馬 駆ける
第三話 君は、天使君
あたしがここへ連れてこられた理由がわかった。
それは先日のレースだ。あのレースで走らされる馬として、あたしは連れてこられたのだ。
あの親たちがレースのことを知っていたかどうかは疑わしいが、直前まで本人のあたしにすら隠していた区長マケンドーのことだから、親たちにも伏せていたんだろう。
子供がなにさせられるかということよりも、あの親たちは金が第一の守銭奴だから…、なんて言って悲しくなってきたぞあたしゃ。
「マケンドー様、本日のスケジュールですが――」
朝食をとりながらカツさんがマケンドーに今日のスケジュールを伝えている。どうやらこの後すぐに区議会らしい。あたしも同じ席で朝食をとる。
「カケリ、最近伸びが悪いと聞いているが、最初のレースに勝ったからといって気を抜くな」
厳しい眼差しと口調でマケンドーがあたしにそう言ってきた。
トレーナーのモリオカさんから聞いたんだろうか。たしかに伸びの悪さは指摘されたけど、しょうがないと思うんだけど。
「それがあたしの限界なんだよ。文句があるならもっといい人材でも探してきたほうが効率いいと思うんだけど」
「言い訳などするな。俺の馬はお前だけだ。他など考えん。だからこそ、絶対にお前にはもっと速い馬になってもらわねばな」
なにそれ、理由になってないだろ。だいたいなんであたしじゃなきゃだめなんだ? もっと他にいい人材いるはずだろ、若草狭しといえど。…学生時代、あたしより足の速い人いっぱいいたし、あたしはスポーツでみんなから注目された事なんてほとんどなかったし。心当たりがない。…となると、他になにかさせられるかもってこともあるのかもしれない。…マケンドー、コイツが外面だけの鬼畜野郎だってことはもうとっくにわかっているしね。
他にいくあてができたら、とっととこんなところ逃げ出してやりたいさ。
「くっ」
ムカツクこの男、朝食をほおばりながら、これでもかって睨みつける。マケンドーも鋭い目でにらみ返してくるからもうバチバチと火花ちってんじゃねーのと言わんばかりの精神バトルが。
「そーですねー。あたしの足には若草の命運がかかってるんですよねー」
「お前は俺の言ったことをまったく理解してないようだな。とんだ鶏頭か」
「なんだとーー?!」
「マケンドー様、カケリ様になにかご褒美でも提示されてはどうでしょうか?」
議会へと向かう途中、カツはマケンドーにそう提案した。カケリがレースに意欲的になるには、なにか理由が必要だろう。お金は両親の元に渡るわけだし、カケリ個人には、利益がほとんどない。…カクバヤシ別邸で食と住での不自由はないのだが。年頃で大人しいタイプとは真逆のカケリが言われるがままに従い続けるほうが、考えづらい。
「そうだな。アイツにもレースを勝ち抜くための目標が必要だな…」
「はいお疲れ。今日のトレーニングは終了だ。明日に備えてゆっくり休むんだぞ」
モリオカさんを見送って、あたしもトレーニングルームを出る。あモリオカさんは住みこみの人じゃないみたい。若草区に住んでいるみたいだけど。
あと一時間ほどで夕食だな。…一番楽しみなのがごはんの時間って、あたし終ってないか。まあいいや。
「困りますよ、ショーリン坊ちゃま」
「いいじゃん細かいなー。まだこうるさい人も帰ってないみたいだしさ。今のうちに、見ておきたいんだよね。どこ?どこにいるんだー」
なんか騒がしい声がしているな。…聞いたことない男の子の声だ。お客さんだろうか。まああたしには関係ないけど。
「あ、あれ?」
さっきの声がすぐ近くで聞こえた。目があった。男の子だ。スポーツ刈りの元気そうな感じの男の子。あの制服は、たしか国立中央大付属の…?
「ねぇもしかして君が噂の」
「へ?え?」
明らかにあたしのほうを見ながら近寄ってくる。
「兄上が囲っているっていう女の子。君のことだよね?間違いなく」
「な、ななな」
兄上?て誰のこと、まさか?
「へー、あの堅物の兄上に女の子なんて、想像もつかなかったけど、そうか、君みたいな子がタイプだったんだ」
な、なにかすごい誤解してない。
それもとんでもなくいやな誤解を……。
「かわいいね、兄上なんかにはもったいないよ。おれはショーリンっていうんだ。カクバヤシ家の三男で、中大府中の二年で拳法部の副主将やってんの。よろしくね。ねぇねぇ君はなにちゃん?」
なれなれしい、というか人懐っこいこだな。このショーリン君って。ん?カクバヤシってことは、アイツの弟?
…でも全然似てないな。
「カケリだよ。マドウ・カケリ。年も近いね」
なんか久々かも、年の近い人から、友好的な態度とられたのって。当たり前だった事のありがたみをかみしめる今。
「カケリちゃんかー、名前もかわいいね」
見た目から名前までかわいいなんて褒められた事ろくにないんだけど、悪い気はしないなー。終始ニコニコ顔だし、褒め殺し、マケンドーとはここまで真逆とは。少しは見習えよマケンドー。
「そんなことないけど、ありがとう」
「ねぇねぇどっか遊びに行かない? 兄上なんかのとこにいてもさ、つまんないんじゃない?」
あれ?もしかしてショーリンくんはあたしの味方系?
「ショーリン様、困ります。マケンドー様が戻られるまでこちらでお待ちに」
執事長のカトウさんがショーリン君の態度に困った様子で頼んでいた。
「細かいなーカトウは。おれもカクバヤシの人間なんだし、別邸に自由に出入りしたってかまわないだろう」
「勝手なルールを作るな、ショーリン。ここの現家主は俺だ。俺の許しなくここに立ち入る事は認めていない」
「ゲッ、兄上」
「お帰りなさいませ、マケンドー様」
マケンドーがカツさんと一緒に帰ってきた。マケンドー、弟のショーリン君にも容赦なく厳しい口調なんだ。…というか。
「兄上がどう言おうが、ここの連中がおれを拒否することなんてできないんだからさ。好きにこさせてもらうよ」
「帰れ、そもそも若草区民でもないくせに、図々しい奴が」
ショーリン君とマケンドーの間にバチバチと火花みたいなのが散ってるように見えるんだけど。
なに?この二人って仲悪いの? とてもよさそうには見えないけど。
「ほんと心が狭いよね、兄上はさ。長兄上と違って」
「お前の相手をしてやるほど俺はヒマじゃない。くだらん用しかないのなら帰ってもらう」
ドSオーラを放ちながら威嚇するマケンドーに、ショーリン君はひるむこともなく、挑発的な眼差しで肩をすくめながら後ろ向きにさがる。
「兄上おっかないし、出直すとするか。じゃーね、カケリちゃんまた会おうね」
「あっ」
すれ違い様にそう言い残して、ショーリン君は素早く正面口へと走っていった。
「ばいばーい」
嵐のように去っていった。
「フン、アイツは出入り禁止にしとけ」
「申し訳ございません、しかしマケンドー様」
カトウさんもなんか困ってるみたいだし、責めてやるなよマケンドー。マケンドーもそういうだけで、ショーリン君を絶対に拒めないみたいだし。いろいろあるのかな?カクバヤシ家ってのも。
「カケリ、アイツが何を言ってきても耳を貸すなよ」
「へ? な、なんでよ?」
「なんでもだ。わかったな!」
またしても説明なんてなしで、超命令だこの鬼畜区長はっっ。
鼻息荒く部屋へと戻っていくマケンドー。ショーリン君のせいでアイツさらに不機嫌になったみたいだ。一体どんな関係なんだろう、マケンドーとショーリン君。
「カツさん」
カツさんに訊ねようとしたら、カツさんのほうから話しかけてくれた。あの二人の事について。
「さきほどの方はショーリン様、マケンドー様の六つ違いの弟君になります」
「兄弟でも全然違うよね。…ショーリン君は普通の人懐っこそうな男の子って感じだったけど」
普通と自分で言っておきながら、あの制服を思い出す。あの制服は青原隋一のエリート学校。カクバヤシの人間だって言うし、すっごいお金持ちで頭もよくって、すんごくエリートってことだから、あや普通ではないな。
そこは置いといて、中身だよ、人柄的なことね。
「ショーリン様は以前からマケンドー様につっかかってくるといいますか…」
「やっぱり仲悪いんですか?」
そう聞くと、カツさんは困ったように眉根を寄せた。
「ショーリン様は一番上のタイショウ様を尊敬されてまして、だからか、マケンドー様を認めたくないようなんです」
カクバヤシ・タイショウ…、どっかで聞いたような名前だな。…マケンドーたちのお兄さんってことか、まあ有名人なんだよね。
「いつか、ショーリン様の目に、マケンドー様の真のお姿が映ればと私は願っています」
真の姿って、ドSの姿?はもうショーリン君も知ってるみたいだし、どういう意味だろう?
「もちろんカケリ様、貴女にも」
…え? どういうこと? カツさん。
その日、いつものようにトレーニングルームでモリオカさんの到着を待ちながらストレッチしていた。
モリオカさん今日はおそいなぁ。五分前にそう思ってから、待ち続けて十分が過ぎていた。
トレーニングルームの戸が開く。モリオカさんかと思ったらそうじゃなくて、そこに立つのはヒヨコさんだった。不機嫌な顔をして、例のごとく腰に手を当てながらためいきをつく。
「よかったわねー。モリオカさん急用で来られなくなったんだって」
「ええっそうなの? それじゃあ今日は」
「自主トレってことらしいわよ。いつも言われたとおりにやっとけですって」
おおっそうなのかー。モリオカさんなにがあったのかとわかんないけど。自主トレとは、嬉しいかも。
「そういうわけだから、さぼるんじゃないわよ!」
ヒヨコさんそういい残して自分の仕事に戻ったみたい。シーンとなるトレーニングルーム。
自主トレか、…うひひ。
監視の目がない。自由の予感。
トレーニングルームからトイレに行くふりをして周囲を探る。みんなそれぞれの仕事をしているためか、あたしへの目は向かない。マケンドーも仕事に出かけている時間だし。トレーナーのモリオカさんも今日はいない。こんなチャンスめったにない。そう思ったら自然と足は、館の外へと向かっていた。
外に出て、道路を歩いていく。河川沿いに出て、河川敷を歩く。懐かしいなこのあたり、子供の頃からよく遊んだ場所。くるぶしほどまで伸びた草地の上、裸足でよく走った。うちの親は何度も言ってるようだけど守銭奴で、子供にも金をかけない主義だった。靴なんてすぐに買い換えなきゃいけないじゃない、子供の足の成長って早いし。きつくなってボロボロな靴を履くしかなくて。学校行く時は仕方なかったけど、学校帰りや遊ぶ時は、窮屈な靴を脱いで、ほとんど裸足で駆け回っていた。そんな経験からか、あたしは靴ってものが苦手で、裸足で走るのが好きなんだ。
靴を脱いで裸足になる。しゃりっとした草の触感が冷たくて心地良くて、やっぱりあたしは裸足でいるのが一番自然だ。
レースでも、裸足で走ったけど、そういえば…、なんでマケンドーはあたしに裸足で走らせたんだろ? あたしが裸足が一番走りやすいって、親も知らない事なのにな。
そういえば何年前になるっけ、あたしがまだ小学生の低学年のころ、ここで走っていたときに男の子と出会った事があったんだっけ。…あまりに昔過ぎて、どんな人だったとか、なにを話したのかはもうさっぱり覚えていないけど。今どこでなにをしてるんだろうなー。この若草のどこかで、暮らしているんだろうか。
「あれが初恋だったりしたのかなー?」
中学生ぐらいだったか、当時のあたしからしたらずいぶんなお兄さんだったわけで、あでもさっぱり忘れているあたり怪しいのだけどね。だけど、嬉しかった気持ちがあったように思うんだ。
『君の走っている姿に――』
あ、ワンフレーズだけ思い出した。でも肝心のところが霞がかったままだ。まあいいや、そんなこと。
遠い昔のキレイな思い出に浸っているだけじゃ生きていけない。
『お前は馬だ。馬としてレースに出て勝ち続けろ』
マケンドーの声の幻聴か。
草を蹴って走る。マケンドーめ! あたしは、あたしはなんなんだー?!
アイツのためでも若草のためでもない。あたしは、なんのために走るのよ?
擦り切れたテープをむりやり再生しているみたいに、とぎれとぎれに写る映像。遠い日の記憶。君は一体、だれなの?
『君の走っている姿に――』
同じところを何度も繰り返して、進まなくて。
景色は次々に流れながら変わっていくのに。変わって…変わって?
「うわっ」
びっくりして、転倒しそうになりながら失速する。
「あぶない」
すぐ横から聞こえてきたその声の主に、抱きとめられてあたしは転倒を免れる。なにがあったかっていうと、それは…あああってちょっと待って、あたしも現状把握に少し時間が必要なんだ。
だって、だって、夢見たいな現実が今目の前に起こってて。あたしを抱きとめてくれたのは、キラキラ輝く絵に描いたような美少年なんだもの。
「ふう、あぶなかった。…だいじょうぶ?」
「ふわっ」
幻じゃなくて、あたしの目にはキラキラ効果が輝いて見えるんですが。
驚いたのは、誰かが併走しているのに気がついて、それがとんでもなく美少年だということに気づいてしまったからで。
その美少年に抱きとめられて、見つめられて、こんな状況で平常心保てるほどあたしはクールじゃなーい!
「だ、だいじょうぶ」
心配そうに覗き込む瞳を、安心させたくてついそう言ったけれど、あの表情をもう少し見ていたかったなんて気持ちもあったり。
「そう、よかった」
うきゃーーー
一変嬉しそうな、これまたとびきりのエンジェルスマイル! キラキラ効果割り増しだよ。なにこの美少年はっっ。あたしは百回くらい萌え殺されたよたった今。
「驚いた。気がついたら隣走っていたから…」
「ごめんね、驚かせて。でも我慢できなかったんだ。すごく気持ちよさそうに走っていたから、一緒に走りたくなったんだ」
ぎゃーーー、なにそれ、愛の告白とやらですかーー? いやーーー、悶え死んじゃうよあたし。
「よかった、ずっと、会いたいと思っていたから」
「え? 今なんて、どういうこと」
「ごらぁああああああーーーー」
土手の上のほうから響いてくる怒号は、見上げると鬼の形相のヒヨコさんだった、やべぇ見つかった。
ヒヨコさんが来る前に、彼に聞きたいことが。
「あ、あの、どういうこと、それより君は…」
「そろそろ戻らなきゃ、じゃあまた、ね。カケリ」
「…へ?」
くると背を向けて、エンジェルスマイルの美少年は風のように駆けて行った。
「ま、またねって…また会えるのかな?」
アレ、それよりあたしの名前、たしかにカケリって呼んだ。…どこかで会ったことあるっけ? …あるわけないか、あんな美少年忘れるわけないし。一体、彼は何者なんだろう。天使のような笑顔の男の子、天使君…。
「カケリ話がある。食事がすんだら一階の処務室に来い」
その日の夜マケンドーに呼び出された。な、なんだろう、説教フラグか、そんな予感しかしてこない。
モリオカさんがいなかったからって、勝手に出かけたことを咎められるんだろうか。すでにヒヨコさんたちに叱られたけどさ。
「はぁーー」
重い溜息をつきながら、マケンドーが待つ部屋の戸を叩く。
「入れ」
無愛想なマケンドーの声がして、部屋の中へと入った。
椅子に腰掛けたマケンドーと向かい合う。デスクの上にはなにか書類があって、マケンドーがそれを手にする。
「あ、あのー」
言い訳を考えていたあたしの声を、マケンドーの声が掻き消す。書類をぱしっと軽くはたきながら、あたしのほうへ突き出す。
「カケリ、お前と俺で個人的な契約を交わそう」
「…へ?」
怒鳴られると思い込んでいたあたしの予想を、裏切られた。ん? なんの話なんだろうか?
目をしばたかせるあたしの前に、もう一度マケンドーが書類をパシッとはたいて突き出す。ジロリとにらむので、めんどくさくもあたしはそれを受け取る。
「なにこれは」
上のほうにだけ軽く目を通して、あたしはデスクの前に腰掛けたままのマケンドーにと視線をやる。
「お前に走るための目標を与えてやろうと言っている」
「え?どういうこと」
「お前がレースで勝ち続けるためのモチベーションが必要だろう。カケリ、お前はお前の目的のために走ればいい」
あたしのために走れだと?
「お前の望みたった一つだけ叶えてやろう。ただし、今期のレースで優勝することが条件だ。
お前の望みはなんだ? カケリ、言ってみろ」
あたしの望みだと? 本気なのか? 本気であたしの望みを叶えてくれるっていうの? このドSまっしぐらなマケンドーが?
「あたしの望みは…、自由になることだ」
くしゃっ、つい力の入った手で書類を握りつぶしてしまった。にやり、とマケンドーが不気味に笑う。
「わかった、受けてやろうその望み。お前はレースで走り優勝する。それを達成できれば、カケリ、お前を自由の身にしてやろう。それが俺とお前の個人的な契約だ」
「本当? 絶対だからね!」
二回目のレースが始まる。
通路をまっすぐに進めば、走者用のゲートに向かう。途中階段の前で、マケンドーと別れる。
「カケリ、お前はお前のために走れ。それ以外のことは考えるな。ただ走ることに集中しろ、トラップは俺がすべて片付けてやる。いけ!」
階段を登っていくマケンドー、あたしはそのまま通路を進む。そして、二回目のレースに挑む。
今回の対戦相手は、二十代後半か三十代ぐらいかの、ひょろっとした浅黒い肌のやや出っ歯の男。向こうから先に声をかけてきた。
「よっ、オレが丸谷区の代表、キキタってんだ、よろしくなお嬢ちゃん」
「若草代表マドウ・カケリです。よろしくお願いします、負けませんけど」
「言うねー、こっちも女の子だからって手は抜かないぜ、まあ負けても恨んだりするなよ」
もうすぐ、あのゲートが開く。それの合図となるアナウンスが、スピーカーから流れてくる。
『皆様お待たせしました。本日の第一レースは、丸谷区と若草区と相成ります。デビュー戦を見事勝利で飾った若きエース若草区の活躍にご注目くださいませー。さあ、まもなくスタートとなります』
カウントダウンが始まる。
ゲートが開いて、眩い世界が映ると同時にスタートだ。
「――お疲れ様です、カケリ様。見事な走りでした」
「ありがとうカツさん」
レースも無事勝利で終了した。会場は、次のレースで盛り上がっているけど、あたしたちの戦いはひとまず終了だ。今回のレースも前回のようなトラップが次々に現れたけど、走りを乱されることなく、あたしは裸足で、全力で駆けられた。マケンドーのトラップの解除は手際よく、一度もトラップにひっかかるような事はなかった。
「慢心するなよ。カケリ、帰ったらすぐにトレーニングの続きだ」
厳しい顔と口調でそう言うマケンドー。別にねぎらいの言葉をかけてくれなんて言わないけどさ。冷たい奴だよ、マケンドーは、ソレに比べてあの人は…。
河川沿いで出会った、まるで天使みたいな男の子、天使君。彼のことが脳内に浮かんだ。
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