第十七話 こめられた想いの意味は

ホツカたちは西地方にきたよ
そこで出会った新たな仲間、キラキラ光るラキラは白猫王子
どうしてかって?ホラホラよーく見てごらん
ラキラの肩にはラブリーな白猫いるよね?
名前はプリンセス、ああなんてプリンセスなんだい
そーいや天使のような子もいたよね?
うーんと誰かな?そうそう黒いよ黒猫だったよ
だったらアイツは黒猫王子になるのかい?
なんだかまたまた波乱ありそう
大変ラキラが狙われてるって!?
ホツカよヤードよ西地方も守ってくれよぃ








「ああーん、見て見てシャニィちゃーん、この宝石もすっごくキレーイ」

バラーイの露天街、バラーイの地で産出された宝石、アクセサリーなどが販売されている。フィアはうっとりしながら時に感嘆の声をあげながら、嬉しそうに店を見て回っている。

「お姉ちゃんのようなべっぴんには、こういった派手な石が似合うと思うがね」

店主のおやじがフィアに勧めるのは、赤く輝く派手な宝石だ。勧められてフィアも「まー、ステキ」と嬉しそうに手に取る。そんなフィアにあきれながら、シャニィが間に入る。

「おっぱい女にはそんな石似合わないな。むしろこっちだろ」

とシャニィが指すのはピンク色の石だった。一瞬きょとんとするフィアだったが、嬉しそうに手を叩いて、「そうねー、こっちのほうがワタシの好みだわ。さすがね、シャニィちゃん」と赤い石を店主に返した。

「ワタシのことちゃんと見ててくれてるのね、嬉しいわ〜」

「そんなんじゃねーっての」

ハートを飛ばすフィアに、げんなり迷惑そうな顔のシャニィ。あの二人仲がいいのか悪いのか。まあたぶんよくはないのだろう、一応カツミをめぐっての恋敵なのだし。

「うふふ、それじゃあワタシに似合う服も見立ててもらおうかしらー。向こうにステキな服屋さんがあったのよねー。ささっ行きましょうシャニィちゃん」

「ちょっっおいっ」

ムリヤリシャニィの手を引きながら、フィアは通りの向こうに走って行った。その様子をやれやれとあきれながらホツカが眺めていた。

「ふふ、あの二人とても仲がいいんだね」

ホツカの後ろで、そう感想をもらすのは肩にプリンセスを乗せた、ラキラ。イヤミなのか本心なのか。いや、ラキラはウソをつけそうにない人だから、本心なのだろう。「(そう見えるのか)」とホツカが心でツッコむ。
先ほどフィアたちが眺めていた宝石の店を覗く。きらびやかな石もあれば、素朴な石もある。いろいろだ。もちろん石によって値段は大きく違う。


「さっきフィアさんが勧められた石、フィアさんよりヤードさんのほうが似合いそうな気がするな」

「ヤードさんのイメージは赤だね。うん、わかるなぁ。ホツカ君はヤードさんのこと理解しているんだね」

にこりと微笑みながらラキラに言われて、ホツカは照れくさくなる。理解している…、一緒に行動してきた仲間だが、ヤードのことを深く知っているわけではない。仲間とはいえ、まだ知らないこともある。ヤードとカツミの関係ですら、ホツカは詳しく知らないのだから。

ホツカはラキラと薄暗い店内の中を見て歩く。照明はほとんどなくとも、石たちが輝きを放ち、ほんのりと店内は明るく灯って見える。引き寄せられる美しさ、宝石には人を魅了する力がある。美しさだけではないのだろう、人を引きつけるなにかがある。

シャニィはフィアにはピンクの石だと言っていた、ホツカもたしかにそのとおりだと感じた。シャニィには明るい黄色の石が似合いそうだ。カツミは漆黒の石がイメージにぴったりだ。

「(ラキラさんは…、銀色かな…。プリンセスは白いけど…)」

ラキラのイメージは銀色だ。プリンセスは白いが、白のイメージといえば、ホツカの中では別の人物が浮かぶ。

「(ドーリア…か)」

ふと目に止まったのは紫の石。見覚えのあるそれに見入る。ふところから出したペンダントと見比べれば、その石の色は同じ紫。

「それはアメジストだね。ホツカ君はその石がおきに召したのかな?」

「あ、いいえ、そういうわけでは。ちょっと、同じなんだなと思って、気になって」

ホツカの手元のペンダントにラキラも気づく。そのペンダントにはめられていた石も同じ紫の石。

「ホツカ君の宝物なのかな?」

「違います。これは拾い物で。ある人が自分の弟に渡すために作ったものなのです。わけあって今僕の手にあるのですが…」

ドーリアが、弟…つまりヤデトのために作ったペンダントだ。あの日、ホツカが魔法使いになった日、両親とそしてドーリアとの悲しい別れのあった日に拾ったそれは、今もホツカが大事に保管している。

いつかはヤデトに渡してやりたい。だが現状では難しいだろう。あのヤデトだ。ホツカの話を素直に信じるはずが無いし、でたらめだと言って破棄してしまうかもしれない、ドーリアの想いがこもったこの贈り物を。

言いよどむホツカの心情を察してか、ラキラは深く聞くことはせず、ただ優しい眼差しで頷いた。

「そうなんだ。アメジストの石の意味は【愛】なんだ。きっとそのペンダントを作った人は愛をこめて渡そうとしたんだろうね」

弟をイメージしてその石を選んだと言っていたが、なるほどそういう意味もこめられていたのか。ドーリアの家族に対する深い愛情を改めて感じた気がした。ドーリアの想いを、いつか必ずヤデトに伝えてやりたい、そう思う。

「家族への愛…、それがこめられた物なんです」

優しく微笑むドーリアを思い出しながら、ホツカはペンダントをそっと手のひらで包み込む。

「ホツカ君もその人のことを、大事に思っているんだね」

「…別にそんなんじゃ、ありませんけど…」

照れたようにそっぽを向くホツカに、ラキラはほほえましく感じ笑む。

「ヤードさんが知ったら、やきもちを焼くだろうね」

プリンセスを撫でながら、ラキラがさわやかに変なことを言う。ホツカは心の中で「(なんでヤードさんが)」とツッコミを入れる。

「ボクちんはね、ずっと君の事が気になっていたんだ。ヤードさんから話に聞いていてね」

「ヤードさんが、僕の話をラキラさんに?」

「うん、ホツカ君はすごくイイ少年だって。ヤードさんがとても嬉しそうに話すからね、すぐわかったんだ。君は特別な男の子で、ヤードさんにとっても特別な存在なんだろうって」

少年好きを公言しているヤードだが、そのことはラキラも知っているということだろうか。変な誤解はしないでほしいなと思いつつ、ホツカはラキラに訊ねる。

「それじゃあ、僕が魔法使いであることもご存知なんですね?」

「そうなのか、本当に君は魔法使いなんだね。オトートさんを助けた時の活躍のことも聞いたよ。すごいなぁ、こんなに小さな体で、君はたくさんの人を助けてきたんだね」

助けてきた。たしかにそうかもしれない。だがホツカはそのことに胸を張るでも自慢することもしない。それよりも、救えなかった人がいることのほうが心に重く残っている。そのときはまだ人間で、とても無力な幼い子供で、抗えるだけの力なんてなかったのだから、仕方ないのだが。
きっとこの先も、たくさんの人を救っていこうと思うし、ホツカはそうするだろう。それでも、この重いそれは消えてなくなることはないだろう。ずっと抱えて生きていくのだ、永遠に近い時の中で。

だからなのだろうか、限られた時の中で、人々のため働いているヤードやラキラこそホツカには輝いて見えてくる。彼らのほうがずっとすごくて、尊敬すべき人たちだ。ホツカはヒーローになりたいわけではない、むしろヒーローたちを陰で支え、成功に導く立場にいたい。そもそも魔法使いは人間社会とは関わりを持たない存在だ。ただ、ホツカやドーリア、ツセンデらは人と強く関わりを持った、特殊な存在とも言えるが、元々彼らは人間だったから、人との関わりを完全に絶つのもそれほど簡単ではないのだろう。


「魔法使いならもしかして知っているのかな? Mストーンよりも古い…魔法の力を持った宝石のことを」

「Mストーン以前の…Mストーンのような石ですか?」

ホツカの表情を見てラキラは訊ねたことを知らないのだと感じた。現にホツカは「なんですか、それは」と聞き返してきた。

「うーんとね、この西地方に古くからある伝承なんだけどね。とてつもない魔法の力を秘めたすごい宝石がどこかに眠っているっていうものなんだ。場所も物もはっきりしない眉唾ものの伝説ではあるのだけど。もし本当にそんなものがあれば、協会の手に渡らないように保護しないとって思ってね。
ホツカ君ならなにか知っているかなと思ったんだけど、知らないってことは…」

そんなものは架空の存在でしかなかったということになるのだろうか。ラキラも半信半疑で聞いてきたようだが。

「僕ら魔法使いはみんな魔法使いの記憶と知識を受け継ぎ、共有しているので、この世界の粗方は知ることができます。そうですね、わかりやすく言えば、大きな図書館があると想像してみてください。歴代の魔法使いたちは自分たちが見聞きしたことを本にして、そこに収めている。そこにある本は魔法使いなら誰でも読むことができ、自分の見聞きしたこともまた新たな本にして皆で共有する。…その架空の図書館を最初に作ったのは、現文明の最初の魔法使いなんです。だから、その最初の魔法使いの知らない世界のことは、僕にもわからないんですよ」

「そうなのか。ホツカ君にもわからないことってあるんだね。ううーん、残念だけどやっぱり作り話から始まった伝説だった可能性が高そうだね」

「…いえ、そう決め付けるのも早いかもしれません。その伝説興味深いですね。ラキラさん、詳しく教えてもらえませんか?」

ホツカも初めて知るその伝説の魔法の石、おそらく架空のものなのだろうが、伝説がなにもないところから生まれるのも不自然だ。なにか、それのモチーフとなるものが存在したかもしれない。それに、もし実在するなら、ドーリアに対抗できる大きな切り札になる可能性がある。少しでもラキラから聞き出したいと願ったホツカだが、

「んー、悪いけどボクちんが知るのは今話した程度のことで。そうだね、この言い伝えに詳しい人がいないか、探すように手配をしておくよ」

ホツカがラキラに聞きたいこと、それはその言い伝え…だけではなく、さきほどの話だ。
協会に敵対する組織の一つであるラキラたちを、協会は警戒している。ここバラーイにも多数いる協会会員たちからも監視され、協会と繋がっている中央政府からも要注意人物として監視されているラキラ。ラキラもその周辺も、そのことを周知しており、下手な動きは見せぬよう、表向きは協会への敵対を露にしないようにしている。
ラキラはおっとりとした人柄だが、すきを見せることが無い。人がよさそうだが、簡単に騙されるようなバカでもない。
協会側はラキラがボロを出すのを待っているのだろうが、なかなか機会に恵まれず、痺れを切らしたように、ラキラの悪評を流し始めた。周りの人々から信頼を失えば、ラキラを社会的に抹殺したようなものだ。
だがラキラを慕う人々は多く、悪評に振り回される者は多くなかった。
協会サイドに焦りを感じるように思う。なんとしてもラキラを悪にしたい者がいるのだろう。その者というのが、ラキラの双子の弟【カピカ】なのだという。

先ほどそのことをラキラの口から聞いたホツカだが、なぜ二人が敵対し、カピカがラキラを陥れようとしているのか?詳しい事情は教えてもらってはいない。ラキラの悲しそうな瞳を見て、彼にとっては望まぬことがあったのだろうと察したからだ。双子の弟、つまりカピカも王家の末裔であり、ラキラと同じ精神を受け継いでいるはずだ。そのカピカがなぜ協会と一緒になってラキラを陥れようとしているのだろうか。


「ラキラさん、僕は近い未来を夢の中で見る事があるんです。今回バラーイに来る事になったのは、偶然にもオトートさんから依頼があったからなんですが、そうでなくとも、僕はここに来るつもりでした。
夢の中で犠牲になってしまうオトートさんの未来を変えるために」

「そうなんだ。それで君はオトートさんに外出を控えるように言っていたんだね」

「はい、オトートさんを死なせたくないこともありますが、……罪を負ってほしくなかったから、カピカさんに」

目をしばたかせるラキラ、肩にいるプリンセスの目も大きく見開く。カピカ、その言葉に反応するように。
そう、ホツカは見たのだ。夢の中で。ラキラを処刑しようとしたのは鋼鉄の兵士だった。だがその鋼鉄の向こう側にラキラが見たのは、「カピカ! なんてことを」と悲痛に叫んだその先にいたのはカピカだった。つまり、兵士を通してカピカが殺人を犯したことになる。自分を庇い命を落とすオトートに、それを実行したのは弟のカピカ。これが現実になったとしたら、ラキラはどれだけ傷つくことになるのだろうか、想像するのもたやすい。絶対にさけなければいけない、その最悪の未来を。

「…そう、やはりカピカが、ボクちんの前に立ちはだかるんだね…。刃を向けて…」

切なげに細まるラキラの目、同調するようにプリンセスの目も不安げに揺れる。ラキラもわかっているのだろう、カピカと相対する近い未来を。だがそれを喜んで受け入れることは難しい、ラキラはカピカを、弟として家族として、想っているのだろうから。

「どうしてカピカさんはラキラさんと敵対しているんですか?」

「カピカはボクちんと違って、とても勇敢でまっすぐに突き進める勢いがあって…。ボクちんが銀の盾なら、カピカは金の剣。…そう幼き時から互いをそう例えあってきたんだ。
ボクちんたちは鏡に映ったように瓜二つの双子だったから、母上も、ボクちんとカピカは二人で一緒、二人で互いの不足分を補い合える、二倍にできる、それはとてもすばらしいことなのだから、力を合わせあって進んで行きなさいと言われてね。子供のころは二人で一人前になれるようにと、互いの得意なことに全力になろう。そう誓い合って、高めあってきたんだ。ボクちんたち王族の男子は剣術を身につけなきゃならないんだけど、特にカピカは剣が好きだった。ううん、剣が好きというよりは、剣によって戦うことが好きだったんだ。やんちゃな男の子のようにね」

つまり武術が好きな男子だったというのだろう。だがラキラの言いようからしてそれはやんちゃな男子の趣味として流せることではないのだと察せられる。

「成人して、この腕輪を受け継いだ時、カピカはボクちんと決闘しようと言い出して…。ボクちんは望まなかったけど、カピカがどうしても引いてくれなくて、結局剣でもって決闘をすることになったんだ」

思えば、アレがきっかけだったのかもしれない。母や従者たちが見守る中、カピカとラキラの真剣勝負が決行された。手にするのは互いに真剣だ。怪我を負うかもしれないし、下手をすれば…、そんな心配もあって母たちは最初は止めたが頑固なカピカが納得するはずも無く、ラキラが申し出を受けることになったのだ。

一度だけ、一発勝負の兄弟同士の真剣対決、その結果は……。

「それで勝負は?」

「カピカが勝ったんだ。お互い怪我もなく、終えることができたのだけど、その勝負にカピカは納得がいかなかったみたいで、激怒して、ボクちんたちの前から去ってしまった…」

勝利したのに納得しなかった、さらに激怒したというカピカ。なんとなくホツカにも察しがつく。

「わざと、勝たせたんですね? ラキラさん」

ホツカの問いかけに肯定するようにラキラはふふっと苦笑いを浮かべる。

「カピカは負けず嫌いで頑としたところがあるから、そうすることが互いのためだと思って、…だけどやっぱり双子だね、他の皆は誤魔化せても、カピカを欺くことなんてムリだったのかもね」

「真剣勝負じゃなかった。しかも情けをかけられた、カピカさんのプライドは傷ついてしまったのですね」

そしてカピカは中央政府の役人となり、兵力を管轄する部署に身を置いている。人々を守るため、ではなく脅し屈服させるために振りかざす武力…それが今の中央政府だ。兵士やロボの供給を協会から受け、協会の考えややり方に賛同している。つまり中央政府は、協会を信じぬ者にとっては敵といえる存在なのだ。

「カピカはボクちんを憎んでいるのだろうね。だからといって協会と一緒になっての酷い行為を許すわけにはいかない」

協会と戦う、そのためには中央政府のカピカを無視して進むことはできないだろう。ラキラの話を聞く限り、カピカは話し合いに素直に応じるような人物には思えない。今でも一方的にラキラに敵対心を向け、ラキラの命などどうでもいいと思っているのだろう。頑固で気難しい人物を正面から納得させるのは、たやすいことではない?
いや、そんなことはないかもしれない。ホツカがひらめく。

「そうですね、カピカさんを止めなきゃいけない。そのためには、カピカさんを納得させる事が必要です。
つまり、ラキラさんがちゃんと…」

ホツカのしゃべりをプリンセスがシャーッという威嚇音で遮った。ラキラがホツカを守るように抱き寄せながら建物の柱の影に身を潜ませる。直後多数の魔動兵士たちがガシャガシャと音を立てながらこちらへとやってくる。だがホツカたちの手前の角で曲がり、こちらへは向かってこなかった。足音が遠ざかりホツカたちは兵士たちの動きを確認する。

「おかしいねプリンセス、あんなに固まって兵たちが移動するなんて、いつもと様子が違う」

警戒するプリンセスを落ち着かせるように撫でながら、ラキラがつぶやく。なにか問題があったのだろう、この街の中で。まさかシャニィが勝手に暴れていやしないだろうかと一瞬ホツカは不安になったが、シャニィにはフィアがついている。そう勝手な行動を起こしてはいない、はずだが。

『ホツカ、なにやら大変なことになっとるぞ』

バサバサと白い翼を羽ばたかせて、師匠がホツカのもとに飛んでくる。

「師匠、どういうことですか?」

『詳しい状況はわからんのだが、兵士の大群がたったひとりの住民の男を取り囲んでいてな。ただならぬ様子だ。それに…見たことも無い一回り大きな兵士がいた』

「まさか、それは…僕が夢に見た異質の兵士かもしれない。そこにいた男性はまさかオトートさんじゃ?」

『背格好は似ておったが、さすがに遠目でそこまでは確認しとらん』

ホツカの頬を嫌な汗が伝う。外出は控えて欲しいとオトートには事情を伝えたのだが、自分のことよりラキラのことが大事だといっていたあの男、素直に従っているとも思いがたい。それに以前も感情のままに協会本部に乗り込んで囚われ、処刑されそうになった前科がある。

「僕が助けに向かいます。ラキラさんはヤードさんに知らせてください」

師匠とともに助けに走ろうとするホツカを、ラキラが真剣な顔で制止する。

「待ってホツカ君、嫌な予感がする。罠かもしれない、プリンセスが警戒して行くなって、ボクちんに言ってるんだ」

ラキラをおびき寄せる罠かもしれない。その可能性は大いにあるだろう。だからといって、向かわないわけにはいかない。

「罠だとしても、行くしかないんです。なにがあっても、僕は魔法で切り抜けてみせます」

ラキラに止められようが、ホツカは向かう気でいる。そのとき、兵士たちが向かった先の方向から爆発音がした。ホツカたちは驚いてそちらのほうへ振り向く。

「今の音は」「たぶんシャニィのバクダンの音だ」

先に状況に気づいたシャニィが兵士目掛けてバクダンを投げつけたのだろう。こうなったら騒ぎになることは確実だ。ホツカは加速の魔法を自分にかけ、音がしたほうへと走った。

「シャニィさんとフィアさんが巻き込まれて…。プリンセス、ごめん、ボクちんは行かなきゃいけない。あの人たちを助け、守りたいんだ。…ごめん、許しておくれ、かわいいプリンセス」

必死に主を引きとめようと、襟元を噛んで引っ張るプリンセスをそっと引き剥がして地面に下ろす。切なげに見上げ、なおも猫パンチで主の動きを遮ろうとするプリンセスにラキラの心は痛む。
プリンセスは知っているんだ、ラキラの向かう先にいるのはカピカであることに。大好きな主が、弟と相対し、刃を交えることになるかもしれないことを危惧して、それを回避しようと必死に働きかけている。
プリンセスのその気持ちが痛いほどラキラには伝わっているから。

膝をつき、白いふわふわの毛の小さな体を両手で抱き上げて、小さな額に口付ける、そして約束を交わす。

「必ず帰ってくるよ、愛しいプリンセス」


ホツカが現場にかけつけると、そこにいたのは多くの魔動兵士たちと、シャニィとフィアだ。先ほどの音はシャニィの投げたバクダンで間違いないようだ。

「ホツカくん!」「ホツカ!」

シャニィとフィアが二人揃ってホツカに気づき名を呼ぶ。

「待って違うのよ、誤解なのー」
「そうだ、だいたい紛らわしいことしやがって」

兵士たちのほうに向かってなにやら二人が抗議している。一体どういうことなのだろう。

「なにが誤解なものか、ろくに話も聞かずにバクダン投げつけて、兵士を破壊しといて、やはり噂は本当でした。この二人、女といえど立派なテロリスト。クーデターが計画されていたんだ。善人面してこんな凶悪な奴らをもぐりこませるとは、ほんとうに恐ろしい人だ。アナタ様のおっしゃったとおりでしたよ!」

シャニィたちが抗議していたのは、なぜか兵士たちに囲まれている住民男性だ。背格好は師匠の言っていたとおりオトートに似ているが、別人の中年男性だった。

ホツカが聞いたのは今の短いやりとりだけだが、なんとなしに状況を察する。ラキラの言っていたとおり、これは罠だったのだろう。この男は協会会員で、連行されているようなそぶりでも見せていたのだろう。そこを事情を知らない血気盛んなシャニィが勘違いしてバクダンを投げつけ、フィアも応戦して、この状況…ということか。
ラキラを助けに来たシャニィたちが、ラキラを陥れようとしている連中の罠にはまり、足をひっぱるはめになるとは。


「早とちりをしたのはこちらが悪い。だけど、協会によって罪無き人々が囚われたり処刑されたりしているんです。兵士に連行されている人を見たら助けたくなる。彼女たちは正義感の強い人たちなんです。善意によるはやとちりなので、ご容赦してもらえませんか?」

「なにを言ってるんだこの小僧、処刑を受けるのはそれだけ悪い行いをしたということだ。己の悪行を自覚していないなんて性質が悪い」

と反論してくる男。短気なシャニィは今にも第二発を投げつけようとしているが、フィアがなんとか抑えている。相手の挑発に乗ってはいけない。シャニィがブチキレる前に説得したいところだが、この男も簡単に話が通じる相手ではないようだ。頑なにこちらが悪だと決め付けている。

「お前たちでは話にならん。すぐに首謀者を連れて来い。首謀者の首でもってお前たちは解放してやる」

ガシャン、兵士たちより一回り大きく、重厚なボディは魔動兵士…よりも魔動ロボに近かったが、ロボよりも足長でスリムで、より人間の形に近いそれから声が発せられた。ロボに内蔵されているスピーカーに近いが、それよりもクリアに響く声。遠隔操作ではない。中に人がいた。ロボのようにその機械作りの人形の中に操縦している者が入っているのだ。

「(カピカさん…、アレを操縦しているのはカピカさんだ)」









キラキラ輝くキレイよ宝石
皆はなにが好きなんだい?
赤桃黄色に黒い色〜仲間の色は何色かい?
そういうホツカは何色かい?
キラキラ輝くはラキラの腕輪
金色銀色どっちもキレイね
ラキラ言うには銀色だって〜
ラキラよ君が銀の盾なら
金の剣は彼なのかい?
二人は一つ、心は一つ?そうそう上手くはいかないよ?
カピカはラキラを憎んでる?
ラキラとカピカ、二人は戦う運命なのかい?
次は続きはちょいと待ってね、協会の面々に迫っちゃうよ!ばいなら〜


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