「俺様の獲物とるんじゃねぇ!」

「リンネ!?」

「ぬ?なんじゃ!?」

まるで時間が止まったような瞬間じゃった。じゃのに、ワシは動けんかった。
弱々しい顔をしとったあの小娘が、突如獣の顔してワシの目前へと迫ってきとった。
油断?驚き?
みくびっとった。まさか、お前が…

「俺様を楽しませろよ!なぁ?」
ぎらついた目、娘のものとは思えないそれを、ワシはどこかで見たことがあった。
暗闇の中で、ワシはそれが誰なのか、ようやく思い出した。



「あっれー、キン兄もう起きてていいの?」
「ああショウか。ハハハ、ワシはこのとおりもうへいちゃらじゃぞ」
「ふーん、さっすが。タフだねぇ」

ワシは敗北した。情けないことに、あのかよわそうな小娘に。
悔しいが言い訳など見苦しいからワシはせんぞ。油断しとったとはいえ、ワシはアレに負けたんじゃ。
やれやれ、Dエリアの頂点もここで終るとはのぅ。
「おいら、信じないじゃん! 御大将があんなのに負けるなんてありえないじゃん!」
ワシ以上にポッキーのやつが悔しがっとるが、事実は認めんとな。わしわしとポッキーの頭を撫でてやるがポッキーは泣き喚きながら走り去ってしまった。やれやれ、まだ子供じゃからのぅ。
ポッキーには悪いが、ワシは負けたのにどこか清々しかった。それはどこかで探し続けていたなにかにやっと巡り会えたような気がしていたからじゃろうか。
ポッキーが去り、部屋にはワシとショウだけになる。
「あいつらはどうしとるんじゃ?」
ワシがショウに訊ねるのは、あのテンという男と桃山リンネのことじゃ。
「ああ、オッサンとリンネのこと? 二人ともまだここにいるよ。リンネのほうはまだ目が覚めてないみたいだけど、ケガのほうも大した事無いから時期に目覚めるんじゃないのかな」
そうか、あの娘は気を失っとるんか。しかし、どういうことじゃ? 理由はショウのやつの話でわかることになる。

「そうか、やはりワシはあの小娘に負けたんじゃな」
ショウの話でワシの記憶もはっきりとしてきた。そうじゃ、ワシはリンネに負けた。いや、あれは本当に桃山リンネという娘じゃったのか?もしや、あれは……。
「ショウ、あの桃山リンネという娘はなんなんじゃ?」
「え? ああまだ紹介してなかったっけ? リンネはボクの愛人だけどv」
「そういうことを聞いとらん。ほんとうに唯の娘と違うんか? 桃太郎の生まれ変わりである可能性が高いんは、テンのほうでなく…」
「鬼が島がそういうんなら、そうなんじゃないの?」
「なんじゃお前その物言いは。お前はアレを見張ってきたんと違うんか?」
「別に〜。気になるんならさ、襲ってみたら? まあでも、邪魔が入るかもしれないけど? あのオッサンなんだかんだでリンネの味方みたいだし」
まったくはっきりせん奴じゃ。まあええ。鬼が島から最重要人物と聞いておったのに、見た目で決め付けとったワシに敗因があったわけじゃ。反省は次にいかすとしよう。


『どう? キン、おもしろいものが見られた?』
通信機の向こうからは兄者の声。ワシは鬼が島への報告を済ませると、兄者へ今回の報告をした。
が、兄者は驚くどころか、こうなる結果が見えておったのか。そんな声が返ってきたからな。さすが兄者じゃ、先を見通す力も持っとる。
「ハッハッハ、まさかDエリア最強が女子に負けるとはな。しかし、相手がただの女子でなく桃太郎の化身ならば仕方ないわ」
『あっさりしているわねぇ。というより、納得しているみたいね』
「そうなんじゃ、兄者、以前話したじゃろう。前世の話じゃ。ワシは前世の事を少し思い出したんじゃ」
『あら、そうなの。それはよかったわ。父上にも報告しないとね』

前世の記憶、ワシは気を失った後、夢を見とった。それもハッキリとした記憶をたどる旅じゃ。
桃山リンネの中に見た桃太郎、ワシはそれを知っとった。遠い過去の記憶、ワシは桃太郎とともにいたことがある。その時のワシの名はチュウビ。ある島で生まれ育ち、そこで桃太郎と出会い、戦乱の世に自ら飛び込んでいったんじゃ。



「ちょっちょ待ってよ!なんであたしが、冗談じゃ・・・絶対イヤ!!」
再びワシが目にした桃山リンネは、やはりただの、情けない小娘じゃった。
Dエリア最強の座を伝えると、死ぬほどいやそうな顔で首を振り拒んだ。やれやれ、勝者に敗者は従うのがDエリアの掟。勝者のリンネがその座を拒むのなら、ワシが続投するしかないのじゃろう。
リンネはどうやらここDエリアがイヤらしい。疲れているくせにとっとと出て行きたいと言っとった。ふむ、やはりほんとーに桃太郎なんじゃろうか…、リンネは桃太郎と真逆に思える。
が、ワシはまだかすかに、リンネの中に桃太郎らしさがあることを願う。

「リンネと言ったか。ワシは強い女子が好きじゃ! またいつでもやり合おうぞ」
「は!? なにそれ? お断りです!」
心底嫌そうな顔でいきやがったぞ。やれやれ、なかなかワシの理想どおりにはいかんようじゃ。


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