恋愛テロリスト

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  エピローグ 2  

「ちっくしょーーー、ふざけやがってふざけやがって。なんだってこんな結末になっちまったんだよ」

この世とは違うその場所で不満をぶちまけるのは、現世とあの世の狭間にいる桃太郎。

「まったくだ。千五百年も待った私の想いと同じはずであろうに、なぜこのようになってしまったのか」

もう一つ、彼の隣で嘆くのは、桃太郎とは因縁深い相手、温羅。

「て、おいおいてめーもあっさりと諦めすぎなんだよ。バカか?てめーがぬけたからビケの野郎がリンネなんかにやられちまったんだろうが。てめーが残っていりゃぜってーこんなことにはならなかったぜ」

「仕方がなかろう。まさかあそこまで拒絶されては、私の精神も現世に留まるのが難しかった。それも桃太郎、そなたが先に消滅したのが悪いのだ」

「ふん、天下の温羅様逆ギレときたか、たくよ。でもよ、まあおもしろかったぜ、てめーの城が燃えてんのを見たときはよー」

グッジョブとばかりに桃太郎は嫌味な笑い声を上げた。それに温羅はムスッとする。

「燃えたのは最上部だけだ。あれならすぐに修復できるであろう」

「それも鬼王しだいだろ?すると思うか?あいつが」

うるさい!と温羅は桃太郎にほえて、ふぅーと溜息をついて遠い目になる。

「またお互い悔いの残る現世になってしまったな」

「ああまったくだ。だいたいなんだ?ビケのあほうとリンネの糞のガキくせぇ闘いなんぞで納得できるか?」

「リンネの糞はともかく、ビケのあほうとはなんだ?」

ぐわっと温羅が桃太郎に牙を剥く。実体があれば掴みかかってぶん殴って、いや半殺しにしている場面だろう。

「ああくそっ。このもやもやはどうやってはらせばいいんだ?」

んがーーと桃太郎はいらだつ。

「来世に託してみるか?また」

「おい、千五百年もかかったんだぜ?今度はいつになるかわからねぇ、もしかしたらもっとかかるかもしれねぇ」

「それでも待とう。私は待ってみせる。だからそなたも、また約束をかわさぬか」

「…ちっ。来世かよ。また先延ばしか。ふんまあいいぜ、今度こそヘマはしねぇ。だから温羅よ、てめぇも簡単に諦めたりすんじゃねぇぜ」

「ああ、わかった。約束だ」

二つの魂は激しく瞬きだした。今輪廻の波に乗る準備に入る。この世への未練を絶ち切り、来世へと望を託して。

「しかし、タカネ…」

名残惜しげに温羅はその名を最後につぶやいた。

「未練たらったらじゃねーか!おいっっ」






鬼歴1500年5月を過ぎた初夏の柔らかい風香る中、Bエリアにある某島にて、一組の男女が婚姻の儀を行うことになっていた。
その島は元々無人島で雷門の私有地であった場所。その二人の結婚式のために急遽作られたチャペル。白い建物を囲むように広がる庭園には鮮やかな花が咲き、周囲は緑色の芝生できれいに整備されていた。
二人を祝福するために島にはなじみの顔も集まっていた。


「おおーー、いー天気じゃのぅ。おてんとも祝福してくれとるようじゃのう」

芝生をじゃっとふみしめて、空を仰ぎながら嬉しそうに笑うのはキン。今日の彼はまともに服を着ている。しかもしゃきっとした祝い事に着用する白が基調の着物姿。

「ほんとにいいお天気でよかったわね。今日はきっといい日になるわね」

キンのほうへとにこにこと無害なほどの優しい笑顔を放つ老女が歩いてきた。彼女に気づくとキンはさらに笑みを広げて歓迎した。

「おおっ、タカネばあちゃんか。よく来てくれたのぅ」

感激のあまりタカネに抱きつきそうな勢いで迫るキンを、鋭い気を放ちながら遮るのは

「おい、タカネに近づくな!」

この日ばかりは武器携帯ではないが、今にも殺しかねない気を放つかつてのテロリストがキンとタカネの間にサンドイッチされるように入り込んだ。

「おおっテン!ひっさしぶりじゃのう。相変わらずで嬉しいわ」

動じることなくテンの登場に喜びを露わにするキンだ。

「俺はこんな式など興味がないが、タカネの付き添いだ。ふん、わざわざ店を閉店してまでな」

相も変わらず無愛想な表情でそう吐くテンに、「変わらんのう」とキンは笑った。
キンがタカネと初めて顔を合わせたのはこの二月の鬼が島にてだが、お互い前世の記憶を持っているため、不思議と親しさをすぐに感じた。

「キンさん、またいつでもカフェテンに遊びにいらしてね。かわいいかわいい白猫のハバネロちゃんも待っているわよ。クローさんもまた会いたいと言っていたわ」

「おお、そうしたいところじゃが、最近ワシも忙しゅうてのう。しかしこうしてばあちゃんにまた会えて嬉しいわ」

「ええ、私も。キンさんと話しているととても懐かしい気持ちになるのよ」

「おお、ワシもじゃ。タカネばあちゃんと話しとると、こう心がぽかぽかしてくるんじゃ」

楽しげに微笑むタカネに、嬉しそうにほんのり頬染めて笑うキンにその空気を切り裂くように声が飛んでくる。

「タカネに近づくな!」「タカネから離れなさい!」

一つはテンと、もう一つ重なるように飛んできたその声は。チャペルの立つ丘のほうからゆっくりと階段を降りてくるのは、スーツ姿の赤い髪を短く切りそろえた美しい青年。

「ビケ!」

嬉しそうに笑顔で彼に呼びかけるタカネとは対照的に、テンは眉を寄せ不機嫌そうな顔を見せる。
階段を降りてきて、ビケはタカネの前に立つ。タカネに柔らかな笑みを向けた後、彼女のすぐ横に立つテンには鋭い視線をギンと効果音つきで向けた。負けじとテンもビケを睨み、二人の間にはバチバチと火花が散り始めた。

「ビケ、貴様タカネのことは諦めたはずだろうが?タカネに近づくなというのがわからんのか?」

しゅばっとタカネをかばうようにテンは盾のように彼女とビケの間に立つ。そんな敵意ビンビンのテンをビケは涼しげな表情で「ふん」と鼻で笑う。

「ええ、タカネへの想いはちゃんと区切りをつけたわよ。その証拠にタカネのまねごとも辞めて元の姿に戻したしね」

以前のビケはタカネのような女性的な衣装を身に纏い、髪も黄色く染めて、長い髪を結っていた。が、今の彼は赤い髪を肩よりも短く切りそろえている。美貌は変わらないが、以前と比べれば男性的になったといっていい。
タカネはこくりと頷いて、嬉しそうに笑みながら

「やっぱりそのほうがいいわ、ビケ」

「ふふ、タカネが言うなら正解ね」

「兄者、髪も短くなってさらに男前度も上がったのう。…しかし、しゃべりはそのまんまなんじゃな」

むぅ、と首を傾げるキンに、ビケはあっけらかんと答える。

「長年使ってきてしみついちゃってるからね、ムリして直すこともないでしょう。それに、一つくらい残っててもいいでしょう? 私がタカネを想った大切な証が…」

タカネを見つめながら、ビケは目を細める。

「兄者未練たらたらじゃーー!どこが諦めたんじゃーー?!」

「そうだビケ、貴様いい加減にしろ! ただでさえ許しがたいことをしてきておいて」

「そうじゃ!兄者、ちゃんと謝ったんか?」

うるっさいわねー。と迷惑そうにビケが息を吐く。

「ええちゃんと謝って許してもらったわ。だから今はこうして和解しているでしょ、タカネと」

「ばあちゃんにだけかいっっ!?」

「ええそうよ。それがどうしたというの? 他にだれに謝れと?」

「正気か?!」

「まあまあだめよ二人とも、ケンカをしては。今日はおめでたい日なのだから。仲良くして、ね」

タカネの仲裁にキンがたじっとなる。

「タカネのいうとおりよ、キンいい加減になさい」

「ええーー」

ビケのあからさまな態度に思わず唇を尖らせるキンだった。
「それよりもタカネ」
とビケがチラリと挑戦的な笑みをテンに向けながら、タカネに話しかける。

「テンに嫌気がさしたならいつでも遠慮なく私のところに来てかまわないのだからね」

「なんだと、ビケ貴様!」

ギャンと怒りのオーラをなんかもうソウルを放つ勢いでテンが吼える。

「兄者ー、やっぱり未練ドたらたらっじゃー」

再びテンとビケの間にすさまじい火花が飛びはじめる。

「もう二人ともケンカなんてダメよ。まだ仲直りをしてなかったの? いけないわ、この機会に仲直りをしてちょうだい、ね」

すっ、とタカネはテンの片手とビケの片手を掴んで、二人を握手するように促した。タカネの手前はじけるわけにはいかないテンとビケは、口元をひくつかせながらも握手を交わした。

「はい、これで仲直りよ。もうケンカなんてしないでね」

にっこり。女神のような、いやある意味邪神かもしれない、無敵のオーラを放つタカネだった。

「最強キャラはタカネばあちゃんじゃったんか。あのテンと兄者を黙らせるとはさすがじゃのう。
ワシ、ばあちゃんに弟子入りしようかのぅ…」

うむうむと頷いて、キンはハッとしたように顔を起こした。

「いやいやいかんいかん。ここはBエリア、ワシの管轄じゃ。タカネばあちゃんに仕切られてどうするんじゃ。
ここでの主役はワシじゃからのう。兄者やテンにデカイ顔させんぞ。二人とも式が終わるまではきっちり大人しうしてもらうからな」

己の使命というか立場を思い出したようにキンがズンとでしゃばる。

「ほぉ、お前私に偉そうな態度がとれる立場かしら? お前をBエリアの領主に任命してやったのはだれかしら?」

ジロリと冷たい横目でビケが睨む。ズオオオ…とビケの背後に仁王のような幻が見えてくるような。反射的にキンは萎縮してしまう。

「な、なんでじゃ? 兄者からは温羅が消えたはずなのにこの気は…、邪気に近いようなこの気は兄者本来のもんじゃったんか?」

むむむ、と唸りながらキンはビケから数歩距離をとった。

「(それにしても兄者はほんとに心が狭いようじゃからのぅ。兄者から温羅をとったらええところが顔しか残らんし。ほんとにこの人が鬼王でええんか? 本当に…)」

ジロリと再びキンを横目で睨んできたビケにキンはまたビクゥッとなってしまう。

「(まさか、心は読めんじゃろ、さすがにな)」

冷や汗たらたらたらす弟をよそに、涼しい顔でタカネへと向くビケ。

「それはさておいて。まあいろいろあったけれど、温羅が離れてタカネへの想いに幕を下ろせたのも……、
リンネのおかげかもしれないわね」

あの炎の中で、殺し合った少女のことを思い浮かべる。あの時、リンネから受けた傷は、塞がった後もくっきりと傷跡が残っている。露出の少ない衣装ばかりのビケでは、表面からそれを確認できないが。その傷は強く彼の体に残っているという。

「兄者に真っ向からぶつかっていったおなごはリンネだけじゃったからのう」

「ええ、リンネの想いはちゃんとあなたに届いたのね」

タカネは嬉しそうににっこりと微笑む。

「やっと気づいたわ。私にとって一番大切なのは、リンネだってね」

「まあ、ほんとうに」

「む、ちょっとまたんか。兄者がリンネを好きとは信じられんぞ」

今までが今までだけにとキンが反論する。

「そうだビケ、貴様リンネは隠れ蓑でタカネ目当てだろうがっっ!さっきからタカネばかり見つめやがって気色悪いにもほどがある」

噛みつかんばかりの勢いのテンも。

「そうじゃ、100%ばあちゃん目当てなんは見え見えじゃ。兄者の嘘つきぶりは今にはじまったことと違うからのぅ」

「ちっ」と舌打ちながら弟とかつての友を睨むビケ。
三つ巴バトルに発展しかねないオーラを放ちだしたそれを止めようとタカネの声。

「もうだめよケンカは。今日はおめでたい日なのよ。!あら」

なにかに気づいたタカネが、三人とは別の方へと視線を変えた。三人もタカネと同じ方向へと目を向けて一時休戦。皆の視線を集めたのは、ビケがやってきた方向から現れた白いタキシード姿で正装の青年。皆の視線を一気に集めた青年は、眉間にしわを寄せてとまどいの顔を浮かべる。

「おお、本日の主役の登場じゃな♪」
「ほんと、よく似合っているじゃないキョウ」

にっこりと微笑む彼らに、不器用に苦笑で返すキョウ。彼らの一触即発の空気を感じ取ってなのか、それともまた別の理由からなのかは彼にしかわからないところだが。

「ええほんとにステキだわ。キョウさんおめでとう」
「はー、わが弟ながら惚れ惚れするのう。しかし、弟に先越されるとはなぁ」
「ねぇ、とんとん拍子に話が進んだらしいじゃないの。なんにしてもめでたいことだわ、おめでとうキョウ」

「…いえ、それは…」

複雑な表情を浮かべ、意味深にビケを見つめるキョウに、ビケは「なぁに?」と弟に問いかける。

「どうしたの?キョウ。なにか私に言いたいことでもあるのかしら?」

キラーンと不気味に光るその長兄の目に、数秒にらみ合うこと先にキョウが視線をそらした。
そしてビケにはかまうことなく(むしろかまいたくないほど)、視線を別のほうへと向ける。階段の上から彼らを見下ろす位置に立つキョウからは、タカネたちがいる広場が広く見渡せた。そこに確認できるのは、キンとビケと、タカネとテンだけ。キョウが探す人がそこにもいないことに気づき、彼は問いかける。

「あの、…リンネはいないのですか? 他の場所にもいないようなので」

キョウのその言葉に「あら」と今気づかされたとばかりに皆が声を上げた。

「お、なんじゃ? どこにもおらんかったんか?」

「ええ、一通り島の中は探したのですが…、ここしばらく連絡もつかなくなったので。来ているかどうかもわからないので」

「ワシも見とらんぞ。てっきりばあちゃんたちと一緒に来るんかと思っとったが…」

「タカネは俺と二人っきりで来たに決まっているだろうが」

「(いちいち自慢かしら? また海の底に沈めてやろうかしら、この男…)おかしいわね、来てないんじゃないの?もし来ているなら真っ先に私に会いに来るはすでしょう」

「(なんつー自信過剰っぷりじゃー)今でもリンネが兄者を好きとは限らんぞ? リンネのやつ、鬼が島で兄者をぼこったことでスッキリしたみたいじゃしのー」

兄弟間で戦争が勃発しそうなのはさておき、リンネの行方を唯一知っていそうなタカネがキョウの問いかけに「あら、まだ来てないの? おかしいわねぇ」と答える。

「リンネなら、たしか二週間くらい前にショウさんが誘いに来て、でかけたのよ。式には余裕で間に合うからとは言ってたのだけど。…私のほうも連絡がとれてなくて、あらほんとどうしたのかしら?」
とはいいつつ、あまり心配をしてなさそうなタカネ。リンネなら大丈夫よ。と思っているからだろうか。

「おお、そう言えばショウのやつも来とらんな。まああいつははなから来る気なかったようじゃからええとして」

「タカネさん、リンネはどこに出かけたのかわかりますか?」

心配そうに身を乗り出しながら訊ねるキョウ、タカネはのんびりした空気のまま「そうねー」と思い出すように斜め上に視線をやりながら返答する。

「山登りに行くんだって言っていたわ。たしか……鬼の角とか言ったかしら? そんなお山近くにあったかしら?」

タカネの言葉にビケがピクンと反応する。

「そりゃ主要四エリア外じゃ! 鬼の角言うたら、たしかCエリアのずっと北西にある山のことじゃろう」
「あらあら、そんなに遠くなの?」
「遠くなんてもんじゃないわばあちゃん。なんで行ったんかは知らんが、主要エリア外にはろくな移動手段もなかろうしな」
「しかしなぜショウはリンネと山に?」
首を傾げるキョウとキンとタカネ、だがビケにはわかったのだ、その理由が。

「ショウちゃん…私への当てつけね? ふふふ、そういうこと、二度ならず三度もこの私を裏切るというのね。あの子にはたっぷりと教えてやらなきゃいけないわね、身の程を」

前世と現世の区別くらいきっちりつけましょうね、ビケさん、なんて言ってもムダなのだ。すでにビケは黒いオーラを身に纏い動き出していた。
この時点でショウから未来はなくなったと言っても間違いではなかろう、かわいそうに。
ギランと不気味に目を光らせたビケは、通信機を取り出し、なにかの呼び出しボタンを押した。そして数分もしない間に、上空には一機のヘリが現れた。

「悪いわねキョウ、急用ができたからここで失礼するわ」
「え?ビケ兄さん、まさか…」
「兄者、まさかヘリで行くつもりなんか?」

ヘリの起こす強い風に、皆身を屈めたり踏ん張って耐えている。こんなところでものすごい私情によってヘリを呼びつけるビケの非常識っぷりに怒りを露わにしながら、テンはタカネを抱きかかえるようにして強風から庇う。

「今度は私が追いかける番ね…。それじゃあタカネ、また会いましょう」

ヘリから伸びてきた縄梯子につかまり、ビケは空へと舞い上がる。力強い足で耐えていながらも強風によってキンの口は「あばばばば」になっていた。「兄者待たんかーー」と言いたかったらしい。
ヘリがかなり小さくなってからやっと「またんかーー」と言えたが、すでに本人には届いていないだろう。

「悪いの、キョウ、ばあちゃん。ワシも急用じゃ。また会おうぞーー」
と叫びながらキンは船着場へと走っていった。そんな彼の背中にキョウが叫んだ。

「キン兄さんがんばってください!(私の分まで…)」はぁー。と意味深に溜息を吐いて新郎キョウはうな垂れた。

「たく、騒々しい連中め。しかしあのゲイ猿め、徒歩で行くつもりじゃなかろうな」
関わり合いになりたくないといった顔で見えなくなった彼らをテンは見送った。

「ふふふ、きっと一番がんばった人に女神様は微笑んでくださるはずよ」と、見えなくなった人たちにタカネは笑顔で手を振った。






皆さんこんにちは、桃山リンネです。ただ今あたしは、ひたすらに山を登っておる最中なのです。
なぜ山を登っているかって? 遡ること二週間前、ショウから聞いた「てっぺん極めれば願い事が叶うという山」の話。なにその乙女ちっくな伝説は?! だいたいパワースポットとか神頼み的なこと、そんなことに簡単にすがれるでしょうか? しかしあたしはそれにすがった。なぜなら、必死なんです受験生は。この数年勉学から遠ざかっていたのが思っていた以上に障害だった。まったくもってわかりません。記憶をなくしてからは、トラブルやらバトルやらで、危険察知能力や体力はついたものの、その代償でおつむのほうは退化するという悲劇。Aエリアで通学することができないため、復学はムリかと思っていたけど、通信教育なら可能ということで、それにチャレンジすることにしたんだけど、ただ資格をとるためには試験に合格しなければいけないため、試験に向けて勉強しているわけですが…、はい前記のとおりなのですよ。
まあ伝説頼みはさておいて、新たな人生の第一歩という儀式的な意味も兼ねて、登山はいいかもしれないと思ったのだ。
で、ショウの言うその山「鬼の角」ってのがどこにあるのかあたしはさっぱりだったもので、そこを知るというショウを頼りに向かうことに、しかし、しかしだよ、このバカもといあたしの連れのショウは樹海で迷いやがったあげく、「もういいじゃん」とかあきらめやがった時はさすがに温厚なあたしでも殺意抱きましたよ。白骨ダンシンなんて趣味じゃありませんからっっ。なんとか樹海を抜けて、その目的地「鬼の角」という双子山へと登ることに成功したのです。


「たく、あんたのせいでとんだタイムロスになったじゃないの。場所ならバッチリとか言いやがるから、信じてついてきたっていうのに」

その脳に方位磁石埋め込んでやろうか?マジで。
はあ、しかし、鬼が島の城もそうとうだったけど、山って結構キツイ。足がもう自分の足じゃなくなっているみたいな感覚。だけども一歩でも一歩でも進もうと勝手に足が前に動いている。もう無意識に近いかんじで。
それにここまできたら、てっぺんの景色見てからじゃなきゃ、帰れない。

「でもおかげで貴重な体験できたじゃない。白骨ダンシンとかさ」

思い出させるなーーー!ふんがー

「で今日って何日? はー、こりゃ絶対間に合わないだろうなー、キョウとカイミさんの結婚式。にしても早いよね、やっぱ最初から両想いだったってことなのかなー。うらやましい」

「は?どう考えたってやっかいもの押し付けられただけじゃん。キョウ兄かわいそう。まあボクじゃなくてせいせいしているけどさ」

「あんたは、身内の幸せくらい素直に祝福してやれんのかね」

「は?…リンネの無神経っぷりに比べたら相当マシだと思うけど。まだ気づいてないんだ…?」

ショウがなに言いたいのかしったこっちゃありませんが
「両想いなんて、あたしには遠い次元のことですよ。想いをぶつけるだけで全エネルギー使い切っちゃったかんじだし。でもそれがあたしにとってはせいいっぱいの行為だったからね。あの世界を超えたから今のあたしがあるわけだし。やれるだけやれて、スッキリしたもの」

好きな人に自分を好きになって欲しい。恋する女の子にとってそれは当たり前の感情で、そうとう我侭な攻撃的な感情だ。記憶を受け入れて、ビケさんの想いを知って、自分の気持ちを正面からぶつけることを決めた、暴力という破壊的な手段を用いて。あたしの想いがビケさんに届いたかどうか、結局のところわからないまま。だけどあの殺し合いがムダだったとは思っていない。あたしにとってはプラスになったと思っている。少しだけ、前よりも好きになれそうな予感がするから。
それはあたしが、だれよりも見なけりゃいけない人。

「やっと気づいたこと。今あたしが好きになってみたい人」

「へ? だれだよそれは」

後ろのショウに、ニカッ、とはにかみながら答える。

「桃山リンネ」
「ナルシストの道?」

あたしはあたしを好きになってみたい。あの人に想われるためなんて、あたしにははるかに及ばない遠い世界なのだから。まずは、目の前の自分を好きになれるようがんばろう、己を磨くことから始めるのだ。その第一歩が勉学に取り組むことなのよ。脱ゴミクズですから。だからせめて…まずは人並みの学力をば…ってね。はー、Aエリア時代は趣味お勉強だったくせに、まったくできないなんて、あたし…どんだけなの。

顔を上げると山から下りてくる涼しい風が体の中をくぐりぬけていく。眩い物がの影の向こうから見えてきた。あと少し、土の道を踏みしめて、てっぺんにたどり着く。
はぁ、やっとたどり着いた。そこから目に映る景色が壮大すぎて、あたしは一瞬言葉を失う。がくがくのはずの足も疲労も、吹き飛ぶほどの美しすぎる世界。
すぅーー、思い切り息を吸い込む。叶えたい想いを言葉にして共に吐き出そう。
さぁ、ここから始まるあたしの人生第二章。


「番外編もよろしくねーーーー」

?! いきなり間違えた。
前途多難な予感、なの?
人生七転び八起き必須ってね。




恋愛テロリスト本編終幕。
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Copyright (c) 2012/07/14 N.Shirase All rights reserved.
 

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