星の扉
シラセナンキョクより究極の選択を迫られたホツカ。ホツカが選ぶ扉とは…
「師匠、僕は星の扉を選ぼうかと思うんです」
こそり、とホツカは師匠にだけ聞こえる声量で話す。ホツカが星の扉を選んだわけとは
「ここにいる人たちのことをまだよく知りはしないのですが、直感で、他の方は自力でなんとかできそうな気がするのですが、アオさんだけは…とんでもなくどうしようもないレベルで、協力してあげなければと感じたんです」
短時間のやりとりだが、アオは和を大事にするタイプのように見える。おそらく、仲間がいて能力を発揮できるタイプだろう。つまりは、一人ではなにもできない。ホツカが手を差し伸べるのは、アオのような力を持たない弱い立場の人たちだ。
『たしかにな。真っ先に助けてやるのはあの少年だろうな』
二人のやり取りはアオには届いていない。アオのほうへと歩いてくるホツカたちにきょとんとしながらアオは
「どうしたんだ? まさか、星の扉を選ぶって言うのか?」
「そのまさかです。問題ありませんよね?」
ホツカは自分を選んだ。喜ぶべきことなのに、アオはなぜか困ったように眉根を寄せる。
「気持ちは嬉しいけど、でもさ、他にも女の子がいるんだぜ? 普通は女の子に手を貸してあげるべきだろ。オレが君の立場ならそうするけどな」
同じ立場なら、男であるアオより、少女であるスズメらを助けてあげるべきとの主張。それには同意するが、アオが普通の男ならだ。アオは普通じゃない、弱すぎる。が、そんな本当のことはホツカだって本人に面と向かって言えず。
「先にアオさんの世界を救うんです。そのあとで、一緒に他の方の世界を救いましょう」
とっさにホツカはそんなことを言った。複数の世界を選択できるなどシラセナンキョクは言わなかったし、本来ならないだろう、そんな反則的な選択は。だが、アオの説得には充分だった。ホツカの言葉は他のみんなも救おうということだし、先にアオの件をすませて、アオにも協力をあおぐ。頼りにされていると解釈できる。
「うん、そうだな。とっとと終わらせてこよう」
アオとホツカと師匠は星の扉をくぐった。
「!? ここは…」
突然風が吹き付けてくる。暗闇から一変、見渡す限りの草原の中にいた。知らぬ間に瞬間移動したみたいに。潜り抜けたはずの扉はどこにも見当たらない。
「オレの世界に似ている」
「アオさんの世界?」
「ああ」とアオは前を見据えたまま頷く。アオの世界に似ているがアオの世界ではないのだろう。シラセナンキョクが言ったとおりなら、ここはダンジョンの中だ。
「どこかにいるボスとやらを倒せばここから出られるんだよな」
周囲を見渡すが、ただ草原が続くだけで、他の者はどこにもいない、なにもなかった。
『ボスどころか、鳥すら見当たらんがな』
「たしかに、生き物の気配を感じられません。それに、ここでも精霊の力を感じられない」
『シラセナンキョクの力が及ぶ世界、なのだろう』
謎の草原に放り出され、目的もハッキリせず、立ちすくむホツカたち。
「やいシラセナンキョク!どこにいるんだ?姿を現せよ!」
空に向かってアオが叫ぶ。空は雲ひとつない真青な空で、その向こうから返答がくるわけではなかった。ただ風の音だけがホツカたちの耳に届く。
『呼んで姿を見せるなら苦労せんわ』
やれやれと息をつく師匠。だが、アオの呼びかけに返答があったのか? なにもなかった上空に鳥のように羽ばたきながら降下してくる一つのシルエットがあった。
「うわっぷ」
顔面に謎の物体が落ちてきて、アオは驚いて転倒する。アオにぶつかったのは鳥…ではなく、一冊の本。不思議に発光しているその本は、表紙に星のシンボルが描かれ、タイトルに【蒼色勇風】と書かれていた。
「これは…」
地面に落ちたその本をホツカが拾う。指先に触れた瞬間、本はホツカの体に溶け込むようにして消えてしまった。
「なんだ今の攻撃は? ホツカ、無事か?」
慌てて立ち上がり、アオはホツカのほうに振り向く。
「なるほど、そういうことか。アオさん、向かう先はこっちです」「うええ? なんだよどうした?」
突然ホツカは走り始める。ホツカはこのダンジョンの目的地がわかったというのだろうか?先ほどの謎の本のせいなのだろうか?事情が飲み込めないアオだが、ホツカのあとを追いかけた。
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