「信じられないんだもん! キン兄があそこまでヘンタイとは思わなかったんだもん! 雷門の恥もいいとこだもん!もう死んで欲しいもん!!」
やれやれ、カイミのやつまだご立腹のようじゃ。
「ぎゃーー! 朝から顔見たくないもん! ヘンタイ露出狂! あっち行くんだもん!」
Bエリアに帰って早々カイミはワシにやたらとご立腹のようじゃ、その理由が実にくだらんことで。
「そこまで怒ることもないじゃろう。全裸にされたらそのまま帰るしかなかったからのぅ」
「バカだもん! 着るものくらいどっかに落ちてるもん!」
「盗んだらおえん! ワシにだってプライドはあるぞ」
「全裸になるほうがよっぽどプライドないんだもん!!」
カイミのやつ、ワシの顔など見たくないと部屋に戻ってしまった。やれやれ久々の再会だというのに、困ったもんじゃ。ワシも好きで全裸になったわけじゃないのにのぅ……。
おお、そういえばなんで全裸になっとったんじゃろうか。服だけじゃなくて、手荷物もなくなっとったからな、パクられたと見て違いないじゃろうが。やれやれDエリア困ったところじゃ。


今日もワシはDエリアへと向かう。カラスを抱えていたあの少年、元気にやっとるだろうか。
少年と出会ったあの辺りは、たしかNゾーンとか言ったか? 今日はそのNゾーンのキングを倒してワシがキングの座を奪ってやろうか。
「あっアンタは!」
覚えのある声じゃ。すると目の前におったのは、あの少年じゃった。ワシも嬉しくて声をかけた。
「おおっ、少年か。また会えたのう。元気にしとったか」
「もちろんじゃん。これからおいらんちくるじゃん。ごちそう用意してアンタのこと待ってたじゃん」
おお! なんという歓迎振りじゃ! 少年、お前はほんとにいい奴じゃなぁ。カイミにヘンタイだと嫌われたこともあってか、少年の好意がますます心に沁みた。

少年のごちそうは、ご馳走とは名ばかりの質素なもんじゃったが、Dエリアではごちそうに値するんじゃろう。いや、見た目だけでごちそうかどうかは決まらん。大切なのは想いじゃな。ワシのためにごちそうを用意してくれた少年の想いこそがごちそうじゃと言えるじゃろう。
「さあ、遠慮なく食べるじゃん」
「おおっ、では遠慮なく頂くぞ」
ワシは遠慮なくごちそうをいただいた。まあ味は…、お世辞にも美味いとは言えんレベルじゃったが、ちょうど腹も減りだしたこともあって、おいしくいただけた。
うーん、なんじゃ? 量はワシが普段食べる量に及ばんはずじゃが、妙に満腹感を感じるのう。それに体が重たくなるようじゃ。
「おおっ?」
どすん。
ワシは椅子から落ちて腰をついてしまった。なんじゃ、えらい体に力が入ってこんな。
「効いてきたようだな」
ん?何者じゃ?
少年の家の奥からぞろぞろと人が現れよった。少年の家族じゃろうか?
いやしかしこの空気は、とても和やかなものとは思えんかった。ワシを囲む連中は、物騒なもんを手にしていた。
「アンタほんとーにバカじゃん」
ん?どういうことじゃ?なぜ少年はワシを見下ろしながら「バカ」と言うんじゃ?
「ぐっ!?」
不覚じゃ、連中に先手をとられるとは。しかしどうしたことか、いつものように体が動かんぞ、食べすぎたわけでもないのに。
「他人を信じるなんて、ほんとーにバカじゃん」
「なぜ、そんなことを言うんじゃ? 少年、ぐうっ!」
くそう、連中め、人がろくに動けんと知ると、容赦なく攻撃をしてきやがる。ワシもろくに防御すらできんし、どういうことじゃ? ハッまさか、食あたり? まさかこの丈夫なワシに限って?!
「硬くて食えそうにないな、こいつどうするよ?」
「子分にするか?しかしよそもんが掟に従うかどうかも怪しいしな。殺すか」
「くっ、おのれっ」
連中の攻撃がワシの体を痛めつける。いくら丈夫とはいえ、このまま耐え切れるのはムリじゃろう。とっとと反撃せにゃー、ええい動かんかーー!
「もう諦めるじゃん、早く楽になったほうがいいじゃん」
「諦めるかー、ワシは、己を信じとる!」
ワシは気合で肉体を熱くする。じゅわーと蒸気が立ち上り、体内から噴出させたのは毒素じゃろうか、やはり食あたりのようじゃった。が、これでばっちりじゃ。体が動くぞ。
「どりゃーー」
「ぐわっ」「がはっ」
連中を次々と打ちつけていく。おおっ、おもしろいように体が軽くなったようじゃ。連中を一掃できたぞ、とワシは少年のほうへと向きかえる。が、なぜか少年はワシのふところにまで迫ってきとった。
「お?」
「死ぬじゃん!」
なんという鬼気迫る表情じゃ。ワシは少年の首根っこ捕まえて動きを止めてやった。床に打ちつけてしまったが、痛かったじゃろうか? 大丈夫か?
「くっ、離すじゃん」
「おおっすまんかった。反射的についな、大丈夫か?少年」
「おいら認めたくないじゃん、アンタなんか…」
なんじゃ、友好的じゃったのに、なんでそんなことを言うんじゃ?少年。
「でも敗者は勝者に従わなきゃいけないじゃん。おいらは、アンタに従わなきゃいけないじゃん」
悔しさに震えておるんか。いや、じゃがわかるぞ。
「ワシも負けるのは悔しいからな。少年お前の気持ちはよくわかるぞ。ワシはまだDエリアに来たばかりじゃから、ここのルールにまだ慣れとらん。じゃから、お前もムリしてワシに従う事ないぞ」
「は? 何言ってるじゃん。アンタキングになりたくないじゃん?」
「キング?そんなものはどうでもいい。ワシはDエリアの領主になるんじゃからな」
胸を張るワシに、少年はぽかーんと口を開けたままワシを見上げとる。
「とっととここのキング倒して、次のゾーンを制覇せんとな。じゃあな少年また会おうぞ」
「ま、待つじゃん。アンタはもうここのキングじゃん」
といって少年が指差す先には、白目を向いたままのさきほどワシがぶちのめした男。お? そういうことなのか?!
「はっはっは、なんじゃ、こいつがキングじゃったんか。なら手間省けたわ」
「おいらはキングに…いや、御大将アンタについていくじゃん!」
「そうか、少年、お前はワシの最初の相棒になるんじゃな! ええぞ大歓迎じゃ」
「Dエリアの領主、アンタがなるとここの目で見たいじゃん」
「嬉しいの、よし、じゃあいくか。…少年、とやはり少年と呼ぶのも寂しいのう。なにかいい名前はないもんか」
「名前なんてないじゃん。そんなのどうだっていいじゃん」
「いいやそうはいかんぞ。名前は己を示す大事なものじゃからな。よし、ポッキーはどうじゃ? 細い体しとるし、うんぴったりじゃ」
こうしてワシはポッキーとともにDエリア制覇の道を進みだした。


ポッキーという心強い仲間を得て、Dエリア制覇も勢いづいた。
そして、ついにワシはDエリア最強の地位につく。ほんの短い期間じゃったが、不思議と、ここDエリアに長いことおった気さえする。魂の記憶、かもしれんな、もしかすると。
そんな話を兄者にした時じゃ。兄者は「そうかもしれないわねぇ」と答えた。

『お前の前世の記憶が影響しているのかもよ?』
「ワシの前世じゃと」
『ええそうよ。父上が温羅の生まれ変わりだって言うじゃない。なら息子のお前もそれに近い生まれ変わりだとしてもおかしくないわ』
「前世か……」
『どうしたの? 心当たりでもあるの? 例えば、よく似た夢をよく見るとか』
「兄者なんでわかるんじゃ? もしや兄者も?」
『そんなことをキョウも話していたわ。前世で縁のあったものは現世でも強い縁があるそうじゃない』

なるほど前世か…。そういえばよく不思議な夢をみる。なんかどっかの島みたいなとこじゃ。それもBエリアにある離れ小島とは全然違う島のようでな。いった場所ではないが、いたことがあるような場所じゃ。
じゃがDエリアにも懐かしさを覚える。それも前世とやらの縁なんじゃろうか?
ワシはじきに己が何者なのかを知る事になる。
その最もたる存在が桃太郎。あああの桃太郎じゃ。温羅に歯向かい敗れた伝説のテロリストじゃ。


ワシがだれであったかを思い出させた存在。
Dエリアで頂点を極めてまもなく、ワシはそいつと出会った。
ワシの前に現れ、挑んできたテンという男。
いやそいつではない。どっから見ても強さの欠片もないただの小娘、…そいつこそが桃太郎の生まれ変わり…、ワシがだれであったか、記憶を蘇らせてくれた【桃山リンネ】との出会いじゃった。


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