恋愛テロリスト

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  第三幕 Dエリア最強〜Dエリア 1  

リンネが去った後のAエリア領主館
Aエリア領主以外立ち入り禁止の特別な一室にキョウはいた。
四方が壁で外から光の差し込まない中に唯一光を放つのはキョウが向かっているモニター
画面に映るマップに似た図面の、ある箇所が点滅している。

「Cエリアから・・・」
キョウが画面を切り替えるとモニターの向こうに見えるのは自分のよく知る人物のひとり。

「ビケ兄さん」

『元気そうにやってるみたいね、安心したわ。』

通信機器ごしでありながらも聞きほれてしまう声にキョウも一瞬惚けてしまいハッとなる。
同じ血を分けた兄弟でありながら、なぜかこの相手と話すときは妙な緊張感があるのだ。
キョウにとってこの一番上の兄「ビケ」は別格の存在だった。
少しでも気を抜くと心すべてが持っていかれそうな、そんな不思議な感情を湧かせる
特殊な存在

だがすぐに我に返り、Aエリア領主の顔になり
「いえ、・・・そちらこそ。」

少し緊張気味にそう言うキョウを見てビケは笑みを浮かべる。

『で、例のふたりはDエリアへと向かったのね。』

例のふたりとはもちろんテンとリンネのこと、キョウは頷き

「はい、鬼が島の指令通りに、Dエリアへと向かうようにと指示しました。」

『そう、ふふふ。』

「それから、ショウも一緒にいたのですが、行かせてよかったのでしょうか?」

『もしかしたら、ショウちゃんは鬼が島の指令で動いているのかもしれないわね』

鬼が島の指令?キョウには理解できなかったが、鬼が島に疑問を抱いてはいけない
それは暗黙のルールである、その思いを息とともに飲み込む。

「あのテンという男の危険性はわかるとして、あのリンネという少女は普通の少女のようでした。」

鬼が島が警戒しなくてはならない対象とは思えないのですが?

『Dエリアということは、キンのとこね。きっとキンが相手なら・・・・

おもしろいものが見れるかもしれないわね。』

モニターの向こうで笑うビケの言っている意味がキョウには理解できなかった、
そして鬼が島が考えていることも・・・・。




みなさんこんにちは、失望のどん底桃山リンネ十六歳、じゃなかった訂正十八歳です。ずーん。
落ち込んでいる理由は、もう言わなくても知っていますよね?いえもうどこかメルヘンの世界に逃げ込みたい!そんな心境なんです!だってだって・・・うううううう。
せっかく生まれ故郷の街Aエリアに戻ったというのに、到着早々テンが暴れてたぶん三人を絶命させちゃって、そんなテンから逃げたあたしはカイミという自称ショウの婚約者な台風娘に命を狙われ、さらに最後の難はAエリア領主のキョウから「Aエリアから出て行け」命令
そのキョウとの対話でわかった事実、あたしは自分の意思で二年前にAエリアを出て行ったとのこと。
記憶を売った今のあたしにはその理由がまったくわからない、あたしは救いを求めたAエリアに捨てられたのだ。あうううう。でもキョウはそんなあたしの味方であると言ってくれた。テンやショウと違いまともで、そして一番あたしの気持ちに近い人物と出会えて少しは救われた気がしたのだ。
そのキョウの薦めでまずは行方不明のおばあちゃんに会いに行けと。
さらに新情報、おばあちゃんはDエリア領主のもとにいるとのことで。
Dエリア・・・・Dエリア?!
暴力こそがすべてだというめちゃくちゃな思想の街、そんな危険な街になぜ?!
おばあちゃん、本当にそんな危険なとこにいるのですか?
あたしは、あたしはこれからどうすればいいのでしょうか?

「Dエリアに行くに決まっているだろう!」

うおぅっ、やっぱりそうくると思った・・・・

「テン!」

落ち込むあたしに慰めの言葉なんてかけてくれる男じゃないんだよね、こいつは

「ねぇ、ほんとーにDエリアにいると思う?」
おばあちゃんのことは心配だけど、それ以上にあたしはDエリアになんぞ行きたくなかったのだ。

「タカネを攫ったのは鬼門の連中だ!やつらの関係ある場所はすべて叩き潰せばいい。
AエリアだろーがDエリアだろーが、全部ぶっ壊す

愛の為生き、愛の為死せる俺に破壊できんものはないからな。」

だから、なんでそう破壊主義に生きる愛なわけ?テンは・・・・

「オッサンてもろDエリアの人間ってかんじ。」
呆れながら吐くショウにテンが

「それがどうした?ガキ」

「えっ、テンってほんとにDエリアの人間なの?!」

それにテンは「そうだ」と答えた。

テンはDエリアの人間・・・・・Aエリアのあたしには理解できない思想の持ち主だと思っていたら
Dエリアの人間だったのか!?

「とっとと準備を済ませて、Dエリアに行くぞリンネ!!」

「えっ、ちょっ」
一人燃えるテンにムリヤリ引っ張られて、そのすさまじいスピードにあたしは引きずられるように連れて行かれる。

テンに連れて行かれた先は、通りの奥まったところにあった古臭い小さな一軒屋だった。
そこでテンはそそくさと荷物を整えなおしている。
小さなリビングとキッチンらしいものがある程度の小さな家、ここは・・・・

「なにをぼさっとしている、とっとと準備をしろっ。」

「えっ、ちょっ、テン・・・ここって」
いきなり連れてこられてわけのわからないあたしはきょろきょろと周囲を見回していると、目に付いたのは

おばあちゃんの写真、そして一緒に写っているのはテン?!

写真立てに飾られたその写真を手にとってまじまじと確認した。

「俺とタカネの愛の巣だ。」

「ほんとうに・・・・おばあちゃんの恋人だったんだ・・・。」

今更なにを言う!とテンが怒る。まあ実際少し疑っていたから、でもこの写真の中のおばあちゃん
幸せそうに笑っている。
この笑顔をテンが独り占めしていたのかと思うと少しムカツキもあり、寂しくもあった。

部屋の中を見て回っていると、本当に質素で贅沢を感じるようなものはひとつもなかった。
引き出しを開けてみると、そこに発見した物にあたしは驚いた。

「これってまさか・・・・」
それは手紙だ。あたしがおばあちゃんに出した。それももうずーーーっと昔の、ほんとに数件の
おばあちゃんは大事に持っててくれたのだ、このウソだらけの手紙を。

「ヤバイ、泣きたくなった。」

「なんださっきからごちゃごちゃとこそ泥か?貴様」

「うるさい、どーせあたしは空っぽ人間ですよ。

Aエリアにはなにもなかった、あたしにはろくな思い出も、住む場所だってないんだから。」

涙と鼻水をすすり上げるあたしにテンは真面目な顔で語りだした

「空っぽか・・・・俺もかつては・・・タカネと出会うまではそうだったかもしれんな・・・」

「テン?」

そしてあたしは初めてテンの過去の話を知ることになった


「俺はDエリアで生まれDエリアで育った、強い奴だけが生き延び、弱い奴は死ぬ、Dエリアで生き延びるためには誰より強くなければならない、力も心も
食える物ならなんでも食う、欲しい物は力ずくで手にする。大人も子供も男も女も関係ない、強い奴に屈する、各居住区で最強になればキングの名が与えられる。
俺がNゾーンのキングになったのは9の時だった。9になるまで俺は敗北を知らなかった。自分こそ最強だと思っていた、そしてその時の俺の中にあったのは相手をぶちのめす事と腹いっぱい食うことだけだった。」

敗北を知らない子供ってどんな子供だ、あたしにはDエリアでの子供の生活とか想像さえできない

「だが俺はついに敗北を知る、俺を倒したのはリーダーと名乗る男だった。敗者は勝者に従う、それがDエリアの掟だった。その男は俺を拾い、俺を自分の集団に入れた。
リーダーはキメッサーと名乗る反鬼組織を作っていた、そこにいたのは俺のようなDエリアで勝ち抜いてきたギラついた目のガキばかりだった、たしか名前は・・・イチロー、ジロー、サブロー、シロー、ゴロー、ロクロー、ナナロー、ハチロー、クロー・・・・そして俺は十番目に拾ったガキだからと
テンと名づけられた。」

「テンって十って意味だったの?」

「リーダーは俺たちガキ同士を戦わせ競い合わせた。俺は奴らには負けなかった、他の連中が嫉妬するほど俺は強かったからな。俺たちはリーダーの思想の元、打倒鬼が島のため日々戦闘訓練を受けた。
俺は鬼が島にはなんの感情もなかったが、敗者である俺はリーダーに従うことが生きるすべてだった。
鬼を倒し天下をとる、リーダーのその野望達成のため、日々打倒鬼を掲げ、戦闘訓練に日々を費やした。
リーダーに拾われ八年が過ぎ、ついにその日が来た。俺たちは鬼が島に攻め込んだ、だが俺たちはあっさりと敗北したのだ。けっきょく鬼王の顔さえ見ることも叶わず、爆風によって俺は海へと流された。



その二年後だ、俺はBエリアの街でタカネと出会った。
あの、女神像の下でな。
俺は大事なものを失くした、だがそれ以上に大事なものに巡りあえた。
ただ生きることしかなかった俺に魂を吹き込んでくれたのはタカネだった。
日々に色をつけてくれた、感じることを教えてくれた

タカネに勝る大事なものなど・・・・俺にはないのだ。」

話の後半、一瞬切なそうな顔をしたのが気になったけど、

「失くした大事なものって、リーダーって人のこと?」
少し気になったので聞いてみたけど、テンは首を横に振った。

「俺の過去など、もうどうでもいい。

リンネ、お前は今たしかに空っぽかもしれん、かつての俺のように
だがきっとお前も愛を知れば、魂の向かうべき場所がはっきりするはずだ。
俺の向かうべき場所がタカネでしかないように。」

テンは、あたしに道を示そうとしているの?
だけど、よくわからない、あたしはどこへ向かえばいいのか
あたしにはテンみたいに目標がない

「今は俺とともにタカネを探すのがお前の道だ。」

テンはそう言いながら、準備を終えたらしく、肉のまんじゅうのようなものを口にしながら、それと同じ物をあたしに投げる。

「ちんたらするな、とっとと食え!」

口にするとなんともビミョーな味のそれ・・・・ショウのとこで食べたビーフシチューおいしかったなぁ・・・などと思っていると

「出る前にその格好を何とかしておけ!もっと動きやすいものにでもな、それからこれだ!」

テンが投げつけたのは、あたしがAエリアで捨てたはずの武器だった。
思わずキャッチ

「DエリアはAエリアとは違う、自分の身は自分で守れ、死にたくなければ戦え!」

「えっ、ちょっ、あたしDエリアになんか行きたく・・・」

死んでもそんな危険な街行きたくない!Dエリアに行くくらいならこのBエリアにいたほうがずっとマシよ!
そう主張したいあたしに間髪いれずテンは

「リンネ!お前はこのBエリアであのガキの愛人として汁にまみれて生きるのか、俺とともにDエリアに行くのか?!どっちだ?!」

「えっえっ、ちょっなにそれ?あたしにはその二択しかないの?!」ムチャクチャ

「当然だ、さあどっちだ?早く選べ!とっととしろ!」
またこの男急かすし

「そんなの、Dエリアのほうがまだマシ!!」
つい返答しちゃったけど、Dエリアに行くのも、Bエリアでショウのおもちゃになってレイトの殺意にビクビクして生きるのもすごくイヤ!!

どっちもイヤだ!!!
平穏な日々よ、どうすれば手に入るのか・・・よよよ。
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