幕間 協会の面々5
ワクワク楽しいお祭フェス開催真っ只中
そんな中ホツカは悪夢見ちゃったよ
大変大変、なんとフェスに来ていたある兄弟が
災難にまきこまれて死んでしまうって!?
悲劇はホツカが必ず止めてみせるよ
まだ動きを見せない協会の怪しい動きに要注意!
協会サイドの動き、気になるおいらもこそっと見にいっちゃうよ〜
ナーオで開催されている西地方最大の祭【フェス】。当然のように協会もこのフェスを利用するつもりで密かに動いていた。ヤデトが先導して計画を立てていたのだが、先日のホールのイベントがなぜか大盛況で終わっていたのだが、ヤデトはその間まともに思考できる状態ではなかった。正気に戻ったときは、すでにイベントは終了しており、ヤデトが企む協会勧誘の大イベントのはずが、一人の少女のコンサートイベントとして幕を下ろしていたのだ。
ヤデトがイベント中、まともに動けなかったのは、ホツカにかけられた魔法のせいでもあるのだが、その魔法がきれた後、なぜかある幻に囚われて、しばらく呆けてしまったのだった。
そのある幻とは、そう彼にとって唯一とも言える、絶対とも言える重要な存在…
ドリーアだった。
今のドーリアではなかった。幻に見たドーリアは、以前の…人間であったころの姉ドーリアだ。
花のかおりで、かつての記憶が鮮明に蘇り、ヤデトの心と体を支配した。
花が好きな優しく美しいドーリア、優しくもあり、時に厳しくしかられることもあった。だけど、どんな時でもドーリアはヤデトを見捨てることなく、見守り、勇気づけてくれた。気恥ずかしくもあり、不器用な性格ゆえ、素直に姉に接することができなかったが、ヤデトはドーリアが大好きだった。
魔法使いになってからも、容姿が少し変わったことと、魔法が使えること以外は変わらずかつてのドーリアのままだった。そのドーリアが変わったのは、両親が亡くなってからしばらく経った後のこと。協会の最高責任者となり、経営者としても積極的に動くようになった。以前から両親を手伝い協会運営に携わってきたドーリアだが、自らトップに立ち、看板として、それだけでなく絶対的な権力者として彼女は協会を動かし始めた。以前のドーリアではありえない、乱暴とも言えるやり方で、多くの人を協会へと取り込み、逆らうものには、罰を与えた。
以前のドーリアなら、やり方を変えたり、どうすればいいか、皆が幸せになれるのか、周囲と意見を交し合い慎重に進めたことだろう。それがまるで独裁者のごとく強引なやり方でことを進めたのだ。だが彼女の傍らには叔父ビスがいた。冷静でドーリアと一緒に協会運営に従事してきたビスがいれば安心だろう。そう思っていたが、ビスはドーリアの言うがまま、己の考えがないように従順に動いていた。ビスがなにを考えているのか、ヤデトにはわからなかった。だが、…ドーリアは優しいかつてのドーリアと変わったが、ヤデトの姉ドーリアであることに変わりはない。そして、ヤデトのドーリアへの想いも変わりはしない。ビスが異を唱えないのなら、ドーリアは間違っていないのだろう。現に、協会の勢力は大きく膨らみつつある。両親のころよりも、はるかに巨大な存在になっている。それも今のドーリアの力あってのことだ。協会は正しい。ドーリアは正しい、だから彼女が作り上げた協会は絶対的に正義なのだ。
「姉上…」
いるはずのない幻のドーリアにヤデトは呼びかける。長い髪を三つ編みで束ねたあのころのドーリアがヤデトに優しく微笑みかける。花の香りが見せた幻、あるはずのない姿。それなのに、心は揺さぶられる。
『ヤデト、まんまとホツカにはめられたわね』
「! ハッ、あ、姉上!」
慌てて声をあげる。幻のドーリアはいつのまにか消えうせ、その場所に見えるのは今の救世士ドーリアだった。半透明の体で現れたドーリアは、魔法によって遠方から分身体を飛ばし、ヤデトに話しかけている。
「も、申し訳ありません! せっかく姉上に喜んでいただくはずが、あのホツカどものせいで」
がばっと勢いよく頭を下げるヤデト。だらだらと額に汗が伝う。焦りの嫌な汗が流れ出る。ドーリアの叱りを受ける、その恐怖に支配されるヤデトだが、ドーリアの声は穏やかなままだった。別に彼女はヤデトの失敗を怒るようでもなかった。というより、ヤデトがはりきって開催したイベントにさほど興味がないようだった。
『ふふふまあいいわ。ホツカとその仲間たちのみみっちい行いに、楽しませてもらったもの。それよりも、ヤデト、今度ナーオでフェスが始まるじゃない。ワマヨから聞いた企画、とても興味深いわ。あなたも一緒にやるといいわ』
「え、ワマヨが? 姉上、それはいったいどんな…」
そんな話は初耳だ。焦り顔を上げ、ドーリアに問うヤデトだが、ドーリアはヤデトのそれに答えるわけでもなく、詳細はワマヨ本人から聞くといいわ、と無責任に言い残して、消えたのだった。
「…くそっ、ワマヨのやつ、ボクに相談もなく勝手なことを。ぬけがけのつもりか、おのれ」
ワマヨに対する憎しみの炎をメラメラさせるのだった。
「ボクに口答えするな! ガキのくせに生意気にしゃしゃりでやがって。いいか、ボクが主導で決める。お前は言うとおりに動くんだ。余計なことをするんじゃない!」
「んまー、ヤデトのくせに生意気ですの! それにガキって言うほうがガキですの! ヤデトはおバカさんなんだから、あたくしの言うとおりに言うこと聞いていればいいだけですの! あたくしの足をひっぱらないでほしいですの!」
ダンダンと互いに机をたたきながら、エキサイトしながら意見がぶつかり合うヤデトとワマヨ。相変わらず顔を合わせば憎まれ口を叩きあい、ケンカしてしまう。周囲の人間もあきれながらも、いつものことなのか、傍観しているだけだ。こうなったら、簡単に収まらない。あきるまで言い合ってもらうほかない。
「なんだと? 年下なんだからお前がガキに決まっているだろうが! いつもいつも生意気なやつめ。いいかボクは姉上から任されたんだ! お前がボクを手伝えばいい!」
言う通りにしろと、ヤデトが決めた勝手なプラン票を叩きつけ押し付けてくる。それにワマヨは丸い頬をますます丸く膨らませ、プリプリと怒り顔だ。
「まあーよく言いますのね。ヤデトはおつむはあたくしよりお子ちゃまですのにー。この数式解けますの? さあやってごらんなさい」
どこに用意していたのか、数式の書かれた用紙をヤデトにつきつけ、挑発だ。それにヤデトはますます目を吊り上げ、「お前のそういうところがガキなんだ!」と紙を破り捨てる。
「まあ、できないからって逆ギレですのよ。ほんとヤデトはこれだから…」
ねー、と同意を求めるように周囲を見るワマヨの態度にますますヤデトは腹を立てる。まったくこの二人の話し合いなど決着などつかない、平行線だ。「もういい勝手にしろ」とヤデトがブチキレ退室した。怒りは収まらないが、ひとまずはこれでよしだとワマヨはふんぞりがえる。
そうして計画はワマヨが主導で行った。ヤデトはヤデトでやるつもりなのだろうが、そんなのしったこっちゃないとばかりにワマヨは独自のプランにワクワクと胸躍らせた。彼女の研究の相棒でもある青年【ビセン】が付き添い、ついにお披露目の時を迎えようとしていた。
そして、フェス当日、ワマヨはナーオの町をご機嫌な様子で歩いていた。両手にはおいしそうな食べ物があり、もちろんこのフェスのお店で買った絶品スイーツやらグルメだ。せわしなくはむはむと口にほおばる。
「んーー、これもさいこーにおいしーですの!」
もぐもぐと食べ歩くワマヨに付き添うのはビセン。彼の手にはワマヨが購入したお土産品がいっぱいだ。あとで預けて西支部のほうに送ってもらうことにするようだ。ワマヨは楽しいことが大好きな明るい女の子だ。フェスのように人がいっぱい集まり、盛り上がるイベントは大好きだ。派手好きな性格も合って、いろんなコンテストにも目移りしている。
「うふふ、楽しいですの。レオンやボルトも一緒なら、もーっと楽しかったですのに。あたくしこういうお祭でデートしてみたかったですの!」
ワマヨのお気に入りのレオンやボルトの顔を浮かべながら、残念ですの、とつぶやく。ボルトなら西支部にいるのだが…
「ボルト殿は開発で忙しいですから、仕方ありません。本日は私がエスコートしますよ、リトルレディ」
ご機嫌をとる様に、スッとスマートにかわいらしい花をワマヨに贈るキザ男ビセン。「まあ、ステキですの!」とすぐにワマヨはご機嫌になる。
「あたくしこの色大好きなんですの」「ええ、リトルレディにお似合いの色ですから」と、花の色マゼンダに嬉しそうに笑む二人。ビセンのカラー選びセンスは見事なものだとワマヨは感じている。彼のコーディネート力がワマヨのデザインセンスとマッチして、それが彼女の計画することで花開く。もちろん二人だけでやりとげたことではない。たくさんの開発スタッフたちと、新たに戦力となったボルトの存在も大きい。ビセンとボルトがいれば、ワマヨは怖いものなしだ。ワマヨの才能はデザインでも、製作よりも、ロボを愛するが故の独自の操縦能力に長けていた。
新たに完成したマイロボットのお披露目、それにふさわしい舞台がフェスだ。ワマヨはこの日を待ちわびていた。早く動かしたいが、テスト操縦にはまだデータが不足していた。
「実験に付き合ってくれる優秀な筋肉がほしいですの。レオンのような大きくてムッキムキの筋肉がどこかにあれば、ですのに…」
「カピカ殿に協力を仰いではいかがでしょう? フェスの期間こちらに滞在しているとお聞きしてます」
「むー、あのエンジェルちゃんの飼い主…ですの?」
とワマヨがビセンの提案にやや眉をひそめていたころ、その話題のカピカはというと、ラブリーにゃんこ自慢コンテストで、白熱のバトルを繰り広げていた。
「きゃーー」「きゃわゆーい!」「萌え萌え〜〜v」などと発狂した声援が飛びまくる会場。黒猫のエンジェルは流し目でおしりをふりふりしながら審査員たちの目の前を挑発的にウォーキングしている。「あーんかわいいー」と思わずエンジェルに触れようと手を伸ばすが、パチンと心地よい肉球パンチで「気安くさわらないで」と高飛車な態度で返される。だがそれも、審査員にとってはご褒美も同然だ。ここにいる猫キチガイどもはみんなかわいいにゃんこから猫パンチかまされたいヘンタイ願望全開なのだ。審査員の前を通り過ぎ、すたりとしなやかな足取りで飼い主カピカの下へ向かうエンジェル、そして振り向き様にウインクだ。そのツンデレなしぐさに審査員たちはますますメロメロになる。カピカは勝利を確信した。だがラキラも簡単に負けを認めはしない。いや絶対負けだと思わない。なぜなら、プリンセスこそが最高にラブリーなにゃんこだと信じているからだ。ラキラの期待にこたえるように、プリンセスもけなげに審査員たちにアピールする。首かしげポーズ、ぺろぺろと前足を毛づくろい、からの舌しまい忘れのきょとんポーズ。天然かわいさ全開に審査員たちはまたまた発狂骨抜き状態にさせられる。
萌えづくしのこのコンテストも、ついに入賞の発表の時を迎える。ざわざわと審議ももめているようだ。優勝はプリンセスか?それとも飛び入りながらもツンデレアピールでハートを鷲づかみしたエンジェルなのか?ラキラとカピカも互いに譲れず、火花を散らす。
「えー、みなさま大変長らくおまたせしました。審議の結果、エンジェルちゃんとプリンセスちゃん同ポイントとなりました。よって優勝は…」
「ちょっと待て! そんな結果納得できるわけないだろうが! 審査員ども、貴様らの目は節穴か? 私のエンジェルがぶっちぎりで優勝、それで間違いないだろう!」
カピカが結果のアナウンスを遮る形で抗議する。それにラキラは「いいや、ボクちんのプリンセスが一番だ」と主張する。ギリギリと激しい憎悪の眼差しでラキラを睨むカピカ。ざわざわと会場内のギャラリーたちも不満げにざわつきだす。
「あの黒猫ちゃんが優勝でしょ?」「えー、私は白猫のプリンセスちゃんがかわいかったわー」「最初に出たミケちゃんも好きだなー。その次の雉トラの子猫のやんちゃっぷりもかわいかったじゃないか」「うちの子だって、負けてないと思いますけど」ざわざわと観客も参加者もバラバラな意見が飛び交う。審査員の代表が、「皆様静粛に」とマイクで声を上げる。
「えー、審議の結果、皆様それぞれに推しにゃんがいるかと思います。そして飼い主の皆様は、自分の子が一番かわいいと思われているでしょう。ええ、それでいいのです。そして私たちも今回参加していただいたにゃんこちゃん、みんなとーっても魅力に溢れてて、誰が一番とか誰が劣っているとか、そういう審査はにゃんこ愛に反することだと意見が合致しました。よって、今回のコンテスト、優勝は参加者全員ということになりました。みなさん、おめでとうございます。にゃんこ愛は永遠に不滅です! 賞品受け取ってください。本日はご参加ありがとうございました!」
パチパチと拍手と歓声でコンテストは幕を閉じた。全員優勝というどうも雑な審査をされたが、参加者の大半は優勝の称号と賞品をもらえたことで納得して会場を後にしていた。ラキラとカピカがもめることはなかったので、審査員の判断は結果オーライになるが、コンテストそのものを否定するような審査の結果はいかがなものと思うが、きっとまた来年も何食わぬ顔で開催されるのかもしれない、ラブリーにゃんこコンテスト…。
「フン、審査員どもの目は腐っていたようだ。エンジェル、気にすることはない、お前こそ一番愛らしい最高のにゃんこなのだ」
負け惜しみなのかエンジェルを気遣ってなのか、カピカはそう言う。バチリと火花を飛ばしあったラキラとも背を向け、
「ラキラ、次に会うときは、貴様を這い蹲らせてやる。覚悟しておくのだな」
プイっと顔を背けてすたすたと歩いていくエンジェルを悲しげに見つめるプリンセスを撫でながら、ラキラも切なげに顔をゆがめた。
不愉快だ、最悪だ。ラキラのこともだが、エンジェルを選ばなかったあの審査員たちのセンスのなさにカピカは腹が立った。誰よりもかわいらしいこの世で一番のにゃんこはエンジェルで違いないのに。バカどもだ、あいつらは。イライラと脳内で毒づいた。だが傷ついていたのは自分ではない。プライドが高く、自分のかわいさに自信を持っていたエンジェルは、優勝できなかったことにショックを受けたのか、突然走り出し、カピカの側を離れてしまった。「エンジェル、待ってくれ!エンジェール!」カピカが叫ぶが、主人へ振り向くことなく、エンジェルは路地裏へ消えてしまった。みるみるカピカの表情が暗くなる。絶望に満たされる。
「エンジェル、いかないでくれ、エンジェル! お前がいなければ、ボクたんは…」
「あら、そこにいらっしゃるのはエンジェルちゃんの飼い主の!」
カピカの姿を見つけたワマヨが声をかけるが、ドス黒いオーラを放ちながらブツブツと独り言をつぶやくカピカはうつろな目で無視して通りの奥へと消えてしまった。
「んまー無視ですの!?」とプリプリと頬を膨らませて立腹するワマヨを、「まあまあ」とビセンが宥める。すぐに「まあいいですの」と気持ちを切り替える。
「これだけ人がいれば、それなりに使えそうなのがいそうですものね」
ふふっと含み笑いで気を取り直すワマヨ。そんな矢先、ワマヨの興味を引く肉体の持ち主が目に入った。
「待てよカツミー」
忙しなく駆けていくちょんまげ頭の派手な少女の向かう先に、ズカズカとデカイ図体を揺らしながら通りの中央を進んでいく男。
「むふふ、なかなかイイ筋肉見つけましたのv 追いかけますのよビセン!」
キランとおもちゃを目にした子猫のように、ランランとした目でカツミを追うワマヨ。カツミたちが向かった先は、あるコンテストが催されていた。腕相撲コンテスト、腕力に自身のある者たちがこぞって参加していた。ワマヨにマークされているとも知らず、エントリーするシャニィとカツミの姿がそこにあった。
やっぱり企む協会だけど
フェスを満喫しちゃってる?
ワマヨはカツミにロックオン!
悪巧みに、早く気づいてホツカよなにをしているの?
落ち込むカピカはどうするのかな?
かわいいエンジェル消えた理由も気になるね
まだまだ続くよどうなるフェス!?
BACK TOP NEXT 2015/09/14UP