第二十二話 少女もいいね

ラキラの依頼から始まった
アドル救出参戦、無事に終わってほっとつかの間
なにやら大変な予感がするよ?
久しぶりにホツカが見たよ
いつもの悪夢さ予知夢だよ
さあさあ早く止めに行こうぜ、向かう先はどこかといえば
なんとまたまたナーオなのかい? にぎやかしい町トラブル続くよ!








ナーオの町で無事アドルを助け出し、ロデューの頼みでもあったホールでのライブも成功に終わった。ヤデトへかけた魔法が切れる前に、ホツカたちはロデューとアドルを協会から逃れさせた。彼らは今後もナーオの町で活動を続けていくらしい。またなにかあれば、ロデューからラキラたちへ依頼をするとのこと。騒動にまきこまれなければいいが。フィアたちはアドルの歌を聴いてから、すっかり彼女を気に入り、仲良く打ち解けていた。

「うふふ、またナーオに遊びに来るわね〜」

「はいぜひ、皆さんも活動がんばってください!」

バラーイへと戻ったホツカたちは、ラキラに今回の件の報告をした。そして、数日も経たぬ間に、ホツカたちは再びナーオへとやってくることになったのだ。


「! いかなくちゃ…、ナーオに」

青ざめた顔で、ホツカが寝床から身を起こす。窓枠にいた師匠がホツカの側に舞い降りてくる。

『ホツカよ、見たのか?』

「はい、…ある兄弟が死んでしまう未来が見えました」

『協会によって処刑されるのか』

「いえ、処刑ではありません。…巻き込まれて、不運に命を落としてしまうようです。その兄弟は協会のロボの攻撃の巻き添えをくらって、間接的に殺されてしまうんです」

『なんにせよ、協会のせいなのだな。…止めねばならんな』

「はい」とホツカが真剣な顔で頷く。夢の中でみた兄弟は、ひょろっとしたまぶたの薄い特徴もたいしてない兄と、ひょろっとした薄着でやんちゃそうなどこにでもいそうなホツカと年の近い感じの弟だった。二人揃って特別特徴のない、どこにでもいそうな細身の兄弟だった。

ホツカが夢の内容をヤードたちに話した直後、ラキラから「ちょうどいいタイミングだね」と返しがあり、

「みんなで一緒にナーオに行こう。今ちょうどナーオではフェスが開催されているんだ」

と誘いを受けた。
フェス…、それは西地方最大規模の祭りだ。メイン舞台はナーオだが、近隣の町も巻き込んで開催される。バラーイの町でも店舗では関連したイベントが催されており、活気に沸いている。

留守をオトートにまかせ、ラキラ、プリンセスとともにホツカたち一行は再びナーオの町へとやってきた。先日よりさらに人が増え、いたるところで人が集まりいろいろとイベントが行われている。シャニィもフィアもわくわくした様子で、きょろきょろと目を奪われている。

「フェスは各地から腕自慢が集まって、それ目当ての観光客も大勢来るんだ。ほんとうににぎやかで、楽しいお祭りだよ。せっかくだから、みんな楽しんでいってほしい」

と肩にプリンセスを乗せたラキラが勧めてくれるが、それに不安げにシャニィがつっこむ。

「のん気に言うけど王子はのこのこナーオに来てていいのかよ? 協会に狙われてんだろ?」

お祭りで浮かれている場合ではないだろ、と心配されるが、ラキラもそのことはわかっているようで、実はそれが目的なのだと話す。

「実は協会が今回のフェスで企みごとをしているとの情報が入ってね」

やはり目的は協会の悪事を止める事だった。単に観光でホツカたちを誘ったわけではなかったのだ。しかしラキラは協会や中央政府から要注意人物としてマークされている身、バラーイから離れるほうが危険ではないかと思うのだが、

「それにこれだけ人が多いと、協会もうかつに狙ってはこれないだろうからね。かえって身動きがとりやすいんだ」

ラキラは剣の使い手だし、そんじゃそこらのロボ相手にはひけをとらないだろうとは思うが。

「怪しい動きがあれば、すぐに報告しよう。ボクちんとプリンセスは向こう一帯を探ってくるよ」

「そうですね。僕の魔法で連絡はとれるようにします。それじゃあいったん解散で」

「じゃあアタシとカツミは王子とは逆方向のアッチを見てくるな」

「うん気をつけて。カツミ、シャニィ君を頼んだよ」

フンと無愛想にヤードたちに背を向けて歩き出したカツミのあとを「待てよカツミー」とシャニィが追いかける。ホツカとフィアとヤードの三人でパトロールを開始する。

『なにかあればワシからもすぐに知らせにこよう』
「はい師匠お気をつけて」

バサバサと白い羽で羽ばたいていく師匠を見送り、ホツカたちも歩き出す。しかしすごい人の波で気を抜くとはぐれてしまいそうだ。迷子も頻発しているようで、バタバタとせわしなく駆けてくる少年に、フィアがぶつかる。

「きゃあ、ボクごめんね〜怪我はない?」

フィアの胸元に顔面からぶつかった少年に、フィアは気遣い声をかける。「い、いえ大丈夫です…」急いでいるのか、ぎこちなく答えた少年はそのまま一目散に走っていった。

「大変ねー、こんなに人が多いなんて予想外だわ〜」

「気をつけて歩かないとね。…シャニィ君も楽しめているといいんだけどね」

とヤードが気にかける。さきほどシャニィがぼやいていたことをホツカも思い出す。フェスの雰囲気を楽しんでいたようだが、故郷の祭りを思い出すのか「アタシの町の祭りは協会につぶされたのに、ここは大丈夫なんだな?」とぼやいていたことを。協会がフェスをスルーするはずがない、これだけの規模のお祭りなのだ。だが規模が大きすぎて協会といえど簡単につぶすことはできないのだろう。むしろ、これだけ人が集まる祭りなのだ、逆に利用を考えるだろう。ラキラたちの調べでは、今回なにかしら協会が仕掛けてくる可能性が高い。このフェスの場を自分たちの都合のいいように利用し、宣伝の場に使うことも考えられる。

「あっ! ホツカ君!」

聞き覚えのある少女の声にホツカが振り向く。ホツカたちに手を振りながら駆け寄ってくるのは先日依頼先で出会った少女アドルだった。

「みなさんもフェスにこられてたんですね。アドも期間中はお店の特設ステージで唄わせてもらってるんで、よかったら聴きにきてくださいね」

はい、とアドルからチラシを渡される。

「おもしろそうだね、あとで時間作ってみんなで聴きに行こうか」

「そうですね、でもまずは目的の人を探さないと…」

「? ホツカ君たち誰か探しているの?」

「せっかくだからアドル君にも協力お願いしてみようか、ホツカ君」

ヤードの提案にホツカも頷く。ホツカが夢に見た兄弟のことをアドルにも話す。ろくに情報もない現状、少しでも手がかりがほしい。

「歳はお兄さんのほうが15〜16歳くらいで、弟さんが11〜12歳くらいか。二人とも黒髪でまぶたが薄い顔つきかー。体つきは細身で、えーとどこにでもいそうな感じ? ううーん、今のところ心当たりがないけど、気になる人がいたら教えるね」

「うん頼んだよ」

「まかせて」とうれしそうにキラキラした目で頷くアドル。アドルの様子を眺めていたフィアは、なにか嬉しそうにうふうふと含み笑いをしている。そんなフィアの様子がホツカは横目で気になりながらも、なんとなく察するが。

「人探しなら、イベントを見て回るのがいいかと思うんです。フェスはいろんなところでいろんなコンテストをやってて、誰でも参加できるんで、いっぱい盛り上がってるんですよ。そうだ、みなさんもコンテストに出てみたらどうですか?」

キラキラした目でアドルが勧めてくるが、ホツカはコンテストには出るつもりもないし興味がない。だがヤードやフィアは興味深げだ。

「そうね、アドルちゃんの言うとおりだわ。コンテストならたくさん人も集まっているだろうし、ホツカ君の探す兄弟や協会の手がかりも見つかるかもよ〜」

「楽しそうだね。少年のコンテストもあるのかな?」

「あ、ありますよ。たしかー、美少年コンテストとか、ベストドレッサー少年部門とかカードゲームやパズルのコンテストも少年人気ありますし」

「ほんとうかい? 興味深いねー」

とヤードが少年関連のイベントに食いつく様を、ホツカはあきれた眼差しで見ていた。

「ねぇねぇアドルちゃん」こそっとアドルの耳元でフィアがささやく。「アドルちゃんってホツカ君のこと好きなんでしょ?」「えっええっそんな違いますよ」あわわと真っ赤な顔になってアドルは顔を振って否定するが、その姿は肯定だとフィアは判断する。うふふと嬉しそうに微笑みながら「やっぱりそうなのねー、わかるわー」と。

「お姉さん、恋する女の子の応援したくなっちゃうのよね〜。せっかくのフェスだもの、アドルちゃんもめいっぱい楽しまなくちゃv」

バチコンとウインクしながらフィアはホツカを呼ぶ。

「効率よく回るためにも別行動とったほうがいいわよね〜。てことでホツカ君はアドルちゃんと一緒にお願いね〜」

「うええっフィアさん?」

アドルにとっては予想外のフィァの提案に、真っ赤になってうろたえる。ホツカはなんとなしにフィアの企みが読めて呆れ顔だが。

「ホツカ君も出るのかい?コンテスト」

ニコニコとヤードの期待する顔にもあきれつつ、フィアに強引に背中を押されながらアドルと一緒に行動することになってしまった。


「ホツカ君は、なんのコンテストに出るの?」

ドキドキとアドルの期待した問いかけに、ホツカはうんざり気味に「いや出ないよ」と答える。

「だいたい僕は魔法使いだから、人間のコンテストに出るのは反則だと思うしね」

「そんなことないと思うけどな。誰でも参加できるのがフェスのコンテストなんだよ。だって魔法使いはエントリー禁止とかルールにないし、ホツカ君も気にしないで出たらいいよ」

ヤードといいアドルといいやたらと推してくるが、ホツカは参加する気はない。魔法使いだから、人間の欲望など薄れてしまったせいもあるが、人間だったころだとしても、こうした注目を集める場は苦手だったから参加は考えもしないだろう。

「僕よりも、アドルこそ出たらいいんじゃないかな? 歌のコンテストとか」

「あー、去年エントリーして優勝したから、今回は別のコンテストに出ようかなーって…」

もじもじと照れくさそうに笑うアドル。大好きな歌のコンテストにはすでに参加済みらしい。フェスのコンテストは様々なジャンルのコンテストが開催されている。ここナーオはアーティストに料理人などクリエイターが集う町だ。参加するものは腕に自信があり、そこで披露される芸は高いレベルを誇る。それらを見るだけでも十分楽しめるそうだ。

「人気のコンテストってなにかな? アドルそれに出てみたらいいと思うんだけど」

ホツカの提案にアドルは「ええー、なんで?!」と赤面して驚く。ホツカは冷静にその理由を語る。

「いや、人気のところなら人も集まるし、目的の人物も見つかるかもしれないし…」


「そちらのかわいらしいカップルさん、ステキに変身してみないかしら?」

ホツカたちを手招くのは、派手なイベント衣装をまとった呼び込みの女性だった。「ええっカップルなんてそんなんじゃないです、ねっホツカ君」と赤い顔して汗噴きながら否定するアドルに反して、ホツカはクールに返す。

「それってコンテストですか?」

「いーえこちらはコンテストではないけれど、貸衣装をやってるのよ。こちらの衣装を着てコンテストに出ることも出来るわよ。フェスを満喫するにはもってこいのステキな衣装が揃ってるわー、さあさあこちらで着替えてらっしゃい」

強引な呼び込みにあわあわしながらアドルとホツカは仮設の店舗の中へと連れて行かれる。「あの僕は結構です」と断るホツカの声もむなしく、ノリノリの店員たちにされるがまま、着替えさせられた。
よりによって、愛らしい少女のスカート衣装だ。頭にはリボンのついたカチューシャをつけられて、こういう衣装はアドルこそ似合いそうなのにと思う。ほぼ同じくして、別室で着替えさせられたアドルは、連れ込まれたときは困ったように慌てていたが、着替え終えたあとはすがすがしいまでの笑顔だ。シックな短パンスタイルに、小粋なつばつき帽子を被っている。少年にも見えるスタイルだ。

「えへへ、どうかな?ホツカ君」

「うん、だいぶイメージ変わったねアドル」

「ホツカ君もね、すごくキュートだよ!」

キュートだと褒められても、微妙な心境だ。それにしても、衣装一つでここまでイメージは変わるものなのだと感心しつつ、ヤードはどう思うのだろうとふと気になった。

「この格好なら協会の目も欺けそうだね」

「うん、そうだよ、堂々とコンテストにもぐりこめるよ。その姿なら魔法使いには見えないもの」

「君たち見事な変身ぶりね、せっかくだしベストカップルコンテストに出てきたら? アレ毎年盛り上がってチケットもたくさんもらえるんだから」

と店員のお姉さんに勧められる。「チケット?」と訊ね返すホツカにアドルが説明する。コンテストに参加して入賞すれば、期間中ナーオや近隣の参加店舗で活用できるお得なチケットがもらえるとのこと。つまりは金券だ。コンテストによってはトロフィーもあるが、誰でも参加できる敷居の低いコンテストはそのチケットが賞品となっている。チケットはどうでもいいが、盛り上がるのなら、そのコンテストのぞいてみるべきだろう。



「ねえ組長、あそこのコンテストかなりの人だかりできてない〜? ちょっと見て行きましょうよ〜」

フィアに促され、通りを歩いていたヤードは一緒にそのコンテストの様子を伺いに行く。老若男女いろんなペアがエントリーに並んでいるようだ。興味深げにフィアが確認する。

「まあ、ベストカップルコンテストですって〜、あーんカツミを誘ってこなきゃだわー」

と腰をくねくねさせながら悶えるフィアに、「あのカツミが参加するとは思えないぞ、どうやって説得するんだい?」と意地悪にかえすヤードに、「あーんまったくもってその通りなんだけどー」と言いながらもフィアは落ち込むでもなく、「ふふそれなら組長が参加すれば?ホツカ君とv」との返しだ。それにヤードは「うんそれもいいかもしれないね」とにこにこ顔で頷く。

「うふふほんとに組長はホツカ君が好きなのね〜。…ハッ、ワタシったらどうしましょう。アドルちゃんの恋を応援したいのに、組長のことも応援するって決めたのに、困ったことにホツカ君は一人じゃないの〜」

あーん困ったわー、と腰をくねくねさせながら勝手に悩むフィア。「でもまあホツカ君は魔法使いだもの、ホツカ君一人でもがんばれるわよね、ワタシ思い切って二人とも応援しちゃうわ」と即勝手に自己解決していた。


「あれ、あそこにいるのってフィアさんたちだよ、おーい」

コンテスト会場へとやってきたアドルたちがフィアたちに気づき声をかける。

「まあホツカ君とアドルちゃん? やだかわいいじゃないの二人とも。性別逆転したカップルみたい〜」

「えっカップルじゃないですよ、ねえホツカ君」

恥ずかしそうに同意を求めるアドルのそれにホツカは同意しないが、ちょっと気になるヤードの反応を確かめたい衝動に駆られた。

「貸衣装屋で着せ替えてもらったんですよ。ヤードさん、どうですか?」

とホツカは少年姿のアドルの感想を聞いてみた。「ふむなるほど」とヤードは興味深げに頷きながら、

「少女もいいね」

少年好きのヤードも少女の魅力を感じるのだろうか。「うん、いい、とてもいいよ」と嬉しそうにこくこくと頷くヤード。

「(いったいどっちの意味なんだろうか。少年姿のアドルのことだろうか、それとも…)」

「うふふ組長ったら、ホツカ君の新たな魅力にメロメロなのね〜。せっかくなんだし二人であのコンテスト出てみたらいいんじゃない?」

「そうだね、それもおもしろそうだ、行こうか」「えっちょっ…」

手を引かれホツカが焦りとまどう。やっぱりそっちの意味の少女もいいだったのかと。ヤードの勢いに押され、エントリーしてしまったが…

「あのヤードさん、これってダメなんじゃないですか? 女装しているだけで僕は男なんですし」

男同士でベストカップルなんてコンテストに出るのはルール違反では、とホツカが気にするが、

「いや大丈夫だよ。他にも同性同士で参加する人いるみたいだからね」

たしかに見渡すと、男同士や女同士で見つめあい、肩を抱き合いながらわきあいあいとエントリーしている人がいた。

「(…いいんだろうか)」

「うん、ホツカ君の少女姿も、とてもいいね」

熱いまなざしで見つめてくる中年男を、どうしたものかと思うホツカだった。







楽しいお祭り♪フェスが始まったよ
ホツカの悪夢がいやな予感するけれど
このワクワクとめられないよね
オイラも一緒に歌いたいぜ踊ろうぜ
だけども協会止めなくちゃだよ
お祭りのために悪事は絶対阻止してくれよ!
フェスはまだまだ続くよお楽しみに〜♪


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