恋愛テロリスト

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  第一幕 はじまりの街~Bエリア 3  

「ちょっとぉ!だれがヘンタイよ!」

思わず窓を開けあたしは通り過ぎようとしたその男を追いかけた。
あたしに気づくとそいつは立ち止まり、くるりとこちらへと向き直った。

もういろいろあってわけわかんなくてストレスの発散場所を求めていたあたしは、
言いたかったことをこいつにぶちまけていたのだ。

「好きでこんな格好しているわけじゃないんだから…」
とあたしが言ったのと同時に向こうが
「見損なったぞ!リンネ!」

は?

いきなり怒鳴られてしまった……は? なんで?

「二年前、突然消息不明になった上、一度もタカネに連絡もよこさず
なにをしていたのかと思えば、あんなガキ領主の愛人など…
このっっバカがっっ!!」

「はい、はい?」

なぜこの見ず知らずの「自称おばあちゃんの恋人」という怪しげな男にあたしは怒鳴られているんだろう。
しかも、バカって・・・!

「ちょっと待ってよ!だいたい愛人って・・・違うしっ!
あたしだってもうわけわかんないんだから、気がついたらBエリアの街を歩いていて、
愛人形屋だとか変なとこに連れて行かれて、それで領主のとこにいけだとか言われて、
変な連中に囲まれて、領主はとんだヘンタイ野郎で、こんな格好するはめになっちゃって。
なんかもうぐるぐるで・・・もう、
こんなにわけわかんないことが起こるの十六年の人生の中で初めてよ!」
とりあえず腹の中に溜めてた物をぶちまけてやった。
まだ混乱しているけど、相手が誰であれ、ぶちまけてやりたかったのよ、ああ少しすっきり。

と思っていたら、その男の反応がさらにあたしを混乱の渦へと陥れることに。

「は?十六年? なにを言っているリンネ、貴様今年の二月で十八になっているはずだろーが」

「はい?」
なんでアンタにいきなりあたしの年齢を否定されなきゃならんのだ?

「ちょっと失礼ね、あたしはまだ十六歳ですけどっ! なんであなた相手にサバ読む必要があるんですか?!」

「バカめっ、お前は数の計算もできんのか。

お前の誕生日なら俺はよく知っている、いつもタカネが気にしていたことだからな。
1481年の2月3日だろう。」

「たしかにあたしは鬼歴1481年2月3日生まれだけど。」

「ならば計算すればたしかに十八になるではないか!」

は?この人こそ計算できない人なんじゃー。
今は1497年だからあたしの誕生日を引けば…十六になるでしょ!

「1499引く1481はいくつだ?!」
いきなり教師みたいに質問してきたよこの人・・・というか99って・・・この人のカレンダーは未来に少し進みすぎてるんじゃなかろーか、かわいそうに勘違いしちゃって、Bエリアの人ってきっとこんな勘違いして生きてきちゃっているのね、可哀相に。

「あのね、今は1497でしょ!だから計算してもちゃんと十六になるの!」
半ギレで主張した
「・・・・・・」
しばらく男は沈黙、あれ?やっと自分の間違いに気づいたのかしら?
するとそいつの口からは驚く発言が


「リンネ・・・お前まさか、記憶を売ったのか?」
一転少し驚いたかのような表情であたしに問いかける・・・てうん?記憶を売ったとかってどういうこと?

「リンネ、お前自分でも知らんうちにBエリアにいたと言ったな。」

「うん・・・。」
確かめるように男が問いかける

「そしてお前は失踪後、この二年音信不通になった。Aエリアから姿を消していた。
そしてこのBエリアに現れ、自分でも今の状況をよく理解しとらんようだ。
そして今を二年前の1497年だと思い込んでいる。
となると、おそらく、いやたぶん間違いなく、
リンネ、お前はこのBエリアでこの二年間の記憶を売ったんだ。」

なんか自分で結論出して頷いている様子、ですが・・・・あのー、あたしにはなんのことかよくわかりませんがー

「記憶を売ったとか・・・・なんですか?それ」
おそるおそる訊ねてみる。

「リンネ、Aエリアから出たことのないお前にはなにもわからんかもしれんが、
このBエリアではなんでも買うことができるし、なんでも売ることができる。
自分の所有しているすべての物、情報から権利から
己の肉体から、そして記憶さえも売ることができるのだ。
このBエリアで買えないものも売れないものもないと言われるほどにな。」

「そんな・・・・」
なんだか恐ろしい事実を知ってしまったような・・・・もしかして本当にあたしは記憶を?
ううう自分では全然思い出せない、でもたしかにこの髪もずっと伸びているし、ひっぱってみたらやっぱり地毛だった。

「そんな・・・こと信じられるわけ・・・」

「混乱するのもしかたないと思うが、今は1499年だというのは事実だ。
信じられんのなら自分で調べてみるといい。」

「そんな・・・記憶を売ったなんて・・あたしどうしたら」

「自分で売ってしまった記憶は簡単に思い出すことはできんと言われている。
それだけ強く、捨てたいという記憶がお前にはあったんだろうな。」

なんでなんで記憶を売ったなんて、二年間いつのまにか過ぎていたなんて・・・・
そんな信じられないことが・・・・いったい二年前のあたしの身になにが起こったの?!

その場にへなへなとへたり込んだあたしに男が言ったのは

「リンネ、俺と一緒にタカネを探すのを手伝え!」

「へ?タカネって・・・・そういえばあなたたしかおばあちゃんの・・・」

恋人とか名乗ってたっけ

「タカネは俺と一緒にこのBエリアで暮らしていた。だが二日前、突然姿を消したのだ。
タカネが黙って俺の前から消えるなどありえない。
タカネはきっとやつらに捕まったのだ!」

「やつらって?」

「鬼門の連中だ!間違いない、あの鬼どもめ、タカネからなにもかも奪いやがって
ついにはタカネ自身まで!」
なんかひとりで熱くなってゴゥッと怒ってらっしゃるようですがー・・・?

「ちょっと待ってよ、鬼門って・・・・鬼王様でしょ?それがなんでうちのおばあちゃんと?」

「様などつけるな!忌々しい、フン、Aエリアの人間は学校や施設で鬼門の連中どもに都合のいいように洗脳されているからな。
やつらに支配されているという感覚がほとんどないから手に負えん!」

はい?はい?なによ、洗脳とかって、たしかに学校では歴史とかで代々の鬼王のこととかいろいろ学んだりしてきたけど、洗脳とかって言いすぎじゃないの?ふつーに快適な学校だったし。
この人、なんだかすさまじいほど鬼政府に対して敵意を抱いているみたい。

「そうか、リンネお前は記憶がなかったのだったな、ならばしらんのだろーが。
半年ほど前に全エリアの領主が変わったのだ。全員鬼門の人間にな」

「鬼門の?・・・・じゃああのショウも鬼門の人間で、領主になりたてってこと?」

「ああ、あの腐れガキ領主になってからはますますこのBエリアはめちゃくちゃな街に成り下がってしまったからな。だが誰も奴を止める者がいない、ますます酷くなる一方だ。」

「てことはAエリアの領主も変わったってこと?じゃあ、Aエリアもまさかめちゃめちゃな街に変わったっていうの?」

「Aエリアのことなど知らん、俺はタカネのことで頭がいっぱいだからな」

「ええっそんなぁ」
なんかあたしの知らない間にいろいろな変化があったみたいだ。

この国は首都鬼が島を囲むようにそれぞれ4つのエリアに分かれている。
中央に円形の領地鬼が島、その鬼が島の北東にあるのがAエリアで、
そこから時計回りにBエリア、Dエリア、Cエリアとある。
首都とそれぞれの各エリアは水路で区切られていて、自由に行き来することはできない。
たとえば、Aエリアから隣のCエリアもしくはBエリアに移動する場合、Aエリアの領主から許可証を発行してもらわなければ移動できないのだ。もし許可なくエリア間を移動した場合は最悪殺されることもありえるのだ。とくに安全最重要視しているAエリアではその行き来が厳しく決められている。
首都鬼が島にはだれであれ、絶対に立ち入ることができない禁断の聖地なのである。
たとえ各エリアの領主であれ入ることは禁止されている。鬼が島より各エリアへの指示は主に通信機器を利用してされていると言われている。でも領主でないあたしがそんなこと詳しく知っているわけはないので。
各エリアにはそれぞれが特長を持っていて、
Aエリアは学園都市と言われ、学校や福祉施設が街の中心となっている。ゆえに住民は学校に通う学生や老人や女性、子供などが大半となっている。
その南に位置するここBエリアはとにかく自由な街。
法律などないに等しい、すべて自分の責任、すべて自分の自由。武器の所持もなんと殺しさえも罪に問われないという、殺されても自分の責任ってことになるんだとか、むちゃくちゃにもほどがあるよね。
Aエリアの西にあるのがCエリア。
通称芸能文化の街って呼ばれているくらいとても華やかな街。住民は芸能人やアーティスト、人間国宝だとかとにかく才能溢れる人が集うエリア。住んでいる人もみんなゴージャス、オシャレーだったり、Aエリアに住む女の子なら憧れる街かな。
その南にある、つまりこのBエリアの西に位置するのがDエリア。
行った事ないので詳しくはわからないけど、とにかく危険な街らしい。ここも法律なんて通用しなくってBエリアにタイプ的には似ているかもと。どうやら力(腕力)こそがすべてらしい。そんな思想の街で、力さえあれば性別も年齢も身分も関係なくトップに立てるらしい。ここは住民登録も個人の自由らしく、おそらく大半の住民が未登録だと思われる。名前が無く、年齢さえ不詳だという人が多いのだとか。ここのエリアだけ特殊で領主はこのDエリアで最強である者がなるのだという。ということはDエリアの領主って絶対人間の風貌じゃーないよね(すごい偏見だけど)
というかあたしはこのBエリアも理解不能だけど、Dエリアってのがまたさらに理解不能、絶対死んでもここの街にだけは行きたくないな。まあ行く事なんて絶対ないだろうけどね。

それでそう「鬼門」ね。鬼門ってのは初代鬼王(きおう)となった英雄温羅(うら)の末裔である家柄なのだと。ちなみに温羅っていうのはー、えっとあたしが学校で習った程度の知識だけど…。
今から約1500年前、この国は各地でいろんな勢力がぶつかり合い、争いの絶えない混沌とした時代を送っていたの。その争いを収め、この国の頂点に立ったのが英雄温羅。
赤い髪に赤い瞳の独特の風貌をしていたその温羅には人々を引き付ける力と、人を超えた不思議な超能力を持っていたらしい。数々の勢力を打ち破り、味方につけた温羅は王となってこの国を初めて統一した人物なのだ。
その英雄温羅の正当な血筋を主張しているのが「鬼門一族」。
他に温羅の末裔を主張している「雷門一族」と「金門一族」がいる。
で今の鬼王は温羅の生まれ変わりらしく、すごい力を持っているのだとかで、(どんな力かは知りませんが)
強い影響力を持っているらしい。雷門家は代々鬼門家には友好的で同盟関係にあるらしい。
金門と鬼門も同盟を結んでいるのだが、じつは雷門と金門は昔からそうとう仲が悪いらしく、Aエリアでも学校などではそのへんを考慮したりするのだとか。抗争がたびたびあったなんて話も聞いたような。
で、これはこの男テンから聞いて知ったことなのだが、
このBエリアには雷門の本拠地があって雷門一族の勢力が強いとか、でCエリアには金門一族の本拠地があるんだってさ。だからなに?あたしには関係ないと思うんだけど

「なにが関係ない、だ!
あのガキ領主の周辺のやつらはみんな雷門の連中だぞ!」

「へ、てことはあのヘルメット猫も?」

「猫?など知らんが・・・・なにをのん気な、リンネお前はよくわかっとらんようだが
雷門は武闘派集団だ、なにかあればすぐ武力で解決しようとする単細胞な連中だからな。
それにあのガキ領主も雷門のやつらと強く通じているようだからな、気をつけろ」

へ、武闘派集団って?!てことはあのあたしになぜか殺気ビンビンのレイトってやつも?あの怪しさ全開の男共も?武力で解決ってなにそれ、Dエリア的野蛮な考え大嫌いなんですけどっっ

「えっとそうだ、話は戻って

でおばあちゃんと鬼門とどう繋がりがあるわけ?
おばあちゃんを攫ったとか証拠でもあるの?」
あたしのその問にテンは鼻息を荒くしながら答えた。

「タカネは俺と出会うずっと昔、シンガーだったと聞く。ある年代の者は桃山タカネの名を知らない者はいないといわれるほど、タカネは伝説的歌姫だったとな」

おばあちゃんがシンガーだったていうのはあたしも知っているけど、そのころはCエリアで華やかな生活を送っていたらしいとか。あたしが生まれる前の話だからあたしも詳しくは知らないけど、出す曲はすべてヒットしていたとか、とにかくすごい知名度だったらしい、それに絶世の美女であったとも(うらやましい)

「タカネの歌には特別な力がある、と。タカネの影響力はすさまじかった。タカネの歌を聴いて心を揺さぶられないものなどいないとさえな。そしてその時の鬼王の指令からタカネは公の場で歌うことを禁じられ、さらに芸能界を追い出されたのだ」

「ちょっと待って、おばあちゃんは自分の意思で止めたって聞いたけど」

「そんなのはウソに決まっているだろうが、やつらの圧力があったのだ。
それからタカネはこのBエリアの通りでほそぼそと生きていた。たとえ自由とされるこのBエリアでさえ、タカネは人のいる場所で、歌を唄ってはいけなかったのだ。
そして今から十年前、ここBエリアへとやってきた俺とタカネは運命的に出会ったのだ。
会った瞬間に心をすべて奪われたかのような衝撃を受けた、俺は生まれて初めて知ったのだ。
この世にこれほど美しい存在があったのかと、いや美しいなどと感じる感情さえなかった俺が初めて美しいと感じたのだ、それがタカネだった。
タカネも・・・お互い一目惚れだったのだ。
そして俺たちはこのBエリアで一緒に暮らしていくことになったのだ
日々が立つごとに愛はどんどん強くなっていき・・・・・」

あのー、途中からノロケはいってませんー?・・・・・・。

「で、約半年前のことだ。タカネから完全に歌を奪ったのだ。」

「へ?歌を奪ったって?」

「正しくは唄う権利だ。何者かが勝手にタカネの唄う権利を売ったのだ。」

ええっ、唄う権利を勝手に売るなんて、そんなこともできちゃうの?このBエリアは。無法にもほどがある。

「これでタカネは俺の前でさえも、ひとりでさえも唄うことができなくなった。
タカネはなにも言わなかったが、俺にはわかった、奴らだとな。
俺は許せんかったが、タカネは俺さえいればいいと言ってくれた。
本当は今すぐにでも連中をぶち殺したい気持ちでいっぱいだったが、
俺もタカネさえいればそれでいい、と堪えた。


だが、ついにやつらはタカネごと俺から奪ったのだ。
タカネは俺のすべてだ、そのタカネを俺から奪った奴は絶対に許すわけにはいかん。
すべてを破壊してでも俺はタカネを救い出す!
タカネのためならどんなテロ行為もためらわない、たとえこのBエリアを火の海にしてでも」

ちょっとおいおい、なんかこの人言うことがというか考えが極端というか
テロとか火の海とか・・・・

「必ず、タカネを救い出してみせる。」

あたしはこの人のことよく知らないし、それにほんとにおばあちゃんの恋人なのかもわからない。
だけど、なぜだろう・・・・この人はほんとにおばあちゃんを愛しているのかも、と
なぜだろう、それは本当のように感じられて

「リンネ、お前も協力しろ、そんなアホな格好などしとらんと・・・」

「ちょっ、だから好きでこんなことやってんじゃ」

その時なにか思いついたような顔でテンは

「いや、まて・・・そうだリンネお前今の愛人の立場を利用してやつを探れ!
そしてできるなら武器を手に入れておけ、いつでもやつらと戦える覚悟をな!」

「はい?はい?あのちょっとなに勝手なこと・・・」
その時、下の方からドーンと爆発音が

「?!えっ、なに今の音」
その音のしたほうからもくもくとけむりが立ち上っている。なに?なにかが爆発したの?

「くくく、今のは予告状代わりだ。タカネを救うためなら俺は手段は選ばん。」
隣で笑っているテン、じゃまさか今の爆発はこいつの仕業?

「ちょっ、ちょっなんてことし・・・」

「みっともなく慌てるな。

俺はテン、愛の為に生き愛の為に死せる愛のテロリストだ。
俺の愛の道を阻むものはすべて破壊してやる。」
そう言ってにやりと不敵に笑うテン

「リンネ、お前が協力するなら

俺はお前の味方だ。」

「えっ」
立ち上ってきた煙とともにその自称愛のテロリストは姿をくらました。

よくわからないのに、あいつが言っていることの大半がデタラメかもしんないのに
なのにあたしは
なんの根拠も無くあいつはあたしの味方なんだと感じていたのだ。
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