「キョウをマーク? どういうことじゃ?」

「アレは鬼が島への忠義心が薄いわ。鬼が島への忠義よりも、己の正義を優先するかもしれない」

「たしかにあいつは正義心の強い奴じゃが…、鬼が島に背いてまではないと思うが」

「そう? 例えば…、桃山リンネの抹殺を鬼が島から命じられたとしたら?
アレにそれが遂行できるかしら? 桃山リンネが桃太郎の生まれ変わりだとしても、アレにはその度胸がないかもしれないわね」


――ワシら四領主は鬼が島の忠実な僕。それは身にしみてわかっとる。ワシも、兄者も、ショウも、もちろんキョウもじゃ。
じゃが、最近鬼が島はキョウに不審な目を向けとるようじゃ。
ワシら四領主は鬼が島より、桃山リンネとテンのテロリスト二人の監視を命じられとった。
まあうっかりとワシは油断しとって、リンネに敗れたわけじゃが、そのことでお咎めはなかったんじゃ。どうやら、そのせいで、得たものもあったとのことでな。その一つがワシの前世の記憶じゃ。リンネの中の桃太郎が、ワシのチュウビとしての記憶を目覚めさせてくれたんじゃ。
前世の記憶…、そういえばキョウの奴も、前世に関する不思議な夢をよく見ると言っておったな。
まだ完全に思い出してはおらんようじゃが。あいつの記憶も完全に目覚めれば、鬼が島への忠義もさらに揺ぎ無いものになるはずじゃ。
あいつは真面目で正義心の強い奴じゃ。間違った事はせんし、鬼が島に背くような馬鹿なマネもせんじゃろう。それよりも、…まったく前世を取り戻しとらんらしいショウのほうが心配なんじゃがな。
そのショウなんじゃが、前世の記憶を目覚めさせる為にコロッシアムに強制参加させたんじゃ。これがどれだけの刺激になるかはわからんが、あいつ…、戦闘の中ではえらくイキイキした姿になりよるな。その姿は、ワシの記憶にもあるゼンビによく似とる。
問題はショウのことだけじゃないんぞ。リンネじゃ。リンネは桃太郎の生まれ変わりというが、…どうもなんかな。
本当にあの桃太郎の生まれ変わりか疑わしいほどに、ヘタレとるんじゃ。…やれやれワシが油断しとったとはいえ、ワシを負かしたというのに、覇気のなさはすさまじいぞ。しかし、えらく騒いだり倒れたり楽しい奴じゃ。
そのリンネ、兄者にでこちゅーされたショウを見て、なぜか気絶したんじゃ。なんか「ショウにもでこちゅー」とかなんかぼやきながら倒れとったな。リンネからはほっぺに、兄者からはでこに、ちゅーしてもらってショウの奴ずるい奴じゃ、ワシもしてほしいぞ!!


「…兄さん、キン兄さん」
「うおっ、なんじゃキョウ」
「さっきから何度も呼びましたが、なにか考え事ですか? …にやついてましたけど」
「ワシにもちゅーしてくれんかのぅ」
「!?なっ、…キン兄さんヘンな冗談は止めてください。それより、リンネの姿が見えませんが」
「おおリンネならこの奥の部屋で寝とる」
「え? どこが具合でも悪いんでしょうか」
「なんか一人で興奮しまくっとったからな、そのせいじゃろう。まあじきに目覚めるじゃろ」
「はあ、大丈夫でしょうか。彼女はAエリアの人間ですから、ここのような空気には慣れてないのかもしれません」
「おいおい、あれでも桃太郎の生まれ変わりじゃぞ」
「桃太郎ですか…、私の見た限りではリンネはそこまで危険を感じませんが、鬼が島はなぜそこまで彼女を警戒するのでしょうか」
おいおいキョウ、鬼が島に疑問を抱いてはならんはずぞ。
「人を見かけで判断するほうが危険じゃ。現にワシはアレにやられたんじゃからな。あれは普段の姿からは想像できんじゃろうが、内に相当な獣をかっとる」
「…はあ…」
「ショウの試合を見たか? アレも獣をかっとるぞ。まあまだ完全に目覚めるにはいたっとらんようじゃが」
「そうですか、試合を見ているとゼンビを思い出しましたが、ひょっとするとコロッシアムでショウの記憶が目覚めるかもしれませんね」
「ああそこが狙いなんじゃ」
「じゃあ、やはりこの祭りはショウのためのものなんですか?」
「鬼が島の指令らしいからのう。ショウの中のゼンビの記憶を目覚めさせるのが目的らしい」
「キン兄さん、ゼンビのことは覚えていますか?」
「おお覚えとるぞ、ワシら三人は一緒じゃったな」
「ええそうですね。故郷を離れて、三人で天下を目指そうと語り合っていましたね」
そうじゃな、ワシチュウビとサカミマとゼンビは同じ故郷の出身じゃった。ある事件がきっかけでワシらは故郷を離れ、戦乱の地であったここ本土に渡ったんじゃ。故郷では桃太郎と、戦乱の地では温羅と出会ったんじゃ。桃太郎と温羅、因縁の二人とワシら三人は関わりあったんじゃ。
「ゼンビの奴はいつも温羅と桃太郎のことばかりじゃった。あいつは温羅に憧れて、桃太郎には敵対心メラメラじゃったからなぁ」
「ええそうでしたね…!あ、それでショウはリンネの側にいたのですか?」
「桃太郎の生まれ変わりであるリンネの側にいれば、ショウの中のゼンビを呼び覚ますいい刺激になると睨んでのことらしい。が、なかなか上手くいかんようでな。でてっとりばやく戦いの中にほおりこんだれってことじゃ。そのほうが刺激になるじゃろうて。ついでに、リンネの中の桃太郎にも刺激になればとな」

そのショウの記憶のために開催したコロッシアムも、テンのテロ行為によって中断させられたわけじゃ。
結局成果があったのかどうかはわからんままじゃが。まあ楽しかったぞ。できればワシは主催じゃなく参加がよかったんじゃがな。まあそれはええとして。
前世の記憶、前世の因縁、それは現世にも受け継がれるものかもしれんな。
ワシら兄弟三人も、仲間でありながら、別の道を選び、敵対することになってしまったことも覚えとる。
特にサカミマは、…キョウの前世であるサカミマは、ワシの敵に回り、戦いの中でその命を落としたんじゃ。
サカミマも真面目で正義感の強い男じゃった。その心をキョウは受け継いでいる。とすると、キョウの奴ももしかしたら、サカミマと同じ道を歩むかもしれんと、その不安は現実としてやがてワシの前に立ちふさがるんじゃ。


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