なに急にモテ自慢か?おい

「でも、エメラは、今までそんな風に思えた人に出会ったことがないです。

エメラも、エメラも誰かをそんな風に真剣に好きになってみたいです。
そんな中人魚伝説を知って、エメラぜひその人魚さんに会ってみたいって思って
この夏休みに、Bエリアに来てその人魚さんに会ってパワーをわけてもらいたいって思ってるです」

そう言って、エメラはカウンターの中にいるテンへと視線を向ける。

「人魚に会うならこの港通りが一番いいと思って、情報求めてフラフラしている時に出会ったのが、あの子猫ちゃんです」
エメラが指差すのはあの白い子猫のハバネロ。

「エメラ、天使を見たと思ったです」

どの辺が天使なんだかわかりませんが、聞き流すとする。

「その天使ちゃんに導かれるようにしてエメラが進んだ先にいたのが、店長だったです。
どこか遠い目をして、海を見ていたその姿に、エメラピンときたです。

もしかして、この人が噂の人魚さんかもって・・・

それでおもいきって訊ねてみたです。そしたらたしかに海にいた記憶があるって言ったです。
それでエメラ興奮していろいろ聞こうとしたら・・・」

再びテンへと視線をやり、はーとため息を吐くエメラ。

「テンという名前以外なにもわからないと言うんです。猫は、一度食べかけのパンを与えてから傍を離れなくなったらしいです、それがあのハバネロです」

あたしはエメラからこのBエリアに来たいきさつやら、テンとの出会い、そしてこの店カフェテンで住み込みで働くことになったことなど聞かせてもらった。
ちなみにどうでもいいが、ハバネロの名前はショウが勝手に名づけたらしい。テンはネコと呼んでいるらしいとか。
いつのまにやら定着してハバネロになったらしい。

仔猫になつかれるだの、ほんとにあのテンなのか?と疑いたくもなる。
だってテンなら、仔猫もいい食料だぐらいにしか思いそうにないんですが。以前ショウのことも食料扱いしていた記憶だし。Dエリアの人間ならそれが当たり前なんでしょうけど。
まさかマジでハバネロの愛…で? いやいやそんなバカな。

「なんだ貴様、さっきから人の顔をジロジロ見やがって」

あたしの視線を感じてジロリと目だけを動かしてこちらを睨みつけるテン。
でも手は休みなく作業をしている、他にすることがないかのように
器用に、皿を、カップを拭いて、ケースに片してくその手が、本当は武器を手に、暴力を振るっていた手と同じだなんて
不思議な感覚で目で追っていた。

まだ日の長い夏なのでうっかりしそうだけど、気がついたら日が暮れ始めて、店も閉店の時間になっていた。
エメラは看板をcloseに立て替えたりして、閉店作業をしていた。
あれからずっとショウはハバネロとじゃれあってた、こいつ領主の仕事ってしてないのか?
してないんだろうな・・・

はっ、そうだ、のんびりまったりしている場合じゃない!
遅くなったらAエリアの巡回バスも止まってしまう。
テンのことは気にかかるけど、早くCエリアに帰らなきゃっと立ち上がったとき
下のほうから高い機械音が聞こえてきた。
それは腰に下げていたビケさんからもらった通信機。

「うわっ、あっ、ビケさんっっ」
慌ててそれを手に取った瞬間、横からしゅぱっと掻っ攫われた。

「あっ、ビケ兄♪」

「チョッ、何勝手に出てんのよショウ!」
あたしが通信ボタンを押す間もなくショウに通信機は奪われた、くそっビケさんの声を真っ先に聞くのはあたしのはずなのにぃぃー
しかも、勝手に楽しげに会話しているのがわかるから余計にむかつくーー
すぐにショウの手の中のそれを奪い返して、ぶつける勢いでそれを耳に当てながら

「ビケさん!ごめんなさい、ショウのやつが勝手にとったもんだから」

『いいのよ、ショウちゃんはかわいい弟だから』

かわいい弟?!かわいい弟・・・かわいい弟かわいい(エコー)

『リンネ?』

ハッ!ビケさんのステキな声が、通信機からとはいえあたしの耳元でくすぐっている。
初めてのビケさんとの通信ですよ!ああなんて甘美な行為なんだろう・・・トリップ・・・v

『Bエリアにいるみたいね、なにかおもしろいことでもあるの?』

ハッ、しゅびっと後方のテンを警戒するように見たあたしは、通信機のマイク部分を思わずそっと手で覆ってこそっと話した。
すぐ近くにテンがいるし、もしテンの声がビケさんに聞こえてしまったら、おそろしいことになりそうな気がして
とっさに。
ショウはテンのことを話してなかったので、たぶんまだビケさんはテンのことを知らないと思う。
あの時の、あの二人の間に流れていた空気を思い出すと、下手にビケさんにテンのことは言えない気がする。
それは、あたしの中のどうしようもない不安があふれ出しそうな気がして、怖いからかもしれない。

「いえいえなにも、なにもたいしたことはないのです!」
慌てて唾を飲み込むタイミングさえ誤るあたし、確実に動揺しまくりなのがバレバレ。

『怪しいわね、まさか浮気じゃないでしょうね?』

「は・・・ハイーー?!」
ビ、ビケさん?!なにをおっしゃるのでー?
うわ、浮気だなんて、こんなステキなビケさんがいながら、なにに気を浮つかせるというのですか?
意味不明ですけどっ

「そうそうー、リンネさー、レイトのやつがリンネにまた会いたがっていたよー」
会話のやりとりが聞こえていたのか、ショウのやつがわざとらしくデカイ声でそう言った。
て、なぜそこでレイト?!いつの人ーー?

『ふぅーん・・・いい度胸しているじゃない』

「ちっ、ちがっ、知りませんレイトって誰ですか?!」

ほんとだれなんですかね?レイトなんて記憶の欠片もございませんが
と人が否定していると、すぐ横にまで来たショウがまたしてもわざとらしくビケさんに聞こえる声で

「レイトさー、今度リンネに会ったら(硫酸)ぶっかけたいvて言ってた」

「はっ?」

「ぶっかけって・・・なにをですか?」
両手を口元に当てながら聞くエメラ、お前なぜそこで食いついてくるんだ?

『そう、そのためにBエリアまで・・・』

はあっ、そんなよりによってレイトに浮気疑惑なんて冗談じゃないっ

「ビケさん!あたしはなにがあってもビケさん一筋ですからっっ!」

思わず叫んでしまった、後になって、かなり恥ずかしい言葉を、ショウやエメラやハバネロやテンのいる前で
あたしは、恥ずかしい・・・・

いや、でもそんなの越えてビケさんのことが好きですから
だから、好きなビケさんに、そんな風に思われるなんて嫌すぎ・・・

『言わなくてもわかっているわよ』

涼しげなビケさんの返答。うわーん、恥ずかしいバレバレマックスかーー

その直後、通信機の向こうからくすっという笑い声が聞こえてきた。

『冗談よ、なにムキになってるの』

は、ははビケさんったら・・・、脱力して膝からドッと床についたまま通信中。

ああっ、ビケさん、愛しいその声。通信機ごしでも、そのステキオーラは伝わってくるんですから
だからこそ、足りないって心がハジケそうになってるんです。

会いたい、一秒でも早くビケさんに、会いに行きたい・・・
ビケさんに会いたい、顔が見たい、直接声が聞きたい、抱きしめてもらいたい。

「あのっ、すぐに戻りますからっっ」

ここからAエリアまで結構距離あるから、近くでチャリ拝借してマッハでとばして、バスに乗って、
Cエリアではこの通信機使ってタクシー乗れば、そんなに時間かからない計算で・・・
とシミュレーションしていると

『戻らなくてもいいわよ』

「へ、・・・はい?」

ビケさんの言っていることがわからないんですが

『私今晩は戻れそうにないから、私のいないCエリアに戻っても意味ないでしょう?リンネ』

「は、はいたしかにビケさんのいないCエリアなんて、意味ないです・・・けど」

ビケさんの言おうとしていることがわからないまま、足りないおつむぐるぐるさせていると

『ショウちゃんのとこにでもいけばいいでしょ』

「は、ちょっビケさん?!」

なんだかなげやりっぽく聞こえたそれを最後にビケさんからの通信は途絶えてしまった。
え、ええっとどういうことなんでしょうか?ビケさんはあたしがBエリアに残ろうが、心配じゃないんですか?

「ボクは別にかまわないけど、レイトのやつもリンネに会いたがっていたし。

一晩でも二晩でも、ゆっくりしてけばいいよ、レイトとたっぷり・・・」

話の内容を察していたショウが、にたにたとむかつく笑みを浮かべながらそう言った。
たっぷり・・・の後の考えていることは悲しいほどにわかってしまうあたしも悲しすぎる。

「冗談じゃない!Bエリア領主館なんて、二度といくもんですか!

だいたいレイトってだれですか?!」

もう忘却の彼方ですから、そんな奴。
レイトとかカイミとか、そんなにあたしの災難を見たいのかこいつは、ろくな死に方しないな、まったく。

そんなことより
「はー・・・」
ため息をついてさらに脱力する。ビケさんに、会えないなんて・・・ビケさんのいない時間なんて、気が遠くなるくらい長く感じるに違いない。

「今のって、もしかして、彼氏さんですか?」
そう訊ねてくるエメラに慌てて首を横に振る。

「そ、そんな彼氏なんてレベルの存在じゃないわよ!ビケさんはっっ」

そう、そんな単語で決め付けられる存在じゃないの、ビケさんは
顔面真っ赤で汗たらたらなあたしを見て、エメラも察したらしい。

「ラブラブな方なんですねv」
フフっと笑いながら、エメラはそう言って一人頷いた。

「でも、今日は会えないから、帰らなくてもいいって・・・」
がくーと床に顔がつきそうなほどうな垂れるあたしの背中を、ぽんと優しく叩くエメラの声。

「それなら、ここに泊まっていったらどうです?ね、いいです?店長」
テンのほうを向き、そう訊ねるエメラに、カウンターの中のテンはめんどくさそうに「フン、勝手にしろ」と言った。


テン・・・やっぱり違和感バリバリだ。
ビケさんの名前を聞いてもまったく反応しなかった。
テンにとって人生を変えたと言っても過言じゃないくらい、きっとテンにとって大きな存在だったビケさんとおばあちゃん。
その二人のことも忘れてしまうなんて・・・それはなんだかあたしの中にも空いたままの空洞のように不快で
このままは嫌、そんな気持ちがもくもくとしていた。


ビケさんに会えない。がっかりする気持ちながら、あたしはあの場所へと向った。怪しさ満点の酷い店、…元おばあちゃんの家だ。
クローが取り戻してくれると約束してくれたけど…。家の近くまで来てみた。変な看板は取り壊されていた。周囲に変な奴もいないみたい、警戒しながら家の前まで近づいた。

「おい」
「ひっっ」

背後から取り押さえられて、あたしは悲鳴を上げた。また、同じパターンか、少しは学習しろ自分。
「まったく、君はまた一人でのこのこと。こんなところうろつけば、また変な奴に捕まってしまうぞ」
振り返れば、クローがいた。ったく、普通に声をかけてくれればいいでしょうに、心臓に悪い。
「わかってますよ。コレでも何度も危険な目に合ってきた身ですから」
少しは危険回避能力上がってるはず。警戒は怠ってないつもり。
「ところで…」
あたしの聞こうとしていることをわかっているクローは、「ああ」と頷いて、中に入るように促す。


店舗の中は暗く、静かだった。誰も、いない。でも店の内装はそのままだった。いたるところに、いやな汁の染みが残ってて、変なにおいもして軽くめまい。
「取り戻して、くれたの?」
「ああ、話してわかる連中じゃなかったから、力ずくでね。物言わない存在だ、心配しなくてももう大丈夫だろう」
…穏やかに、物騒な事言ってますね、スルーしよう。

「まだそのままにしてある。先に君に見てもらおうと思ってね」
なにも手をつけていないとクローはいった。あたしは家の中を探してみる。
一通り見てみたけど…

「なにも、残ってないみたい…」
はぁーと溜息をはく。「そうか」とクローも残念そうに小さく息を吐く。
「でも、ありがとう。おばあちゃんの家、取り戻してくれて。あんな変な店にされて、嫌だったし」
「礼ならいい、たいした手間でもなかったし。それに、テンの奴の記憶を取り戻すきっかけに繋がるかもしれないしな。それから…」
? それから?
クローが意味深にあたしの顔をのぞきこんだ。至近距離に迫られて、あたしは「な、なによ」と後ずさる。
「俺も大事な記憶を、忘れているような気がしてな。…いつのものかはハッキリしないが、最近よく夢に見るんだ。昔話のような格好をした娘と、もう一人…ボロボロの衣服にボサボサのポニーテールの少年が出てくる。一度や二度じゃなくて、夢を見るたびにだ。それはどうやら、俺が忘れてしまっている記憶な気がしてならない」
「はあ…」
なんかどこかで聞いた話のような。
「そっくりなんだよな、それが、リンネ…君に」
さらにあたしの顔覗きこんで「うん、瓜二つだ」と頷く。
「まさか、夢に見る女の子に…そっくりって?」
「いや、娘のほうじゃない。少年のほうだ」
「は? 男のほう?」
あたしにそっくりな男ってどんなだ? あたしって別に男っぽい顔つきじゃないはずですけど?
「そうだな、たしかに顔はリンネだが、振る舞いはまるでDエリアの少年…のようだった」
「なんですかー?それは」
「最初は君がテンに近しい存在と知って気になった。が、今はそれだけじゃない。君の中に、遠い昔俺が失くした大事ななにかがあるような気がして、気にかかる」
あいまいな言い方で、だからそのなにかってのはなんなのか? ハッキリしてくれないとさっぱりなんですけどっていうか、それって…

「あたしのこと、口説いてるんですか?」
たじっと、じわりとした汗が伝う。至近距離のクローから逃れようとしたいのに、なぜかあたしを見つめる目から逃れられなくて。
「そんなつもりは、ないんだが…。そう、だな」
数秒考える仕草をして、クローがにやっと笑い、あたしの顎を掴む。
「君がよければ、相手してくれるなら助かるが」
「へっ、ちょっ…まっ」
腰を掴まれて引き寄せられる。抱きしめられて、お互いの体が密着しそうな直前、あたしはとっさに両手をつきだし、拒否の姿勢でふんばった。
いきなりなにすんのよ、変態ーーー!
「やめてください! あたし好きな人がいるんで! こういうのないですからッッ」
うおっ、急に縛がとかれて、あたしは後方へとよろけた。
「そうか残念だ。少しは俺に気持ちがあるのかと思ったが、そうか、テンが相手なら仕方ないな」
「は? なに嫌な勘違いしてんですか? 違うから、テンじゃないし、第一テンはおばあちゃんの恋人ですし」
たく、心臓に悪い事しないでよ。…なんか体の奥が熱くてどんどんして、気持ち悪い、なんだこれ。
くらくらして、膝をついて蹲るあたしに、クローが上から「どうした?」と心配そうな声をかけてくる。
あれ、こんな感覚、前にも…たしかCエリアで。

「それ以上、俺様に近づくんじゃねぇ!」

へ?
「え? リン、ネ?」
パチ、急にクリアになる頭の中、気持ち悪さがうせて、あたしは目をパチパチさせる。今一瞬、あたし下品な言葉遣いをしてしまったような、でも気のせいですよね。そんなことあたしが言うわけない。
「ああ悪かった、そこまで嫌がられるとは思わなかった」
「えっと…」
反省してくれるなら、それでいいんですけど。

なんだか気まずい空気のような、さっきのはなんでもない、なんでもないのよと自分に言い聞かせる。
「あの、そういうのはムリだけど、テンの記憶戻す為には、協力するから」
あたしがクローにしてあげられるのは、そんなことぐらいだ。テンに関することくらい。
「で、テンの奴はどうなんだ? 結局変わりはないのか?」
「うん。…さっぱり思い出してないみたいだし。もう少し様子を見てみようと思う。お店に泊まっていいって話になったから、あたしも今日は泊まっていくつもりだし」
「そうか、まあ俺も記憶を取り戻すのに時間がかかったしな。そう簡単には行かないだろうよ。
じゃあ、俺はここを住処にする。また誰かにのっとられても困るしな」
「ありがとう。そうしてくれると助かる。じゃあ、あたしテンのお店に戻るわ」
おばあちゃんの家を出る。外はもう闇夜直前。早く港通りに戻らないと。Bエリアだし、物騒だもんね。

「リンネ」
家を出てすぐ、クローに呼び止められた。
「なに?」
「またなにかあったら、報告に来てくれ。ここにいるから」
「うん、わかった」
「それに個人的に、また君に会いたい」
「え?」
真剣なまなざしに見つめられて、あたしの中の熱いものがどくんって跳ね上がる。ちょっちょっと
「あたしには」
「俺自身を知りたいんだ。そのためには、リンネ、君をもっと知る必要がある」
なんですか?それ。
クローの言う意味、よくわかんないけど、あたしはクローのことは信頼してもいいかもなんて感じている。けど、あたしの中の奥の熱いものが、近づいちゃだめだって感じているようで、ああもうなんなんだろ。わけわかんないな。だけど、テンをもどすため、クローの協力は必要だって思う。
「う、うん。またね」
くるり、とクローに背を向けたあたしは、行く手を遮るように現れた存在に、冷や汗ふかされる。

「ショウ!」
薄暗い景色の中、ショウのゴーグルと瞳が怪しく光る。
「なかなか領主館にこないなと思って、探しに来てみたら、こんなところで、なるほどね〜」
あたしとクローの顔を交互に見て、「ふーん」とショウはむかつく笑みで一人頷く。
「だ、だれがBエリア領主館になんて行くもんですか!」
行くわけないでしょ! あんなところ二度と。
「いくらビケ兄に会えないからって、こんなところで性欲の発散とかさ。マジキモイな、このクサレビッチ」
「ちょっ違うから、変な勘違いしないでよ! この人とはなにもないから! アンタのその思考のほうがキモイんですけどッ。ね」
と後ろのクローに同意を求める。
「! そうか、彼が君の好きな人か」
「ちょっそれも勘違いだしってあっちやこっちやでツッコミさせんな!」
んもう、めんどくさい、だれかこいつらにわかりやすく説明してやってください!

「いいよ、領主館にこなくて。そこでそいつと思う存分やってりゃいいよ。子宮が破裂するくらいやりまくってくれば?」
誤解を解かさない勢いで、ショウは勝手に結論付けてあたしたちのもとから去る。ちょっ待ちなさい!
ビケさんに告げ口されて、変な誤解されたら困る。別に一切やましいことはないけど、でもクローのことビケさんに説明しなきゃいけなくなったらどう説明すればいいのか。テンのこと言えるわけがないし。

そうだ、先にビケさんに連絡して。ショウが何言ってもそれは全部嘘だからって説明しておけば。うん、ビケさんはあたしの愛を信じると言ってくれたし、あたしのこと信じてくれてるから、戻らなくてもいいって言ったのよね。

つーつーつー…
繋がらない。

テンの店に戻りつつ、ずっと通信を試みたけど、一度も繋がらなかった。はああーーん(号泣)
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