第二十四話 恋する少年たち

わくわく楽しいフェス!まだまだ終わらないよ
あっちこっちでコンテストー
ヤードはホツカにラブメロで〜
ラキラはプリンセスにメロキュンよ〜
あっちやこっちで盛り上がり、大変トラブルも発生中?
カピカのエンジェルどこ行ったの?
カツミを狙うワマヨも要注意
ホツカよ女装している場合じゃないかもよー?






「あ〜ん、二人ともステキだったわー!」

腰をくねんくねんさせながら興奮気味にフィアが言う二人とは、つまりはヤードとホツカのことだ。ヤードも嬉しそうにニコニコしているが、ホツカはげんなりとしていた。まだヤードに口づけられた頬の感触が生々しく残っている。ホツカにとっては災難だが、周りから見れば年の差ラブラブカップルで、ヤードのキッスも愛の行為と判定されたらしい。

「そ、そうだよホツカ君、審査員の人もすごく褒めてたし、優勝はできなかったけど、特別賞もすごいことだよ。よかったね」

とアドルはホツカを慰めているのか、それとも自分に言い聞かせているのか。嬉しそうなそうでもないような複雑な表情の笑顔を向けていた。アドルもなにか勘違いをしているようで、それにもげんなりさせられる。こりごりしたホツカは衣装は着替え、いつもの服装に戻した。「うん、仮装もいいけどいつもの姿もホツカ君らしくていいね」とヤードが言ったが、どうでもいい。

「コンテストの結果はともかく、みんな目的忘れてませんよね?」

半目で精神そがれつつも、ホツカが再確認する。

「ホツカ君が言った兄弟らしき人たち、見当たらなかったわね〜」
「他のコンテストも見て周ろうか? やはり少年の出るコンテストを当たったほうがいいかもしれないね」

一応、探していてくれたらしいが…。それらしき人物はまだ見つからない。コンテストも多いし、フェスに来ている人間も多すぎる。ホツカの知るヒントも少なく、途方もない気もしてきた。

「ホツカ君、アドそろそろロデューさんのところに戻るね。それらしき人、見かけたら教えるから」

「うん、ありがとうアドル君。ライブにもみんなで行くからね」

「はい! それじゃあ、また」

パタパタとアドルはロデューの元へと走っていった。再び三人に戻り、人探しを再会する。

「師匠からも連絡がないし、カツミさんとシャニィもコンテストを見て周っているようだけど…」

「もっと盛り上がっているコンテスト、探してみましょ〜」

手がかりを求めるホツカたち。やはり地道にコンテストを当たっていくしかないのだろうか。ちんたらしていては、悲劇が現実になってしまう。あまり悠長にはしてられないのだが。盛り上がっているコンテストを早速フィアが見つけたらしい。「あっちいってみましょー、とっても盛り上がってるわー」と、うふふと嬉しそうに呼びかけるフィアに、ヤードとホツカもそのコンテストを覗く。

かなり盛り上がっている会場。先ほどのカップルコンテストよりも、集まりは多い。ギャラリーもおおいに盛り上がっている。大きな声で主張している…そのコンテストは…?


「ハクトウさん! ずっと好きでした! 一緒にスイーツ三昧してくださいっっ!!」

青年が声を張り上げ、真っ赤な顔して主張している、会場の舞台の上で。一体コレはなんのコンテストなのか。訊ねるまでもなく、フィアが嬉しそうに、「キャー、なんてラブラブな愛の告白なのかしらー」と興奮して腰をくねらせている。なるほど、またしてもフィアの好みそうなコンテストなのだろう。参加者は老若男女様々だが、特に若い男性の参加者が多い。舞台の上で、愛を告白するコンテストなのだそうだ。しばらくして、会場の中から、「こちらこそ、よろしくお願いします!」と若い女性の声がし、カップル成立にギャラリーも拍手と祝福の声が沸きあがる。

「あーん、ステキー! ワタシもカツミへの愛を叫びたいわ〜」

フィアさん、自分の趣味だけでこのコンテストに来たんじゃ…、とホツカはあきれるが。舞台の上、次の参加者が登場し、ギャラリーがエールを送るように拍手をする。「みてみてー、男の子も誰かに告白するみたいよー。あーん、がんばってー」カチコチになりながらも、意を決したように少年が舞台に立つ。彼はある熱い想いでもってエントリーした。相手はどこにいるかわからない、そもそも名前も知らない。だけど、このフェスのどこかに今もいるはず。その可能性にかけて、愛を叫ぶ。

「名前も知らないキレイなお姉さん! もう一度あなたに会いたいです! ぜひデートしてください!」

名前もわからない、特徴もわからない。誰に向けた告白なのか、それは少年にしかわからない。ギャラリーのおじさんから「坊主ー、お姉さんの名前はー?」とか、「ここにいるキレイなお姉さんのことー?」と自ら手を振って主張する人もいたが、少年は「わかりませーん、違います」と返答していた。会いたいというのに、どこの誰ともわからなければ、彼の願いは叶わないのでは。

「! フィアさん、とりあえず手を上げてください」とのホツカの声に、「ええっどうして?ホツカ君」ときょとんとフィア。

「たぶん彼です。夢に見た兄弟と似ているような気がして。可能性があるなら、彼と接点をもちたいので」

「ふふ、わかったわー。はーいボクー、もしかしてワタシかしらー?」

快くホツカの提案を受けてフィアは少年に向けて手を振る。それに少年は初めて、目を輝かせ、驚いた顔で「え、えええーーーー! お、お姉さん!!は、はい〜〜〜!!」

緊張した声で、こくこくと頷いて、慌てて舞台を飛び降り、フィアの元に駆けてきた。まさかの偶然にホツカたちも驚くが、当の少年が一番驚いていた。

運命ってあるんだ。少年コウは強く信じた。偶然の出会い、だけどもそれが運命の出会い。一目ぼれしたグラマラスで優しくて美人のお姉さん。再び出会えた。わずかな可能性にかけて、このコンテストに思い切って出て、本当に再会できるなんて!
これはもう間違いなく、運命の出会いだ。

「フィアさん、参加しなくてよかったですね…」

うっかりカツミの愛を叫ばなくて、結果よかったのだとホツカは疲れたように息を吐いた。

「うん、恋する少年いいね。キラキラに輝いているよ、ね、ホツカ君」

同意を求めるようなヤードのそれに、なんと答えればいいものかとホツカはげんなりした。とにかく少年は見つかった。彼から目を離さず、悲劇から守らなければ。



「うふふ、それでは改めて名乗らせてもらうわね〜。ワタシはフィアよ、よろしくねv」

親しげにパチコンとウインク飛ばしながら、フィアが少年に自己紹介をする。少年はフィアを見上げながら、ずっと目を輝かせ頬を染め興奮状態だ。よほどフィアにときめいているらしい。大人の女性に憧れる少年の年頃からしたら、ドキドキするのも仕方ないだろう。なんにせよ、ターゲットが見つかり、偶然にも少年がフィアに一目ぼれしており、接点が持てた。フィアが一緒なら、彼の身も守りやすいだろう。ホツカはひとまず安心する。

「私はヤード、そして彼は「ホツカです」とヤードとホツカもフィアに続いて自己紹介するが、眼中にないのか少年はずーっとフィアを見つめたままだ。

「オ、オレ…名前コウっていいます!」「まあコウ君なのね、うふふイイ名前ね」「は、はい!あっ、いえその…」真っ赤な顔で必死に返答している少年コウ。ほんとうにまだ信じられない、夢のようだ。憧れのお姉さんが今目の前にいて、自分の名前を呼んでくれている、そして…

「それじゃあ、約束どおり、デートしましょう」「!? うえっ、はっ…はいーー!!!」

ぎゅっと手を握られる。手汗でぐちゃぐちゃなのに焦るが、大人のフィアはそんなこと気にしない優しい余裕たっぷりの笑顔で、手を引いてくれる。ますます鼓動が速くなる。これが恋、本当の…大人になっていくための恋なんだ!
バラ色の現実、そしてまた予想外の現実に気づかされる。



「…あ、あの…フィアさん。さっきからくっついてくるあの人たちなんですか?」

フィアしか見えていなかったコウの視界にうっとおしくもチラチラと映るさっきからしつこい二人の存在がさすがに気になった。あの人たちと言われても、とヤードとホツカは目を合わせ息を吐くが。「あらどうして?」とフィアもまたきょとんとした顔で答える。

「なにって、あの人たちはワタシの仲間なのよー。一緒に行動して当然なの。気にしないで、デートしましょう」

「えっええ?」

強引にフィアにそう通されるが、コウは納得いかなかった。デートって二人きりでするものじゃないのか?正直あの二人、うっとおしい、邪魔だ、消えうせてほしいのに。

「フィアさんはヤードさんの護衛だから、離れるわけにはいきませんし…」

「うんそうだね。あまり二人から離れないように、私たちもデートするしかないようだね」

「はい、え…いや、ヤードさん…」

にこにこ顔で手を差し出すヤードにホツカはたじろぐ。この中年男、さっきのコンテストで興奮してしまったのでは、とホツカは少し身の危険を感じつつ。ホツカたちから離れたがっている少年コウから、こちらはあまり離れるわけにはいかない。フィアに対しては浮かれながらも、ホツカたちのことは不審な目で見てくる。

「うふふ、ダブルデートよv楽しみましょう、コウ君」

こういう場面ではフィアの余裕さが頼もしい。舞い上がっているコウはフィアの言葉には「はいー」と声が裏返りながら答えている。

「そっか、あの人たちフィアさんのこと好きとかじゃなくて、男が好きなやつらなのか。まあ理解できないけど」

とコウは納得してるんるん気分でフィアの横を歩く。アドルだけでなくコウからもいらぬ誤解を受け、ホツカはげんなりする。が、ひとまずは前進だ。彼を手がかりに兄に会うことが出来る。彼ら二人を危険から守るのだ。そして、協会の悪事を止め、人々を守る。フェスの平和を守るのだ。


多くの人が行きかう混雑したフェスの中、少年コウの目にはフィアだけが輝いて見えた。「あら、アレとってもおいしそうだわ〜、ねえコウ君」「はい〜」フィアにリードされるまま、コウはついていく。二人の後をホツカとヤードもついていく。屋台の甘いにおいに引き寄せられる。食べ歩きできるフルーツのパイをフィアは購入して「はいコウ君、一緒に食べましょう」と半分こに分けてそのままコウの口元まで寄せる。「あーんしてv」と。「はい!」と従順頷いて、パクっと食べる。甘いパイが喉の奥通り抜けていく。うふふと微笑むフィアに、コウは赤面し、ときめきを感じていた。

「はい、ホツカ君も食べてごらん」「…ヤードさん、いい加減悪乗りはやめてください」

フィアと同じようにパイを半分こでホツカに薦めたヤードに、ホツカは半目であきれながら拒否した。「やれやれ悪乗りのつもりはないんだけどね」とヤードはいうが、フェスにきてからのヤードはちょっと暴走しているようにホツカは感じていた。元から少年好きを公言している人だが、自重しなくなってきたというか、これもまた祭の魔力ゆえにだろうか。少年コウもうかれまくりだ、目がハートマークになっていると言っても過言ではないくらい、彼はフィアに熱中ぞっこん状態で。うっかり事故に巻き込まれないかと心配しそうになるが、不吉な夢の通りにならないように、ホツカたちは行動しているのだ。ホツカはフィアに合図を送り、もう一人の保護対象の彼の兄について聞き出すように促す。


「え、兄ちゃん? いるけど、…なんでそんなこと聞いてくるんだよ?」

兄の存在を確認すると、コウは怪訝な顔をしてきた。「もしかして元々用があったのは、オレじゃなくて兄ちゃんのほうだったってこと?」

「そうじゃないわ。せっかくコウ君と仲良くなれたんだもの。コウ君の兄弟の人ときちんと挨拶したいわって思ったのよ」

フィアの回答に、単純少年はまた勘違いで舞い上がり、「そ、そうだったんですか」とあっさりと信じた。さすがフィア、コウの恋心を上手く手玉に取っている、と感心する反面、ホツカは少々コウが気の毒に見えてきた。

「兄ちゃんならフェスのどこかにいますよ。さっきまで会ってたし。兄ちゃんなら友達の人と一緒になんかアドルとかいう女の子のおっかけやってて、浮かれてるんですよ」

「!? アドルちゃんの?」

目をパチクリとするフィアに、「へ?」ときょとんと顔で返すコウ。なんという偶然か、コウの兄はアドル繋がりで見つかるなんて。先ほど別れたアドルに会いに行けば、コウの兄にも会える確立は高いだろう。ひとまず手がかりが見つかり、ホツカたちも一安心した。

「目的の人物は見つかったし、カツミさんとシャニィとラキラさんに連絡とります」

ホツカが魔法でシャニィに連絡をとると、彼女のほうから衝撃の一報が届く。「大変だホツカ、カツミが!」



『ホツカよ、協会が行動を起こしたようだ。すぐに向かうのだ』

師匠がホツカの元に飛んできた。ちょうどシャニィからSOSを受けたばかりだ。コウの兄探しはあとにするとして、ホツカたちはその現場へと走る。コウもフィアの側にいたほうが安全だろう、一緒に連れて行く。コウはなにがあったのかわからないままだが、フィアの行くところ「どこでも行きます!」と勘違い恋少年の眼差しで一つ返事だった。


話は少し遡る。シャニィとカツミは協会の手がかりを求めて、あるコンテストに参加した。腕相撲チャンピオンコンテスト、単純な腕相撲の力自慢のコンテストだ。参加者は子供もいたが、大半がムキムキ腕力自慢という見た目の成人男性ばかり。「カツミなら優勝できるんじゃね?」とうっきうきでエントリーしたシャニィとカツミ。シャニィは予選落ちして悔しがったが、ドンドン挑戦者を叩き潰していくカツミの強さに歓喜した。人類最強の【戦鬼】の異名を持つカツミだ、腕力勝負に負けるはずがない。戦い日照りの続くカツミにもちょうどいい暇つぶしにはなったが、それで余計火がついたのか物足りなさに苛立つ。

「フン、ザコばかりか、もっと強いやつはいないのか?」

ギロっと鋭い眼光で睨まれて、ギャラリーや司会者もたじろぐ。「いえいえ、あなたが優勝ですよ。ささっトロフィーと参加賞を受け取っていってください」と司会者も困ったように言うが。カツミがそれに素直に従うわけでもない。誰かなんとかしてくれないかなーと思っていた矢先、天の助け?のように一人の少女の声がギャラリーの中から発せられた。

「いますわよ!最強で最高にラブリーな存在でしたら!」

ざわっとギャラリーがどよめく。ささっと波が引くように人が引いて、そこから現れたのは、小さな少女だ。金色のふわっとした長い髪を派手なリボンでまとめていた、くりっとした大きな目は愛らしくも、強敵を見据えるような力強さを放っている。腰に手を当て、何様だとつっこまれそうなほど堂々と立っている。

「誰だよ、あのガキ…」

カツミに向かって挑戦的な言葉を放つ、生意気な子どもなのだとシャニィは思った。こんな子どもカツミが相手にするわけないだろう。早く保護者よ連れて行ってくれと、そこにいた多くのものが思ったに違いない。だが…


「なんだと?」

ギロリ、と子ども相手でも鋭い目つきで睨みながら、カツミが反応した。

「おいおいカツミ、ムキになんなよ、ガキのたわごとだぞ?」

戦闘狂とはいえ、こんな子ども相手に本気になるカツミなんてシャニィも見たくない。子どもの悪口なんてスルーするんだ。周りの大人たちもそう思った。しかし、スルーできる状況ではなくなってしまう。

「まあ? たわごとではありませんの? あたくしのキューティーちゃん一号で相手しますのよ!」

バシューンという機械音をさせて、二足歩行の派手なドピンクのロボが現れた。

「協会か?! あのガキが?」

とシャニィが驚くが、子どものヤデトだって協会幹部だってことを忘れてはいけない。子供だからと言って侮るなかれ、協会の人物なら要注意人物だ。もちろんこの少女【ワマヨ】もしかりだ。ロボに乗り込み、ワマヨ操縦するキューティーちゃん一号がカツミのいる舞台の上へとやってきた。ヤデトのロボと違い、安定した操縦でしゅったんと軽やかにジャンプして舞台に立つ。ヤデトのロボと比べると最新式なのか、キラピカなボディで手足部分もしなやかに動く。そしてそれを操縦しているのが先ほどの幼い少女というのが驚きだ。

「さあ勝負ですの!」

意気揚々と人差し指をカツミに突きつけ、勝負を挑むキューティーちゃんロボ。「ちょっと待ってください、コンテストはさきほど終わって」とあわあわと司会者が慌ててとめに入るが、「そんなことはどっちでもいいですの」とワマヨ。「フン、かかってこい」と子ども相手にやる気マンマンのカツミ。ギャラリーも一転盛り上がって、やんややんやとはやし立てる。
「ようしカツミ、協会のやつらぶっ倒してやれー」とシャニィもノリノリだ。司会者はあきらめて「あとはもう勝手にしてください」とぶん投げて逃げた。



「カツミ! なにをやってるんだ!?」

ヤードたちが騒ぎの現場にかけつけた。コンテストの舞台の上、カツミは派手なピンクのロボと取っ組み合い、拮抗していた。「いったいなんのコンテストだよ」興味なさげにつぶやくコウ。最強の男が、小さな少女の操縦するロボ相手に手こずるその光景を、ホツカたち含めギャラリーは固唾を飲んで見守った。ホツカはその動向を注意深く見守る、コウはもちろん、ここにいる人たちをロボの脅威から守らなければと、悪夢を現実にするわけにはいかないのだから。

「そんなことより、フィアさん…デートは?」

当のコウにとってはそんなことでしかなかった。







大盛り上がりのフェス、カツミは優勝、ホツカとヤードは賞とったよめでたいねー
ていやいや目的そこじゃない!
ホツカよ悲劇を食い止めろ
コウと接触成功したよ、彼の兄はアドルと一緒?
そっちも心配だけど、大変大変
協会幹部天才少女ワマヨがついに動き出したよ!
新型ロボ、警戒してよホツカよなんとか倒してくれよ!


BACK  TOP  NEXT  2016/02/21UP