恋愛テロリスト

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  第一幕 はじまりの街~Bエリア 5  

「はぁーーー。」
トイレの便座に腰掛けながらあたしはため息をつく。
さすがにトイレの中まではついて来なかったのでほっとはしているものの、なんとかあのショウ、あんどその他ををかわしつつAエリアに戻る方法はないものかと、
考えつつトイレに篭って十分が経過したかという時…

「リンネー」

びくっ…
今のは
今の低いあの声は……まさか

「うわっ、なっなによ?!」
視線を少し上に向けると、トイレ上部の小窓からこちらを覗いていたのは

「テン!!」

「リンネ、お前ちゃんとタカネを探しているんだろうな?」

うっ、おばあちゃん……
のことよりあたしはあたしのことでいっぱいいっぱいです!

「リンネ…お前まさか……」
テン鋭い目であたしを疑うかのような口調で

「あのガキに惚れているのか?」

「は?」

「いやつまりはあれか、財産目当て、か?!!」

……えとー、なんですか?全部つっこまなきゃいけないんでしょか?

「お前が誰とねんごろになろうが俺が口出すことではないが」

ねんごろって!? また変な表現で…て違いますっての!!

「だが、絶対にあのガキに心は許すな!
鬼門の奴も雷門の連中も俺たちの敵だ。

たとえ体は許しても心は許すな!わかったなリンネ!」
とまたまた強い口調で…っておい

「あたしの体はどうでもいいんかい?!」

「リンネ、これを見ておけ。」
テンはトイレの小窓の隙間からなにかを押し込むように入れた。
それは小さな紙切れのメモ

「見たらすぐ、クソと一緒にトイレに流しておけ。」

「え…うん。

!ちょっク…てあのね
してませんから!便秘で篭っているわけじゃありませんから!!」
あのヘンタイから避難しているだけですから!

「リンネ、俺がお前をここから救い出してやる。
その代わり、誓え!
俺に協力しタカネを助け出すことを。

そしてやつらと戦う決意を固めろ!」

「えっえっ、ちょっ」
あたしが返事をする前にテンはまたささっと去っていった。
その直後、また爆発音がした。
おそらく、またあのテンの仕業だ。

やっぱりムチャクチャな男だ、そして神出鬼没。
胡散臭さ極まりない
だけど、
このBエリアではあたしのたった一人の味方…なの?

テンを信用するかどうかは置いといて、まず第一に
このBエリアから脱出することを考えなくっちゃ。
そしてあたしはテンが渡したメモに目を通した。

!!!???

これを実行しろと??

その時外の庭のほうから
「ドッグーー!!」
声がした、おそらくレイトってやつの

DOG!!!!!



ショウのとこに来て、ろくなことがないと落胆していたあたしですが…
はうう、この匂いはvvv
あたしの大好きなビーフシチューvvv
どんな状況にあってもごはんは安らぎです、癒しです、幸です。
それが大好物であるならなおさらです。
いただきまーすv…てアレ?スプーンは?

「そのまま食べるんでしょー?犬みたいにはがはがと食えv」

くぅ、やっぱりそうくるか、この鬼畜野郎がっっ
でも、まいいや、大好きなビーフシチューが目の前だもの
それになにもこんなバカ(ショウ)の前で格好つける必要なんてひとつもないし、
犬みたいにはがはがと食う!!

「フン、まったく汚いクソ女めっ

それよりショウ様、先ほども言ったとおり、お気をつけください。」
いつものようにあたしを罵った後、レイトはショウに不安な顔を見せながら注意を促していた。
レイトとは対照的に、ショウは変わらずのー天気にシチューを口にしながらはいはいとテキトーな返事を返していた。

「あー、また爆発があったっていうんだろ?
いーじゃん別にDOGの一つや二つ壊されたってさー。」

「DOGのひとつやふたつじゃありません。あれは殺人予告です!
見てください、これを!」
そう言ってレイトがショウに見せたのは、あのヘルメットを被ったにゃんこ。
そのにゃんこをショウのほうに背を向けるようにくるりと回して見せた。

「にゃんこ兵がどうしたんだよ…!あっ」
ショウが身を乗り出して確認したのは、にゃんこのヘルメットの後ろに書かれていた文字

「タカネを返せ今すぐに返せとっとと返せ即返せせめて返却期間は守れ
さもなくば殺すガキ領主をピーしてピーしてピーしてくれる。
俺の愛を阻む輩には死をくれてやる。くくくくくバカがっっ
愛のテロリストより
あ、ピーの部分はあまりに残忍な表現だったので私の判断で伏せてみました。」

テンだよ、思いっきりテンだよ

ぶばっ
思わずシチューを吐き出してしまった(泣)んもぅっ

「なにやってんだよ、きったないなぁ」

「このクソ女がっ、やはり早々に処分…
ショウ様、もう少し危機感を持ってください。今はもう反鬼テロ組織はほとんどいなくなったとはいえ
まだ中にはそういった輩も…。
我々がついているとはいえ、万が一ということもありえなくは
ショウ様になにかあれば、私はカイミお嬢様に」
とにかく必死なレイトだが、ショウはソレにつられる様子もなくのん気にメシをぱくついている。

テンが動き出した、あたしも動かなきゃいけない。
このBエリアから助けてくれるって、あの言葉を、あいつをなぜかあたしは信じている。
根拠はやっぱりない。だけどあたしはなぜかテンに対してそこまでの危険さを感じてはいなかったのだ。
彼を同士だと感じている自分がこの後にいるものだと、少し前のあたしなら信じられない事実であろう。

そしてあたしも動き出すことに
テンのメモに書かれていたことを実行することに
でもでもうわっ
いや、もうやるしかない、あたしはとにかくこんなわけのわからん状況から抜け出したいのだから

ショウが食事を終える瞬間を狙って、仕掛ける。

「ショウたま、食後の毛づくろいはしにゃいの?」

「は?」

は?…ってなにやってんだよ?なにしたいんだよ?お前って意味でしょ!わかるよ!
自分でもそーとーさっぶいってね!
て、とっさに思いついてやったのがコレなんて
招き猫みたいなポーズで、アプローチをかけている、あたし、大丈夫かって?
でなんでこんなことやってんのか自分って話ね?!
それはあのテンからの指令「お前のないに等しい色気を振り絞ってあのガキをメロメロにしろ!」だった。
よけーな一言つけんな!!(ムガァッ)てメロメロってなによ? そんなやったこともないことできるんかい!
でとっさに思いついたのがこれ
いやヘルメットネコが気になっていたんだけど、たぶんだけどショウって…猫好きみたい。レイトってやつには辛らつな態度だけど、にゃんこには撫でたりかまったりと、明らかに態度が違うし。うん、オーラが違うもの。ええもちろん、あたしもにゃんこの待遇のよさはどうかなんてちょっと思ってた。別に猫以下扱い…泣いてませんから!
だから猫のモノマネしたら、ちょっとは受けいいかななんて思ったりして。ああでもここで恥ずかしがってためらったら、余計アレだ、恥ずかしくてやっばい。
てへ、とか、ぺろっとか、うにゃ、とか、自分なりににゃんこ娘っぽくやってみる。

「ついにイカレるとこまできたかクソ女、ショウ様、食後に申し訳ありませんが、今すぐ処分を」
ガタリ、と席から立ち上がったレイトの氷の視線があたしにと突き刺さる。

あーもーメロメロっていうかあたしがヘロヘロやんけー

「なんだそれっっ、かわいこぶってるつもりかよ、しかもなんのモノマネだっての、…ひっで似てねぇ」
ショウのやつ、テーブルをダンダンと叩きながらぶくくくとウケてる。ここまでマジ受けされるなんて、なにこれショック受けたほうがいいの? モノホンのにゃんこのかわいさには勝ち目なしってことですか? そのとおりだという声がどこからともなく聞こえてきそうなのは気のせいですか?

背後のレイトの凄まじい殺気を感じながらも、あたしはにゃんこっぽく、こっぱずかしいしぐさを続けている。
これは確実にレイトの怒りゲージを上げています、わかります、肌でひしひしと感じてます。
でも、ショウには……ウケてます?よね?
ヘンタイ趣味のあるショウにはこーゆーマニアックな攻めがいいかと思って、あたしなりの判断
ヤタ!正解ですか?
と喜んでていいのか?!後ろからギリギリと、歯軋りのような音があたしの耳に…
ついに我慢の限界に達したらしいレイトが引き金に手をかける。
ヤバイ
とっさに両手を、バチッとクロスさせて
「らぶりーにゃんこバリアーー」
とっさにってなにやってるんだ自分、こんなんでなんとかなるわけがないし。
もう自分ぶっ壊れてます!
バリアーが発動…したわけはないが、銃口から凶器が飛んでくることはなかった。

「ふぇ?」
よく見ると、レイトの指と引き金の間にフォークが刺さって?

「ショウ様…」

ショウが投げた?
見るとさっきまでケタケタと笑っていたショウは不機嫌な顔をレイトに向けながら一喝。

「レイト、お前今度勝手なことしたら本当にカイミの元に強制送還だからな!!」

「!!!!???ショショウ様」
どうやらそのセリフ、レイトへの精神的ダメージはすさまじいらしい…てカイミってだれよ??

うな垂れるレイトを尻目にショウは立ち上がり、あたしの手を引く。

「そこまでするなら、してもらおうかな? 毛づくろいw」
これって、とりあえず成功…したのかな?


はぁー、心臓とまるかと思った。ばくつく心音が少しずつ穏やかになっていく。まったく、あのレイトって奴とんだキチガイ野郎だよね。まったくもう、Bエリアってろくな男いない。
必死こいて恥ずかしいモノマネしたかいあったのかも、ショウのハートはガッチリキャッチできたのかな。
最初に連れてこられた部屋へ、あたしは連れてかれる。メロメロにできるかはともかくとして、にゃんこパワーで少しは油断させて…
「痒いところあったら、かいてあげるにゃんv」
なんてにゃんこポーズで迫ったら…
「お前いい加減にしろよ。それ以上にゃんこ侮辱したら、全宇宙の猫好きがぶっ殺しにくるからな」
え、えええ、ええええーー!?
殺意全開の目でこっち睨みつけてきた。なんで、どういうこと? さっきは受けてたのに?
うえええーーー?
固まったあたしの顎を、ショウが下からガッと掴んで持ち上げる。あたたた。
「にゃんこ様には百年かけても敵わないだろうけど、そこまでいうなら特別に、毛づくろいさせてやってもいいけど、ほら、舐めろよ」
「えぐっ、うえっ」
ぐいぐいと口元に手を押し付けてきやがった。んもぅ、やってやるわよ、手…手くらい舐めてやるんだから、これも、Aエリアに帰るため、帰るため…。帰ったら忘れてやるんだから!

いざっ! 帰るためって言い聞かせて、あたしはショウの手を舐める。にゃんこの舌みたいに、ステキなザラザラ感はないけど、人を舐めるとかやったことないし、口端からヨダレが伝い落ちるよちきしょー。人の尊厳なんて、もう今は忘れて、ああ忘れたい。
「……」
「…はの、ろうれひょうか?」
気持ち悪くて、舌が上手く回らないんですけど。そーと無反応のショウをうかがい見る。
「ヘタクソ、ここまで舌使いが下手な奴っているんだ」
舌使いでここまで酷評もありえないんですけど、まったくヘンタイの価値観は理解不能って、ちょっ!?
「っなにし…」
がっと肩をつかまれたと思ったら、むき出しになった胸元に、なめくじがはったような跡。
「ヘタクソに手本見せたげるよ」
「ちょっっやめっっ!? ひぅっ」
なんであたしが舐められなきゃいけないの? しかも、胸は…胸は止めてってか、そこはっっ!
「やっっ」
反射的に暴れだしそうな足が、ぴたりと止められる。冷や汗が伝う。下手に暴れたら、噛み千切られるっての、なんか本能的に察知して。
ノーガードのあたしのいたいけな右乳首は、ショウに軽く噛まれた状態で、ええまさに人質状態です。上目遣いで、にやりとショウが笑う。

固まったまま、身動きが取れない。敏感な場所に恥ずかしい刺激を受けながら、あたしは耐えるしかなかった。
「にがっっ」
はい?
急にショウがえずいたおかげで、恥辱の時間は終わったわけだけど、その理由が、あたしをさらに地獄に突き落とす。
「お前の乳首、苦くてマズイんだけど」
と言い残して、奴はおそらく洗面所へと向っていた。

神よ! 今すぐあやつを地獄の底へと突き落としてください!!
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