「はぁ〜、どうしたもんすかねぇ〜」
なんじゃなんじゃ、ミントの奴朝から溜息なんぞつきおって。
「なんじゃお前まだぶちぶちいっとんか? ええ加減覚悟決めんか」
「あ? 違うっすよ。オレっちが悩んでんのは、鬼が島…のことじゃなくって…、若旦那のことっすよ」
「キョウのことか? キョウのやつがどうしたんじゃ?」
「若旦那と桃山さん、なんとか引き離せないっすかねー。今のとこまだ間に合いそうな気配すけど」
「なんであの二人を引き離さんといけんのじゃ?」
「なんでって、お嬢っすよ。オレっちとしては、若旦那はお嬢とくっついてもらわないと困るんすよ」
なんでじゃ? まさかミントの奴、カイミと約束でもしとんか?
「血の雨が降るどころじゃないっすよ。めんどくさいのは嫌っすからね。ほら、雷門のためにもなるし」
「そうかー、なるほど。ワシはキョウの視点でしか考えとらんかったが、…総合的に考えればそのほうがええかもしれんのぅ」
「でしょう! てことでキンの旦那も力になってくれないっすか?」
なんじゃ、急にご機嫌な顔になりやがって、現金なやつめ。ふむ、じゃがそれもええかもしれんのぅ。カイミの奴をコントロールできるのはキョウくらいじゃ。カイミの面倒見るにはあいつは適任じゃからのぅ。
ワシはリンネのよきパートナーはキョウじゃと思うとったが、別にそんなこともないかもしれん。
「リンネにはワシもおるしのぅ」
「あっ、それいいっすね! もーお似合いじゃないっすか、旦那と桃山さん!」
「なんか楽しんどらんか? お前」
リンネか…、桃太郎の生まれ変わりとしてワシは気になっとったが、…桃太郎を失いながらも、立ち上がった姿にはワシも感心したぞ。そんで鬼が島と、兄者と戦う決意をしたところもな。
ワシはこのリンネがより強くなっていくところをこの目で見たいと思うとる。もっともっと鍛え上げたいところじゃ。
ミントのやつに武器と通信機の強化を頼んだわけじゃが、それには時間がかかるとのことじゃ。その貴重な時間を有意義に使わねばなということで、ワシはリンネを修行させることにした。
リンネのやつはしょっちゅう「ぎゃーぎゃー」わめきながらも、なんとかワシについてきた。気迫は評価してやりたいのぅ。
「――だーかーらー、服を着ろ! せめてパンツは穿いて!」
やれやれ、リンネのやつも裸ひとつにうるさく騒ぐのぅ。無人島に来たときくらい全裸になってもかまわんじゃろうに。他の目もないことじゃ、恥ずかしがることなんてないのにな。
ワシはかまわんのじゃが、リンネが騒いでろくに修行もできんから仕方ないわ、とりあえず下ははいてやることにしたわ、じゃがたまには脱いでもええじゃろ? しめつけは体にもよくないしのぅ、動きがにぶるわ。
リンネの通信機は修行中はワシが預かることにした。リンネには修行に集中してもらわんといけんからのぅ。
「おっ、そろそろメシの時間じゃのぅ。休憩じゃ」
「ほ、ほへー…疲れた」
「はっはっは、なんじゃだらしないのぅリンネ」
「はー、あのね。キンのタフさが異常すぎですから。はぁ、おなかへってくたくた…」
昼間に獲った魚を焼く。魚を獲るのも修行を兼ねてじゃったが、これがなかなかおもしろいもんじゃ。
「はふはふ、んむっ、おひしぃ…」
リンネのやつめ、くたくたと言いながら元気に食いやがる。うむ、食うことも立派な修行じゃからな。体をしっかりと作るには食うことが第一じゃ。しかしほんまに美味いのぅ。自給自足も悪くないもんじゃ。このままこの島に住んでもええくらいじゃな。
島の生活といえば、遠い昔を思い出すようじゃ。ワシのというよりチュウビの記憶じゃな。
「いっ!」
ん? もぐもぐと魚をほおばっとったリンネが突然呻いてじたばたしだした。
「なにやっとんじゃ?」
ワシが覗き込むとリンネの奴、涙目で「骨…たったー…」
魚の骨が口の中で刺さったらしい。まったくぶきっちょなところがあるのぅ。
「なんじゃ、情けないのぅ。見せてみぃ」
「うぉっ、ひょっ…」
どれどれワシがとってやるわ。リンネの口を開いて覗き込む。ううーむ、狭い口じゃ見難いぞ。まあなんとか指先でわかるじゃろう。リンネが苦しそうにもがいとるが、少しぐらい我慢せぃ。おっ、今指先に当たった鋭いものがそうじゃな。よしこれじゃ。上手いこと抓んで抜き出した。結構ぶっといのがささっとったもんじゃ、これは痛かったじゃろうに。
「とれたぞ」
「お、おぇっ」
これじゃとワシはリンネに骨を見せてやった。リンネの奴涙目でぷるぷると震えとる。そうかそんなにとれて嬉しいんじゃな。こんなのがとれたんじゃ、さぞかしすっきりしたじゃろう。
「おっ、骨がとれたんがそんなに嬉しいんか?」
「あのねー…、いきなり手を突っ込む奴があるかっ。たく、キンは乙女心を一向に理解してないんだから」
なんじゃ?とってやったのに、心外じゃのう。リンネの奴少々ご立腹か?
「そんなことないがのぅ……」
ワシはそこまで無神経のつもりはないんじゃがな。
やれやれ。
「リンネのほうこそわかっとらんじゃろうが」
「は?なにがですか?Dエリア的考えなんてわかるつもりもありませんが」
やれやれ、リンネは一直線すぎて少し周りが見えとらんようじゃの。
「そうじゃのうて…。まあひたすら兄者だけを追う姿も悪くないが…、もう少し視野を広げてもええんじゃないか? 絶対損しとるぞ」
道なんぞいくらでも増やせられる。リンネにとっても、またキョウにとってももっといい別の道があるはずじゃ。キョウの奴はリンネを好いとるようじゃがリンネはそれに気づいとらん。難攻不落な兄者を目指すよりも、もっとええ道があるのにのぅ。それに気づいとらんリンネは損をしとる。…が
「なにが言いたいわけ?」
「おおっと、ワシの口から言うことじゃないか。明日も早いぞ、リンネ早く寝たほうがいいぞ。ワシは浜辺でもう少し汗かいてくるわ」
「ちょっと、キン!」
ワシの望む道とはなんじゃろうな。もちろん鬼が島と戦うキョウに付き合う道を選んで後悔なぞない。
鬼が島のため、父王のため、雷門のため、伯父上のため…、ワシは今までそのための道を進んできた。それが正しいと己の進むべき道じゃと迷いなく思うてな。
ワシは今その今までの生き方に逆ろうとる。じゃが、ワシらしくないとは思わんむしろワシらしいと思う。
チュウビの記憶が目覚めて、ワシはやっと自分の姿に気がついたんじゃろう。
己の欲望のままに、今はただ進んでみたいだけじゃ。
それに、ワシはアホじゃと思いながらも、それでも兄者を諦めんリンネがなんか好きじゃ。リンネしかおらんじゃろう。鬼が島に牙をむけてまで想いを貫こうとする大馬鹿は。ワシもそんな大馬鹿になりたいんじゃ!
浜辺で筋トレしとったら通信機が鳴った。ん、これはキョウか?
「ワシじゃ。どうしたんじゃキョウ」
『キン兄さん、そちらはどうですか? リンネは大丈夫ですか?』
「はっはっは、お前はほんとに心配性じゃのう。安心せい、リンネのやつもええ感じに鍛えとるぞ」
『そうですか、よかった。やはりキン兄さんにおまかせして正解でしたね』
「ああそうじゃ、お前はお前のすべきことに集中しとったらええ。リンネのことはワシにまかせとけ」
『はい、では』
余計な事はせんほうがええな。あいつがどうするかはあいつ自身が決める事じゃ。カイミのことにしてもな。
キョウのことよりワシはリンネをとことん鍛えてやらんとな。もちろんワシ自身もじゃ。なんせ鬼が島との戦じゃ。本気の限界超えて挑まんとならんぞ。
無人島での修行は短期間ながらも充実したものになった。
リンネもええ体になったしの。リンネは傷だらけだの、こんなに筋肉いらないだの、なぜか不満を吐いとったが、ワシはそんなことないと思うんじゃがな。むしろそのほうがワシ好みのええ体じゃぞ。
島では海に落ちた時は大変じゃったな。いやなんせワシは泳げんからな。が、なんとか無事に陸に到達し生還できたからよしとするか。うむ、修行にもなったからな。とワシが溺れとる間、カイミとリンネが戦っとったようじゃ。カイミのやつのワガママも困ったもんじゃな。まあそんなとこも含めてかわいい妹なんじゃがな。やんちゃあってのカイミじゃ。
ミントの武器もやっとこ完成し、いよいよ鬼が島との決戦も目前に迫っとる。
ワシの記憶も一部が定かじゃなかったが、温羅の生まれ変わりは父王ではなく兄者じゃったんじゃ。
先にそのことに気づいたんわキョウなんじゃがな。リンネは桃太郎から知らされたとも言う。
兄者が温羅。長年温羅は父王と信じてきたワシは最初は半信半疑じゃったが、たしかに兄者はワシの…チュウビの記憶にある温羅の姿によく似とる。温羅も兄者も男前じゃからな。兄者が温羅なら、あの兄者が放つオーラもその力なんかもしれんな。しかし、温羅の強さはワシも覚えとるが、兄者自身の強さは正直量りかねるところじゃ。リンネは桃太郎の生まれ変わりじゃが、桃太郎とは完全に分離しとる。そのリンネと違って、兄者は温羅と一心同体のはず。となれば、リンネはそうとうに不利になるのぅ。
「キン兄さん、行きましょう」
キョウの言葉にワシも「おお」と頷く。
Bエリアへと向かったリンネのあとをワシとキョウは追った。
リンネはテンと桃太郎のもとへと向かったんじゃ。リンネから離れた桃太郎は今はテンとともにおる。
桃太郎はリンネと完全に離れたようじゃが、互いの存在は感じとれるようなんじゃ。つまりリンネは桃太郎の居場所がわかる、テンがどこにおるかもわかるじゃろう。
が、今のBエリアは混沌の地と化しとる。雷門と金門の若い連中がドンパチやりあって、その上敵味方の見境までつかんくらい混乱しとる。いたるところで爆発もおきとるし、危険極まりないぞ。
「ちょっと、先に進めないじゃない。どいて、…どけーーっ!!」
ワシとキョウが阿吽の呼吸で動く。リンネお前の道を阻む邪魔者はワシらがどかしてやるぞ。
「キン、キョウ」
「リンネ、迷わず向かってください!テンのもとへ」
「十人じゃろうが百人じゃろうがワシがぶっとばしてやるわ!かかってこんかい」
ワシとキョウは次々かかってくる血走った目の暴徒どもを相手してやる。やれやれちっと多いが、まあ鬼が島戦のウォーミングアップと思えばええもんか。なんじゃ、どんどん気持ちがようなっていくぞ。
祭りは近い、いやもうすでに祭りは始まっとるんじゃろう。
リンネよ、ワシもこの祭り最後まで付き合うぞ! めいっぱい楽しもうぞ。
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