第二十五話 バトる！戦鬼ＶＳキュートロボ
愛の告白コンテストで、ついに出会えた目的の少年
彼を何とか守らなきゃだよ
少年コウは、大人のお姉さんフィアに胸きゅんきゅん
さらに兄はアイドルアドルのおっかけだってー
なんの因果か運命か
だけどほっとはできないよ
カツミとワマヨがバトっちゃう？
かわいい少女と侮るなよ？危険なにおいがプンプンよ〜
カツミの鉄の塊のような硬い拳がワマヨのロボを襲う。ワンツーパンチを軽やかなステップで流すワマヨロボ。ギャラリーから感嘆と、不安げな声がもれる。
だがカツミの攻撃を、ワマヨロボがすべて避けきれるほど甘くはない。素早く拳の向きを変え、カツミの攻撃が鋼鉄のボディに入る。
「わー！」
沸き起こる歓声の中、シャニィはカツミに声援を送る。
「いけーカツミ、そのまま決めちまえー！」
腰を沈め、ひじを引く、すばやく振り切る拳が、ワマヨロボを弾き飛ばす。
「きゃわーん」
幼い少女の悲痛な叫び。吹っ飛ぶロボから人々は逃れるように引き、スペースができる。「大丈夫なの？ 中にいる女の子は」「子供相手に酷いことしやがる」そんな声が観客の中から聞こえる。
「けんか売ってきたのそっちじゃねーか、なあカツミ」
はたから見たら、少女相手に殴りかかる、カツミのほうが悪党に見えてしまうだろう。人相も悪いし、大柄でほとんど裸みたいなジャケットを羽織ったカツミは、印象もよろしくない。だが当のカツミ本人は、そんなこと気にも留めていないだろう。そんなことより、ロボがどう反撃に出るのか、のほうに意識が向く。
心配げな観客に反して、ワマヨの関係者である青年のビセンは穏やかな表情を崩さず、きれいな立ち姿で身動きしない。
「んまー、大変ですの！ パーツの接続部が外れてしまってますの！」
ぐにゃり、とロボのボディ部分にゆがみが入っていた。カツミの拳が当たったのだ、当然ともいえるのだが。
「なんだ、あのロボ、ヤデトたちのものと違う」
ホツカのつぶやきに、「うむ、そうだね」とヤードも頷く。そのことにカツミ自身も気づいているようで、不愉快そうに舌打ち顔を歪ませる。
「ビセン！パーツチェンジですの！」
ワマヨがビセンのほうにそう合図すると、彼の背後からキュルキュルと急発進してきた戦車が止まり、車体から機械性のアーム現れ、鮮やかな色合いのパーツを掴んで伸びる。ワマヨのロボはビセンのいるほうへと軽やかに走り、アームがテキパキとロボの壊れたパーツを引き剥がし、新たなパーツを取り付ける。
三十秒と経っていない、素早い修理だ。修理…というよりも、ロボの…
「お色直し完了ですの！」
きゅぴーんという効果音とともに、再びワマヨロボはカツミの前にジャンプして現れる。
「なんだよ、色が変わっただけだろ？ カツミ同じようにぶっ壊しちゃえよ」
びゅっと拳を振りながら、シャニィがエールを送る。シャニィの応援にカツミはいちいち反応しないが、フンっと鼻息吐きながらロボのボディに拳を叩きつける。観衆が「わっ」と声を上げる。ロボは衝撃でブルルと震えたが、そのボディは…先ほどのように痛んではいない。カツミの打撃も妙に地味な音がした。「ざわっ」と観衆の声があがる。
「色が変わっただけに見えますけど、そうじゃありませんね。あれは…」
観衆の中見守るホツカのつぶやきに、ヤードも「うん、そうだね」と頷く。パーツの色が変わっただけに見えるが、そうではなかった。ロボのボディパーツ、どうも今までのヤデトたちのロボとは違う。素材が特殊なもののようだ。
「むふふふふ、ぜーんぜん平気ですの。キューティーちゃん一号にそんな攻撃効きませんの！」
得意げなワマヨの声に観衆も驚き、わあっと歓声が上がる。
「すごいぞキューティーちゃん一号！」「ほんとうだ、ボディに傷一つ入ってない」
すごいすごいと感動の声が沸き起こる。カツミは完全に引き立て役だ。すっかり主役はキューティーちゃん一号、ことロボを操るワマヨといった空気だ。「むふふむふふ」ワマヨもご機嫌で鼻笑いが止まらない。
「あたくしのプロモーションに役立ってもらいますの！」
パシュンとロボのひじからカツミのほうへなにかが放たれた。小さな弾のようなもの、だが兵器としては弱く、カツミの軽いこぶしであっさりはじかれる。「なんだよ、たいしたことねーな」とシャニィは言うが、その弾ははじかれて地面に転がるが、まるでカツミのほうに引き寄せられるように弾いて飛ぶ。
パチンとそれはカツミの拳にくっついた。
「いきますの！」
さらにロボから次の飛び道具が飛び出し、それはさきほどよりやや大きいだけの弾だが、特別殺傷能力もなさげな楕円の弾だ。それがカツミにくっついた弾と引かれあうように飛んでいき、ぶつかりもしない距離でカッとはじける。
「魔法の力？カツミさん！」「カツミー！」
ホツカとフィアがカツミのもとへ駆け出す。「あっフィアさん？」と焦るコウはヤードが引きとめる。
「危ないよ、君はここにいるんだ」
「でもフィアさんが…」
振り上げたカツミの拳にはじけた弾から飛びたした粘着物が張り付き、地面にびたんとくっつく。
大男が膝から倒れた状態で、粘着物は柔らかく見えたが拳と地面に張り付き、びくともしない。
「あーん、なにやってるのよカツミー」
ガシャンと機械の靴音をさせてフィアがカツミのそばに立つ。
「シャニィちゃんが見ているのに、かっこ悪いわ〜」
「チッ」
と舌打ちカツミはフィアを睨みあげる。
「魔法の力だ。あのロボのパーツに魔法がかけられている。カツミさん、すぐに僕が魔法の力で…」
ホツカが魔法をかけようとするが、カツミは「必要ねぇ」と吐きすて、息を吐き出し、全身に力を込め、拳を振り切り粘着物を飛散させた。
「カツミさん…」
力技で魔法の特殊弾の効果から脱し、カツミはワマヨのロボに殴りかかる。
「んまー、なんて筋肉ですの、ステキ…」
緊迫感のないワマヨの声。ただカツミの力に感激していた。そんな中でも冷静にロボを操縦し、さらに機体からバシュンと特殊弾が放たれる。バツンバツンと拳で弾くカツミ、またも拳に張り付くがものともせず、そのままロボを殴りつけ、キューティーちゃんは宙を舞った。
「きゃーー」
ワマヨの悲鳴と、観客の悲鳴が響く。飛ばされながらさらにワマヨのロボから弾が放たれる。不安定なそれはカツミだけでなく、観客のほうへも向かう。ホツカは急いで風の魔法で空気のバリアを張る。少年コウが死なないよう、特に彼の周りにバリアを張る。だがすべてを防げそうにない。
「フィアさん！」
ホツカは魔法を解いて、フィアに魔法をかける。足元からフィアの体を浮かせる。
「コウくんはワタシが守るわ〜。ホツカ君、みんなを守ってちょうだいー」
「はい」
風の魔法で浮き上がり、大ジャンプでフィアはコウの前に立つ。「コウくん、顔を伏せて！」「は、はいー」言われるままコウは身をかがめた、フィアに抱かれて、柔らかい肉圧にドキンとなる。
ホツカは風の魔法で、特殊弾を弾き、はるか上空で弾かせた。まるで花火のようにそれは空で音を立て、シャニィは口をあけて見ていた。観客たちも驚き、ざわざわとなる。どうやら被害はなかったようだ。カツミにぶっ飛ばされたワマヨは、…ぴょこんと無邪気に飛び出し、怪我もなくピンピンしていた。
「まー、予定通り…とはいきませんでしたけど、なかなかのプロモになりましたわ。見なさい。あれだけの衝撃でもキューティーちゃんは怪我してませんの！」
しゅびっと指差すワマヨ、キューティーちゃんは地面にスッ転げていたがめだった破損はなかった。
「おおー、すごいぞー」
観客たちはワマヨのほうに拍手をする。まるでホツカたちは引き立て役だ。
ヤードに呼ばれ、カツミはチッと舌打ちしながらもそれ以上の追撃はしない。
「ふう、コウくん大丈夫かしら？」
ゆっくりと抱き寄せた少年から離れながら、フィアは守るべき少年の無事を確認すると、「シャニィちゃんはだいじょうぶ？」シャニィの心配をするが、シャニィも怪我もなく無事のようだ。
「シャニィ？」
ホツカが声をかけるが、しばらくシャニィはぼーっとして空を見上げたまま。
「シャニィ！」「うわっなんだよホツカ」
なんだよはこっちのセリフだよとホツカがあきれる。
「花火…」なにを思うのかシャニィがぼやりとつぶやく。ヤードも気にしていたが、シャニィは故郷の祭りを思い出しているのだろうか。
なんにせよ、悶着はあったが目的の兄弟の弟のコウとは出会え、その兄はアドルのところで会えるようだ。
のちほどラキラとも合流して、アドルのライブに向かえばいいだろう。
『ホツカよ』
「師匠！ なんとか予知夢の危機は回避できました」
バサバサとホツカのもとに飛んできた師匠に報告する。『うむ、それはなによりだが…』
予知夢とは無関係だが、師匠は気になる光景を見たとホツカに告げる。それは住宅街の路地を失踪する黒猫の姿を見たのだという。
「黒猫ですか？ まさか…」
『うむ、その近くでカピカの姿を見かけた。黒猫はエンジェルという猫かもしれん』
カピカとエンジェルもフェスにきていた。いつもカピカのそばにいたエンジェルが彼の元を離れているらしい。特にたいした事件ではないが、ホツカは気にかかった。
プリンセスとエンジェルは姉妹猫だ。二匹の間になにかあったのか、それとも別の何かかがあったのだろうか？
カツミの攻撃なんのその
ワマヨとキューティーちゃんロボあなどれないよ
ホツカよ協会の動きに要注意さ
協会の新ロボ開発、まだまだ進化しそうな予感？
ワマヨのたくらみも気になるよ、カツミの筋肉狙われている？
祭りにかけるシャニィの心も気になりけり
師匠は見たよ、走るエンジェルどこ向かう？
フェスもいよいよ大詰めだよ、アドルのライブにレッツラゴー
ＢＡＣＫ ＴＯＰ ＮＥＸＴ 2017/12/04ＵＰ