幕間 協会の面々
今回はちょっと特別な小唄だよ
ドーリアや協会にいる連中がどんな者たちか、気になるだろぃ?なるだろねー
というわけで、ちょいと小話、きいとくれ
協会のやつらにも人生あれば、それぞれの物語があるって話
そこをちょっぴり聴かせてあげるぜぃ♪







さらり、と白い肩から銀色の美しい髪が流れ落ちる。
髪の主はゆったりとした椅子に腰掛け、閉じていたまぶたをゆっくりと開く。
漆黒の瞳は宝石のように美しく、見るものすべてを魅了してしまいそうなほど、魅惑の光を放つ。
ゆっくりと数度まばたきをする。
ドーリアが目覚める。先ほどからこの椅子に座り、協会本部内のまるで城のような豪華絢爛な館の中、救世士ドーリアが座する間。そこは豪華すぎる美術館のよう。大理石の床、数段高いところにドーリアが座する。

「無駄なあがきでしかないのに。…愚かなこと、哀れなこと…、ふふふ」

目を細めて、ゆるりと不気味に薄紅色の唇が弧を描き、ドーリアが笑う。
先ほど意識を飛ばした先で少しばかりホツカをいじめてやった。魔動兵士より発せられた信号は、元凶はカツミなのかと思えば、その場にホツカもいたことにドーリアが気づいた。
どうやらホツカは無事のようだが。

でも内心焦っていることでしょう。とドーリアは思う。焦っているのはホツカではなく、アレのことだ。アレのことを考えて、ドーリアは不気味に笑む。
アレを知るのはドーリアとホツカ、そしてもう一人。
アレはホツカ以上に無力で、おそるるに足らないものだ。それなのに、ドーリアがもっとも気にするものだ。
恐ろしいのは兵器でも他人でもない。己の中にある。



「おおっ、ドーリア目覚めたのか」

間に入ってきたのは恰幅のいい髭を蓄えた中年男性。協会幹部の一人であり、ドーリアの叔父にあたる【ビス】だ。このドーリアの間に入ることを許されているのはビスを始めとする協会幹部だけだ。

「ヤデトを呼んでくれるかしら」

漆黒の目を細めながら、ドーリアはビスに命じた。




呼び出されたヤデトは、敬愛するドーリアに呼ばれたことに歓喜しながらも、緊張で心臓がバクバクと爆発しそうな状態にあった。膝をつき、顔を上げられずにいた。空気に押し殺されそうな緊迫感。
魔動ロボが壊れたのは自分のせいではない。
言い訳ばかりが頭の中をグルグルめぐる。
先ほども修理を行う技師たちに、厳しくいいつけてきたところだ。
すぐに直してすぐに使えるようにしろ!と。
技師たちは修理を受けたが、不服そうな顔をしていたのがまた腹が立つ。
あの労働者どもめ、誰のおかげで食っていけていると思ってるんだ。
ヤデトが年下だの子供だのとどこかなめているような態度をとる奴らが何人かいる。特にあの無愛想な技師の男が一番むかつく。もっとこのヤデト様に媚びへつらえ!などと内心憤る。


「ヤデト、私の言いたいことはわかるわね?」

びくり、とヤデトの肩がはねる。
頭上から降りかかるドーリアの声。それは聞きほれるほどに美しい響きだが、萎縮させる効力もある。
救世士であるドーリアは、この世界のトップだ。姉ではあるが、甘えられる存在ではない。上司であり、崇拝すべき神のような存在だ。というか神そのものだ、ヤデトにとっては。
バクバクと心臓がはねる音が速くなる。ドーリアの期待に背いてはならないのだ、絶対に。

「姉上、処刑に失敗したのは私のせいではございません。突然ロボが動かなくなったのです。ロボに原因があるのです。つまり」

ベラベラと考えていた言い訳が早口でヤデトの口から解き放たれる。そう自分は悪くない、ヤデト自身に落ち度はない。自分に否はないことはハッキリとドーリアに伝えておかねばと。ヤデトは整備した技師に責任を押し付けようとしていた。だが、それはドーリアの言葉に阻まれる。

「つまり、ロボを破壊した者がいた、ということね」

ガバッと音を立てる勢いでヤデトは顔を上げドーリアを仰いだ。ドーリアはヤデトではなく、どこか遠くへと目線を向けていた。「ふふっ」とドーリアが口元に指を添えながら笑みをこぼす。

「お前の気づかぬところでロボを破壊した者がいたということよ。そんな芸当ができるのは、人間じゃあないわ」

ドーリアのいうことがヤデトには理解できず、「はあ」と声を漏らしながら彼女の言葉を聞く。ヤデトだけでなく、叔父のビスにもわからぬことで、目配せするが互いにどういうことだろうと首を傾げる。

「ドーリアよ、人間の仕業でないとするなら、いったいなにの仕業というのか。まさかもののけの仕業とでも?」

ドーリアの言わんとすることがさっぱりなビスが、両手のひらを上に向けながら、どういうことかと彼女に訊ねる。

「人でないのなら、わかるでしょう?」

いいやわからんという顔で返事するビスとヤデト。

「魔法使いよ」

さも当たり前とばかりに答えるドーリアに、その返答に「どういうことだ?」と驚くのはビスとヤデトだ。

「ど、どういうことですか? 魔法使いといえば姉上と、それから伝説の魔法使いしかいないはずでは」

「ああドーリアでないとするなら、その伝説の魔法使いの仕業ということになるな。だがなぜだ? その伝説の魔法使いは協会に協力した者だと言い伝えられている」

まさか裏切りを?と言いたげなビスの言葉に、「違うわ、その者ではないのよ」とドーリア。またパチクリと驚き眼で、二人がドーリアに注目する。

「伝説の魔法使いはすでにこの世にはいないのよ。その代わり、別の魔法使いが現れたのよ。
少年の姿をした魔法使い、その名はホツカ」

ホツカだって?
ビスもヤデトも初めて知る事実で、初めて聞く名前だった。

「協会にあだなす魔法使い、私の敵よ」





協会本部に併設している巨大な工場。数体の魔動ロボが格納されており、ロボの整備がなされている施設だ。常時技師がいて、ここでロボを作り出し、修理し整備している。
油と金属の独特のにおいが立ち込める。
作業着姿の50代半ばの白い髭と白髪のボサボサ頭の男と、20代前半の目つきの鋭いツンツン頭の男が作業に当たっている。
若い方の男の名は【ボルト】といい、ぶっきらぼうな性格ながら魔動ロボにかける情熱は人並み以上。まだまだ荒いところもあるが、将来有望な若手技師だ。本人も常に機械にまみれた生活が一番だと思っている。魔動ロボをこよなく愛し、愛するがこそ、ロボを雑に扱うヤデトに反感を抱く。

「たくひでーもんだぜ、あんのガキャー。だけどよ、安心しとくれよ。おれっちがすぐにお前を直してやるからな」

恋人を見つめるような眼差しでボルトはロボの鋼鉄ボディを愛撫して、脚立から飛び降りて、白髪の技師の下に向かう。

「なー、おかしら、どんなもんっすか?」

ああ、と言いながらおかしらと呼ばれた白髪の男は眉をひそめながら手元の装置を見せる。

「魔高炉の異常は直ったはずなんだが。どうもおかしい、上手く作動しないんだ」

ロボの外部には何度も確認したが異常はなかった。ヤデトが転倒したさいに、ボディにへこみと傷ができたが、それが動作に影響がでるほどのものではない。操縦席のヤデトが壊したレバーも修理済みなのでそこでもない。問題があるなら魔高炉のほうだろうということで、心臓部である魔高炉を取り出し調べていたのだが。

おかしらから魔高炉を受け取り、ボルトも確認する。金属の筒のような形の魔高炉のつなぎ目部分からのぞく光に違和感を覚えた。

「おかしら、なんかMストーンがおかしくないっすか? 前はこんなに光ってなかったはずっすよ」

「なに? ちょっと見せてみろ。!? ああっこれは」

おかしらが異常に気づいたらしく、驚きの顔をし、しばし固まる。不思議なことが起きていた。ありえない、と目を丸くしながら弟子のボルトに伝える。

「詳しく調べてみないことにはわからんが。この輝き方からして、Mストーンの純度が変化している」

おかしらの言葉にボルトはうげっと悲鳴を上げる。

「魔高炉はMストーンに合わせて作ってあるから、てことは、魔高炉を対応したものに作りかえなきゃならないってことっすか」

もしくは魔高炉に合わせて、対応したMストーンに変えればいいが、Mストーンは希少なもので、やれそれと協会が提供してはくれないものだ。だからこのMストーンをそのまま使うとなれば、これに合わせて一から魔高炉を作らなければならない。
魔高炉は作製に必要なパーツも高価だが、技術も高度なものが要求される。一つにつきかかる費用は個人でどうこうできないレベルの、とにかく高価なものなのだ。
費用を負担するのは協会サイドでボルトたちが心配するところではないが、安いものではないので、いい顔はしないだろう。なにかと難癖つけられそうで、うんざりする。

「とにかく本部に報告するしかないな。現時点でわしらにできることはないからな」

「でもこんなことってあるんすかね。Mストーンの質が変わるなんて事、今まで聞いた事もないんすけど」

おかしらの言うことを疑うわけではないが、ボルトには信じがたいことだった。それはボルトだけではなく、言ったおかしら本人も信じられないように怪訝な顔をする。おかしらもMストーンに関しては素人だから、本当のところはわからない。ただMストーンは純度によって輝き方が変わることは一般的に知られている。質の低いMストーンはぼんやりとした光り方しかしない。純度、つまり石に含まれる魔力が高ければ高いほど輝きを増すと言われているのだ。一般に高純度のMストーンはお目にかかれない。とてもレアな存在だ。もしあるとするならば、それを所持し、目にすることができるのはドーリアぐらいしかいないだろう。


「おい! 技師ども、とっととロボの修理をしろ!」

工場内に響く声高いヤデトの声に、ボルトは顔をしかめ、おかしらはやれやれと息を吐く。
鼻息荒く怒り肩で歩いてくる生意気な少年に、ボルトは「無茶言わないでくださいよ」と鼻息吹きながら不愉快そうな顔のまま言う。おかしらもすかさずフォローに回り、Mストーンの異常のためすぐには起動できない旨説明する。

「ふん、原因ならとっくにわかっている。Mストーンを変えた犯人は、ホツカという魔法使いだ」

先ほどまでホツカの存在すら知らなかったヤデトが、さも知ってて当たり前とばかりの生意気な物言いでそう言う。
ホツカの仕業だ!と言われても、ホツカがどこの誰なのかさっぱりわからないボルトとおかしらは怪訝な顔して互いを見て首を傾げる。

「Mストーンならこっちを使え、とっとと組み込め早くしろ!」

つっけんどんな態度で、ヤデトはドーリアから渡してもらったロボ用のMストーンを二人の前に突き出す。突然事情を聞かされて、早くしろと急かされて、ヤデトの思いやりのなさにイラッとはくるが、コイツはいつものことなので、いちいち腹を立てても不服を伝えても仕方ない。おかしらは割り切っているが、若くて短気な性質のボルトはギリリと目をさらに吊り上げて苛立ちを露にしている。
まったく、なんでこんな生意気なガキが天下の協会の幹部なんだろうか?

動き出す技師たちのケツに催促の眼差しを向けながら、ヤデトの心は別のものに対する怒りに満ちていた。

「おのれ、ホツカめ、姉上に抗う者はボクの敵だ。絶対に這い蹲らせてやる!」

まだどんな者かも知れないその相手を憎憎しく思うヤデトだった。







おおおお、ヤデトの怒りメラメラと燃え上がる
ホツカの災難これから始まる〜?のか
ささささ、と協会からは離れたところでー
小唄はどうだったい? 
ドーリアはやっぱり恐ろしいねー、そしてヤデトの憎しみの感情もおっかないねー
魔動ロボにかける技師たちのドラマにも、注目してあげたいぜー
さてさて、次はホツカたちの番だよ
まだまだ続くよ、聴きに来てくれるかな? シーユーバイチャッ!


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