回想 少年魔法使いが生まれた日2
「魔法使い、ドーリアが…。新たに誕生する魔法使いってまさか…父さん?!」
「ええ、そのとおりよ。ボランティアがついで、というわけではないけれど、私の一番の目的はホツカあなたのお父様である【ファンザ】さんに協力をあおぐことなの」
ドーリアが魔法使いだというのも衝撃だが、父が魔法使いになるというのも信じられないような話だ。
普通の人間なら、まさかの冗談と聞き流すだろうが、魔法使いに興味を抱くホツカは容易に信じた。
「そうだったんだ。父さんはそのことはもう知って?」
「いいえ、まだ話してないのよ。私が魔法使いであることもまだ」
「そうなんだ。じゃあ、このことは…」
「私が魔法使いになったことは叔父は知っているけど、ファンザさんが新たな魔法使いになることはホツカしか話してないことよ」
とんでもない衝撃事実を知るのはホツカだけ。興奮する気持ちがどんどん波のように押し寄せる。
「魔法使いってことは、伝説の魔法使いに会ったことってあるの? Mストーンは作れるの? 精霊はどんな精霊が呼べるの? 不老不死って新陳代謝どうなってるの?」
マシンガントークの勢いでホツカの質問が飛び出す。初対面の時のそっけない態度とはうって変わって、水を得た魚のごとくいきいきとした目で紅潮した頬になるホツカにドーリアと白カラスは驚いたが、ドーリアは親切丁寧にホツカの質問に答えた。
「Mストーンは作れないことはないけど、原料となる鉱石に条件があってまったく同じ性能のものは生み出すのは難しいわ。今のところ私が作成したMストーンは存在してないわ。精霊はどの属性も呼ぶことができるわよ。私は元々の属性が光だから、光の精霊は特に呼びやすいわね。でも、雷の精霊は気難しくて扱いが大変だったりするわ。体は髪の毛や爪は人間だった時のように伸びるわよ、だけど外見はこの先もずっと変わらないままでしょうね。
伝説の魔法使いには、もちろんお会いしたことがあるわ」
くすくすと笑みをこぼしながら答えるドーリアに、ホツカの興奮はますます強まる。特に伝説の魔法使いの話題に食いついてきた。
「本当!? 僕、伝説の魔法使いにずっと憧れてるんだ。どんなふうなの? 今はどこでなにしているか知ってるの?」
「そうね、今も私のことを見守ってくださっているわ。ねぇ?大先生」
白カラスに向かって同意を求めるように話しかけるドーリア。おそらく魔法の力で遠方からでも様子がわかるのだろうか。と思いかけたが、「え、大先生ってまさか?」と、ホツカが白カラスの正体に気づいたようで、驚きの声を上げる。
「そこの白カラスが、伝説の魔法使い【ツセンデ】!? でもなんで、カラスの姿に…、世を忍ぶ仮の姿ってこと?」
『まあ、そんなところだな…』
あまりそこは突っ込んでくれるなといった空気をまとわせながら白カラスが答えた。なるほど、伝説の魔法使いの仮の姿であれば、しゃべる謎についても納得がいく。おそらく魔法の力でホツカに語りかけているのだろう。ホツカの疑問の一つは解けた。解けたはいいが、その事実はホツカの興奮をますます冷めぬものとしてしまった。憧れの存在がカラスの姿とはいえ目の前にいるのだ。興奮しないはずがない。普段は大人しい少年だが、好きなものを前にして目を輝かせる姿は歳相応の少年だ。
心配していたホツカの母を思い出し、ドーリアはホツカの母に、ホツカは元気でちゃんとした男の子ですよ、と伝えてあげたいと思った。
「父さんはいつ魔法使いになるの? なにか予兆ってあるの?」
ホツカのこの質問にはドーリアもはっきりしない調子で
「そうね、はっきりといつとはわからないの。私は予知夢でそうなる未来を見ただけで、ハッキリとした時期まではわからない、ただ…あまり時間がないということ…」
ドーリアのおかしな返答にホツカは思わず聞き返す「時間がないって?」と。
「近日なのはたしかよ。予兆といえば、魔法使いの素質がある者は予知夢を見るの」
「予知夢か…」
父に聞いて確かめてみよう。他にもいろいろ聞きたいこともある。早く父さんと話がしたいとホツカは思った。
『坊主、今夜のことは他のものに言いふらすでないぞ』
念のため、白カラスツセンデがホツカに忠告するが、それに対してドーリアが
「大丈夫です、大先生。ホツカは秘密をちゃんと守り通してくれる子です」
にっこり、と優しく微笑むドーリアのせいでホツカの頬はますます赤らむが夜のせいであまり目立たず幸いだ。「じゃあ、また明日」自分の口から自然に出た挨拶に、少しして驚きながらも、「また明日」そう言える相手に出会えたことに、ホツカの小さな胸は高鳴った。
いろいろなことがあった夜だった。家に戻ると、父も母もすでに就寝していて静かだ。物音を立てないようにと気を使いながら、ホツカは自室へと戻った。自分の部屋に戻って、少しずつ興奮が落ち着き始めたころ、疑問がわいてきた。
「(ドーリアはなんで具合が悪かったんだろう? 魔法使いなら不老不死だから、病気になることもないはず。それに、なんで白カラスの伝説の魔法使いは僕を呼んだのだろうか? 父さんを呼べば、手っ取り早かったんじゃ?)」
いろいろ引っかかるところはあったが、聞きたいことは明日聞けばいい。しばらく町に滞在すると言っていたし。そう、明日もし聞き損ねてもあさってにすればいい。あさってにだめだったらしあさってでも。それ以降でも、手紙でやりとりすれば…。
「(また明日、会いたいな…)」
そう思える相手に出会えたことを自覚すると、また胸が高鳴って眠りを妨げてしまいそうだ。
「ドーリア?」
夢の中でドーリアを見た。だが、ホツカの知る柔らかい笑顔の彼女とは違い、無表情の横顔は冷たい瞳のように見えた。ホツカの知らないドーリアの別の顔、それがおそろしく感じて、彼女に呼びかけることも近づくこともできそうにない。夢の中だからか、余計に思い通りに動かない体。遠く離れた場所から、眺めているだけ。ドーリアの体は赤い光で染まり、その雰囲気がますます不気味に見えて…。
しばらくしてホツカの目が動く、視点がぐるりと動いて、真っ赤に燃え盛る炎が映る。ドーリアを照らす赤い光は炎だ。燃え盛る炎を無言で見つめるドーリア、それがなにを意味するのか?もう一度ホツカは炎を見た。そして、炎の中、信じられないものを見た。
「はっ!」
目覚めて、ホツカは夢であることにほっとしたが、全身汗でぐっしょりと濡れ、夢の内容のせいか疲労を感じた。胸糞悪くなるような酷い夢だった。夢でよかったとは思うが、こんな酷い夢を見た己を許せないと感じたほど。
下に降りてリビングで父の姿を探すが見当たらない。ダイニングにいた母が怪訝な顔してホツカに声をかける。
「どうしたの? ホツカ。お父さんに用があるの? もう仕事に出かけたわよ」
「…そう」
いつもどおりの朝だった。父に聞きたいことは夕方でもいいだろう。ホツカは玄関へ向かう。
「どこに行くの?」
「ちょっと外出するだけだよ」
少し怒った口調の母にいらっとしてぶっきらぼうに返答する。「ちゃんと挨拶するのよ?」と母の声が玄関を出た瞬間に聞こえてきた。わかってるよ、なんでいちいち言うんだよ。と、相変わらず子ども扱いする母に苛立ちながらも、図書館へと向かった。
図書館の帰り、聞き覚えのある声に足を止める。そこは養護施設で、施設の人たちと楽しそうに語らうドーリアを見つけた。声をかけようかと思ったが、ためらい、木の陰に身を潜める。たぶんドーリアだけなら声をかけられそうなのに、他の者たちがいると遠慮するというか、なんだか側に寄りづらくて。きっと大事な用事の最中なんだ、用事が済んで出てきたところで声をかければいいか。そう思いながら本を読んで時間を潰す。しかし、時折聞こえてくるドーリアの声が気になって、本に集中できない。
『なにをしとるんじゃ? 坊主。ドーリアに用があるなら呼べばいいだろうに』
やれやれと頭上からあきれたような声がホツカの脳内に響く。見上げると白カラスがあきれた顔をしてホツカを見下ろしていた。
「伝説の魔法使い様! いつからそこに」
驚くホツカに『おいおい』とあきれながら白カラスが舞い降りてきた。
『その呼び方はよさんかい。ワシの正体が他の者にばれてしまうだろうが』
白カラスの正体は伝説の魔法使いツセンデだ。このことはドーリアとホツカしか知らぬ秘密事項だ。うかつに声に出せない。慌てて「ごめんなさい、気をつけます」とホツカは謝った。一度はしゅんとしおらしくなるホツカだが、白カラスを前にして、頬が紅潮し、うずうずと落ち着かない様子になる。
「ではなんとお呼びすればよいのでしょうか?」
『なんと呼べばと言われてもな…』
やれやれと困ったように白カラスは肩をすくめる。
『それはともかく、なにか聞きたいことがあるのか?』
「あ、あの、なんで昨日は僕を呼んだんですか? 父さんを呼べばよかったんじゃって、後になって思ったから」
『むうそれはじゃな、ワシはお前だと思ってしまったんだよ。新たに生まれる魔法使いというのが』
「え? 僕が? で、でもドーリアは父さんだって」
『ドーリアの予知ではそうなのだろう。ワシには予知はできぬから、直感でそう感じただけなのだ。坊主、お主はワシの声が聞こえておる。お主は魔法の力で対話ができていると思っているようだが、今ワシはわけあって魔法を使っておらん。つまり、ワシの声が聞こえるということは、魔法使いの素質があるという証拠なのだ』
白カラスはホツカが新たな魔法使いになるものと思い込んでいた。魔法使いに憧れるホツカを興奮させるに充分な発言だった。信じられないがもしやという願望もあった。父が魔法使いになるなら、息子の自分も不可能ではないのではと。「それは本当なのですか?!」とホツカの声が興奮の余り上ずる。
『おいおい早とちりはするでない。お前の父がなれるからといって魔法使いの素質は遺伝するようなものとは違うからな。お前たち親子はたまたま素質を持っているというだけだ。そもそも魔法使いの素質を持つものは特別珍しいことでもない。魔法使いが生まれる条件は、素質を持つ者に対して神が気まぐれを起こすことだ。神の気まぐれは誰にも予測ができん。魔法使いであっても神の動向を探ることは不可能だ。
魔法使いにわかることは、予知能力によって、おおまかに情報を得ることくらいだ。ドーリアが言ってた通り、お前の父がいつ魔法使いになるのかまではわからぬのだ。
夢を壊すようで悪いが、素質を持つ者のほとんどが神の気まぐれに合うこともなく、己の素質に気づかぬまま人としての人生を終える』
希望を抱かされてすぐ、現実はそうではないと白カラスから聞かされる。魔法使いになるということは自分の意思や努力や才能でどうこうできるものではないのだと。たとえ素質があっても、それは最低条件でしかなく、神が気まぐれを起こさぬ限り、永遠に叶わぬことなのだと。人間の歴史からしても、ドーリアなどはイレギュラーな存在なのだろう。どのくらいの確立なのかはっきりとした数字はわからないが、限りなくゼロに近い非常に低い確率で、まず当たるはずもないということだ。
子供に、お前の夢はどんなに努力しても叶わないのだから諦めろ。というのは酷く酷なことだと思う。それでも事実を伝えなければならないと白カラスは思ったのだ。子供だからこそいくらでも夢は見られる。もっと堅実的で未来ある夢を抱いてほしい、そのほうが幸せになれる。
話を聞いて、興奮気味だったホツカは一変失望の表情に染まっていく。他の人ならともかく、伝説の魔法使いがそういうのだ。魔法使いになることはまずムリだから諦めろと。
ドーリアの力になってくれるか?お主しかいないのだ。
昨夜そう言われたことが、自分は特別な存在なのかもと、期待を抱いてしまったが、そもそも勘違いだったということだった。
『坊主、お主はなぜ魔法使いになりたいと願う? 魔法の力が使いたいからか?』
白カラスの問いかけに、ホツカは顔を勢いよく上げ答える。
「魔法使いの膨大な知識に興味があるんです。そして伝説の魔法使いのように、偉業を成しえたらと」
答えて興奮がぶり返し、頬が赤く染まる。その伝説の魔法使い本人を目の前にしてこんなことを言えば、やはり恥ずかしくなる。それに、自分の夢を誰かに語るなんてことも初めてだ。
『フッ偉業か…。ツセンデはそれほどすごいことをしたわけではないぞ。ツセンデは親友の力になりたいだけで、その手助けをしただけ。己の限界に苦悩し、だけども諦めなかったイメツハがいたからこそ、ツセンデは伝説の魔法使いになれたのだ。すごいといえばワシではなくイメツハだ。
そして、あやつの精神をドーリアがしっかりと受け継いでいる』
「大先生とひいおじい様は私の尊敬するお二方なのよ」
ドーリアの声がすぐ側でしたものだからホツカは驚いて振り向く。いつの間にかドーリアが隣に来ていた。
「ひいおじい様って…、ドーリアはイメツハの…」
「ええそうよ。協会を立ち上げたのは私の両親だけど、その根底にはひいおじい様の想いや活動が大きく関わっているのよ」
誇らしげに語るドーリアに彼女の強さを見た気がした。
ドーリアと伝説の魔法使い。二人の関係は魔法使いということだけではなく、伝説の魔法使いツセンデとキューセイ協会の創始者ともいえるイメツハの関係から繋がっていた。
「そうなんだ。すごいなドーリアは。伝説の二人と関係があるなんて…。
ねえ、ドーリアはどうやって魔法使いになれたの? 予兆の夢はあったの?」
興味しんしんで問いかけるホツカに、ドーリアはなぜか表情を曇らせる。
「そうね、思い起こせば予兆はあったのかもしれない。ただ私は強く願った想いが神に届いたのだと思ったわ」
唇を噛み締め悲痛な表情で語るドーリアに、ホツカの声色も弱まる。深く聞いてはいけないことのような気がして。
「願った想いって?」
「大切な人を救いたい、大切な人を守りたい。この身を犠牲にしても、皆を絶対に守りたいって」
切なさを押し殺すようなドーリアの表情を見て、幼いホツカもなんとなく察した。きっと彼女はいろいろと辛い人生経験をしてきたのかもしれないと。
「ホツカ、あなたは本当に魔法使いになりたいの?」
ドーリアのその問いかけにホツカは一瞬面食らったが、こくりと頷いた。しかしドーリアの反応はホツカに同意するものではなく、警告だった。
「魔法使いになることはいいことばかりじゃないわ。力と代償に失うものが大きすぎる。それに永遠に近い命は、特に幼いあなたには過酷なことよ。人の人生でも大切な人との別れは誰しも経験することだけど、魔法使いになればさらに多くの人との別れを経験することになる」
そんなの平気だよ。そう答えようとしたホツカだったが、ドーリアの悲しそうな目を見たら、口に出すことができなかった。
「それじゃあ、後ほどホツカのお父様にお会いしにいくわね」とドーリアは再びボランティア活動に戻っていった。
ホツカは帰宅し、夕暮れまで自室で本を読む。読みながらも、考えることは魔法使いとドーリアのことばかりだ。伝説の魔法使いの白カラスは、ホツカには素質があるが、魔法使いになれるのは神の気まぐれが起こらぬ限り無理だと言った。つまり普通に考えてなれないということだ。夢はあきらめろと言われたが、あきらめなければいけないのだろうか?ドーリアは強い想いで願ったことで神が現れたと言っていた。強い願いがあれば、神は現れてくれるのではないかと、密かな希望を抱く。だが、ドーリアはホツカが魔法使いになることを望んでいないようだった。
夕食前に父が帰宅した音を聞き、ホツカはリビングへと降りる。父にあのことを聞きたいと思ったからだ。
「あ、父さんおかえり。あの、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
ホツカが話しかけてきたことに少し驚いて目を見開く父ファンザだったが、すぐににこやかな顔になる。
「珍しいなホツカ。なんだ? 男の悩み事か?」
父として頼られていると思われてしまったらしく、普段余り話すことがないホツカから頼られて嬉しいのか、「遠慮するな話してみろ」と聞く体勢になっていた。おずおずとしながらも、ホツカは向かい合うように椅子に座り、父に聞く。
「あの、父さん最近気になる夢を見たことってない?」
魔法使いになる者の予兆として予知夢を見ると聞いた。父が近々魔法使いになるなら、その関係の夢を見ているはずだ。そのことを確かめたい。
「夢? 夢なんてしょっちゅう見ているぞ。なんだ、お前怖い夢でも見たのか?」
どきっと胸が跳ねる。怖い夢なら見た。夢でよかったと思うような夢だ。内容もはっきりと覚えているが、冗談でも父に話せるような内容ではないので「別にそうじゃないけど」とつぶやいて誤魔化す。
「夢なんて気にすることはないさ。父さんも昨夜とんでもなく恐ろしい夢を見たけどな、本当に夢でよかったと思う内容だったよ。最近ドーリアさんに会ったせいか、彼女の夢を見てね…。夢とはいえ、彼女に申し訳ない気持ちさ」
「!?(予知夢かも?)ドーリアが出たの? どんな夢だった?」
身を乗り出して夢の詳細を聞き出そうとするホツカにファンザは驚くが、興奮して話すような内容ではない。暗にいい内容ではなかったことを告げる。
「恐ろしい夢だと言ったろう。冗談でも話のネタにできる内容じゃないんだ」
「大事なことなんだよ、教えて!」
なぜか頑なに引こうとせず真剣な顔で聞き出そうとするホツカに、ファンザも「わかった話すが、ドーリアさん本人には内緒と約束してくれよ」と条件付で観念してくれた。ホツカは「わかった約束する」と真っ直ぐな目をして同意した。「本当に夢とは言え…」とファンザは深い息を吐きながら重苦しい感じに話し出した。
「夢の中でドーリアさんが現れて、彼女の目の前で彼女のご両親が倒れてしまうんだ。どういう状況かまではわからないが、二人は死んでしまったのだとわかったな。その後、まるで別人のような冷たい表情のドーリアさんが我が家を燃やしてしまうんだ。私のことが邪魔者だと言ってたな。その後は目の前が真っ赤になって。とにかく、夢とはいえ恐ろしかったよ。
しかし本当に夢でよかった。こんな夢を見てドーリアさんに申し訳なさ過ぎるからね」
「予知夢だ。父さん、夢のことドーリアに話したほうがいいよ」
目を見開いてホツカはファンザに忠告する。普段の落ち着いた少年ではないホツカにファンザは驚くが、「いいから落ち着くんだ、これは夢の話と言っただろう」とファンザが言い聞かせるように念を押す。
「いいかホツカ、たとえ夢とはいえ、こんなことをドーリアさんに話せるわけがないだろう。人の不幸を話のネタにするのはよくない。夢とはいえ、あなたのご両親が死んだだなんて無神経なことを言えば、ドーリアさんを傷つけてしまうことになる。ショッキングな内容は時に人を引き付けるが、相手を気遣い伝えないほうがいいことだってあるんだ。いいねホツカ、思いやりのある人間になることだ」
もうすぐ人間でなくなる父にそんなことを言われた。父にとってはただの夢でしかない。だが、魔法使いになる者なのだから、父の夢は予知夢になる。
「(あとでドーリアに確かめないと)」
ドクドクと跳ねる心臓のままホツカはそう思った。ちょうど玄関から来訪者がやってくる物音がした。
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