恋愛テロリスト

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  第七幕 熱愛宣言 2  

鼻にティッシュを詰めつつ、あたしの脳はいまだ現実に追いつけてない気がする。

このCエリアで勘弁ねがいたい状況から、あの地獄の祭りコロッシアムで十分脳内ぐちゃぐちゃでしたが
テンに連れられZ島へと渡り、そこで知ったビケさんのこととテンの過去。
それだけでも十分さらにぐるぐるなのに…
再びビケさんと一緒に戻ってきたこのCエリアで、金門の連中の前でのビケさんの熱愛宣言?!

Z島での一連のことであたしはビケさんの好きな人はおばあちゃんなのかもと思っていた。
もしそうなら、あたしの想いは敵わない気持ちが大きくなる気がして、怖かった。
でもビケさんが欲しいと言ったのは、あたしの愛…

…で間違いなかったですよね??
あたしの勘違いとか妄想オチだったりしませんよね??
ね??
ってだれに確認をとろうとしているんだ、あたしは。


ハァハァ、とにかく冷静になって考えてみよう。

思い出してみよう、ビケさんの言葉に、キス…
ブッ
赤い噴射でティッシュがひとつ吹き飛ぶ。

たっぷり可愛がってあげるって…、ど、どういう意味なんだろ?
ど、どう考えてもあたしには、十八歳未満お断りな内容しか思いつかないんですがー
ブブーッ
もうひとつのティッシュもさらに激しい赤い噴射で吹っ飛んだ。

こ、興奮しすぎだ、自分。鼻血出すぎ。ティッシュの箱がすっからかんだし、自然に優しくないことしてますよね、あたしごめんなさい。でもしょうがないじゃない、あたしを興奮させることしたビケさんのせいなんですからね!ぷりぷり。ってにやにやしながらぷりぷりするんじゃないっての。


まだ信じられないんですけど、夢じゃないですよね?ドッキリなんとかでもないですよね?

流れ星に願いをかけた記憶はないけど、あたしの願いを神様は聞き入れてくれたのでしょうか?
今までの受難に耐えてきたご褒美なのでしょうか?

もやもやと一人考えてても仕方ない、それはこの先きっとわかることなんだし
今は、ビケさんが戻ってくるまでに少しでもキレイにならなくちゃ!
領主館内の泳げる広さのバスルームで数時間、体のすみからすみまで磨いて、トリートメントも念入りに、特に以前ショウから苦マズイと言われた(て思い出したらむかついてきた)乳首を念入りに磨いたらやりすぎてひりついてきた。
体を引き締めなくちゃと、(今更遅い?)腹筋運動&マッサージ、いたたたたた。
と痛みでうずくまっている場合じゃなくて、ひたすらスキンケア。置いてあるのを勝手に使っちゃったけどいいんだろうか(あたし持ってないし)、いいか。にしてもさすがCエリア、スキンケア用品もいいやつだ。スベスベプルプルになってくの実感中。

海に落ちたテンとか、結局おばあちゃんはどこにいるんだろう?とか、気にはなるけど、でも今のあたしは、ビケさんのことで頭がいっぱいで、その現実にさえまだろくに追いつけない。

なんだか、時間がたつほどやっぱり夢なんじゃないかと思えてきたりして
ちょうど夕刊が届いて、手に取ると

「ふぉうっっ!!!」
再び鼻を押さえて、一面トップのそれを確認する。
そこにはデカデカと写真がっ、あたしとビケさんのキス写真がっっ
なにこれなにこれなにこれー、マジカッコイイんですけどっビケさーーんvvv
抑えた手の指の間から赤い液体が伝い落ちている。ぼたぼたぼた。
恥ずかしいけど嬉しい、恥ずかしいけどときめきマックス!保存!この新聞保存しちゃいますv
確実に永久保存しちゃいます! あたしの中で国宝決定です! 宇宙遺産です!あたし的に。

やっぱり、夢じゃないんだ、ビケさんが、あたしと……
カナメのあの顔を思い出してにやけてしまう。あの常に勝ち誇っていた自称最上級の女のあんぐりとした顔を。
勝者はあたし、あたしはカナメに勝ったんだ。あたしを散々苦しめバカにした金門の奴らとはもう、この先関わることもないんだ。


これからは、ビケさんの傍で、ビケさんの愛に抱かれて生きていくんだ。

その日の夜、あたしは初めてビケさんの寝室に入った。
以前ここに来たばかりの頃、この部屋の前でデコチューをされて興奮のあまり気が変になりかけたんだっけ。今は今で心臓破裂しそうなほどドキドキしているわけだけど。

「こっちへいらっしゃい」

ドア近くに立ち尽くしたままのあたしをベッドに腰掛けるビケさんが呼ぶ。
ほのかな灯りがよりビケさんの艶っぽさを引き立てる。そんなビケさんを見ているだけであたしはどきどきのあまりまた鼻血が噴出しそうになる。(今日何度鼻血噴いたんだろう?貧血起こしてもおかしくないくらいかも。鼻の粘膜ヒリヒリしてるくらいだし)

「ははひぃ」
声が裏返りながら、ビケさんの傍へと、吸い寄せられるように、歩み寄る。
白い指に軽く触れられるだけで、あたしは必要以上にぞくぞくと反応してしまう。
そんなあたしを見て、ビケさんがくすっ。と笑う。

「なに堅くなっているのよ。初めてじゃあるまいし」

「いっ、いえ!初めてですけどっっ」

キスだってビケさんが初めてですよ!
こんな風にだれかにときめくのも……

ビケさんが初めてなんです。

思い出したってあたしの過去にはなにもない。心懐かしくなる人も、甘酸っぱい初恋も
幼いあたしを捨てて姿をくらました親のことも、あたしに興味を抱かない周りの人も。
唯一つ、優しい記憶は、おばあちゃんだけ。
友人も学校の先生も両親も、あたしはまともに顔すら思い出せず、楽しい記憶なんていえるのは、おばあちゃんとのわずかな思い出しかない。
そんな寂しいあたしだって、ビケさんっていうステキな人と巡り会えて、恋をして。


Z島でのことを思い出して、あたしは今感じてしまった。
ビケさんが…憧れだったビケさんを近くに…

「ふーん」
ビケさんはなんだか意味深な笑みを浮かべて、あたしの腕を引き寄せ、自分の上に座らせる形で口元を奪う。
下唇を甘噛みされるだけであたしの意識は遠いところへ飛んで行きそうになる。

「ビケさんっ…」
変なところが熱い、恥ずかしいのに、早くそこに触れて欲しいと思っている余裕のないあたし。
言葉にしなくてもビケさんはあたしのそれをわかってくれているのかそうしてくれた。

あたしを見下ろすビケさんの横の輪郭を月の明かりがなぞっている。すごくキレイでここぞとばかりにしっかりと目に焼き付けておきたいのに
緊張が過ぎて、あたしの体はおかしくて、視界がぼやけていくし
ビケさんの声も呼吸ももっと聞きたいのに、まるで海の中にいるみたいに音が遠くに感じる。

昔どこかで聞いたことがある、女の体は海みたいなものだって。
もしあたしが海なら、ビケさんはサカナならいいのに。
あたしの中をどこまでも泳いでくれたらいいのに。

不思議、こんな感覚、前にもあった気がする…
そう感じるのは、もしかして、やっぱり? ビケさんがあたしの運命の人だから?

「ふわっ…あっ」
何度も押し寄せる快楽の波の中、あたしの耳元でビケさんが囁いてくれた甘い言葉

「リンネ、愛しているわ」

それに「ビケさん、あたしも愛しています!」って答えたかったのに、その余裕すらないあたしは霞んでいく世界の中果てていった…。



「ん……」
ハッ、世界が白い明るい!

今何時?

少しけだるい体の上半身を起こして周囲を見る。ここは、ビケさんの部屋で、あたしはあのまま眠っちゃったみたいで…
もうすっかり日が昇っていた。カーテンの隙間から入り込んでくる日がまぶしい。

白いベッドの中、あたしひとりで、ビケさんの姿はいなくて、時計は九時前を指していた。
頭が少しぼーとして、夢だったのかな? なんだか夢見たいな出来事だったようで。
妄想が過ぎて、夢を…そう思ったけど

「あ…」
ビケさんに愛されたその場所がまだ熱い。その余韻に浸っていたくて、身を起こすのをためらっている。

「ビケさんの残り香v」
シーツに顔を埋めて、匂いをここぞとばかりに嗅ぐし、スーハースーハー…ってあたしはヘンタイかっ!

「いや、もうヘンタイでもいいvビケさんの匂いーーー」
顔を左右に振りながら、端から見たらアホ丸出しなくらい匂いを嗅ぐ。ハァハァハァ…

「なんか、匂いだけで、変な気持ちになってきちゃったかも…」
一人でそんな気分になってもなー、…!ハッ、マジヤバイ自分。シーツを汚しちゃヤバイと思わず閉じる足に力をこめる。

「顔、洗ってこようかな…」
ふー、時計が九時半を指したころ、やっとベッドから身を起こす。
室内に置かれていた鏡に映った自分の生まれたまんまのマックスゼロなそれを見てどきっとする。
これがビケさんに愛された体なのね、なんだかすごく自分の体を愛しく思える…むしろそれを通り越して嫉妬だ。おのれー、憎い憎いわ、この体めっ、うひひひひひ、顔がゆるみっぱなしですけどリンネさんw

Cエリアに来たとき、金門に狙われてばかりで、そしてコロッシアムとこの夏はバイオレンス一色で終わるのかとげんなりしていたけど、でもそれも思い過ごしで終わるんだ。ビケさんとの愛に燃えて燃えて燃えまくる夏になる。
ビケさんのことだけ考えて生きていくの。そうしていきたいん、だけど…
心の片隅で、テンのことは気にかかっていた。海から落ちて、その後どうなったのかわからない。
ビケさんは死なないって言ってたし、以前に鬼が島からZ島まで流されたこともあって生きていたくらいだし、だから死んでないとは思うわけだけど、せめて、無事なのかだけでも知りたいと思っていた。

あの一件から、金門も大人しくなったみたいで、変なイヤガラセもなくなった。とはいえ、やはり一人で外に出るのは抵抗があったりして、館内に引きこもりな日々が続いていた。
それも苦じゃなかったのは、夜にはビケさんと会えるし、たまに会えない日もあったりするけど…
そのたびにビケさんと……vvvうふふ。
でもちょっと気になっていたのが、朝目覚めたら記憶にない痣が日に日に増えていくので。
もしかして、あたしすっごく寝相が悪いんだろうか?しかも、結構痛むし。
今までこんなことなかったのに、はぁー、そんなに寝相悪いのならなんとかしたいな。

それに、またなんかあの変な夢を見たりする。変な夢ってのは、また自称桃太郎が出てくる、バイオレンスな夢。その夢というのが、また…絶対ビケさんに言えない…ビケさん相手にケンカ売っている夢だったから、その自称桃太郎というあたしが…。


Z島の一件から一月が経った頃、領主館にと、あたしの前にやってきたのはショウだった。

「ニート」

「は?」
第一声がそれですか?てニートってなんなのよ?

「働かざる者食うべからずってさー」

なにが言いたいのかこいつは。ずかずかと遠慮なく部屋に入ってきてまったく。
つーか働いてないのはお前だろうが。

「そういえばコロッシアム以来ね、あの爆発の中無事だったのね」

「…ボクがあの程度で死ぬわけないじゃん」
またどっかで聞いたセリフが返ってきたよ、流行ってんのか?それ。

ま、いいや、心配するだけ無駄だよね。
ここんとこ姿見かけなかったから、Bエリアで大人しくしていると思ってた。

「ねえ、ショウもしかしてビケさんに会いにきたの?残念だけど、当分帰らないわよ」

「今日はビケ兄に用があって来た訳じゃなくってさー」

へ?
あたしの顔を見てそういうショウ、てことは、あたしに?

コロッシアムが中止になったことを根に持っているとかじゃー…

「リンネはさー、ほんっとのん気だよねー」

はーー、と嫌味ったらしいため息を吐きながらあたしを横目で見る。

「な、どういう意味よ?!」

「なんにも知らないんだ? Bエリアではオッサンが大変なことになっているっていうのにさー」

「えっ!? どういうこと? テンは生きているの?今Bエリアに?」

ショウはそれ以上は答えずに、ついてくる?とあたしを促す。

どういうことだろう、テンに大変なことが起こっているって。気になるあたしは少しだけ様子見てくることにした。ビケさんがいない間はヒマだし、そんなことでショウにつれられあたしはBエリアへと向かった。


ショウが向かったのはAエリア側。なんでもDエリア側にいくといちいちDエリアの連中がからんできてうっとおしいからだとかで。まああたしもできれば行きたくないですし。

「でも、あたしAエリア立ち入り禁止の身なんだけど」
というと、ショウが

「知らないの?通過するだけなら許可証もらって通ることができるんだよ」

「は?なにそれ初耳なんですが」

「通過するだけ、時間制限とかいろいろ制限つきだけど」

そーなんだー、キョウはそんなこと教えてくれなかったよねー、・・・まあいいか。

ショウから受け取った許可証を手に、Aエリアに入ってすぐにAエリア内を循環している無料バスにと乗る。
東回りルートのやつ。
普段は停留所にいれば普通に乗れるバスだけど、あたしたちは乗る前に許可証を見せなければいけない。これはAエリアの住民以外ってことなんだけど。
バスに乗って、Bエリア方面出入り口付近で降りて、Aエリアを出てBエリアへと入る。
入ってすぐのところで、止まっていた赤いオープンカーにショウが乗り込む。

「ちょっそれに乗るの?」

「場所が遠いし、早く行きたいじゃん」

「はあ、…」

ショウが車のエンジンをふかす。

「早くリンネのアホなびっくり顔が見たいしね」
とにやりと嫌な笑みを浮かべるショウ、こいつは…。

とは思いつつテンのことが気になるし、車に乗り込む、が

「アンタ車の運転ってできたの?」

うおーーー!
急発進でモーレツなGに襲われる中、ショウの危険な運転であたしはもうテンの心配以前に己の命を心配しなければならなかったのだ。

「はい、ついたよ」

「うげーーー」
車が止まってもすぐには動けなかった。…というかよく生きていた、よく事故らなかったなあ、もうこいつは二度と車に乗るなと言ってやりたい。殺意籠めて。

「はー。」
そこはBエリアの最南端らしく、海が見渡せた。港があってそこに停泊しているヨットが夏の風景に似合ってる。潮風が漂ってくるその通りはBエリアなのに爽やかな風が吹いている。

そんな爽やかな風を横切るように、あたしの前に現れたのは、白いふわふわの毛並みの小さな子猫。
あたしと目が合うと、しばらくじっとこちらを見ている。
桃色の三角耳に、あたしを見つめる黄金がかった緑の瞳は丸く光り揺れている。その目は無言で呼んでいるようで。

「かわいい…」
あたしは特に猫好きではないけど、その容姿はとても愛らしくて、釘付けになっていた。
そして、なんだかほっておけない気がした。

あたしが近づくとくるりとお尻を向け、白く長いしっぽをぴんと立てたまま歩き出した。
追いかけると「きゅる」と鳥のように小さな鳴き声を出して走った。
子猫ながらその足の速さにあたしは見失ってしまった。

「あれ?どこいった…あっ」
見つけた。
その猫は店らしき小さな建物の前に、入り口らしき場所でちょこんと座っていた。

「みゃーん」
ここだよ、おいで。そう呼んでいるような気がして、そこに行くと

「?! CAFE TEN?……

カフェテン?!」

なんだ、この名前、なんの偶然なんだろ?
と、そんなことより、テンのところへ行かなくちゃ。

「なにしてんの?リンネ。そこだよ」

「へ?」

あたしの後ろからやってきたショウが顎で示す場所は、そこ、CAFE TEN。

ええっ?!

なんだかよくわからないあたしが、そのカフェの押し扉を押し開ける。
同時に子猫がぴゅーと中へ走って入っていった。
ここの猫なのか?
いや、もう猫とか気になるレベルでないものがその向こうにいたのだ。

「いらっしゃいませですー」
元気な声でそう出迎えたのはウエートレスらしき黒髪のボブが揺れる女の子。

そして、あたしの目が釘付けになったのは、カウンターの中にいる店主らしき男。

だって、それはどう見たって…

「テン?!」

コーヒーを注ぎながらジロリとこちらを見ているその男は、テンだった。

「どーゆーことだーーーー?!」
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