リンネの抹殺指令が取り下げられてから、ワシはDエリアに戻った。
鬼が島からの次なる指令も特になく、なんか退屈な時間がやってきた。
Dエリアではすでにワシの相手となるような手ごたえのある奴はおらん。
それ以外でならば、テンのやつか…、あいつとはちゃんと決着ついとらんしな。
そのテンも今は桃太郎と手を組んだという。あのテンが桃太郎の強さを得たのなら、これまたおもしろいことになるぞ。
じゃが、ワシをワクワクさせるのは、テンの奴だけじゃない。
ワシは思い出す、あの目を、あの闘志を。
キョウの奴、ワシに歯向かうとは、身の程知らずも怖いもの知らずもいいとこじゃ。
じゃが、ワシはキョウのそこに強く惹かれとる。
賢い奴じゃとおもっとったが、鬼が島に逆らい、リンネの味方につくなど、狂っとる。
そんな気狂いなキョウにワシの興味は強まった。
遠い日の、あの想いがワシの中に蘇る。
チュウビは、圧倒的な強さと勢力を率いる温羅ではなく、味方を大勢失いながらも、温羅に立ち向かう茨の道を選んだ桃太郎についていくことを決めたんじゃ。そっちのほうが楽しいからとな。
ワシの心もまた、それを求めとる。
理性では抑えきれんほどの、強い欲求。
ワシは戦いの道を求めとる。
鬼が島に背くなど、ありえんことじゃったが、その気持ちが揺らぐなど、それもこれも、キョウお前のせいじゃな。
鬼が島と戦う、バカなことじゃと思っておったが、今のワシはあのころのチュウビと同化しとるようじゃ。
ああこれは祭りじゃ。
ワシは祭りが好きじゃ。んで参加するなら楽しいほうがええしのぅ。
キョウ、ワシもお前と一緒にこの祭り楽しませてもらうぞ。
Dエリアでリンネと一緒おるキョウを見つけた。
連中はキレイな格好しとるキョウたちをすぐによそ者じゃと見抜くじゃろう。連中が集りまくってキリがないぞ。
いっちょ助太刀してやるか。
「おい、そこをどかんか」
「お前はDエリア最強の男!」
「キン兄さん!?」
キョウの奴警戒しとるが、ワシが連中を殴り飛ばすと、一瞬ほうけておったが…
「なにしとる、はよいかんか」
ワシが敵でないと気づいて二人は走り出した。よしええぞ、そのままいけ。ザコはワシが一掃してやる。
連中を片して、ワシも二人のあとを追いかけた。むうう、どうも雲行きが怪しいようじゃ。すぐにでも雨が降るじゃろう。予想通り雨が降り出し、大降りになった。二人ともくたくたのようじゃし、夜になるし、休ませてやらんとな。
「そこの小屋にでも入れ。今日はそこで夜を明かすか」
そこは住人のいない空き家のはずじゃ。たいした設備もないが雨風をしのぐだけなら十分じゃろう。二人を中に入れさせて、ワシは出入り口に立つ。
「お前もずいぶんボロボロじゃな、キョウ。まあ今晩はここで休むとええ。ワシが見張りにたっとるから安心せぇ」
「キン兄さん…ありがとうございます」
ふっとキョウがワシに笑顔で礼を言う。ワシに気を使うことはないぞ、兄弟じゃろうが。
キョウよりボロボロなんはリンネのほうじゃろうな。桃太郎やテンを失ったリンネは無力な存在と成り果てた。
ワシはアレを救ってやる義理も、優しゅうしてやる気もないが、キョウお前は違うじゃろう。
「ワシのことは気にせんと、リンネのもとに行かんか。お前はアレを立ち上がらせてやるんじゃないんか?」
「はい」と頷いて、キョウは中へと向かう。ワシは扉を閉めて雨の跳ね返りを浴びながら、夜を過ごした。
ワシの提案でワシらはBエリアを抜け、Aエリアにとついた。
キョウの奴鬼が島と戦うなど勇ましい事言う割には考えなしじゃからのぅ。まさかたった三人で鬼が島に立ち向かうつもりかいと。まあそれはそれで困難あって楽しそうじゃがな。無謀なことしてもいい結果はまっとらん。
そこでワシはミントの奴を巻き込む事にした。あいつの力が加われば、ワシらだけでもなんとかなりそうな可能性が高まるからの。キョウの奴を強化したミントの力は得れば大きい。
ミントの奴は渋っておったが結局協力する道を選んだぞ、まあワシはあいつに選択権など与えてはおらんかったがな。なんだかんだとあいつも楽しんどるようじゃしな。
「キン兄さん、リンネを見ませんでしたか?!」
なんじゃ?朝早くからキョウの奴騒がしいのぅ。バタバタと廊下を駆けてワシのもとへとやってくる。
「リンネか? ワシは見とらんぞ」
「そうですか。…今朝から館内のどこにもいないんですよ。…様子がおかしかったから、もしや」
青い顔してキョウの奴心配性すぎんか?
「あー、若旦那、桃山さんなら朝早くに出て行ったっすよ」
のん気な声してやってくるのはミントじゃ。なんじゃミントの奴が知っとったんかい。
「これ、桃山さんから預かったんすけど」
とミントの奴、キョウに手紙らしきものを渡す。それを慌てて手に取り、キョウの奴が読んどるが。一体なにが書いてあるんじゃ? キョウの顔から心配の色は今だ消えとらん。
「リンネは、Bエリアに…、すみませんミント留守を頼みます」
慌てて駆け出すキョウをワシは引き止める。
「どうしたんじゃ? リンネの奴Bエリアに行ったんか?」
「はい、早く探さないと、彼女の身が…」
「落ち着かんか、お前まで出て行ってどうする。ここで待っとけばええじゃろうが」
「何を言って、リンネは」
「お前はあれを信じると決めたんと違うんか。余計な世話など焼かんと自分の事をしとったらええじゃろうが。
ワシは探すだけムダになると思うぞ」
しかめっ面になりながらも、キョウは「やはり私は」とつぶやいて「探してきます!」と走って館内を飛び出していきやがった。やれやれ引き止めてもムダじゃのう。
リンネはその日無事Aエリア領主館へと帰ってきた。妙に晴れ晴れとした顔でな。
あれだけへたれとったあの弱々しい小娘が、こんなええ顔見せてくれる様になるとは。キョウの奴もなかなか見る目があるのかもしれん。
あれに天下をとらせるなど、バカな妄想とも思っとったが、ひょっとするとそんなこともないかもしれん。
いや、あれは鍛えるとおもしろい事になりそうじゃ。ちょっと見てみたい気もするのぅ。
なんせあの兄者に惚れた女子じゃ。桃太郎の生まれ変わりを抜きにしてもおもしろそうじゃ。
チュウビは桃太郎の供をした。ワシはリンネの供をしようぞ!
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